説明

車両用操舵装置およびラックガイド機構

【課題】ラックガイドがハウジングに衝突することを抑制することのできる車両用操舵装置およびラックガイド機構を提供する。
【解決手段】車両用操舵装置は、ピニオンシャフト13に噛み合わされるラックシャフト20と、ラックシャフト20の移動を案内するラックガイド51と、ラックガイド51を収容するラックハウジング40とを備え、ラックハウジング40とラックガイド51とが互いに接触可能かつ相対的に移動可能である。車両用操舵装置には、ラックハウジング40とラックガイド51との隙間に差し込まれる楔部材53と、楔部材53を前記隙間に向けて押す力を楔部材53に付与する弾性部材54とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックシャフトの移動を案内するラックガイドと、このラックガイドを収容するハウジングとを備え、ハウジングとラックガイドとが互いに接触可能かつ相対的に移動可能な車両用操舵装置、およびラックガイド機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のラックガイド機構は、ラックシャフトの移動を案内するラックガイド(サポートヨーク)と、ラックガイドをピニオンシャフトに押しつける弾性部材と、ラックガイドおよび弾性部材を収容するハウジングとを備えている。ラックガイドは、弾性部材がラックガイドを押さえつける方向において、ハウジングに接触した状態でハウジングに対して移動することが許容されている。なお、特許文献2のラックガイド機構も上記と同様の構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−67259号公報
【特許文献2】特開2007−238089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2に記載のラックガイド機構においては、ハウジングに対するラックガイドの移動にともないハウジングおよびラックガイドの少なくとも一方が摩耗したとき、ラックガイドおよびハウジングの間の隙間が拡大する。このため、ラックガイドがハウジングに衝突することにより衝突音が発生するおそれが高くなる。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ラックガイドがハウジングに衝突することを抑制することのできる車両用操舵装置およびラックガイド機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、ピニオンシャフトに噛み合わされるラックシャフトと、このラックシャフトの移動を案内するラックガイドと、このラックガイドを収容するハウジングとを備え、前記ハウジングと前記ラックガイドとが互いに接触可能かつ相対的に移動可能な車両用操舵装置において、前記ハウジングと前記ラックガイドとの隙間に差し込まれる楔部材と、この楔部材を前記隙間に向けて押す力を前記楔部材に付与する弾性部材とが設けられていることを要旨とする。
【0007】
この発明によれば、ハウジングおよびラックガイドの間に形成されている隙間に楔部材が差し込まれるとともに、この楔部材が弾性部材により隙間に向けて押されるため、ハウジングに衝突しようとするラックガイドの移動が楔部材により規制される。また、ハウジングおよびラックガイドの少なくとも一方の摩耗にともない、これらの部材の間の隙間が拡大したとしても、弾性部材の弾性力が楔部材に付与されていることにより、楔部材が上記隙間を埋める方向に移動する。このため、楔部材および弾性部材が設けられていない構成と比較して、ラックガイドがハウジングに衝突する状況が生じにくくなる。
【0008】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1に記載の車両用操舵装置において、前記ラックガイドが前記ハウジングに対して移動する方向を「摺動方向」とし、この摺動方向に沿うとともに前記ラックガイドおよび前記楔部材を通過する断面を「所定断面」とし、この所定断面において前記摺動方向に直交する方向を「幅方向」とし、前記楔部材および前記ラックガイドの前記幅方向の寸法を「幅」として、前記所定断面において、前記ラックガイドの外面と前記楔部材の内面とが互いに接触すること、前記所定断面において、前記ハウジングと前記ラックガイドとの間に位置する前記楔部材の壁部の幅が前記ラックシャフトに向かうにつれて小さくなること、ならびに、前記所定断面において、前記ラックガイドのうちの前記楔部材の壁部に対応する部分の幅が前記ラックシャフトに向かうにつれて大きくなることを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、所定断面において楔部材の壁部の幅がラックシャフトに向かうにつれて小さくなり、かつ同壁部に対応するラックガイドの幅がラックシャフトに向かうにつれて大きくなるため、ラックガイドの外面と楔部材の内面との密着性が向上する。
