説明

車両用ブレーキ装置

【課題】マスタピストンの背面を臨ませる倍力液圧室に、ブレーキ操作入力に応じて作動する調圧弁手段によって液圧発生源の出力液圧を調圧して作用せしめるようにした車両用ブレーキ装置において、仕様の異なる車種にそのまま適用し得るようにして部品の種類の増大を回避し得るとともに調圧弁手段の構成を単純化する。
【解決手段】調圧弁手段7が、倍力液圧室9を液圧発生源6に連通させるとともに倍力液圧室9およびリザーバR間を遮断する状態、倍力液圧室9および液圧発生源6間を遮断するとともに倍力液圧室9をリザーバRに連通する状態、ならびに倍力液圧室9を液圧発生源6およびリザーバRの両方から遮断する状態を、ブレーキ操作部材5のブレーキ操作量を検出する検出手段74の検出値に応じて電気的に駆動されて切換えるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倍力液圧室に背面を臨ませたマスタピストンがケーシングに摺動可能に収容されるマスタシリンダと、液圧発生源と、リザーバと、ブレーキ操作部材からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室に作用せしめる調圧弁手段とを備え、前記マスタシリンダが車輪ブレーキに接続される車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような車両用ブレーキ装置は、たとえば特許文献1等により既に知られている。
【特許文献1】特開2002−264795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記従来のものでは、調圧弁手段が、ブレーキ操作入力に応じて機械式に作動するように構成されており、調圧弁手段の構成が複雑となるだけでなく、ブレーキ操作入力に対して所定の圧力でしか調圧できないので、仕様の異なる車種に適用する際には、その車種に応じて倍力比やストローク等を考慮して新たな調圧弁手段を準備しなければならず、部品の種類が増えてしまう。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、仕様の異なる車種にそのまま適用し得るようにして部品の種類の増大を回避し得るとともに構成を単純化した調圧弁手段を備える車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、倍力液圧室に背面を臨ませたマスタピストンがケーシングに摺動可能に収容されるマスタシリンダと、液圧発生源と、リザーバと、ブレーキ操作部材からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室に作用せしめる調圧弁手段とを備え、前記マスタシリンダが車輪ブレーキに接続される車両用ブレーキ装置において、前記ブレーキ操作部材のブレーキ操作量を検出する検出手段を含み、前記調圧弁手段が、前記倍力液圧室を前記液圧発生源に連通させるとともに前記倍力液圧室および前記リザーバ間を遮断する状態、前記倍力液圧室および前記液圧発生源間を遮断するとともに前記倍力液圧室を前記リザーバに連通する状態、ならびに前記倍力液圧室を前記液圧発生源および前記リザーバの両方から遮断する状態を、前記検出手段の検出値に応じて電気的に駆動されて切換えるように構成されることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記調圧弁手段が、前記液圧発生源および前記倍力液圧室間に介設される第1リニアソレノイド弁と、前記倍力液圧室および前記リザーバ間に介設される第2リニアソレノイド弁とから成ることを特徴とする。
【0007】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記マスタピストンが、前記倍力液圧室側を小径とした段付きに形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、調圧弁手段が、ブレーキ操作部材のブレーキ操作量に応じて電気的に駆動されるものであるので、車種に応じて倍力比を自在に変化させることが可能であり、簡単な構成で仕様の異なる多くの種類の車両に適用することが可能であり、部品点数の増大を回避することができる。
【0009】
また請求項2記載の発明によれば、調圧弁手段を2つのリニアソレノイド弁による単純な構成とすることができる。
【0010】
さらに請求項3記載の発明によれば、倍力液圧室に作用させるブレーキ液量を少なく抑え、液圧発生源の消費液量を抑えて液圧発生源の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1および図2は本発明の第1実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図、図2は液圧モジュレータの構成を示す液圧回路図である。
