説明

車両用ドアミラー電動ユニット及びその製造方法

【課題】シール材を配置するスペースの形状の自由度を高くできかつ高いシール性を確保できる車両用ドアミラー電動ユニット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】車両用ドアミラー電動ユニットは、ドアミラー電動機構とそのドアミラー電動機構を収容するケーシングを備えている。ケーシングは、下ケースと上ケースが互いに開口を付き合わせて結合された分割構造となっている。下ケースの開口を構成する筒状開口部13と上ケースの開口を構成する筒状開口部23の間にはスペース61が形成されている。スペース61にはシール材としての軟質樹脂71が配置されている。軟質樹脂71は表面131、231に固着している。軟質樹脂71は、下ケースと上ケースを結合した後、筒状開口部23に形成された注入孔25から流動状態で注入される。その後、軟質樹脂71を固化させる工程を経て、スペース61に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアミラー電動機構を収容した車両用ドアミラー電動ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動ドアミラーには、そのドアミラーを使用位置又は格納位置まで動かしたり、ミラー角度を調整したりするためのドアミラー電動機構が連結されている。そのドアミラー電動機構は、一般的にはケーシングに収容されている。そのケーシングは第1ケースと第2ケースが互いの開口を付き合わせて結合された分割構造となっている。そして、従来、ケーシングに収容されたドアミラー電動機構を防水するために、ケーシング(第1ケースと第2ケースの結合部)をシールするシール構造が各種提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、上ケース(第1ケース)と下ケース(第2ケース)の接合面にシール突起とシール溝とを形成し、それらシール突起とシール溝の間にシール剤を充填する方式のシール構造が開示されている。具体的には、下ケースには、上ケースと接合する接合面にシール溝が連続的に形成され、上ケースには、下ケースと接合する接合面にシール突起が形成されている。両ケースの接合の際には、先ず下ケースに形成されたシール溝にホットメルトタイプのシール剤を流し込み、その後、シール突起をシール剤の中に押し込むようにして上ケースを下ケースに重ねる。このとき、シール剤がシール溝とシール突起の間に断面大略U字状に充填されて、両ケースが密封される。これによれば、接合面に段を付けて突き合わせる方式に比べてシール性が高く、Oリング等を接合面に挟み込む方式に比べて複雑な接合面にも容易に対応できるとしている(段落0003参照)。
【0004】
また特許文献2では、ケース(第1ケース)とカバー(第2ケース)の当接箇所に、歪み変形可能なシール部材を、ケースおよびカバーの一方に二色成形により一体的に形成することが記載されている。これによれば、別途シール部材を用意する必要がなく、部品点数を少なくできるとしている(段落0011参照)。
【0005】
また、特許文献3のシール構造では、ケーシング(第1ケース)とカバー(第2ケース)との結合部に、断面L字形に形成されたシール材が設けられている。また、カバーには、シール材の環状基部に食い込む断面くさび状の圧縮片が形成されている。これによれば、シール材に圧縮片が食い込むことで、その食い込み代を、シール材を面で圧縮するシール構造での圧縮代よりも大きくとれるので、高圧水の浸入も確実に防止できるとしている(段落0006参照)。
【0006】
また、特許文献4のシール構造では、ブラケット(第1ケース)外面に周方向に連続する突起が形成され、カバー(第2ケース)の内面にはその突起が嵌合する溝が形成されている。それら突起と溝との嵌合部から上方にのびる第2連接部にすきま寸法の大きなスペースが形成されている。これによれば、第2連接部のスペースによって水位の上昇が遅くなるので、水がブラケットの中に進入するおそれは少なくなるとしている(段落0007、0008参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3382775号公報
【特許文献2】特開2005−178656号公報
【特許文献3】特許第3704182号公報
