説明

車両用灯具及び車両用灯具の製造方法

【課題】 ハウジングとアウターカバーとをレーザ溶着にて取り付けた車両用灯具において、レーザ溶着を行なう際に両者を外部から押圧した状態でレーザ溶着しなければならないため溶着強度が低下する等の課題がある。
【解決手段】 アウターカバー20とハウジング10とがレーザ溶着によって接合される車両用灯具およびその製造方法であって、ハウジングの周縁部(12)に突設する溶着基部(13)を設け、アウターカバー(20)には、これと対向する凹溝(26)を有する溶着脚部(25)を設け、凹溝(26)が溶着基部(13)を受け入れた状態で側面方向からレーザ光を照射して溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用灯具および車両用灯具のレーザ溶着方法に関する。特に、レーザを使用した透明カバーとハウジングとの溶着する車両用灯具の製造方法において、アウターカバーとハウジングとの接合を確実にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具は、照射方向前面を開口したハウジングにその前面開口を覆うようにアウターカバー(アウターレンズ)が取り付けられている。一般的な取付構造は、アウターカバーの周縁部にシール脚を突設し、ハウジングには上記シール脚を受け入れるU字状のシール溝を形成し、アウターカバーのシール脚をハウジングのシール溝に接着剤を介して固定するものとされている。
【0003】
上記したシール溝を用いる取付方法が一般的に採用されていたが、この取付方法にあっては、シール脚およびシール溝を形成しなければならず、また、アウターカバーを前方から眺めたときに、シール脚を通して接着材が視認され外観を損なうという問題があった。
【0004】
そこで、アウターカバーとハウジングとの接合方法として、レーザ光を用いて両者を溶着して接合する製造方法が知られている。例えば、特許文献1では、シール脚の内側面にてハウジングと溶着を行なう技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−063333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハウジングとアウターカバーとを、アウターカバーの周縁部の全体とハウジングとを全周に渡って溶着すれば、ハウジングの前面開口を水密的に一体化することができる。
【0007】
レーザ溶着を水密的に一体化するためには、ハウジングとアウターカバーとを重ね合わせて溶着面を加圧した状態でレーザを照射しないと、溶着が不十分となり確実な接合が得難いという問題がある。
【0008】
図10は、特許文献1のレーザ溶着部を説明する一部断面図である。自動車用灯具のアウターカバーは、樹脂製部材からなりレーザ光の波長に対して透過性の樹脂製部材からなり、全周縁部にシール脚部120が一体に形成されている。シール脚部の側面は傾斜している。ハウジングの開口部の全周縁部には、フランジ部130を介して接合部131が設けられており、接合部131に前記シール脚部120が外側から嵌合する。図10に示したようにアウターカバーとハウジングとを嵌合することにより、相互に密着するものとし、相互に密着した状態にて、レーザ照射ノズル160からレーザ光を照射して溶着している。
【0009】
しかしながら、近年の車両用灯具は異型形状になるとともに大型化してきているため、ハウジングとの組み付け作業が難しくなってきている。特に、歪みが生じないようにアウターカバーとハウジングを取り付けた状態で、アウターカバー全周においてハウジングと面接触するようにアウターカバーを押圧してレーザ溶着を行なうは容易ではなく、押圧時にアウターカバー表面を傷つけたり、歪みが生じるなどの問題がある。また、レーザ溶着時の押圧が不十分だと、溶着面が汚くなって商品性を損なう、溶着強度が低下する、という問題もある。
【0010】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは簡単な構成でハウジングとアウターカバーとの取付ができるようにするとともに、ハウジングとアウターカバーとのレーザ溶着の溶着強度を向上させた車両用灯具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、
透光性の樹脂カバー(20)と光吸収性樹脂製のハウジング(10)とがレーザ溶着により接合された車両用灯具(1)であって、
前記樹脂ハウジング(10)は、前記灯具(1)の照射方向に開口した前面開口と、前記前面開口の周縁部(12)に突設して形成した溶着基部(13)を備え、
