説明

車両用座席

【課題】 弾力が少ないシートクッションや、経年での弾性力の劣化(へたり)が大きなシートクッションを使用する場合でも、良好な着座感を長期間に渡って維持することができる車両用座席を提供する。
【解決手段】 座席フレーム5に取り付けられるシートパン2の座面部21上にシートクッション4を支持して成る車両用座席。シートパン2の座面部21の前端部にて一端部を支持し且つシートパンにおける座面部21の後端部より高い位置にて他端部を支持するように座席の前後方向にバネ3を張設し、該バネ3を介して前記シートクッション4を支持して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席フレームに取り付けられるシートパンの座面上にシートクッションを支持して成る車両用座席に関し、特に、シートクッションのへたりによる着座感の劣化を低減でき、長期間に渡って安定した着座感を得ることができる車両用座席に関する。
【背景技術】
【0002】
電車等の車両用座席として、車体側の座席フレームに取り付けたシートパン上に、シートクッションを設けたものが提供されている。このシートクッションとして、以前は、弾力の有るポリウレタン製のものが用いられていたが、近年は、環境問題に鑑み、ポリエステル製のものが用いられている。しかし、ポリエステル製のシートクッションは、ポリウレタン製のシートクッションと比較すると、使用開始当初から弾力性が少なく、更に、経年での弾性力の劣化(へたり)が顕著である。
【0003】
特開平08−010095号公報(特許文献1)には、クッションフレーム上にバネを取り付け、その上にクッションパッドを載置するとともに、気体を封入したエアマットをクッションパッドとバネの間に設け、エアマットの封入気体を給排可能と成すことで、その硬度を調整できるようにしたものが開示されている。
特開2002−037064号公報(特許文献2)には、車両の内壁に取り付けられる座受けフレーム及び背受けフレームによりシートパンを支持し、該シートパンによりシートクッションを支持して成る車両用ロングシートが開示されている。
特許第4555720号公報(特許文献3)には、所定の着座区画に画定されるシートクッションをクッションフレームに張設したSバネにより弾性的に支持して成る車両用座席であって、Sバネを座骨結節点の直下を避けて張設するとともに、隣接する着座区画の境界部にもSバネを張設したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−010095号公報
【特許文献2】特開2002−037064号公報
【特許文献3】特許第4555720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエステル製のシートクッションはポリウレタン製のシートクッションより弾力性が乏しく、また、経年での弾性力の劣化(へたり)が顕著であるため、これを改善して長期間に渡って良好な着座感を得られるようにしたいという要請がある。
特許文献2のシートは、シートパンによりシートクッションを支持する構造であり、ポリエステル製のシートクッションを用いる場合の上述の問題を解決できない。
特許文献1のシートや特許文献3の座席は、クッションフレームによりバネを支持する構造であるため、バネの取付位置が制約されるという問題が有り、その制約のために最適な着座感を得る構成を採用できない場合も生ずるという問題がある。
【0006】
本発明は、弾力が少ないシートクッションや、経年での弾性力の劣化(へたり)が大きなシートクッションを使用する場合でも、良好な着座感を長期間に渡って維持することができる車両用座席を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]〜[3]のように構成される。
本項「課題を解決するための手段」と、次項「発明の効果」に於いて、各符号は理解を容易にするために付したものであり、本発明を符号の構成に限定する趣旨ではない。
【0008】
[1]構成1
座席フレーム5に取り付けられるシートパン2の座面部21上にシートクッション4を支持して成る車両用座席であって、
前記シートパン2の座面部21の前端部にて一端部を支持し且つシートパンにおける座面部21の後端部より高い位置にて他端部を支持するように座席の前後方向にバネ3/30を張設し、該バネ3/30を介して前記シートクッション4を支持して成る、
ことを特徴とする車両用座席。
【0009】
[2]構成2
構成1に於いて、
