車両用係止装置
【課題】車室内側に突出することなく格納されている係止部を使用位置まで回動させる際の操作性が良好であって、利便性に優れた車両用係止装置を実現する。
【解決手段】ハウジング10と、ハウジング10に軸支され、格納位置と使用位置との間で回動可能なU字形フック2と、U字形フック2が使用位置方向に回動されるように付勢する回動バネ4と、格納位置にあるU字形フック2に係止し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2の回動を規制可能な係止突起7aを備えた規制部材7と、規制部材7を変位させ、係止突起7aとU字形フック2との係止を解除可能なボタン8とを有する。
【解決手段】ハウジング10と、ハウジング10に軸支され、格納位置と使用位置との間で回動可能なU字形フック2と、U字形フック2が使用位置方向に回動されるように付勢する回動バネ4と、格納位置にあるU字形フック2に係止し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2の回動を規制可能な係止突起7aを備えた規制部材7と、規制部材7を変位させ、係止突起7aとU字形フック2との係止を解除可能なボタン8とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷崩れ防止ネットやロープ、それらに設けられているフックその他の係止具を係止させる目的で車両内に備え付けられる車両用係止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両内、特に荷室には、荷崩れ防止ネット(以下、「ネット」と略すこともある)やロープ、それらに設けられているフックその他の係止具を係止させる目的で車両用係止装置が備え付けられることが多い。例えば、ネットの四隅に設けられたフックを係止可能なU字形フックを備えた車両係止装置が車両内壁面やフロア面に備え付けられることが多い。即ち、荷室に積載された荷物をネットで覆って押さえ、そのネットの四隅に設けられているフックを車両係止装置のU字形フックに引っ掛けてネットを固定することによって、荷室に積載された荷物の移動を防止することが可能である。このとき、ネットが柔軟で弾性を有する材料で形成されていれば、比較的嵩高な荷物であっても、その全体を覆ってあらゆる方向への移動を規制し、確実に固定することができる。
【0003】
上記のような車両用係止装置の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている車両用係止装置の概略を図12に示す。この車両用係止装置は、車体パネルに取り付けられるハウジング30と、ハウジング30に回動可能に軸支された係留部31(前記U字形フックに相当)とを備えている。ハウジング30には、係留部31が収納位置に配置された時に、その係留部31を囲み込む凹所32が設けられている。さらに、係留部31には、該係留部31が使用位置に配置された際に略垂直方向に伸びる突部33が形成されている。この突部33は、係留部31が収納位置に配置された際にハウジング30の底部に当接し、係留部31の回動を規制するストッパとして機能する。かかる突部33の存在によって、収納位置における係留部31は、ハウジング30の表面と略同一平面に保持され、積載物が係留部31の表面に衝突したり、衝撃で不用意にハウジング30内にめり込んだり、或いはハウジング30から跳ね上がるといった事態が回避される。
【特許文献1】特開2002−339939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用係止装置では、該装置とそれが装着される車両内装材とに統一感を持たせデザイン性を向上させるために、また、積載物とU字形フックとが干渉しないようにするために、不使用時のU字形フックをハウジング内に埋没させて車室内側へ突出させない構成が採用されている。特許文献1に開示されている車両用係止装置でも、収納位置における係留部31は、該係留部31と略同一寸法に形成されたハウジング30の凹所32内に完全に格納され、係留部31の外周はハウジング30によって囲まれた状態となる。
【0005】
従来の車両用係止装置は上記のような構成を有するため、U字形フックをハウジングから取り出して使用位置まで回動させる作業が非常に煩わしいものであった。即ち、U字形フックがハウジング内に埋没した状態では、ハウジングからU字形フックを取り出す際の手掛かりとなるものがなく、U字形フックの取り出しが非常に困難であった。かかる課題を解消すべく、特許文献1に開示されている車両用係止装置では、係留部31に突起34を形成すると共に、ハウジング30の端部に切欠35を形成している(図12参照)。しかし、かかる突起34や切欠35を大きくすると、積載物と干渉して破損や変形を招く虞がある。一方で突起34や切欠35を小さくすると、係留部31の取り出しの困難性が解消されず、所期の目的が達成されない。また、車両係止装置は、最低でも荷室内の4箇所に設けられるのが普通であり、それら複数の車両用係止装置の係留部を全て手動で取り出す作業は非常に煩わしく、利便性の更なる向上が求められていた。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車室内側に突出することなく格納されている係止部を使用位置まで回動させる際の操作性が良好で利便性に優れた車両用係止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の車両用係止装置は、ハウジングと、該ハウジングに格納位置と使用位置との間で回動可能なるように設けられた係止部とを有する車両用係止装置において、格納位置にある係止部を使用位置に向けて回動させる回動手段を備えたことを特徴とする。かかる特徴を有する本発明の車両用係止装置によれば、該装置とそれが装着される車両内面とを面一として積載物等との干渉を回避し、かつ、デザイン性を向上させることが可能なばかりでなく、係止部を摘まみ出し易くするために、突起や切欠などを設ける必要性もなくなる。
【0008】
前記回動手段の一例として、格納位置にある係止部が使用位置に向けて回動されるように該係止部を付勢する付勢部材と、格納位置にある係止部に係止し、付勢部材による付勢に抗して係止部の回動を規制する規制部材と、規制部材を変位させ、該規制部材と係止部との係止を解除させる操作手段と、から構成された第1の回動手段が挙げられる。かかる回動手段によれば、操作手段を操作するだけで、格納位置にある係止部を使用位置まで自動的に回動させることができる。
【0009】
また、前記第1の回動手段を構成する操作手段は、所定方向に往復変位可能であって、一方向に変位した際に該変位方向と交差する方向に規制部材を変位させるものであることが望ましい。
【0010】
また、前記第1の回動手段は、規制部材が係止部に係止するように、該規制部材を付勢する第2の付勢部材をさらに有し、前記操作手段は、第2の付勢部材による付勢に抗して規制部材を変位させるものであることが望ましい。
【0011】
また、格納位置と使用位置との間で係止部の回動を一時停止させる停止手段をさらに備えることが望ましい。この停止手段は、係止部が格納位置と使用位置との間に設定された所定位置まで回動すると、該係止部に係止するように前記規制部材に突設された凸部であることが望ましい。
