説明

車両用灯具の制御装置

【課題】傾斜センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高める技術を提供する。
【解決手段】車両用灯具の制御装置は、傾斜センサの出力値と、車室ドア開閉センサ312が出力する信号およびトランクドア開閉センサ314が出力する信号の少なくとも一方とを受信する受信部102と、車両停止中は、車室ドア開閉センサ312が出力する信号またはトランクドア開閉センサ314が出力する信号を受信した場合に傾斜センサの出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中は、調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する制御部104と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置に関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の傾斜角度に応じて車両用前照灯の光軸位置を自動的に調節して照射方向を変化させるオートレベリング制御が知られている。一般にオートレベリング制御では、車高センサの出力値から導出される車両のピッチ角度に基づいて前照灯の光軸位置が調節される。これに対し、特許文献1〜4には、加速度センサ(重力センサ)やジャイロセンサ等の傾斜センサを用いてオートレベリング制御を実施する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−085459号公報
【特許文献2】特開2004−314856号公報
【特許文献3】特開2001−341578号公報
【特許文献4】特開2009−126268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速度センサ等の傾斜センサを用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。その結果、車両の低コスト化および軽量化を図ることができる。一方で、加速度センサ等の傾斜センサを用いた場合であっても、センサの検出誤差等の影響を減らして高精度にオートレベリング制御を実施したいという要求はある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、傾斜センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具の制御装置である。当該制御装置は、傾斜センサの出力値と、車室ドア開閉センサが出力する信号およびトランクドア開閉センサが出力する信号の少なくとも一方とを受信する受信部と、車両停止中は、車室ドア開閉センサが出力する信号またはトランクドア開閉センサが出力する信号を受信した場合に傾斜センサの出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中は、調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の他の態様も車両用灯具の制御装置である。当該制御装置は、傾斜センサの出力値と、車両が発進しないことが推定される信号とを受信する受信部と、車両停止中は、前記信号を受信した場合に傾斜センサの出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中は、調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
これらの態様の制御装置によれば、傾斜センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0009】
上記態様において、前記信号は、シフトポジションの状態を示す信号およびパーキングブレーキの状態を示す信号の少なくとも一方を含んでもよい。また、上記いずれかの態様において、制御部は、前記信号の受信前後に受信した傾斜センサの出力値を用いて調節信号を生成してもよい。
【0010】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、傾斜センサを用いて車両用灯具の光軸調節を実施するオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。
【図2】前照灯ユニット、車両制御ECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。
【図3】車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
【図4】実施形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。
【図5】変形例に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレベリングECUの制御対象である灯具ユニットを含む前照灯ユニットの概略鉛直断面図である。前照灯ユニット210は、左右対称に形成された一対の前照灯ユニットが車両の車幅方向の左右に1つずつ配置された構造である。右側の前照灯ユニット210Rおよび左側の前照灯ユニットLは実質的に同一の構成であるため、以下では、右側の前照灯ユニット210Rの構造を説明する。
【0015】
前照灯ユニット210Rは、車両前方側に開口部を有するランプボディ212と、この開口部を覆う透光カバー214とを有する。ランプボディ212は、車両後方側に取り外し可能な着脱カバー212aを有する。ランプボディ212と透光カバー214とによって灯室216が形成されている。灯室216には灯具ユニット10(車両用灯具)が収納されている。
【0016】
