説明

車両用液圧ブレーキ装置

【課題】スプール弁機構装着後のスプール初期位置調整を不要とし、容易に組み付け得る安価な車両用液圧ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】スプール弁機構30を構成するスプール32が、その軸方向の一端に、スリーブ31の軸方向一端面に当接する係合部32aを有する。リテーナ33とスリーブの軸方向他端面との間に介装される付勢手段(リターンスプリング34)によって、スプールの係合部がスリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢され、スプールの係合部がスリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用液圧ブレーキ装置に関し、特に、制御ピストンの移動に応じてスプールを駆動し、所定の圧力に調圧するスプール弁機構を備えた車両用液圧ブレーキ装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両用液圧ブレーキ装置として、例えば下記の特許文献1には、シリンダボデーのシリンダ孔内の所定の初期位置で後端部を保持し得るスプールと、このスプールに対して相対的に移動可能に配設しシリンダボデーに固定するスリーブを有し、スリーブに対するスプールの相対移動に応じてブレーキ液圧を調整して出力するスプール弁機構を備えた車両用液圧ブレーキ装置が開示されており、制御ピストンの移動に応じて所定の圧力に調圧するスプール弁機構としてスプール弁機構が開示されている。同特許文献1においては、調整部材を、スプールの前端面に対向すると共にスリーブの前端面に当接するように配置し、スリーブをスプールの後端部方向に押動してスプールの前端面に対して所定距離隔てた位置で固定することが提案されており、調整部材によるスリーブの位置調整構造が詳細に開示されている。
【0003】
具体的には、調整部材が、スプールの前端面に対向すると共にスリーブの前端面に当接するように配置され、スプールに対して相対的に移動するように構成されている。即ち、調整部材がシリンダボデーに螺合されて制御ピストン方向に押動されると、スリーブが後方に摺動し、スプールの前部に装着されたプランジャに対して調整部材の凹部の底面から所定距離隔てた位置に到達したところで固定されるので、スリーブは回動することなく摺動のみによって後方に移動し、スプールに対して正確に所定の初期相対位置に調整される旨記載されている。そして、調整部材の中空部の前端にはプラグが嵌着され、このプラグと弾性部材との間にレギュレータ室が形成される旨記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−34853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の液圧ブレーキ装置においては、入力ピストンを初期位置に保持するためのストッパからスプール弁機構に至る構成部品をシリンダボデーの後端側から挿入すると共に、調整部材をシリンダボデー前端面から挿入するように構成されているので、スプールとスリーブとの初期相対位置の調整(スプール初期位置調整という)が必要となり、組付に長時間を要する。また、上記構成部品がシリンダボデーに挿入された後に上記の調整が行われるので、調整用の専用設備が必要となり、製造コストが高くなる。
【0006】
そこで、本発明は、スプール弁機構装着後のスプール初期位置調整を不要とし、容易に組み付け得る安価な車両用液圧ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明は、請求項1に記載のように、シリンダボデーのシリンダ孔内にマスタピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスタピストンの前方にマスタ液圧室を形成すると共に後方に助勢室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスタピストンを前進駆動して前記マスタ液圧室からブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内に液密的摺動自在に収容し、前記マスタピストンの前方に前記マスタピストンと連動するように配置し、調圧室を前方に形成する制御ピストンと、該制御ピストンに連動するスリーブ、及び該スリーブの中空部内に摺動自在に収容するスプールを有し、該スプールの前記スリーブに対する軸方向相対移動に応じて、前記補助液圧源の出力パワー液圧を前記調圧室に導入して前記調圧室の圧力を前記制御ピストンの移動に応じた所定の圧力に調圧するスプール弁機構とを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前記スプールが、前記スリーブの軸方向一端面に当接する係合部を、前記スプールの軸方向の一端に有し、前記スプールの軸方向の他端側に装着するリテーナと、該リテーナと前記スリーブの軸方向他端面との間に介装し、前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢する付勢手段を備え、該付勢手段により前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持するように構成したものである。
