説明

車両用ステアリング装置

【課題】ステアリング装置の小型化を図り、操舵感覚を高める。
【解決手段】操舵トルクをステアリングホイールからラックアンドピニオン機構15を介して操舵車輪21,21に伝える車両用ステアリング装置10は、ラック32が形成されたラック軸16と、ピニオン31の位置に対してラック軸の軸長手方向の両側に位置する2個のラック支持部50,50と、2個のラック支持部の間に位置する付勢部60とを備える。2個のラック支持部は、操舵の中立位置に位置したラック軸の、ラックが形成されている部位の背面16aのみを、スライド可能に支持するように、互いに接近して位置する。付勢部の付勢方向は、ラック軸を少なくともラック以外の方向へ付勢可能に設定される。付勢部のラックガイド61のスライド方向の中心線は、ピニオン直交基準線に対し、支持面が背面に接触する方にオフセットしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されているラックアンドピニオン式ステアリング装置の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式ステアリング装置は、ステアリングホイールを操舵することによって発生した操舵トルクを、ステアリングホイールからラックアンドピニオン機構を介して操舵車輪に伝えるものである。ラックアンドピニオン機構は、ステアリングホイールの回転運動を直線方向への運動に変換する。このようなラックアンドピニオン式ステアリング装置としては、各種の技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1で知られているラックアンドピニオン式ステアリング装置は、ラックアンドピニオン機構のラックが形成されているラック軸をスライド可能に支持するための、3個のラック支持部を備えている。3個のラック支持部は、ラック軸を軸長手方向にスライド可能に支持している。このラック軸は、ラックが形成されている部位の背面を、ラックガイドによって軸長手方向にスライド可能に支えられている。ラックガイドは、ラック軸を支持する方向に進退可能であって、圧縮コイルばねによってラック軸の背面へ向かって付勢される。
【0004】
しかしながら、特許文献1で知られているラック軸の長さは、ラックが直線方向へ運動する範囲の2倍以上必要である。このため、ラックアンドピニオン機構はラックの長手方向に大型にならざるを得ない。ラックアンドピニオン機構を収納するためのハウジングも大型化になってしまうので、ステアリング装置の小型化を図る上で不利である。
【0005】
ステアリング装置の小型化を図るためには、操舵の中立位置に位置している状態のラック軸の、ラックが形成されている部位の背面のみを、軸長手方向にスライド可能に支持するように、複数のラック支持部を互いに接近して位置することが考えられる。この場合であっても、ラック軸は、ラックが形成されている部位の背面を、ラックガイドによって軸長手方向にスライド可能に支えられる。ラック軸は、軸長手方向にスライドする他に、このラック軸に作用する外乱によって多少振動し得る。このようなラック軸の振動に対して、ラックガイドがラック軸を支持する方向に速やかに進退運動をする、いわゆる追従性は高いことが好ましい。この追従性は、ラックアンドピニオン式ステアリング装置の操舵感覚を高める要因の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−088978公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ラックアンドピニオン式ステアリング装置の小型化を図るとともに、操舵感覚を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、ステアリングホイールを操舵することによって発生した操舵トルクを、前記ステアリングホイールからラックアンドピニオン機構を介して操舵車輪に伝える車両用ステアリング装置において、
前記ラックアンドピニオン機構のラックが形成されているラック軸と、前記ラックアンドピニオン機構のピニオンの位置に対して前記ラック軸の軸長手方向の両側に位置する2個のラック支持部と、この2個のラック支持部の間に位置し、前記ラック軸を少なくとも前記ラック以外の方向へ付勢することが可能な付勢部と、を備え、
前記2個のラック支持部は、操舵の中立位置に位置している状態の前記ラック軸の、前記ラックが形成されている部位の背面のみを、軸長手方向にスライド可能に支持するように、互いに接近して位置し、
前記付勢部は、前記ラック軸の中心線に直交し且つ前記ピニオンの中心線に直交するピニオン直交基準線に沿ってスライド可能であって、前記ラック軸の、前記ラックが形成されている部位の前記背面を、軸長手方向にスライド可能に支えるラックガイドと、このラックガイドを前記背面に向かって付勢する圧縮コイルばねと、からなり、