灯具ユニット10には、灯具ユニット10の上下左右方向の揺動中心となるピボット機構218aを有するランプブラケット218が形成されている。ランプブラケット218は、ランプボディ212に支持されたエイミング調整ネジ220と螺合している。灯具ユニット10の下面には、スイブルアクチュエータ222の回転軸222aが固定されている。スイブルアクチュエータ222は、ユニットブラケット224に固定されている。ユニットブラケット224には、レベリングアクチュエータ226が接続されている。レベリングアクチュエータ226は、例えばロッド226aを矢印M,N方向に伸縮させるモータなどで構成されている。
【0017】
灯具ユニット10は、ロッド226aが矢印M方向に伸長した場合、ピボット機構218aを中心として後傾姿勢となり、ロッド226aが矢印N方向に短縮した場合、ピボット機構218aを中心として前傾姿勢となる。灯具ユニット10の前傾、後傾により、光軸Oのピッチ角度を下方、上方に向けるレベリング調整ができる。また、ロッド226aとユニットブラケット224の接続部分にはエイミングピボット機構(図示せず)が配置されている。エイミング調整ネジ220を回転させることで、灯具ユニット10をエイミングピボット機構を中心に上下左右に旋回させ、光軸Oを上下左右にエイミング調整することができる。
【0018】
灯具ユニット10は、回転シェード12を含むシェード機構18、バルブ14、リフレクタ16を内壁に支持する灯具ハウジング17、および投影レンズ20を備える。バルブ14は、白熱球やハロゲンランプ、放電球、LEDなどが使用可能である。リフレクタ16は、少なくとも一部が楕円球面状であり、バルブ14から放射された光を反射する。バルブ14からの光およびリフレクタ16で反射した光は、一部が回転シェード12を経て投影レンズ20へと導かれる。回転シェード12は、回転軸12aを中心に回転可能な円筒部材であり、切欠部と複数のシェードプレート(図示せず)とを備える。切欠部またはシェードプレートのいずれかが光軸O上に移動されて、所定の配光パターンが形成される。投影レンズ20は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、後方焦点面上に形成される光源像を反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。なお、灯具ユニット10は、投影レンズ20を持たない反射型の灯具ユニットなどであってもよい。
【0019】
図2は、前照灯ユニット、車両制御ECUおよびレベリングECUの動作連携を説明する機能ブロック図である。なお、上述のように左右の前照灯ユニットの構成は基本的に同一であるため、図2では前照灯ユニット210Rおよび前照灯ユニット210Lをまとめて前照灯ユニット210としている。また、レベリングECU100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図2ではそれらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0020】
レベリングECU100(車両用灯具の制御装置)は、受信部102、制御部104、送信部106、メモリ108および傾斜センサとしての加速度センサ110を備える。レベリングECU100は、例えば車両300のダッシュボード付近に設置される。なお、レベリングECU100の設置位置は特に限定されず、例えば前照灯ユニット210内に設けられてもよい。また、加速度センサ110は、レベリングECU100の外に設けられていてもよい。レベリングECU100には、車両制御ECU302やライトスイッチ304が接続されている。車両制御ECU302やライトスイッチ304から出力される信号は、受信部102によって受信される。また、受信部102は、加速度センサ110の出力値を受信する。
【0021】
車両制御ECU302には、車速センサ310、車室ドア開閉センサ312、トランクドア開閉センサ314、シフトポジションセンサ316、パーキングブレーキセンサ318等が接続されている。これらのセンサから出力された信号は、車両制御ECU302を介してレベリングECU100の受信部102によって受信される。車室ドア開閉センサ312は、人員等が乗降するための車室ドアの開閉状態を示す車室ドア信号を出力する。トランクドア開閉センサ314は、トランクドアの開閉状態を示すトランクドア信号を出力する。シフトポジションセンサ316は、シフトポジションの状態を示すシフトポジション信号を出力する。パーキングブレーキセンサ318は、パーキングブレーキのオンオフ(作動解除)状態を示すパーキングブレーキ信号を出力する。
【0022】
ライトスイッチ304は、運転者の操作内容に応じて、前照灯ユニット210の点消灯を指示する信号やオートレベリング制御の実行を指示する信号等を、電源306や、車両制御ECU302、レベリングECU100等に送信する。
【0023】
受信部102が受信した信号は、制御部104に送信される。制御部104は、角度演算部1041と、調節指示部1042とを備える。角度演算部1041は、加速度センサ110の出力値と必要に応じてメモリ108が保持する情報を用いて車両300のピッチ角度情報を生成する。調節指示部1042は、角度演算部1041で生成されたピッチ角度情報を用いて灯具ユニット10の光軸調節を指示する調節信号を生成する。制御部104は、調節指示部1042で生成した制御信号を送信部106からレベリングアクチュエータ226に出力する。レベリングアクチュエータ226は、受信した調節信号をもとに駆動し、灯具ユニット10の光軸Oがピッチ角度方向について調整される。
【0024】
車両300には、レベリングECU100、車両制御ECU302および前照灯ユニット210に電力を供給する電源306が搭載されている。ライトスイッチ304の操作により前照灯ユニット210の点灯が指示されると、電源306から電源回路230を介してバルブ14に電力が供給される。
【0025】
続いて、上述の構成を備えたレベリングECU100によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3は、車両に生じる加速度ベクトルと、加速度センサで検出可能な車両の傾斜角度を説明するための模式図である。
【0026】
