説明

車両用前照灯

【課題】 色収差を防止でき、光取り出し効率の高い車両用前照灯を提供することである。
【解決手段】 プロジェクタイプの車両用前照灯10は、主として半導体素子を備えた半導体光源20と、半導体光源20からの光を反射する回転楕円面系の反射面を有するリフレクタ30と、リフレクタ30からの光の一部を上端縁により遮光して、所定の配光パターンに適したカットオフラインを形成するように、リフレクタの第2の焦点F2付近に配置されたシェード40と、シェード40の上端縁近傍に焦点F3が位置するよう配置された投影レンズ50と、から構成される。半導体光源20が投影レンズ50の焦点F3を基準に光軸から下側に45°以下の範囲内で傾けられ、投影レンズ50の上側と下側に、下側の面積が大となる光分散部52,54を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用前照灯に関し、特に、半導体光源を利用したプロジェクタタイプの車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用前照灯として、バルブを利用したプロジェクタタイプの車両用前照灯が知られている。この種の車両用前照灯は、略楕円面形状が形成された第1の焦点と第2の焦点を有するリフレクタと、リフレクタの第1の焦点付近に配置された光源バルブと、リフレクタからの光を前方に出射する投影レンズと、投影レンズの後方側焦点付近に配置されたシェードを備えている。
【0003】
光源バルブが点灯されると、光源バルブからの光がリフレクタで反射される。反射光は、その一部がシェードでカットされ、投影レンズにより前方に出射され、すれ違いビームとして好適な配光パターンが形成される。
【0004】
しかしながら、投影レンズは非球面の凸レンズであるため、投影レンズの周縁で屈折された光ほど色収差が大きくなる。特に、色収差は、反射光がシェードで一部カットされることから、配光パターンのカットオフラインに現れ、カットオフラインでの明瞭さを悪くするという問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1には、投影レンズの上下に局部的屈折部材を設けることで、色収差の作用を減少させることが提案されている。
【特許文献1】特開昭62−62001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、発光ダイオードに代表される半導体素子が低消費電力であり、近年の半導体素子の高出力化、及び白色化に伴い、車両用前照灯の光源として利用されるようになってきた。
【0007】
半導体素子を光源とする場合、一般的、白色光は青色発光LEDと黄色発光蛍光体を組み合わせることで実現される。そのため、光源バルブに比較して、シェードでカットされた反射光に含まれる青色光が投影レンズの周縁で大きく屈折し、カットオフラインに現れるという問題があった。
【0008】
また、半導体光源においては、半導体光源からの光を効率よく投影レンズから出射することが重要となっている。
【0009】
しかし、特許文献1の車両用前照灯では、半導体光源に特有のこれらの問題を解決するには充分でなかった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、色収差を防止でき、投影レンズからの光取り出し効率が高い車両用前照灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の車両用前照灯は、半導体素子を備えた半導体光源と、前記半導体光源の近傍に第1の焦点が位置し、前記半導体光源からの光が第2の焦点に向かって反射するように形成された回転楕円面系の反射面を有するリフレクタと、前記リフレクタからの光の一部を上端縁により遮光して、所定の配光パターンに適したカットオフラインを形成するように、前記リフレクタの第2の焦点付近に配置されたシェードと、前記シェードの上端縁近傍に焦点が位置するよう配置された投影レンズと、を備え、前記半導体光源が前記投影レンズの焦点を基準に光軸から下側に45°以下の範囲内で傾けられ、前記投影レンズは上側と下側に、下側の面積が大となる光分散部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、半導体光源を投影レンズの焦点近傍を基準に光軸から下側に45°以下の範囲内で傾けることで、リフレクタで反射される光量を多くでき、半導体光源からの光取り出し効率を向上することができる。また、リフレクタで反射される光量が多くなるので、投影レンズの光軸より上側から光をカットオフラインに集光できる。カットオフラインに青色光以外の光を照射することで、青色光の影響を小さくできる。
【0013】