前記ラックガイドは、前記背面を支えるための支持面を有し、この支持面は、前記ピニオン直交基準線に対して前記背面の片側のみに接触可能に形成され、前記ラックガイドのスライド方向の中心線は、前記ピニオン直交基準線に対し、前記支持面が前記背面に接触する方にオフセットしていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、前記背面に対する前記支持面の接触部位は、前記ラック軸の軸長手方向に直線状に延びるとともに、前記ラックガイドの大きさが前記ラック軸の軸長手方向に最大となるように位置していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、前記ラックガイドは、このラックガイドの前記スライド方向の中心線を基準とした円形状断面に形成され、この中心線上に前記接触部位が位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、2個のラック支持部は、ラック軸において、ラックが形成されている部位の背面のみを支持することが可能であって、互いに接近して位置している。背面にはラックを有していない。2個のラック支持部の間に位置するラックガイドは、ラック軸を少なくともラック以外の方向へ付勢することが可能である。つまり、ラックガイドは、ラック軸をピニオンに向かって押し付けるとともに、さらに、ラック軸の背面を各ラック支持部に押し付ける(予圧を付加する)ことが可能である。各ラック支持部には、予圧に応じた反力が発生する。各ラック支持部はラック軸の背面を支持することになる。このラック軸支持構成は、いわゆる「2個の支点の両側から梁が張り出し、この梁の長手中央に集中荷重(ピニオンの反力)が作用している」つり合い条件の支持構成に相当する。このようにして、ラック軸の背面は、ピニオンと2個のラック支持部との3点によって、軸長手方向へのスライドが可能に確実に支持される。しかも、ラック自体が各ラック支持部によって支持されることはない(接触することはない)。
【0012】
さらには、2個のラック支持部は、ラック軸において、ラックが形成されている部位の背面のみを支持することが可能なので、互いに接近して位置することができる。各ラック支持部がラックの長さの範囲内に位置することができるので、範囲外に位置している従来に比べて、ラック軸の全長を短くすることができる。このため、ラックアンドピニオン機構をラックの長手方向に小型にすることができる。ラックアンドピニオン機構を収納するためのハウジングも小型化できるので、ステアリング装置の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0013】
さらには、ラックガイドは、ラックの背面を支えるための支持面を有している。この支持面は、ラック軸の背面の全体に接触するのではなく、ピニオン直交基準線に対して片側のみに接触可能である。このため、支持面の接触面積が小さくてすむ。しかも、ラックガイドのスライド方向の中心線は、ピニオン直交基準線に対し、支持面が背面に接触する方にオフセットしている。
【0014】
上述のように、支持面は、ピニオン直交基準線に対して背面の片側のみに接触している。それにもかかわらず、ラックガイドのスライド方向の中心線がピニオン直交基準線に合致している場合には、支持面が背面に接触しない無駄な範囲は広い。その分、ラックガイドが大きくならざるを得ない。
【0015】
これに対し、請求項1に係る発明では、ラックガイドのスライド方向の中心線は、ピニオン直交基準線に対し、支持面が背面に接触する方にオフセットしている。このため、支持面が背面に接触しない無駄な範囲を狭くすることができる。その分、ラックガイドを小型にできるので、この結果、ラックガイドを軽量にできる。このように、支持面が背面に接触可能な範囲を確保しつつ、ラックガイドの小型化、軽量化を図ることができる。質量体であるラックガイドと、一定のバネ定数の圧縮コイルばねと、から成る振動系を考えたときに、この振動系の固有振動数(共振周波数)は、ラックガイドが軽量になることによって大きくなる。このため、ラック軸の振動に対するラックガイドの追従性が高まるので、ピニオンに対するラックの良好な噛み合い状態を十分に維持することができる。従って、ピニオンとラックとの摩擦特性が良好になるので、ラックアンドピニオン式ステアリング装置を、より円滑に操舵することができ、この結果、操舵感覚を高めることができる。しかも、ピニオンとラックとの良好な噛み合い状態を十分に維持できることによって、ラックアンドピニオン機構の強度や耐久性を高めることができる。
【0016】
さらには、ラックガイドのスライド方向の中心線を、ピニオン直交基準線に対し、支持面が背面に接触する方にオフセットさせたので、ラック軸の背面に対してラックガイドを誤った向きに組み付ける心配がない。
【0017】
請求項2に係る発明では、背面に対する支持面の接触部位は、ラック軸の軸長手方向に直線状に延びるとともに、ラックガイドの大きさがラック軸の軸長手方向に最大となるように位置している。このため、ラックガイドのスライド方向の中心線がピニオン直交基準線に合致している場合に比べて、支持面が背面に接触しない無駄な範囲が狭くてすむ。従って、ラックガイドの大きさを小さくできるので、この結果、ラックガイドを軽量にできる。
【0018】
請求項3に係る発明では、ラックガイドは、このラックガイドのスライド方向の中心線を基準とした円形状断面に形成され、この中心線上に接触部位が位置している。このため、ラックガイドのスライド方向の中心線がピニオン直交基準線に合致している場合に比べて、支持面が背面に接触しない無駄な範囲が狭くてすむ。従って、ラックガイドの大きさを小さくできるので、この結果、ラックガイドを軽量にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る車両用ステアリング装置の模式図である。
【図2】図1に示されたピニオン軸とラックアンドピニオン機構とラック軸と2個のラック支持部との組立構成を示す断面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図2に示されたラックアンドピニオン機構とラック軸と2個のラック支持部との組立構成を示す斜視図である。
【図5】図2の5−5線断面図である。
