説明

車両用データ記録装置

【課題】車載制御システムとして複数の電子制御装置が設けられた場合であっても、所定のイベントの発生時に必要なデータを記録することが可能な車両用データ記録装置を提供する。
【解決手段】車載制御システムを構成する複数のECU10〜30,60は、それぞれ車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録するメモリを備えている。これら複数のECU10〜30,60の内、1つのECU60が所定の異常イベントの発生を検出すると、ECU60は、自身が保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータを自身のメモリに記録する。さらに、ECU60は、他のECU10〜30に対して、所定の異常イベントが発生したことを通信により通知する。すると、他のECU10〜30は、自身が保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータを各々のメモリに記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のイベント発生時に、車両を制御する車載制御システムの動作状態などに関連するデータを記録する車両用データ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、システムのイベント発生をトリガとしてシステムの動作状態を表すデータを記憶するデータ記憶装置が開示されている。このデータ記憶装置は、直前の所定時間又は取得回数分の解析対象データを記憶する解析対象データ一時記憶部、イベント発生判定用データからイベントの発生を判定するイベント発生判定部、イベントの発生が判定されたときから所定時間後に解析対象データ一時記憶部に記憶されているデータを、イベントデータと関連付けて記憶するデータ記憶部とを備えている。
【0003】
このように、引用文献1の装置では、解析対象データをイベントデータと関連付けて記憶することにより、イベント要因が複雑な場合でも、解析対象データとそのイベントの種類、要因、条件等を関連させて解析可能としている。さらに、イベント要因判別のためにイベントデータそのものを解析対象データと関連付けて記憶しているので、記憶するデータ量を低減し、少量のメモリで効率良くデータを記憶できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−3685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した引用文献1のデータ記憶装置では、1つの電子制御装置(ECU)が、解析対象データ一時記憶部、イベント発生判定部及びデータ記憶部を備え、イベント発生をトリガとして、イベント発生前後の所定期間における解析対象データをメモリに記憶するように構成されている。このように、イベント発生の検出と、解析対象データの記憶とが、1つの電子制御装置にて実行される場合には、必要なデータを洩れなく記憶することが可能である。
【0006】
しかしながら、例えばハイブリッド車両の走行状態を制御する車載制御システムなどは、エンジン、モータ、ブレーキ、トランスミッション、ステアリング、電池など制御対象機器が多岐に亘る。従って、これら多岐に亘る制御対象機器に対して複数の電子制御装置が設けられ、複数の電子制御装置が協調して、各々の制御対象機器の動作を制御することも多い。
【0007】
このように複数の電子制御装置が設けられた場合、イベントの発生時に記録すべきデータも、それぞれの電子制御装置に分散してしまうことになる。このため、いずれかの電子制御装置においてイベントの発生が検出されても、そのイベントの発生時に、洩れなく必要なデータを記録することが困難になるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、車載制御システムとして複数の電子制御装置が設けられた場合であっても、所定のイベントの発生時に必要なデータを記録することが可能な車両用データ記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の車両用データ記録装置は、
所定のイベント発生時に、車両を制御する車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録手段に記録するものであって、
車載制御システムは、相互に通信を行いつつ協調して動作する複数の電子制御装置を含み、かつ複数の電子制御装置は、それぞれ記録手段を有し、
複数の電子制御装置の内、少なくとも1つの電子制御装置が所定のイベントの発生を検出すると、その1つの電子制御装置における、車載制御システムの動作状態に関連するデータを自身の記録手段に記録するとともに、他の電子制御装置に対して、所定のイベントが発生したことを通信により通知し、
他の電子制御装置は、通知を受けると、それぞれの電子制御装置における、車載制御システムの動作状態に関連するデータを各々の記録手段に記録することを特徴とする。
【0010】
従って、請求項1に記載の車両用データ記録装置によれば、記録することが必要なデータが各電子制御装置に分散していても、所定のイベントの発生時に、各電子制御装置の記録手段に必要なデータを洩れなく記録することが可能となる。さらに、通知を受けたことに応じて、各電子制御装置が保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータそのものを、特定の電子制御装置に送信して、その特定の電子制御装置における記録手段に記憶する場合に比較して、通信負荷を低減することができるとともに、データの記録処理を早期に完了することが可能となる。
【0011】
なお、所定のイベントが発生したことを通知する場合、専用の通信線を介して通知しても良いし、複数の電子制御装置間において制御データ等の通信に使用される車内LAN(CANやLINなど)を介して通知しても良い。ただし、車内LANを用いる場合には、所定のイベントの発生を通知するメッセージの優先度を最も高く設定することが望ましい。これにより、所定のイベントの発生時に、他のデータの通信に優先して、所定のイベントの発生を通知するメッセージが送信されるので、遅滞なく各電子制御装置において必要なデータの記録を実行することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載したように、複数の電子制御装置は、車載制御システムの動作状態に関連するデータに加えて、発生したイベントを示すイベント情報も記録手段に記録することが好ましい。これにより、後に記録されたデータに基づいて異常を診断する際に、どのようなイベントに対して記録されたデータであるかを把握できるので、異常診断に役立てることができる。また、イベント情報は、各電子制御装置の記録手段に個別に記録されたデータ同士の対応関係(同じイベントに対して記録されたものか否か)を判断するために利用することも可能となる。
【0013】