【0013】
先ず図1において、四輪車両のブレーキ装置は、タンデム型であるマスタシリンダMと、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル5から入力されるブレーキ操作力に応じて液圧発生源6の液圧を調圧して前記マスタシリンダMに作用せしめる調圧弁手段7と、前記ブレーキペダル5の操作ストロークをシミュレートするストロークシミュレータ8とを備える。
【0014】
前記マスタシリンダMは、倍力液圧室9に背面を臨ませるとともに後方側にばね付勢される後部マスタピストン10と、後方側にばね付勢されつつ後部マスタピストン10の前方に配置される前部マスタピストン11とが、第1のケーシング12に摺動自在に嵌合される。
【0015】
前記第1のケーシング12は、シリンダ体13と、該シリンダ体13に嵌合、固定される円筒状のスリーブ14とで構成されるものであり、前記シリンダ体13には、端壁13aで前端が閉じられた第1シリンダ孔15と、第1シリンダ孔15よりも大径に形成されて第1シリンダ孔15の後部に同軸に連なる嵌合孔16とが設けられ、前記スリーブ14は、第1シリンダ孔15よりも小径にして第1シリンダ孔15の後端に同軸に連なる第2シリンダ孔17を形成するようにして前記嵌合孔16に嵌合、固定される。
【0016】
前部マスタピストン11は、前端を開放した有底円筒状に形成されており、前記端壁13aとの間に前部出力液圧室18を形成して第1シリンダ孔15に摺動可能に嵌合される。また後部マスタピストン10は、前記前部マスタピストン11との間に後部出力液圧室19を形成して第1および第2シリンダ孔15,17に摺動可能に嵌合される。すなわち後部マスタピストン10は、後部出力液圧室19に前端を臨ませて第1シリンダ孔15に摺動可能に嵌合される大径部10aに、倍力液圧室9に後端を臨ませて第2シリンダ孔17に摺動可能に嵌合される小径部10bが同軸に連なって成るものであり、倍力液圧室9側を小径とした段付きに形成される。しかも後部マスタピストン10には、後部出力液圧室19側を開放した第1凹部20と、倍力液圧室9側を開放した第2凹部21とが、相互間に隔壁10cを介在させて同軸に設けられる。
【0017】
前部出力液圧室18には、有底円筒状である前記前部マスタピストン11の閉塞端および前記端壁13a間に縮設される前部戻しばね22が、前部マスタピストン11を後方側に付勢するばね力を発揮するようにして収容され、後部出力液圧室19には、後部マスタピストン10の隔壁10cおよび前部マスタピストン11間に縮設される後部戻しばね23が、後部マスタピストン10を後方側に付勢するようにして収容される。
【0018】
後部マスタピストン10における大径部10aの外周には第1シリンダ孔15の内周に摺接する後部リップシール24が装着され、後部マスタピストン10における小径部10bの外周に摺接する環状シール部材25が、スリーブ14の内周すなわち第2シリンダ孔17の内周に装着され、スリーブ14の外周には嵌合孔16の内周に弾発接触する環状シール部材42が装着される。而して前記後部リップシール24および前記環状シール部材25間で、第1のケーシング12および後部マスタピストン10間には後部環状液室26が形成されており、前記後部リップシール24は、後部出力液圧室19の液圧が後部環状液室26の液圧よりも低下したときには後部環状液室26から後部出力液圧室19側へのブレーキ液の流通を許容する。
【0019】
また前記シリンダ体13には、前記後部環状液室26に通じる共通液室27が第1シリンダ孔15と平行に延びるようにして形成されており、後部マスタピストン10が、その大径部10aを前記スリーブ14の前端に当接させた後退限位置にあるときに後部出力液圧室19を前記共通液室27に通じさせるリリーフ孔28が前記シリンダ体13に設けられる。前記共通液室27は、リザーバRの第1液溜め室29にパイロット作動にて閉弁しつつ任意に開閉も可能とする第1開閉弁31を介して接続される第1液圧路32に連通する。
【0020】
第1シリンダ孔15の内周には、前部マスタピストン11の外周に摺接する前部リップシール33と、該前部リップシール33よりも後方で前部マスタピストン11の外周に摺接する環状シール部材34とが軸方向に間隔をあけて装着されており、前記前部リップシール33および前記環状シール部材34間で第1シリンダ孔15の内周および前部マスタピストン11の外周間には、前記共通液室27に通じる前部環状液室35が形成され、前記前部リップシール33は、前部出力液圧室18の液圧が前部環状液室35の液圧よりも低下したときには前部環状液室35から前部出力液圧室18側へのブレーキ液の流通を許容する。また前部マスタピストン11には、その後退限で前記前部環状液室35を前部出力液圧室18に通じさせるリリーフ孔36が設けられる。
【0021】