【図6】図3に示されたラックアンドピニオン機構とラック軸と付勢部との関係を模式的に表した図である。
【図7】図6(c)に示されたラック軸とラックガイドとの関係を説明する図である。
【図8】図1に示された車両用ステアリング装置の作用を説明する図である。
【図9】図7(a)に示されたラック軸とラックガイドとの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0021】
実施例に係る車両用ステアリング装置を説明する。
【0022】
図1に示されるように、車両用ステアリング装置10は、ステアリングホイール11にステアリングシャフト12及び自在軸継手13,13を介してピニオン軸14(回転軸14)を連結し、このピニオン軸14にラックアンドピニオン機構15を介してラック軸16を連結し、このラック軸16の両端にボールジョイント17,17、タイロッド18,18及びナックル19,19を介して左右の操舵車輪21,21を連結した構成である。
【0023】
車両用ステアリング装置10(以下、単に「ステアリング装置10」という。)によれば、運転者がステアリングホイール11を操舵することによって発生した操舵トルクを、ステアリングホイール11からラックアンドピニオン機構15及び左右のタイロッド18,18を介して、左右の操舵車輪21,21に伝えることができる。
【0024】
ラックアンドピニオン機構15は、ピニオン軸14に形成されたピニオン31と、ラック軸16に形成されたラック32とからなる。ピニオン軸14は、車両の上下方向に延びている。ラック軸16は、車幅方向に延びた真円状断面の丸棒からなる。このラック軸16は、例えば機械構造用炭素鋼鋼材(JIS−G−4051)やクロムモリブデン鋼鋼材(JIS−G−4105)等の鉄鋼製品である。
【0025】
図2及び図3に示されるように、ラック軸16は少なくとも、ラック32を形成されている部位の背面16aが略円弧状断面に形成されている。ピニオン軸14とラックアンドピニオン機構15とラック軸16は、少なくとも要部がハウジング41に収納されている。このハウジング41は、車幅方向に貫通した細長い筒状の部材であって、長手中央の上端から上方に開口している。ラック軸16の両端は、ハウジング41の両端よりも車幅方向の外方へ延びている。ハウジング41の両端と左右のタイロッド18,18との間は、ブーツ42,42によって覆われている。
【0026】
ピニオン軸14は、ピニオン31を挟んで上部及び下端部を、ハウジング41内に取り付けられている2個の軸受(上の第1軸受43と下の第2軸受44)によって、回転可能に且つ軸方向移動を規制するように支持されている。2個の軸受43,44はボールベアリングによって構成されているが、第2軸受44はニードルベアリングのようなラジアル軸受であってもよい。
【0027】
ステアリング装置10は、ピニオン31の位置(ピニオン31とラック32との噛み合い位置)に対してラック軸16の軸長手方向の両側に位置する2個のラック支持部50,50と、この2個のラック支持部50,50の間に位置する付勢部60とを備えている。
【0028】
図2、図4及び図5に示されるように、2個のラック支持部50,50は、ラック軸16を支持する部材であって、円筒状の軸受(例えばブッシュ)によって構成されている。各ラック支持部50,50は、ハウジング41内に圧入(締まり嵌め)等によって取り付けられており、それぞれ真円状の支持孔51,51を有する。各支持孔51,51の径は、ラック軸16の径よりも若干大きく設定されている。このため、ラック軸16と各支持孔51,51との間の隙間は、僅かである。
【0029】
各ラック支持部50,50は、耐摩耗性を有するとともにラック軸16がスライドする際の摩擦抵抗が小さい材料によって構成されることが好ましい。例えば、各ラック支持部50,50は、ポリアセタール樹脂又はポリアセタールを含んだ樹脂や、ポリテトラフルエチレン樹脂(略記;PTFE、テフロン(登録商標))等のフッ素樹脂などの、樹脂製品によって構成することが可能である。また、例えば、各ラック支持部50,50は、弾性変形が可能な樹脂製ブッシュによって構成することが可能である。このような樹脂製ブッシュを採用した場合には、ラック軸16と各支持孔51,51との間の隙間は、零又はほとんど零の値に設定することができる。
【0030】
図2に示されるように、ラック32の長さLerは、ステアリングホイール11(図1参照)の回転範囲、例えば約3.5回転を考慮した一定の長さに、予め設定されている。ラック32が操舵の中立位置に位置している状態において、ラック32の長さLerは、ピニオン31との噛み合い位置を基準に、軸方向両側へ概ね均等に配分される。ラック32の両端は、操舵の中立位置に位置している状態において、ハウジング41の両端よりも車幅方向の外方へ延びている。
【0031】
2個のラック支持部50,50同士は、図2及び図4に示されるように操舵の中立位置(車両が直進走行をする位置)に位置している状態のラック軸16の、ラック32が形成されている部位の背面16aのみを、軸長手方向(車幅方向)にスライド可能に支持するように、互いに接近して位置している。
【0032】
図3に示されるように、付勢部60の付勢方向は、ラック軸16を少なくともラック32以外の方向へ付勢することが可能に設定されている。詳しく述べると、付勢部60は、ラック軸16をピニオン31へ押し付ける作用をなすためのラックガイド機構によって構成されている。この付勢部60(ラックガイド機構60)は、ラック32とは反対側からラック軸16に当てるラックガイド61と、このラックガイド61をラック軸16の背面16aに向かって付勢する圧縮コイルばね62と、前記ラックガイド61を圧縮コイルばね62を介して押して付勢力を調整するための調整ボルト63とからなる。