請求項3に記載したように、複数の電子制御装置は、車載制御システムの動作状態に関連するデータに加えて、当該データを記録した時刻に関する時刻情報も記録手段に記録することが好ましい。上述した請求項2のようにイベント情報を記録しても、同じイベントが連続して発生した場合には、記録されたデータ同士の対応関係が不明確となる場合がありえる。その点、データを記録した時刻に関する時刻情報も記録するようにすれば、各電子制御装置の記録手段に記録されたデータ同士の対応関係を確実に把握することが可能になる。
【0014】
請求項4に記載したように、1つの電子制御装置は、所定のイベントが発生したことを通知する際に、記録手段に記録する時刻に関する時刻情報も含む通知を送信するものであり、他の電子制御装置は、その通知に含まれる時刻情報を基準とした期間のデータを記録装置に記録することが好ましい。これにより、所定のイベントの発生を通知する際に、通信遅れが発生したとしても、各電子制御装置において、データの記録期間をほぼ一致させることができる。
【0015】
請求項5に記載したように、所定のイベントとして、予め複数種類のイベントを定め、かつそれぞれのイベントに対して記憶すべきデータの種類を定めておき、イベントの発生を検出した電子制御装置は、そのイベントに対して記録すべきデータを保有する電子制御装置に対して、イベントの発生を通知して、データの記録を指示することが好ましい。
【0016】
例えばハイブリッド車両の走行状態を制御する車載制御システムにおいて、車両の挙動に異常(急加速、急減速、急旋回など)が生じたことを所定のイベントの発生と定めることができる。そして、車両の挙動に対しては、車載制御システムの全ての制御対象機器及びそれらの制御対象機器を制御する電子制御装置が影響を及ぼす可能性がある。そのため、車両に異常な挙動が生じた場合には、車載制御システムの動作状態に関連するデータとして、各電子制御装置における目標値や、その目標値を算出するためのセンサ検出値、及び制御対象機器を制御するための駆動信号などを記録することが望ましい。さらに、例えば、個々の制御対象機器の動作異常や、それらの制御対象機器を制御する電子制御装置における目標値の異常も、所定イベントと定めることができる。ただし、この場合、全ての制御対象機器及びそれらの制御対象機器を制御する電子制御装置が、その異常の発生に関係を持つ訳ではない。従って、請求項4に記載したように、イベントの種類(発生した異常の種類)に対して記憶すべきデータの種類を定めておき、該当するデータのみ記録するようにすれば、所定イベント発生時のデータ記録を効率的に行うことができるようになる。その結果、システム全体の診断を行うためのデータや、個別の構成部品の診断を行うためのデータを過不足なく取得することができる。
【0017】
請求項6に記載したように、複数の電子制御装置は、協調動作のために必要なデータをやり取りするために、ローカルエリアネットワークにより相互に通信を行うことが可能であるとともに、所定のイベントの発生を通知する専用線によっても通信を行うことが可能であり、1つの電子制御装置は、専用線を介して、他の電子制御装置に所定のイベントが発生したことのみを通知し、その後、ローカルエリアネットワークを介して、発生したイベントを示すイベント情報を通知することが好ましい。このような構成を採用することにより、ローカルエリアネットワークを介した場合の通信遅れの発生を確実に回避して、所定イベントの通知の遅延を最小化することができる。
【0018】
請求項7に記載したように、他の電子制御装置は、所定のイベントが発生したとの通知を受けたとき、記録対象となる可能性があるすべてのデータを一時的に保存しておき、その後、イベント情報を受信したときに、そのイベント情報に対して記憶すべきデータのみを選択して、記録手段に記録することが好ましい。
【0019】
所定イベントが発生したとの通知を受けた時点では、どのようなイベントが発生したか不明であるため、他の電子制御装置は、どのようなイベントの発生にも対応できるように、記録対象となる可能性があるすべてのデータを一時的に保存しておく。しかし、後に、イベント情報を受信すると、他の電子制御装置は、そのイベント情報に対して記憶すべきデータのみを選択して記録手段に記録する。従って、データを記録するための記憶容量の増加という問題を防ぐことができる。
【0020】
請求項8に記載したように、データ記録装置に記録されたデータは、外部の診断装置に出力されるものであり、複数の電子制御装置の内の1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置が、各電子制御装置の記録手段に記録されているデータを収集した上で、診断装置に出力することが好ましい。これにより、記録データが各電子制御装置に点在していても、記録されたデータを洩れなく外部の診断装置に出力することが可能となる。
【0021】
請求項9に記載したように、1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置によるデータの収集は、複数の電子制御装置間における車両制御のために必要なデータの通信負荷が所定値以下である場合に実行されることが好ましい。このように、1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置が、通信負荷の低い時に、各電子制御装置の記録手段に記録されたデータの収集を行うことにより、本来の制御に影響を及ぼすことなく、診断装置へのデータの提供に備えて事前にデータ収集を行うことができる。
【0022】
請求項10に記載したように、1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置によるデータの収集は、診断装置から、収集すべきデータを指示するコマンドを受けたときに実行され、1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置は、コマンドに従って該当するデータを複数の電子制御装置から収集するようにしても良い。これにより、診断装置から出力することを要請されたデータを効率的に収集して、診断装置に出力することができるようになる。
【0023】
一方、請求項11に記載したように、データ記録装置に記録されたデータは、外部の診断装置に出力されるものであり、複数の電子制御装置が、順番に、自身の記録手段に記録されているデータを診断装置に出力するようにしても良い。このようにしても、各電子制御装置の記録手段に記録されたデータを、洩れなく外部の診断装置に出力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態による車両用データ記録装置が適用される、ハイブリッド車両の走行を制御する車載制御システムの構成をブロック図として示した構成図である。
【図2】複数のECUによりハイブリッド車両の制御系を構成する場合の、各ECUにおける機能配置の一例を説明するための図である。
【図3】本実施形態によるデータ記録装置の概要について、説明するための説明図である。