【特許文献4】特許第2941171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のシール構造では、シール剤の形状が断面大略U字状になるように、第1ケースと第2ケースの結合部にシール突起を形成する必要がある。すなわち、シール材を配置するスペースがシール突起を有した形状のスペースに限定されるという問題点がある。また、特許文献2、3のシール構造では、シール材を圧縮変形させることでケーシングのシール性を確保しているが、シール材はケーシングに固着しているわけではないので(特許文献2のシール材は、二色成形によってケースおよびカバーの一方には固着しているが、他方には固着していない)、高いシール性を確保するという点では不十分である。また、特許文献4では、シール材を用いていないのでシール性が低いという問題点がある。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、シール材を配置するスペースの形状の自由度を高くでき、かつ高いシール性を確保できる車両用ドアミラー電動ユニット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の車両用ドアミラー電動ユニットは、分割構造の第1ケースと第2ケースが互いに開口を付き合わせて結合され、内部に収容空間を有するケーシングと、
そのケーシングの前記収容空間に収容され、ドアミラーに連結されるドアミラー電動機構と、を備え、
前記第1ケースと前記第2ケースのそれぞれの前記開口に沿った環状の結合部には、該結合部に沿ってシール充填用の溝状のスペースが形成され、そのスペースにはシール用の軟質樹脂が流動状態で注入により充填され、固化した前記軟質樹脂が前記第1ケース及び前記第2ケースに対し前記スペースにおいて固着したことを特徴とする。
【0011】
これによれば、ケーシングには、第1ケースと第2ケースの環状の結合部に沿って溝状のスペースが形成されている。そのスペースには、シール材としての固化した軟質樹脂が配置されている。その軟質樹脂は、柔軟性を有するとともに、第1スペース及び第2スペースに固着しているので、高いシール性を確保できる。また、その軟質樹脂は、予め形成されたスペースに、流動状態で注入により充填されるので、特許文献1のようにシール突起を設ける必要がない。つまり、シール材を配置するスペースの自由度を高くできる。
【0012】
また、本発明において、前記結合部の一部には、前記ドアミラー電動機構に少なくとも通電する配線を通すための配線挿通口が形成されたことを特徴とする。
【0013】
これによれば、配線挿通口が軟質樹脂でシールされた結合部の一部に形成されているので、結合部以外の部分に配線挿通口が形成されている場合に比べて、シール性の低下を抑制できる。
【0014】
本発明は、分割構造の第1ケースと第2ケースが互いに開口を付き合わせて結合され、内部に収容空間を有するケーシングと、
そのケーシングの前記収容空間に収容され、ドアミラーに連結されるドアミラー電動機構と、を備えた車両用ドアミラー電動ユニットの製造方法であって、
前記第1ケースと前記第2ケースのそれぞれの前記開口に沿った環状の結合部には、該結合部に沿ってシール充填用の溝状のスペースが形成され、
前記第1ケースと前記第2ケースの一方に前記ドアミラー電動機構を収容して、それら第1ケース、第2ケースを互いの開口を付き合わせて結合した後に、前記スペースにシール用の軟質樹脂を流動状態で注入により充填する充填工程と、
その充填工程で充填された前記軟質樹脂を固化させて前記第1ケース及び前記第2ケースに固着する固着工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
これによれば、ドアミラー電動機構を収容した状態で第1ケースと第2ケースを結合した後、充填工程において、結合部に沿って形成された溝状のスペースに、流動状態の軟質樹脂が注入により充填されるので、シール材としての軟質樹脂の形状をスペースの形状に合わせることができる。別の言い方をすると、スペースと軟質樹脂との隙間をなくすことができる。固着工程において、充填された軟質樹脂が固化されるので、軟質樹脂がスペースから流れ出てしまうのを防止できる。さらに、固着工程において、第1ケース及び第2ケースに軟質樹脂が固着されるので、高いシール性を確保できる。また、特許文献1のようにシール突起を設ける必要がないので、シール材を配置するスペースの自由度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】車両用ドアミラー電動ユニット1の側面図である。
【図2】下ケース10の側面図である。
【図3】上ケース20の側面図である。
【図4】ドアミラー電動機構30が収容された下ケース10の平面図を示している。
【図5】上ケース20の平面図である。
