説明

車両用座席及びその製造方法

【課題】 ウレタンフォームからなるクッションパッドを備える場合であっても、VOCの発生が従来よりも抑制された車両用座席及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 車両用座席100は、発泡樹脂成形体からなるクッションパッド10と、当該クッションパッド10を支持する支持部材20と、クッションパッド10と支持部材20との間に介在し、摩擦による異音の発生を防止するための異音防止用シート30とを備え、上記異音防止用シート30が、樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤とを含んでなるものであり、上記異音防止用シート30が、上記クッションパッド10と一体化されずに上記クッションパッド10と上記支持部材20との間に介在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
座席等のクッションパッドとして主に使用されるウレタンフォームは、VOC13物質の一種であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどを発生する。自動車の車両用座席においても、揮発性有機化合物(VOC)を低減する動きが自主的に始まっており、対策としてアルデヒドキャッチャー剤(ガス吸着剤)などをクッションパッドに塗布することなどが行われている。
【0003】
最近では、パッドの製造効率の向上を目的として、キャッチャー剤が付着しているシート状の副資材を金型内に配置して発泡成形を行い、上記副資材と一体化した車両用シートパッドを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−80627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によると、上記特許文献1に記載のパッドでは、ガス吸着剤の使用量に見合うVOC低減効果が得られず、パッドからのアセトアルデヒドの発生量は未だ多いことが判明している。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ウレタンフォームからなるクッションパッドを備える場合であっても、VOCの発生が従来よりも抑制された車両用座席及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の車両用座席は、発泡樹脂成形体からなるクッションパッドと、当該クッションパッドを支持するための支持部材と、クッションパッドと支持部材との間に介在し、摩擦による異音の発生を防止するための異音防止用シートとを備え、上記異音防止用シートが、樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤とを含んでなるものであり、上記異音防止用シートが、上記クッションパッドと一体化されずに上記クッションパッドと上記支持部材との間に介在していることを特徴とする。
【0008】
なお、本明細書において異音防止用シートがクッションパッドと一体化されているとは、一体発泡成形若しくは接着剤によって、異音防止用シートの片面の面積の70%以上がクッションパッドに接着されていることを意味する。
【0009】
本発明の車両用座席は、上記構成を有することにより、ウレタンフォームからなるクッションパッドを備える場合であっても、前述のような一体発泡成形され、副資材の片面が全面的に接着されたパッドを備える従来の座席に比べて、VOCの発生が抑制されたものになり得る。
【0010】
上記の効果が得られる理由としては、上記特定の異音防止用シートを使用し、それをクッションパッドと一体化させないことで、接着剤やウレタン原料のイソシアネートとの反応によってガス吸着剤の吸着能が阻害されることを防止できることに加えて、ガス吸着剤が付着した上記異音防止用シートのガス吸着表面積を有効に活用でき、また、空気の流通がしやすくなることにより、高水準の吸着能が得られることが考えられる。
【0011】
本発明の車両用座席において、ガス吸着性及び耐熱性を向上させる観点から、上記ガス吸収剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を酸で中和して得られるものであることが好ましい。
【0012】
更に、上記ガス吸収剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を微粒子担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和して得られるものであることが好ましい。このガス吸収剤は、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能により一層優れ、且つ、熱によるガス吸着性能の低下が十分小さい耐熱性により一層優れたものである。これにより、VOCや悪臭の発生が更に抑制され、且つ、それを長期に亘って維持できる車両用座席が実現可能となる。
【0013】
また、上記ガス吸収剤は、上記構成を有していない塩酸などの無機塩で中和されているアミン塩系のガス吸着剤に比べて、金属と接触したときの錆発生が少ないことから、支持部材が錆び易い金属材料を含む場合であっても十分な量のガス吸着剤を異音防止用シートに含有させることができ、VOCの発生を抑制することができる。