【図4】異常イベントが発生したときにデータの記録を行うための記録処理において、異常イベントの発生を判定し、その履歴の管理を行う処理を示すフローチャートである。
【図5】異常イベントの発生を検出したECUにおいて、データの記録を行うための記録処理を示すフローチャートである。
【図6】異常イベントの発生を検出したECUからの通知を受けたECUにおいて、データの記録を行うための記録処理を示すフローチャートである。
【図7】各ECUのメモリに記録されたデータを、外部の診断装置90に出力する処理について説明するための説明図である。
【図8】HVECU60のデータ収集部66が、診断装置90から出力すべきデータを指示するコマンドを受け付けて、そのコマンドに該当するデータを出力するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態による車両用データ記録装置について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車両の走行駆動源として、エンジンとモータとを有するハイブリッド車両に対して、車両用データ記録装置を適用した例について説明するが、その適用対象は、エンジンのみを有する車両や、モータのみを有する電動車両であっても良い。
【0026】
図1は、ハイブリッド車両の走行を制御するための構成をブロック図として示した構成図である。図1に示すように、ハイブリッド車両は、走行駆動源として、エンジン11と、モータジェネレータ(MG)32とを有する。MG32は、エンジン11の出力軸上に配設されている。さらに、エンジン11の出力軸には、無段変速機(CVT)21が連結されている。
【0027】
MG32は、車両に搭載された電池(バッテリ)51から電源供給を受けて動作し、エンジン11の駆動力をアシストすることが可能なものである。また、MG32は、車両が減速するときには、車輪側からの回転駆動により発電を行い、電池51を充電(エネルギー回生)する。このような構成において、エンジン11とMG32との間にクラッチを設けて、エンジン11とMG32を切り離すことができるようにすれば、MG32の駆動力のみにて車両を走行させるようにすることも可能となる。
【0028】
CVT21は、前後進切替機構を備え、エンジン11の出力軸に連結された入力軸と、発進のためのメインクラッチを介してドライブシャフトに連結された出力軸とを、金属ベルトにより連結した一般的な構成を備える無段変速機である。すなわち、このCVT21は、例えば油圧を用いて、入力軸及び出力軸に設けられたプーリのプーリ幅を変化させて金属ベルトの巻き掛け半径を変化させ、変速比を無段階に変化させることが可能なものである。ただし、CVT21に代えて、予め設定された複数の変速比を有するオートマチックトランスミッションを用いることも可能である。
【0029】
また、ハイブリッドシステムとして、いわゆるパラレル方式による構成を備える例について説明したが、その他の方式(スプリット方式、シリーズ・パラレル方式など)によるハイブリッドシステムを用いることも可能である。
【0030】
ブレーキ装置71は、例えば液圧や電動モータを用いて、運転者によるブレーキペダルの操作に係らず、制動力を発生可能なものである。電動パワーステアリング装置(EPS)81は、運転者がステアリングホイールを操舵する際の操舵力を、電動モータによってアシストするものである。
【0031】
ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)61は、ハイブリッド車両の運転のため、運転者によって操作される操作部を意味し、例えば、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリングホイール、シフトレバーなどが該当する。それら操作部における各々の操作量がセンサ等によって検出され、ハイブリッド(HV)ECU60に入力される。但し、センサからの検出信号は、他のECUに入力されても良いし、センサ自体を通信線を介して各ECUと通信可能に接続しても良い。
【0032】
エンバイロメント・ビークル・インターフェース(EVI)62は、ハイブリッド車両が置かれた外部環境に関する情報を取得するもので、例えば、先行車両や障害物などを検出するレーダ装置や、車両の周囲の画像を取得するカメラなどが該当する。これらの情報が得られると、例えば、先行車両に追従するように自車両の速度を調整したり(アダプティブクルーズコントロール)、あるいは画像から白線を認識し、その白線によって区画される走行車線を逸脱しないように、電動パワーステアリング装置(EPS)81によるアシスト力を調整したり(レーンキープコントロール)することが可能となる。
【0033】
そして、本実施形態においては、ハイブリッド車両の制御系として、図1に示すように、エンジンECU10、CVTECU20、MGECU30、エネルギー管理ECU40、電池ECU50、HVECU60、ブレーキECU70、及びEPSECU80を備えており、上述したエンジン11、CVT21、MG32などの各制御対象機器を制御するために複数のECUを設けている。これら複数のECUは、通信線を介して相互に通信可能に接続されている。この各ECU間の相互の通信には、公知の車内LAN(CANやLINなど)が用いられる。
【0034】
次に、複数のECUによりハイブリッド車両の制御系を構成する場合の、各ECUにおける機能配置の一例を図2を参照しつつ説明する。
【0035】
エネルギー管理ECU40は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最も効率良く車両を走行させる機能を担うものである。具体的には、エネルギー管理部41が、各種のセンサからの入力情報などに基づいて、電池51の容量を管理するとともに、その電池51の容量に基づいて、MG32が発生可能なMGトルクを算出する。
【0036】
電池51の容量管理に関して、温度の変化によって電池51の容量が変動したり、過度に電池温度が上昇した場合には電池51の破損等の虞が生じる。このため、エネルギー管理部41は、温度調整部42に対して電池目標温度を出力する。温度調整部42は、その電池目標温度に基づいて、電池51の冷却を行う冷却機器を駆動するための冷却部43、あるいは電池51の温度を上昇させる加熱機器を駆動するための加熱部44を用いて、電池51の温度調節を行う。
【0037】
また、エネルギー管理部41は、電池51の充電容量に対する充電残量の比率である充電レベルを検出し、電池51の過充電や、過放電を防止すべく、充放電調整部45に充放電指令を出力する。充放電調整部45は、その充放電指令に従い、電池ECU50におけるプラグイン充電部52やSOC管理部54に制御信号を出力し、電池51の充電レベルを適切な範囲に調節する。なお、電池51の充電容量は、電池51の劣化状態(SOH)に応じて変化するので、SOC管理部54は、SOH管理部53からの情報を用いて、電池51の充電レベルを制御する。
【0038】