前記シリンダ体13には、後部マスタピストン10の前進作動に応じて高圧となる後部出力液圧室19の液圧を出力する後部出力ポート37と、前部マスタピストン11の前進作動に応じて高圧となる前部出力液液圧室18の液圧を出力する前部出力ポート38とが設けられる。しかも後部出力ポート37は、第1液圧モジュレータ39を介して右前輪および左後輪用車輪ブレーキBA,BBに接続され、前部出力ポート38は、第2液圧モジュレータ40を介して左前輪および右後輪用車輪ブレーキBC,BDに接続される。また前部出力ポート38には液圧センサ41が接続される。
【0022】
図2において、第1液圧モジュレータ39は、後部出力ポート37および右前輪用車輪ブレーキBA間に介設される常開型電磁弁44Aと、後部出力ポート37および左後輪用車輪ブレーキBB間に介設される常開型電磁弁44Bと、後部出力ポート37側へのブレーキ液の流通を許容して前記両常開型電磁弁44A,44Bにそれぞれ並列に接続される一方向弁45A,45Bと、右前輪用車輪ブレーキBAおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Aと、左後輪用車輪ブレーキBBおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Bとを備える。
【0023】
また第2液圧モジュレータ40は、前部出力ポート38および左前輪用車輪ブレーキBC間に介設される常開型電磁弁44Cと、前部出力ポート38および右後輪用車輪ブレーキBD間に介設される常開型電磁弁44Dと、前部出力ポート38側へのブレーキ液の流通を許容して前記両常開型電磁弁44C,44Dにそれぞれ並列に接続される一方向弁45C,45Dと、左前輪用車輪ブレーキBCおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Cと、右後輪用車輪ブレーキBDおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Dとを備える。
【0024】
このような第1および第2モジュレータ39,40によれば、後部および前部出力ポート37,38から出力されるブレーキ液圧を自在に調圧することができ、ブレーキ操作時のアンチロックブレーキ制御や、非ブレーキ操作状態でのトラクション制御や自動ブレーキ制御等を第1および第2モジュレータ39,40の調圧制御によって実行することができる。
【0025】
再び図1において、ストロークシミュレータ8は、第1および第2シリンダ孔15,17と同軸であって第1および第2シリンダ孔15,17よりも大径の第3シリンダ孔47を有して第1のケーシング12の後部に液密にかつ同軸に結合される第2のケーシング48と、前記マスタシリンダMにおける後部マスタピストン10の後部を臨ませる前記倍力液圧室9を第1のケーシング12の後端との間に形成して第3シリンダ孔47に摺動可能に嵌合されるバックアップピストン49と、該バックアップピストン49内に軸方向相対移動を可能として嵌合される入力ピストン50と、該入力ピストン50および前記バックアップピストン49間に介装される弾性体51と、第1のケーシング12および前記バックアップピストン49間に縮設されるばね52とを備える。
【0026】
バックアップピストン49は、第2のケーシング48の後端に設けられる内向き鍔部48aで後退限位置が規制されるようにして第3シリンダ孔47に摺動可能に嵌合される。しかもバックアップピストン49の前端には嵌合突部49aが同軸に突設されており、この嵌合突部49aは、前記マスタシリンダMにおける後部マスタピストン10に設けられる第2凹部21に、第2凹部21の閉塞端すなわち隔壁10cに先端を当接させることを可能として軸方向相対移動可能に嵌合される。
【0027】
またバックアップピストン49には、後方側に開放した有底の第1摺動孔53が同軸に設けられており、第1摺動孔53の内周に摺接する環状シール部材54が外周に装着されている前記入力ピストン50は、第1摺動孔53に摺動可能に嵌合され、ブレーキペダル5に連なる入力ロッド55の前端部が入力ピストン50に首振り可能に連接される。すなわち入力ピストン50には、ブレーキペダル5の操作に応じたブレーキ操作力が入力ロッド55を介して入力され、そのブレーキ操作力の入力に応じて入力ピストン50は前進作動する。
【0028】
弾性体51は、外力の作用しない自然な状態では第1摺動孔53の内径よりも小径の外径を有するようにしてゴム等の弾性材料によって円筒状に形成されるものであり、弾性体51を貫通するガイド軸56の前端がバックアップピストン49における第1摺動孔53の前端壁に嵌合される。また入力ピストン55には、前端を開放した有底の第2摺動孔57が設けられており、前記ガイド軸56の後部は第2摺動孔57に摺動可能に嵌合される。
【0029】
