説明

車両用データ記録装置

【課題】所定のイベント発生時の、データ記録に要する記録容量を効果的に低減可能な車両用データ記録装置を提供する。
【解決手段】各データの時定数の大きさを判定し、その時定数の大きさから最適なサンプリング間隔を設定する。各データは、設定された最適サンプリング間隔で取得され、メモリに記録される。このため、解析時に必要となる精度にて、それぞれのデータを記録することが可能になる。この結果、それぞれのデータの記録に際して、余分な情報を記録したり、逆に必要な情報が漏れたりすることを防止でき、データの記録に要するメモリ容量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のイベント発生時に、車両を制御する車載制御システムの動作状態などに関連するデータを記録する車両用データ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、システムのイベント発生をトリガとしてシステムの動作状態を表すデータを記憶するデータ記憶装置が開示されている。このデータ記憶装置は、直前の所定時間又は取得回数分の解析対象データを記憶する解析対象データ一時記憶部、イベント発生判定用データからイベントの発生を判定するイベント発生判定部、イベントの発生が判定されたときから所定時間後に解析対象データ一時記憶部に記憶されているデータを、イベントデータと関連付けて記憶するデータ記憶部とを備えている。
【0003】
このように、引用文献1の装置では、解析対象データをイベントデータと関連付けて記憶することにより、イベント要因が複雑な場合でも、解析対象データとそのイベントの種類、要因、条件等を関連させて解析可能としている。さらに、イベント要因判別のためにイベントデータそのものを解析対象データと関連付けて記憶しているので、記憶するデータ量を低減し、少量のメモリで効率良くデータを記憶できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−3685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1のデータ記憶装置では、イベント発生をトリガとして、イベント発生前後の所定期間における解析対象データをそのままメモリに記憶している。なお、解析対象データには、各種のセンサによって検出された検出値や、各種の制御機器から出力される制御データなどが含まれる。
【0006】
ここで、特に、各種のセンサによって検出された検出値は、検出対象である物理量に応じて、時間的な変化特性(以下、時定数と呼ぶ)が種々異なる。例えば、モータを駆動源とする電動車両やハイブリッド車両に搭載された車載制御システムにおいて、バッテリの温度などの熱量データ、車両の速度や加速度などの車両の挙動に関する挙動データ、モータの駆動電流などの電気量データを解析対象データとしたとする。この場合、一般的に、熱量データが変化する時間が最も長く、以下、挙動データ、電気量データの順に短くなる。このように、検出対象とする物理量に応じて、各センサの検出値の時定数が異なるので、解析時に必要となる検出値の精度も異なることになる。
【0007】
しかしながら、特許文献1のデータ記憶装置では、そのような各センサの検出値ごとの必要精度についてなんら考慮せず、単に、各センサによって検出された検出値をそのまま記憶している。このため、特許文献1のデータ記憶装置は、センサの検出値に関して、余分な情報まで記憶することになり、無駄にメモリ容量を使用してしまうという問題が生じる。なお、このような問題は、制御機器から出力される制御データに関しても生じる場合がある。
【0008】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、データの時定数を考慮して、解析時に必要となる精度でそれぞれのデータを記録することにより、その記録に要する記録容量をより低減することが可能な車両用データ記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の車両用データ記録装置は、所定のイベント発生時に、車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録手段に記録するものであって、
車載制御システムの動作状態に関連するデータは、デジタル値によって表現され、かつ変化時の時定数が異なる2種類以上のデータを含み、
時定数に応じてデータを記録する時間間隔を決定し、その時間間隔の経過毎に、サンプリングしたデータを記録手段に記録する記録制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載のデータ記録装置は、上述した構成を備えているため、車載制御システムの動作状態に関連するデータを、それぞれのデータの変化時の時定数に応じた時間間隔で、記録手段に記録することができる。このため、解析時に必要となる精度にて、それぞれのデータを記録することが可能になる。この結果、それぞれのデータの記録に際して、余分な情報を記録したり、逆に必要な情報が漏れたりすることを防止でき、データの記録に要する記録容量を低減することができる。
【0011】
具体的には、請求項2に記載したように、記録制御手段は、時定数が小さいデータに対する時間間隔を、時定数が大きいデータに対する時間間隔よりも短く決定する。このように、変化時の時定数が小さいデータは、相対的に短い時間間隔で記録されるので、そのデータの変化の様子を精度良く把握することができる。逆に、時定数が大きいデータは、相対的に長い時間間隔で記録されるが、そもそも緩やかに変化するものであるため、必要な精度は確保できる。
【0012】
請求項3に記載したように、変化時の時定数が異なる2種類以上のデータが、A/D変換器によりアナログ値からデジタル値に変換されるものであり、A/D変換器によるA/D変換の変換周期が、時定数が大きいデータに対して決定された時間間隔よりも短い場合、当該時定数の大きいデータの間引きを行なうようにすれば良い。A/D変換器の変換周期が、時定数が大きいデータに対して決定された時間間隔よりも短いと、必要以上の頻度でA/D変換が行なわれることになるためである。
【0013】
このような時定数の大きいデータの間引きを行なう場合、請求項4に記載したように、A/D変換器により、時定数が異なる2種類以上のデータについて、同じ変換周期でA/D変換を行なわせ、記録制御手段が、時定数が大きいデータを表す、A/D変換後のデジタル値を間引くようにしても良い。この場合、記録制御手段は、時定数が大きいデータの、間引かれずに残ったデジタル値のみを記録手段に記録する。また、請求項5に記載したように、A/D変換器が、時定数が大きいデータに対して決定された時間間隔に従って、当該時定数の大きいデータに対応するアナログ値をサンプリングしてデジタル値に変換することにより、時定数の大きいデータの間引きを行なうようにしても良い。請求項4及び請求項5の発明のいずれによっても、時定数の大きいデータを適切な時間間隔で記録手段に記録することができる。