HVECU60は、例えば、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、シフトポジションセンサ、ステアリングセンサなどの各種のセンサから情報を入力し、原則として運転者の操作に対応するように車両の挙動を制御する機能を担っている。具体的には、車両挙動制御部63が、前後挙動調整部64に対して前後方向の目標加速度(減速度)を出力するとともに、EPSECU80の左右挙動調整部81に対して左右方向の目標加速度を出力することにより、車両の挙動を安定させつつ、運転者の操作に対応するように車両の挙動を制御する。
【0039】
前後挙動調整部64は、与えられた前後方向の目標加速度を実現すべく、HVECU60の駆動力制御部65及びブレーキECU70の制動力制御部72に対して、目標駆動トルク及び目標制動トルクを出力する。駆動力制御部65は、目標駆動トルクを最も効率良く実現するために、エネルギー管理部41から取得したMG32が発生可能な最大MGトルクを考慮しつつ、エンジン制御部12に目標エンジントルク、MG制御部33に目標MGトルク、及びCVT制御部22に目標変速比をそれぞれ与える。
【0040】
エンジン制御部12は、エンジン回転数などの情報に基づき、エンジン11が目標エンジントルクを発生するように、スロットルバルブ開度や燃料供給量などを調節してエンジン11の運転状態を制御する。MG制御部33は、MG32の回転数や回転位置などの情報に基づき、MG32が目標MGトルクを発生するように、MG32の動作状態を制御するための駆動信号をIGBTドライブ回路(インバータ回路)31に出力する。CVT制御部22は、エンジン11及びMG32によって発生された駆動トルクが駆動輪に適切に伝達されるように、CVT21の変速比を目標変速比に制御する。
【0041】
また、制動力制御部72は、目標制動トルクを実現するべく、ブレーキ制御部73に目標ブレーキ制動トルク、MG制御部33に目標回生制動トルク、及びCVT制御部22に目標変速比をそれぞれ与える。
【0042】
ブレーキ制御部73は、4輪の各車輪速や4輪の各ブレーキの液圧などの情報に基づき、ブレーキ装置71が目標ブレーキ制動トルクを発生するように、ブレーキ液圧や電動モータの駆動を制御する。なお、目標ブレーキ制動トルクは、目標制動トルクに対して目標回生制動トルクだけでは不足する場合に、その不足分を補うように算出される。この場合、MG制御部33は、MG32が発電機(ジェネレータ)として動作するように制御し、MG32によって発電された電気は、電池51に充電される。
【0043】
また、左右挙動調整部82は、与えられた左右方向の目標加速度を実現すべく、EPS制御部83に対して、目標アシストトルクを出力する。EPS制御部83は、電動モータの駆動電流などの情報に基づき、EPS81が発生するアシストトルクが目標アシストトルクとなるようにEPS81を制御する。
【0044】
なお、上述した各ECUにおける機能配置は単なる一例であって、各ECUへの機能の割り振りは変更可能なものである。また、例えば、エンジン11とCVT21を共通のECUによって制御するなど、複数のECUを、適宜、統合することも可能である。
【0045】
上述したように、エンジン11とMG32とを走行駆動源として備えるハイブリッド車両においては、例えば、HVECU60が、運転者の加速要求(アクセルペダル踏込量)に従って、エンジン11及びMG32の目標トルクを算出し、エンジン11及びMG32を制御する各ECU10,30へそれぞれ出力する。すると、各ECU10,30が、算出された目標トルクに従って、エンジン11及びMG32を制御する。このように、ハイブリッド車両においては、車両を走行駆動するためのトルクが複数のECUによって制御されるので、例えば複数のECUの干渉的動作などによって、車両の異常な挙動が引き起こされる可能性が、通常の車両に比べて高まる。
【0046】
そのため、なんらかの異常イベント(例えば、アクセル踏込量の急変やブレーキ踏込量の急変などの異常操作や、車両の急加速、急減速(急停止)、及び急旋回などの異常挙動、その他、回生要求の急変などのシステム動作状態の変化など)が発生すると、そのときの車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録しておき、後で、異常発生の原因を解明できるようにすることが従来から行われている。
【0047】
しかしながら、上述したハイブリッド車両の走行状態を制御する車載制御システムなどにおいては、エンジン11、CVT21、MG32、電池51、ブレーキ71、EPS81など制御対象機器が多岐に亘る。従って、これら多岐に亘る制御対象機器に対して複数のECUが設けられている。このため、異常イベントの発生時に記録すべきデータも、それぞれのECUに分散してしまうことになる。従って、いずれかのECUにおいて異常イベントの発生が検出されても、その異常イベントの発生時に、洩れなく必要なデータを記録することが困難となる。
【0048】
そこで、本実施形態では、車載制御システムとして複数のECUが設けられた場合であっても、所定の異常イベントの発生時に必要なデータを洩れなく記録することを可能としたものである。以下に、本実施形態のデータ記録装置における、データの記録のための構成及び記録方法などについて詳細に説明する。
【0049】
まず、本実施形態によるデータ記録装置の概要について、図3に示す例を用いて説明する。なお、図3に示す例は、HVECU60が、所定の異常イベントとして、アクセル踏込量の急変を検出し、その異常イベントの検出に基づいて、各ECUが、それぞれが保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録するものである。
【0050】
本実施形態のデータ記録装置は、上述したように、相互に通信を行いつつ協調して動作する複数のECUを有する車載制御システムに適用され、それら複数のECUは、それぞれ車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録するメモリ(記録手段)を備えている。そして、図3に示すように、複数のECU10,20,30,60の内、少なくとも1つのECUであるHVECU60が所定の異常イベント(アクセル踏込量の急変)の発生を検出すると、HVECU60は、自身が保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータ(例えば、車両の前後加速度の変化など)を自身のメモリに記録する。さらに、HVECU60は、他のECU10,20,30に対して、所定の異常イベントが発生したことを通信により通知する。他のECU10,20,30は、異常イベントが発生した旨の通知を受けると、それぞれのECU10,20,30が保有する、車載制御システムの動作状態に関連するデータ(例えば、電子スロットル開度の変化、ギヤ比の変化、MG32の電流や回転数の変化など)を各々のメモリに記録する。
【0051】