【0033】
ラックガイド61は、ラック軸16の、ラック32が形成されている部位の背面16aを押し付けるための押し付け面61a(背面16aを支えるための支持面61a)を有する。つまり、ラックガイド61は、背面16aを軸長手方向にスライド可能に支える。このラックガイド61は、耐摩耗性を有するとともに摩擦抵抗が小さい材料からなり、例えば、ポリアセタール樹脂又はポリアセタールを含んだ樹脂や、ポリテトラフルエチレン樹脂(略記;PTFE、テフロン(登録商標))等のフッ素樹脂などの、樹脂製品が好適である。なお、ラックガイド61の押し付け面61aの部分だけを、上述の樹脂製品とすることが可能である。また、ラックガイド61を燒結金属によって構成することも可能である。
【0034】
ここで、ラック軸16について、図6に基づき次のように定義する。図6(a)は、図2に示されるラックアンドピニオン機構15を模式的に表した斜視図である。図6(b)は、図6(a)に示されたラックアンドピニオン機構15の平面図である。図6(c)は、図2に示されるラックアンドピニオン機構15とラックガイド61との関係を模式的に表した断面図である。
【0035】
図6(a)〜(c)に示されるように、ラック軸16の中心線Prに直交し且つピニオン31の中心線Ppに直交する直線Lcのことを「ピニオン直交基準線Lc」とする。また、ラック軸16の中心線Prに直交し且つピニオン31の中心線Ppに平行な直線Lpのことを「ピニオン平行基準線Lp」とする。このピニオン平行基準線Lpは、ピニオン直交基準線Lcに対して直交している。
【0036】
図3及び図6に示されるように、ラックガイド61は、スライド方向の中心線Lgを中心とする真円の円柱状の部材である。スライド方向の中心線Lgは、ピニオン直交基準線Lcに平行である。つまり、ラックガイド61は、中心線Lgを基準とした円形状断面に形成されている。ラックガイド61及び圧縮コイルばね62はラックガイドハウジング64に収納されている。このラックガイドハウジング64は、ハウジング41に一体に形成されており、ラックガイド61を中心線Lgに沿ってスライド可能に支持することが可能な円形状(真円状)の支持用孔64aを有している。ラックガイド61の外径はd1である。ラックガイド61の外周面と支持用孔64aの内面との間の隙間は、ラックガイド61がラック軸16を支持する方向にスライド可能な(進退運動が可能な)程度の極めて小さいものである。
【0037】
ラックガイド61の支持面61aは、ラック軸16の背面16aに沿う略円弧状断面に形成されている。この支持面61aは、ラック軸16の背面16aのうち、ピニオン直交基準線Lcに対して、いずれか一方の面のみに接触可能に形成されている。例えば、支持面61aは、水平なピニオン直交基準線Lcに対して、上又は下の面のみに接触可能である。
【0038】
より具体的には、支持面61aの円弧状の半径r1は、背面16aの円弧状の半径r2よりも大きく設定されている(r1>r2)。ラック軸16の背面16aの半径r2の中心は、ピニオン直交基準線Lc上に位置している。一方、支持面61aの円弧状の半径r1の中心は、ピニオン直交基準線Lcに対して上又は下に、つまり、ラック32の歯幅方向にオフセットしている。この結果、支持面61aは、水平なピニオン直交基準線Lcに対して、ラック軸16の背面16aの上又は下の面のみに接触する。図3及び図6では、支持面61aは、ピニオン直交基準線Lcに対して背面16aの上の面のみに接触している。
【0039】
ここで、ラック軸16の背面16aに対する支持面61aの接触関係について、図7(a),(b)に基づき説明する。図7(a)は、図6(c)に合わせてラック軸16とラックガイド61との関係を示している。図7(b)は、図7(a)に示されたラックガイド61を、ラックガイド61のスライド方向から見た構成を表している。
【0040】
上述のように、「r1>r2」の関係があるので、ラック軸16の背面16aに対して、支持面61aは1つの接触部位Qsでのみ接触する。背面16aに対する支持面61aの接触部位Qsは、ラック軸16の軸長手方向に直線状に延びる(図7(b)参照)とともに、ラックガイド61の大きさがラック軸16の軸長手方向に最大となるように位置している。より具体的には、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lg及び圧縮コイルばね62の中心線Lgは、ピニオン直交基準線Lcに対し、支持面61aが背面16aに接触する方にオフセット量δだけオフセットしている。
【0041】
図3、図6及び図7(a),(b)では、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lgは、ピニオン直交基準線Lcに対して上にオフセットしている。接触部位Qsは、円形状断面に形成されているラックガイド61の中心線Lg上に位置している。従って、背面16aに対する支持面61aの接触部位Qsは、ラック軸16の軸長手方向に直線状に延び、その延び長さはラックガイド61の外径d1と同じである。
【0042】
図5に示されるように、ラック軸16の断面中心Pr(中心線Pr)は、2個の軸受50,50の断面中心Pj(中心線Pj)に対して、ピニオン31(図6参照)から離れる方向にオフセット量Δ1だけオフセットし、且つ、ピニオン31の中心線Ppに沿ってラック32の歯幅方向にオフセット量Δ2だけオフセットしている。このため、ラック32自体が2個の軸受50,50によって支持される(接触する)ことを、より一層確実に防ぐことができる。