【0010】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項2に記載の車両用操舵装置において、前記楔部材の内面が前記弾性部材の弾性力により前記ラックガイドの外面に押しつけられることにともない前記楔部材が前記幅方向において前記ハウジング側に弾性変形することを要旨とする。
【0011】
楔部材を有する車両用操舵装置においては、ハウジングおよび楔部材の相対的な移動にともないハウジングおよび楔部材の少なくとも一方が摩耗することにより、これらの部材の間に隙間が形成されるおそれがある。この発明では、楔部材が幅方向のハウジング側に弾性変形するため、ハウジングおよび楔部材の少なくとも一方の摩耗にともない形成される隙間が楔部材により埋められる。このため、ハウジングと楔部材との衝突が生じることが抑制される。
【0012】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、前記ラックガイドが前記弾性部材の弾性力により前記ラックシャフトに押し付けられることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、楔部材を隙間に向けて押すための役割、およびラックガイドをラックシャフトに向けて押すための役割を1つの弾性部材が担うため、これらの役割を個別に担う2つの弾性部材を有する構成と比較して部品点数が少なくなる。
【0014】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、前記弾性部材が前記楔部材に固定されていることを要旨とする。
【0015】
弾性部材と楔部材とが互いに固定されていない構成によれば、弾性部材の伸縮にともない弾性部材と楔部材とが衝突するおそれがある。この発明では、弾性部材が楔部材に固定されているため、弾性部材と楔部材との衝突が発生することを抑制することができる。
【0016】
(6)第6の手段は、請求項6に記載の発明すなわち、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、前記弾性部材および前記楔部材が一体の部材として形成されていることを要旨とする。
【0017】
弾性部材と楔部材とが互いに固定されていない構成によれば、弾性部材の伸縮にともない弾性部材と楔部材とが衝突するおそれがある。この発明では、弾性部材および楔部材が一体の部材として形成されているため、弾性部材と楔部材との衝突が発生することを抑制することができる。
【0018】
(7)第7の手段は、請求項7に記載の発明すなわち、ラックシャフトの移動を案内するラックガイドと、このラックガイドを収容するハウジングとを備え、前記ハウジングと前記ラックガイドとが互いに接触可能かつ相対的に移動可能なラックガイド機構において、前記ハウジングと前記ラックガイドとの隙間に差し込まれる楔部材と、この楔部材を前記隙間に向けて押す力を前記楔部材に付与する弾性部材とが設けられていることを要旨とする。
【0019】
この発明によれば、ハウジングおよびラックガイドの間に形成されている隙間に楔部材が差し込まれるとともに、この楔部材が弾性部材により隙間に向けて押されるため、ハウジングに衝突しようとするラックガイドの移動が楔部材により規制される。また、ハウジング、ラックガイド、および楔部材の少なくとも1つの摩耗にともない、これらの部材の間の隙間が拡大したとしても、弾性部材の弾性力が楔部材に付与されていることにより、楔部材が上記隙間を埋める方向に移動する。このため、楔部材および弾性部材が設けられていない構成と比較して、ラックガイドがハウジングに衝突する状況が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラックガイドがハウジングに衝突することを抑制することのできる車両用操舵装置およびラックガイド機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の車両用操舵装置について、その構造を模式的に示す構成図。
【図2】同実施形態のラックガイド機構について、図1のラック軸方向Xに垂直な断面構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のラックガイド機構について、ラックガイドの斜視構造を示す斜視図。
【図4】同実施形態のラックガイド機構について、楔部材および弾性部材の斜視構造を示す斜視図。
【図5】同実施形態のラックガイド機構について、図2に示される断面構造の一部分の拡大構造であり、ハウジングとラックガイドとが互いに接触可能、かつ相対的に移動可能、かつ摩耗の度合が小さい状態を示す断面図。
【図6】同実施形態のラックガイド機構について、図2に示される断面構造の一部分の拡大構造であり、ハウジングとラックガイドとが互いに接触可能、かつ相対的に移動可能、かつ摩耗の度合が大きい状態を示す断面図。
【図7】本発明の他の実施形態のラックガイド機構について、その断面構造を示す断面図。