【0014】
請求項6に記載したように、所定のイベントとして、特定の車載機器の動作に異常が生じた場合、記録制御手段は、特定の車載機器と機械的に連結されている連結車載機器の動作に関連するデータに関して、異常発生時期を基準としてデータの記録を行なうことが好ましい。異常が発生した特定の車載機器と機械的に連結されている連結車載機器については、特定の車載機器における異常動作の影響が即座に及ぶ。そのため、連結車載機器の動作に関連するデータに関して、異常発生時期を基準としてデータの記録を行なうことにより、異常発生の原因究明や異常発生による影響の解明などに役立てることができる。
【0015】
請求項7に記載したように、記録制御手段は、変化時の時定数が異なる2種類以上のデータの各々について、所定の大きさだけ変化するのに要した時間を検出し、その検出した時間を記録手段に記録するようにしても良い。このようにしても、変化時の時定数に応じた時間間隔で各データを記録することができる。なお、この場合、記録手段に記録されるのは時間(時刻)であるが、その時間は、各データが所定の大きさだけ変化するのに要した時間を表しているので、記録した時間から各データの変化の様子を再現することができる。
【0016】
請求項8に記載したように、所定のイベントが発生したことを検出するイベント発生検出手段を有し、当該イベント発生検出手段は、所定のイベントの発生を検出する条件を、時間の経過とともに変化させるようにしても良い。車両の各部の動作状態は、経年変化によって変化する。そのため、時間の経過とともに所定のイベントの発生を検出する条件を変化させることにより、より精度よく所定のイベントに該当する事象の発生を検出できるようになる。例えば、請求項9に記載したように、イベント発生検出手段は、時間の経過に係らず、イベントの発生を検出する頻度が所定範囲に収まるように、イベントの発生を検出する条件を変化させるようにすれば良い。このようにすれば、経年変化によって車両の各部の動作状態が変化しても、変わらぬ精度でイベントの発生の検出を行なうことができる。
【0017】
請求項10に記載したように、変化時の時定数が異なる2種類以上のデータを時定数の近似性に基づいて複数のグループに分け、その各グループごとに設けられ、データをデジタル値に変換する際の変換周期が異なる複数のA/D変換器を備え、記録制御手段は、複数のA/D変換器によってそれぞれデジタル値に変換されたデータを、記録手段に記録するものであって、時定数が大きいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期は、時定数が小さいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期よりも長いことが好ましい。これにより、A/D変換器によるA/D変換周期を、時定数の大きさから決定される、データを記録するための時間間隔に予め近づけておくことができる。従って、A/D変換器において、無駄にA/D変換処理がなされることを極力避けることができる。
【0018】
請求項11に記載したように、記録手段に記録された、時定数が小さいグループのデータと同じ周期のデータを得るべく、時定数が大きいグループのデータを補間した補間データを算出する補間データ算出手段を備えることが好ましい。これにより、例えば車両診断装置が、データ記録装置から取得したデータに基づき、イベント発生時の車載制御システムの動作状態を容易にかつ高精度に解析することが可能になる。
【0019】
請求項12に記載したように、車載制御システムは、複数の電子制御装置によって構成され、記録手段に記録されるデータは、車載制御システムの動作状態に関連する物理量を検出するセンサによって検出されて、デジタル値に変換されるデータを含み、センサによって検出された検出信号は、グループ毎にまとめられて、それぞれ異なる電子制御装置に取り込まれ、その取り込まれる電子制御装置に対して設けられているA/D変換器によってデジタル値に変換されるように構成することも可能である。このように、それぞれのグループごとに、そのグループに含まれるデータを扱うためのA/D変換器及び電子制御装置を個別に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態による車両用データ記録装置が適用されるハイブリッド車両の走行を制御するための構成をブロック図として示した構成図である。
【図2】複数のECUによりハイブリッド車両の制御系を構成する場合の、各ECUにおける機能配置の一例を説明するための図である。
【図3】異常イベントが発生したときにデータの記録を行うための記録処理において、異常イベントの発生を判定し、その履歴の管理を行う処理を示すフローチャートである。
【図4】異常イベントが発生したときにデータの記録を行うための記録処理において、記録対象データ毎の最適サンプリング間隔を設定し、その最適サンプリング間隔にてデータ記録を行う処理を示すフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートにおけるデータ記録処理の詳細を示すフローチャートである。
【図6】車両診断装置が車両用データ記録装置に記録されたデータを読み出す際に、車両用データ記録装置における1つのECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【図7】変形例における、データ記録処理を示すフローチャートである。
【図8】変形例における、特定車載機器と連結車載機器との関係を説明するための説明図である。
【図9】特定車載機器の動作に関連するデータの記録と、連結車載機器の動作に関連するデータの記録とが同期された例を示す波形図である。
【図10】変形例において、異常イベントの発生を判定し、その履歴の管理を行う処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態による車両用データ記録装置について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、車両の走行駆動源として、エンジンとモータとを有するハイブリッド車両に対して、車両用データ記録装置を適用した例について説明するが、その適用対象は、エンジンのみを有する車両や、モータのみを有する電動車両であっても良い。
【0022】
