説明

車両用灯具

【課題】配光パターンにおけるカットオフラインの明暗差を緩和して、視認性の向上を図る。
【解決手段】投影レンズ4側に配置した前側シェード5の明暗境界形成部5Aを、リフレクタ側に配置した後側シェード6の明暗境界形成部6Aよりも高さを高く形成することにより、前側シェード5の明暗境界形成部5Aによるカットオフライン配光Lが、後側シェード6の明暗境界形成部6Aによるカットオフライン配光Lよりも下方側にずれる。上下方向にずれた2つのカットオフライン配光L,Lが合成されることにより、カットオフラインCLが暈されて、カットオフラインCL近傍の明暗差が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のヘッドランプやフォグランプ等に用いられる車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプとして、2枚の薄板構造のシェードを用いて、これらシェードのそれぞれから形成される配光を重ね合わせて、所定の配光パターンを形成するようにしたものが知られている。
【0003】
このヘッドランプは、投影レンズとリフレクタとの間に、前,後2枚の薄板構造のシェードを所要の間隔をおいて配置し、各シェード上端の明暗境界形成部によって上縁にカットオフラインを有するすれ違い用のロービーム配光パターンを形成するものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−172104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前,後2枚のシェードは、各上端の明暗境界形成部を投影レンズの車両前後方向に延びる光軸上に揃えて配置されている。
【0005】
このため、前側シェードの明暗境界形成部で形成されるカットオフラインと、後側シェードの明暗境界形成部で形成されるカットオフラインとが配光パターン上にほぼ重なって現出される。
【0006】
この結果、配光パターンのカットオフラインが鮮明になり、該カットオフライン近傍の明暗差が顕著となる。これにより、運転者にとっては、配光パターンのカットオフラインの上方側では光量が急激に低下してしまい、前方の視認性が悪化してしまう。
【0007】
そこで、本発明はすれ違い用のロービーム配光パターンにおけるカットオフラインを暈して、該カットオフライン近傍の明暗差を緩和することにより、視認性に優れた配光パターンを得ることができる車両用灯具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用灯具にあっては、車両前後方向に延びる光軸を有する投影レンズと、該投影レンズの後方で光軸上に配置された光源と、該光源の周囲を覆って配置され、光源からの光を前記投影レンズ側に反射させるリフレクタと、前記投影レンズとリフレクタとの間に配置され、リフレクタからの反射光の一部を遮断して所定の配光パターンを形成する前,後2枚のシェードと、を備え、
前記2枚のシェードの上端に設けられた明暗境界形成部によって、前記配光パターンのカットオフラインを形成する車両用灯具において、
前記投影レンズ側の前側シェードにおける明暗境界形成部の少なくとも一部は、前記リフレクタ側の後側シェードにおける明暗境界形成部の高さとは異なる高さに形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、投影レンズ側の前側シェードにおける明暗境界形成部の少なくとも一部が、リフレクタ側の後側シェードにおける明暗境界形成部の高さとは異なる高さに形成されているため、この高さが異なる部分では前側シェードによるカットオフライン配光と、後側シェードによるカットオフライン配光とが上下方向にずれる。
【0010】
これにより、上下方向にずれた2つのカットオフライン配光が合成されて、カットオフラインが暈され、カットオフライン近傍の明暗差が緩和されて、視認性に優れた配光パターンが得られる。
【0011】
また、前側シェードと後側シェードとの間に入射した光の一部が、前側シェードに部分的に設けられた反射光取出し部からカットオフライン近傍に追加光として照射されるようにすれば、該追加光によりカットオフラインを暈して、カットオフライン近傍の明暗差を緩和することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を自動車のヘッドランプを例に採って、図面と共に詳述する。
【0013】
図1〜図6は本発明にかかわるヘッドランプの一実施形態を示し、図1はヘッドランプを鉛直断面として光路状態を示す略示的断面説明図、図2は前,後シェードの上側中央部分を示す正面図、図3は前,後シェードの上側中央部分における光路状態を示す斜視図、図4は図2のA−A線に沿う断面図、図5は車両前方に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示す説明図、図6は図5のB−B線における断面照度を示す説明図である。
【0014】
図1に示すように本実施形態のヘッドランプ1は、光源としての放電灯2と、放電灯2の周囲を覆うリフレクタ3と、リフレクタ3からの反射光を車両前方に照射する投影レンズ4と、所定の配光パターンを形成する前,後2枚のシェード5,6と、を備えたプロジェクタ型ランプとして構成され、これが図外のランプハウジングとアウタカバーとで区画された灯室内に配置される。
【0015】
放電灯2は、メタルハイランドランプなどが用いられ、投影レンズ4の車両前後方向に延びる光軸X上に発光部を位置させて、リフレクタ3の後部に図外のソケットを介して取付けられている。
【0016】