前記樹脂カバー(20)は、対向する凹部内壁を有し前記溶着基部を受入れ可能な溶着脚部(25)を、カバー周縁部(22)に備え、
前記溶着脚部(25)は、前記溶着基部(13)と平行な方向に向かって延びる第1溶着脚(23)、第2溶着脚(24)および第1溶着脚と第2溶着脚で挟まれた凹溝(26)を備え、前記第1溶着脚(23)が灯具外周側に位置しており、
前記溶着基部(13)の外周側側面(13a)と第1溶着脚内壁(23a)が面接触した状態で全周にわたってレーザ溶着部(40)を備えており、
前記溶着基部(13)の内側側面(13b)と前記第2溶着脚内壁(24a)が当接しており、
前記レーザ溶着部(40)は、前記ハウジング(10)と樹脂カバー(20)の組立方向と平行な方向に溶着面(41)が位置していることを特徴とする車両用灯具、を提供する。
【0012】
上記発明によれば、外部から積極的に圧力を加えた状態でレーザ溶着を実施しなくても、ハウジングと樹脂カバーとの溶着強度を向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明は、
透光性の樹脂カバー(20)と光吸収性樹脂製のハウジング(10)とがレーザ溶着により接合された車両用灯具(1)の樹脂カバー(20)と樹脂ハウジング(10)とをレーザ溶着によって接合するレーザ溶着方法であって、
前記樹脂ハウジング(20)の前記灯具(1)の照射方向に開口した前面開口の周縁部(12)に、前記灯具の前後方向と平行な所定方向に突設する溶着基部(13)を一体に成型したハウジング(10)を準備する工程と、
前記溶着基部(13)対向する凹部内壁を有し前記溶着基部(13)を受入れ可能な溶着脚(23)を、カバー周縁部(22)に備えた樹脂カバー(20)を準備する工程と、
前記溶着基部(13)の灯具外周側の側面(13a)と前記溶着脚(25)の外周側内壁(23a)が面接触し、且つ、前記溶着基部の灯具内周側の側面(13b)と前記溶着脚の内周側内壁(24a)が当接するように前記ハウジングと樹脂カバーを嵌合する工程と、
前記溶着基部(13)の灯具外周側の側面(13a)と前記溶着脚の外周側内壁(23a)が面接触した状態で全周にわたってレーザ溶着を行なう溶着工程とを備えたことを特徴とする車両用灯具のレーザ溶着方法を提供する。
【0014】
上記発明によれば、外部から積極的に圧力を加えた状態でレーザ溶着を実施する工程を実施しなくても、ハウジングと樹脂カバーとの溶着強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な構成でハウジングとアウターカバーとの取付ができるようにするとともに、ハウジングとアウターカバーとのレーザ溶着の溶着強度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、第1の実施の形態である車両用灯具を示す正面図である。
【図2】図2は、図1は車両用灯具を示す側面図である。
【図3】図3は、図1の車両用灯具のA−A線に沿った断面図である。
【図4】図4は、図3のB部を拡大して説明する概略断面図である。
【図5】図5は、図4の組み付け前の状態を示す概略断面図である。
【図6】図6は、接合強度の確認実験に用いたテストピースを示す概略斜視図
【図7】図7は、
【図8】図8は、引張り試験により溶着強度を確認した試験装置の要部を説明する側面図である。
【図9】図9は、引張り試験後の破壊状態を示す概略断面図である。(A)が材料破壊、(B)が界面剥離の状態を示す。
【図10】図10は、従来のレーザ溶着部を説明する一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態である車両用灯具について図1〜図9を参照しながら説明する。
【0018】
図1から図3に本発明に係る車両用灯具の概略を示す。図1は第1の実施態様に係る車両用灯具を示す正面図、図2が側面図、図3が図1のA−A線に沿った断面図である。
【0019】
車両用灯具1は、前方に向かって開口した凹部11を有するハウジング10と、その開口を覆うアウターカバー20が接合されて、灯具空間30を形成している。例えば車両用灯具1は前照灯であって、複数の機能の灯具が収容されている。図1は前照灯の例であり、走行ランプおよびすれ違いランプをなす灯室31、ポジションランプをなす灯室32、ターンランプをなす灯室33の3つの灯室を灯具空間30内に備えている。灯室31,32,33の夫々には光源2および反射鏡3が設けられ、光源2はハウジング10の背面側に位置している。夫々の灯室31,32,33の間のアウターカバー20寄りの位置にはエクステンション4が設けられている。なお、符号34はインナーレンズで灯室32および灯室33の夫々の照射方向前方に配設しいる。符号35は、灯室31の光源2前方に設けたシェードである。