図1は、ハイブリッド車両の走行を制御するための構成をブロック図として示した構成図である。図1に示すように、ハイブリッド車両は、走行駆動源として、エンジン11と、モータジェネレータ(MG)32とを有する。MG32は、エンジン11の出力軸上に配設されている。さらに、エンジン11の出力軸には、無段変速機(CVT)21が連結されている。
【0023】
MG32は、車両に搭載された電池(バッテリ)51から電源供給を受けて動作し、エンジン11の駆動力をアシストすることが可能なものである。また、MG32は、車両が減速するときには、車輪側からの回転駆動により発電を行い、電池51を充電(エネルギー回生)する。このような構成において、エンジン11とMG32との間にクラッチを設けて、エンジン11とMG32を切り離すことができるようにすれば、MG32の駆動力のみにて車両を走行させるようにすることも可能となる。
【0024】
CVT21は、前後進切替機構を備え、エンジン11の出力軸に連結された入力軸と、発進のためのメインクラッチを介してドライブシャフトに連結された出力軸とを、金属ベルトにより連結した一般的な構成を備える無段変速機である。すなわち、このCVT21は、例えば油圧を用いて、入力軸及び出力軸に設けられたプーリのプーリ幅を変化させて金属ベルトの巻き掛け半径を変化させ、変速比を無段階に変化させることが可能なものである。ただし、CVT21に代えて、予め設定された複数の変速比を有するオートマチックトランスミッションを用いることも可能である。
【0025】
また、ハイブリッドシステムとして、いわゆるパラレル方式による構成を備える例について説明したが、その他の方式(スプリット方式、シリーズ・パラレル方式など)によるハイブリッドシステムを用いることも可能である。
【0026】
ブレーキ装置71は、例えば液圧や電動モータを用いて、運転者によるブレーキペダルの操作に係らず、制動力を発生可能なものである。電動パワーステアリング装置(EPS)81は、運転者がステアリングホイールを操舵する際の操舵力を、電動モータによってアシストするものである。
【0027】
ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)61は、ハイブリッド車両の運転のため、運転者によって操作される操作部を意味し、例えば、アクセルペダル、ブレーキペダル、ステアリングホイール、シフトレバーなどが該当する。それら操作部における各々の操作量がセンサ等によって検出され、ハイブリッド(HV)ECU60に入力される。但し、センサからの検出信号は、他のECUに入力されても良いし、センサ自体を通信線を介してECUと通信可能に接続しても良い。
【0028】
エンバイロメント・ビークル・インターフェース(EVI)62は、ハイブリッド車両が置かれた外部環境に関する情報を取得するもので、例えば、先行車両や障害物などを検出するレーダ装置や、車両の周囲の画像を取得するカメラなどが該当する。これらの情報が得られると、例えば、先行車両に追従するように自車両の速度を調整したり(アダプティブクルーズコントロール)、あるいは画像から白線を認識し、その白線によって区画される走行車線を逸脱しないように、電動パワーステアリング装置(EPS)81によるアシスト力を調整したり(レーンキープコントロール)することが可能となる。
【0029】
そして、本実施形態においては、ハイブリッド車両の制御系として、図1に示すように、エンジンECU10、CVTECU20、MGECU30、エネルギー管理ECU40、電池ECU50、HVECU60、ブレーキECU70、及びEPSECU80を備えており、これらのECUは、通信線を介して相互に通信可能に接続されている。この各ECU間の相互の通信には、公知の車内LAN(CANやLINなど)が用いられる。
【0030】
これらの複数のECUによりハイブリッド車両の制御系を構成する場合の、各ECUにおける機能配置の一例を図2を参照しつつ説明する。
【0031】
エネルギー管理ECU40は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最も効率良く車両を走行させる機能を担うものである。具体的には、エネルギー管理部41が、各種のセンサからの入力情報などに基づいて、電池51の容量を管理するとともに、その電池51の容量に基づいて、MG32が発生可能なMGトルクを算出する。
【0032】
電池51の容量管理に関して、温度の変化によって電池51の容量が変動したり、過度に電池温度が上昇した場合には電池51の破損等の虞が生じたりする。このため、エネルギー管理部41は、温度調整部42に対して電池目標温度を出力する。温度調整部42は、その電池目標温度に基づいて、電池51の冷却を行う冷却機器を駆動するための冷却部43、あるいは電池51の温度を上昇させる加熱機器を駆動するための加熱部44を用いて、電池51の温度調節を行う。
【0033】
また、エネルギー管理部41は、電池51の充電容量に対する充電残量の比率である充電レベルを検出し、電池51の過充電や、過放電を防止すべく、充放電調整部45に充放電指令を出力する。充放電調整部45は、その充放電指令に従い、電池ECU50におけるプラグイン充電部52やSOC管理部54に制御信号を出力し、電池51の充電レベルを適切な範囲に調節する。なお、電池51の充電容量は、電池51の劣化状態(SOH)に応じて変化するので、SOC管理部54は、SOH管理部53からの情報を用いて、電池51の充電レベルを制御する。
【0034】
HVECU60は、例えば、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、シフトポジションセンサ、ステアリングセンサなどの各種のセンサから情報を入力し、原則として運転者の操作に対応するように車両の挙動を制御する機能を担っている。具体的には、車両挙動制御部63が、前後挙動調整部64に対して前後方向の目標加速度(減速度)を出力するとともに、EPSECU80の左右挙動調整部81に対して左右方向の目標加速度を出力することにより、車両の挙動を安定させつつ、運転者の操作に対応するように車両の挙動を制御する。
【0035】
前後挙動調整部64は、与えられた前後方向の目標加速度を実現すべく、HVECU60の駆動力制御部65及びブレーキECU70の制動力制御部72に対して、目標駆動トルク及び目標制動トルクを出力する。駆動力制御部65は、目標駆動トルクを最も効率良く実現するために、エネルギー管理部41から取得したMG32が発生可能な最大MGトルクを考慮しつつ、エンジン制御部12に目標エンジントルク、MG制御部33に目標MGトルク、及びCVT制御部22に目標変速比をそれぞれ与える。
【0036】