【0008】
更に、請求項2に記載のように、前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態において、前記スプールの係合部と前記スリーブの軸方向一端面との間に連通路を有し、該連通路を介して前記スプール及び前記スリーブの内外を連通する構成とするとよい。前記スプールの係合部はスプール本体部と一体的に形成することができるが、別部材で構成し、スプール本体部に対し、かしめ、圧入等によって固定することとしてもよい。別部材としてはスプール本体部の外径より大であれば、形状はどのようなものでもよく、板状部材のほか、スプール本体部の径方向に固定したピンでもよい。更に、別部材と本体部との間にスペーサを介装し圧入等によって固定することとしてもよい。そして、前記連通路は、例えば、前記スプール及び前記スリーブの少なくとも一方に形成される溝によって構成することができる。
【0009】
また、請求項3に記載のように、前記シリンダ孔内の前記スプール弁機構の前方に配置し、前記スリーブの軸方向一端面に当接して前記シリンダ孔内の前記スリーブの位置を規定する筒状部材を備えたものとしてもよい。この筒状部材に弾性部材及びロッドを収容し、反力調整手段を構成することができる。
【0010】
更に、前記筒状部材は、請求項4に記載のように、前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態で前記スリーブに固定するとよい。例えば、前記筒状部材を前記スリーブに圧入する構成とするとよい。
【0011】
あるいは、本発明として、請求項5に記載のように、シリンダボデーのシリンダ孔内にマスタピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスタピストンの前方にマスタ液圧室を形成すると共に後方に助勢室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスタピストンを前進駆動して前記マスタ液圧室からブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内に液密的摺動自在に収容し、前記マスタピストンの前方に前記マスタピストンと連動するように配置し、調圧室を前方に形成する制御ピストンと、該制御ピストンに連動するスリーブ、及び該スリーブの中空部内に摺動自在に収容するスプールを有し、該スプールの前記スリーブに対する軸方向相対移動に応じて、前記補助液圧源の出力パワー液圧を前記調圧室に導入して前記調圧室の圧力を前記制御ピストンの移動に応じた所定の圧力に調圧するスプール弁機構とを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前方が閉塞された前記シリンダ孔内に収容して前記スプール弁機構の前方に配置し、前記シリンダ孔内の前端面に一端が当接すると共に、他端が前記スリーブの軸方向一端面に当接して前記シリンダ孔内の前記スリーブの位置を規定する筒状部材を備え、前記スプールが、前記スリーブの軸方向一端面に当接する係合部を、前記スプールの軸方向の一端に有し、前記スプールの軸方向の他端側に装着するリテーナと、該リテーナと前記スリーブの軸方向他端面との間に介装し、前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢する付勢手段を備え、該付勢手段により前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持するように構成するとよい。
【0012】