さらに、投影レンズのに上下に大きさが非対称の光分散部を設けることで、投影レンズの周縁で色収差が生じるのを防止することができる。
【0014】
特に、下側の光分散部の大きさが、投影レンズに対して20%以上であることが好ましい。プロジェクタタイプの車両用前照灯では、シェードでカットされない光が投影レンズの下側から照射される。したがって、下側の光分散部の大きさを投影レンズに対して20%以上とすることで色収差の問題を少なくすることができる。
【0015】
本発明の車両用前照灯は、前記発明において、前記投影レンズが透明性を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、又はシクロオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0016】
投影レンズを熱可塑性樹脂と形成することで、形状の自由度が向上し、さらに車両用前照灯を軽量化することができる。
【0017】
本発明の車両用前照灯は、前記発明において、前記光分散部が前記投影レンズに一体成型されていることが好ましい。特に、光分散部には、シボ、微細プリズム形状、又は回折格子形状を投影レンズに一体形成することが好ましい。また、光分散部は、投影レンズの光出射面、光受光面の何れか一方、又は両方に形成することができる。
【0018】
光分散部が投影レンズに一体形成された場合、車両用前照灯の部品点数が増加せず、光分散部を投影レンズに取り付ける工程が不要となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、投影レンズの後方側焦点を基準に、光軸に対し45°以下の範囲内で半導体光源を下側に傾け、且つ投影レンズの上下に非対称の光分散部を設けることで、色収差を防止でき、投影レンズからの光取り出し効率が高い車両用前照灯を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行なうことができ、本実施形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0021】
図1は、本発明を適用したプロジェクタタイプの車両用前照灯の断面構造を示している。図1に示すように、車両用前照灯10は、少なくとも一つの半導体素子を搭載した半導体光源20と、半導体光源20からの光を前方に向かって反射させるリフレクタ30と、リフレクタ30からの光を一部遮光し所定の配光パターンを形成するシェード40と、シェード40で遮光されない光を前方に照射する投影レンズ50と、投影レンズ50を保持するハウジング60とから構成される。
【0022】
半導体光源20は、例えば、一つ又は複数の白色又は有色のLEDが配置されたLEDパッケージで構成される。半導体光源20で白色光を作り出すにはいくつかの方法がある。例えば、青色発光LEDを黄色発光蛍光体を含む樹脂で封止し、青色発光LEDからの青色光と青色光に励起された黄色発光蛍光体からの黄色光を混色することで、白色光を作り出すことができる。また、赤色発光LEDと緑色発光LEDと青色発光LEDを組み合わせて、三色を混色することで白色光を作り出すことができる。
【0023】
半導体光源20は、その発光光軸が回路基板22の表面に対し垂直となるよう回路基板22上に実装される。回路基板22は、後述する投影レンズ50の焦点F3近傍を基準に光軸に対して、回路基板22の後端が傾斜角αが45°以下の範囲内で傾けられた状態でヒートシンク24にネジ止め固定される。
【0024】
リフレクタ30は、回転楕円面系の反射面から構成されており、第1の焦点F1と第2の焦点F2、長軸を有している。半導体光源20は、第1の焦点F1の近傍に位置するよう配置される。リフレクタ30は、後述する投影レンズ50の焦点F3近傍を基準に光軸に対して、半導体光源20と同様に45°以下の範囲内で下側に傾けられる。リフレクタ30には、半導体光源20からの光を前方に導くため、略半円形状の開口部が投影レンズ50側に形成される。本実施例において反射面は長軸に対し上側にのみ形成される。
【0025】
シェード40は、リフレクタ30からの光を一部遮光し、例えばすれ違い配光に適した配光パターンとなるカットオフラインを形成するため、シェード40の上端縁が第2の焦点F2近傍に位置するよう配置される。シェード40は、投影レンズ50を保持するためのハウジング60に一体的に形成される。
【0026】
投影レンズ50は、その焦点F3がリフレクタ30の第2の焦点F2近傍に位置するようハウジング60で保持される。投影レンズ50の形状は、光受光面が平面で、光出射面が凸形状の平凸レンズ形状であっても、光受光面と光出射面が双方とも凸形状の両凸レンズ形状であっても良い。
【0027】