【図8】本発明の他の実施形態のラックガイド機構について、その断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1および図2を参照して、車両用操舵装置1の構成について説明する。なお、この車両用操舵装置1は、アシスト装置30を備えた電動パワーステアリング装置として構成されている。
【0023】
車両用操舵装置1は、ステアリングホイール2の操作に応じて回転するステアリングシャフト10と、車輪3の向きを変更するためにラック軸方向Xにおいて移動するラックシャフト20と、ステアリングシャフト10とラックシャフト20とを接続するラックアンドピニオン機構1Aとを有する。またこの他に、ステアリングシャフト10にトルクを付与するアシスト装置30と、ラックシャフト20を収容するラックハウジング40と、ラックシャフト20をガイドするラックガイド機構1Cとを有する。
【0024】
ステアリングシャフト10は、ステアリングホイール2が固定されるコラムシャフト11と、ラックアンドピニオン機構1Aに回転を伝達するピニオンシャフト13と、コラムシャフト11とピニオンシャフト13とを互いに接続するインターミディエイトシャフト12とを有する。
【0025】
ラックアンドピニオン機構1Aは、ピニオンシャフト13に形成されたピニオン14と、ラックシャフト20に形成されたラック21とにより構成されている。ピニオン14およびラック21は、ラックハウジング40内において互いに噛み合わせられている。すなわち、ラックシャフト20はピニオンシャフト13に噛み合わせられている。ピニオンシャフト13の回転運動は、ラックアンドピニオン機構1Aによりラックシャフト20の直線運動に変換される。
【0026】
アシスト装置30は、駆動源としての電動モータ31と、電動モータ31の回転を減速してコラムシャフト11に伝達する減速機1Bとを有する。減速機1Bは、電動モータ31の出力により回転するウォームシャフト32と、ウォームシャフト32に噛み合わせられるウォームホイール33とを有する。ウォームホイール33は、コラムシャフト11と一体的に回転する。
【0027】
車両用操舵装置1の動作について説明する。
ステアリングシャフト10は、運転者がステアリングホイール2を回転させることにともない回転する。ラックシャフト20は、ステアリングシャフト10の回転にともないラック軸方向Xに移動する。ステアリングシャフト10が回転しているとき、電動モータ31は、ステアリングシャフト10に付与されたトルクを検出するトルクセンサ(図示略)の出力に基づいてウォームホイール33を回転させる。すなわち電動モータ31は、ラックシャフト20の移動を補助するアシストトルクをステアリングシャフト10に付与する。これにより、ラックシャフト20を移動させるためにステアリングホイール2の操作に要求される力が小さくなる。すなわち、ステアリングホイール2の操作がアシスト装置30によりアシストされる。
【0028】
図2を参照して、ラックガイド機構1Cの構成について説明する。
ラックガイド機構1Cは、ラックシャフト20の移動を案内するラックガイド51と、弾性を有する硬質の合成樹脂により形成されたシート部材52と、ラックガイド51を収容するラックハウジング40とを備えている。すなわち、ラックシャフト20を収容するラックハウジング40は、ラックガイド51を収容するハウジングを兼ねている。
【0029】
ラックハウジング40は、ピニオンシャフト13を収容するピニオンシャフト収容部41と、ラックガイド51を収容するラックガイド収容部45とを有する。ピニオンシャフト収容部41は、ラックハウジング40内への異物の侵入を抑制するシール部材42と、ピニオンシャフト13を回転可能に支持する玉軸受43およびニードル軸受44とを有する。
【0030】
シール部材42は、ラックハウジング40の外部に向けて開口するピニオンシャフト収容部41の開口部41Aにおいて、ピニオンシャフト13とラックハウジング40の壁部との間に配置されている。
【0031】
玉軸受43およびニードル軸受44は、ピニオンシャフト13の回転中心軸の方向であるピニオン軸方向Yにおいて、互いに間隔を空けて配置されている。玉軸受43は、ピニオンシャフト13のうちのピニオン14よりも上方の部分を支持している。ニードル軸受44は、ピニオンシャフト13のうちのピニオン14よりも下方の部分を支持している。
【0032】
ラックガイド収容部45には、ラックガイド51の他に、ラックガイド収容部45とラックガイド51との隙間に差し込まれる楔部材53と、ラックガイド51をラックシャフト20に押さえつけるための弾性部材54と、ラックガイド収容部45にねじ込まれるプラグ55とが配置されている。
【0033】
シート部材52は、ラックシャフト20とラックガイド51との間に配置されている。ラックシャフト20は、シート部材52を介してラックガイド51によりピニオンシャフト13に押さえつけられている。ラックガイド51および楔部材53は、弾性部材54によりラックガイド51が押される方向において、ラックハウジング40の内面である摺接面45Bに接触した状態でラックハウジング40に対して移動することが許容されている。以下、ラックハウジング40に対してラックガイド51が接触した状態で相対的に移動する方向を「摺動方向Z」という。なお、摺接面45Bは、摺動方向Zに垂直な断面において円形を有する。なお、ピニオン軸方向Yは、摺動方向Zに直交するラックシャフト20の幅方向に相当する。