【図6】図1のA−A線における電動ユニット1の縦断面図である。
【図7】図6のB部の拡大図である。
【図8】図6のB部の構造の変形例1を示した図である。
【図9】図6のB部の構造の変形例2を示した図である。
【図10】図6のB部の構造の変形例3を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車両用ドアミラー電動ユニット及びその製造方法の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の車両用ドアミラー電動ユニット1の側面図を示している。電動ユニット1は、樹脂製のケーシング100とそのケーシング100の内部に収容されたドアミラー電動機構30(図4参照)を備えている。その電動ユニット1は、ドアミラー200の内部に設けられている。ケーシング100の下部には金属製(亜鉛ダイカスト、アルミダイカスト等)のシャフトベース41が接続されており、そのシャフトベース41は、ドアミラー200及び電動ユニット1を支持する樹脂製のミラーベース(図示外)に固定されている。なお、ミラーベースは、前席ドア付近の車体(Aピラーの下辺り)に固定されており、その車体から車両側方に突出した形状とされている。
【0018】
シャフトベース41には金属製(シャフトベース41と同一の金属)のシャフト42(図2、図4参照)が一体に形成されている。そのシャフト42は、シャフトベース41の上面から上方(図1の紙面上方向)に伸びた、内部が中空の円筒状とされている。ケーシング100の下部(シャフトベース41が固定された部分)には開口(図示外)が形成されており、シャフト42はその開口を通ってケーシング100の内部に配置されている。なお、シャフト42を通す開口はシャフトベース41によって塞がれている。
【0019】
ケーシング100は下ケース10と上ケース20の分割構造とされている。ここで、図2は、図1の状態から上ケース20を取り除いた図、すなわちドアミラー電動機構30を収容した状態の下ケース10の側面図を示している。また、図3は、図1の上ケース20だけを取り出した図、すなわち上ケース20の側面図を示している。また、図4は、下ケース10の開口を正面にして下ケース10を見た図(平面図)、すなわちドアミラー電動機構30を収容した状態の下ケース10の平面図を示している。また、図5は、上ケース20の開口を正面にして上ケース20を見た図(平面図)を示している。以下、図1〜図5を参照して、下ケース10及び上ケース20を説明する。
【0020】
下ケース10はケーシング100の下側を構成している。下ケース10は、図4の平面視で、四辺形の一つの辺を円弧状に変形した、変形四辺形の形状となっている。詳細には、下ケース10は、図4の平面視で、横方向に長く、右側の部分が円弧状となっている。下ケース10の内部には、ドアミラー電動機構30を収容する収容空間12(図4参照)が形成されている。下ケース10の上部13(図2、図4参照)は、上下方向(図2の紙面上下方向、図4では紙面に直交する方向)に向いた筒状とされている。その上部13で囲まれた部分(上部13の内側)が収容空間12の開口121とされている。なお、以下では上部13を筒状開口部と言い、その筒状開口部13の詳細は後述する。下ケース10の下端は、下ケース10自身及びシャフトベース41によって閉塞されている。下ケース10の外表面には、後述する上ケース20の係止孔210が掛けられる被係止部11が形成されている(図2参照)。その被係止部11は、下ケース10の外表面から離れる方向に突出した形状となっており、詳細には、断面が直角三角形の三角柱を両底面が横向きになるように(図2の側面視で三角柱の斜面が表になるように)寝かした形状となっている。そのため、被係止部11の突出量は下にいくほど大きくなっている。被係止部11は、筒状開口部13直下の高さの位置にて、下ケース10の周方向に沿って一定間隔で複数形成されている。
【0021】
また、下ケース10の外表面には、互いに向き合った一対の突出片14が形成されている(図2、図4参照)。その一対の突出片14は、筒状開口部13直下の高さ(被係止部11と同じ高さ)の、下ケース10の円弧状部分の中央位置にて、図4の平面視で右方向に突出する形で形成されている。また、一対の突出片14は、下ケース10の外表面の上下方向に沿って形成されている。一対の突出片14は、後述する配線挿通口24(図5参照)に通される配線50を案内するものである。
【0022】