【0043】
次に、上記実施例のステアリング装置10の作用を説明する。図8(a)は、ラック32が操舵の中立位置(車両が直進走行をする位置)に位置している状態の、ステアリング装置10を平面視で模式的に表している。図8(b)は、ステアリング装置10を右へ操舵することによって、ラック32が右にスライド変位している状態のステアリング装置10を平面視で模式的に表している。図8(c)は、ステアリング装置10を左へ操舵することによって、ラック32が左にスライド変位している状態のステアリング装置10を平面視で模式的に表している。
【0044】
図3に示されるように、ラックガイド61に形成されている略円弧状断面の押し付け面61aは、ラック軸16の背面16aのうち、ピニオン直交基準線Lcに対していずれか一方の面のみに接触している。このため、ラックガイド61は、圧縮コイルばね62の付勢力F1によって、ラック軸16をピニオン31へ向かって押し付けるとともに、図5に示されるように、ラック軸16の背面16aを各ラック支持部50,50に押し付けている(予圧を付加している。)。
【0045】
図5に示されるように、ラック軸16の断面中心Pr(中心線Pr)は、各ラック支持部50,50の断面中心Pj(中心線Pj)に対して、ピニオン31(図6参照)から離れる方向にオフセット量Δ1だけオフセットし、且つ、ラック32の歯幅方向にオフセット量Δ2だけオフセットしている。この結果、図5及び図8(a)に示されるように、ラック軸16は、各ラック支持部50,50の断面中心Pjとラック軸16の断面中心Prとを結んだ作用線WL上に接点Qwを有し、この作用線WLの方向に反力F2が発生する。各ラック支持部50,50はラック軸16の背面16aを支持することになる。このラック軸支持構成は、いわゆる「2個の支点の両側から梁が張り出し、この梁の長手中央に集中荷重(ピニオン31の反力)が作用している」つり合い条件の支持構成に相当する。なお、オフセット量Δ1のオフセットは無くてもよい。その場合には、反力F2がラック下点Quから発生する。
【0046】
このようにして、ラック軸16の背面16aは、ピニオン31と2個のラック支持部50,50との3点によって、軸長手方向へのスライドが可能に確実に支持される。しかも、ラック32自体が各ラック支持部50,50によって支持されることはない(接触することはない)。ラック軸16を支持するための別個の支持部材を設ける必要はなく、ラック軸16を支持するための支持構成を簡略化することができる。
【0047】
さらには、ピニオン直交基準線Lc(図3参照)に対して、いずれか一方の面のみに接触可能に形成されただけの、極めて簡単な構成の押し付け面61aによって、ラック軸16をピニオン31へ向かって押し付けるとともに、ラック軸16の背面16aを各ラック支持部50,50に押し付けることができる。このため、ラック軸16の背面16aを各ラック支持部50,50に押し付けるのに、別個の部品を設ける必要はない。しかも、ラック軸16の背面16aに対して、押し付け面61aの略半分だけが接触する。このため、押し付け面61aの接触面積が少ないので、押し付け面61aを精度良く滑らかに加工することができる。この結果、ラック軸16がスライドするときの摩擦抵抗を抑制することができる。
【0048】
さらには、2個のラック支持部50,50は、ラック軸16において、ラック32が形成されている部位の背面16aのみを支持することが可能であって、互いに接近して位置している。各ラック支持部50,50がラック32の長さの範囲内に位置するので、範囲外に位置している従来に比べて、ラック軸16の全長を短くすることができる。このため、ラックアンドピニオン機構15をラック32の長手方向に小型にすることができる。ラックアンドピニオン機構15を収納するためのハウジング41(図3参照)も小型化できるので、ステアリング装置10の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0049】
さらには、ラック軸16が従来に比べて短くなった分、ラック軸16に連結されているタイロッド18,18を長く設定することができる。このため、ステアリング装置10及びこのステアリング装置10を搭載する車両の、設計の自由度を高めることができる。例えば、ステアリング装置10のタイロッド18,18と図示せぬサスペンション装置とによって形成される、サスペンションジオメトリの設計自由度を高めることができる。
【0050】
特に、このようなステアリング装置10を、車幅が小さい小型車に搭載する場合に、配置上の制約が小さい。しかも、タイロッド18,18を長く設定すれば、左右の操舵車輪21,21がバンプやリバウンドをしたときにおいて、トーの変化の影響を抑制することができる。この結果、車両の操縦性を高めることができる。
【0051】
さらには、ラック軸16が短くなることにより、タイロッド18,18を長く設定することができる。従って、ラック軸16に対するタイロッド18,18の傾き角φ(張り角φともいう)を、小さく設定することができる。このため、図8(b)及び図8(c)に示されるように、ラック軸16が車幅方向にスライド変位したときに、ラック軸16に垂直な方向に作用する力fb(曲げ力fb)は小さくてすむ。曲げ力fbが小さいので、ラック軸16に生じる曲げモーメントは小さい。従って、ラック軸16の曲げ強度を十分に高めることができるとともに、ラック軸16の撓みを抑制することができる。ラック軸16の撓みが小さいので、操舵時における左右の操舵車輪21,21の転舵角の精度を高めることができる。しかも、ピニオン31に対するラック32の噛み合い状態を良好に保つことができ、この結果、ラックアンドピニオン機構15の耐久性を十分に確保することができる。
