説明

車両用歩行者保護装置

【課題】部品点数の低減や構造の簡素化などによって部品コストの低下と装置の軽量化を図りながら、車両前方から入力される衝撃荷重に対する十分な反力を確保できる車両用歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】長手方向Wが車両幅方向と平行になるように車両に設置される板状の脚払い部材10であって、上下方向に対向配置された第1および第2の板部材10a,10bと、第1および第2の板部材10a,10bの間に形成され、それぞれが長手方向Wと直交する方向に延びる複数のリブ10cと、を備え、各リブ10cは、脚払い部材10の少なくとも車両前方側の領域において、長手方向Wと直交する方向に延びる中空の閉断面構造10dが長手方向Wに沿って複数形成されるように、第1および第2の板部材10a,10bに連続的に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空板状の脚払い部材を備えた車両用歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の前方や後方、あるいは側方等に、衝突時に生ずる衝撃エネルギーを吸収し、車体や乗員を保護するための各種の保護装置が設置されている。それに対して、近年では、車両前面に歩行者が衝突または接触したときに歩行者を保護するための歩行者保護装置も、車両前方に設置されるようになっている。
【0003】
このような歩行者保護装置の一つとして、フロントバンパの内側や、フロントバンパとは独立してフロントバンパの下部に設置された、いわゆる脚払い部材が知られている。脚払い部材は、歩行者が車両前面に衝突したときに入力される衝撃荷重に対する反力を歩行者の脚部に付与することで、歩行者の脚部を払って、歩行者を車両側に転倒させる。それにより、骨折等の、歩行者の脚部に対する傷害の発生を可及的に防止して、歩行者の保護および安全を図っている。したがって、脚払い部材には、車両前方から入力される衝撃荷重に対する十分な反力を確保することが求められている。
【0004】
そのため、これまでに様々な構造の脚払い部材を備えた歩行者保護装置が提案されている。例えば、特許文献1には、車両前方の下部領域に設置され、少なくとも一部が車両前面から突出した状態で車両幅方向に延びる樹脂発泡体と、樹脂発泡体の背面に接触し、車両幅方向に延びる梁部材とを備えた歩行者保護装置が開示されている。また、特許文献2には、金属パイプ等からなり、車両幅方向に沿って車両前方の下部領域に固定された歩行者保護装置が開示されている。また、特許文献3には、中実の板状に形成された後側部分と、後側部分よりもそれぞれ上下に突出し、車両前方から見た断面がコの字状の2種類の補強ビードが交互に配設された前側部分とを備えた合成樹脂製の歩行者保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−277963号公報
【特許文献2】特開2004−025976号公報
【特許文献3】特開2007−331455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の歩行者保護装置は、樹脂発泡体と梁部材とから構成されているため、部品点数が多くなり、その結果、部品コストが高くなってしまう。また、特許文献2や特許文献3に記載の装置では、金属パイプが用いられていたり、プレートの前側部分の剛性を高めるために複雑な構成の補強ビードが形成されていたりするため、装置の重量が大きくなることが避けられなかった。このことは、エネルギー問題などから近年求められている車両の軽量化の観点から好ましくない。
【0007】
そこで本発明は、部品点数の削減や構造の簡素化などによって部品コストの低下と装置の軽量化を図りながら、車両前方から入力される衝撃荷重に対する十分な反力を確保できる車両用歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明の車両用歩行者保護装置は、長手方向である第1の方向が車両幅方向と平行になるように、車両前方の下部領域に設置される板状の脚払い部材であって、少なくとも車両前方側の領域が車両前後方向と車両幅方向とを含む平面に実質的に平行に配置される脚払い部材を備え、脚払い部材が、所定の間隔を置いて対向配置され、中空板を構成する第1および第2の板部材と、第1の板部材と第2の板部材との間に形成され、第1の板部材と第2の板部材とを連結する複数のリブであって、各リブが第1の方向と直交する第2の方向に延びる、複数のリブと、を備え、各リブは、脚払い部材の少なくとも車両前方側の領域において、第1の板部材と第2の板部材との間に第2の方向に延びる中空の閉断面構造が第1の方向に沿って複数形成されるように、第1の板部材と第2の板部材とに連続的に結合されている。