従って、本実施形態の車両用データ記録装置によれば、記録することが必要なデータが各ECU10,20,30,60に分散していても、所定の異常イベントの発生時に、各ECU10,20,30,60のメモリに必要なデータを洩れなく記録することが可能となる。さらに、通知を受けたことに応じて、各ECUが保有する車載制御システムの動作状態に関連するデータそのものを、特定のECUに送信して、その特定のECUのメモリに記録する場合に比較して、通信負荷を低減することができるとともに、データの記録処理を早期に完了することが可能となる。
【0052】
なお、図3に示す例では、HVECU60が異常イベントの発生を検出し、他のECU10,20,30に通知する例を示したが、HVECU60以外のECU10,20,30も、それぞれ異なる種類の異常イベントを検出するとともに、異常イベントの検出時には他のECUへの通知を行う。この際、各ECUが検出する異常イベントの種類に応じて、その異常イベントの発生を通知するECUを選択するようにしても良い。
【0053】
すなわち、所定の異常イベントとして、予め複数種類の異常イベントを定め、かつそれぞれの異常イベントに対して記憶すべきデータの種類を定め、異常イベントの発生を検出したECUが、その異常イベントに対して記録すべきデータを保有するECUに対して、選択的に異常イベントの発生を通知して、データの記録を指示するようにしても良い。
【0054】
例えばハイブリッド車両の走行状態を制御する車載制御システムにおいて、車両の挙動に異常(急加速、急減速、急旋回など)が生じたことを所定の異常イベントとして定めた場合、車両の挙動に対しては、車載制御システムの全ての制御対象機器及びそれらの制御対象機器を制御する各ECUが影響を及ぼす可能性がある。そのため、車両に異常な挙動が生じた場合には、車載制御システムの動作状態に関連するデータとして、各ECUにおける目標値や、その目標値を算出するためのセンサ検出値、及び制御対象機器を制御するための駆動信号などを記録できるように、各ECUに異常イベントの発生を通知する。
【0055】
一方、例えば、個々の制御対象機器の動作異常や、それらの制御対象機器を制御するECUにおける目標値の異常を、所定イベントとして定めた場合、全ての制御対象機器及びそれらの制御対象機器を制御するECUが、その異常の発生に関係する訳ではない。従って、この場合には、異常イベントの発生を検出したECUが、その異常イベントの発生になんらかの関係を有するデータを保有するECUに対してのみ、異常イベントの発生を通知して、該当データの記録を指示する。これにより、個々の制御対象機器の動作異常や、それらの制御対象機器を制御するECUにおける異常の原因を究明するためのデータを効率的に記録することができる。
【0056】
このように、異常イベントの種類に対して記憶すべきデータを定めておき、該当するデータのみ記録するようにすれば、異常イベント発生時のデータ記録を効率的に行うことができるようになる。その結果、システム全体の診断を行うためのデータや、個別の構成部品(制御対象機器やECU)の診断を行うためのデータを過不足なく取得することができる。
【0057】
また、所定の異常イベントが発生したことを車内LANを介して他のECUに通知する場合には、所定の異常イベントの発生を通知するメッセージの優先度を最も高く設定する。これにより、所定の異常イベントの発生時に、他のデータの通信に優先して、異常イベントの発生を通知するメッセージを即座に送信することができるので、遅滞なく他のECUにおいて必要なデータの記録を実行することが可能となる。ただし、異常イベントの発生を通知する場合、車内LANに加えて、専用の通信線を設け、この専用の通信線を介して通知しても良い。
【0058】
各ECUが、解析に必要なデータを記録するメモリは、不揮発性のものであり、車両のイグニッションスイッチがオフされ、各ECUへの電源供給が停止されたとしても、各ECUは、記録したデータを保持しておくことが可能である。なお、各ECUは、一旦、解析に必要なデータを揮発性メモリに一時的に記録し、例えばその記録が完了した時や、イグニッションオフ時などの適宜なタイミングで、揮発性メモリに記録されたデータを不揮発性メモリに書き込むようにしても良い。
【0059】
また、各ECUのメモリは、第1所定時間分のデータを記録することができるものであり、各ECUは、常時、自身のメモリに対して、無限ループにてデータの書き込みを行う。この書き込みは、一定時間間隔(例えば、1秒)毎に行われる。同時に、各ECUは、入力されたセンサ信号や、目標値などのイベント発生判定用データに基づいて異常イベントの発生の有無を判定する。そして、異常イベントが発生したと判定するか、もしくは他のECUから異常イベントが発生した旨の通知を受けると、各ECUは、その時点から第2所定時間が経過した時点でデータの記録を停止する。この結果、各ECUのメモリには、異常イベント発生前の、第1所定時間−第2所定時間分のデータと、異常イベント発生後の第2所定時間分のデータとが記録されることになる。
【0060】
各ECUのメモリに記録されるデータとしては、運転者による操作を検出するセンサの信号が含まれる。運転者による操作は、車載制御システムの動作状態に影響を与えるためである。このようなセンサとして、例えば、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、変速機のシフト位置を検出するシフト位置センサ、及びステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングセンサなどが該当する。また、メモリに記録されるデータには、車載制御システムの制御により変化する車両の挙動を検出するセンサの信号も含まれる。このようなセンサとしては、例えば、車両の走行速度を検出する速度センサ、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出する加速度センサ、車両の回転方向の変化速度を検出するヨーレイトセンサなどが該当する。
【0061】
その他にも、メモリに記録されるデータとして、エンジン11、MG32、及び電池51の温度、MG32の電流値や回転数、電池51の充電レベル(SOC)や劣化状態(SOH)、ブレーキ装置の液圧などが含まれる。さらに、メモリに記録されるデータに、ハイブリッド車両の各種制御システムの目標値や制御信号を含めても良い。例えば、電動パワーステアリング制御システムの目標値と制御信号、ブレーキ制御システムの目標値と制御信号、CVT制御システムの目標値と制御信号及びエンジン制御システムにおける目標値と制御信号などである。これらの制御システムにおける目標値及び制御信号により、EPS81のアシスト力、ブレーキ装置71における制動力、CVT21の変速比、エンジン11のトルクなどが変化するためである。
【0062】
さらに、各ECUのメモリには、車載制御システムの動作状態に関連するデータに加えて、発生した異常イベントを示すイベント情報も記録する。これにより、事後的に、記録されたデータに基づいて異常を診断する際に、どのような異常イベントに対して記録されたデータであるかを把握できるので、異常診断に役立てることができる。また、イベント情報は、各ECUのメモリに個別に記録されたデータ同士の対応関係(同じ異常イベントに対して記録されたものか否か)を判断するために利用することもできる。