【0052】
図8(a)に示されるように、走行中に左右の操舵車輪21,21に加わる外乱、例えば路面の凹凸などに起因して発生した各操舵車輪21,21の振動は、左右の操舵車輪21,21からタイロッド18,18を介してラック軸16に伝わる。
【0053】
これに対して実施例では、ラック32が操舵の中立位置の付近に位置している場合には、ラック軸16の背面16aから左右のラック支持部50,50に予圧が付加されている。このため、ラック軸16の背面16aと各ラック支持部50,50との間には、隙間を有していない。予圧が付加されているとともに隙間が無いので、前記振動に起因して、ラック軸16の背面16aが各ラック支持部50,50に当たる音、つまり打音の発生を十分に防止することができる。
【0054】
例えば、図8(b)に示される右操舵のときや、図8(c)に示される左操舵のときに、ラック支持部50,50が受ける反力の方向は、ラック軸16の背面16aから左右のラック支持部50,50に予圧が付加されている方向である。このため、右操舵と左操舵とを反転させるときに、ラック軸16の背面16aが各ラック支持部50,50に当たる音(打音)の発生を、十分に防止することができる。
【0055】
しかも、ラック軸16は従来に比べて短いので軽量である。仮に、予圧を上回る大きい外乱がラック軸16に伝わった場合であっても、打音を抑制することができる。従って、ステアリング装置10から車室に伝わる騒音を十分に防止することができ、この結果、車室内の環境をより高めることができる。
【0056】
次に、ピニオン直交基準線Lcに対してラックガイド61の中心線Lgをオフセットしたことによる作用を説明する。図7(c)は、ピニオン直交基準線Lcに対して、ラックガイド61Aの中心線Lgがオフセットしていない場合(比較例)を示している。図7(b)には、図7(a)に示された実施例のラックガイド61と、図7(c)に示された比較例のラックガイド61Aとを、ラックガイド61,61Aのスライド方向から見た構成を表している。
【0057】
図7(c)に示されるように、比較例の付勢部60Aの基本構成は図7(a)に示される実施例の付勢部60と実質的に同じであって、ラックガイド60Aと圧縮コイルばね62とからなる。図7(b),(c)に示されるように、比較例のラックガイド60Aの支持面61Aaは、ピニオン直交基準線Lcに対して背面16aの片側のみに接触している。それにもかかわらず、ラックガイド61Aのスライド方向の中心線Lgはピニオン直交基準線Lcに合致している。このため、支持面61Aaが背面16aに接触しない無駄な範囲は広い。その分、ラックガイド61Aの外径d2が大きくならざるを得ない。
【0058】
さらには、図7(c)に示されるように、圧縮コイルばね62の付勢点Qc(圧縮コイルばね62の中心)はピニオン直交基準線Lc上に位置する。このピニオン直交基準線Lcから接触部位Qsまでの距離はδAである。このため、圧縮コイルばね62の付勢力によって、ラックガイド61の接触部位Qsがラック軸16を押したときに、このラック軸16から接触部位Qsに反力Poが加わる。この反力Poは圧縮コイルばね62の付勢力と同等である。従って、ラックガイド61には、モーメントMaが発生する(Ma=δA×Po)。
【0059】
図3に示されるように、ラックガイド61はラックガイドハウジング64の支持用孔64aにスライド可能に嵌合されている。ラックガイド61と支持用孔64aの壁面との間には、モーメントMaに応じた「こじれ力」(偏り荷重)が作用する。このため、この「こじれ力」に摩擦係数を乗じた値の摩擦力が、ラックガイド61と支持用孔64aの壁面との間に生じる。この摩擦力は、ラックガイド61のスライド運動を阻害する抗力となる。このような抗力は、ラック軸16の振動に対するラックガイド61の追従性を高める上で、好ましくない。しかも、ラックガイド61と支持用孔64aの壁面との間に、偏った摩耗現象が発生することによって、ラックガイド61のガタツキの要因となり得るので、付勢部60Aの耐久性を高める上で改良の余地がある。
【0060】
これに対し、図7(a),(b)に示されるように、実施例では、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lgは、ピニオン直交基準線Lcに対し、支持面61aが背面16aに接触する方にオフセットしている。このため、支持面61aが背面16aに接触しない無駄な範囲を狭くすることができる。その分、ラックガイド61の外径d1を小さくできるので、この結果、ラックガイド61を軽量にできる。このように、支持面61aが背面16aに接触可能な範囲を確保しつつ、ラックガイド61の小型化、軽量化を図ることができる。
【0061】
質量体であるラックガイド61と、所定のバネ定数の圧縮コイルばね62と、から成る振動系を考えたときに、この振動系の固有振動数(共振周波数)は、ラックガイド61が軽量になることによって大きくなる。このため、ラック軸16の振動に対するラックガイド61の追従性が高まるので、ピニオン31(図3参照)に対するラック32の良好な噛み合い状態を十分に維持することができる。従って、ピニオン31とラック32との摩擦特性が良好になるので、ラックアンドピニオン式ステアリング装置10(図1参照)を、より円滑に操舵することができ、この結果、操舵感覚を高めることができる。しかも、ピニオン31とラック32との良好な噛み合い状態を十分に維持できることによって、ラックアンドピニオン機構15の強度や耐久性を高めることができる。
