説明

車両用液圧マスタシリンダ及びその製造方法

【課題】シリンダ孔の切削加工を短時間で容易に行うことのでき、生産性を向上させることのできる車両用液圧マスタシリンダ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダ孔4はシリンダボディ鋳造時に中子の挿入により下孔18が形成される。シリンダ孔4の開口部4bから、ピストン5がフルストローク状態となった時にカップシール8が配置される位置までを切削加工して加工面部4cとし、該加工面部4cよりもシリンダ孔底部側を前記中子の鋳抜き形状を残した非加工面部4dとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動四輪車及び自動二輪車を始め、各種車両に用いられる車両用液圧マスタシリンダ及びその製造方法に係り、詳しくは、車両用液圧マスタシリンダのシリンダ孔の構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造によって製造する車両用液圧マスタシリンダでは、シリンダボディの鋳造時に中子を挿入してシリンダ孔の下孔を形成し、鋳造後にこの下孔全体に切削加工を施してシリンダ孔を形成していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−69816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のものでは、切削加工に要する工数が多くなると共に、時間が掛かることから製造コストが嵩み生産性が良くなかった。
【0005】
そこで本発明は、シリンダ孔の切削加工を短時間で容易に行うことができ、生産性を向上させることのできる車両用液圧マスタシリンダ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用液圧マスタシリンダは、鋳造にて製造したシリンダボディに、ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を設け、該シリンダ孔にリザーバと連通するリリーフポートを開口し、ピストン外周のシリンダ孔底部側に、カップシールを嵌着する周溝を設け、前記ピストンの移動に伴って前記周溝に嵌着されたカップシールが前記リリーフポートを閉塞し、前記カップシールとシリンダ孔との間に画成される液圧室に液圧を発生させる車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記シリンダ孔はシリンダボディ鋳造時に中子の挿入により形成されると共に、前記シリンダ孔の開口部から、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置までを切削加工が施された加工面部とし、該加工面部よりもシリンダ孔底部側を前記中子の鋳抜き形状を残した非加工面部としたことを特徴としている。また、前記ピストンと前記シリンダ孔の底壁との間に、前記ピストンを前記シリンダ孔の開口側に付勢するリターンスプリングを縮設し、該リターンスプリングの外周側に位置する前記加工面部と非加工面部との間に、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面を切削加工により形成しても良い。
【0007】
本発明の車両用液圧マスタシリンダの製造方法は、鋳造にて製造したシリンダボディに、ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を該シリンダ孔の開口側から切削加工して形成し、該シリンダ孔にリザーバと連通するリリーフポートを開口し、ピストン外周のシリンダ孔底部側に、カップシールを嵌着する周溝を設け、前記ピストンの移動に伴って前記周溝に嵌着されたカップシールが前記リリーフポートを閉塞し、前記カップシールとシリンダ孔との間に画成される液圧室に液圧を発生させる車両用液圧マスタシリンダの製造方法において、シリンダボディ鋳造時に中子の挿入によりシリンダ孔の下孔を形成し、該下孔におけるシリンダ孔開口部から、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置までを切削加工することを特徴としている。また、前記切削加工の際に、前記下孔の、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置よりもシリンダ孔底部側に、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面を連続して切削加工しても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用液圧マスタシリンダ及びその製造方法によれば、ピストンの摺動性やカップシールのシール性を損なうことなく、シリンダ孔の切削加工に要する加工工数や加工時間を削減して生産性を向上させ、製造コストの低減化を図ることができる。また、加工面部と非加工面部との間に、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面を設けると、ピストンとシリンダ孔の底壁との間に縮設されるリターンスプリングを良好に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一形態例を示す液圧マスタシリンダの断面図である。