【0014】
更に、上記ガス吸着剤は、上記構成を有していない粒子径の大きい担体に担持した有機ケイ素化合物系のガス吸着剤や粒子径が大きい無機系のガス吸着剤に比べて、基材からの粉落ちが少ないことから、製造環境への影響が小さく、車両用座席をより製造しやすいものにすることができる。
【0015】
更に、上記担体は、シリカであることが好ましい。この場合、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物の担持量を十分に確保することが容易となり、より高水準のガス吸着性能が得られやすくなるため、VOCの発生が更に抑制された車両用座席の実現が可能となる。
【0016】
また、本発明の車両用座席は、上記異音防止用シートが袋体であり、当該袋体に上記支持部材又は上記クッションパッドが収容されているものとすることができる。このような車両用座席は、VOC発生の抑制と車両用座席の製造効率とを高水準で両立するものになり得る。
【0017】
本発明はまた、発泡樹脂成形体からなるクッションパッドと、当該クッションパッドを支持するための支持部材と、クッションパッドと支持部材との間に介在し、摩擦による異音の発生を防止するための異音防止用シートとを備える車両用座席の製造方法であって、樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤と、を含んでなる異音防止用シートを用意し、異音防止用シートを上記クッションパッドに一体化させずに上記クッションパッドと上記支持部材との間に介在させる車両用座席の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の車両用座席の製造方法によれば、ウレタンフォームからなるクッションパッドを備える場合であっても、前述のような一体発泡成形され、副資材の片面が全面的に接着されたパッドを備える従来の座席に比べて、VOCの発生が抑制された車両用座席を得ることができる。
【0019】
上記の効果が得られる理由としては、上記特定の異音防止用シートの使用し、それをクッションパッドと一体化させないことで、接着剤やウレタン原料のイソシアネートとの反応によってガス吸着剤の吸着能が阻害されることを防止できることに加えて、ガス吸着剤が付着した上記異音防止用シートのガス吸着表面積を有効に活用でき、また、空気の流通がしやすくなることにより、高水準の吸着能が得られることが考えられる。
【0020】
また、本発明の車両用座席の製造方法において、ガス吸着性及び耐熱性を向上させる観点から、上記ガス吸収剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を酸で中和して得られるものであることが好ましい。
【0021】
更に、上記ガス吸収剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を微粒子担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和して得られるものであることが好ましい。このガス吸収剤は、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、且つ、熱によるガス吸着性能の低下が十分小さい耐熱性に優れたものである。これにより、VOCや悪臭の発生が更に抑制され、且つ、それを長期に亘って維持できる車両用座席を得ることができる。
【0022】
また、上記ガス吸収剤は、上記構成を有していない塩酸などの無機塩で中和されているアミン塩系のガス吸着剤に比べて、金属と接触したときの錆発生が少ないことから、支持部材が錆び易い金属材料を含む場合であっても十分な量のガス吸着剤を異音防止用シートに含有させることができ、VOCの発生が抑制された車両用座席を容易に得ることができる。
【0023】
更に、上記ガス吸着剤は、上記構成を有していない粒子径の大きい担体に担持した有機ケイ素化合物系のガス吸着剤や粒子径が大きい無機系のガス吸着剤に比べて、基材からの粉落ちが少ないことから、車両用座席の製造環境への影響を小さくすることができる。
【0024】
更に、上記担体は、シリカであることが好ましい。この場合、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物の担持量を十分に確保することが容易となり、より高水準のガス吸着性能が得られやすくなるため、VOCの発生が更に抑制された車両用座席を得ることができる。
【0025】
また、本発明の車両用座席の製造方法において、上記異音防止用シートが袋体であり、当該袋体に上記支持部材又は上記クッションパッドを収容することにより、異音防止用シートをクッションパッドと支持部材との間に介在させることができる。この場合、VOC発生が十分に抑制された車両用座席を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ウレタンフォームからなるクッションパッドを備える場合であっても、VOCの発生が従来よりも抑制された車両用座席及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(車両用座席)