エンジン制御部12は、エンジン回転数などの情報に基づき、エンジン11が目標エンジントルクを発生するように、スロットルバルブ開度や燃料供給量などを調節してエンジン11の運転状態を制御する。MG制御部33は、MG32の回転数や回転位置などの情報に基づき、MG32が目標MGトルクを発生するように、MG32の動作状態を制御するための駆動信号をIGBTドライブ回路(インバータ回路)31に出力する。CVT制御部22は、エンジン11及びMG32によって発生された駆動トルクが駆動輪に適切に伝達されるように、CVT21の変速比を目標変速比に制御する。
【0037】
また、制動力制御部72は、目標制動トルクを実現するべく、ブレーキ制御部73に目標ブレーキ制動トルク、MG制御部33に目標回生制動トルク、及びCVT制御部22に目標変速比をそれぞれ与える。
【0038】
ブレーキ制御部73は、4輪の各車輪速や4輪の各ブレーキの液圧などの情報に基づき、ブレーキ装置71が目標ブレーキ制動トルクを発生するように、ブレーキ液圧や電動モータの駆動を制御する。なお、目標ブレーキ制動トルクは、目標制動トルクに対して目標回生制動トルクだけでは不足する場合に、その不足分を補うように算出される。この場合、MG制御部33は、MG32が発電機(ジェネレータ)として動作するように制御し、MG32によって発電された電気は、電池51に充電される。
【0039】
また、左右挙動調整部82は、与えられた左右方向の目標加速度を実現すべく、EPS制御部83に対して、目標アシストトルクを出力する。EPS制御部83は、電動モータの駆動電流などの情報に基づき、EPS81が発生するアシストトルクが目標アシストトルクとなるようにEPS81を制御する。
【0040】
なお、上述した各ECUにおける機能配置は単なる一例であって、各ECUへの機能の割り振りは変更可能なものである。また、例えば、エンジン11とCVT21を共通のECUによって制御するなど、複数のECUを、適宜、統合することも可能である。
【0041】
上述したように、エンジン11とMG32とを走行駆動源として備えるハイブリッド車両においては、例えば、ハイブリッドECU60が、運転者の加速要求(アクセルペダル踏込量)に従って、エンジン11及びMG32の目標トルクを算出し、エンジン11及びMG32を制御する各ECU10,30へ出力する。すると、各ECU10,30が、算出された目標トルクに従って、エンジン11及びモMG32を制御する。このように、ハイブリッド車両においては、車両を走行駆動するためのトルクが複数のECUによって制御されるので、複数のECUの干渉的動作などによって、車両の異常な挙動が引き起こされる可能性が、通常の車両に比べて高まる。
【0042】
そのため、なんらかの異常イベント(例えば、アクセル踏込量の急変やブレーキ踏込量の急変などの異常操作や、車両の急加速、急減速(急停止)、及び急旋回などの異常挙動、その他、回生要求の急変などのシステム動作状態の変化など)が発生すると、そのときの各車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録しておき、後に、異常発生の原因を解明できるようにすることが従来から行われている。なお、そのようなデータには、各種のセンサによって検出された検出信号や、各種の車載機器やECUから出力される制御データなどが含まれる。
【0043】
しかしながら、上記のデータをそのまま記録すると、そのデータを記録するために必要となるメモリ容量が大きくなってしまう。特にハイブリッド車両においては、データとして記録すべき情報量が多くなる傾向にあるので、そのような問題が顕著に現れる。
【0044】
そこで、本実施形態による車両用データ記録装置は、極力少ないメモリ容量で、必要なデータの記録を行うことを可能としたものである。以下に、本実施形態におけるデータの記録のための構成及び記録方法などについて詳細に説明する。
【0045】
まず、本実施形態では、特定のECU(具体的には、ハイブリッドECU60)が、原則として、記録すべき信号を出力するセンサからの信号を入力し、そのセンサ信号を内蔵のA/D変換器によりA/D変換するとともに、さらに、他のECUから出力された制御信号などの解析に必要なデータを収集し、それらをまとめて記録する例について説明する。すなわち、本実施形態では、ハイブリッドECU60が主として車両用データ記録装置を構成する。
【0046】
ただし、ハイブリッドECU60以外のECUが、解析に必要なデータとなるセンサからの信号を入力することを排除するものではない。この場合、ハイブリッドECU60は、他のECUからそのセンサ信号を受信すれば良い。また、センサ自体を通信線に接続して、センサから直接的にハイブリッドECU60へ信号を出力するように構成することも可能である。
【0047】
ハイブリッドECU60が、解析に必要なデータを記録するメモリは、不揮発性のものであり、車両のイグニッションスイッチがオフされ、ハイブリッドECU60への電源供給が停止されたとしても、ハイブリッドECU60は、記録したデータを保持しておくことが可能である。なお、ハイブリッドECU60は、一旦、解析に必要なデータを揮発性メモリに一時的に記録し、例えばイグニッションオフ時などの適宜なタイミングで、揮発性メモリに記録されたデータを不揮発性メモリに書き込むようにしても良い。
【0048】
ハイブリッドECU60のメモリは、第1所定時間分のデータを記録することができるものであり、ハイブリッドECU60は、常時、自身のメモリに対して、無限ループにてデータの書き込みを行う。この書き込みは、書き込むべきデータの種類毎に決定される所定時間間隔毎に行われる。
【0049】
同時に、ハイブリッドECU60は、入力されたセンサ信号や目標値などのイベント発生判定用データに基づいて異常イベントの発生の有無を判定する。そして、異常イベントが発生したと判定されると、ハイブリッドECU60は、その判定時点から第2所定時間が経過した時点でデータの記録を停止する。この結果、ハイブリッドECU60のメモリには、異常イベント発生前の、第1所定時間−第2所定時間分のデータと、異常イベント発生後の第2所定時間分のデータとが記録されることになる。
【0050】
ハイブリッドECU60のメモリに記録されるデータとしては、運転者による操作を検出するセンサの信号が含まれる。運転者による操作は、各車載制御システムの動作状態に影響を与えるためである。このようなセンサとして、例えば、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、変速機のシフト位置を検出するシフト位置センサ、及びステアリングホイールの操舵角度を検出するステアリングセンサなどが該当する。また、メモリに記録されるデータには、各車載制御システムの制御により変化する車両の挙動を検出するセンサの信号も含まれる。このようなセンサとしては、例えば、車両の走行速度を検出する速度センサ、車両の前後方向及び左右方向の加速度を検出する加速度センサ、車両の回転方向の変化速度を検出するヨーレイトセンサなどが該当する。