【0012】
前記回動手段の他例として、格納位置にある係止部が使用位置に向けて回動されるように該係止部に応力を付与する可動部材と、その可動部材を動作させる操作手段と、から構成された第2の回動手段が挙げられる。かかる回動手段によれば、使用位置に向けて回動した(起き上がった)係止部を摘まんで使用位置まで容易に回動させることが可能であり、係止部を摘まみ出し易くするために、突起や切欠などを設ける必要がなくなる。さらに、係止部を起き上がらせるための操作は、操作手段を操作するだけの簡便な作業で済む。
【0013】
前記第2の回動手段を構成する可動部材は、操作手段によって所定方向に変位させられると、係止部に応力を付与して該係止部を回動させる(起き上がらせる)ものであることが望ましい。
【0014】
また、可動部材を付勢する付勢部材をさらに備え、前記操作手段は、付勢手段による付勢に抗して可動部材を所定方向に変位させるものであることが望ましい。
【0015】
また、前記第2の回動手段によって回動された係止部をその位置で保持する保持手段をさらに備えることが望ましい。この保持手段としては、ハウジングに回転自在に保持され、係止部の回動に伴って回転する回転軸に接触して該回転軸の回転を規制することによって、係止部を任意の回動位置で保持するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車室内側に突出することなく格納されている係止部を使用位置まで回動させる際の操作性が良好であり、極めて利便性に優れた車両用係止装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明の車両用係止装置の実施形態の一例について図面を参照しながら説明する。図1は、本例の車両用係止装置1Aの構造を示す分解斜視図である。この車両用係止装置1Aは、荷室内に積載された荷物を固定するためのネットに設けられたネットフック等を係止可能な係止部(U字形フック2)と、U字形フック2を回動可能に軸支するシャフト3と、U字形フック2をシャフト3の周方向に回動付勢する第1の付勢部材(回動バネ4)と、U字形フック2の回動速度を制御するダンパー5と、第2の付勢部材(押しバネ6)の付勢によってU字形フック2に係止し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2の回動を規制する規制部材7と、使用者の操作によって所定方向に変位し、規制部材7のU字形フック2に対する規制を解除させる操作手段(ボタン8)と、規制部材7及びボタン8の動きを案内する案内部材9と、これら各部材を収容するハウジング10と、を有する。以下、各部材について具体的に説明する。
【0018】
U字形フック2は、ネットフックやネット自体、或いはロープなどを引っ掛けることが可能な掛止部2aと、掛止部2aの両端から略直角に延出された一対のアーム2b、2b’とを有し、全体として略U字形の平面形状を有する。各アーム2b、2b’の端部には、シャフト3が回転自在に挿入される挿入孔2cがそれぞれ形成されている。さらに、一方のアーム2bの挿入孔2cの周縁には、他方のアーム2b’へ向かって延存する筒部2dが一体に形成されており、該筒部2dの内部空間はアーム2bの挿入孔2cと連通している。また、掛止部2aには、規制部材7に突設されている係止突起7aが係止可能な凹溝2eが形成されている(図4参照)。U字形フック2の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、比較的軽量で剛性の高いアルミニウムの鋳造品が好適に用いられる。また、本発明の係止部は、上記構成を備え、かつ、ネットフックやネット自体、或いはロープなどを引っ掛けることが可能であれば、その形状はU字形に限定されない。
【0019】
U字形フック2は、ハウジング10の端部に形成された耳部10aに開口されている貫通孔10bと連通した挿入孔2cにシャフト3が挿入されることによって、ハウジング10に軸支されている。ハウジング10に軸支されたU字形フック2は、格納位置にあるときにボタン8が押されると、シャフト3に巻装されている回動バネ4の付勢によって使用位置まで自動的に回動し、略垂直に起き上がる。一方、使用位置にあるU字形フック2は、使用者によって格納位置まで回動されると、規制部材7による規制を受けて格納位置に自動的に固定される。ここで、格納位置とは、U字形フック2がハウジング10に形成された台座10c上に倒伏し、U字形フック2の表面と案内部材9の表面とが略面一となった状態を意味する。また、使用位置とは、U字形フック2がハウジング10に対して略垂直に起立した状態を意味する。図2にU字形フック2が格納位置にあるときの外観斜視図を示し、図3にU字形フック2が使用位置にあるときの外観斜視図を示す。尚、U字形フック2を格納位置と使用位置との間で上記のように回動させるための具体的機構及びその動作については後に詳述する。
【0020】
再び図1を参照すると、ボタン8は、当該車両用係止装置1Aの上面に露出し、使用者によって押圧される押圧面8aと、押圧面8aの両側部から下方に向けて延出された脚部8bとを有する。さらに、脚部8bには、規制部材7に形成されている斜面7bと当接可能な角度に形成された斜面8cが形成されている。ボタン8の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、ナイロンの射出成形品が好適に用いられる。
【0021】
前述した通り、規制部材7には、U字形フック2の掛止部2aに形成された凹溝2eに係止可能な係止突起7aが形成されていると共に、ボタン8の斜面8cと当接可能な斜面7bが形成されている。さらに、規制部材7は、該規制部材7が所定位置に存在するときに、U字形フック2の筒部2dに当接するように形成された凸部7cを備えている。また、規制部材7には、ハウジング10の係止鍔部10hと係止可能な係止突起7dが形成されている。規制部材7の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、ABS樹脂の射出成形品が好適に用いられる。
【0022】
案内部材9は、規制部材7及びボタン8を内蔵可能な中空構造を有し、ボタン8を上下方向に往復スライド可能に、規制部材7を左右方向(ボタン8のスライド方向と直交する方向)に往復スライド可能にガイドする。さらに、案内部材9内には、規制部材7を格納位置にあるU字形フック2の掛止部2aに向けて常時付勢する押しバネ6が内蔵されている。この押しバネ6によって付勢された規制部材7の係止突起7aは、格納位置にあるU字形フック2の凹溝2eに嵌合し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2を格納位置に固定する。さらに、案内部材9には、ハウジング10の隔壁10eの両内面に形成された凹溝10gに係止することによって、該案内部材9をハウジング10に固定する一対の弾性係止爪9aが形成されている。案内部材9の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、充填材としてタルクを20%含むポリプロピレン樹脂の射出成形品が好適に用いられる。