図1は、本発明の好適な一実施形態に係る車両用座席の構成を示す一部切欠き斜視図である。図1に示される車両用座席100は、発泡樹脂成形体からなるクッションパッド10と、クッションパッド10を支持するためのバネ材22が組み付けられたシートフレーム24から構成されている支持部材20と、クッションパッド10と支持部材20との間に配設された異音防止用シート30とを備え、これらが外装材40により覆われた構造を有している。支持部材20及びクッションパッド10は、互いに対向し、異音防止用シート30を介在した状態で組み付けられている。
【0028】
クッションパッド10としては、例えば、ポリウレタンフォーム、ポリウレタンチップなどにより形成されたものが挙げられる。
【0029】
異音防止用シート30は、樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤とを含んで構成されるものであればよい。
【0030】
樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。不織布としては、フェルトや、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アクリル、綿、ウールなどの材質からなるものや、難燃繊維、消臭繊維、炭素繊維、抗菌繊維、導電繊維などからなるものが挙げられる。織物及び編物の材質としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アクリル、綿、ウールなどが挙げられる。また、不織布は、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布などを用いることができる。
【0031】
また、異音防止用シート30の基材は、ガス吸着表面積及び経済性の点で不織布であることが好ましく、価格、異音防止効果及び耐熱性の点で、メッシュ構造を有するポリエステル製の不織布がより好ましい。メッシュ構造を有するポリエステル製の不織布は、市販品を用いることができる。
【0032】
基材の厚みとしては、異音防止性、風合い、価格、粉落ち防止性、消臭効果の点で、0.5〜10mmが好ましい。また、基材の目付としては、異音防止性、風合い、価格、粉落ち防止性、消臭効果の点で、10〜200g/mが好ましい。
【0033】
上記基材に付着させるガス吸着剤としては、揮発性有機化合物(VOC)を捕捉できるものであれば各種のガス吸着剤を使用することができる。例えば、無機系化合物、アミン系化合物、アミド系化合物、カルバミド系化合物、ヒドラジド系化合物、アミノ酸系化合物などの、酸性系のガスやアルデヒドガスを捕捉する作用を有する化合物が挙げられる。
【0034】
本発明においては、ガス吸着剤として、担体にアミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持させたもの又はそのアミノ基及び/又はイミノ基を酸で中和したものを用いるのが好ましい。
【0035】
特に、酢酸等の酸性系のガス及びアルデヒド系のガスに対するガス吸着性、耐熱性、スプレー加工適性、粉落ちが少なさ、金属に接触させたときの錆の発生しにくさなどの観点から、ガス吸着剤として、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を微粒子担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和して得られるものを用いることが好ましい。
【0036】
上記のガス吸着剤は、例えば、担体及び上記有機ケイ素化合物として、互いに反応して結合可能なものを選び、それらを反応させた後、上記の酸で中和することにより得ることができる。有機ケイ素化合物は、担体との反応後、アミノ基及び/又はイミノ基が担体上に十分存在させることができるものが好ましい。
【0037】
上記担体としては、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物との反応性が良好であるという観点から、ヒドロキシル基を有する化合物を用いることができ、活性炭又はヒドロキシル基を有する金属酸化物を用いることが好ましい。ヒドロキシル基を有する金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、及び亜鉛酸化物等が挙げられる。
【0038】
活性炭及びヒドロキシル基を有する金属酸化物は、その表面が、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、カルボン酸塩、アンモニア、脂肪族若しくは芳香族アミン、アミノ基含有高分子等のアルカリに浸漬する等の方法によりアルカリ処理されているものであってもよい。
【0039】
上記の担体のなかでも、ヒドロキシル基を有する金属酸化物を用いることが好ましい。この場合、ガス吸着剤を基材に付与してガス吸着素材を得るときに、基材の色相への影響をより小さくすることが可能となる。更に、シリカが、表面のヒドロキシル基に富み、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物の担持量を多くすることができることから、特に好適である。