【0034】
楔部材53の一部は、摺動方向Zにおいてラックガイド51と弾性部材54との間に位置し、かつラックハウジング40の摺接面45Bとラックガイド51との隙間に差し込まれている。弾性部材54は、摺動方向Zにおいて楔部材53とプラグ55との間に設けられている。プラグ55は、ラックハウジング40の外部に向けて開口するラックガイド収容部45の開口部45Aを閉鎖している。
【0035】
図3に示されるように、ラックガイド51には、シート部材52を介してラックシャフト20が嵌められるガイド溝51Aが形成されている。ガイド溝51Aは、図1のラック軸方向Xに延びる形状と、図2のラックハウジング40の摺接面45Bに対向する外周面51Bとを有する。ラックシャフト20は、ガイド溝51Aによりラック軸方向Xに移動可能に支持される。
【0036】
図4に示されるように、楔部材53は、円筒に近い形状と、図2のラックハウジング40の摺接面45Bに対向する外周面53Aと、図3のラックガイド51の外周面51Bに対向する内周面53Bとを有する。楔部材53には、図2のピニオン軸方向Yにおける拡径および縮径を促すため、図2の摺動方向Zに延びるスリット53Cが形成されている。また楔部材53には、弾性部材54としてのコイルばねが溶接により固定されている。
【0037】
図5に示されるように、摺動方向Zに沿うとともにラックガイド51および楔部材53を含む所定断面において、ラックハウジング40の摺接面45Bは、摺動方向Zに平行に形成されている。以下、所定断面においての楔部材53の外周面53Aおよび内周面53Bとラックガイド51の外周面51Bとの関係の詳細について説明する。
【0038】
楔部材53の外周面53Aは、ラックハウジング40の摺接面45Bと同様に、摺動方向Zに平行に形成されている。楔部材53の内周面53Bは、摺動方向Zにおいて傾斜している。楔部材53の内周面53Bの径である楔部材53の内径は、摺動方向Zにおいてラックシャフト20に向かうにつれて大きくなる。すなわち楔部材53は、摺動方向Zにおいてラックシャフト20に向けて細くなる形状を有する。
【0039】
ラックガイド51の外周面51Bは、摺動方向Zにおいて傾斜している。ラックガイド51の外周面51Bの径であるラックガイド51の外径は、摺動方向Zにおいてラックシャフト20に向かうにつれて大きくなる。すなわちラックガイド51は、摺動方向Zにおいてラックシャフト20に向けて大きくなる外形を有する。
【0040】
楔部材53は、内周面53Bがラックガイド51の外周面51Bと密着した状態、かつ外周面53Aがラックハウジング40の摺接面45Bと密着した状態でラックガイド51とラックハウジング40との間に配置されている。
【0041】
ラックガイド51の外周面51Bのうちのラックシャフト20側の端部は、楔部材53により覆われていない。このため、ラックハウジング40とラックガイド51とが互いに接触することができる。そして、ラックハウジング40とラックガイド51および楔部材53とが互いに接触した状態で相対的に移動した場合、ラックガイド51の外周面51Bおよび楔部材53の外周面53Aが摩耗する。
【0042】
図6に示されるように、ラックガイド51の外周面51Bおよび楔部材53の外周面53Aが摩耗したとき、楔部材53が弾性部材54の弾性力により摺動方向Zにおいてラックシャフト20に向けて移動する。このとき、楔部材53の内周面53Bがラックガイド51の外周面51Bに押しつけられることにともない楔部材53がピニオン軸方向Yにおけるラックハウジング40側に弾性変形する。すなわち、ピニオン軸方向Yにおける楔部材53の外形が大きくなる。また、ピニオン軸方向Yだけでなく、摺動方向Zに直交する他の方向においても楔部材53の外形が大きくなる。
【0043】
(作用)
ラックガイド機構1Cの作用について説明する。
図5に示されるように、楔部材53は、ラックハウジング40およびラックガイド51の間に形成されている隙間に差し込まれるとともに、弾性部材54によりその隙間に向けて押される。このため、ラックハウジング40に衝突しようとするラックガイド51の移動、すなわち摺動方向Zに対して垂直な方向におけるラックガイド51の移動が楔部材53により規制される。
【0044】
図6に示されるように、ラックガイド51および楔部材53の摩耗にともない、ラックガイド51および楔部材53のそれぞれとラックハウジング40との隙間が拡大したとき、弾性部材54の弾性力が楔部材53に付与されていることにより、楔部材53が上記隙間を埋める方向に移動する。また、ラックハウジング40の摩耗にともない、ラックガイド51および楔部材53のそれぞれとラックハウジング40との隙間が拡大したとき、楔部材53が上記と同様に隙間を埋める方向に移動する。