また、請求項6に記載のように、前記筒状部材は、前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態で前記スリーブに固定し、前記筒状部材と前記スプール弁機構を一体として、前記シリンダボデーの後方から前記シリンダ孔内に収容し、所定位置に固定するとよい。例えば、前記筒状部材を前記シリンダ孔内に圧入する構成とするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の車両用液圧ブレーキ装置においては、スプールの軸方向の一端に、スリーブの軸方向一端面に当接する係合部を有するスプール弁機構を備え、リテーナとスリーブの軸方向他端面との間に介装される付勢手段によって、スプールの係合部がスリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢され、スプールの係合部がスリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持されるように構成されており、基本的にはスリーブとスプールの二部品によってスプールの初期位置が決定されるので、従前のスプール弁機構装着後のスプール初期位置調整は不要となり、容易に組み付けることができ、コストダウンが可能となる。また、組付調整時のばらつきを排除することができるため、ブレーキ操作の初期遊び量のばらつきが少なくなり、安定したブレーキ性能を得ることができる。
【0014】
特に、請求項2に記載のように、スプールの係合部とスリーブの軸方向一端面との間に連通路を有するものとし、この連通路を介してスプール及びスリーブ外の内外を連通するように構成すれば、別途連通路を形成する必要はないので、容易に連通路を構成することができ、製造が容易でコストダウンが可能となる。
【0015】
更に、請求項3に記載のように、筒状部材を、シリンダ孔内のスプール弁機構の前方に配置し、スリーブの軸方向一端面に当接してシリンダ孔内のスリーブの位置を規定する構成とすれば、スプール弁機構を容易に組み付けることができ、組付調整時のばらつきを排除することができる。
【0016】
また、請求項4に記載のように、筒状部材を、スリーブの軸方向一端面に当接した状態でスリーブに固定することとし、例えば、筒状部材をスリーブに圧入することとすれば、容易且つ適切にサブアセンブリを構成することができ、従来装置に比し組付が一層容易となり、製造コストを低減することできる。
【0017】
あるいは、請求項5に記載のように、前方が閉塞されたシリンダ孔内に、後方から筒状部材及びスプール弁機構を収容する構成とすれば、容易且つ適切に組み付けることができ、従来装置に比し組付が容易となり、製造コストを低減することできる。
【0018】
そして、請求項6に記載のように、筒状部材を、スリーブの軸方向一端面に当接した状態でスリーブに固定し、筒状部材とスプール弁機構を一体としてサブアセンブリを構成し、これをシリンダ孔内に収容し、所定位置に固定することとすれば、スプール弁機構をシリンダ孔内に簡単且つ確実に固定することができ、一層の小型化及びコストダウンが可能となる。また、容易且つ適切にサブアセンブリを構成することができ、従来装置に比し組付が一層容易となり、製造コストを低減することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の一実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の全体構成を示し、図1はその前方部分を拡大して示すもので、先ず、図2を参照して液圧ブレーキ装置の全体構成を説明する。シリンダボデー1内の車両後方側(図2の右側)にマスタシリンダ10が構成され前方側にスプール弁機構30が構成されており、ブレーキ操作部材たるブレーキペダル(図示せず)に加えられた踏力が入力部材2を介してブレーキ作動力として伝えられ、これに応じてマスタシリンダ10及びスプール弁機構30の出力ブレーキ液圧が車両前方のホイールシリンダ(代表してWFで表す)及び車両後方のホイールシリンダ(代表してWRで表す)に出力される。
【0020】
シリンダボデー1には段部3bを含む段付のシリンダ孔3が形成されており、後方(車両後方側)のマスタシリンダ10にマスタピストン11が液密的摺動自在に収容され、ストッパ4によって後退移動が規制されている。而して、マスタピストン11の前方にマスタ液圧室C5が形成されると共に後方に助勢室C3が形成されている。更に、シリンダ孔3内にはマスタピストン11の前方に制御ピストン20が液密的摺動自在に収容され、マスタピストン11に連動するように配置されている。従って、この制御ピストン20とマスタピストン11との間にマスタ液圧室C5が郭成されている。尚、マスタピストン11は図2に示すように二つのピストンで構成されているが、本願発明とは直接関係するものではなく、特許文献1に記載のマスタピストンと同様であるので、説明は省略する。
【0021】
一方、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源(特許文献1に記載されたものと同様であるので、図示は省略しPSで表す)が設けられており、その出力パワー液圧がスプール弁機構30に供給される。スプール弁機構30は、制御ピストン20の前方に形成された調圧室C1に、補助液圧源PSの出力パワー液圧を導入して調圧室C1の圧力を制御ピストン20の移動に応じて所定の圧力に調圧するものであり、この圧力は調圧室C1から助勢室C3等に出力されるように構成されている。