【0040】
また、担体は、平均粒径が1nm〜5μmの範囲にある粒子が好ましく、1nm〜1μmの範囲にある粒子がより好ましく、1nm〜500nmの範囲にある粒子がさらにより好ましく、1nm〜200nmの範囲にある粒子が最も好ましい。担体の平均粒径が1nm未満であると、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持する能力が乏しくなり、十分なガス吸着性が得られにくくなる傾向がある。また、平均粒径が5μmを超えても、担体の表面積が小さくなるため、十分なガス吸着性が得られにくくなる傾向がある。更に、担体の平均粒径が上記の範囲内であれば、基材の色相への影響を十分小さく(特に、白化現象を抑制)しながらガス吸着素材を製造することが可能となる。また、ガス吸着剤を基材に付着させる際にスプレー法により加工することがあるが、平均粒径が上記範囲内であると、スプレーの目詰まりが発生しにくくなり、ガス吸着剤のスプレー加工適性を向上させることができる。なお、本発明において平均粒径とは、累積50%のメジアン径のことをいう。
【0041】
アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物としては、アミノ基及び/又はイミノ基を1個以上と、担体が有する官能基と反応して結合し得る官能基とを有する化合物が好ましい。担体がヒドロキシル基を有するものである場合、このヒドロキシル基と反応して結合し得る官能基としては、例えば、−SiOH基や−SiOR基(ここで、Rは炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である)が挙げられる。
【0042】
このような官能基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリヒドロキシシラン、メトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、エトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(2−アミノエチルアミノ)プロピル(イソプロポキシ)ジメトキシシラン、2−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0043】
担体に、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持させるには、例えば、上記有機ケイ素化合物の水溶液(通常、5〜40質量%程度)に上記担体を加え、室温で10分〜5時間程度撹拌する方法が挙げられる。有機ケイ素化合物の使用量は、担体1gに対して0.1〜5gとするのが好ましく、0.5〜2gとするのがより好ましい。
【0044】
また、アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和するには、例えば、上記で得られた水溶液に、pHが当初の11〜12から4〜10になるまで、好ましくは6〜10になるまで、炭酸ガス、ドライアイス、蟻酸及び酢酸のうちの1種以上を加えて中和する方法が挙げられる。このような中和処理を経て、ガス吸着剤が含まれる水分散液を得ることができる。なお、中和後に、必要に応じて、分散剤(好ましくは非イオン界面活性剤)、増粘剤、防腐剤等の従来公知の成分を添加してもよい。また、水分散液の水を除去して、粉末状のガス吸着剤を得ることもできる。
【0045】
上記のガス吸着剤は、担体に担持された有機ケイ素化合物由来のアミノ基及び/又はイミノ基が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる1種以上の酸で中和されていることにより、熱処理或いは経時の熱履歴を受けた場合であっても、酢酸等の酸性系のガス及びアルデヒド系のガスに対するガス吸着性が十分維持されるという優れた耐熱性を有することができる。具体的には、熱処理でいうと200℃で5分程度まで、また、経時の熱履歴でいうと100℃で100時間程度まで、ガス吸着性を十分維持することができる。
【0046】
このような優れた耐熱性は、夏場などに車両内が高温になった場合であってもガス吸着性を十分に維持でき、VOCの発生を長期に亘って抑制できる点で有利となる。
【0047】
なお、担体に担持した有機ケイ素化合物由来のアミノ基及び/又はイミノ基を中和するための中和酸として、塩酸や硫酸などの強酸、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸等を用いた場合、上記の効果が得られにくくなる。その理由としては、中和塩が強固であるため、ガス吸着性そのものが低くなるとともに、上記の脱酸による耐熱性も発現しにくくなることが考えられる。
【0048】