ところで前記弾性体51の外周および第1摺動孔53の内周間には環状液室58が形成されており、この環状液室58に通じる連通孔59がバックアップピストン49に設けられる。しかもバックアップピストン49の外周には、前記連通孔59を軸方向両側から挟むようにして一対の環状のシール部材60,61が第3シリンダ孔47の内周に摺接するようにして装着され、バックアップピストン49の軸方向移動にかかわらずそれらのシール部材60,61間で第3シリンダ孔47の内面に開口する連通孔62が第2のケーシング48に設けられる。
【0030】
液圧発生源6は、リザーバRの第2液溜め室30からくみ上げたブレーキ液を吐出するポンプ63と、該ポンプ63の吐出口に通じるアキュムレータ64と、アキュムレータ64に蓄圧された液圧を検出して前記ポンプ63の作動を制御するための液圧センサ65とを備えるものであり、この液圧発生源6に第1絞り66を介して接続されるパイロット室67を有するパイロット作動型の第2開閉弁68が、第2のケーシング48に設けられた前記連通孔62およびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される。而して第2開閉弁68は、パイロット室67の液圧が充分に高いときには、前記連通孔62を第2液溜め室30に連通させるように開弁するものの、液圧発生源6が不調となってパイロット室67の液圧が低下したときには閉弁して前記連通孔62および第2液溜め室30間を遮断し、ストロークシミュレータ8における環状液室58を液圧ロック状態に保持するものである。
【0031】
ブレーキペダル5から入力されるブレーキ操作力に応じて液圧発生源6の液圧を調圧してマスタシリンダMに作用せしめる調圧弁手段7は、前記倍力液圧室9を液圧発生源6に連通させるとともに前記倍力液圧室9および前記リザーバRの第2液溜め室30間を遮断する状態、前記倍力液圧室9および前記液圧発生源6間を遮断するとともに前記倍力液圧室9を前記リザーバRの第2液溜め室30に連通する状態、ならびに前記倍力液圧室9を前記液圧発生源6および前記リザーバRにおける第2液溜め室30の両方から遮断する状態を、電気的に駆動されて切換えるものであり、液圧発生源6および倍力液圧室9間に介設される常閉型の第1リニアソレノイド弁69と、倍力液圧室9およびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常開型の第2リニアソレノイド弁70とから成る。
【0032】
倍力液圧室9に通じて第2のケーシング48に設けられる連通孔71には第2液圧路72が接続されており、この第2液圧路72および液圧発生源6間に、液圧発生源6および第2液圧路72間の連通・遮断を切換える第1リニアソレノイド弁69が介設され、第2液圧路72およびリザーバRの第2液溜め室30間に、第2液圧路72および第2液溜め室30間の連通・遮断を切換える第2リニアソレノイド弁70が介設され、第2液圧路72には液圧センサ73が接続される。
【0033】
このような調圧弁手段7によれば、液圧発生源6の出力液圧を自在に調圧して第2液圧路72すなわち倍力液圧室9に作用せしめることができる。
【0034】
ところで調圧弁手段7における第1および第2リニアソレノイド弁69,70の作動は、ブレーキペダル5のブレーキ操作量に応じて制御されるものであり、ブレーキ操作量を検出する検出手段74は、たとえば前記入力ピストン50に取付けられたブラシ75と、前記入力ピストン50の軸方向移動に応じて前記ブラシ75の摺接位置を変化させるようにして入力ピストン50の軸方向と平行に延びる一対の電気導体76…とを備え、該電気導体76…は、第2のケーシング48の後端に取付けられる支持部材77に取付けられる。
【0035】
また第2液圧路72は、常閉型電磁弁である第3開閉弁78および第2絞り79を介して第1液圧路32に接続されるものであり、第1液圧路32およびリザーバRの第1液溜め室29間に介設されている第1開閉弁31は、第3開閉弁78および第2絞り79間の液圧が、第2液溜め室30側の液圧よりも所定値以上高いときに遮断するものであり、ブレーキペダル5の非操作状態で液圧発生源6のポンプ63を作動せしめ、第3開閉弁78を開弁すると、第1開閉弁31は遮断し、液圧発生源6の出力液圧を調圧弁手段7で調圧して得られる液圧をマスタシリンダMにおける共通液室27に作用せしめることができる。しかも非ブレーキ操作状態であって後部および前部マスタピストン10,11は後退限位置にあり、後部および前部出力液圧室19,18は、前記共通液室27に連通した状態であるときに、前部および後部出力ポート37,38から液圧発生源6の出力液圧を調圧弁手段7で調圧して得られる液圧を出力することができ、第1および第2液圧モジュレータ39,40でさらに調圧することにより、ポンプおよびモータを備えて、ブレーキペダルの操作に関係なく、マスタシリンダからブレーキ液を吸引して車輪ブレーキを加圧制御する既存の車両用ブレーキ制御装置を用いることなく、非ブレーキ操作状態での自動ブレーキ制御やトラクション制御を行うことが可能となる。