上ケース20はケーシング100の上側を構成しており、下ケース10の開口121を上側から被うカバーである。その上ケース20は、図5の平面視で、下ケース10の形状と同等の形状となっており、具体的には、横方向に長く、右側が円弧状とされた、変形四辺形の形状となっている。ただし、図1に示すように、上ケース20は、上部の一部が上方に突き出た形状となっている。上ケース20の上部(上端)は、上ケース20自身によって閉じられている。上ケース20の内部には収容空間22が形成されている。図2に示すように、下ケース10の開口121(図4参照)からは、モータ31(ドアミラー電動機構30)やシャフト42の一部が露出しているので、上ケース20の収容空間22には、その露出した部分が収容される。
【0023】
上ケース20の下部23(図3、図5参照)は、上下方向に向いた筒状とされており、その下部23で囲まれた部分(下部23の内側)が収容空間22の開口221(図5参照)とされている。以下では下部23を筒状開口部と言う。筒状開口部23は、下ケース10の筒状開口部13の略同じ形状となっている。厳密には、筒状開口部23は、下ケース10の筒状開口部13の外側に嵌るようになっており、外側になる分だけ、下ケース10の筒状開口部13よりも大きくなっている。また、図5に示すように、筒状開口部23には、右側の円弧状部分の中央位置(下ケース10の突出片14に対応する位置)にて、図5の平面視で右方向に略コの字状に盛り上がった盛上部26が形成されている。その盛上部26の内側の空間24は、配線50が通される配線挿通口とされている。その配線挿通口24は、図5の平面視で略方形状(正方形状又は長方形状)となっている。なお、盛上部26の横幅(右方向への盛り上がり量)は、下ケース10の突出片14の突出量と略同じになっている。また、盛上部26の縦幅は、一対の突出片14の間隔と略同じになっている。なお、筒状開口部23のさらに詳細な説明は後述する。
【0024】
上ケース20の下端には、下ケース10の被係止部11に係止される係止片21が形成されている。その係止片21は、図3に示すように、上ケース20の板面と同一方向に、かつ下端から下方に突出する形で形成されている。また、係止片21は、上ケース20の下端の周方向に沿って、下ケース10の被係止部11と同じ間隔で複数形成されている。各係止片21には、被係止部11に掛けられる係止孔210が形成されている。
【0025】
下ケース10と上ケース20は互いの開口121、221を付き合わすようにして結合されている。ここで、図6は、図1のA−A線で電動ユニット1を切ったときの縦断面図を示している。図6に示すように、下ケース10と上ケース20が結合した状態では、下ケース10の筒状開口部13の外側に、上ケース20の筒状開口部23が嵌められる。そして、上ケース20の係止片21(係止孔210)が下ケース10の被係止部11に掛けられることで、下ケース10と上ケース20が結合されている(図1参照)。なお、それら筒状開口部13、23が本発明の「結合部」に相当する。
【0026】
ドアミラー電動機構30は、ケーシング100の内部に形成された収容空間101(図6参照、下ケース10の収容空間12と上ケース20の収容空間22を合わせた空間)に配置されている。厳密には、ドアミラー電動機構30は、下ケース10の収容空間12にて下ケース10の内面に固定されている。ドアミラー電動機構30は、ドアミラー200に連結され、そのドアミラー200を使用位置と格納位置との間で開閉動作させる。詳細には、ドアミラー電動機構30は、図4に示すように、モータ31、機構部32及び回路基板(図示外)等から構成されている。モータ31は、その回転軸311(図6参照)を下向きにして配置されている。機構部32は、モータ31の回転軸311に連結されており、モータ31の回転を減速したり、モータ31の回転をシャフト42回りの回転に変換したりする歯車等から構成されている。詳細には、機構部32は、シャフト42に非回転状態に取り付けられたサンギアを有している。そして、機構部32は、モータ31の回転をそのサンギアに伝達することで、ドアミラー電動機構30が固定された下ケース10(電動ユニット1)及び電動ユニット1に連結されたドアミラー200を、シャフト42回りに回転させる。ドアミラー電動機構30の回路基板は、モータ31の回転方向を正方向又はその逆方向に切り替える回路等が実装された基板である。
【0027】