【0051】
その他にも、メモリに記録されるデータとして、エンジン11、MG32、及び電池51の温度、MG32の電流値や回転数、電池51の充電レベル(SOC)や劣化状態(SOH)、ブレーキ装置の液圧などが含まれる。さらに、メモリに記録されるデータに、ハイブリッド車両の各種制御システムの目標値や制御信号を含めても良い。例えば、電動パワーステアリング制御システムの目標値と制御信号、ブレーキ制御システムの目標値と制御信号、CVT制御システムの目標値と制御信号及びエンジン制御システムによる目標値と制御信号などである。これらの制御システムによる目標値及び制御信号により、EPS81のアシスト力、ブレーキ装置71における制動力、CVT21の変速比、エンジン11のトルクなどが変化するためである。
【0052】
以下、本実施形態の車両用データ記録装置において実行される、異常イベントが発生したときにデータの記録を行うための記録処理について、図3〜図5のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図3〜5のフローチャートは、異常イベントとして、アクセル踏込量の急変が生じた場合における記録処理を例として示している。また、図3〜図5のフローチャートに示す処理は、車両のイグニッションがオンされることにより開始され、その後は、一定時間毎に繰り返し実行される。
【0053】
図3のフローチャートにおいては、まず、ステップS100で、アクセル踏込量の単位時間当りの変化量を検出する。続くステップS110では、ステップS100にて検出したアクセル踏込量の変化量が所定値以上であるか否かを判定する。このステップS110において「Yes」と判定されるとステップS120の処理に進み、「No」と判定されるとステップS130の処理に進む。
【0054】
ステップS120では、アクセル操作量が急変する異常イベントが発生したものとみなし、アクセル急変イベント履歴をセットする。一方、ステップS130では、過去に、ステップS120の処理が実行され、アクセル急変イベント履歴がセットされているか否かを判定する。ステップS130において「Yes」と判定された場合、ステップS140の処理に進み、新たにアクセル急変イベントが発生したときに、そのタイミングでデータの記録処理を実施することができるように、アクセル急変イベント履歴をキャンセルする。
【0055】
次に、図4のフローチャートに示す処理について説明する。図4のフローチャートにおいては、まず、ステップS200で、アクセル急変イベント履歴がセットされているか否かを判定する。このステップS200で「Yes」と判定された場合ステップS210の処理を実行し、「No」と判定された場合にはステップS250の処理を実行する。なお、ステップS250では、後述するステップS220における時定数の判定結果をクリアし、新たなイベント履歴がセットされたときに、時定数の判定が行われるようにする。
【0056】
ステップS210では、揮発性メモリに一時的に記録されているデータを読み出し、時間的な変化量を検出する。この時間的な変化量の検出では、例えば、所定の変化に要した時間(所定の比率まで増減するのに要した時間或いは所定値だけ変化するのに要した時間など)や、単位時間あたりの変化割合などが検出される。続くステップS220では、ステップS210にて検出した時間的な変化量に基づいて、時定数の大きさを判定する。そして、ステップS230では、ステップS220にて判定された時定数の大きさに応じて、データを記録する際の最適なサンプリング間隔を設定する。
【0057】
ここで、時定数とは、データの時間的な変化特性であり、そのデータが意味する物理量に応じて種々変化する。例えば、ハイブリッド車両において、エンジン11や電池51の温度などの熱量データ、電池51の劣化度合(SOH)や充電レベル(SOC)などの化学量データ、ブレーキ液圧などの液圧量データ、車両の速度や加速度などの車両の挙動に関する挙動データ、モータの駆動電流などの電気量データが、解析に必要なデータとしてメモリに記憶されるものとする。この場合、一般的に、熱量データが変化する時間が最も長く(時定数が最も大きい)、以下、化学量データ、液圧量データ、挙動データ、電気量データの順に短くなる(時定数が順に小さくなる)。このように、それぞれのデータが意味する物理量に応じて、各データの時定数が異なるので、解析時に必要となるデータの精度も異なる。
【0058】
このように解析時に必要なデータ精度が異なるので、それぞれのデータとして最適なデータのサンプリング間隔も異なることになる。その点、本実施形態では、上述したように、各データの時定数の大きさを判定し、その時定数の大きさから最適なサンプリング間隔を設定しているので、解析時に必要となる精度にて、それぞれのデータを記録することが可能になる。この結果、それぞれのデータの記録に際して、余分な情報を記録したり、逆に必要な情報が漏れたりすることを防止でき、また、データの記録に要するメモリ容量を低減することができる。
【0059】
最適なデータのサンプリング間隔の設定について説明すると、時定数が小さい(すなわち、変化の時間が相対的に短い)データに対するサンプリング間隔を、時定数が大きい(すなわち、変化の時間が相対的に長い)データに対するサンプリング間隔よりも短く決定することが好ましい。これにより、変化時の時定数が小さいデータは、相対的に短い時間間隔で記録することができるので、そのデータの変化の様子を精度良く把握することができる。逆に、時定数が大きいデータは、相対的に長い時間間隔で記録されるが、そもそも緩やかに変化するものであるため、必要な精度は確保できる。
【0060】
上述した例では、記録対象データの実際の変化量に基づいて時定数を判定し、最適なサンプリング間隔を設定した。このようにすれば、各データについて、異常イベントが発生したときの各データの実際の変化特性に適したサンプリング間隔を設定することができ、その結果、各データを適切な時間間隔で記録することができる。しかしながら、各データの変化特性は、大抵の場合、各データごとにある範囲に収まるので、最適なサンプリング間隔は、データ毎に予め定めておいても良い。
【0061】
続くステップS240では、上記のように設定されたサンプリング間隔に応じた間隔で
各データをメモリに記録する処理を実行する。
【0062】
なお、記録すべきデータが、HVECU60のA/D変換器によってアナログ値からデジタル値に変換されるものである場合、そのA/D変換器によるA/D変換の変換周期が、記録すべきデータに対して決定されたサンプリング間隔よりも短い場合、当該記録すべきデータの間引きを行なう。A/D変換器の変換周期が、記録すべきデータに対して決定されたサンプリング間隔よりも短いと、必要以上の頻度でA/D変換が行なわれ、変換されたデジタル値をすべて記録すると、余分なデータまで記録することになるためである。