【0063】
ただし、イベント情報を記録しても、同じ異常イベントが連続して発生した場合には、各ECUにおいて個別に記録されたデータ同士の対応関係が不明確となる場合がありえる。そのため、本実施形態の車両用データ記録装置では、さらに、データを記録した時刻に関する時刻情報もメモリに記録する。これにより、各ECUのメモリに記録されたデータ同士の対応関係を確実に把握することが可能になる。
【0064】
以下、本実施形態の車両用データ記録装置において実行される、異常イベントが発生したときにデータの記録を行うための記録処理について、図4〜図6のフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。なお、図4〜図6のフローチャートは、異常イベントとして、アクセル踏込量の急変が生じた場合における記録処理を例として示している。これら図4〜図6のフローチャートの内、図4及び図5のフローチャートはHVECU60によって実行される処理を示しており、図6のフローチャートはHVECU60からの通知を受けた他のECUが実行する処理を示している。また、図4〜図6のフローチャートに示す処理は、車両のイグニッションがオンされることにより開始され、その後は、一定時間毎に繰り返し実行される。
【0065】
図4のフローチャートにおいては、まず、ステップS100で、アクセル踏込量の単位時間当りの変化量を検出する。続くステップS110では、ステップS100にて検出したアクセル踏込量の変化量が所定値以上であるか否かを判定する。このステップS110において「Yes」と判定されるとステップS120の処理に進み、「No」と判定されるとステップS140の処理に進む。
【0066】
ステップS120では、アクセル踏込量が急変する異常イベントが発生したものとみなし、アクセル急変イベント履歴をセットする。そして、続くステップS130において、アクセル踏込量の急変という異常イベントが発生した際に、その異常イベントに関連するデータを保有するECUに対して、異常イベントの発生を通知し、該当データの記録を指示する。
【0067】
一方、ステップS140では、過去に、ステップS120の処理が実行され、アクセル急変イベント履歴がセットされているか否かを判定する。ステップS140において「Yes」と判定された場合、ステップS150の処理に進み、新たにアクセル急変イベントが発生したときに、そのタイミングでデータの記録処理を実施することができるように、アクセル急変イベント履歴をキャンセルする。
【0068】
次に、図5のフローチャートに示す処理について説明する。この図5のフローチャートにおいては、まず、ステップS200で、アクセル急変イベント履歴がセットされているか否かを判定する。このステップS200で「Yes」と判定された場合ステップS210の処理を実行し、「No」と判定された場合には、図5のフローチャートに示す処理を終了する。
【0069】
ステップS210では、アクセル踏込量急変に関して過去にセットされたイベント履歴があり、メモリに、そのときに記録したデータが残されているか否かを判定する。このステップS210において「Yes」と判定された場合、ステップS220に進んで、過去の異常イベント発生時に記録されたデータをクリアし、メモリを初期化する。同じ種類の異常イベントが複数回発生した場合、新たに発生した異常イベント時のデータさえ記録しておけば十分であり、過去の異常イベント発生時のデータは不要であると考えられるためである。ただし、同じ種類の異常イベントが複数回発生したとき、メモリ容量の許す範囲で、過去の異常イベント発生時のデータを消去せずに、さらに新たな異常イベント発生時のデータも記録するようにしても良い。
【0070】
続くステップS230では、イベント発生時点を基準として、イベント発生前の所定時間分(第1所定時間−第2所定時間分)のデータと、イベント発生後の所定時間分(第2所定時間分)のデータとをメモリに記録する。この際、発生した異常イベントの種類、及び異常イベント発生時刻を示す時刻情報も併せてメモリに記録する。
【0071】
次に、図6のフローチャートに示す処理について説明する。まず、ステップS300にて、異常イベントが発生した旨を通知するメッセージを受信したか否かを判定する。このステップS200で「Yes」と判定された場合ステップS310の処理を実行し、「No」と判定された場合には、図6のフローチャートに示す処理を終了する。
【0072】
ステップS310では、過去に同じ種類の異常イベントが発生した旨の通知を受信しているか否かを判定する。この判定処理において「Yes」と判定された場合、メモリに、過去の通知に基づいて記録されたデータが残っているため、ステップS320に進んで、過去の通知受信時に記録されたデータをクリアし、メモリを初期化する。ただし、図5のフローチャートの場合と同様に、過去の通知受信時のデータを消去せずに、さらに新たな通知受信時のデータも記録するようにしても良い。
【0073】
続くステップS330では、イベント発生通知の受信時点を基準として、通知受信前の所定時間分(第1所定時間−第2所定時間分)のデータと、通知受信後の所定時間分(第2所定時間分)のデータとをメモリに記録する。さらに、発生した異常イベントの種類を示す受信したメッセージ及びメッセージの受信時刻を示す時刻情報も併せてメモリに記録する。
【0074】
なお、上述した例は、いずれかのECUにおいて異常イベントの発生が検出されたときに、その異常イベントの発生を検出したECU、及び異常イベントに関係するデータを保有するECUにおいて、データの記録を行うものであった。
【0075】
しかしながら、複数の異常イベントがほぼ同時期に発生することもありえる。そのため、各ECUには、このような場合に備えて、複数の異常イベントの発生時のデータをそれぞれ記録できる容量のメモリを設けても良い。
【0076】
また、上述した例では、異常イベントの発生を検出したECUが、その異常イベントの種類を示すメッセージを、その異常イベントになんらかの関係を有するECUに対して通知するものであった。
【0077】
しかしながら、そのメッセージに、異常イベントが発生した時刻、又は異常イベントの発生を通知するメッセージの生成時点の時刻を示す時刻情報を含ませても良い。そして、メッセージを受信した各ECUは、メッセージに含まれる時刻情報を基準として、メモリに記録するデータの期間を定めるようにしても良い。これにより、メッセージの通信遅れが発生したとしても、各ECUは、その通信遅れの時間分だけ遡った期間のデータを記録することが可能になる。従って、通信遅れの発生如何によらず、異常イベントの発生を検出したECU、及び異常イベントの発生を通知するメッセージを受信した各ECUにおいて、開始時刻及び終了時刻をほぼ同じくする期間におけるデータを記録することができる。さらに、メッセージに含まれる時刻情報も、各ECUのメモリに記憶しておくことにより、それぞれのECUのメモリに記録されたデータの対応関係をより明確に把握することができる。
