説明

車両用前照灯

【課題】主リフレクタと補助リフレクタで複数の合成配光パターンを形成する。
【解決手段】リフレクタは、光源からの光を前方へ反射させる回転楕円面形状の反射面を有し、該反射面の一部に光源からの光を外部に通過させる切り欠き30を有する。遮光板は、リフレクタと投影レンズ20との間に配置され、リフレクタからの反射光の一部を遮蔽して所定のカットオフラインを有するロービーム配光パターンを形成する。サブリフレクタ交換装置50は、リフレクタの切り欠きを通過した光を前方へ反射させる複数のサブリフレクタ50a〜50dを有し、いずれかのサブリフレクタを切り欠きと対向する位置へ移動可能に構成される。複数のサブリフレクタ50a〜50dは、ロービーム配光パターンと組み合わされてそれぞれが異なる合成配光パターンとなるような付加配光パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ型の車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタ型の車両用前照灯において、主リフレクタとは別に補助的なリフレクタを設け、両者の反射光の合成によって配光パターンを形成することが行われている。例えば、特許文献1には、プロジェクト型前照灯からなる灯具ユニットにおけるリフレクタの上下両側に、光源からの光を集光レンズを透過させずに前方へ向けて反射させる一対の補助リフレクタを設けた車両用前照灯が開示されている。また、特許文献2には、反射鏡の一箇所に切り欠きを形成するとともに、反射鏡の外側に回転楕円形状の補助反射面を配置し、切り欠きを通り抜けた光源の直射光が補助反射面で反射されて投影レンズに向かうように構成されたプロジェクト型前照灯が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−195910号公報
【特許文献2】特開2001−14908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、補助リフレクタが固定されているため、車両の状況に合わせて配光パターンを切り替えることができない。また、特許文献2に記載の技術2では、切り欠きを有する反射鏡を補助反射面に合わせて回転させることですれ違いビーム配光と走行ビーム配光が切り替えられるが、反射鏡自体が回転する構造であるため補助反射鏡の数が限られ、様々な車両状況に応じた配光パターンを準備できないという問題がある。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、主リフレクタと補助的なリフレクタとを有するプロジェクタ型前照灯において、複数の合成配光パターンを形成可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、車両用前照灯である。この車両用前照灯は、車両前後方向に延びる光軸と略同軸に配置される光源と、光源からの光を前方へ反射させる回転楕円面形状の反射面を有し、該反射面の一部に光源からの光を外部に通過させる切り欠きを有するリフレクタと、リフレクタの前方に配置される投影レンズと、リフレクタと投影レンズとの間に配置され、リフレクタからの反射光の一部を遮蔽して所定のカットオフラインを有するロービーム配光パターンを形成する遮光板と、リフレクタの切り欠きを通過した光を前方へ反射させる複数のサブリフレクタを有し、いずれかのサブリフレクタを切り欠きと対向する位置へ移動可能に構成されたサブリフレクタ交換手段と、を備える。複数のサブリフレクタは、ロービーム配光パターンと組み合わされてそれぞれが異なる合成配光パターンとなる付加配光パターンを形成する。
【0007】
この態様によると、リフレクタを固定した状態で、リフレクタの切り欠きに対向する位置にサブリフレクタを移動させるサブリフレクタ交換手段を備えるので、全てのサブリフレクタをリフレクタに近接して配置する必要がない。したがって、従来よりも多くのサブリフレクタを準備することが可能になる。
【0008】
複数のサブリフレクタの一部は、カットオフラインより上部を含む領域を照射する付加配光パターンを形成してもよい。これによって、リフレクタと遮光板とで形成されるロービーム配光パターンと合成して多様な合成配光パターンを形成することができる。
【0009】
切り欠きは反射面の対向する位置に二箇所設けられており、サブリフレクタ交換手段は各切り欠きに対応して設置されてもよい。これにより、二つのサブリフレクタで同一の付加配光パターンを形成して照度を高めたり、またはそれぞれ異なる付加配光パターンを形成してより複雑な形状の合成配光パターンとしたりといった配光の自由度を高めることができる。
【0010】