【0020】
前記した車両用灯具1を車両前方に取り付けたとき、車両用灯具1は車両の進行方向に向かって光を照射する。このときの光の照射方向を図1に矢示したz方向とする。したがって照射方向前方とは、灯具の主たる照射方向、すなわちz方向をいい、前照灯の場合においては車両進行方向となる。なお、車両後部に取り付けるストップランプなどの車両用灯具の場合には、車両後方に向けて光を照射するものであるので、車両進行方向と逆方向をZ方向とし、灯具前方は車両進行方向と逆方向をいうものとする。以下の説明は、前照灯の例について説明する。
【0021】
光源2は、白熱電球、ハロゲン電球、放電灯、発光ダイオード(LED)などの各種の光源を用いることができる。光源2は反射鏡3の後部中央部に、反射鏡2の後部側から反射鏡に挿入して固定する。光源2は反射鏡3の側方から挿入するものでも良い。
反射鏡3は、光源2から照射され光を所定の配光パターンを形成する反射面を光源2側に備える。また、反射鏡3はハウジング10の凹部11内に取付固定される。前照灯以外の機能のランプのときには反射鏡3の代わりに、ハウジング10と一体に形成することもできる。
【0022】
ハウジング10の前面開口の周縁部12には、全周に亘って溶着基部13が形成されている。溶着基部13は、ハウジング周縁部12から灯具の照射方向前方、すなわち図1におけるZ方向に向かって突設しており、断面を台形形状もしくは矩形形状とする板状部材であって、ハウジング10と一体に形成されている。溶着基部13は、後述するレーザ溶着工程で用いるレーザ光の波長の光を吸収する樹脂材料から選択する。溶着基部13にレーザ吸収剤、例えばカーボンブラックを練りこんだものも光吸収性材料に含まれる。更に好ましくはアウターカバー20との接合性に優れた光透過性にも優れた樹脂材料が良い。好適な材料としてはASA樹脂(アクリロニトリルスチレンアクリレート(Acrylonitrile-Styrene-Acrylate))を用いる。他にもABS樹脂、アクリロニトリル・エチレンプロピレン・スチレン樹脂(AES)、アクリル・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、PC樹脂、およびPC/ABS樹脂やPC/ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂からなるポリマーアロイなどを用いることができる。なお、ハウジング10には、前記以外の成分、例えばガラス、シリカ、タルク等の無機または有機物よりなるフィラーや耐侯安定剤などの補助成分を含むものも含まれる。
【0023】
アウターカバー20は、三次元的な意匠形状をなす透光性の樹脂材料からなる。アウターカバー周縁部22には、溶着脚部25が一体に形成されている。透光性樹脂材料の中でも、後述するレーザ溶着に用いるレーザ光に対する吸収性の少ない熱可塑性樹脂材が好ましく、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂により形成される。アウターカバー20の周縁部22には、後方へ突出した溶着脚部25が全周に亘って形成されている。アウターカバー20にはレンズカット27を部分的に設けている。
【0024】
溶着脚部25は、アウターカバー周縁部22から灯具の照射方向後方、すなわち図1におけるz方向と反対側の方向に向かって突設している。溶着脚部25は、一対の溶着脚23,24とその間の凹溝26からなり、車両用灯具1の最も外周側が第1溶着脚23、その内側が第2溶着脚24となる。第1溶着脚23および第2溶着脚24は、何れも断面を台形形状もしくは矩形形状とする板状部材である。凹溝26は、上述した溶着基部13を受入れ可能な大きさおよび深さとされる。
【0025】
ところで、近年、車両用灯具1は車両の意匠に合わせてより立体的な異型形状となっている。例えば、図1の車両用灯具1のアウターカバー20は車両上下方向にスラントし、且つ車両左右方向にもスラントしている(図2および図3参照)。また車体の側面まで回りこむような形状の車両用灯具も知られている。スラントの大きな形状のハウジング10およびアウターカバー20を組み付けようとすると、同一方向からアウターカバー20を組み付けできるようにしないと、組み付け時にアウターカバー20に歪が生じるおそれがある。そこで、ハウジング10とアウターカバー20の組立性を良好にするとともに、アウターカバー20に歪が生じにくくするためには、ハウジング10およびアウターカバー20の射出成型時の金型の型開き方向を同一とし、型開き方向と組み付け方向を一致させるのが好ましい。