【0023】
ハウジング10は、既に言及した構成に加えて、規制部材7やボタン8等が内蔵された案内部材9を収容可能な凹部10dを形成する隔壁10eを有する。そして、前述した台座10cは、隔壁10eの外側に設けられ、格納位置にあるU字形フック2は該台座10cの上に載置される。さらに、ハウジング10の底面には、当該車両用係止装置1Aを車体内部の所定位置に固定するためのボルト11が挿入されるボルト穴(不図示)が形成されている。また、ハウジング10の底面には、位置決め突起10fが突設されており、該位置決め突起10fを車両内部の所定位置に形成された嵌合孔に挿入固定することによって、当該車両用係止装置1Aを確実に位置決めし、ガタツキや異音の発生を防止することができるようになっている。
【0024】
次に、図4〜図7を参照しながら当該車両用係止装置1Aの動作について説明する。図4は、図2のA−A断面図、即ち、U字形フック2が格納位置にあるときの車両用係止装置1Aの縦断面図である。図5は、ボタン8が押し込まれた状態の車両用係止装置1Aの外観斜視図である。図6は、図5のB−B断面図である。図7は、図3のC−C断面図、即ち、U字形フック2が使用位置にあるときの車両用係止装置1Aの縦断面図である。
【0025】
図4を参照すると、U字形フック2が格納位置にあるとき、押しバネ6によって付勢された規制部材7の係止突起7aは、掛止部2aの凹溝2eに係止(嵌合)している。これによって、U字形フック2は回動バネ4の付勢に抗して格納位置に固定される。このとき、回転バネ4の付勢力がU字形フック2を介して規制部材7の係止突起7aに伝達されるが、係止突起7dがハウジング10の係止鍔部10hに係合することによって、回転バネ4の付勢力を受け止める構造となっている。従って、案内部材9には、付勢力がほとんど伝達されず、ハウジング10に対して案内部材9がガタツくことはない。図4に示すボタン8を図5、図6に示すように押し込むと、ボタン8の脚部8bに形成されている斜面8cと、該斜面8cと略平行に形成されている規制部材7の斜面7bとが互いに摺動し、ボタン8は下方へ変位する。すると、規制部材7が案内部材9の内部において、U字形フック2の掛止部2aから離間する方向(ボタン8の押し込み方向と直交する方向)にスライドし、係止突起7aと凹溝2eとの係止が解除される。この結果、U字形フック2は、回動バネ4(図4)の付勢によって回動を開始する。その後、U字形フック2が中間位置(格納位置と使用位置との間に設定された任意の位置であり、本例では図6に示す位置)まで回動すると、U字形フック2の筒部2dに形成されている平坦面2fが規制部材7に形成されている凸部7cに当接し、U字形フック2の回動が一端停止する。これにより、使用者がボタン8を押し込み、U字形フック2を使用位置まで回動させる操作をする際に、ボタン8を押している使用者の指にU字形フック2が当たって怪我をしたり、不快感を抱いたりすることが回避される。さらに、U字形フック2の回転軸となるシャフト3には前述のダンパー5(図1)が組み付けられているので、U字形フック2の回動速度を連続的に、或いは段階的に調整することが可能である。
【0026】
U字形フック2の回動が上記のようにして一端停止した後にボタン8の押し込みが解除されると、規制部材7は押しバネ6(図4)による付勢によってU字形フック2の筒部2dから離間する方向へスライドするので(図4に示す位置に復帰するので)、凸部7cと平坦面2fとの係止が解除される。この結果、U字形フック2は再び回動を開始し、図7に示すように、使用位置まで回動して停止する。
【0027】
ここで、U字形フック2の筒部2dに、図8に示すような凹部2gを形成し、その凹部2gの底面を同図に示すようなテーパ面2hとすると共に、規制部材7の凸部7cをテーパ面2hに係合可能な鍵爪形状とすることによって、U字形フック2の回動を一端停止させることもできる。図8に示す構成によれば、筒部2dに形成された平坦面2fに凸部7cを当接させる上記構成に比べて誤動作が減少する。尚、図6に図示されている凸部7cと、図8に図示されている凸部7cとでは、その形状及び位置が異なっている。しかし、かかる相違は、当接・係止相手である筒部2dの変更に伴うものであって、本発明の本質に関わる差異ではない。よって、凸部7cやこれが当接・係止する筒部2dの形状や構造は、図示されている形状や構造に限定されるものではなく、図示されているものはあくまで一例に過ぎない。
【0028】
図2、図4に最も端的に示されているように、本例の車両用係止装置1Aでは、U字形フック2が格納位置にあるとき、該U字形フック2の表面と案内部材9及びボタン8の表面とが略面一となる。即ち、車両用係止装置1Aの上面が面一になる。従って、車体パネルや車体パネルを覆う内装部材に予め形成された凹部に当該車両用係止装置1Aを埋め込むことによって、車室内に凹凸を形成することなく、荷物固定用のネットやロープ等を係止するためのフックを荷室内に装備することが可能となる。このことは、荷室内の美観を向上させると共に、荷室内に荷物を積載する際に、係止装置の一部が荷物と干渉して係止装置や荷物を傷付けたり、変形させたりする虞がないという優れた効果をもたらす。加えて、ボタン8を押し込むだけで格納位置にあるU字形フック2を使用位置まで自動的に回動させることができる。よって、従来の係止装置のように、フックを摘み出し、さらに使用位置まで回動させるといった面倒で煩わしい操作が不要となり、利便性が極めて向上する。さらには、低コストでありながら高級感を演出することも可能となる。
(実施形態2)
本発明の車両用係止装置の実施形態の他例について図9〜図11を参照して説明する。もっとも、本例の車両用係止装置1Bの基本構成は、上記実施形態1の車両用係止装置1Aのそれと同一である。よって、同一の構成については、図9〜図11中に同一の符号を付して説明を省略し、ここでは相違点についてのみ詳細に説明する。
【0029】
本例の車両用係止装置1Bと実施形態1の車両用係止装置1Aとの主な相違点は、U字形フック2を回動及び停止させるための機構である。本例では、U字形フック2の挿入孔2cに挿入されたシャフト3が該挿入孔2cに固定され、そのシャフト3の端部がハウジング10の耳部10aに回転自在に保持されている。即ち、実施形態1におけるU字形フック2は、ハウジング10に固定されたシャフト3を回転軸として回動したが、本例では、シャフト3がU字形フック2に固定されており、シャフト3はU字形フック2と共に回転(自転)する。そして、上記のようにしてハウジング10に対して回動可能に組み付けられたU字形フック2は、ボタン8の操作に連動してスライドする可動部材20によって回動され、所定角度まで起き上がる。以下、かかる機構についてより具体的に説明する。
【0030】