【0045】
(実施形態の効果)
車両用操舵装置1およびラックガイド機構1Cによれば以下の効果が得られる。
(1)ラックガイド機構1Cは、ラックハウジング40とラックガイド51との隙間に差し込まれる楔部材53と、楔部材53をラックハウジング40とラックガイド51との隙間に向けて押す力を楔部材53に付与する弾性部材54とを有する。この構成によれば、ラックハウジング40に衝突しようとするラックガイド51の移動が楔部材53により規制される。また、ラックハウジング40とラックガイド51の間の隙間が拡大したとしても、楔部材53がその隙間を埋める方向に移動する。したがって、楔部材53および弾性部材54を有していない構成と比較して、ラックガイド51がラックハウジング40に衝突する状況が生じにくくなる。また、このようにラックガイド51がラックハウジング40に衝突することが抑制されるため、耐摩耗性が低い樹脂をラックガイド51の材料として用いることが許容される。そして、そのような材料の選択をすることにより、ラックガイド51のコストを低減することができる。
【0046】
(2)車両用操舵装置1においては、図5に示される断面において、ラックガイド51の外周面51B(外面)と楔部材53の内周面53B(内面)とが互いに接触している。また、同断面において、ラックハウジング40とラックガイド51との間に位置する楔部材53の壁部の幅(ラックハウジング40とラックガイド51とにより挟まれる部分の摺動方向Zに直交する方向の寸法)がラックシャフト20に向かうにつれて小さくなる。また、同断面において、ラックガイド51のうちの楔部材53の壁部に対応する部分の幅(摺動方向Zに直交する方向の寸法)がラックシャフト20に向かうにつれて大きくなる。この構成によれば、ラックガイド51の外周面51Bと楔部材53の内周面53Bとの密着性が向上する。
【0047】
(3)車両用操舵装置1においては、ラックハウジング40および楔部材53の相対的な移動にともないラックハウジング40および楔部材53の少なくとも一方が摩耗することにより、ラックハウジング40と楔部材53との間に隙間が形成されるおそれがある。しかし、楔部材53の内周面53Bが弾性部材54の弾性力によりラックガイド51の外周面51Bに押しつけられることにともない、楔部材53がピニオン軸方向Yのラックハウジング40側に弾性変形する。このため、ラックハウジング40および楔部材53の少なくとも一方の摩耗にともない形成される隙間が楔部材53により埋められる。このため、ラックハウジング40と楔部材53との衝突が生じることが抑制される。
【0048】
(4)ラックガイド51は、弾性部材54の弾性力によりラックシャフト20に押し付けられる。この構成によれば、楔部材53をラックハウジング40とラックガイド51との隙間に向けて押すための役割、およびラックガイド51をラックシャフト20に向けて押すための役割を1つの弾性部材54が担うため、これらの役割を個別に担う2つの弾性部材を有する構成と比較して部品点数が少なくなる。
【0049】
(5)弾性部材54と楔部材53とが互いに固定されていない構成によれば、弾性部材54の伸縮にともない弾性部材54と楔部材53とが衝突するおそれがある。これに対して、車両用操舵装置1においては、弾性部材54が楔部材53に固定されているため、弾性部材54と楔部材53との衝突が発生することを抑制することができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。また以下の各変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を組み合わせて実施することもできる。
【0051】
・上記実施形態(図2)のラックハウジング40は、ラックガイド51を収容するハウジングを兼ねているが、ラックガイド51を収容するハウジングと、ラックシャフト20を収容するハウジングとを個別の部材として構成することもできる。
【0052】
・上記実施形態(図4)の弾性部材54は溶接により楔部材53に固定されているが、弾性部材54と楔部材53との相対的な移動が可能な構成に変更することもできる。
・上記実施形態(図4)では、弾性部材54としてコイルばねを用いているが、例えば、ラックハウジング40とラックガイド51との隙間に向けて押す力を楔部材53に付与する弾性部材として、板ばね、竹の子ばね、皿ばね等を用いることもできる。
【0053】
・上記実施形態(図2)の楔部材53に代えて、図7に示される楔部材63を用いることもできる。
楔部材63は、図2のラックハウジング40の摺接面45Bに対向する外周面63Aと、図3のラックガイド51の外周面51Bに対向する内周面63Bとを有する。楔部材63には、プラグ55に接触するとともに摺動方向Zにおいて弾性を有する弾性部63Cが形成されている。なお、楔部材63は板金により形成することができる。そして、楔部材63を板金により形成する場合には、弾性部材および楔部材を一体の部材として形成することが可能となる。