ケーシング100の内部には、ドアミラー電動機構30(モータ31)に電力を供給する(通電する)配線等、複数の配線50が引き込まれている。その配線50の一端は車両側の電源制御装置(図示外)に接続されており、他端はケーシング100内部のドアミラー電動機構30に少なくとも接続されている。なお、ドアミラー200内に、ドアミラー電動機構30以外の電気駆動部品(例えば、ミラー角度を調整するモータ等)がある場合には、その部品にも配線50が接続されている。シャフトベース41の裏面には筒状のシャフト42による開口(図示外)が形成されており、配線50は、その開口からシャフト42の内部421(図4参照)を通ってケーシング100の内部に引き込まれている。ケーシング100内部に引き込まれた配線50の一部は、ドアミラー電動機構30に接続され、残りの一部は、配線挿通口24からケーシング100の外部に引き出され、ドアミラー電動機構30以外の電気駆動部品に接続されている。
【0028】
ケーシング100の内部のドアミラー電動機構30を防水するために、下ケース10と上ケース20の結合部はシール材でシールされている。以下、そのシール構造の詳細を説明する。図7は、図6のB部(筒状開口部13、23の周辺部)の拡大図を示している。図7に示すように、下ケース10の筒状開口部13の先端には、上ケース20の筒状開口部23側に凸とされた凸状部132が形成されている。その凸状部132は、筒状開口部13の全周に亘って連続して形成されている。また、凸状部132の先端は、上ケース20の筒状開口部23の内表面231に接している。したがって、筒状開口部13の外表面131、凸状部132及び筒状開口部23の内表面231で囲まれた部分に溝状のスペース61が形成されている。なお、スペース61は筒状開口部23の先端233側で開口されている。また、スペース61は、図7の縦断面視で、上下方向に長い長方形状となっている。また、スペース61は、下ケース10と上ケース20の結合部(筒状開口部13、23)に沿って環状に形成されている。なお、上ケース20の筒状開口部23の一部には配線挿通口24(盛上部26)が形成されているので(図5参照)、スペース61は、その配線挿通口24の部分で一旦途切れている。
【0029】
上ケース20の筒状開口部23には、後述する軟質樹脂71をスペース61に注入するための注入孔25が形成されている。その注入孔25は、筒状開口部23の外表面232と内表面231の間を貫通する形で形成されている。なお、注入孔25は、一箇所のみに形成されていても、筒状開口部23の周方向に沿って一定間隔で複数箇所に形成されていたとしても良い。また、注入孔25の径は特に限定はないが、小さすぎると軟質樹脂71をスペース61に注入しにくくなり、大きすぎるとシール性が低下するので、それらを考慮して径を設定するのが好ましい。
【0030】
スペース61にはシール材としての軟質樹脂71が配置されている。その軟質樹脂71は、柔軟性を有した、ケーシング100を構成する樹脂と親和性が高い(接着性に優れた)樹脂であり、例えば、ポリプロピレン系樹脂や各種合成ゴムとされている。軟質樹脂71は、スペース61に隙間無く充填されている。よって、軟質樹脂71は、スペース61の形状に合わせて、配線挿通口24の部分で途切れた環状となっている。また、軟質樹脂71は、凸状部132の表面を含む筒状開口部13の外表面131及び筒状開口部23の内表面231に固着している。
【0031】
次に、電動ユニット1の製造方法を説明する。なお、電動ユニット1を製造する前提として、下ケース10、上ケース20、シャフトベース41と一体化したシャフト42(以下単にシャフトと言う)及びドアミラー電動機構30が予め用意されているものとする。ケース10、20は射出成形によって得ることができ、シャフト42はダイカストによって得ることができる。先ず、下ケース10の収容空間12にドアミラー電動機構30を収容する(収容工程)。この際、シャフト42を下ケース10に接続するととともに、配線50をシャフト42の内部421に通してドアミラー電動機構30に接続する。なお、ドアミラー電動機構30と配線50を接続するタイミングは、ドアミラー電動機構30を下ケース10に収容した後でも、収容する前でも良い。なお、ドアミラー電動機構30の収容前に配線50を予め接続した場合には、ドアミラー電動機構30と配線50を同時に下ケース10に収容することになる。収容工程の実行後は図2の状態となる。
【0032】
次いで、下ケース10の被係止部11(図2参照)に上ケース20の係止片21(図3参照)を係止させて、下ケース10と上ケース20を結合する(結合工程)。このとき、ケーシング100内に引き込まれた配線50のうち、ドアミラー電動機構30以外の電気駆動部品に接続される配線50が配線挿通口24から引き出されるようにする。
【0033】