図9に示すように、可動部材20の側部には、規制部材7の斜面7bと同様の斜面20bが形成されている。加えて、可動部材20には、規制部材7には設けられていない押し部20cが設けられている。可動部材20は、押しバネ6の付勢によって格納位置にあるU字形フック2の掛止部2aの方向に常時付勢されており、図10に示すように、ボタン8が押し込まれていない状態では、押し部20cがU字形フック2から離間している。一方、ボタン8が押し込まれると、該ボタン8の脚部8bに形成されている斜面8cと、可動部材20に形成されている斜面20bとが互いに摺動し、ボタン8が下方へ変位する。すると、可動部材20には、下方に変位したボタン8によって押しバネ6の付勢方向と反対方向の応力が加えられる。この結果、図11に示すように、可動部材20が押しバネ6(図9)の付勢に抗してU字形フック2の掛止部2aから離間する方向(U字形フックの筒部2dに近接する方向)にスライドし、押し部20cが筒部2dに当接する。さらにボタン8が押し込まれると、押し部20cが筒部2dに押圧され、筒部20dには、U字形フック2を使用位置方向へ回動させようとする応力が付与される。以上によって、ハウジング10の台座10c上に倒伏していたU字形フック2(格納位置にあったU字形フック2)が回動して所定位置まで起き上がる。その後は、起き上がったU字形フック2を指で摘んで使用位置まで回動させればよい。
【0031】
尚、本例では、筒部2dがU字形フック2のアーム2b’に形成されており、その外周面には、押し部20cが当接する受け部2d’が突設されている。一方、実施形態1では、アーム2b’とは反対側のアーム2bに筒部2dが形成されていた。もっとも、筒部2dを何れのアームに形成するかは本質的事項でなく、本例における筒部2dをアーム2bに形成することもできる。
【0032】
さらに、本例の車両用係止装置1Bには、ボタン8の押し込みを解除してもU字形フック2をその回動位置で保持する保持手段が設けられている。具体的には、図9に示すように、シャフト3に断面略U字形の板バネ21が組み付けられている。この板バネ21は、自己の弾性復元力によってシャフト3に外周面に圧接し、シャフト3の回転を規制する。即ち、ボタン8の押し込みが解除され、U字形フック2がその自重で格納位置方向に倒伏(回動)しようとすると、シャフト3には回転トルクが作用する。しかし、シャフト3は板バネ21に挟み込まれて固定されているので回転せず、U字形フック2の回動が規制される。
【0033】
尚、板バネ21はシャフト3の回転を常時規制しているが、ボタン8を押し込むことによって、板バネ21の規制を破ってU字形フック2(シャフト3)を回動させることが可能であることは勿論である。換言すれば、板バネ21によるシャフト3の固定力は、U字形フック2の自重程度の回転トルクではシャフト3の回転を許さないが、それ以上の回転トルクが作用したときにはシャフト3の回転を許容する程度に設定されている。かかる構成によれば、ボタン8の押し込み量を変化させることによって、U字形フック2の起き上がり量(回動量)を調整することも可能となる。
【0034】
もっとも、ボタン8の押し込みを維持したたままでU字形フック2を摘まんでしまえば、U字形フックが自重で倒伏することはない。よって、上記保持手段は利便性の更なる向上を目的とするものであって、省略することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1の車両用係止装置の分解斜視図である。
【図2】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、U字形フックが格納位置にあるときの図である。
【図3】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、U字形フックが使用位置にあるときの図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【図5】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、ボタンが押し込まれたときの図である。
【図6】図5のB−B断面図である。
【図7】図3のC−C断面図である。
【図8】筒部及び凸部の一変形例を示す図である。
【図9】実施形態2の車両用係止装置の分解斜視図である。
【図10】実施形態2の車両用係止装置の断面図であって、U字形フックが格納位置にあるときの図である。
【図11】実施形態2の車両用係止装置の断面図であって、U字形フックの一部が収容凹部から突出した状態の図である。
【図12】従来の車両用係止装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1A、1B 車両用係止装置
2 U字形フック
3 シャフト
4 回動バネ
5 ダンパー
6 押しバネ
7 規制部材
8 ボタン
9 案内部材
10 ハウジング
20 可動部材
21 板バネ
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷崩れ防止ネットやロープ、それらに設けられているフックその他の係止具を係止させる目的で車両内に備え付けられる車両用係止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両内、特に荷室には、荷崩れ防止ネット(以下、「ネット」と略すこともある)やロープ、それらに設けられているフックその他の係止具を係止させる目的で車両用係止装置が備え付けられることが多い。例えば、ネットの四隅に設けられたフックを係止可能なU字形フックを備えた車両係止装置が車両内壁面やフロア面に備え付けられることが多い。即ち、荷室に積載された荷物をネットで覆って押さえ、そのネットの四隅に設けられているフックを車両係止装置のU字形フックに引っ掛けてネットを固定することによって、荷室に積載された荷物の移動を防止することが可能である。このとき、ネットが柔軟で弾性を有する材料で形成されていれば、比較的嵩高な荷物であっても、その全体を覆ってあらゆる方向への移動を規制し、確実に固定することができる。
【0003】
上記のような車両用係止装置の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている車両用係止装置の概略を図12に示す。この車両用係止装置は、車体パネルに取り付けられるハウジング30と、ハウジング30に回動可能に軸支された係留部31(前記U字形フックに相当)とを備えている。ハウジング30には、係留部31が収納位置に配置された時に、その係留部31を囲み込む凹所32が設けられている。さらに、係留部31には、該係留部31が使用位置に配置された際に略垂直方向に伸びる突部33が形成されている。この突部33は、係留部31が収納位置に配置された際にハウジング30の底部に当接し、係留部31の回動を規制するストッパとして機能する。かかる突部33の存在によって、収納位置における係留部31は、ハウジング30の表面と略同一平面に保持され、積載物が係留部31の表面に衝突したり、衝撃で不用意にハウジング30内にめり込んだり、或いはハウジング30から跳ね上がるといった事態が回避される。
【特許文献1】特開2002−339939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用係止装置では、該装置とそれが装着される車両内装材とに統一感を持たせデザイン性を向上させるために、また、積載物とU字形フックとが干渉しないようにするために、不使用時のU字形フックをハウジング内に埋没させて車室内側へ突出させない構成が採用されている。特許文献1に開示されている車両用係止装置でも、収納位置における係留部31は、該係留部31と略同一寸法に形成されたハウジング30の凹所32内に完全に格納され、係留部31の外周はハウジング30によって囲まれた状態となる。