【0022】
スプール弁機構30においては、シリンダ孔3内の所定の位置にスリーブ31が固定され、このスリーブ31内に相対的に移動可能にスプール32が配設されており、スリーブ31に対するスプール32の相対移動に応じてブレーキ液圧を調圧する調圧弁手段が構成されている。
【0023】
図1に示すように、スプール弁機構30を構成するスリーブ31の外周には複数の環状溝が形成されており、夫々に環状のシール部材が嵌合されている。これらの隣接するシール部材間にはスリーブ31の径方向に連通孔31d,31e,31fが形成されている。スリーブ31の中空部内にはスプール32が摺動自在に収容されており、スプール32が初期位置にある図1の状態では連通孔31fは減圧室C4に連通しているが、スプール32の前進移動により連通孔31fの開口部が遮蔽されるように配設されている。連通孔31eは連通路P6を介してリザーバRVに連通接続されている。また、連通孔31dは、連通路P7及びこれに介装されたフィルタ3fを介して、補助液圧源PSに連通接続されているが、図1の位置ではスプール32の外周面によって遮蔽されている。更に、連通孔31dの後方のスリーブ31の内周面に環状の溝31cが形成されている。一方、スプール32の外周面には、溝31cの後方に環状の溝32bが形成される共に、その前方に所定距離を隔ててスリーブ31の溝31cと対向する位置に環状の溝32cが形成されている。
【0024】
スプール32の軸方向の一端には係合部32aが一体的に形成されており、係合部32aがスリーブ31の軸方向一端面に当接する端面には、径方向外側に開口する複数の溝32eが形成され、この溝32eに連通するように、スプール32の軸方向一端部回りに環状の溝32dが形成されている。尚、溝32eを形成するにあたり、この溝32eが溝32dに接する隅部には必然的に、溝32dより小径の研磨逃がし溝が形成されるので、研磨逃がし溝の面とり寸法を調整することによって、当該隅部を介して連通路が容易に形成される。更に、スプール32の前端にはプランジャ35が軸方向に突出するように嵌着されており、スプール32の後端部は調圧室C1内に位置し、制御ピストン20に当接してシリンダ孔3内の所定の初期位置(ブレーキ操作がなされていないときの位置)で保持されている。即ち、スプール32のC字状クリップ32fに係止されるリテーナ33とスリーブ31との間に、付勢手段としてリターンスプリング34が張架され、リテーナ33は制御ピストン20の前方の凹部内に圧入され、スプール32の係合部32aがスリーブ31の軸方向一端面(凹部内の前端面)に当接するように付勢されている。図1に示すように、シリンダボデー1には、制御ピストン20における前方のランド部21の後端に位置し径方向に延在するように係止ピン28が固定されており、この位置から制御ピストン20の前端面がシリンダ孔3内の段部3bに当接するまでは制御ピストン20の前進が許容されるが、係止ピン28に当接後の後退(マスタピストン11方向への移動)は規制される。
【0025】
一方、スプール弁機構30の前方には筒状部材40が配置され、両者間に減圧室C4が形成され、筒状部材40によってスプール弁機構30がシリンダ孔3内の所定位置に固定される。更に、蓋体50によってシリンダ孔3が密閉され、筒状部材40と蓋体50との間に反力室C2が形成される。そして、調圧室C1、反力室C2及び助勢室C3を連通接続する連通路P1、P2及びP3がシリンダボデー1に形成されている。更に、シリンダボデー1には、スリーブ31を介して減圧室C4に連通し連通路P3に連通する連通路P4、反力室C2に開口し連通路P3に連通する連通路P2、連通孔31eを介して減圧室C4に連通しリザーバRVに連通する連通路P6、連通孔31dに連通すると共に補助液圧源PSに連通する連通路P7、そして、マスタ液圧室C5に開口しホイールシリンダWFに連通する連通路P8が形成されている。尚、図2に示すように、連通路P3に連通しホイールシリンダWRに連通する連通路P5が、シリンダボデー1に形成されている。
【0026】
筒状部材40は段付孔形状の中空部を有し、その小径孔部分40aに伝達部材41が軸方向に摺動自在に収容され、その後端面がプランジャ35の前端面と対向するように配置されている。更に、筒状部材40の大径孔部分の凹部40b内に例えばゴム製の弾性部材42が嵌着されており、これに伝達部材41の前端部が当接するように配置されている。而して、これらによって反力調整手段が構成されている。本実施形態では、伝達部材41の前端部に円柱形状の当接部材41cが設けられているが、伝達部材41の前端部を円錐台形状に形成することとしてもよい。そして、弾性部材42の前方にプレート43が配設され、筒状部材40にかしめ固定されている。尚、蓋体50はシール部材を介してシリンダ孔3内に収容され、C字状クリップ51によってシリンダボデー1に保持されている。