次いで、スペース61(図7参照)に、シール用の軟質樹脂を流動状態にして注入孔25から注入する。具体的には、高温下(軟質樹脂が流動状態になる温度、例えば200℃)で、注入前の軟質樹脂を流動状態にする。流動状態にした軟質樹脂を、一定以上の圧力下でスペース61に注入して(圧入して)、スペース61に隙間なく充填する(充填工程)。なお、軟質樹脂の流動状態は、スペース61の開口から軟質樹脂が流れ出ない程度とするのが好ましい。スペース61の開口から軟質樹脂が流れ出る程度の流動状態の場合には、スペース61の開口をキャップ(図示外)で塞ぎながら軟質樹脂をスペース61に注入するのが好ましい。
【0034】
次いで、軟質樹脂71を固化させて、軟質樹脂71を筒状開口部13の外表面131及び筒状開口部23の内表面231に固着する(固着工程)。具体的には、所定の固化温度(軟質樹脂71が表面131、231に固着しながら固化する温度)に、軟質樹脂71を冷却する。なお、充填工程で、スペース61の開口をキャップで塞いだ場合には、軟質樹脂71が固化した後にそのキャップを取り除く。以上のようにして、電動ユニット1が製造される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態では、下ケース10と上ケース20の結合後に軟質樹脂をスペース61に充填しているので、そのスペース61の形状に合ったシール材(軟質樹脂71)を配置できる。特に、本実施形態のように、シール材を配置するスペース一部が配線挿通口で途切れている場合に好適である。また、シール材(軟質樹脂71)を表面131、231に固着できるので、高いシール性を確保できる。
【0036】
(変形例1)
図8は、図6のB部の構造の変形例1を示している。なお、図8において上記実施形態と変更が無い部分には同一符号を付している。図8に示すように、筒状開口部13の下側(筒状開口部23の先端233と対向する部分)にも凸状部133(以下、第2の凸状部133と言い、上側の凸状部132を第1の凸状部と言う)が形成されている。その第2の凸状部133は、筒状開口部23側に凸となっている。また、第1の凸状部132と第2の凸状部133の凸量は同じとなっている。第2の凸状部133は、筒状開口部13の全周に亘って連続して形成されている。第2の凸状部133の先端は、筒状開口部23の先端233における内表面231に接している。これによって、筒状開口部13、23、第1の凸状部132及び第2の凸状部133でスペース61(軟質樹脂71)を閉じることができる。よって、充填工程の際に流動状態の軟質樹脂71がスペース61から流れ出ることを防止できるとともに、より一層高いシール性を確保できる。なお、図8の構造の電動ユニット1の製造方法は上記実施形態と同じである。
【0037】
(変形例2)
図9は、図6のB部の構造の変形例2を示している。なお、図9において上記実施形態と変更が無い部分には同一符号を付している。図9に示すように、筒状開口部13の外表面131には溝134が形成されている。その溝134は、筒状開口部13の周方向に沿って一定間隔で複数形成され、又は、周方向の全周に亘って連続して形成されている。軟質樹脂72の一部が溝134に入り込んでいる。これによって、軟質樹脂72を強固に筒状開口部13、23に固着でき、軟質樹脂72の位置ズレを防止できる。なお、図9の構造の電動ユニット1の製造方法は上記実施形態と同じである。なお、筒状開口部23の内表面231に溝を形成しても良い。
【0038】
(変形例3)
図10は、図6のB部の構造の変形例3を示しており、詳細には、図10(A)は軟質樹脂充填前の状態を示しており、図10(B)は軟質樹脂充填後の状態を示している。なお、図10において上記実施形態と変更が無い部分には同一符号を付している。図10(A)に示すように、筒状開口部13の下部には外側に張り出した張出部135が形成されている。なお、図10の例では、筒状開口部13の下部の板厚を他の部分よりも大きくすることで、張出部135を形成している。張出部135の上面136は、筒状開口部23の先端面(先端233)と一定の間隔を空けて対向している。したがって、張出部135の上面136と筒状開口部23の先端面との間には第2のスペース622が形成されている。そして、その第2のスペース622と、表面131、231間に形成された第1のスペース621とから、図10の縦断面視で略L字状のスペース62が形成されている。そのスペース62は、第2のスペース622による開口を有したスペースとされている。
【0039】