車両が後傾姿勢あるいは前傾姿勢になると、灯具ユニット10の照射方向も上下に変動し、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、レベリングECU100は、加速度センサ110の出力値から車両のピッチ方向の傾斜角度の変化を導出し、光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。このように、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで、車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0027】
加速度センサ110は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ110は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。そのため、加速度センサ110は、図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ110は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。加速度センサ110は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。加速度センサ110から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、制御部104によって車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。
【0028】
車両停止中の加速度センサ110の出力値からは、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを導出することができる。すなわち、加速度センサ110の出力値から、水平面に対する路面の傾斜角度である路面角度θrと、路面に対する車両の傾斜角度である車両姿勢角度θvとを含む、水平面に対する車両の傾斜角度である合計角度θを導出することができる。オートレベリング制御は、車両の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。そのため、加速度センサ110を用いたオートレベリング制御では、合計角度θの変化が、車両姿勢角度θvの変化による場合に光軸調節を実施し、路面角度θrの変化による場合に光軸位置を維持するように制御することが望まれる。
【0029】
そこで、レベリングECU100の制御部104は、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定し、車両走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定する。車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。一方、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。そして、制御部104は、車両停止中、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合に、調節信号を生成して出力するよう制御する。また、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化に対しては光軸調節を回避する。制御部104は、調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力することで光軸調節を回避する。なお、調節信号を生成しないことで調節信号の出力を回避してもよいし、調節信号を生成した上で生成した調節信号の出力を回避してもよい。
【0030】
上述のように、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定可能である。そのため、車両停止中に所定間隔で繰り返し調節信号を出力して光軸調節するオートレベリング制御を実施することもできるが、車両停止中の車両姿勢変化を、光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化と光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化とに分けることで、オートレベリング制御のさらなる精度向上を図ることができる。光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化としては、人の乗降や荷物の積み降ろし等に起因する変化を挙げることができる。光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化としては、例えば車両停止時に沈み込んだサスペンションの伸長等に起因する変化を挙げることができる。
【0031】
車両停止時に車両300の減速により沈み込んだサスペンションは、車両停止中に徐々に伸長する(以下、車両停止時のサスペンションの収縮とその後の伸長をサスペンション変位と称する)。サスペンション変位のうち、車両停止時(すなわち車両走行中)に起こるサスペンションの収縮は、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角θvの変化とみなす制御では車両姿勢角θvの変化として扱われない。一方、車両停止中に起こるサスペンションの伸長は車両姿勢角θvの変化として扱われる。したがって、サスペンション変位による合計角度θの変化を光軸調節の対象とすると、もっぱらサスペンションの伸長による合計角度θの変化だけが光軸調節の対象となるため、光軸位置が実際の車両姿勢角度θvに対応する位置からずれてしまう可能性がある。よって、サスペンション変位に起因する車両姿勢変化は、光軸調節の対象から除外すべきである。
【0032】