【0005】
従来の車両用係止装置は上記のような構成を有するため、U字形フックをハウジングから取り出して使用位置まで回動させる作業が非常に煩わしいものであった。即ち、U字形フックがハウジング内に埋没した状態では、ハウジングからU字形フックを取り出す際の手掛かりとなるものがなく、U字形フックの取り出しが非常に困難であった。かかる課題を解消すべく、特許文献1に開示されている車両用係止装置では、係留部31に突起34を形成すると共に、ハウジング30の端部に切欠35を形成している(図12参照)。しかし、かかる突起34や切欠35を大きくすると、積載物と干渉して破損や変形を招く虞がある。一方で突起34や切欠35を小さくすると、係留部31の取り出しの困難性が解消されず、所期の目的が達成されない。また、車両係止装置は、最低でも荷室内の4箇所に設けられるのが普通であり、それら複数の車両用係止装置の係留部を全て手動で取り出す作業は非常に煩わしく、利便性の更なる向上が求められていた。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車室内側に突出することなく格納されている係止部を使用位置まで回動させる際の操作性が良好で利便性に優れた車両用係止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の車両用係止装置は、ハウジングと、該ハウジングに格納位置と使用位置との間で回動可能なるように設けられた係止部とを有する車両用係止装置において、格納位置にある係止部を使用位置に向けて回動させる回動手段を備えたことを特徴とする。かかる特徴を有する本発明の車両用係止装置によれば、該装置とそれが装着される車両内面とを面一として積載物等との干渉を回避し、かつ、デザイン性を向上させることが可能なばかりでなく、係止部を摘まみ出し易くするために、突起や切欠などを設ける必要性もなくなる。
【0008】
前記回動手段の一例として、格納位置にある係止部が使用位置に向けて回動されるように該係止部を付勢する付勢部材と、格納位置にある係止部に係止し、付勢部材による付勢に抗して係止部の回動を規制する規制部材と、規制部材を変位させ、該規制部材と係止部との係止を解除させる操作手段と、から構成された第1の回動手段が挙げられる。かかる回動手段によれば、操作手段を操作するだけで、格納位置にある係止部を使用位置まで自動的に回動させることができる。
【0009】
また、前記第1の回動手段を構成する操作手段は、所定方向に往復変位可能であって、一方向に変位した際に該変位方向と交差する方向に規制部材を変位させるものであることが望ましい。
【0010】
また、前記第1の回動手段は、規制部材が係止部に係止するように、該規制部材を付勢する第2の付勢部材をさらに有し、前記操作手段は、第2の付勢部材による付勢に抗して規制部材を変位させるものであることが望ましい。
【0011】
また、格納位置と使用位置との間で係止部の回動を一時停止させる停止手段をさらに備えることが望ましい。この停止手段は、係止部が格納位置と使用位置との間に設定された所定位置まで回動すると、該係止部に係止するように前記規制部材に突設された凸部であることが望ましい。
【0012】
前記回動手段の他例として、格納位置にある係止部が使用位置に向けて回動されるように該係止部に応力を付与する可動部材と、その可動部材を動作させる操作手段と、から構成された第2の回動手段が挙げられる。かかる回動手段によれば、使用位置に向けて回動した(起き上がった)係止部を摘まんで使用位置まで容易に回動させることが可能であり、係止部を摘まみ出し易くするために、突起や切欠などを設ける必要がなくなる。さらに、係止部を起き上がらせるための操作は、操作手段を操作するだけの簡便な作業で済む。
【0013】
前記第2の回動手段を構成する可動部材は、操作手段によって所定方向に変位させられると、係止部に応力を付与して該係止部を回動させる(起き上がらせる)ものであることが望ましい。
【0014】
また、可動部材を付勢する付勢部材をさらに備え、前記操作手段は、付勢手段による付勢に抗して可動部材を所定方向に変位させるものであることが望ましい。
【0015】
また、前記第2の回動手段によって回動された係止部をその位置で保持する保持手段をさらに備えることが望ましい。この保持手段としては、ハウジングに回転自在に保持され、係止部の回動に伴って回転する回転軸に接触して該回転軸の回転を規制することによって、係止部を任意の回動位置で保持するものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車室内側に突出することなく格納されている係止部を使用位置まで回動させる際の操作性が良好であり、極めて利便性に優れた車両用係止装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明の車両用係止装置の実施形態の一例について図面を参照しながら説明する。図1は、本例の車両用係止装置1Aの構造を示す分解斜視図である。この車両用係止装置1Aは、荷室内に積載された荷物を固定するためのネットに設けられたネットフック等を係止可能な係止部(U字形フック2)と、U字形フック2を回動可能に軸支するシャフト3と、U字形フック2をシャフト3の周方向に回動付勢する第1の付勢部材(回動バネ4)と、U字形フック2の回動速度を制御するダンパー5と、第2の付勢部材(押しバネ6)の付勢によってU字形フック2に係止し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2の回動を規制する規制部材7と、使用者の操作によって所定方向に変位し、規制部材7のU字形フック2に対する規制を解除させる操作手段(ボタン8)と、規制部材7及びボタン8の動きを案内する案内部材9と、これら各部材を収容するハウジング10と、を有する。以下、各部材について具体的に説明する。
【0018】
U字形フック2は、ネットフックやネット自体、或いはロープなどを引っ掛けることが可能な掛止部2aと、掛止部2aの両端から略直角に延出された一対のアーム2b、2b’とを有し、全体として略U字形の平面形状を有する。各アーム2b、2b’の端部には、シャフト3が回転自在に挿入される挿入孔2cがそれぞれ形成されている。さらに、一方のアーム2bの挿入孔2cの周縁には、他方のアーム2b’へ向かって延存する筒部2dが一体に形成されており、該筒部2dの内部空間はアーム2bの挿入孔2cと連通している。また、掛止部2aには、規制部材7に突設されている係止突起7aが係止可能な凹溝2eが形成されている(図4参照)。U字形フック2の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、比較的軽量で剛性の高いアルミニウムの鋳造品が好適に用いられる。また、本発明の係止部は、上記構成を備え、かつ、ネットフックやネット自体、或いはロープなどを引っ掛けることが可能であれば、その形状はU字形に限定されない。