【図2】同じくピストンがフルストローク状態の液圧マスタシリンダの断面図である。
【図3】同じく鋳造後の液圧マスタシリンダの原形の断面図である。
【図4】同じくシリンダ孔を切削加工した状態の液圧マスタシリンダの原形の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をバーハンドル車両の前輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダに適用した一形態例を図面に基づいて説明する。本形態例の液圧マスタシリンダ1は、シリンダボディ2の上部にリザーバ3を一体に備えたリザーバ一体型で、シリンダボディ2の内部には、有底のシリンダ孔4が一方を開口して設けられ、シリンダ孔4にはピストン5が内挿されると共に、シリンダ孔4とリザーバ3とは、リリーフポート6及びサプライポート7を介して連通している。
【0011】
ピストン5は、シリンダ孔底部側とシリンダ孔先端側にカップシール8,9を嵌着する底部側周溝5aと先端側周溝5bとをそれぞれ有し、底部側周溝5aに嵌着されるカップシール8とシリンダ孔4の底壁4aとの間に液圧室10が画成され、シリンダ孔4の底壁4aには、作動液の吐出口となるユニオン孔11が形成されている。液圧室10のピストン5とシリンダ孔4の底壁4aとの間には、リターンスプリング12が縮設され、ピストン5は、リターンスプリング12によってシリンダ孔開口側に付勢されている。シリンダボディ2には、前記シリンダ孔4の開口部4bに連続して、シリンダ孔4よりも大径の大径部13が連続して設けられ、該大径部13にピストン5の抜け止めを図るクリップ15が設けられている。ピストン5の先端部にはピストン作動子16が当接しており、非作動時にシリンダ孔4の開口部から突出するピストン5の突出部分と、前記クリップ15との間に、前記突出部分を覆うブーツ17が配設されている。
【0012】
シリンダ孔4及び大径部13は、図3に示されるように、シリンダボディ2を鋳造する際に、シリンダ孔4より小径で先端側が細くなった円錐台状の中子を挿入して下孔18が形成される。したがって、この下孔18には、シリンダ孔底部側から大径部13の開口側に向けて漸次大径となる抜き勾配が形成される。下孔18は、開口18a側から切削加工が施され、まず、大径部13とクリップ15を装着する装着溝13aとが切削加工され、次いで、シリンダ孔4が切削加工される。シリンダ孔4は、該シリンダ孔4の開口部4bから、ピストン5がフルストローク状態となった時に、底部側周溝5aに嵌着されたカップシール8が配置される位置までを切削加工して加工面部4cとし、該加工面部4cよりもシリンダ孔底部側は、中子の鋳抜き形状を残したままの非加工面部4dとする。また、加工面部4cと非加工面部4dとの間、及び、シリンダ孔4の開口部4bと大径部13との間には、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面4e,4fがそれぞれ形成される。さらに、シリンダ孔用の下孔18の底部には前記ユニオン孔11が穿孔され、シリンダ孔4の周壁には前記リリーフポート6及びサプライポート7が穿孔される。
【0013】
尚、円錐面4eは、シリンダ孔4の加工面部4cを切削加工する所定の径を有し、先端が円錐状の一般的な切削刃を用いれば、加工面部4cと円錐面4eの切削加工を一工程で行うことができる。
【0014】
このように形成された液圧マスタシリンダ1は、ライダーがブレーキ操作を行うとピストン作動子16がピストン5をシリンダ孔4の底部方向に押し込み、底部側周溝5aに嵌着されるカップシール8がリリーフポート6を閉塞して液圧室10に液圧を発生させる。カップシール8は図2に示されるようにピストン5のフルストローク状態でも、シリンダ孔4の加工面部4cを摺動することから、シリンダ孔内を良好に摺動することができる。また、液圧室10となるシリンダ孔底部側は非加工面部4dとなるが、ピストン5やカップシール8が摺動することがないことから、切削加工を施していなくても差し支えない。また、非加工面部4dは加工面部4cよりも小径の鋳抜き形状となっていることから、リターンスプリング12のガイドとなり、さらに、加工面部4cと非加工面部4dとの間は、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面4eとなっていることから、リターンスプリング12を良好に組み付けることができる。また、大径部13とシリンダ孔4のカップシール8が摺動する範囲のみを切削加工することから、従来に比べて切削加工を施す長さ寸法L1を短くすることができ、切削加工に要する工数や時間を削減することができ、生産性が向上することから製造コストの低減化を図ることができる。