【0026】
本実施の形態においては、ハウジング10とアウターカバー20の組立性を良好にするために組み付け方向をz方向と平行な方向としている。ここで本出願において平行とは、完全な平行を示すものではなく組み付け性に影響を与えない程度に僅かに傾いたものも含めて平行として説明するものとする。また、かかる組み付け性を良好にするために溶着基部13および溶着脚23,24も、組み付け方向z’と平行な方向、すなわち、z方向と平行な方向に延設するものとしている。なお、本実施の形態においては灯具の主たる照射方向であるz方向と組み付け方向z’が平行方向な例で説明するが、組み付け方向z’がz方向に対して傾斜した方向であっても良い。溶着基部13および溶着脚23,24を組み付け方向z’と平行な方向に延設することで、ハウジング10およびアウターカバー20の成型性も向上する。
【0027】
図4は、図3のB部におけるハウジング10とアウターカバー20の接合状態を拡大して説明する概略断面図である。図5は、図4のハウジング10とアウターカバー20の組み付け前の状態を示す概略断面図である。凹溝26内に溶着基部13が嵌合され、溶着基部13の外周側側面13aと第1溶着脚内壁23aとがレーザ溶着にて接合している。レーザ溶着部40は、組み付け方向z’と平行な方向に位置する。車両用灯具1を正面方向(図4における紙面下方向)からレーザ溶着部40を覗き見たとしてもレーザ溶着面41が視認方向と平行であるため、レーザ溶着面41が殆ど観察されない。したがって、レーザ溶着面41に不均一な溶着箇所が生じてしまった場合であっても、外観を損なうことはない。
【0028】
次にハウジング10にアウターカバー20をレーザ溶着にて接合する方法について説明する。
【0029】
ハウジング10の全周縁部12に形成された溶着基部13と平行な方向、すなわちz’方向から、アウターカバー20を凹部11を覆うようにして組み付ける。このとき、溶着基部13が凹溝26内に挿入するように嵌め合わせる。溶着基部13の外周部側面13aと第1溶着脚内壁23aが互いに平行となるように形成され、溶着基部13の内側側面13bと第2溶着脚内壁24aが互いに平行となるようにし、凹溝26と同等の大きさで形成されている。また、溶着基部13は、先端側の幅のほうが狭い断面台形形状をなしている。したがって、溶着基部13と溶着脚部25を嵌合したとき、溶着基部13が凹溝26内にて面接触して固定する。なお、全周に亘って常に面接触するようにハウジング10およびアウターカバー20を成型するのが好ましいが、射出成型時の誤差および金型製造上の理由から困難なときには、凹溝26のレーザ溶着部40となる側が面接触するようにするのが好ましい。また、溶着基部13を組み付け方向z’に対して僅かに傾斜した側面を有する形状とするのが好ましい。傾斜させることで自重を利用してレーザ溶着部における面接触を強めることができるからである。さらに、溶着基部13の側面13a,13bおよび凹溝26の内壁23a,24aの何れの面も平滑な表面とするのが好ましい。平滑面とすることでレーザ溶着面がきれいな接合とすることができるからである。
【0030】
次に、ハウジング10とアウターカバー20とを嵌合した状態で、レーザ溶着を行なう。レーザ溶着は、波長1060〜1070nm、スポット径Φ3mmのファイバーレーザーを用いる。レーザ光Lは、図4においては紙面左側から、すなわち車両用灯具1の外周側から照射する。レーザ光Lは第1溶着脚23を通過して溶着基部13に向かう。レーザ光Lを受けた溶着基部13は発熱され、さらに熱伝導によって第1溶着脚23も発熱する。両者が溶融状態となり融合し、溶着する。レーザ光Lが照射されなくなると冷却され、レーザ溶着部40は、レーザ溶着面41にて接合して固定される。
【0031】
なお、レーザ光Lを照射する際に特別な治具を用いて外部から押圧を加える作業は実施していない。従来のレーザ溶着においては、接合面を透明樹脂からなる治具を用いて加圧する必要があったが、本実施の形態では溶着基部13を溶着脚23,24にて挟み込むようにしているので、ハウジング10もしくはアウターカバー20の自重により、特別な治具を用いなくてもレーザ溶着部40は面接触した接合面としているからである。したがって、アウターカバー20の意匠面、すなわち中央部分が傷付いたり汚れたりすることもない。
【0032】