【0019】
U字形フック2は、ハウジング10の端部に形成された耳部10aに開口されている貫通孔10bと連通した挿入孔2cにシャフト3が挿入されることによって、ハウジング10に軸支されている。ハウジング10に軸支されたU字形フック2は、格納位置にあるときにボタン8が押されると、シャフト3に巻装されている回動バネ4の付勢によって使用位置まで自動的に回動し、略垂直に起き上がる。一方、使用位置にあるU字形フック2は、使用者によって格納位置まで回動されると、規制部材7による規制を受けて格納位置に自動的に固定される。ここで、格納位置とは、U字形フック2がハウジング10に形成された台座10c上に倒伏し、U字形フック2の表面と案内部材9の表面とが略面一となった状態を意味する。また、使用位置とは、U字形フック2がハウジング10に対して略垂直に起立した状態を意味する。図2にU字形フック2が格納位置にあるときの外観斜視図を示し、図3にU字形フック2が使用位置にあるときの外観斜視図を示す。尚、U字形フック2を格納位置と使用位置との間で上記のように回動させるための具体的機構及びその動作については後に詳述する。
【0020】
再び図1を参照すると、ボタン8は、当該車両用係止装置1Aの上面に露出し、使用者によって押圧される押圧面8aと、押圧面8aの両側部から下方に向けて延出された脚部8bとを有する。さらに、脚部8bには、規制部材7に形成されている斜面7bと当接可能な角度に形成された斜面8cが形成されている。ボタン8の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、ナイロンの射出成形品が好適に用いられる。
【0021】
前述した通り、規制部材7には、U字形フック2の掛止部2aに形成された凹溝2eに係止可能な係止突起7aが形成されていると共に、ボタン8の斜面8cと当接可能な斜面7bが形成されている。さらに、規制部材7は、該規制部材7が所定位置に存在するときに、U字形フック2の筒部2dに当接するように形成された凸部7cを備えている。また、規制部材7には、ハウジング10の係止鍔部10hと係止可能な係止突起7dが形成されている。規制部材7の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、ABS樹脂の射出成形品が好適に用いられる。
【0022】
案内部材9は、規制部材7及びボタン8を内蔵可能な中空構造を有し、ボタン8を上下方向に往復スライド可能に、規制部材7を左右方向(ボタン8のスライド方向と直交する方向)に往復スライド可能にガイドする。さらに、案内部材9内には、規制部材7を格納位置にあるU字形フック2の掛止部2aに向けて常時付勢する押しバネ6が内蔵されている。この押しバネ6によって付勢された規制部材7の係止突起7aは、格納位置にあるU字形フック2の凹溝2eに嵌合し、回動バネ4による付勢に抗してU字形フック2を格納位置に固定する。さらに、案内部材9には、ハウジング10の隔壁10eの両内面に形成された凹溝10gに係止することによって、該案内部材9をハウジング10に固定する一対の弾性係止爪9aが形成されている。案内部材9の材質や製法は特定の材質や製法に限定されるものではないが、充填材としてタルクを20%含むポリプロピレン樹脂の射出成形品が好適に用いられる。
【0023】
ハウジング10は、既に言及した構成に加えて、規制部材7やボタン8等が内蔵された案内部材9を収容可能な凹部10dを形成する隔壁10eを有する。そして、前述した台座10cは、隔壁10eの外側に設けられ、格納位置にあるU字形フック2は該台座10cの上に載置される。さらに、ハウジング10の底面には、当該車両用係止装置1Aを車体内部の所定位置に固定するためのボルト11が挿入されるボルト穴(不図示)が形成されている。また、ハウジング10の底面には、位置決め突起10fが突設されており、該位置決め突起10fを車両内部の所定位置に形成された嵌合孔に挿入固定することによって、当該車両用係止装置1Aを確実に位置決めし、ガタツキや異音の発生を防止することができるようになっている。
【0024】
次に、図4〜図7を参照しながら当該車両用係止装置1Aの動作について説明する。図4は、図2のA−A断面図、即ち、U字形フック2が格納位置にあるときの車両用係止装置1Aの縦断面図である。図5は、ボタン8が押し込まれた状態の車両用係止装置1Aの外観斜視図である。図6は、図5のB−B断面図である。図7は、図3のC−C断面図、即ち、U字形フック2が使用位置にあるときの車両用係止装置1Aの縦断面図である。
【0025】
図4を参照すると、U字形フック2が格納位置にあるとき、押しバネ6によって付勢された規制部材7の係止突起7aは、掛止部2aの凹溝2eに係止(嵌合)している。これによって、U字形フック2は回動バネ4の付勢に抗して格納位置に固定される。このとき、回転バネ4の付勢力がU字形フック2を介して規制部材7の係止突起7aに伝達されるが、係止突起7dがハウジング10の係止鍔部10hに係合することによって、回転バネ4の付勢力を受け止める構造となっている。従って、案内部材9には、付勢力がほとんど伝達されず、ハウジング10に対して案内部材9がガタツくことはない。図4に示すボタン8を図5、図6に示すように押し込むと、ボタン8の脚部8bに形成されている斜面8cと、該斜面8cと略平行に形成されている規制部材7の斜面7bとが互いに摺動し、ボタン8は下方へ変位する。すると、規制部材7が案内部材9の内部において、U字形フック2の掛止部2aから離間する方向(ボタン8の押し込み方向と直交する方向)にスライドし、係止突起7aと凹溝2eとの係止が解除される。この結果、U字形フック2は、回動バネ4(図4)の付勢によって回動を開始する。その後、U字形フック2が中間位置(格納位置と使用位置との間に設定された任意の位置であり、本例では図6に示す位置)まで回動すると、U字形フック2の筒部2dに形成されている平坦面2fが規制部材7に形成されている凸部7cに当接し、U字形フック2の回動が一端停止する。これにより、使用者がボタン8を押し込み、U字形フック2を使用位置まで回動させる操作をする際に、ボタン8を押している使用者の指にU字形フック2が当たって怪我をしたり、不快感を抱いたりすることが回避される。さらに、U字形フック2の回転軸となるシャフト3には前述のダンパー5(図1)が組み付けられているので、U字形フック2の回動速度を連続的に、或いは段階的に調整することが可能である。
【0026】
U字形フック2の回動が上記のようにして一端停止した後にボタン8の押し込みが解除されると、規制部材7は押しバネ6(図4)による付勢によってU字形フック2の筒部2dから離間する方向へスライドするので(図4に示す位置に復帰するので)、凸部7cと平坦面2fとの係止が解除される。この結果、U字形フック2は再び回動を開始し、図7に示すように、使用位置まで回動して停止する。
【0027】