【0063】
記録すべきデータの間引きを行なうには、2つの手法が考えられる。第1の手法では、HVECU60のA/D変換器により、時定数が異なる2種類以上のデータについて、同じ変換周期でA/D変換を行なわせつつ、A/D変換周期よりもサンプリング間隔が長いデータに関して、A/D変換後のデジタル値を間引くようにする。この場合、A/D変換されたデジタル値の内、間引かれずに残ったデジタル値のみがメモリに記録されることになる。
【0064】
また、第2の手法では、HVECU60において、記録すべき各データに対して設定されたサンプリング間隔で、各データがA/D変換器に入力されるように、A/D変換すべきデータを切り換えつつA/D変換器に入力するマルチプレクサなどのスイッチング回路を制御する。このようにすれば、記録すべき各データに対して設定したサンプリング間隔に応じた間隔で、A/D変換されたデジタル値が得られ、適切な時間間隔でメモリに記録することができる。
【0065】
また、ステップS240の記録処理では、時定数に応じて各データを分類した上で、データパッケージを作成し、メモリへ記録する。このデータパッケージの作成、記録処理に関して、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、図5のフローチャートでは、時定数の大きさを3種類に区分した例を示しているが、区分数は3種類に限られるものではない。
【0066】
図5のフローチャートにおいて、まず、ステップS300で、記録しようとしているデータに関して、ステップS220にて得られた時定数の大きさを判定する。具体的には、時定数と所定値1,2,3とを比較する。所定値1,2,3の関係は、所定値1<所定値2<所定値3である。従って、このステップS300の判定処理では、時定数が、所定値1より大きく所定値2以下であるか、所定値2より大きく所定値3以下であるか、それとも所定値3より大きいかが判定される。
【0067】
時定数が所定値1より大きく所定値2以下であると判定された場合、ステップS310に進んで、類似する時定数のデータをまとめたデータパッケージ1を作成しつつ、その記録を行う。
【0068】
同様に、時定数が所定値2より大きく所定値3以下であると判定された場合、ステップS320に進んで、類似する時定数のデータをまとめたデータパッケージ2を作成しつつ、その記録を行い、時定数が所定値3より大きいと判定された場合、ステップS330に進んで、類似する時定数のデータをまとめたデータパッケージ3を作成しつつ、その記録を行う。
【0069】
このように、時定数が類似するデータをまとめたデータパッケージを作成して記録することにより、例えば、データ記録を行なう対象としてのシステムの構成の一部に変更があった場合であっても、車両用データ記録装置としての構成の変更を最小限に抑えることができる。
【0070】
また、データをメモリに記憶する場合、所定ビット数(8,16,32ビットなど)を単位として記録が行われるが、各データパッケージを作成する際、2個以上のデータを組み合わせた長さが所定ビット数以下であれば、2個以上のデータを組合わせるようにすることが好ましい。これにより、データパッケージを記録するためのメモリ容量を圧縮することができる。
【0071】
ステップS340では、記録すべき全データについての記録処理が終了したか否かを判定する。まだ、全データについて処理が終了していない場合には、ステップS300からの処理を繰り返す。
【0072】
このように記録されたデータを、車両診断装置により読み出して解析することにより、異常が発生した原因の解明に役立てることができる。すなわち、車両診断装置は、車両用データ記録装置から読み出したデータから、異常イベント発生時の車載制御システムの動作状態を解析し、異常の原因を診断する。
【0073】
図6のフローチャートは、HVECU60のメモリに記録されたデータを、外部の車両診断装置に出力するためにHVECU60により実行される処理を示すものである。なお、HVECU60は、車両用データ記録装置に外部の車両診断装置が接続されたとき、記録されたデータを出力する。
【0074】
図6のフローチャートでは、まず、ステップS400において、メモリに記録されたデータが、データの種類ごとに読み出される。続くステップS410では、読み出されたデータに基づいて、直線補間データを作成する。すなわち、読み出されたデータは、データ種類ごとに所定の時間間隔で記録されたものであるため、データ間を直線で補間することにより、上述した直線補間データを作成することができる。なお、補間データとしては、直線補間にかぎらず、各データの変化特性を考慮し、曲線による補完データを求めるようにしても良い。

そして、ステップS420において、直線補間されたデータから、同じ時刻におけるセデータを算出し、ステップS430にて、算出した同一時刻のデータを出力する。この同一時刻のデータは、一定時間毎に算出され、車両診断装置に出力される。
【0075】
これにより、車両診断装置が、車両用データ記録装置から読み出したデータから、異常イベント発生時の車載制御システムの動作状態を容易に解析することが可能になる。また、このようにデータを補間することにより、各データを記録した時間間隔が異なる場合であっても、最も短い時間間隔で記録したデータに合わせたデータセットを出力することが可能になる。
【0076】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本願発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0077】
例えば、上述した実施形態では、各データに対して決定したサンプリング間隔で取得したデータをメモリに記録するものであった。しかしながら、記録すべきデータの各々について、所定の大きさだけ変化するのに要した時間を検出し、その検出した時間をメモリに記録するようにしても良い。このようにしても、変化時の時定数に応じた時間間隔で各データを記録することができる。つまり、この場合、メモリに記録されるのは時間(時刻)であるが、その時間は、各データが所定の大きさだけ変化するのに要した時間を表しているので、記録した時間から各データの変化の様子を再現することができる。
【0078】
このような、各データが所定の大きさだけ変化するのに要した時間を記録する処理を、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