これに対し、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合、人の乗降または荷物の積み降ろしが行われ、それに起因した光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化が起こると推定することができる。そのため、車両停止中でかつ車室ドア信号またはトランクドア信号を光軸調節のトリガとすることで、光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化に対する光軸調節を実施するとともに、光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化に起因した光軸位置ずれを抑制することができる。また、合計角度θには、加速度センサ110の検出誤差や制御部104の計算誤差等が含まれる可能性がある。そのため、車両停止中であっても光軸調節の実施タイミングを制限することで、加速度センサ110の検出誤差や制御部104の計算誤差等に起因した光軸位置ずれを抑制することができる。
【0033】
具体的には、まず、車両メーカの製造工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。そして、初期化処理装置のスイッチ操作等により、レベリングECU100に初期化信号が送信される。制御部104は、受信部102を介して初期化信号を受けると初期エイミング調整を開始し、灯具ユニット10の光軸Oを初期設定位置に合わせる。また、制御部104は、車両300が基準状態にあるときの加速度センサ110の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ108に記録する。
【0034】
車両300が実際に使用される状況において、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸調節を回避する。そして車両停止時に、現在(車両停止時)の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを得る。そして、得られた路面角度θrを新たな基準値としてメモリ108に保持する。これにより、路面角度θrの変化と推定される車両走行中の合計角度θの変化が、路面角度θrの基準値に取り込まれる。前記「車両走行中」は、例えば車速センサ310の検出値が0を越えたときから、車速センサ310の検出値が0となるまでの間である。前記「車両停止時」は、例えば車速センサ310の検出値が0となった後、加速度センサ110の出力値が安定したときである。前記「車両走行中」および「車両停止時」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0035】
車両停止中、制御部104は、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合に、車両が所定の姿勢安定状態となった後、加速度センサ110が検出した加速度から現在の合計角度θを算出し、得られた合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して、車両姿勢角度θvを得る。そして、得られた車両姿勢角度θvを新たな基準値としてメモリ108に保持するとともに、更新した車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を実施する。前記「車両停止中」は、例えば加速度センサ110の出力値が安定したときから車速センサ310の検出値が0を越えたときである。前記「車両停止中」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0036】
図4は、実施形態1に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている状態において、イグニッションがオンにされた場合に制御部104により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0037】
まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S101)。車両走行中である場合(S101のY)、制御部104は、光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。車両走行中でない場合(S101のN)、制御部104は、車両停止時であるか判断する(S102)。車両停止時である場合(S102のY)、制御部104は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減算して路面角度θrを計算し(S103)、計算された路面角度θrを新たな基準値として更新する(S104)。その後、制御部104は、光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。
【0038】
車両停止時でない場合(S102のN)、この場合は車両停止中であることを意味するため、制御部104は、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信したか判断する(S105)。車室ドア信号またはトランクドア信号を受信していない場合(S105のN)、制御部104は光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合(S105のY)、制御部104は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減算して車両姿勢角度θvを計算し(S106)、計算された車両姿勢角度θvを新たな基準値として更新する(S107)。そして、制御部104は、更新された車両姿勢角度θvの基準値に基づいて光軸を調節し(S108)、本ルーチンを終了する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るレベリングECU100は、車両停止中、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合に光軸調節を実施し、車両走行中は光軸調節を回避している。すなわち、車両停止中で、かつ光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化が起こる可能性が高いことを示す車両情報が得られたときに光軸調節を実施している。これにより、光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化に対して光軸調節を実施した場合に生じ得る光軸位置ずれ等を抑制することができる。そのため、傾斜センサを用いたオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0040】