ここで、U字形フック2の筒部2dに、図8に示すような凹部2gを形成し、その凹部2gの底面を同図に示すようなテーパ面2hとすると共に、規制部材7の凸部7cをテーパ面2hに係合可能な鍵爪形状とすることによって、U字形フック2の回動を一端停止させることもできる。図8に示す構成によれば、筒部2dに形成された平坦面2fに凸部7cを当接させる上記構成に比べて誤動作が減少する。尚、図6に図示されている凸部7cと、図8に図示されている凸部7cとでは、その形状及び位置が異なっている。しかし、かかる相違は、当接・係止相手である筒部2dの変更に伴うものであって、本発明の本質に関わる差異ではない。よって、凸部7cやこれが当接・係止する筒部2dの形状や構造は、図示されている形状や構造に限定されるものではなく、図示されているものはあくまで一例に過ぎない。
【0028】
図2、図4に最も端的に示されているように、本例の車両用係止装置1Aでは、U字形フック2が格納位置にあるとき、該U字形フック2の表面と案内部材9及びボタン8の表面とが略面一となる。即ち、車両用係止装置1Aの上面が面一になる。従って、車体パネルや車体パネルを覆う内装部材に予め形成された凹部に当該車両用係止装置1Aを埋め込むことによって、車室内に凹凸を形成することなく、荷物固定用のネットやロープ等を係止するためのフックを荷室内に装備することが可能となる。このことは、荷室内の美観を向上させると共に、荷室内に荷物を積載する際に、係止装置の一部が荷物と干渉して係止装置や荷物を傷付けたり、変形させたりする虞がないという優れた効果をもたらす。加えて、ボタン8を押し込むだけで格納位置にあるU字形フック2を使用位置まで自動的に回動させることができる。よって、従来の係止装置のように、フックを摘み出し、さらに使用位置まで回動させるといった面倒で煩わしい操作が不要となり、利便性が極めて向上する。さらには、低コストでありながら高級感を演出することも可能となる。
(実施形態2)
本発明の車両用係止装置の実施形態の他例について図9〜図11を参照して説明する。もっとも、本例の車両用係止装置1Bの基本構成は、上記実施形態1の車両用係止装置1Aのそれと同一である。よって、同一の構成については、図9〜図11中に同一の符号を付して説明を省略し、ここでは相違点についてのみ詳細に説明する。
【0029】
本例の車両用係止装置1Bと実施形態1の車両用係止装置1Aとの主な相違点は、U字形フック2を回動及び停止させるための機構である。本例では、U字形フック2の挿入孔2cに挿入されたシャフト3が該挿入孔2cに固定され、そのシャフト3の端部がハウジング10の耳部10aに回転自在に保持されている。即ち、実施形態1におけるU字形フック2は、ハウジング10に固定されたシャフト3を回転軸として回動したが、本例では、シャフト3がU字形フック2に固定されており、シャフト3はU字形フック2と共に回転(自転)する。そして、上記のようにしてハウジング10に対して回動可能に組み付けられたU字形フック2は、ボタン8の操作に連動してスライドする可動部材20によって回動され、所定角度まで起き上がる。以下、かかる機構についてより具体的に説明する。
【0030】
図9に示すように、可動部材20の側部には、規制部材7の斜面7bと同様の斜面20bが形成されている。加えて、可動部材20には、規制部材7には設けられていない押し部20cが設けられている。可動部材20は、押しバネ6の付勢によって格納位置にあるU字形フック2の掛止部2aの方向に常時付勢されており、図10に示すように、ボタン8が押し込まれていない状態では、押し部20cがU字形フック2から離間している。一方、ボタン8が押し込まれると、該ボタン8の脚部8bに形成されている斜面8cと、可動部材20に形成されている斜面20bとが互いに摺動し、ボタン8が下方へ変位する。すると、可動部材20には、下方に変位したボタン8によって押しバネ6の付勢方向と反対方向の応力が加えられる。この結果、図11に示すように、可動部材20が押しバネ6(図9)の付勢に抗してU字形フック2の掛止部2aから離間する方向(U字形フックの筒部2dに近接する方向)にスライドし、押し部20cが筒部2dに当接する。さらにボタン8が押し込まれると、押し部20cが筒部2dに押圧され、筒部20dには、U字形フック2を使用位置方向へ回動させようとする応力が付与される。以上によって、ハウジング10の台座10c上に倒伏していたU字形フック2(格納位置にあったU字形フック2)が回動して所定位置まで起き上がる。その後は、起き上がったU字形フック2を指で摘んで使用位置まで回動させればよい。
【0031】
尚、本例では、筒部2dがU字形フック2のアーム2b’に形成されており、その外周面には、押し部20cが当接する受け部2d’が突設されている。一方、実施形態1では、アーム2b’とは反対側のアーム2bに筒部2dが形成されていた。もっとも、筒部2dを何れのアームに形成するかは本質的事項でなく、本例における筒部2dをアーム2bに形成することもできる。
【0032】
さらに、本例の車両用係止装置1Bには、ボタン8の押し込みを解除してもU字形フック2をその回動位置で保持する保持手段が設けられている。具体的には、図9に示すように、シャフト3に断面略U字形の板バネ21が組み付けられている。この板バネ21は、自己の弾性復元力によってシャフト3に外周面に圧接し、シャフト3の回転を規制する。即ち、ボタン8の押し込みが解除され、U字形フック2がその自重で格納位置方向に倒伏(回動)しようとすると、シャフト3には回転トルクが作用する。しかし、シャフト3は板バネ21に挟み込まれて固定されているので回転せず、U字形フック2の回動が規制される。
【0033】
尚、板バネ21はシャフト3の回転を常時規制しているが、ボタン8を押し込むことによって、板バネ21の規制を破ってU字形フック2(シャフト3)を回動させることが可能であることは勿論である。換言すれば、板バネ21によるシャフト3の固定力は、U字形フック2の自重程度の回転トルクではシャフト3の回転を許さないが、それ以上の回転トルクが作用したときにはシャフト3の回転を許容する程度に設定されている。かかる構成によれば、ボタン8の押し込み量を変化させることによって、U字形フック2の起き上がり量(回動量)を調整することも可能となる。
【0034】
もっとも、ボタン8の押し込みを維持したたままでU字形フック2を摘まんでしまえば、U字形フックが自重で倒伏することはない。よって、上記保持手段は利便性の更なる向上を目的とするものであって、省略することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態1の車両用係止装置の分解斜視図である。
【図2】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、U字形フックが格納位置にあるときの図である。
【図3】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、U字形フックが使用位置にあるときの図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【図5】実施形態1の車両用係止装置の外観斜視図であって、ボタンが押し込まれたときの図である。
【図6】図5のB−B断面図である。
【図7】図3のC−C断面図である。
【図8】筒部及び凸部の一変形例を示す図である。
【図9】実施形態2の車両用係止装置の分解斜視図である。
【図10】実施形態2の車両用係止装置の断面図であって、U字形フックが格納位置にあるときの図である。