【0027】
図1及び図2に示すように、ブレーキ操作が行われていない制御ピストン20の初期位置(後退位置)においては、連通孔31fの開口部はスプール32によって遮蔽されておらず、調圧室C1は連通路P1、P3及びP4、減圧室C4、連通孔31e、そして連通路P6を介してリザーバRVに連通し、大気圧のブレーキ液が充填されている。ブレーキ操作に基づく制御ピストン20の前進移動に伴ってスプール32が前方に移動すると、スリーブ31の連通孔31fが遮断され、代わって連通孔31dがスプール32の溝32cと対向すると共に、溝31cと溝32bが対向し、従って調圧室C1は補助液圧源PSと連通する。これにより、補助液圧源PSのパワー液圧が調圧室C1内に供給されて昇圧し、助勢室C3に付与されると共に、反力室C2内に導入されて弾性部材42に付与されると、伝達部材41を介してスプール32が後方に押動され、調圧室C1内の液圧が減圧されてレギュレータ液圧となる。このように、スリーブ31に対するスプール32の相対移動に応じて、調圧室C1及び反力室C2並びに連通路P1乃至P5内の液圧がレギュレータ液圧に調整される。
【0028】
本実施形態においては、スプール32がスリーブ31に組み付けられて両者間の初期相対位置が調整されると共に、制御ピストン20から、マスタピストン11、入力ピストン2及びストッパ4に至る各部品が組み付けられてサブアセンブリとされ、シリンダボデー1の後方からシリンダ孔3内に収容される。そして、シリンダボデー1の前方から筒状部材40がシリンダ孔3内に圧入され、スリーブ31と当接する位置で固定保持される。このように、本実施形態においては、入力ピストン2及びストッパ4からスリーブ31及びスプール32までの部品がサブアセンブリとされ、スリーブ31とスプール32の二部品の所定寸法のみによって両者間の初期相対位置が決定される(略して、スプールの初期位置調整という)。また、筒状部材40に内蔵されるロッド41を、予め用意された種々の寸法のロッドの中から適宜選択することによって、車種等に応じて所望のシャンピング特性に調整される。
【0029】
而して、本実施形態によれば、スプール32の初期位置はスリーブ31とスプール32の二部品で決定されるので、従前のスプールの初期位置調整が不要となり、また、筒状部材40はシリンダボデー1のシリンダ孔3内に圧入されるので、従来装置に比し組付が一層容易となり、製造コストを低減することできる。また、組付調整時のばらつきを排除することができるため、ブレーキ操作の初期遊び量のばらつきが少なくなり、安定したブレーキ性能を得ることができる。更に、リターンスプリング34の取付荷重ばらつきも少なくなり、安定的なブレーキ性能を得ることができる。
【0030】
尚、図1に示すように、筒状部材40の最大外径の方がスリーブ31の最大外径より若干大きく設定されているが、略同径であり、スプール弁機構30の前方の反力室C2内の液圧に対する受圧面積と、後方の調圧室C1内の液圧に対する受圧面積が略等しくなるように設定されている。この結果、受圧面積が略等しいスプール弁機構30及び筒状部材40に対し、調圧室C1内のレギュレータ液圧及びこれと同圧の反力室C2内のレギュレータ液圧が両側から作用することになり、スプール弁機構30及び筒状部材40に対する軸方向の力は、実質的に制御ピストン20からリターンスプリング34を介して付与される力のみである。また、本実施形態では、制御ピストン20は、その前端面がシリンダ孔3内の段部3bに当接すると前進が阻止されるように構成されているので、例えば補助液圧源のフェール時に制御ピストン20が最前端まで移動(所謂ボトミング)しても、制御ピストン20がスリーブ31に直接当接することはない。従って、筒状部材40の固定位置を確実に維持することができる。
【0031】
図3は、スプール32の他の実施例を示すもので、その軸方向の一端には環状溝322が形成されており、スプール32の本体部32h先端に別体の係合部320が固定されている。この係合部320は環状部材であって径方向に溝321が形成されており、係合部320がスプール32に固定されると、溝321と環状溝322が連通するように構成されている。即ち、本実施形態においては、スプール32の本体部32hには軸に沿って複数の環状溝が形成されているが、外径は先端部を除き一定であり、係合部320は一体に形成されていない。スプール32の本体部32h先端への係合部320の固定手段としては、図3に示すかしめ構造のほか、圧入等によって固定することとしてもよい。
【0032】