【0036】
次にこの第1実施例の作用について説明すると、ブレーキペダル5を踏み込んでブレーキ操作すると入力ピストン50が弾性体51を圧縮しつつ前進する。この入力ピストン50の前進によって弾性体51の周囲の環状室58の容積が減少するが、第2開閉弁68が液圧発生源6からの液圧作用に応じて開弁しているので、環状室58内の圧力が増大することはなく、ブレーキペダル5の踏み込み初期に該ブレーキペダル5に作用する反力は弾性体51からの弾発力だけである。而してブレーキペダル5によるブレーキ操作量が検出手段74で検出されると、調圧弁手段7が、液圧発生源6の出力液圧をブレーキ操作量に応じた液圧に調圧するように作動する。この際、第3開閉弁78は閉弁状態にあり、調圧弁手段7で調圧された液圧は倍力液圧室9に作用する。
【0037】
倍力液圧室9の液圧増大に応じてタンデム型のマスタシリンダMでは、後部および前部マスタピストン10,11が後部および前部戻しばね23,22のばね力に抗して前進し、後部および前部出力液圧室19,18で生じた液圧が後部および前部出力ポート37,38から出力される。すなわちマスタシリンダMの後部および前部マスタピストン10,11を倍力作動せしめ、倍力されたブレーキ液圧を各車輪ブレーキBA〜BDに作用せしめることができる。
【0038】
しかも後部マスタピストン10は、倍力液圧室9側を小径とした段付きに形成されるので、倍力液圧室9に作用させるブレーキ液量を少なく抑え、液圧発生源6の消費液量を抑えて液圧発生源6の小型化を図ることができる。
【0039】
また調圧弁手段7が、倍力液圧室9を液圧発生源6に連通させるとともに倍力液圧室9およびリザーバR間を遮断する状態、倍力液圧室9および液圧発生源6間を遮断するとともに倍力液圧室9をリザーバRに連通する状態、ならびに倍力液圧室9を液圧発生源6およびリザーバRの両方から遮断する状態を、電気的に駆動されて切換えるように構成されるものであるので、車種に応じて倍力比を自在に変化させることが可能であり、簡単な構成で仕様の異なる多くの種類の車両に適用することが可能であり、部品点数の増大を回避することができる。
【0040】
さらに調圧弁手段7が、液圧発生源6および倍力液圧室9間に介設される常閉型の第1リニアソレノイド弁69と、倍力液圧室9およびリザーバR間に介設される常開型の第2リニアソレノイド弁70とから成るものであり、調圧弁手段7を2つのリニアソレノイド弁69,70による単純な構成とすることができる。
【0041】
前記液圧発生源6の不調時には、第2開閉弁68が閉弁し、弾性体51の周囲の環状室58は液圧ロック状態となる。このためストロークシミュレータ8では、ブレーキペダル5の踏み込み操作に応じて、バックアップピストン49が入力ピストン50とともにばね52のばね力に抗して前進し、バックアップピストン49の先端の嵌合突部49aが後部マスタピストン10に当接して該後部マスタピストン10を前進方向に押圧することになり、液圧発生源6の不調時にもブレーキペダル5の踏み込み操作に応じてマスタシリンダを作動せしめることができる。
【0042】
図3および図4は本発明の第2実施例を示すものであり、上記第1実施例に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、詳細な説明は省略する。
【0043】
先ず図3において、マスタシリンダMにおける第1のケーシング12の後端には、ストロークシミュレータ8におけるバックアップピストン49を摺動可能に嵌合させる第3シリンダ孔47を有する第2のケーシング48′が液密に結合されており、この第2のケーシング48′には、倍力液圧室9に通じる出力ポート84が設けられる。
【0044】
またマスタシリンダMにおける前部出力ポート38は左前輪用液圧モジュレータ85を介して左前輪用車輪ブレーキBCに接続され、マスタシリンダMにおける後部出力ポート37は右前輪用液圧モジュレータ86を介して右前輪用車輪ブレーキBAに接続され、また第2のケーシング48′に設けられている前記出力ポート84は、後輪用液圧モジュレータ87を介して左後輪用車輪ブレーキBBおよび右後輪用車輪ブレーキBDに接続される。
【0045】
マスタシリンダMにおける後部出力ポート37は右前輪用液圧モジュレータ86を介して右前輪用車輪ブレーキBAに接続され、また第2のケーシング48′に設けられている前記出力ポート84は、後輪用液圧モジュレータ87を介して左後輪用車輪ブレーキBBおよび右後輪用車輪ブレーキBDに接続される。
【0046】