【0078】
また、各ECUが、車内LANとは別に設けられた、専用線を介しての通信が可能である場合、まず、異常イベントの発生を検出したECUが、専用線により、各ECUに異常イベントが発生したことのみを通知し、その後、車内LANを介して、発生した異常イベントの種類を通知するようにしても良い。この場合、専用線は、異常イベントが発生していないときの状態と、異常イベントの発生を通知する状態とを区別できれば良いので、例えば、単にオン信号とオフ信号を伝達可能なもので十分である。
【0079】
このような構成を採用することにより、車内LANを介した場合の通信遅れの発生を確実に回避して、異常イベントの通知の遅延を最小化することができる。
【0080】
ただし、異常イベントの発生のみを通知した場合、その通知を受けた各ECUでは、その時点では、異常イベントの種類が不明であるため、とりあえず、どのような異常イベントの発生にも対応できるように、記録対象となる可能性があるすべてのデータを一時的に保存しておく必要がある。このようなデータをそのまますべて記録するとすれば、データの記録のために必要となるメモリ容量が増大してしまう。
【0081】
その点、上述した構成では、異常イベントの発生を通知したECUが、後の適宜の時期に、車内LANを介して異常イベントの種類を各ECUに通知する。この異常イベントの通知は、通信の優先度を高くする必要がないため、協調制御のために各ECU間において行われる通信への影響を軽微なものとすることができる。そして、各ECUが、受信した異常イベントの種類に対して記憶すべきデータのみを選択して、自身のメモリに記録するようにすれば、データ記録のためのメモリ容量の増加という問題も防ぐことができる。
【0082】
次に、各ECUのメモリに記録されたデータを、外部の診断装置に出力する処理について説明する。
【0083】
各ECUのメモリに記録されたデータは、図7に示すように、車両用データ記録装置に外部の診断装置90が接続されたとき、診断装置90に出力される。診断装置90は、車両用データ記録装置から読み出したデータから、異常イベント発生時の車載制御システムの動作状態を解析し、異常の原因を診断する。
【0084】
ここで、本実施形態では、図7に示すように、各ECUのメモリに記録されたデータを診断装置90に出力する際に、各ECUのメモリに記録されたデータを収集し、出力すべきデータを集約するデータ収集部66が、HVECU60に設けられている。これにより、記録データが各ECUに点在していても、各ECUに記録されたデータを洩れなく外部の診断装置90に出力することが可能となる。
【0085】
データ収集部66によるデータの収集は、診断装置90が車両用データ記録装置に接続される前に、事前に行われても良いし、診断装置90が車両用データ記録装置に接続されたときに行われても良い。
【0086】
データの収集が事前に行われる場合には、データ収集部66は、複数のECU間における車両制御のために必要なデータの通信負荷が所定値以下である場合に、各ECUのメモリからデータを収集することが好ましい。このように、データ収集部66が、通信負荷の低い時に、各ECUのメモリに記録されたデータの収集を行うことにより、本来の制御に影響を及ぼすことなく、診断装置90へのデータの提供に備えて事前にデータ収集を行うことができる。
【0087】
一方、診断装置90が車両用データ記録装置に接続されたときに、データ収集部66が各ECUからデータを収集する場合には、診断装置90から、収集すべきデータを指示するコマンドを受け付け、そのコマンドに従って該当するデータを各ECUから収集するようにしても良い。これにより、診断装置90から出力することを要請されたデータを効率的に収集して、診断装置90に出力することができる。
【0088】
図8のフローチャートは、HVECU60のデータ収集部66が、診断装置90から出力すべきデータを指示するコマンドを受け付けて、そのコマンドに該当するデータを出力するための処理を示すものである。
【0089】
まず、ステップS400では、診断装置90から出力されるコマンドを受信する。このコマンドには、データが記録された時間的条件を示す時間情報と、要求データの種類を示す種類情報とを含めることができ、診断装置90は、所望のデータのみを出力するよう要請することができる。
【0090】
なお、要求データの種類を示す種類情報としては、例えば、異常イベントを指定して、その異常イベントの発生に基づいて記録されたデータの出力を要求したり、異常イベントの中でも、特定のECUによって検出された異常イベントのみを指定して、その際に記録されたデータの出力を要求したりすることが可能である。
【0091】
ステップS410では、コマンドに含まれる時間情報を抽出し、さらにステップS420では、要求データの種類情報を抽出する。そして、ステップS430において、時間情報及び種類情報に該当するデータを判定する。この該当するデータがエンジンECU10に記録されている場合には、ステップS440に進んで、エンジンECU10に対して、該当するエンジン制御関連データを出力するよう指示する。つまり、すべてのエンジン制御関連データの出力を指示するのではなく、診断装置90から要求されたデータに限定して出力するようにエンジンECU10に指示する。
【0092】
同様に、コマンドの時間情報及び種類情報に該当するデータがCVTECU20に記録されている場合には、ステップS450に進んで、CVTECU20に対して、該当するCVT制御関連データを出力するよう指示する。また、該当するデータがMGECU30に記録されている場合には、ステップS460に進んで、MGECU30に対して、該当するMG制御関連データを出力するよう指示する。なお、必要であれば、データ収集部66は、その他のECUに対しても、該当する制御関連データを出力するよう指示する。
【0093】
そして、ステップS470では、データ収集部66が、各ECUから収集したデータを、例えば異常イベントごとに結合した上で、診断装置90に対して出力する。
【0094】
これにより、車両用データ記録装置は、診断装置90からのコマンドに従ったデータを出力することができるようになるので、例えば、診断装置90において、車両制御システム全体の異常に関する診断を行ったり、各ECUや制御対象機器の動作の異常診断を行ったり、異常診断の対象を自由に設定することが可能になる。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本願発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0096】