車両周囲の状況を検出する車両状況検出手段と、検出された状況に応じた合成配光パターンが形成されるように、サブリフレクタ交換手段によって切り欠きに対向する位置に移動されるサブリフレクタを選択するパターン決定手段と、をさらに備えてもよい。これによると、適切なサブリフレクタを選択することで、様々な車両状況に応じた合成配光パターンを車両用前照灯で形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両用前照灯によると、多数のサブリフレクタを装備することで多様な合成配光パターンを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の内部構造を説明する概略断面図である。
【図2】灯具ユニットとサブリフレクタ交換装置を説明する側面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った概略断面図である。
【図4】車両用前照灯で形成される合成配光パターンの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用前照灯100の内部構造を説明する概略断面図である。図1は、灯具の光軸Xを含む鉛直平面によって切断された車両用前照灯を左側から見た断面を示している。車両用前照灯100は車両の車幅方向の左右に1灯ずつ配置される配光可変式前照灯であり、その構造は実質的に左右同等なので代表して車両右側に配置される前照灯装置の構造を説明する。車両用前照灯100は、車両前方方向に開口部を有するランプボディ22とこのランプボディ22の前端開口部を覆う透明カバー24で形成される灯室26を有する。灯室26には、光を車両前方方向に照射する灯具ユニット10が収納されている。
【0014】
灯具ユニット10は、プロジェクタ型と称される灯具であり、光源としてのバルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、投影レンズ20、および遮光板28で構成される。バルブ14は、例えば、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。本実施形態では、バルブ14をハロゲンランプで構成する例を示す。リフレクタ16はバルブ14から放射される光を反射する。バルブ14は、リフレクタ16の略中央に形成された開口部に勘合固定されるとともに、ランプボディ22によって支持される。
【0015】
リフレクタ16は、車両前後方向に延びる光軸Xを中心軸とし、バルブ14からの光を前方へ反射させる回転楕円面形状の反射面を有している。この反射面は、光軸Xを含む断面形状が楕円をなし、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。バルブ14は反射面の鉛直断面を構成する楕円の第1焦点に配置されており、これによって光源からの光が上記楕円の第2焦点に収束するようになっている。
【0016】
投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであって、光軸X上に配置されている。投影レンズ20は、後側焦点がリフレクタ16の反射面の第2焦点に一致するように配置されており、後側焦点面上の像を鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するように構成されている。
【0017】
遮光板28は、リフレクタ16と投影レンズ20との間に配置される。バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、その一部が遮光板28で遮蔽され投影レンズ20へと導かれ、灯具前方に配置された仮想鉛直スクリーン上に所定のカットオフラインを有するロービーム用配光パターンを投影する。
【0018】
灯室26の内壁面、例えば、灯具ユニット10の下方位置には、灯具ユニット10の点消灯制御や、後述するサブリフレクタ交換装置を作動させて所望の合成配光パターンを形成させる配光制御を実行する前照灯制御部40が配置されている。
【0019】
図2は、本実施形態に係る灯具ユニット10とサブリフレクタ交換装置50を説明する側面図である。灯具ユニット10の側壁には、バルブ14からの光をユニット外部に通過させる切り欠き30が形成される。灯具ユニットの側方で灯室26の内部には、サブリフレクタ交換装置50が設置される。サブリフレクタ交換装置50は、灯具ハウジング17に形成された切り欠き30を通過した光を車両前方へ反射させる複数のサブリフレクタ50a〜50dを有している。
【0020】
図2では、サブリフレクタ交換装置50は、サブリフレクタ50a〜50dを略円弧形状となるように相互に連結し、光軸X上に配置された中心軸52を中心としてサブリフレクタ50a〜50dを回転させる構造を有している。サブリフレクタ交換装置50の中心軸52はモータの出力軸と連結され、前照灯制御部40からの指令により所望のサブリフレクタ50a〜50dを切り欠き30と対向する位置へ移動させることができる。