【0015】
なお、上述の形態例では、大径部に切削加工を施したが、基端側に大径部を備えた中子を用いて、鋳造時にシリンダ孔と大径部の下孔を形成し、クリップの装着溝を除いた大径部の内周面を鋳肌のままにすることもでき、さらに、クリップを用いずにピストンの後退限を規制するものでは、クリップの装着溝を設ける必要がないことから、大径部の内周面全体をを鋳肌のままにすることができる。また、本発明の液圧マスタシリンダは、バーハンドル車両の前輪ブレーキ用の液圧マスタシリンダに限らず、バーハンドル車両の後輪ブレーキ用でも、クラッチ用の液圧マスタシリンダでも良く、また、自動四輪車の液圧マスタシリンダなどにも適用できる。さらに、リザーバを一体に備えていないものでも良い。
【符号の説明】
【0016】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、3…リザーバ、4…シリンダ孔、4a…底壁、4b…開口部、4c…加工面部、4d…非加工面部、4e,4f…円錐面、5…ピストン、5a…底部側周溝、5b…先端側周溝、6…リリーフポート、7…サプライポート、8,9…カップシール、10…液圧室、11…ユニオン孔、12…リターンスプリング、13…大径部、13a…装着溝、15…クリップ、16…ピストン作動子、17…ブーツ、18…下孔、18a…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造にて製造したシリンダボディに、ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を設け、該シリンダ孔にリザーバと連通するリリーフポートを開口し、ピストン外周のシリンダ孔底部側に、カップシールを嵌着する周溝を設け、前記ピストンの移動に伴って前記周溝に嵌着されたカップシールが前記リリーフポートを閉塞し、前記カップシールとシリンダ孔との間に画成される液圧室に液圧を発生させる車両用液圧マスタシリンダにおいて、前記シリンダ孔はシリンダボディ鋳造時に中子の挿入により形成されると共に、前記シリンダ孔の開口部から、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置までを切削加工が施された加工面部とし、該加工面部よりもシリンダ孔底部側を前記中子の鋳抜き形状を残した非加工面部としたことを特徴とする車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記ピストンと前記シリンダ孔の底壁との間に、前記ピストンを前記シリンダ孔の開口側に付勢するリターンスプリングを縮設し、該リターンスプリングの外周側に位置する前記加工面部と非加工面部との間に、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面を切削加工により形成したことを特徴とする請求項1記載の車両用液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
鋳造にて製造したシリンダボディに、ピストンを移動可能に収容する有底円筒状のシリンダ孔を該シリンダ孔の開口側から切削加工して形成し、該シリンダ孔にリザーバと連通するリリーフポートを開口し、ピストン外周のシリンダ孔底部側に、カップシールを嵌着する周溝を設け、前記ピストンの移動に伴って前記周溝に嵌着されたカップシールが前記リリーフポートを閉塞し、前記カップシールとシリンダ孔との間に画成される液圧室に液圧を発生させる車両用液圧マスタシリンダの製造方法において、シリンダボディ鋳造時に中子の挿入によりシリンダ孔の下孔を形成し、該下孔におけるシリンダ孔開口部から、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置までを切削加工することを特徴とする車両用液圧マスタシリンダの製造方法。
【請求項4】
前記切削加工の際に、前記下孔の、前記ピストンがフルストローク状態となった時に前記カップシールが配置される位置よりもシリンダ孔底部側に、シリンダ孔底部側に向けて漸次小径となる円錐面を連続して切削加工することを特徴とする請求項3記載の車両用液圧マスタシリンダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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