前記シートパン2は、前記座面部21と、該座面部21の後端部から斜め後方へ立設された境界板部23と、該境界板部23から上方へ立設された縦板部25を有し、
前記バネ3/30の前記他端部を前記境界板部23にて支持して成る、
ことを特徴とする車両用座席。
【0010】
[3]構成3
構成1又は構成2に於いて、
前記バネ3/30を、座席着座区画の中央に1本と、その左右両側に座骨結節点6を避ける間隔を空けてそれぞれ1本づつ張設して成る、
ことを特徴とする車両用座席。
【発明の効果】
【0011】
構成1は、座席フレーム5に取り付けられるシートパン2の座面部21上にシートクッション4を支持して成る車両用座席であって、前記シートパン2の座面部21の前端部にて一端部を支持し且つ座面部21の後端部より高い位置にて他端部を支持するように座席の前後方向にバネ3/30を張設し、該バネ3/30を介して前記シートクッション4を支持して成ることを特徴とする車両用座席であるため、無理にバネ3/30を撓ませることなくシートパン2からの高さを容易に確保し、弾力が少ないシートクッションや、経年での弾性力の劣化(へたり)が大きなシートクッションを使用する場合でも、座面部21の上方に張設された3/30バネにより良好な着座感を得ることができる。
構成2は、構成1に於いて、前記シートパン2は、前記座面部21と、該座面部21の後端部から斜め後方へ立設された境界板部23と、該境界板部23から上方へ立設された縦板部25を有し、前記バネ3/30の前記他端部を前記境界板部23にて支持して成ることを特徴とする車両用座席であるため、前記他端部が相対的に後方位置に設定され、その結果、バネ3/30の中央位置(座席前後方向での中央位置)を、着座者の着座位置付近に設定でき、更に良好な着座感を得ることができる。なお、着座位置付近とは、着座区画内の2箇所の座骨結節点6,6を結ぶ線の座席前後方向での位置をいう。図4(a)の最左の着座区画L内に示す鎖線600の座席前後方向での位置付近である。
構成3は、構成1又は構成2に於いて、前記バネ3/30を、座席着座区画の中央に1本と、その左右両側に座骨結節点6を避ける間隔を空けてそれぞれ1本づつ張設して成ることを特徴とする車両用座席であるため、着座者は両側のバネ3a,3cにより中央方向へ付勢される。このため、座席が車両の長手方向に沿って設けられており列車進行方向の揺れを受けた場合でも、安定した着座感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態の車両用座席の各部材を分解して模式的に示す斜視図。(a)は座席フレーム5とシートパン2とシートクッション4を示し、(b)は座席フレーム5とシートパン2を示す。
【図2】実施の形態の車両用座席の各部材を分解して模式的に示す側面図。(a)は座席フレーム5とシートパン2とシートクッション4を示し、(b)は座席フレーム5とシートパン2を示す。
【図3】実施の形態の車両用座席のSバネ3/30の他端部(シートパン座面部21の後端部後方の側の端部)を2通りの高さ位置・前後位置で支持する様子を示すとともに、Sバネ300を後端部の直近手前位置で支持する様子を示す側面図。ここで、後端部の直近手前位置とはシートバック座面部21の後端部付近を言う。(a)は座席フレーム5とシートパン2を組み付けてシートクッション4を載置した状態、(b)は座席フレーム5とシートパン2を組み付けた状態を示す。
【図4】実施の形態の車両用座席の平面図(a)と正面図(b)。(a)ではSバネ3/30の他端部(シートパン座面部21の後端部後方の側の端部)を2通りの高さ位置・前後位置で支持する様子を着座区画L/Cにて示すとともに、Sバネ300を後端部の直近手前位置で支持する様子を着座区画Rにて示す。ここで、後端部の直近手前位置とはシートバック座面部21の後端部付近を言う。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図に例示する座席は鉄道車両用の3人掛けの座席であり、車両進行方向に沿って着座区画(図4(a)のL,C,R参照)が並ぶようにして、車両内壁に取り付けられる。
【0014】
即ち、まず、3人掛けや7人掛け等の座席の長さに応じて決まる適宜の個数のフレーム板50が、それぞれの背部50aを、鉄道車両の内壁の適宜の位置に背部50aの取付用として予め設けられている各取付部に取り付けられる。
次に、3人掛けや7人掛けを構成する上記適宜の個数のフレーム板50は、背部50aの上端部をパイプ55により相互に連結されるとともに、背部50aの下端から前方(図2で左方)へ延設された座部50bの前端部をパイプ56により相互に連結される。