リフレクタ3は、略円筒状のホルダ7の後端に固定されている。
【0017】
リフレクタ3の反射面3aは、光軸Xを長軸とする回転楕円面を基本(基準、基調)とする自由曲面に形成されている。
【0018】
そして、前記放電灯2の発光部は、基本となる回転楕円面の略焦点(第1焦点F)に配置されている。
【0019】
これにより、反射面3aは放電灯2からの光を前方へ反射させ、基本となる回転楕円面の第2焦点Fに略収束させる。
【0020】
投影レンズ4は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸レンズが用いられている。
【0021】
この投影レンズ4は、ホルダ7の前端に固定され、その後側焦点位置は前側シェード5と後側シェード6との中間に有り、リフレクタ3の反射面3aの第2焦点Fは、この後側焦点の近傍に有している。
【0022】
前,後2枚のシェード5,6は、リフレクタ3と投影レンズ4との間に配置され、リフレクタ3からの反射光の一部を遮断して図5に示すすれ違い用のロービーム配光パターンPLを形成するものである。
【0023】
本実施形態では、前側シェード5の上下方向の長さがホルダ7の底部に固定した後側シェード6よりも短かく形成され、左右方向に延在した両端部が後側シェード6の両端部に固定されている。
【0024】
前側シェード5と後側シェード6との間には、図4にも示すように所要の隙間Sが設けられている。
【0025】
これら前側シェード5と後側シェード6の上端は前記光軸Xの近傍に配置されて左右方向に水平に延びている。
【0026】
前側シェード5および後側シェード6の各上端には、前記配光パターンPLのカットオフラインCLを形成する明暗境界形成部5A,6Aが形成されている。
【0027】
本実施形態では、図2〜図4に示すように明暗境界形成部5A,6Aは、何れも正面視(投影レンズ4からシェード5,6を見て)して中央の傾斜エッジ5A,6Aを境に、右側エッジ5A,6Aが高く、左側エッジ5A,6Aが低くなった段差のある形状に形成されている。
【0028】
これにより、図5に示すように対向車線側が低く、自車線側が高い段付きのカットオフラインCLを有するすれ違い用のロービーム配光パターンPLが得られるようになっている。
【0029】
ここで、前記前側シェード5の右側エッジ5Aは、後側シェード6の右側エッジ6Aよりも高さが高く形成されている。
【0030】
これにより、図1に示すように前側シェード5の右側エッジ5Aによるカットオフライン配光Lが、後側シェード6の右側エッジ6Aによるカットオフライン配光Lよりも下方側にずれるようになっている。
【0031】
また、前側シェード5と後側シェード6との相互に対向する内側面には、反射面8,9がそれぞれ形成されている。これらの反射面8,9は前,後シェード5,6の素材、例えばアルミや樹脂などの生地のままでも良い。
【0032】
一方、前側シェード5には、後側シェード6の明暗境界形成部6Aよりも高さが低い位置に反射光取出し部10が部分的に形成されている。
【0033】
図2〜図4に示す例では、前側シェード5の左側エッジ5Aを、後側シェード6の左側エッジ6Aよりも高さを低く形成することにより、この左側エッジ5Aの部分を反射光取出し部10としている。
【0034】
以上の構成よりなる本実施形態のヘッドランプ1によれば、放電灯2を点灯するとその光は図1に示すようにリフレクタ3の反射面3aにより反射される。
【0035】
この反射光は、リフレクタ3の第2焦点Fにほぼ収束され、投影レンズ4を透過して車両前方に照射される。
【0036】
その際、リフレクタ3からの反射光の一部は、後側シェード6と前側シェード5とにより遮断され、後側シェード6の明暗境界形成部6Aによりカットオフライン配光Lが、また、前側シェード5の明暗境界形成部5Aによりカットオフライン配光Lが形成される。
【0037】
この前側シェード5により形成されるカットオフライン配光Lと、後側シェード6により形成されるカットオフライン配光Lとが合成され、車両前方に図5に示すように、上縁にカットオフラインCLを有するすれ違い用のロービーム配光パターンPLが形成される。
【0038】
このとき、前側シェード5の明暗境界形成部5Aと、後側シェード6の明暗境界形成部6Aとの正面視して右側の部分では、前側シェード5の右側エッジ5Aが後側シェード6の右側エッジ6Aよりも高く形成されている。
【0039】
このため、図1に示すようにリフレクタ3の下側から後側シェード6の右側エッジ6Aに向けて、第2焦点Fよりも後側で、光軸Xを含む平面と交差する反射光で形成されるカットオフライン配光Lに対して、リフレクタ3の上側から前側シェード5の右側エッジ5Aに向けて、第2焦点Fよりも前側で、光軸Xを含む平面と交差する反射光で形成されるカットオフライン配光Lが下方側にずれるようになる。
【0040】
これにより、上下方向にずれた2つのカットオフライン配光L,Lが合成されて、図5に示す配光パターンPLにおける対向車線側に、カットオフラインCLが暈されて明暗差が緩和された領域CLaが形成される。
【0041】
一方、前側シェード5と後側シェード6との間には、図3,図4に示すようにリフレクタ3の上方からの反射光の一部が、第2焦点Fに向けて入射する。
【0042】
この入射した反射光は、前側シェード5と後側シェード6との対向した反射面8,9で反射しながら下方に進む。
【0043】
ここで、前側シェード5の明暗境界形成部5Aにおける左側エッジ5Aは、後側シェード6の明暗境界形成部6Aにおける左側エッジ6Aよりも高さを低くして反射光取出し部10を形成しているため、後側シェード6の反射面9で反射した光の一部は、該反射光取出し部10から投影レンズ4に入射される。