【0021】
サブリフレクタ50a〜50dは、リフレクタ16と遮光板28とで形成されるロービーム配光パターンと組み合わされてそれぞれが異なる合成配光パターンとなる、付加配光パターンを形成するように構成されている。
【0022】
なお、図2では切り欠き30を長方形の穴で示しているが、切り欠き30の形状および大きさは、サブリフレクタに与えるべき光量と、リフレクタ前方の投影レンズ20に与えるべき光量を考慮して決定される。
【0023】
図3は、図2のA−A線に沿った概略断面図である。図示のように、灯具ユニットの投影レンズ20と灯具ハウジング17の側壁が簡略化して示されている。切り欠き30は、灯具ハウジング17の対向する位置、すなわち左右側壁にそれぞれ設けられており、サブリフレクタ交換装置50は各切り欠きに対応して一台ずつ設置される。このように、サブリフレクタ交換装置50を左右に二台設置することで、左右のサブリフレクタで同一の付加配光パターンを形成して照度を高めたり、またはそれぞれ異なる付加配光パターンを形成してより複雑な形状の合成配光パターンとしたりといった配光の自由度を高めることができる。
【0024】
なお、図2および図3では、簡潔さのために各サブリフレクタ50a〜50dが長方形で描かれているが、これらは実際には、切り欠き30を通過しサブリフレクタで反射される光が図4で述べる付加配光パターンを形成するような反射面形状を有している。
【0025】
図4は、灯具ユニット10により前方の所定位置、例えば灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に投影される合成配光パターンの例を示す。
【0026】
ロービーム配光パターンLoは、上述の通り、リフレクタ16と遮光板28とにより形成される配光パターンである。サブリフレクタ50aは、ロービーム配光パターンLoのうち水平線および鉛直線よりの部分に重なるような付加配光パターンA1を形成する。サブリフレクタ50b〜50dは、カットオフラインより上部を含む領域を照射する付加配光パターンを形成する。このうち、サブリフレクタ50bは、付加配光パターンA1よりも照射領域は狭いが、やや上方を照射する付加配光パターンA2を形成する。サブリフレクタ50cは、仮想鉛直スクリーンの水平線と鉛直線の交点付近を中心に左右および上下にほぼ同一の幅の照射領域を持つ付加配光パターンA3を形成する。サブリフレクタ50dは、付加配光パターンA3と同等の照射領域を持つが、その全体が鉛直線よりも右側に位置する付加配光パターンA4を形成する。ロービーム配光パターンLoと付加配光パターンA1〜A4を組み合わせることで、合成配光パターン60〜66が形成される。
【0027】
このうち、合成配光パターン60はロービームのうち運転者の視線が集中する中央部分の光量を増加したパターンである。合成配光パターン62は、中央かつロービーム配光パターンよりやや上方を合わせて照射する中間ビーム用配光パターンである。合成配光パターン64は、運転者の視界を向上させるために照射範囲を広げたハイビーム用配光パターンである。合成配光パターン66は、対向車線側のみをハイビームにする右片ハイ用合成配光パターンである。
【0028】
図2に戻り、前照灯制御部40は車両状況検出部42とパターン決定部44を備える。これらは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0029】
車両状況検出部42は、図示しない車両制御部から、前走車や対向車、歩行者などの対象物を検出するカメラの情報、ナビゲーションシステムによる道路の形状情報、車両に通常搭載されているステアリングセンサ、車速センサなどからの情報を取得する。そして、これらの情報に基づき、自車両周囲の状況を検出する。車両周囲の状況検出は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0030】
パターン決定部44は、図4に示した合成配光パターン60〜66の中から、車両状況検出部42で検出された車両状況に応じた最適な合成配光パターンを決定する。例えば、自車の前方に先行車や対向車が検出された場合には、ロービームを増光した合成配光パターン60を選択する。自車の前方に先行車や対向車が存在するが、自車との距離が離れている場合には、中間ビーム用の合成配光パターン62を選択する。自車の前方に先行車や対向車が検出されない場合には、ハイビーム用の合成配光パターン64を選択する。また、交通法規が左側通行の地域の場合で前走車のみ存在し対向車または歩行者が存在しない場合には、右片ハイ用の合成配光パターン66を選択する。
【0031】