また、本実施の形態では発熱の生じる光吸収性樹脂からなる溶着基部13を溶着脚部25にて挟み込むようにしている。溶着基部13が挟み込まれた状態にてレーザ光Lを照射すると溶着基部13に発熱が生じ、発熱により溶着基部13が熱膨張する。このとき溶着基部25の熱膨張する。挟み込まれた状態で熱膨張するので、熱膨張により生じる圧力にて接合面同士の加圧が実施される。したがって、加圧のための治具などの強制的な外部加圧を行なうことなく接合面同士を加圧することができ、レーザ溶着部の接合強度を高めることができる。溶着基部13として、挟み込まれる溶着基部13の線膨張係数を溶着脚23,24の線膨張係数より大きなものを用いると、熱膨張による加圧をより一層強くすることができ好適である。
【0033】
続いて、レーザ溶着による接合強度の確認実験について説明する。
【0034】
図6から図9は、テストピースを用いて接合強度の確認実験を説明するものである。図6は実験に用いたテストピースを示す概略斜視図である。符号50が光吸収性樹脂TPであり、上記したハウジング10に相当する。符号60が光透過性樹脂TPであり、上記したアウターカバー20に相当する。
【0035】
光吸収性樹脂TP50は、図6に示ように平坦面51(肉厚3.0mm)と、平坦面51の法線方向に突設する板状の溶着基部53からなり、ASA樹脂(アクリロニトリルスチレンアクリレート樹脂)を材料とする射出成型により一体に形成される。溶着基部53は先端の厚みが3.0mm、平坦面側の厚みが3.1mm、突設する長さを10mmとした断面台形状とした壁状部材としている。線膨張係数は、ISO11359−2に基づく測定で樹脂流動方向および直角方向のいずれにおいても8.2×10−5/℃である。
【0036】
光透過性樹脂TP60は、図6に示ように平坦面61(肉厚3.0mm)と、平坦面61の法線方向に突設する板状の2つの溶着脚63,64からなり、PMMA樹脂(アクリル樹脂)を材料とする射出成型により一体に形成される。溶着脚63,64の間には凹溝66が形成され、凹溝66は前記溶着基部53の大きさに対応する形状とされている。また、第1溶着壁63および第2溶着脚64は、夫々先端の厚みが1.5mm、平坦面側の厚みが1.6mm、突設する長さが10mmである断面台形状としている。線膨張係数は、ISO11359−2に基づく測定で樹脂流動方向および直角方向のいずれにおいても6.0×10−5/℃である。
【0037】
光透過性樹脂TP60の凹溝66に光吸収性樹脂TP50の溶着基部53を受入れるように嵌合させ、図7に示すように側面側に位置するレーザヘッド71からレーザ光Lを第1溶着脚63および溶着基部53の側面部に照射する。レーザ光Lは、波長1060〜1070nm、スポット径Φ3mm、熱量2J/mmとした。レーザ光Lは第1溶着脚63を透過して溶着基部53の側面を加熱する。これによりレーザ光Lを照射した接合面が発熱溶融して樹脂同士が接合する。符号72は溶融し接合した部位であるレーザ溶着部である。なお、レーザ溶着をおこなうときに、両者の接合面を加圧するための治具は何等使用せず、また、外部から圧力を加えることも実施していない。
【0038】
図8は、引張り試験により溶着強度を確認した試験装置の概略構成を説明するものである。レーザ溶着を実施したテストピース50,60の夫々を引張り試験機の保持用治具75,75に夫々セットして引張り試験を実施した。引張り試験機は、島津製作所製のAG5000Cを用い、引張り速度10mm/minの条件とした。
引張強度は170.3Kg/cmで、破壊状態は材料破壊であった。
【0039】
次にレーザ溶着部72となる溶着基部53と第1溶着脚63との隙間を拡げた光透過性樹脂TP60を作成して引張り試験を実施した。図7に示した隙間dを0.15mmまで拡げて同じ引張り試験を実施した。具体的には第2溶着脚64を第1溶着脚63に対して隙間dに応じて平行移動した形状のテストピースを作成し、溶着基部53および溶着脚63,64の側面の傾斜角度は同一とした。なお、図7のテストピースにおいて隙間dは0(ゼロ)mmであるが、隙間の位置の説明を判り易くするために有限の大きさの隙間があるように寸法を誇張して図示している。
【0040】
上記したテストピースをS1とし、隙間dを変更したテストピースS2〜S4について行なった実験結果は次の通りであった。
d[mm] 判定 破壊状態 引張強度[Kg/cm]
− − − − − − − − − − − − − − − −
S1 0 ○ 材料破壊 170.3
S2 0.05 ○ 材料破壊 158.3
S3 0.10 × 界面剥離 17.5
S4 0.15 × 界面剥離 13.1
【0041】