係合部320としては環状部材に限らず、スプール32の本体部32hの外径より大であれば、形状はどのようなものでもよく、板状部材のほか、ピン(図示せず)をスプール32の先端部に設け、本体部32hの径方向に延出するように固定することとしてもよい。更に、スプール32の本体部32hと係合部320との間にスペーサ(図示せず)を介装し、圧入等によって固定する構成としてもよい。あるいは、スリーブ31側に溝を形成して連通路としてもよく、スプール32及びスリーブ31の少なくとも一方に形成される溝によって連通路を構成することができる。尚、図3におけるスプール32及び係合部320以外の部材は図1に示す部材と同様であるので、これらの説明は省略する。
【0033】
図4は本発明の他の実施形態に係る液圧ブレーキ装置の前方部分を拡大して示すもので、シリンダ孔3の前方が閉塞され、後方は図2と同様に開口している。本実施形態においては、筒状部材400は、スプール32の係合部32a及びプランジャ35に対向し、スリーブ31の軸方向一端面に当接すると共に、スリーブ31の前端部内側に圧入固定される。筒状部材400は、先端の筒状部に複数の切欠401と、各切欠401内に形成されるかしめ部402を有し、所望のジャンピング特性のロッド41、弾性部材42及びプレート43が収容された後、かしめ部402によってプレート43が係止されるように構成されている。スリーブ31、スプール32、リテーナ33及びリターンスプリング34等の構成は前述の実施形態と同様であるが、本実施形態の制御ピストン20の前端にはリブ22が延出形成されており、このリブ22がスリーブ31の後端面に当接し得るように構成されている。尚、その他の構成は図1に示す構成と実質的に同じであるので、対応する符号を付して説明を省略する。
【0034】
本実施形態においては、前述の実施形態と同様にスプール32がスリーブ31に組み付けられて両者間の初期相対位置が調整された後、上記の筒状部材400がスリーブ31の前端部に圧入固定されると共に、リテーナ33が制御ピストン20の前方の凹部内に圧入固定され、サブアセンブリが構成される。このとき、筒状部材400とスリーブ31の当接面を基準面として、予め測定された図4の寸法Laと寸法Lbに基づき、所望のジャンピング特性のロッド41が選択される。そして、このサブアッセンブリがシリンダボデー1の後方からシリンダ孔3内に収容され、筒状部材400の前端がシリンダ孔3内の前端面に当接するまで押圧される。これにより、各部品がシリンダ孔3内の所定位置に配置される。この場合において、リブ22がスリーブ31の後端面に当接した状態で、制御ピストン20からの押圧力がスリーブ31、ひいては筒状部材400に伝達されるので、各部品はシリンダ孔3内の所定位置で保持される。尚、上記のように組み付けられた後、反力室C2と連通路P2とは、かしめ部402が形成された切欠401を介して連通する。
【0035】
而して、本実施形態によれば、筒状部材400並びにスプール32及びスリーブ31等の内蔵部品をシリンダボデー1の後方のみからシリンダ孔3内に組み付けることができ、シリンダボデー1の前方から挿入する蓋体等の部品を削減することができる。更に、制御ピストン20等を含めてサブアセンブリとし、シリンダ孔3内に後方から挿入することとすれば、組付が一層容易となり生産性が向上する。更に、スプール32及びスリーブ31のサブアセンブリと制御ピストン20等のサブアセンブリに応じて、ロッド41等のジャンピング特性用部品を設定することができるので、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の前方部分を拡大して示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の全体構造を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置において、スプール弁機構を構成するスプールの他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る車両用液圧ブレーキ装置の前方部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シリンダボデー
3 シリンダ孔
10 マスタシリンダ
11 マスタピストン
20 制御ピストン
30 スプール弁機構
31 スリーブ
32 スプール
40 筒状部材
50 蓋体
C1 調圧室
C2 反力室
C3 助勢室
C4 減圧室
C5 マスタ液圧室