投影レンズ50は、その上側と下側に、下側の面積が大となる光分散部52,54を有している。光分散部52,54として、シボ、微細プリズム形状、又は回折格子形状が適用される。光分散部52,54は、投影レンズ50の光出射面、光受光面の何れか一方、又は両方に設けることができる。また、光分散部52,54は、投影レンズ50と別部材とし、投影レンズ50に取り付けることができる。また、光分散部52,54は、投影レンズ50と一体形成することもできる。一体形成とすることで、光分散部52,54を投影レンズ50に取り付ける工程が不要となる。また、部品点数が増加するのを防止できる。
【0028】
プロジェクタタイプの車両用前照灯では、シェード40でカットされない光が投影レンズ50の下側から照射される。したがって、下側の光分散部54の大きさを投影レンズ50に対して20%以上とすることで色収差の影響を少なくすることができる。
【0029】
半導体光源20の光は、光源バルブに比較して、熱を持たないので、投影レンズ50を、透明性を有する熱可塑性樹脂で形成することが可能となる。透明性を有する熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、又はシクロオレフィン樹脂を好適に使用することができる。熱可塑性樹脂性とすることで、投影レンズ50の形状を比較的自由に設計することができる。特に、投影レンズ50を熱可塑性樹脂とすることで、光分散部52,54を投影レンズ50に容易に一体形成することができる。
【0030】
次に、本発明の車両用前照灯10の動作について図1及び図2を参照して説明する。リフレクタ30の第1の焦点F1近傍に配置された半導体光源20からの光がリフレクタ30の反射面により反射され、第2の焦点F2に集光される。この場合、半導体光源20及びリフレクタ30が投影レンズ50の焦点を基準に光軸に対し、45°以下の範囲内で後端が下を向くよう斜めに配置されているので、リフレクタ30を長軸方向に関して比較的長く形成することができる。したがって、半導体光源20からの光のうち、リフレクタ30で反射される光量が増大することになり、半導体光源20からの光の利用効率が向上する。
【0031】
第2の焦点F2に集光された反射光は、シェード40の上端部によりその一部の光が遮光される。反射光の残り光が投影レンズ50により前方に出射され、図2に示すような、すれ違い配光に適したカットオフラインCLを有する配光パターンが形成される。
【0032】
従来において、シェード40が投影レンズ50とリフレクタ30の間に配置されると、リフレクタ30からの光は主として投影レンズ50の光軸より下側を通過する。このとき波長の短い光、例えば青色光はより大きく屈折される。その色収差にる分光現象により、配光パターンのカットオフラインCL付近に青色が現れることになる。
【0033】
本発明においては、半導体光源20が投影レンズ50の焦点F3近傍を基準に光軸に対し、回路基板22の後端が45°以下の範囲内で下を向くよう配置されている。これにより、半導体光源20からの光がシェード40で遮光されるにも拘らず、投影レンズ50の光軸より上側を通過する光の量を多くできる。投影レンズ50の上側を通過する光も投影レンズ50で屈折される。しかし、レンズの中央付近では色収差の影響が少なく、配光パターン付近に分光現象の少ない半導体光源20からの白色光が照射され、従来問題であった青色光を目立たなくすることができる。
【0034】
さらに、投影レンズ50の上側と下側に、下側の面積が大となる光分散部52,54が設けられている。これにより、投影レンズ50の下側を通過する光が光分散部54で分散され、特定の発光色の光がカットオフラインCLに現れるのを防止することができる。
【0035】
一方で、光分散部52,54を設けることで、投影レンズ50を通過するときに光吸収等の光の透過ロスが生じことになる。そこで、本発明では、投影レンズ50の上側を通過する光は色収差の影響の小さいので、投影レンズ50の上側に形成される光分散部52の大きさを下側の光分散部54より小さくして、光の透過ロスを小さくしている。それにより、光の利用効率の向上と、色収差の問題の解決を図っている。
【0036】
次に、本発明の図1に示す構造の車両用前照灯10を用いて、光分散部を有しない投影レンズで配光パターンを形成したときの最大光度(標準)に対する、光分散部を有する投影レンズを使用したときの最大光度の比率、色度を測定した。
【0037】
このとき、回路基板22を投影レンズ50の光軸に対し20°傾けて配置した。光分散部52,54として、表面粗計にて測定した値が、凸凹の差の最大値がRmax=1.0740μm、凸の平均高さRa=0.0612μm、径r=0.1μmのシボを、PMMA樹脂製の投影レンズ50の光受光面側の上側と下側に形成した。光分散部52,54の大きさに関し、図3に示すように、投影レンズ50の上側と下側にシボ加工する範囲を3段階ずつ設定した。図3に示される数値は、投影レンズ50の中心と通る水平線から、光分散部52,54までの距離(mm)を示している。つまり、数値が小さいほど、光分散部52,54の大きさが大きいことを意味する。