【0062】
さらには、図7(b)に示されるように、背面16aに対する支持面61aの接触部位Qsは、ラック軸16の軸長手方向に直線状に延びるとともに、ラックガイド61の大きさがラック軸16の軸長手方向に最大(外径d1の値)となるように位置している。つまり、ラックガイド61は、このラックガイド61のスライド方向の中心線Lgを基準とした円形状断面に形成され、この中心線Lg上に接触部位Qsが位置している。従って、背面16aに対する支持面61aの接触部位Qsは、ラック軸16の軸長手方向に直線状に延び、この直線状の延び長さはラックガイド61の外径d1と同じであり、最大である。このため、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lgがピニオン直交基準線Lcに合致している場合(図7(c)参照)に比べて、支持面61aが背面16aに接触しない無駄な範囲が狭くてすむ。従って、ラックガイド61の大きさ(外径d1)を小さくできるので、この結果、ラックガイド61を軽量にできる。
【0063】
さらには、図7(a)に示されるように、圧縮コイルばね62の付勢点Qcは接触部位Qsに合致している。このため、ラック軸16から接触部位Qsへ加わる反力Poによってモーメントが発生することはない。従って、ラック軸16の振動に対するラックガイド61の追従性を高めることができる。しかも、付勢部60の耐久性を高めることができる。例えば、前記モーメントが発生しないので、このモーメントによる過大な「こじれ力」(偏り荷重)がラックガイド61、圧縮コイルばね62及び調整ボルト63(図3参照)に作用しない。このため、ラックガイド61の各座面(支持面61aやばね受け面)や調整ボルト63の座面(ばね受け面)に変形(へたり現象)や損耗が発生することによる、ラックガイド61と調整ボルト63との間の隙間が増大することはない。
【0064】
さらには、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lgを、ピニオン直交基準線Lcに対し、支持面61aが背面16aに接触する方にオフセットさせたので、ラック軸16の背面16aに対してラックガイド61を誤った向きに組み付ける心配がない。このため、車両用ステアリング装置10の生産性が高まる。例えば、ラック軸16の背面16aに対して、ラックガイド61を天地逆向きに組み付けた場合には、ラックガイド61の支持面61aが背面16aから離れてしまう。このため、作業者は誤った向きであることを目視によって容易に認識することができる。
【0065】
次に、ピニオン直交基準線Lcに対して支持面61aの接触部位Qsが片側のみに設けられていることによる作用を説明する。図9(a)は、図7(a)に合わせてラック軸16とラックガイド61との関係を示している。図9(b)は、ピニオン直交基準線Lcに対して、ラックガイド61Bの中心線Lgがオフセットしていない場合(比較例)を示している。図9(c)には、図9(a)に示された実施例のラックガイド61と、図9(b)に示された比較例のラックガイド61Bとを、ラックガイド61,61Bのスライド方向から見た構成を表している。
【0066】
図9(b),(c)に示されるように、比較例の付勢部60Bは、ラックガイド60Bと圧縮コイルばね62とからなる。ラックガイド61Bのスライド方向の中心線Lgはピニオン直交基準線Lcに合致している。しかも、ラックガイド60Bの支持面61Baは、ピニオン直交基準線Lcに対して背面16aの両側に接触している。つまり、ピニオン直交基準線Lcに対して支持面61Baの接触部位Qsが2箇所である。
【0067】
図9(b)に示されるように、圧縮コイルばね62の付勢点Qc(圧縮コイルばね62の中心)はピニオン直交基準線Lc上に位置する。このピニオン直交基準線Lcから各接触部位Qs,Qsまでの距離はδB,δBである。このため、圧縮コイルばね62の付勢力によって、ラックガイド61の各接触部位Qs,Qsがラック軸16を押したときに、このラック軸16から各接触部位Qs,Qsにそれぞれ反力Po/2,Po/2が加わる。この反力Po/2は、圧縮コイルばね62の付勢力Poの半分である。従って、ラックガイド61Bには、ピニオン直交基準線Lcに対して両側にモーメントMb,Mbが発生する(Mb=δB×Po/2)。
【0068】
さらに、図8(a)及び図8(b)に示されるように、左右の操舵車輪21,21を操舵しているときには、ラック軸16は操舵車輪21,21から推力(ラック軸16を車幅方向にスライド変位させようとする力)を受ける。この推力は、ラック32の圧力角により、ラック32がピニオン直交基準線Lc方向の反力に変換される。この反力の分、各接触部位Qs,Qsに加わる反力Po/2,Po/2が、更に大きくなる。
【0069】
このため、ラックガイド61Bは、モーメントMb,Mbを考慮した大きい高強度の材料、例えば鋼材を採用する必要がある。
【0070】
これに対し、図9(a),(b)に示されるように、実施例では、ラックガイド60の支持面61aは、ピニオン直交基準線Lcに対して背面16aの片側のみに接触している。しかも、ラックガイド61のスライド方向の中心線Lgは、ピニオン直交基準線Lcに対し、支持面61aが背面16aに接触する方にオフセットしている。さらには、圧縮コイルばね62の付勢点Qcは接触部位Qsに合致している。このため、ラック軸16から接触部位Qsへ加わる反力Poによってモーメントが発生することはない。従って、ラックガイド61は、モーメントを考慮しない分だけ低強度の材料、例えば上述のように樹脂を採用することができる。
【0071】