基材にガス吸着剤を付着させる方法としては、ガス吸着剤をそのまま、又は、水やアルコール等の溶媒で適宜希釈又は濃縮した分散液を用いて、スプレー、コーティング、キスロール等の公知の方法により塗布する方法や、浸漬する方法等が挙げられる。スプレーによる塗布は、例えば、ノズル、ローターダンプ、ハンドガンなどにより行われる。コーティングによる塗布は、例えば、ナイフ、ロータリー、グラビア、スクリーンなどにより行われる。このとき、ガス吸着剤又はその分散液には適宜バインダーを添加してもよい。バインダーとしては、従来公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、メチルセルロース、アクリル−エチレン共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、シリコーンエマルジョン等が挙げられる。コーティングにより塗布する場合には、グアガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、カルボキシエチルデンプン、アクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダなどの増粘剤を添加することが好ましい。
【0049】
また、上述したようにガス吸着剤を水等の溶媒が含まれる分散液として得た場合、分散液から溶媒を留去して得られる粉体状のガス吸着剤と、上記バインダーとを混合し、この混合物を基材に塗布することができる。
【0050】
バインダーの使用量については、バインダーが多すぎるとガス吸着性が低下する場合がある。そのため、バインダーの使用量は、基材へのガス吸着剤の保持性とガス吸着性とをバランスさせる点から、ガス吸着剤1gに対して0.1gまで、好ましくは0.02〜0.5gとするのがよい。
【0051】
本発明に係る異音防止用シートにおけるガス吸着剤の付着量は、消臭性、粉落ち防止性、風合い、難燃性、経済性の観点から、0.1〜30(固形分換算)g/mが好ましい。
【0052】
基材にガス吸着剤或いはその分散液を塗布した後は、基材の種類やガス吸着剤の付着量に応じて、適当な条件により熱処理を施すことができる。例えば、自然乾燥や、常温〜220℃で数秒〜数日間の条件が挙げられる。
【0053】
本発明に係る異音防止用シートには、ガス吸着剤の他に、例えば、難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、柔軟剤、バインダー等の従来より用いられている成分を適宜併用して付着させてもよい。
【0054】
図1に示される車両用座席100においては、所定の大きさに裁断された本発明に係る異音防止用シート30をそのまま、クッションパッド10と支持部材20との間に配設している。このような態様は、特別な工程をとらずに異音防止用シートをクッションパッドと支持部材との間に介在させることができる。
【0055】
なお、本発明において、異音防止用シートをクッションパッドと支持部材との間に介在させる方法については、異音防止用シートがクッションパッドと一体化されず、異音防止効果とVOCの発生を抑制する効果が得られるのであれば、上記の態様に限られず適宜変更が可能である。
【0056】
例えば、下記の手段により、異音防止用シートをクッションパッドと支持部材との間に介在させることができる。
(1)係止具により異音防止用シートを支持部材又はクッションパッドに係止する。
(2)接着剤により異音防止用シートを支持部材又はクッションパッドに、点状又は線状で部分的(異音防止用シートの接着面積の合計が50%を下回るよう)に接着する。
(3)支持部材又はクッションパッドの一部若しくは全体に異音防止用シートを巻きつける。
(4)異音防止用シートの袋体に支持部材又はクッションパッドを収容する。
【0057】
上記係止具としては、例えば、固定ピン、ワイヤ、面ファスナー、ひも、プラスチック留め具、縫製などが挙げられる。
【0058】
接着剤としては、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系及び酢酸ビニル系の接着剤を用いることができる。本実施形態においては、異音防止用シートの接着面積は合計で50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることが更により好ましい。
【0059】
上記袋体は、クッションパッド又は支持部材を収容してその周囲を覆うことができる形状を有していることが好ましい。
【0060】
また、本発明の車両用座席においては、例えば、座席の背もたれを構成するクッションパッド及びその支持部材の間に、本発明に係る異音防止用シートを上記と同様の方法により介在させてもよい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0062】
<ガス吸着剤を含む処理液の作製>
(処理液1)
コロイダルシリカ(日産化学(株)、商品名「スノーテックス30」、平均粒径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)437gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン67gを添加した反応液を、室温で約2時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施した後、更に水496gを加えて、ガス吸着剤の濃度が20質量%である水分散液(処理液1)を得た。なお、中和処理前の反応液のpHは11.6であった。
【0063】
<異音防止用シートの作製>
(シート1)
処理液1に、スパンボンド不織布(目付40g/m)を、ガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート1)を得た。