例えば、上述した実施形態では、データ収集部66は、HVECU60に設けられ、診断装置90は、HVECU60から必要なデータを取得する例について説明した。しかしながら、この点については、種々の変形例が考えられる。例えば、診断装置90がHVECU60と通信するものであっても、データ収集部は、HVECU60以外の他のECUに設けることも可能である。さらに、データ収集部を、HVECU60に設けつつ、さらに他のECUにも設け、HVECU60のデータ収集部66に故障が生じた場合には、他のECUに設けたデータ収集部により、必要なデータを収集するようにしても良い。また、車載制御システムを構成する各ECUとは別に、診断装置90と通信を行うとともに、各ECUのメモリに記憶されたデータを収集するデータ収集部を有する専用のECUを設けるようにしても良い。
【0097】
一方、上述した実施形態のように、データ収集部66により、各ECUのメモリに記録されたデータを集約した上で診断装置90に出力するのではなく、データを記憶している各ECUが、順番に、自身のメモリに記録されているデータを診断装置90に出力するようにしても良い。このようにしても、各ECUのメモリに記録されたデータを、洩れなく外部の診断装置90に出力することが可能となる。
【符号の説明】
【0098】
10 エンジンECU
11 エンジン
20 無段変速機ECU
21 無段変速機
30 モータジェネレータECU
32 モータジェネレータ
40 エネルギー管理ECU
50 電池ECU
51 電池
60 ハイブリッドECU
70 ブレーキECU
71 ブレーキ装置
80 電動パワーステアリングECU
81 電動パワーステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のイベント発生時に、車両を制御する車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録手段に記録する車両用データ記録装置であって、
前記車載制御システムは、相互に通信を行いつつ協調して動作する複数の電子制御装置を含み、かつ複数の電子制御装置は、それぞれ前記記録手段を有し、
前記複数の電子制御装置の内、少なくとも1つの電子制御装置が前記所定のイベントの発生を検出すると、その1つの電子制御装置における、前記車載制御システムの動作状態に関連するデータを自身の記録手段に記録するとともに、他の電子制御装置に対して、前記所定のイベントが発生したことを通信により通知し、
前記他の電子制御装置は、前記通知を受けると、それぞれの電子制御装置における、前記車載制御システムの動作状態に関連するデータを各々の記録手段に記録することを特徴とする車両用データ記録装置。
【請求項2】
前記複数の電子制御装置は、前記車載制御システムの動作状態に関連するデータに加えて、発生したイベントを示すイベント情報も前記記録手段に記録することを特徴とする請求項1に記載の車両用データ記録装置。
【請求項3】
前記複数の電子制御装置は、前記車載制御システムの動作状態に関連するデータに加えて、当該データを記録する時刻に関する時刻情報も前記記録手段に記録することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用データ記録装置。
【請求項4】
前記1つの電子制御装置は、前記所定のイベントが発生したことを通知する際に、前記記録手段に記録する時刻に関する時刻情報も含む通知を送信するものであり、
前記他の電子制御装置は、前記通知に含まれる時刻情報を基準とした期間のデータを前記記録装置に記録することを特徴とする請求項3に記載の車両用データ記録装置。
【請求項5】
前記所定のイベントとして、予め複数種類のイベントを定め、かつそれぞれのイベントに対して記憶すべきデータの種類を定めておき、イベントの発生を検出した電子制御装置は、そのイベントに対して記録すべきデータを保有する電子制御装置に対して、イベントの発生を通知して、データの記録を指示することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用データ記録装置。
【請求項6】
前記複数の電子制御装置は、協調動作のために必要なデータをやり取りするために、ローカルエリアネットワークにより相互に通信を行うことが可能であるとともに、前記所定のイベントの発生を通知する専用線によっても通信を行うことが可能であり、
前記1つの電子制御装置は、前記専用線を介して、前記他の電子制御装置に前記所定のイベントが発生したことのみを通知し、その後、前記ローカルエリアネットワークを介して、発生したイベントを示すイベント情報を通知することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用データ記録装置。
【請求項7】
前記他の電子制御装置は、前記所定のイベントが発生したとの通知を受けたとき、記録対象となる可能性があるすべてのデータを一時的に保存しておき、その後、前記イベント情報を受信したときに、そのイベント情報に対して記憶すべきデータのみを選択して、前記記録手段に記録することを特徴とする請求項6に記載の車両用データ記録装置。
【請求項8】
前記車両用データ記録装置に記録されたデータは、外部の診断装置に出力されるものであり、
前記複数の電子制御装置の内の1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置が、各電子制御装置の記録手段に記録されているデータを収集した上で、前記診断装置に出力することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の車両用データ記録装置。
【請求項9】
前記1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置によるデータの収集は、前記複数の電子制御装置間における車両制御のために必要なデータの通信負荷が所定値以下である場合に実行されることを特徴とする請求項8に記載の車両用データ記録装置。
【請求項10】
前記1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置によるデータの収集は、前記診断装置から、収集すべきデータを指示するコマンドを受けたときに実行され、前記1つの電子制御装置もしくは専用の電子制御装置は、前記コマンドに従って該当するデータを前記複数の電子制御装置から収集することを特徴とする請求項8に記載の車両用データ記録装置。
【請求項11】
前記車両用データ記録装置に記録されたデータは、外部の診断装置に出力されるものであり、
前記複数の電子制御装置が、順番に、自身の記録手段に記録されているデータを前記診断装置に出力することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の車両用データ記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−155608(P2012−155608A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15415(P2011−15415)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】