【0009】
このような車両用歩行者保護装置では、歩行者との衝突時に車両前方側の側面から車両前後方向に入力される衝撃荷重に対して、脚払い部材に形成された、車両前後方向に延びる複数の閉断面構造によって、十分な剛性が付与されることになる。このような脚払い部材の十分な剛性は、2つの板部材と複数のリブとによって構成された簡易な構造によって達成されている。そのため、衝撃荷重に対する十分な反力の発生が、複雑な構造や別部品を必要とすることがなく、したがって、部品点数および部品コストを増加させることなく、極めて軽量な脚払い部材によって実現可能となる。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によれば、部品点数の低減や構造の簡素化などによって部品コストの低下と装置の軽量化を図りながら、車両前方から入力される衝撃荷重に対する十分な反力を確保できる車両用歩行者保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における車両用歩行者保護装置の脚払い部材を概観的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における車両用歩行者保護装置の脚払い部材を概観的に示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両用歩行者保護装置の脚払い部材を概観的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における車両用歩行者保護装置を概略的に示す断面図である。
【図5】図4に示す車両用歩行者保護装置に歩行者が衝突した際の状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における脚払い部材の一変形例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の一実施形態における脚払い部材の別の変形例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の一実施形態における脚払い部材の別の変形例を示す概略平面図および概略断面図である。
【図9】本発明の一実施形態における脚払い部材の別の変形例を一部拡大して示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における車両用歩行者保護装置の脚払い部材を概略的に示す斜視図である。図2は、図1に示す脚払い部材を概略的に示す平面図である。また、図3(a)は、図1に示す脚払い部材を概略的に示す断面図であり、図3(b)は、図2(a)の一部拡大図である。
【0014】
本実施形態の脚払い部材は、平面形状が細長の板状部材であって、車両に対して、車両前後方向と車両幅方向とを含む平面(水平面)に平行に配置されるとともに、その長手方向が車両幅方向と平行になるように設置されることを前提としている。そのため、以下の説明では、脚払い部材の板面内での各方向を、車両に設置された状態での対応する車両の各方向とする。すなわち、各図に示すように、脚払い部材の長手方向(第1の方向)を車両幅方向W、長手方向と直交する方向(第2の方向)を車両前後方向Lとする。したがって、図2の平面図は、車両上下方向から見た脚払い部材を示しており、図3の断面図は、車両前後方向から見た脚払い部材の断面を示している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の脚払い部材10は、平板状に形成されており、全体として細長矩形状の平面形状を有している。すなわち、脚払い部材10は、車幅よりも所定寸法だけ短い車両幅方向(図1の矢印W参照)の寸法が、車両前後方向(図1の矢印L参照)の寸法よりも十分に長い矩形状に形成されている。歩行者と衝突した際に衝撃荷重が入力される車両前方側の側面(衝撃入力面)20は、図2に示すように、車両上下方向から見たとき、脚払い部材10の車両前方側に設置される後述のフロントバンパ(バンパカバー)の内面形状に対応するように、車両前方に向かって凸状の湾曲した形状を有している。この衝撃入力面20は、脚払い部材10が衝撃荷重の入力方向を含む水平面と平行になるように車両に設置されるのに応じて、衝撃荷重を脚払い部材10に対して平行に入力させるように構成されているのが好ましい。すなわち、本実施形態では、衝撃入力面20は、衝撃荷重に対する十分な剛性を確保するために、脚払い部材10の板面に対して垂直となるように形成されている。脚払い部材10は、例えば、ポリプロピレンやABS樹脂等の熱可塑性樹脂材料からなる。