図4において、左前輪用液圧モジュレータ85は、前部出力ポート38および左前輪用車輪ブレーキBC間に介設される常開型電磁弁44Cと、前部出力ポート38側へのブレーキ液の流通を許容して前記常開型電磁弁44Cに並列に接続される一方向弁45Cと、左前輪用車輪ブレーキBCおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Cとを備え、右前輪用液圧モジュレータ86は、後部出力ポート37および右前輪用車輪ブレーキBA間に介設される常開型電磁弁44Aと、後部出力ポート37側へのブレーキ液の流通を許容して前記常開型電磁弁44Aに並列に接続される一方向弁45Aと、右前輪用車輪ブレーキBAおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Aとを備える。
【0047】
また後輪用液圧モジュレータ87は、前記出力ポート84および左後輪用車輪ブレーキBB間に介設される常開型電磁弁44Bと、前記出力ポート84および右後輪用車輪ブレーキBD間に介設される常開型電磁弁44Dと、前記出力ポート84側へのブレーキ液の流通を許容して前記両常開型電磁弁44B,44Dにそれぞれ並列に接続される一方向弁45B,45Dと、左後輪用車輪ブレーキBBおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Bと、右後輪用車輪ブレーキBDおよびリザーバRの第2液溜め室30間に介設される常閉型電磁弁46Dとを備える。
【0048】
この第2実施例によれば、左後輪用車輪ブレーキBBおよび右後輪用車輪ブレーキBDには倍力液圧室9の液圧を直接作用せしめることができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
たとえば上記実施例では、ブレーキ操作量を検出する検出手段77が、入力ピストン50のストローク量を検出するように構成されているが、荷重センサ等による操作力の検出であってもよく、マスタシリンダのピストンは前後同径であってもよい。また第1実施例において、第1および第2液圧モジュレータ39,40に代えて、モータ、ポンプおよびリザーバを備えて既存のアンチロックブレーキ制御装置を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】第1実施例の車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図である。
【図2】液圧モジュレータの構成を示す液圧回路図である。
【0052】

【図3】第2実施例の車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図である。
【図4】液圧モジュレータの構成を示す液圧回路図である。
【符号の説明】
【0053】
5・・・ブレーキ操作部材であるブレーキペダル
6・・・液圧発生源
7・・・調圧弁手段
9・・・倍力液圧室
10・・・マスタピストン
12・・・ケーシング
69・・・第1リニアソレノイド弁
70・・・第2リニアソレノイド弁
74・・・検出手段
BA,BB,BC,BD・・・車輪ブレーキ
M・・・マスタシリンダ
R・・・リザーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍力液圧室(9)に背面を臨ませたマスタピストン(10)がケーシング(12)に摺動可能に収容されるマスタシリンダ(M)と、液圧発生源(6)と、リザーバ(R)と、ブレーキ操作部材(5)からのブレーキ操作入力に応じて前記液圧発生源(6)の出力液圧を調圧して前記倍力液圧室(9)に作用せしめる調圧弁手段(7)とを備え、前記マスタシリンダ(M)が車輪ブレーキ(BA,BB,BC,BD)に接続される車両用ブレーキ装置において、前記ブレーキ操作部材(5)のブレーキ操作量を検出する検出手段(74)を含み、前記調圧弁手段(7)が、前記倍力液圧室(9)を前記液圧発生源(6)に連通させるとともに前記倍力液圧室(9)および前記リザーバ(R)間を遮断する状態、前記倍力液圧室(9)および前記液圧発生源(6)間を遮断するとともに前記倍力液圧室(9)を前記リザーバ(R)に連通する状態、ならびに前記倍力液圧室(9)を前記液圧発生源(6)および前記リザーバ(R)の両方から遮断する状態を、前記検出手段(74)の検出値に応じて電気的に駆動されて切換えるように構成されることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記調圧弁手段(7)が、前記液圧発生源(6)および前記倍力液圧室(9)間に介設される第1リニアソレノイド弁(69)と、前記倍力液圧室(9)および前記リザーバ(R)間に介設される第2リニアソレノイド弁(70)とから成ることを特徴とする請求項1記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記マスタピストン(10)が、前記倍力液圧室(9)側を小径とした段付きに形成されることを特徴とする請求項1または2記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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