図9に引張り試験後の破壊状態を概略断面図にて示す。図9(A)が材料破壊であり、図9(B)が界面剥離の状態を示す。判定基準は界面剥離にて破壊した状態を不合格(×)とし、材料破壊した状態を合格(○)とした。この実験結果から、0.05mmの隙間があった場合であっても、熱膨張により接合面の加圧がなされ、十分な接合強度が得られていることが確認できた。
【0042】
以上の結果、本発明に係る車両用灯具によれば、積極的な外部加圧を行なうことなく、ハウジング10およびアウターカバー20とが密着され、レーザ溶着が確実に為される。そして、万が一、レーザ溶着部となる第1溶着脚23と溶着基部13との間に隙間が生じた場合であっても、アウターカバー20を組み付け方向z’から抑えるのみで、接合面を密着させることができるので、接合面を密着させるような特別な治具を容易する必要がない。
【0043】
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。例えば、アウターカバーとハウジングとのレーザ溶着をした実施形態にて説明したが、インナーレンズとハウジングのレーザ溶着やインナーレンズと反射鏡とのレーザ溶着などを行なう車両用灯具にも適用できる。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、簡単な構成でハウジングと透明樹脂カバーとの取付ができるようにするとともに、ハウジングと透明樹脂カバーとのレーザ溶着の溶着を確実とした車両用灯具に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 車両用灯具
2 光源
3 反射鏡
4 エクステンション
10 ハウジング
11 凹部
12 ハウジング周縁部
13 溶着基部
13a 外周側側面
13b 内側側面
20 アウターカバー
22 アウターカバー周縁部
23 第1溶着脚
23a 第1溶着脚内壁
23b 第1溶着脚外壁
24 第2溶着脚
24a 第2溶着脚内壁
24b 第2溶着脚外壁
25 溶着脚部
26 凹溝
27 レンズカット
30 灯室空間
31,32,33 灯室
34 インナーレンズ
35 シェード
40 レーザ溶着部
41 レーザ溶着面
120 シール脚部
130 フランジ部
131 接合部
160 レーザ照射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の樹脂カバーと光吸収性樹脂製のハウジングとがレーザ溶着により接合された車両用灯具であって、
前記樹脂ハウジングは、前記灯具の照射方向に開口した前面開口と、前記前面開口の周縁部に突設して形成した溶着基部を備え、
前記樹脂カバーは、対向する凹部内壁を有し前記溶着基部を受入れ可能な溶着脚部を、カバー周縁部に備え、
前記溶着脚部は、前記溶着基部と平行な方向に向かって延びる第1溶着脚、第2溶着脚および第1溶着脚と第2溶着脚で挟まれた凹溝を備え、前記第1溶着脚が灯具外周側に位置しており、
前記溶着基部の外周側側面と第1溶着脚内壁が面接触した状態で全周にわたってレーザ溶着部を備えており、
前記溶着基部の内側側面と前記第2溶着脚内壁が当接しており、
前記レーザ溶着部は、前記ハウジングと樹脂カバーの組立方向と平行な方向に溶着面が位置していることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記溶着基部の側面と前記溶着脚の内壁とは互いに傾斜した関係にあることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
透光性の樹脂カバーと光吸収性樹脂製のハウジングとがレーザ溶着により接合された車両用灯具の樹脂カバーと樹脂ハウジングとをレーザ溶着によって接合するレーザ溶着方法であって、
前記樹脂ハウジングの前記灯具の照射方向に開口した前面開口の周縁部に、前記灯具の前後方向と平行な所定方向に突設する溶着基部を一体に成型したハウジングを準備する工程と、
対向する凹部内壁を有し前記溶着脚を受入れ可能な溶着脚を、カバー周縁部に備えた樹脂カバーを準備する工程と、
前記溶着基部の灯具外周側の側面と前記溶着脚の外周側内壁が面接触し、且つ、前記溶着基部の灯具内周側の側面と前記溶着脚の内周側内壁が当接するように前記ハウジングと樹脂カバーを嵌合する工程と、
前記溶着基部の灯具外周側の側面と前記溶着脚の外周側内壁が面接触した状態で全周にわたってレーザ溶着を行なう溶着工程とを備えたことを特徴とする車両用灯具のレーザ溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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