【0016】
脚払い部材10は、図3に示すように、所定の間隔を置いて対向配置され、中空板を構成する上板(第1の板部材)10aと下板(第2の板部材)10bとを備えている。上板10aと下板10bとの間、すなわち中空板の内部には、上板10aと下板10bとを連結し、それぞれが車両前後方向Lに延びる複数のリブ10cが設けられている。各リブ10cは、上板10aと下板10bとに連続的に結合されており、これにより、脚払い部材10には、図3(b)に示すように、それぞれが車両前後方向Lに延びる中空の閉断面構造10dが、車両幅方向Wに沿って複数形成されることになる。言い換えれば、本実施形態の脚払い部材10は、それぞれが歩行者との衝突時に入力される衝撃荷重の方向(車両前後方向L)に延び、車両幅方向Wに並置された複数の閉断面構造10dによって構成されることになる。
【0017】
本実施形態の脚払い部材10では、このような車両幅方向Wに連続した複数の閉断面構造10dが形成されていることで、脚払い部材10の衝撃入力面20から入力される衝撃荷重は車両幅方向Wに伝播されやすくなる。その結果、本実施形態の脚払い部材10は、全体の重量が軽量であっても衝撃荷重に対する十分な剛性を得ることが可能となる。この閉断面構造10dは、例えば特許文献3に記載の補強ビードのような複雑な構造や追加的な別部品を必要とせず、上板10a、下板10b、および、それらの間に形成された複数のリブ10cのみによって形成されている。したがって、本実施形態の脚払い部材10は、閉断面構造10dのこのような簡易な構成によって、衝撃荷重に対する十分な反力を確保しながら、構造の簡素化による装置の軽量化と、部品点数に削減による部品コストの低減とを実現することが可能となる。
【0018】
これに加えて、本実施形態では、上述したように、各リブ10cが、上板10aおよび下板10bのすべての領域に対して連続的に結合されているため、閉断面構造10dが、脚払い部材10の車両前方側の側面から後方側の側面にわたって形成されることになる。これにより、本実施形態の脚払い部材10では、押出成形による一体成形が可能となる。このことは、例えば特許文献3に記載のような、中実の板状部分を有する脚払い部材の成形に用いられる射出成形の場合と比べて、製造コストの面でも有利となる。
【0019】
なお、脚払い部材において、車両前方から見た上側部分と下側部分との間で衝撃荷重に対する剛性に差が生じている場合、脚払い部材は、衝撃荷重の入力時に上方や下方の何れか一方側のみに持ち上げられたり押し下げられたりしてしまい、荷重特性における衝撃荷重の立ち上がりに遅れが誘起されてしまう。その結果、衝撃荷重に対する十分な反力を瞬時に発揮できなくなる恐れがある。そのため、本実施形態の脚払い部材10は、各リブ10cが、図3(b)に示すように、車両前後方向Lから見て、上板10aと下板10bとの中間線Cに対して対称となるように形成されていることが好ましい。したがって、本実施形態では、車両前後方向Lから見た各閉断面10dが矩形状に形成されている。それにより、剛性の差により引き起こされうる上述の問題を効果的に回避することが可能となる。
【0020】
次に、図4および図5を参照して、本実施形態の脚払い部材を備えた歩行者保護装置の構成および歩行者保護動作について説明する。
【0021】
図4は、本実施形態の脚払い部材が車両に組み付けられて歩行者保護装置を構成した状態を概略的に示す断面図であり、図5は、図4に示す歩行者保護装置に車両前面から歩行者が衝突した状態を概略的に示す断面図である。なお、図4および図5は共に、車両幅方向から見た断面を示している。
【0022】
本実施形態の歩行者保護装置1では、脚払い部材10は、図4に示すように、車両前後方向L、すなわち衝撃荷重の入力方向を含む水平面に対して平行となるように、車両前面に設置されたフロントバンパ30の内側に配置されている。フロントバンパ30は、例えばフロントグリル40に対してボルト等によって固定されたバンパカバー33を有している。車両の前面部分を構成するバンパカバー33は、車両幅方向と直交する断面が車両前方に向かってそれぞれ凸状に湾曲した上側突出部31および下側突出部32を備えており、脚払い部材10は、下側突出部32の内部に収容されている。一方、バンパカバー33の上側突出部31の内側には、剛性部材であるバンパリインフォースメント35に固定された、脚払い部材10よりも小さな剛性を有する公知の衝撃吸収構造体34が設置されている。