これにより、座席フレーム5が構成される。
【0015】
なお、パイプ56としては、図1及び図2と、図3とでは、形状が若干異なるものが描かれている。即ち、図1や図2のパイプ56は上面が平坦で着座者の大腿への負担を減らすようにした異形パイプであるが、図3のパイプ56は断面円形のパイプである。フレーム板50の形状についても、同様に、若干異なるものが描かれている。
【0016】
上記の如く構成された座席フレーム5の座部50bの上に、図1(b)や図2(b)に示すようにしてシートパン2が載置されて組み付けられた後、、さらに、図1(a)や図2(a)に示すようにしてシートクッション4が載置されて取り付けられる。
【0017】
シートパン2は、後方へ行くにつれ下がっていく座面部21と、座面部21の後端部から斜め後方へ立設された境界板部23と、境界板部23から上方へ立設された縦板部25を有し、座面部21の上面側には、座席の前後方向(図2で左右方向)に沿ってSバネ3が張設されている。即ち、Sバネ3が、図2に示すように座面部21の前端部にて一端部を支持されるとともに、座面部21の後端部後方の境界板部23の上端部寄りの位置にて他端部を支持されて、張設されている。ここで、境界板部23は、座面部21の後端部から斜め後方へ立設された板部であるため、Sバネ3の後端部(前記他端部)が支持されている位置も、座面部21よりも高い位置である。
【0018】
図2はSバネ3を示す図であるが、Sバネ3より若干短いSバネ30の場合は、図3に示すように、座面部21の前端部にて一端部を支持されるとともに、座面部21の後端部後方の境界板部23の略中央高さの位置(Sバネ3の場合より若干低い位置)にて他端部を支持されて張設される。このため、座面部21からの最大高さ(座席前後方向でのバネ中央部分での高さ)は、Sバネ3の方がSバネ30より若干高い。
Sバネ30より更に短いSバネ300の場合は、図3に示すように、座面部21の前端部近傍にて一端部を支持されるとともに、座面部21の後端部にて他端部を支持されて張設される。このため、座面部21からの最大高さは、Sバネ30より更に低くなる。
【0019】
上述のSバネ3/30/300は、図4(a)の着座区画L/C/Rに示すように、各着座区画内の中央に1本3b/30b/300bと、その左右両側に1本づつ3a/30a/300a,3c/30c/300c、それぞれ、座骨結節点6,6を避ける間隔を空けて、張設される。なお、図4(a)は、左側の着座区画Lが最長のSバネ3(3a,3b,3c)を取り付けた場合を示し、中央の着座区画Cが中間長さのSバネ30(30a,30b,30c)を取り付けた場合を示す。また、右側の着座区画Rは最短のSバネ300(300a,300b,300c)を取り付けた場合を示す。図4(a)では、図3に示した異なる長さのSバネ3,30,300が、シートパン21にどのように取り付けられるかを比較して示すために、同一座席内の着座区画毎に、異なる長さのSバネを取り付けて示しているが、実際の座席では、同一の座席の各着座区画に、それぞれ、同一長さのSバネの組が張設される。
【0020】
Sバネ3(3a,3b,3c)は、長さが比較的長く、前記他端部(後端部)を、座面部21の後端部後方の境界板部23の上端部寄りの位置に支持される。このため、Sバネ3(3a,3b,3c)の弾力が大きい中央付近が、図4(a)に示すように、着座者の着座位置付近に略合致する。言い換えれば、着座者は、最も弾力が大きい中央付近に着座することとなり、良好な着座感を得ることができる。なお、着座位置付近とは、着座区画内の2箇所の座骨結節点6,6を結ぶ仮想線600の座席前後方向での位置付近をいう。
【0021】
また、Sバネ3(3a,3b,3c)は、着座位置付近の座面部21からの高さが、中間長さのSバネ30(30a,30b,30c)や、最短のSバネ300(300a,300b,300c)よりも高いため、着座者は十分な弾力を受けることができ、良好な着座感を得ることができる。
【0022】
一方、Sバネ3より若干短いSバネ30(30a,30b,30c)の場合は、Sバネ3と比較すると劣るものの、最短のSバネ300(300a,300b,300c)よりは大きな弾力を受けることができ、シートクッションとして弾力が少ないものや、経年での弾性力の劣化(へたり)が大きなものを使用したとしても、ある程度の良好な着座感を得ることができる。
【0023】
上述のSバネ3は、着座により下方へ付勢されて湾曲するが、その下限は、シートパン2の座面部21により規制されるため、沈みすぎによる不快感が防止される。なお、この点は、Sバネ30やSバネ300も同様である。