そして、パターン決定部44は、決定した合成配光パターンが車両用前照灯で形成されるように、サブリフレクタ交換装置50によって切り欠き30に対向する位置に移動されるサブリフレクタを選択する。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、リフレクタを固定した状態で、灯具ハウジングの切り欠きに対向する位置にサブリフレクタを移動させるサブリフレクタ交換装置を設けるようにした。これによって、全てのサブリフレクタをリフレクタに近接して配置する必要がなくなるので、従来よりも多くのサブリフレクタを準備することが可能になる。
【0033】
灯具ハウジングの左右の側壁に切り欠きを設ける代わりに、上下の側壁に切り欠きを設けてもよい。この場合、サブリフレクタ交換装置も灯具ハウジングの上下にそれぞれ一台ずつ設置されることになる。このようにサブリフレクタ交換装置を上下に配置すると、付加配光パターンを仮想鉛直スクリーン上下方向に配置しやすいという利点がある。
【0034】
切り欠きは、灯具ハウジングの一箇所にのみ設けられていてもよい。この場合、サブリフレクタ交換装置は一台のみ設置される。これによると、切り欠きが少ないためリフレクタにより投影レンズに反射される光量の減少を抑えられる。
【0035】
実施の形態ではサブリフレクタ交換装置が四つのサブリフレクタを有しているものを説明したが、サブリフレクタの数はこれより多くても少なくてもよい。サブリフレクタの数を増やせば、合成配光パターンの種類も増やすことができる。
【0036】
実施の形態では、サブリフレクタ交換装置は、円弧形状に配置されたサブリフレクタを回転させることで灯具ハウジングの切り欠き位置に合わせることを述べたが、サブリフレクタを他の形状、例えば鉛直方向の直線状に配置して、これを上下移動させることで灯具ハウジングの切り欠き位置に合わせるように構成してもよい。また、サブリフレクタを回転軸に対して放射状に配置し、これを回転させることで灯具ハウジングの切り欠き位置に合わせるように構成してもよい。
【0037】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、各実施形態を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の各実施形態同士、および上述の各実施形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0038】
10 灯具ユニット、 14 バルブ(光源)、 16 リフレクタ、 17 灯具ハウジング、 20 投影レンズ、 28 遮光板、 30 切り欠き、 40 前照灯制御部、 50 サブリフレクタ交換装置、 50a〜50d サブリフレクタ、 100 車両用前照灯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる光軸と略同軸に配置される光源と、
前記光源からの光を前方へ反射させる回転楕円面形状の反射面を有し、該反射面の一部に光源からの光を外部に通過させる切り欠きを有するリフレクタと、
前記リフレクタの前方に配置される投影レンズと、
前記リフレクタと前記投影レンズとの間に配置され、前記リフレクタからの反射光の一部を遮蔽して所定のカットオフラインを有するロービーム配光パターンを形成する遮光板と、
前記リフレクタの切り欠きを通過した光を前方へ反射させる複数のサブリフレクタを有し、いずれかのサブリフレクタを前記切り欠きと対向する位置へ移動可能に構成されたサブリフレクタ交換手段と、
を備え、
前記複数のサブリフレクタは、ロービーム配光パターンと組み合わされてそれぞれが異なる合成配光パターンとなる付加配光パターンを形成することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記複数のサブリフレクタの一部は、カットオフラインより上部を含む領域を照射する付加配光パターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記切り欠きは前記反射面の対向する位置に二箇所設けられており、
前記サブリフレクタ交換手段は各切り欠きに対応して設置されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
車両周囲の状況を検出する車両状況検出手段と、
検出された状況に応じた合成配光パターンが形成されるように、前記サブリフレクタ交換手段によって前記切り欠きに対向する位置に移動されるサブリフレクタを選択するパターン決定手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−54392(P2011−54392A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201615(P2009−201615)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】