【0023】
脚払い部材10の後端部には、車両幅方向Wに所定の間隔を置いて挿通孔16が複数設けられている(本実施形態では4個、図2参照)。脚払い部材10をボディ部材、ここではラジエータ60を支持するラジエータサポート61に固定するための取付部材15が、その挿通孔16に固定ボルト17によって取り付けられている。この取付部材15をラジエータサポート61に固定ボルト18によってボルト止めすることで、脚払い部材10は、その後端部で、ボディ部材(ラジエータサポート61)に固定されることになる。
【0024】
図5に示すように、歩行者の脚部70がフロントバンパ30のバンパカバー33に接触あるいは衝突すると、バンパカバー33の上側突出部31と下側突出部32とが、歩行者の脚部70の膝部分71とすね部分72とにそれぞれ接触する。このとき、衝撃吸収構造体34の剛性が脚払い部材10の剛性よりも小さいため、脚払い部材10と比べて、衝撃吸収構造体34が、容易により大きな変形量で変形する。そのため、バンパカバー33は、脚部70のバンパカバー33への衝突後、下側突出部32がより前方に突出したような形状に変形する。これにより、脚払い部材10で生じる衝撃荷重に対する反力が、バンパカバー33の下側突出部32を介して、歩行者の脚部70のすね部分72に作用する。その結果、歩行者は、脚部70のすね部分72が脚払い部材10によって払われて(すくい上げられて)、自動車のボンネット80側に転倒することになる。このようにして、歩行者の膝部分71の無理な方向への曲げを小さくすることで、膝部分71に対する、骨折等の傷害の発生を可及的に防止することができ、それによって、歩行者の保護および安全を効果的に実現することが可能となる。
【0025】
以上のように、本実施形態の脚払い部材は、車両前後方向、すなわち衝撃荷重の入力方向を含む水平面に対して実質的に平行となるように、車両前方の下部領域に設置されている。すなわち、本実施形態では、上板および下板と、これらの間に形成されたリブとによって構成された閉断面構造が、衝撃荷重の入力方向と平行に延びるように設けられている。これにより、本実施形態では、脚払い部材において軽量でも効率的に衝撃荷重の入力に対する十分な剛性が確保される。加えて、この閉断面構造は、車両幅方向に連続して複数形成されており、周辺部品の剛性に合わせて必要に応じ、個々の閉断面構造の板厚を変化させることで、車両幅方向における脚払い部材の剛性を変化させることができる。そのため、歩行者の脚部が脚払い部材のどの箇所に接触あるいは衝突しても、歩行者の脚部を迅速で確実に払うことができ、歩行者の保護および安全を図ることが可能となる。さらには、車両前後方向から見た各閉断面が、上下対称、すなわち矩形状になっていることで、衝撃荷重の入力時に、脚払い部材を上方や下方の何れか一方側のみに持ち上げたり押し下げたりするような作用力の発生を回避できることも有利である。
【0026】
なお、脚払い部材は、歩行者との衝突時に歩行者の脚部を払うことができる程度の剛性を有していれば十分である。そのため、閉断面構造は、必ずしも脚払い部材の車両前後方向の全範囲にわたって形成されている必要はなく、少なくとも、衝撃入力面を含む車両前方の領域に形成されていれば十分である。その場合、脚払い部材の車両後方側の領域は、脚払い部材全体として軽量化が図れるのであれば、中実の板状に形成されていてもよい。
【0027】
次に、図6から図10を参照して、本実施形態の脚払い部材のいくつかの変形例について説明する。
【0028】
図6は、閉断面構造の形状を変更した変形例を示す、図3(b)に対応する概略断面図であり、図7は、車両幅方向から見た脚払い部材の断面形状を変更した変形例を示す概略断面図である。また、図8(a)および図8(b)は、脚払い部材に凹溝を追加して設けた変形例を示す概略平面図であり、図8(c)は、図8(a)および図8(b)のA−A’線に沿った概略断面図である。また、図9は、脚払い部材の上板に開孔を設けた変形例を一部拡大して示す概略斜視図である。
【0029】
各リブ10cは、図3(b)に示す実施形態では、各閉断面10dが矩形状となるように形成されていたが、これに限定されることはなく、車両前後方向から見て、上板と下板との中間線に対して対称となるように形成されていればよい。すなわち、各リブ10c’は、図6(a)に示すように、各閉断面10d’がO字状となるように形成されていれてよく、あるいは、各リブ10c”は、図6(b)に示すように、X字状に形成されていてもよい。
【0030】