【0064】
(シート2)
処理液1に、スパンボンド不織布(目付40g/m)を、ガス吸着剤の付着量が5g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート2)を得た。
【0065】
<バネ受け用シートの作製>
(シート3)
処理液1に、スパンボンド不織布(目付100g/m)を、ガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート3)を得た。
【0066】
(シート4)
処理液1に、スパンボンド不織布(目付100g/m)を、ガス吸着剤の付着量が5g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート4)を得た。
【0067】
<発泡ウレタン樹脂成形体のアルデヒド低減効果の評価>
(実施例1)
ポリエーテル系ポリオール(GP−3000、三洋化成工業(株)製)、水、シリコーン系整泡剤及び触媒の混合液に、トリレンジイソシアネートをポリエーテル系ポリオール100質量部に対して40質量部の割合で配合することにより作製した発泡ウレタン樹脂成形体を、たて8cm×よこ10cm、厚み7cmの大きさに切りとった。切り取った成形体の上に、上記で得られたシート1をたて8cm×よこ10cmに裁断したものを載置し、図1に示される状態を想定した試験片を得た。
【0068】
(実施例2)
シート1に代えてシート2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0069】
(比較例1)
上記で得られたシート3を配置した金型内で、ポリエーテル系ポリオール(GP−3000(三洋化成工業(株)製)、水、シリコーン系整泡剤及び触媒の混合液に、トリレンジイソシアネートをポリエーテル系ポリオール100質量部に対して40質量部の割合で配合することにより、発泡ウレタン樹脂成形体の一面にシート3が接着された一体成型物を作製した。この一体成型物をたて8cm×よこ10cm、厚み7cmの大きさに切りとり、これを試験片とした。
【0070】
(比較例2)
シート3に代えてシート4を用いたこと以外は比較例1と同様にして、試験片を得た。
【0071】
(比較例3)
ポリエーテル系ポリオール(GP−3000(三洋化成工業(株)製)、水、シリコーン系整泡剤及び触媒の混合液に、トリレンジイソシアネートをポリエーテル系ポリオール100質量部に対して40質量部の割合で配合することにより作製した発泡ウレタン樹脂成形体を、たて8cm×よこ10cm、厚み7cmの大きさに切りとった。切り取った成形体の一面(8cm×10cm)に処理液1をスプレー塗布し、これを100℃で風乾した。なお、処理液1の塗布量は、乾燥後のガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件とした。こうして、試験片を得た。
【0072】
(比較例4)
処理液1を、乾燥後のガス吸着剤の付着量が5g/mとなる条件でスプレー塗布したこと以外は比較例3と同様にして、試験片を得た。
【0073】
(参考例)
ポリエーテル系ポリオール(GP−3000(三洋化成工業(株)製)、水、シリコーン系整泡剤及び触媒の混合液に、トリレンジイソシアネートをポリエーテル系ポリオール100質量部に対して40質量部の割合で配合することにより作製した発泡ウレタン樹脂成形体を、たて8cm×よこ10cm、厚み7cmの大きさに切りとり、これを未加工の試験片とした。
【0074】
上記の実施例、比較例及び比較例で得られた試験片について、アルデヒドの発生量を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0075】
10Lのテドラーバックに、試験片を入れ、窒素ガスを4L封入した。次に、このテドラーバックを、65℃で2時間加熱した。加熱後、テドラーバック内のガス3Lを、アルデヒド吸着カラムに通して、アルデヒド類をカラムに吸着させた。次に、カラムに吸着させたアルデヒド類を溶剤(アセトニトリル)で溶出し、その溶出液について液体クロマトグラフィー(島津製作所製「CLASS−M10A」、測定波長:360nm、溶媒:アセトニトリル/水(55/45容量%)、注入量:10μl、ODSカラム)を用い、定量分析を行った。
【0076】
【表1】



【0077】
[ガス吸着剤のガス吸着性能、粉落ち及び錆の発生の評価]
<ガス吸着剤を含む処理液の作製>
(処理液2)
水に、平均粒子径5μmの多孔質粉体、アミノグアニジン塩酸塩、非イオン界面活性剤、及び増粘剤を混合分散し、ガス吸着剤の濃度が20質量%である水分散液(処理液2)を調整した。
【0078】
(処理液3)
水に、平均粒子径20nmのコロイダルシリカ、及びアミノグアニジン塩酸塩を混合し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液(処理液3)を調整した。
【0079】
(処理液4)
水に、アジピン酸ジヒドラジドを溶解し、ガス吸着剤の濃度が5質量%であるガス吸着剤水溶液(処理液4)を調整した。
【0080】
<異音防止用シートの作製>
(シート5)
処理液2に、スパンボンド不織布(目付40g/m)を、ガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート5)を得た。