【0044】
これにより、配光パターンPLのカットオフラインCLにおける自車線側では、該カットオフラインCLに、反射光取出し部10から取出される反射光が追加光Lとして照射される。
【0045】
この結果、配光パターンPLのカットオフラインCLにおける自車線側では、この追加光LによりカットオフラインCLが暈されて明暗差が緩和された領域CLbが形成される。
【0046】
具体的には、カットオフラインCLは照度の勾配位置で判定されるが、追加光Lによる明暗差緩和領域CLbでは図6に示すように、追加光Lによって照度勾配はαとなり、追加光Lが無いときの照度勾配αよりも勾配が緩やかとなっている。
【0047】
また、後側シェード6の反射面9、または前側シェード5の反射面8、あるいは両方の反射面8,9に表面処理や塗装等を施して反射率を調整し、照度勾配αを調整することによりカットオフラインCLのシャープさを任意に、かつ、容易に制御することができる。
【0048】
このように本実施形態のヘッドランプ1によれば、配光パターンPLのカットオフラインCLにおける対向車線側では、前側シェード5と後側シェード6の各明暗境界形成部5A,6Aの高さを異ならせて、これら明暗境界形成部5A,6Aで形成される2つのカットオフラインCLを上下方向にずらすことにより明暗差緩和領域CLaが形成される。他方、自車線側では、後側シェード6の明暗境界形成部6Aで形成されるカットオフラインCLに追加光Lを重ねることにより明暗差緩和領域CLbが形成される。
【0049】
この結果、対向車線側と自車線側とでカットオフラインCLが暈されて、運転者にとっては、配光パターンのカットオフライン上方側で光量が急激に低下する不具合が生じることがなく、前方視認性に優れた配光パターンPLを形成することができる。
【0050】
特に、追加光Lにより明暗差緩和領域CLbを形成する場合、前,後シェード5,6の反射面8,9の反射率を表面処理等により調整して照度勾配を制御することにより、カットオフラインCLのシャープさを任意に、かつ、容易に制御することができる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、前,後シェード5,6の明暗境界形成部5A,6Aにそれぞれ左右段差が無いものにも適用することができる。
【0052】
この場合、図示は省略したが、前側シェード5の明暗境界形成部の近傍に、部分的に開窓部を設けて反射光取出し部10を形成することにより、追加光LによりカットオフラインCLが暈された明暗差緩和領域CLbを得ることができる。
【0053】
また、前側シェード5の明暗境界形成部5Aの全体が、後側シェード6の明暗境界形成部6Aよりも高さが高く形成されたものでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に関わるヘッドランプの鉛直断面における光路状態を示す略示的断面説明図。
【図2】前,後シェードの上側中央部分を示す正面図。
【図3】前,後シェードの上側中央部分における光路状態を示す斜視図。
【図4】図2のA−A線に沿う断面図。
【図5】車両前方に配置した仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示す説明図。
【図6】図5のB−B線における断面照度を示す説明図。
【符号の説明】
【0055】
1 ヘッドランプ(車両用灯具)
2 光源
3 リフレクタ
4 投影レンズ
5 前側シェード
5A 明暗境界形成部
6 後側シェード
6A 明暗境界形成部
8 前側シェードの反射面
9 後側シェードの反射面
10 反射光取出し部
PL 配光パターン
CL カットオフライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる光軸を有する投影レンズと、該投影レンズの後方で光軸上に配置された光源と、該光源の周囲を覆って配置され、光源からの光を前記投影レンズ側に反射させるリフレクタと、前記投影レンズとリフレクタとの間に配置され、リフレクタからの反射光の一部を遮断して所定の配光パターンを形成する前,後2枚のシェードと、を備え、
前記2枚のシェードの上端に設けられた明暗境界形成部によって、前記配光パターンのカットオフラインを形成する車両用灯具において、
前記投影レンズ側の前側シェードにおける明暗境界形成部の少なくとも一部は、前記リフレクタ側の後側シェードにおける明暗境界形成部の高さとは異なる高さに形成されていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前側シェードと後側シェードとの相互に対向する内側面には、反射面がそれぞれ形成され、
前側シェードには部分的に、反射光取出し部が形成され、
前記リフレクタからの反射光の一部で、前,後シェードの明暗境界形成部間に入射した光を、前記対向した反射面相互で反射させ、後側シェードの反射面で反射した光が前記反射光取出し部から、前記配光パターンのカットオフライン近傍に照射されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前側シェードの明暗境界形成部が部分的に、後側シェードの境界形成部よりも低く形成されて、反射光取出し部とされていることを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−187722(P2009−187722A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24720(P2008−24720)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】