また、脚払い部材は、前述したように、歩行者との衝突時に歩行者の脚部を払うことができる程度の剛性を有していれば十分であり、そのためには、衝撃入力面を含む少なくとも車両前方側の領域が水平面に対して平行に配置されていればよい。したがって、脚払い部材の形状は、車両内部の形状、すなわち脚払い部材が配置される周辺部品の車両レイアウトに合わせて、適宜変更可能である。例えば、図7に示すように、車両幅方向Wから見た断面において、脚払い部材10’の車両前方部分11と車両後方部分12とで設置する高さが変わるように、脚払い部材10’に車両上下方向に段差をつけることも可能である。
【0031】
また、脚払い部材の車両前後方向における安定した荷重特性を得るために、上板および下板に、衝撃荷重の入力時に折れ曲がりの起点となる、上板および下板の他の部分よりも剛性の弱い低剛性部を車両前後方向に並置することもできる。このような低剛性部として、例えば、図8に示すように、上板10aおよび下板10bにそれぞれ、車両幅方向Wに延びる凹溝83を設けることもできる。凹溝83は、衝撃入力面20に実質的に平行となるように配置されており、車両上下方向から見て、それぞれが互いに重ならないように配置されている。なお、凹溝83の代わりに、スリットや、所定の間隔を空けて並置された複数の穴が設けられていてもよい。また、これに加えて、脚払い部材10の衝撃入力面20に、複数の切欠を所定の間隔を空けて設けることもでき、これにより、脚払い部材10の車両幅方向Wにおける安定した荷重特性を得ることもできる。さらには、脚払い部材の車両幅方向で要求される剛性が異なる場合には、前述した車両幅方向の個々の閉断面構造の板厚を変化させるほかにも、複数の閉断面構造のうちの所定の中空空間内に、硬質樹脂などの別個の材料を注入することで、車両幅方向に沿って高剛性領域と低剛性領域とをそれぞれ設定することもできる。
【0032】
また、図9に示すように、脚払い部材10の上板10a側、すなわちエンジンルームに対向する側に多数の開孔81が設けられていてもよい。これにより、脚払い部材10内部の中空空間にエンジンルームから発せられる音を侵入させて減衰させることで、脚払い部材10に吸音作用を付与することもできる。
【0033】
また、図1に示す実施形態では、脚払い部材10の前端面および後端面、すなわち閉断面構造の両端部は開放された状態であったが、例えば上板または下板の何れか一方を車両前後方向に延長し、その部分をフラップ状に折り曲げるなどの方法により、必要に応じて閉鎖した状態とすることもできる。これにより、脚払い部材内部の中空空間へのゴミ、水等の侵入を防ぐことができる。
【0034】
以上、本発明の車両用歩行者保護装置の具体的な構成について詳述したが、これは単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではない。当業者の知識に基づいて、本発明の趣旨を逸脱することなく種々の変更、修正、改良が施された他の実施の形態が可能であることを理解されたい。
【0035】
例えば、脚払い部材10の材料として、熱可塑性樹脂材料の代わりに、アルミニウムやアルミニウム合金等の、比較的軽量で成形性に優れた金属材料が用いられていてもよい。さらに、車両前方の下部領域への脚払い部材10の設置方法についても、脚払い部材10が固定される車両の固定箇所や、脚払い部材10の後端部の固定方法を、適宜変更することが可能である。また、上述した実施形態では、脚払い部材10で発生する衝撃荷重に対する反力は、歩行者の脚部70のうち、すね72に対して作用するようになっていたが、脚払い部材10の設置位置を変更することで、歩行者の脚部の他の部位に作用するようになっていてもよい。
【0036】
なお、本発明を、車両前面のフロントバンパの内側に設置される歩行者保護装置の他、車両前面にフロントバンパとは独立して別個に設置される歩行者保護装置や、各種の形態で設置される歩行者保護装置のいずれに対しても適用可能であることは言うまでもない。
【0037】
(実施例)
図1から図3に示す本実施形態の脚払い部材(実施例)と、特許文献3に記載の脚払い装置と同様の構成を有する脚払い部材(比較例)とを用いて、本発明の効果を確認した。
【0038】
まず、実施例と比較例において、脚払い部材の材料として共にポリプロピレンを用い、それぞれ押出成形(実施例)および射出成形(比較例)により作製した、ほぼ同じ外形寸法の脚払い部材を準備した。こうして準備した脚払い部材を、それぞれ実車(自動車)の前面に固定されたフロントバンパのバンパカバーの内側に、図5に示すような構成で設置して、実施例と比較例の2種類の試験車両を得た。そして、この2種類の試験車両を用いて、自動車のフロントバンパへの歩行者の衝突を想定した衝突試験を行い、公知の手法により、衝突時に各脚払い部材に入力される衝撃荷重を調べた。なお、各試験車両に対する衝突試験は、所定の重量を有するダミーを、フロントバンパの前面に対して所定の速度で衝突させることにより実施した。