【0081】
(シート6)
処理液3に、スパンボンド不織布(目付40g/m)を、ガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート6)を得た。
【0082】
(シート7)
処理液4に、スパンボンド不織布(目付40g/m)を、ガス吸着剤の付着量が2g/mとなる条件で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の不織布を120℃で2分間乾燥することにより、異音防止用シート(シート7)を得た。
【0083】
上記で得られたガス吸着剤水分散液及びガス吸着剤水溶液、並びに異音防止用シートについて、以下の方法によりガス吸着性能、粉落ち及び錆の発生度合いを評価した。結果を表2に示す。
【0084】
(アルデヒドの発生量に基づくガス吸着性能の評価)
ポリエーテル系ポリオール(GP−3000(三洋化成工業(株)製)、水、シリコーン系整泡剤及び触媒の混合液に、トリレンジイソシアネートをポリエーテル系ポリオール100質量部に対して40質量部の割合で配合することにより作製した発泡ウレタン樹脂成形体を、たて8cm×よこ10cm、厚み7cmの大きさに切りとった。切り取った成形体の上に、上記で得られたシート1、5〜7をたて8cm×よこ10cmに裁断したものを載置し、図1に示される状態を想定した試験片をそれぞれ得た。
【0085】
得られた試験片について、アルデヒドの発生量を上記の方法により測定し、発生量に基づいてガス吸着性能をA、B、Cで段階評価した。なお、Aがアルデヒドの発生量が最も少なく、Cが最も発生が多かったことを示す。
【0086】
(粉落ちの評価)
上記で得られたシート1、5〜7について、摩擦や衝撃を与えたときの粉落ちの度合いを目視で確認することにより、ガス吸着剤の粉落ちの評価とし、粉落ちが少なかった順序を記した。1が最も粉落ちが少なかったことを示す。
【0087】
(錆の発生の評価)
上記で得られた処理液1〜4を、鉄(SPCC−SB)製の小板に吹きつけ、3日間放置した。その後、錆の発生を目視により確認した。錆の発生が見られた場合を「有」、錆の発生が見られなかった場合を「無」とした。
【0088】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る車両用座席の構成を示す一部切欠き斜視図である。
【符号の説明】
【0090】
10…クッションパッド、20…支持部材、30…異音防止用シート、40…外装材、100…車両用座席。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂成形体からなるクッションパッドと、当該クッションパッドを支持するための支持部材と、前記クッションパッドと前記支持部材との間に介在し、摩擦による異音の発生を防止するための異音防止用シートと、を備え、
前記異音防止用シートが、樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤と、を含んでなるものであり、
前記異音防止用シートが、前記クッションパッドと一体化されずに前記クッションパッドと前記支持部材との間に介在している、車両用座席。
【請求項2】
前記ガス吸収剤が、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を酸で中和して得られるものである、請求項1に記載の車両用座席。
【請求項3】
前記異音防止用シートが袋体であり、当該袋体に前記支持部材又は前記クッションパッドが収容されている、請求項1又は2に記載の車両用座席。
【請求項4】
発泡樹脂成形体からなるクッションパッドと、当該クッションパッドを支持するための支持部材と、前記クッションパッドと前記支持部材との間に介在し、摩擦による異音の発生を防止するための異音防止用シートと、を備える車両用座席の製造方法であって、
樹脂フィルム、不織布、織物、編物又は紙からなるシート状の基材と、該基材に付着したガス吸着剤と、を含んでなる異音防止用シートを用意し、
前記異音防止用シートを、前記クッションパッドと一体化させずに前記クッションパッドと前記支持部材との間に介在させる、車両用座席の製造方法。
【請求項5】
前記ガス吸収剤が、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持し、当該アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を酸で中和して得られるものである、請求項4に記載の車両用座席の製造方法。
【請求項6】
前記異音防止用シートが袋体であり、当該袋体に前記支持部材又は前記クッションパッドを収容する、請求項4又は5に記載の車両用座席の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−100173(P2010−100173A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273376(P2008−273376)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】