P1〜P8 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボデーのシリンダ孔内にマスタピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスタピストンの前方にマスタ液圧室を形成すると共に後方に助勢室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスタピストンを前進駆動して前記マスタ液圧室からブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内に液密的摺動自在に収容し、前記マスタピストンの前方に前記マスタピストンと連動するように配置し、調圧室を前方に形成する制御ピストンと、該制御ピストンに連動するスリーブ、及び該スリーブの中空部内に摺動自在に収容するスプールを有し、該スプールの前記スリーブに対する軸方向相対移動に応じて、前記補助液圧源の出力パワー液圧を前記調圧室に導入して前記調圧室の圧力を前記制御ピストンの移動に応じた所定の圧力に調圧するスプール弁機構とを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前記スプールが、前記スリーブの軸方向一端面に当接する係合部を、前記スプールの軸方向の一端に有し、前記スプールの軸方向の他端側に装着するリテーナと、該リテーナと前記スリーブの軸方向他端面との間に介装し、前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢する付勢手段を備え、該付勢手段により前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持することを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態において、前記スプールの係合部と前記スリーブの軸方向一端面との間に連通路を有し、該連通路を介して前記スプール及び前記スリーブの内外を連通することを特徴とする請求項1記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
前記シリンダ孔内の前記スプール弁機構の前方に配置し、前記スリーブの軸方向一端面に当接して前記シリンダ孔内の前記スリーブの位置を規定する筒状部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
前記筒状部材は、前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態で前記スリーブに固定することを特徴とする請求項3記載の車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
シリンダボデーのシリンダ孔内にマスタピストンを液密的摺動自在に収容し、該マスタピストンの前方にマスタ液圧室を形成すると共に後方に助勢室を形成し、ブレーキ操作部材の操作に応じて前記マスタピストンを前進駆動して前記マスタ液圧室からブレーキ液圧を出力するマスタシリンダと、ブレーキ液を所定の圧力に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、前記シリンダ孔内に液密的摺動自在に収容し、前記マスタピストンの前方に前記マスタピストンと連動するように配置し、調圧室を前方に形成する制御ピストンと、該制御ピストンに連動するスリーブ、及び該スリーブの中空部内に摺動自在に収容するスプールを有し、該スプールの前記スリーブに対する軸方向相対移動に応じて、前記補助液圧源の出力パワー液圧を前記調圧室に導入して前記調圧室の圧力を前記制御ピストンの移動に応じた所定の圧力に調圧するスプール弁機構とを備えた車両用液圧ブレーキ装置において、前方が閉塞された前記シリンダ孔内に収容して前記スプール弁機構の前方に配置し、前記シリンダ孔内の前端面に一端が当接すると共に、他端が前記スリーブの軸方向一端面に当接して前記シリンダ孔内の前記スリーブの位置を規定する筒状部材を備え、前記スプールが、前記スリーブの軸方向一端面に当接する係合部を、前記スプールの軸方向の一端に有し、前記スプールの軸方向の他端側に装着するリテーナと、該リテーナと前記スリーブの軸方向他端面との間に介装し、前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接する方向に付勢する付勢手段を備え、該付勢手段により前記スプールの係合部が前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態に保持することを特徴とする車両用液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
前記筒状部材は、前記スリーブの軸方向一端面に当接した状態で前記スリーブに固定し、前記筒状部材と前記スプール弁機構を一体として、前記シリンダボデーの後方から前記シリンダ孔内に収容し、所定位置に固定することを特徴とする請求項5記載の車両用液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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