樹脂製のラックガイド61を採用することにより、質量体であるラックガイド61を軽量にすることができる。質量体であるラックガイド61と圧縮コイルばね62とから成る振動系を考えたときに、この振動系の固有振動数は、ラックガイド61が軽量になることによって、より大きくなる。このため、ラック軸16の振動に対するラックガイド61の追従性が一層高まるので、ピニオン31(図6参照)に対するラック32の良好な噛み合い状態をより十分に維持することができる。従って、ピニオン31とラック32との摩擦特性が良好になるので、ラックアンドピニオン式ステアリング装置10(図1参照)を、より円滑に操舵することができ、この結果、操舵感覚を高めることができる。
【0072】
なお、本発明では、ラックガイド61は、ラック軸16の背面16aに対する支持面61aの接触部位Qsが、ラック軸16の軸長手方向に直線状に延びるとともに、ラックガイド61の大きさがラック軸16の軸長手方向に最大(直線状に延びる接触部位Qsの長さが最大)となるように、ラックガイド61の形状や、ピニオン直交基準線Lcに対するオフセット量δが設定されることが、最も好ましい。
【0073】
例えば、ラックガイド61を支持面61a側から見た端面(ラック軸16に臨んでいる方の端面の形状、つまり、ラックガイド61のスライド方向から見たとき(スライド方向の中心線Lgに沿って見たとき)の断面形状は、真円の円形状の断面の他に、楕円状の断面、ラック軸16の中心線Prに対して多角形(四角形や三角形など)の断面に設定することが可能である。
【0074】
また、ラックガイド61の支持面61aの形状は、図3に示される略円弧状断面の他に、ラック軸16の背面16aに対して、「接触部位Qsを通る接線」を基本とした平坦面とすることが可能である。
【0075】
また、ピニオン31とラック32は「はす歯」の構成であるが、ラック32をラック軸16に対して直交する「すぐ歯」にし、ピニオン31を「はす歯」にし、ピニオン軸14をラック軸16の軸長手方向に傾けた構成にすることが可能である。また、ピニオン31とラック32の両方共に「すぐ歯」にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の車両用ラックアンドピニオン式ステアリング装置10は、車幅が小さい小型車に搭載するのに好適である。
【符号の説明】
【0077】
10…車両用ステアリング装置、11…ステアリングホイール、14…ピニオン軸、15…ラックアンドピニオン機構、16…ラック軸、16a…背面、21…操舵車輪、31…ピニオン、32…ラック、50…ラック支持部(円筒状の軸受)、51…支持孔、60…付勢部、61…ラックガイド、61a…支持面、62…圧縮コイルばね、64…ラックガイドハウジング、64a…支持用孔、d1…ラックガイドの大きさ、Pr…ラック軸の断面中心(ラック軸の中心)、Pp…ピニオンの中心線、Lc…ピニオン直交基準線、Lp…ピニオン平行基準線、r1…押し付け面の円弧状の半径、r2…背面の円弧状の半径、Pj…軸受の中心線、Qs…接触部位、δ…オフセット量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールを操舵することによって発生した操舵トルクを、前記ステアリングホイールからラックアンドピニオン機構を介して操舵車輪に伝える車両用ステアリング装置において、
前記ラックアンドピニオン機構のラックが形成されているラック軸と、
前記ラックアンドピニオン機構のピニオンの位置に対して前記ラック軸の軸長手方向の両側に位置する2個のラック支持部と、
この2個のラック支持部の間に位置し、前記ラック軸を少なくとも前記ラック以外の方向へ付勢することが可能な付勢部と、を備え、
前記2個のラック支持部は、操舵の中立位置に位置している状態の前記ラック軸の、前記ラックが形成されている部位の背面のみを、軸長手方向にスライド可能に支持するように、互いに接近して位置し、
前記付勢部は、
前記ラック軸の中心線に直交し且つ前記ピニオンの中心線に直交するピニオン直交基準線に沿ってスライド可能であって、前記ラック軸の、前記ラックが形成されている部位の前記背面を、軸長手方向にスライド可能に支えるラックガイドと、
このラックガイドを前記背面に向かって付勢する圧縮コイルばねと、からなり、
前記ラックガイドは、前記背面を支えるための支持面を有し、
この支持面は、前記ピニオン直交基準線に対して前記背面の片側のみに接触可能に形成され、
前記ラックガイドのスライド方向の中心線は、前記ピニオン直交基準線に対し、前記支持面が前記背面に接触する方にオフセットしていることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項2】
前記背面に対する前記支持面の接触部位は、前記ラック軸の軸長手方向に直線状に延びるとともに、前記ラックガイドの大きさが前記ラック軸の軸長手方向に最大となるように位置していることを特徴とする請求項2記載の車両用ステアリング装置。
【請求項3】
前記ラックガイドは、このラックガイドの前記スライド方向の中心線を基準とした円形状断面に形成され、この中心線上に前記接触部位が位置していることを特徴とする請求項2記載の車両用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218717(P2012−218717A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90298(P2011−90298)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】