【0054】
弾性部材および楔部材を一体の部材として形成された構成によれば、弾性部材と楔部材との衝突が発生することを抑制することができる。なお、弾性部材と楔部材とが互いに固定されていない構成においては、弾性部材と楔部材との衝突が発生するおそれがある。
【0055】
・上記実施形態(図2)において、図8に示されるように楔部材53の構成を変更することもできる。すなわち、摺動方向Zを中心として一周するリング溝53Dを外周面53Aに形成し、このリング溝53Dに環状のOリング56を取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0056】
1…車両用操舵装置、1A…ラックアンドピニオン機構、1B…減速機構、1C…ラックガイド機構、2…ステアリングホイール、3…車輪、10…ステアリングシャフト、11…コラムシャフト、12…インターミディエイトシャフト、13…ピニオンシャフト、14…ピニオン、20…ラックシャフト、21…ラック、30…アシスト装置、31…電動モータ、32…ウォームシャフト、33…ウォームホイール、40…ラックハウジング(ハウジング)、41…ピニオンシャフト収容部、41A…開口部、42…シール部材、43…玉軸受、44…ニードル軸受、45…ラックガイド収容部、45A…開口部、45B…摺接面、51…ラックガイド、51A…ガイド溝、51B…外周面(外面)、52…シート部材、53…楔部材、53A…外周面、53B…内周面(内面)、53C…スリット、53D…リング溝、54…弾性部材、55…プラグ、56…Oリング、63…楔部材、63A…外周面、63B…内周面、63C…弾性部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンシャフトに噛み合わされるラックシャフトと、このラックシャフトの移動を案内するラックガイドと、このラックガイドを収容するハウジングとを備え、前記ハウジングと前記ラックガイドとが互いに接触可能かつ相対的に移動可能な車両用操舵装置において、
前記ハウジングと前記ラックガイドとの隙間に差し込まれる楔部材と、この楔部材を前記隙間に向けて押す力を前記楔部材に付与する弾性部材とが設けられていること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記ラックガイドが前記ハウジングに対して移動する方向を「摺動方向」とし、この摺動方向に沿うとともに前記ラックガイドおよび前記楔部材を通過する断面を「所定断面」とし、この所定断面において前記摺動方向に直交する方向を「幅方向」とし、前記楔部材および前記ラックガイドの前記幅方向の寸法を「幅」として、
前記所定断面において、前記ラックガイドの外面と前記楔部材の内面とが互いに接触すること、
前記所定断面において、前記ハウジングと前記ラックガイドとの間に位置する前記楔部材の壁部の幅が前記ラックシャフトに向かうにつれて小さくなること、
ならびに、前記所定断面において、前記ラックガイドのうちの前記楔部材の壁部に対応する部分の幅が前記ラックシャフトに向かうにつれて大きくなること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記楔部材の内面が前記弾性部材の弾性力により前記ラックガイドの外面に押しつけられることにともない前記楔部材が前記幅方向において前記ハウジング側に弾性変形すること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、
前記ラックガイドが前記弾性部材の弾性力により前記ラックシャフトに押し付けられること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、
前記弾性部材が前記楔部材に固定されていること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置において、
前記弾性部材および前記楔部材が一体の部材として形成されていること
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項7】
ラックシャフトの移動を案内するラックガイドと、このラックガイドを収容するハウジングとを備え、前記ハウジングと前記ラックガイドとが互いに接触可能かつ相対的に移動可能なラックガイド機構において、
前記ハウジングと前記ラックガイドとの隙間に差し込まれる楔部材と、この楔部材を前記隙間に向けて押す力を前記楔部材に付与する弾性部材とが設けられていること
を特徴とするラックガイド機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−60052(P2013−60052A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198538(P2011−198538)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】