図7のフローチャートのステップS500では、図4のフローチャートのステップS200と同様に、イベント履歴がセットされているか否かを判定する。このステップS200で「Yes」と判定された場合、イベントが発生しており、データの記録が必要であるため、ステップS510の処理に進む。ステップS510では、揮発性メモリに一時的に記録されているデータを読み出し、記録対象データの時間的な変化量を検出する。
【0080】
続くステップS520では、ステップS510にて検出した記録対象データの時間的な変化量が、所定値に達したか否かを判定する。この所定値は、各データに対して共通であっても良いし、個別に設定されたものであっても良い。この判定処理において、記録対象データの時間的な変化量が所定値に達したと判定されると、ステップS530の処理に進む。ステップS530では、変化量が所定値に達した時刻をメモリに記録する。なお、時刻は、ECUのフリーランニングタイマにより計時される時刻であっても良いし、異常発生時のデータ記録の開始からの経過時刻であっても良い。そして、ステップS540において、データを記録すべき時間である所定時間分のデータの記録が完了したか否かを判定し、完了していなければ、ステップS510に戻り、完了していれば図7のフローチャートの処理を終了する。
【0081】
また、上述した実施形態では、原則として、特定のECUが、記録すべき信号を出力するセンサからの信号を入力し、そのセンサ信号を内蔵のA/D変換器によりA/D変換するとともに、さらに、他のECUから出力された制御信号などの解析に必要なデータを収集し、それらをまとめて記録するものであった。
【0082】
しかしながら、例えば、記録すべきデータの内、車載制御システムの動作状態に関連する物理量を検出するセンサの信号は、各センサ信号の時定数の近似性に基づいて複数のグループに分け、それぞれのグルーフ毎に異なるECUに入力するようにしても良い。この場合、各ECUに入力されたセンサ信号は、各ECUに設けられたA/D変換器によってデジタル値に変換され、各ECUにおけるメモリに記録される。
【0083】
そして、時定数が大きいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期は、時定数が小さいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期よりも長くする。これにより、A/D変換器によるA/D変換周期を、時定数の大きさから決定される、データを記録するための時間間隔に予め近づけておくことができる。従って、A/D変換器において、無駄にA/D変換処理がなされることを極力避けることができる。
【0084】
ただし、上述したように、各ECUのA/D変換器によってそれぞれA/D変換を行う場合、センサ信号がA/D変換される時間的なタイミングが、各グループごとにずれる可能性がある。そのため、A/D変換が行われた時点の時刻情報も、メモリに記録することが好ましい。このようにすれば、各ECUに設けられた別々のA/D変換器を用いてデータをデジタル値に変換しながら、異なるグループのセンサ信号同士の時間的な関係を把握することが可能になる。
【0085】
また、各ECUにおいて、個別に、センサ信号、目標値、及び制御信号などの記録すべきデータを各ECUのメモリに記録する場合であって、1つのECUが、ある特定の車載機器における動作異常を所定イベントとして検出したとき、その動作異常検出時期を基準として、その1つのECUは、動作異常が発生した車載機器の動作状態に関連するデータの記録を行なう。さらに、その1つのECUは、動作異常が発生した特定の車載機器と機械的に連結されている連結車載機器が有る場合、その連結車載機器を制御するECUに対して、動作異常発生信号を出力する。そして、動作異常発生信号の出力を受けたECUは、その受信時期を基準として、連結車載機器の動作状態に関連するデータの記録を開始するようにしても良い。
【0086】
例えば、図8に示すように、ハイブリッド車両においては、エンジン11とMG32とは機械的に連結されている。このため、例えばエンジン11において何らかの動作異常が発生すると、その影響が即座にMG32に及ぶ。そのため、動作異常を発生した特定車載機器(エンジン11)についてのデータに加えて、連結車載機器(MG32)の動作に関連するデータも各ECUのメモリ記録しておくことで、異常発生の原因究明や異常発生による影響の解明などに役立てることができる。
【0087】
そして、図9に示すように、動作異常発生信号の出力を受けたECUは、その受信時期を基準として、連結車載機器(MG32)の動作状態に関連するデータの記録を開始する。これにより、異なるECUにおいて記録しながら、特定車載機器(エンジン11)の動作に関連するデータの記録と、連結車載機器(MG32)の動作に関連するデータの記録とを同期させることが可能となる。従って、補間データではなく、実際に検出されたデータ同士を用いて原因究明等を行なうことが可能となるので、より正しく原因の究明等を行なうことができる。
【0088】
なお、特定車載機器において動作異常が発生する以前は、その特定車載機器を制御するECUと、連結車載機器を制御するECUとは、それぞれ独立して、データの一時記憶を行なっている。すなわち、記録されるデータとしては、異常発生以前は非同期であるが、異常発生後は同期したものとなる。
【0089】
また、MG32の動作により、電池51の充電状態が変化するので、結果的に、エンジン11の動作異常が生じた場合、間接的に電池51の動作状態も変化することになる。従って、エンジン11に動作異常が生じた場合、電池51を制御する電池ECU50にも動作異常発生信号を出力して、電池51の動作に関連するデータも記録するようにしても良い。ただし、この場合には、エンジン11の異常動作が即座に電池51の動作に影響を及ぼすわけではないので、図10に示すように、データを強制的に同期させて記録する必要はない。
【0090】
また、上述した実施形態では、アクセル踏込量の変化量が所定値以上であることを、所定のイベント発生として検出した。ここで、アクセルペダルを初め、制御対象である車両を構成している各部の動作状態は、多かれ少なかれ経年変化によって変化する。そのため、所定のイベントの発生を検出するために、一定の閾値などを用いていると、所定のイベントの発生の検出精度が、経年変化によって低下する虞が生じる。
【0091】
そのため、所定のイベントの発生を検出する閾値などの条件を、時間の経過とともに変化させるようにしても良い。これにより、経年変化が生じた場合であっても、精度よく所定のイベントに該当する事象の発生を検出できるようになる。
【0092】