【0024】
また、上述のSバネ3は、中央のSバネ3bと、その両側のSバネ3a/3cとの間に座骨結節点6/6が位置しているため、着座により、両側のSバネ3a/3cが、それぞれ、中央のSバネ3bの方を向くように、若干傾斜する。即ち、着座者の臀部を包むように傾斜する。このため、車両進行方向に着座者を揺動させる力が加わった場合でも、着座者は、両側のSバネ3a/3cからの力を受けて、比較的安定して着座していることができ、不快感が防止される。座面部21からの高さを或る程度確保可能なSバネ30(30a,30b,30c)の場合も同様である。
【0025】
図3や図4に示すように、Sバネ3/30/300は、シートパン2に取り付けた取付金具35を介して、シートパン2に取り付けられるのであるが、取付金具35のシートパン2に於ける取付位置は、比較的自由度が高い。このため、Sバネとしても、適正な長さのSバネを選定して取り付けることができ、適正な着座感を達成することができる。
仮に、座席フレーム5にSバネを取り付けると仮定した場合には、座席フレーム5の構造や取付位置が車両の構造で決まる車両内壁側からの制約を受けるため、Sバネを取り付ける位置にも制約が生じ、結果、Sバネの長さや取付位置も適正な状態から外れる可能性が高まる。本発明では、そのような不具合も防止される。
【0026】
上記の実施形態では、バネ3/30として通常のSバネを用いているが、通常のSバネに代えて、例えば、コーナー部が角形もしくは丸角形のSバネ(フォームドワイヤと通称されているSバネ)等、若干、種類の異なるバネを用いてもよい。また、上記の実施形態ではSバネにキャンバーを持たせているが、Sバネによっては、キャンバーを持たせなくてもよい。
【0027】
また、上述の説明では、バネの後端部の取付位置の高さを「シートパンにおける座面部の後端部より高い位置」として下限を規定しているが、上限は「シートパンの上に取り付けられるシートクッションの座面部前端の高さ」であるのが好ましい。つまり、バネの後端部の取付位置の高さは、「シートパンにおける座面部の後端部より高く、且つ、シートクッションの座面部前端の高さより低い位置」となる。バネの後端部の取付位置を上記高さより低く設定することにより、着座者が前方へ滑り落ち難くできる。
【符号の説明】
【0028】
2 シートパン
21 シートパンの座面部
23 シートパンの境界板部
25 シートパンの縦板部
3 Sバネ(最長)
30 Sバネ(Sバネ3より若干短い長さ)
300 Sバネ(最短)
3a,30a,300a 着座区画内上面視で左側のSバネ
3b,30b,300b 着座区画内上面視で中央のSバネ
3c,30c,300c 着座区画内上面視で右側のSバネ
35 取付金具
4 シートクッション
5 座席フレーム
50 フレーム板
50a 背部
50b 座部
55 パイプ
56 パイプ
6 座骨結節点
L 左側の着座区画
C 中央の着座区画
R 右側の着座区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席フレームに取り付けられるシートパンの座面部上にシートクッションを支持して成る車両用座席であって、
前記シートパンの座面部の前端部にて一端部を支持し且つシートパンにおける座面部の後端部より高い位置にて他端部を支持するように座席の前後方向にバネを張設し、該バネを介して前記シートクッションを支持して成る、
ことを特徴とする車両用座席。
【請求項2】
請求項1に於いて、
前記シートパンは、前記座面部と、該座面部の後端部から斜め後方へ立設された境界板部と、該境界板部から上方へ立設された縦板部を有し、
前記バネの前記他端部を前記境界板部にて支持して成る、
ことを特徴とする車両用座席。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に於いて、
前記バネを、座席着座区画の中央に1本と、その左右両側に座骨結節点を避ける間隔を空けてそれぞれ1本づつ張設して成る、
ことを特徴とする車両用座席。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−82241(P2013−82241A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221563(P2011−221563)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】