【0039】
実施例では、外形寸法は変えずに、上板および下板やリブの厚みなどをパラメータとして部材の重量を変更して、いくつかの脚払い部材を作製し、それぞれの脚払い部材を設置した試験車両で衝突試験を行った。それによると、実施例では、比較例で得られたのと同等のピーク荷重を、比較例の脚払い部材のおよそ半分の重量の脚払い部材で得ることができた。これにより、実施例では、比較例と比べて、衝撃荷重に対して同等の反力を確保しながら、著しい軽量化を達成できていることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1 歩行者保護装置
10,10’ 脚払い部材
10a 上板
10b 下板
10c,10c’,10c” リブ
10d,10d’ 閉断面構造
20 衝撃入力面
82 切欠
83 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向である第1の方向が車両幅方向と平行になるように、車両前方の下部領域に設置される板状の脚払い部材であって、少なくとも車両前方側の領域が車両前後方向と車両幅方向とを含む平面に実質的に平行に配置される脚払い部材を備え、
前記脚払い部材が、
所定の間隔を置いて対向配置され、中空板を構成する第1および第2の板部材と、
前記第1の板部材と前記第2の板部材との間に形成され、前記第1の板部材と前記第2の板部材とを連結する複数のリブであって、該各リブが前記第1の方向と直交する第2の方向に延びる、複数のリブと、
を備え、
前記各リブは、前記脚払い部材の少なくとも車両前方側の領域において、前記第1の板部材と前記第2の板部材との間に前記第2の方向に延びる中空の閉断面構造が前記第1の方向に沿って複数形成されるように、前記第1の板部材と前記第2の板部材とに連続的に結合されている、車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
前記各リブは、前記第2の方向から見て、前記第1の板部材と前記第2の板部材との中間線に対して対称となるように形成されている、請求項1に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
前記各リブは、前記脚払い部材の全範囲にわたって、前記第1の板部材と前記第2の板部材とに連続的に結合されている、請求項1または2に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
前記第1および第2の板部材は、前記脚払い部材が車両前後方向と車両幅方向とを含む前記平面に実質的に平行に配置されるように、それぞれ平板状に形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項5】
前記第1および第2の板部材は、前記脚払い部材が設置される車両内部の形状または前記脚払い部材の周辺部品のレイアウトに合わせて形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項6】
前記脚払い部材の前記第1および第2の板部材には、該第1および第2の板部材の他の部分よりも剛性が低い低剛性部が形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項7】
前記低剛性部は、前記第1および第2の板部材の板面と直交する方向から見て、前記脚払い部材の車両前方側の側面に実質的に平行に配置されているとともに、互いに重ならないように配置されている、請求項6に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項8】
前記脚払い部材の前記側面には、複数の切欠が形成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項9】
前記脚払い部材は押出成形により一体成形されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の車両用歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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