【図11】実施形態2の車両用係止装置の断面図であって、U字形フックの一部が収容凹部から突出した状態の図である。
【図12】従来の車両用係止装置の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1A、1B 車両用係止装置
2 U字形フック
3 シャフト
4 回動バネ
5 ダンパー
6 押しバネ
7 規制部材
8 ボタン
9 案内部材
10 ハウジング
20 可動部材
21 板バネ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに、格納位置と使用位置との間で回動可能なるように設けられた係止部と、
前記格納位置にある前記係止部を前記使用位置に向けて回動させる回動手段と、
を有することを特徴とする車両用係止装置。
【請求項2】
前記回動手段が、前記係止部が前記使用位置に向けて回動されるように前記係止部を付勢する付勢部材と、
前記格納位置にある前記係止部に係止し、前記付勢部材による付勢に抗して前記係止部の回動を規制する規制部材と、
前記規制部材を変位させ、該規制部材と前記係止部との係止を解除可能な操作手段と、
から構成されることを特徴とする請求項1記載の車両用係止装置。
【請求項3】
前記操作手段は、所定方向に往復変位可能であって、一方向に変位した際に該変位方向と交差する方向に前記規制部材を変位させて、該規制部材と前記係止部との係止を解除させることを特徴とする請求項2記載の車両用係止装置。
【請求項4】
前記規制部材が前記係止部に係止するように、前記規制部材を付勢する第2の付勢部材を有し、前記操作手段は、前記第2の付勢部材による付勢に抗して前記規制部材を変位させることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用係止装置。
【請求項5】
前記格納位置と前記使用位置との間で前記係止部の回動を一時停止させる停止手段を有する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用係止装置。
【請求項6】
前記停止手段が、前記係止部が前記格納位置と前記使用位置との間の所定位置まで回動したときに該係止部に係止するように、前記規制部材に突設された凸部であることを特徴とする請求項5記載の車両用係止装置。
【請求項7】
前記回動手段が、前記格納位置にある前記係止部が前記使用位置に向けて回動されるように前記係止部を押圧する可動部材と、
前記可動部材を動作させる操作手段と、
から構成されることを特徴とする請求項1記載の車両用係止装置。
【請求項8】
前記可動部材は、前記操作手段によって所定方向に変位させられると、前記係止部が前記使用位置に向けて回動するように、該係止部に応力を付与することを特徴する請求項7記載の車両用係止装置。
【請求項9】
前記可動部材を付勢する付勢部材を有し、前記操作手段は、前記付勢手段による付勢に抗して前記可動部材を前記所定方向に変位させることを特徴とする請求項8記載の車両用係止装置。
【請求項10】
前記可動部材によって回動された前記係止部をその位置で保持する保持手段を有することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の車両用係止装置。
【請求項11】
前記ハウジングに回転自在に保持され、前記係止部の回動に伴って回転する回転軸を有し、前記保持手段は、前記回転軸に接触して該回転軸の回転を規制することによって前記可動部材により回動された前記係止部をその位置で保持することを特徴とする請求項10記載の車両用係止装置。
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに、格納位置と使用位置との間で回動可能なるように設けられた係止部と、
前記格納位置にある前記係止部を前記使用位置に向けて回動させる回動手段と、
を有することを特徴とする車両用係止装置。
【請求項2】
前記回動手段が、前記係止部が前記使用位置に向けて回動されるように前記係止部を付勢する付勢部材と、
前記格納位置にある前記係止部に係止し、前記付勢部材による付勢に抗して前記係止部の回動を規制する規制部材と、
前記規制部材を変位させ、該規制部材と前記係止部との係止を解除可能な操作手段と、
から構成されることを特徴とする請求項1記載の車両用係止装置。
【請求項3】
前記操作手段は、所定方向に往復変位可能であって、一方向に変位した際に該変位方向と交差する方向に前記規制部材を変位させて、該規制部材と前記係止部との係止を解除させることを特徴とする請求項2記載の車両用係止装置。
【請求項4】
前記規制部材が前記係止部に係止するように、前記規制部材を付勢する第2の付勢部材を有し、前記操作手段は、前記第2の付勢部材による付勢に抗して前記規制部材を変位させることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の車両用係止装置。
【請求項5】
前記格納位置と前記使用位置との間で前記係止部の回動を一時停止させる停止手段を有する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用係止装置。
【請求項6】
前記停止手段が、前記係止部が前記格納位置と前記使用位置との間の所定位置まで回動したときに該係止部に係止するように、前記規制部材に突設された凸部であることを特徴とする請求項5記載の車両用係止装置。
【請求項7】
前記回動手段が、前記格納位置にある前記係止部が前記使用位置に向けて回動されるように前記係止部を押圧する可動部材と、
前記可動部材を動作させる操作手段と、
から構成されることを特徴とする請求項1記載の車両用係止装置。
【請求項8】
前記可動部材は、前記操作手段によって所定方向に変位させられると、前記係止部が前記使用位置に向けて回動するように、該係止部に応力を付与することを特徴する請求項7記載の車両用係止装置。
【請求項9】
前記可動部材を付勢する付勢部材を有し、前記操作手段は、前記付勢手段による付勢に抗して前記可動部材を前記所定方向に変位させることを特徴とする請求項8記載の車両用係止装置。
【請求項10】
前記可動部材によって回動された前記係止部をその位置で保持する保持手段を有することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の車両用係止装置。
【請求項11】
前記ハウジングに回転自在に保持され、前記係止部の回動に伴って回転する回転軸を有し、前記保持手段は、前記回転軸に接触して該回転軸の回転を規制することによって前記可動部材により回動された前記係止部をその位置で保持することを特徴とする請求項10記載の車両用係止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−232008(P2007−232008A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52191(P2006−52191)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】
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