【0038】
図4の表は、条件A〜Iについて、上下のシボ領域の範囲、色度評価、標準の最大光度に対する最大光度の比率をまとめて一覧表としたものである。
【0039】
条件A〜Cは、投影レンズ50の上側に形成する光分散部52の大きさを小に固定し、下側に形成される光分散部54の大きさを小、中、大と変化させたものである。
【0040】
条件D〜Fは、投影レンズ50の上側に形成する光分散部52の大きさを中に固定し、下側に形成される光分散部54の大きさを小、中、大と変化させたものである。
【0041】
条件G〜Iは、投影レンズ50の上側に形成する光分散部52の大きさを大に固定し、下側に形成される光分散部54の大きさを小、中、大と変化させたものである。
【0042】
また、図5は、図2に示す配光パターンのカットオフラインCL近傍のP1点での、条件A〜I、標準、及び光源の色度測定結果を色度図中にプロットしたものである。ここで光源とは、半導体光源から放射される光の色度を示している。
【0043】
色度図中に示される、実線で囲まれた部分は、形式認定基準で規定される、車両用前照灯に求められる白色の範囲を示している。半導体光源からの光は白色光の範囲内に含まれている。
【0044】
図5から明らかなように、下側の光分散部54の大きさが大きい条件B,C,Fは、図5の白色光の範囲内含まれていた。つまり、配光パターンのP1で、白色光が観測されたことを意味している。白色光が観測された場合、図4の表において、色度の欄に◎を記した。
【0045】
一方、標準、条件A,D,E,G、及びHは、図5から分かるように白色光の範囲外であった。これらは色収差の分光現象により、P1点で半導体光源のLEDからの青色が現れていることを示している。特に、半導体光源は、青色発光LEDと黄色発光蛍光体のとで構成されるので、配光ラインのカットオフラインでは投影レンズの下側からの青色光が顕著に現れることになる。
【0046】
また、条件Iについては、色度が図5の白色光の範囲に含まれていた。しかし、光分散部52,54の投影レンズ50に占める面積が大きく、全体として透過ロスが大きかった。その結果、最大光度の比率が標準に対して85%と小さくなり、光量の点で車両用前照灯に求められる要件を満たさなかった。
【0047】
本発明は上記実施例に限定されるもではなく、上記の説明に基づいて多くの変形例が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る実施形態を示す概略構成図
【図2】図1に示す車両用前照灯による配光パターンを説明する図
【図3】投影レンズに形成される光分散部の範囲を示す説明図
【図4】測定結果を示す表図
【図5】図2の配光パターン上のP1における色度を示す色度図
【符号の説明】
【0049】
10…車両用前照灯、20…半導体光源、22…回路基板、24…ヒートシンク、30…リフレクタ、40…シェード、50…投影レンズ、52,54…光分散部、60…ハウジング、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を備えた半導体光源と、
前記半導体光源の近傍に第1の焦点が位置し、前記半導体光源からの光が第2の焦点に向かって反射するように形成された回転楕円面系の反射面を有するリフレクタと、
前記リフレクタからの光の一部を上端縁により遮光して、所定の配光パターンに適したカットオフラインを形成するように、前記リフレクタの第2の焦点付近に配置されたシェードと、
前記シェードの上端縁近傍に焦点が位置するよう配置された投影レンズと、を備え、
前記半導体光源が前記投影レンズの焦点を基準に光軸から下側に45°以下の範囲内で傾けられ、前記投影レンズは上側と下側に、下側の面積が大となる光分散部を有することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記投影レンズが透明性を有する熱可塑性樹脂である請求項1記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記光分散部が前記投影レンズに一体成型されている請求項1又は2記載の車両用前照灯。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−199938(P2009−199938A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41743(P2008−41743)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】