(実施形態2)
実施形態2に係る車両用灯具の制御装置は、車両が発進しないことが推定される信号の受信をトリガとして光軸調節を実施するものである。以下、本実施形態について説明する。なお、前照灯ユニットおよびレベリングECUの主な構成などは実施形態1と同様であるため、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
【0041】
本実施形態に係るレベリングECU100は、車両停止中、車両300が発進しないことが推定される信号(以下、適宜この信号を非発進推定信号と称する)を受信した場合に調節信号を生成して出力するよう制御する。上述した人の乗降や荷物の積み降ろしは、通常、車両停止中に行われる。そのため、非発進推定信号を受信した場合に、人の乗降または荷物の積み降ろしが行われ、それに起因した光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化が起こると推定することとした。このように、非発進推定信号をトリガとすることで、光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化、あるいは加速度センサ110の検出誤差や制御部104の計算誤差等に起因した光軸位置ずれを抑制することができる。
【0042】
非発進推定信号は、例えばシフトポジション信号およびパーキングブレーキ信号の少なくとも一方を含む。例えば、シフトポジションがパーキングポジションあるいはニュートラルポジションにある場合や、サイドブレーキがオン状態である場合に、車両300が発進しない、すなわち停止状態を維持すると推定することができる。なお、シフトポジションがニュートラルポジションにあることを示す信号とブレーキペダルがオン状態にあることを示す信号とを受信したときに車両が発進しないと推定してもよい。ブレーキペダルのオンオフ状態は、車両制御ECU302に接続されたブレーキペダルセンサ(図示せず)から受信することができる。
【0043】
本実施形態のオートレベリング制御フローは、図4に示すフローチャートにおけるステップ105が、非発進推定信号の受信を判断するステップに置き換えられる点以外は図4に示すフローチャートと同様である。そのため、詳細な説明は省略する。
【0044】
以上説明した本実施形態に係るレベリングECU100は、車両停止中で、かつ光軸調節の対象とすべき車両姿勢変化が起こる可能性が高いことを示す車両情報が得られたときに光軸調節を実施している。そのため、傾斜センサを用いたオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0045】
なお、実施形態1のオートレベリング制御と、実施形態2のオートレベリング制御とを組み合わせてもよい。すなわち、制御部104は、車両停止中、非発進推定信号を受信し、かつ車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合に、光軸調節を実施してもよい。これによれば、光軸調節の対象から除外すべき車両姿勢変化、あるいは加速度センサ110の検出誤差や制御部104の計算誤差等に起因した光軸位置ずれをより抑制することができる。
【0046】
本発明は、上述の各実施形態および各実施形態の組み合わせに限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0047】
実施形態1および実施形態2に係るレベリングECU100には、以下に示す変形例を挙げることができる。すなわち、本変形例では、まず実施形態1,2と同様に、路面角度θrの基準値および車両姿勢角度θvの基準値がメモリ108に記録される。そして、車両300が実際に使用される状況において、制御部104は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸調節を回避する。また、制御部104は、車両停止時に走行前後での合計角度θの差分Δθ1を算出する。そして、メモリ108に記録されている路面角度θrの基準値に、得られた差分Δθ1を算入して新たな路面角度θrの基準値を算出し(新θr基準値=θr基準値+Δθ1)、これをメモリ108に記録する。
【0048】
差分Δθ1は例えば次のようにして算出する。すなわち、制御部104は、車両300の発進直後に、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録する。そして、車両停止時に、車両停止時の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を算出する。前記「発進直後」は、例えば車速センサ310の検出値が0を超えたときからの所定期間である。前記「発進直前」は、例えば車速センサ310の検出値が0を超えたときから所定時間前の時間である。
【0049】