図10の構造の電動ユニット1を製造するには、上記実施形態と同じ収容工程、結合工程を実行した後、充填工程では、注入孔25から流動状態の軟質樹脂をスペース62に注入する。この際、図10(B)に示すように、軟質樹脂73の一部が筒状開口部23の外表面232に回り込むようにする。そのために、例えば、図10(B)に示すように、回り込み用のスペース301が形成された型300を設置する。型300のスペース301は、スペース62の開口よりも大きな開口を有したスペースとされている。そのため、スペース301の開口とスペース62の開口とを突き合わすようにして型300を設置すると、スペース301の開口の一部は外表面232で塞がれる。この状態で軟質樹脂を注入すると、図10(B)の形状の軟質樹脂73を形成できる。その後、固着工程で軟質樹脂73を固化させた後、型300を取り除く。このように、軟質樹脂73を外表面232に回り込ませることで、より一層高いシール性を確保できる。
【0040】
以上本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限度で種々変更できる。例えば、上ケースの筒状開口部が、下ケースの筒状開口部の内側に嵌るようになっていても良い。軟質樹脂を配置するスペースを形成するための凸状部を、上ケースの筒状開口部に形成しても良い。また、図7では、上側(筒状開口部13の先端側)に凸状部132が設けられているが、下側(筒状開口部23の先端233と対向する側)に凸状部を設けても良い。また、上記実施形態では、注入孔から軟質樹脂を注入していたが、注入孔を設けないで、スペースの開口から軟質樹脂を注入しても良い。また、上記実施形態では、ドアミラーを使用位置と格納位置との間で動かすドアミラー電動機構を収容するドアミラー電動ユニットに本発明を適用した例を説明したが、ミラー角度を調整する機構等、他のドアミラー電動機構を収容するドアミラー電動ユニットに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0041】
1 車両用ドアミラー電動ユニット
10 下ケース
20 上ケース
100 ケーシング
12、22、101 収容空間
121、221 開口
13、23 筒状開口部
132、133 凸状部
134 溝
135 張出部
24 配線挿通口
25 注入孔
30 ドアミラー電動機構
41 シャフトベース
42 シャフト
50 配線
61、62、621、622 スペース
71、72、73 軟質樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割構造の第1ケースと第2ケースが互いに開口を付き合わせて結合され、内部に収容空間を有するケーシングと、
そのケーシングの前記収容空間に収容され、ドアミラーに連結されるドアミラー電動機構と、を備え、
前記第1ケースと前記第2ケースのそれぞれの前記開口に沿った環状の結合部には、該結合部に沿ってシール充填用の溝状のスペースが形成され、そのスペースにはシール用の軟質樹脂が流動状態で注入により充填され、固化した前記軟質樹脂が前記第1ケース及び前記第2ケースに対し前記スペースにおいて固着したことを特徴とする車両用ドアミラー電動ユニット。
【請求項2】
前記結合部の一部には、前記ドアミラー電動機構に少なくとも通電する配線を通すための配線挿通口が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ドアミラー電動ユニット。
【請求項3】
分割構造の第1ケースと第2ケースが互いに開口を付き合わせて結合され、内部に収容空間を有するケーシングと、
そのケーシングの前記収容空間に収容され、ドアミラーに連結されるドアミラー電動機構と、を備えた車両用ドアミラー電動ユニットの製造方法であって、
前記第1ケースと前記第2ケースのそれぞれの前記開口に沿った環状の結合部には、該結合部に沿ってシール充填用の溝状のスペースが形成され、
前記第1ケースと前記第2ケースの一方に前記ドアミラー電動機構を収容して、それら第1ケース、第2ケースを互いの開口を付き合わせて結合した後に、前記スペースにシール用の軟質樹脂を流動状態で注入により充填する充填工程と、
その充填工程で充填された前記軟質樹脂を固化させて前記第1ケース及び前記第2ケースに固着する固着工程と、を備えることを特徴とする車両用ドアミラー電動ユニットの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−107589(P2013−107589A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256272(P2011−256272)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000105925)サカエ理研工業株式会社 (110)
【Fターム(参考)】