所定のイベントの発生の検出条件を、時間の経過とともに変化させる具体例として、図10のフローチャートに示すように、イベントの発生を検出する頻度が所定範囲に収まるように、イベントの発生を検出する条件を変化させるようにしても良い。すなわち、図10のフローチャートのステップS650において、所定イベントの発生頻度を判定し、その発生頻度が所定範囲内であるか否かを判定する。そして、発生頻度が所定範囲外である場合には、ステップS660において、所定イベントの発生を判定するための閾値を、発生頻度が所定範囲内となるように変更する。このようにすれば、経年変化によって車両各部の動作状態が変化しても、所定イベントが発生したことを精度良く検出することができる。
【0093】
なお、図10のフローチャートのステップS600〜S640までの処理は、図3のフローチャートのステップS100〜S140までの処理とほぼ同様であるため、説明を省略する。
【0094】
また、所定イベントの発生頻度は、車両が走行する時間や距離について、所定時間又は所定距離を定め、その所定時間又は所定距離あたりの発生回数として定義される。さらに、発生頻度と比較される所定範囲については、車両が使用され始めてから所定期間における所定イベントの発生頻度に基づいて決定されても良い。
【符号の説明】
【0095】
10 エンジンECU
11 エンジン
20 無段変速機ECU
21 無段変速機
30 モータジェネレータECU
32 モータジェネレータ
40 エネルギー管理ECU
50 電池ECU
51 電池
60 ハイブリッドECU
70 ブレーキECU
71 ブレーキ装置
80 電動パワーステアリングECU
81 電動パワーステアリング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のイベント発生時に、車載制御システムの動作状態に関連するデータを記録手段に記録する車両用データ記録装置であって、
前記車載制御システムの動作状態に関連するデータは、デジタル値によって表現され、かつ変化時の時定数が異なる2種類以上のデータを含み、
前記時定数に応じて前記データを記録する時間間隔を決定し、その時間間隔の経過毎に、サンプリングした前記データを前記記録手段に記録する記録制御手段を備えることを特徴とする車両用データ記録装置。
【請求項2】
前記記録制御手段は、時定数が小さいデータに対する時間間隔を、時定数が大きいデータに対する時間間隔よりも短く決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用データ記録装置。
【請求項3】
前記変化時の時定数が異なる2種類以上のデータは、A/D変換器によりアナログ値からデジタル値に変換されるものであり、
前記A/D変換器によるA/D変換の変換周期が、時定数が大きいデータに対して決定された時間間隔よりも短い場合、当該時定数の大きいデータの間引きが行なわれることを特徴とする請求項2に記載の車両用データ記録装置。
【請求項4】
前記A/D変換器は、前記時定数が異なる2種類以上のデータについて、同じ変換周期でA/D変換を行なうものであり、
前記記録制御手段は、時定数が大きいデータを表す、A/D変換後のデジタル値を間引き、間引かれずに残ったデジタル値のみを前記記録手段に記録することで、前記時定数の大きいデータの間引きが行われることを特徴とする請求項3に記載の車両用データ記録装置。
【請求項5】
前記A/D変換器が、前記時定数が大きいデータに対して決定された時間間隔に従って、当該時定数の大きいデータに対応するアナログ値をサンプリングしてデジタル値に変換することで、前記時定数の大きいデータの間引きが行なわれることを特徴とする請求項3に記載の車両用データ記録装置。
【請求項6】
前記所定のイベントとして、特定の車載機器の動作に異常が生じた場合、前記記録制御手段は、前記特定の車載機器と機械的に連結されている第1車載機器の動作に関連するデータに関して、前記異常発生時期を基準としてデータの記録を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用データ記録装置。
【請求項7】
前記記録制御手段は、前記変化時の時定数が異なる2種類以上のデータの各々について、所定の大きさだけ変化するのに要した時間を検出し、その検出した時間を前記データとして前記記録手段に記録することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用データ記録装置。
【請求項8】
前記所定のイベントが発生したことを検出するイベント発生検出手段を有し、当該イベント発生検出手段は、前記所定のイベントの発生を検出する条件を、時間の経過とともに変化させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の車両用データ記録装置。
【請求項9】
前記イベント発生検出手段は、時間の経過に係らず、前記イベントの発生を検出する頻度が所定範囲に収まるように、前記イベントの発生を検出する条件を変化させることを特徴とする請求項8に記載の車両用データ記録装置。
【請求項10】
前記変化時の時定数が異なる2種類以上のデータを前記時定数の近似性に基づいて複数のグループに分け、その各グループごとに設けられ、前記データをデジタル値に変換する際の変換周期が異なる複数のA/D変換器を備え、
前記記録制御手段は、前記複数のA/D変換器によってそれぞれデジタル値に変換されたデータを、前記記録手段に記録するものであって、
前記時定数が大きいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期は、前記時定数が小さいグループに対して設けられたA/D変換器の変換周期よりも長いことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用データ記録装置。
【請求項11】
前記記録手段に記録された、前記時定数が小さいグループのデータと同じ周期のデータを得るべく、前記時定数が大きいグループのデータを補間した補間データを算出する補間データ算出手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の車両用データ記録装置。
【請求項12】
前記車載制御システムは、複数の電子制御装置によって構成され、
前記データは、前記車載制御システムの動作状態に関連する物理量を検出するセンサによって検出されて、デジタル値に変換されるデータを含み、
前記センサによって検出された検出信号は、前記グループ毎にまとめられて、それぞれ異なる電子制御装置に取り込まれ、その取り込まれる電子制御装置に対して設けられているA/D変換器によってデジタル値に変換されることを特徴とする請求項10又は11に記載の車両用データ記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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