車両停止中、制御部104は、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合(実施形態1)、あるいは非発進推定信号を受信した場合(実施形態2)、現在の合計角度θとメモリ108に記録されている合計角度θの基準値との差分Δθ2を算出する。用いられる合計角度θの基準値は、例えば、光軸調節のトリガとなる上述の車室ドア信号等の受信前にメモリ108に記録された基準値である。この基準値は、例えば、車両300の停止後最初の差分Δθ2の算出では差分Δθ1の算出後に更新された基準値、すなわち車両停止時の合計角度θであり、2回目以降の場合は前回の差分Δθ2の算出後に更新された基準値とすることができる。あるいは、トリガ信号の受信直前に算出され記録された基準値である。前記「受信直前」は、例えばトリガ信号を受信してから所定時間前の時間である。
【0050】
そして、制御部104は、メモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値に、得られた差分Δθ2を算入して新たな車両姿勢角度θvの基準値を算出し(新θv基準値=θv基準値+Δθ2)、これをメモリ108に記録する。また、新たな車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を実施する。すなわち、制御部104は、光軸調節のトリガとなる信号の受信前後に受信した加速度センサ110の出力値を用いて調節信号を生成する。
【0051】
図5は、変形例に係るレベリングECUにより実行されるオートレベリング制御フローチャートである。図5では、車室ドア信号またはトランクドア信号を光軸調節のトリガ受信とする場合(実施形態1)を例に説明する。まず、制御部104は、車両走行中であるか判断する(S201)。車両走行中である場合(S201のY)、車両300が発進直後であるか判断する(S202)。発進直後である場合(S202のY)、制御部104は、発進直前の合計角度θを合計角度θの基準値としてメモリ108に記録(更新)し(S203)、光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。発進直後でない場合(S202のN)、合計角度θの基準値を更新することなく、光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。
【0052】
車両走行中でない場合(S201のN)、制御部104は、車両停止時であるか判断する(S204)。車両停止時である場合(S204のY)、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ1を計算する(S205)。そして、制御部104は、計算した差分Δθ1とメモリ108に記録されている路面角度θrの基準値とから新たな路面角度θrの基準値を計算し、路面角度θrの基準値を更新する(S206)。また、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録し(S207)、本ルーチンを終了する。
【0053】
車両停止時でない場合(S204のN)、制御部104は、車室ドア信号またはトランクドア信号を受信したか判断する(S208)。車室ドア信号またはトランクドア信号を受信していない場合(S208のN)、制御部104は光軸調節を回避して本ルーチンを終了する。車室ドア信号またはトランクドア信号を受信した場合(S208のY)、現在の合計角度θから合計角度θの基準値を減算して差分Δθ2を計算する(S209)。そして、計算した差分Δθ2とメモリ108に記録されている車両姿勢角度θvの基準値とから新たな車両姿勢角度θvの基準値を計算し、車両姿勢角度θvの基準値を更新する(S210)。そして、更新した車両姿勢角度θvの基準値を用いて光軸調節を実施する(S211)。また、制御部104は、現在の合計角度θを新たな合計角度θの基準値としてメモリ108に記録し(S212)、本ルーチンを終了する。
【0054】
以上説明した変形例によっても、実施形態1および2と同様に、傾斜センサを用いたオートレベリング制御の精度を高めることができる。
【0055】
上述の実施形態1,2および変形例において、傾斜センサとして加速度センサ110を用いているが、傾斜センサは、ジャイロセンサ(角速度センサ、角加速度センサ)や地磁気センサ等であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
O 光軸、 10 灯具ユニット、 100 レベリングECU、 102 受信部、 104 制御部、 110 加速度センサ、 300 車両、 312 車室ドア開閉センサ、 314 トランクドア開閉センサ、 316 シフトポジションセンサ、 318 パーキングブレーキセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜センサの出力値と、車室ドア開閉センサが出力する信号およびトランクドア開閉センサが出力する信号の少なくとも一方とを受信する受信部と、
車両停止中は、前記車室ドア開閉センサが出力する信号または前記トランクドア開閉センサが出力する信号を受信した場合に前記出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中は、前記調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
傾斜センサの出力値と、車両が発進しないことが推定される信号とを受信する受信部と、
車両停止中は、前記信号を受信した場合に前記出力値を用いて車両用灯具の光軸調節を指示する調節信号を生成して出力するよう制御し、車両走行中は、前記調節信号の出力を回避するか光軸位置の維持を指示する維持信号を生成して出力するよう制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記信号は、シフトポジションの状態を示す信号およびパーキングブレーキの状態を示す信号の少なくとも一方を含む請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記信号の受信前後に受信した前記出力値を用いて前記調節信号を生成する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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