説明

車両用点検孔蓋構造

【課題】 蓋部材の剛性を高めることができる車両用点検孔蓋構造を提供する。
【解決手段】 ボルト締結位置Aの径方向内側aに位置する環状部7の径方向外側側面11を、環状部7の頂部9からホールカバー3の外周縁8cまで径方向外側へ向かって延びる直線形状部13とし、フロアパネル1に直線形状部13の裏面13aと当接するボルト締結部14を形成し、直線形状部13とボルト締結部14との当接位置をボルト締結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロアパネルに形成した点検孔を塞ぐ車両用点検孔蓋構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、点検孔を塞ぐ蓋部材に下方が開口した断面コ字状の環状部を形成し、この環状部にシール部材を嵌め込んだ状態で蓋部材をフロアパネルとボルト締結することにより、蓋部材取り付け時におけるシール部材の位置決めを容易化する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−254829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、環状部はシール部材の内外周に沿って略垂直方向に立ち上がる2つの側面を有するため、蓋部材の中央に下向きの外力が作用したとき、両側面の立ち上がり部分である角部が伸び変形することで蓋部材が点検孔の下方へ大きく変形し、剛性に劣るという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、蓋部材の剛性を高めることができる車両用点検孔蓋構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、蓋部材とフロアパネルとの締結位置の径方向内側に位置する環状部の径方向外側側面を、環状部の頂部から蓋部材の外周縁まで径方向外側へ向かって延びる直線形状部とし、フロアパネルに直線形状部の裏面と当接する締結部を形成し、直線形状部と締結部との当接位置を締結した。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、環状部の径方向外側側面を直線形状部として、径方向外側側面の立ち上がり部分を無くしたため、蓋部材の径方向変形量を小さく抑えて剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両用点検孔蓋構造を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、実施例1の構成を説明する。
図1は実施例1の車両用点検孔蓋構造を示す斜視図、図2は実施例1のインスペクションホール(点検孔)周囲のフロアパネルの形状を示す斜視図、図3は中央部分を省略した図1のS1-S1断面図であり、実施例1の車両用点検孔蓋構造は、例えば、ワンボックスカー等のキャブオーバー型車両のインスペクションホールに適用している。
【0009】
図1〜図3に示すように、実施例1の車両用点検孔蓋構造は、フロアパネル1と、インスペクションホール2と、ホールカバー(蓋部材)3と、シール(シール部材)4と、ボルト5とを主要な構成としている。
【0010】
インスペクションホール2は、フロアパネル1の下方に配置した図外の燃料タンク等をフロア側から整備・点検するために、フロアパネル1に空けた作業用開口であって、サービスホールとも称される。このインスペクションホール2は、フロアパネル1の裏面1a側にバーリング加工を施した平面視円形状の開口縁2aを有している。フロアパネル1の表面1b側であって、インスペクションホール2の周縁には、平坦な座面部1cを形成している。
【0011】
ホールカバー3は、インスペクションホール2を塞ぐ金属製の蓋である。このホールカバー3は、インスペクションホール2を覆う中央リッド部6と、この中央リッド部6の径方向外側に位置する環状部7と、この環状部7の径方向外側に位置する周縁部8とを有する。
【0012】
中央リッド部6は、インスペクションホール2の開口縁2aよりも僅かに大きな円形状に形成し、中央リッド部6の裏面6aは、フロアパネル1の座面部1cと面接触している。中央リッド部6には、その中心から3つのボルト締結位置Aの方向へとそれぞれ延在し、中央リッド部6の表面6b側に突出した略三葉状のエンボス部6cを形成している。このエンボス部6cは、ホールカバー3の剛性を高めるためのものである。
【0013】
環状部7は、ホールカバー3をフロアパネル1に取り付ける際、シール4をあらかじめ環状部7の裏面7a側に嵌め込んでおくことで、シール4の位置決めを容易化すると共に、取り付け後は、シール4の位置ズレを抑えるためのものである。シール4は、フロアパネル1の座面部1cとホールカバー3の裏面6aとの間をシールするためのもので、ゴム等の弾性素材を用いて平面視円形の環状に形成している。
【0014】
環状部7は、頂部9、径方向内側側面10および径方向外側側面11を有して上方へ凸、すなわち環状部7の表面7b側が凸となるフロアパネル1の座面部1c側に開口した断面コ字状に形成している。頂部9はシール4の上方に位置し、シール4の表面4aと接している。径方向内側側面10は、中央リッド部6から略垂直方向へ立ち上がり、頂部9と一体に接続している。この径方向内側側面10は、シール4の内周面4bと接している。径方向外側側面11は、ホールカバー3の周縁部8から略垂直方向へ立ち上がり、頂部9と一体に接続している。この径方向外側側面11は、シール4の外周面4cと接している。
【0015】
ホールカバー3において、ホールカバー3をフロアパネル1に固定する箇所であるボルト締結位置Aの径方向内側aに位置する部分には、頂部9から一体にホールカバー3の外周縁8cまで延び、径方向外側bへ向かって下方に傾斜する直線形状部13を形成している。この直線形状部13のボルト締結位置Aには、ボルト5を挿入するボルト穴13cを形成している。直線形状部13は、その周方向両側に、外周縁8cに向かって高さが低くなって行く、側面略直角三角形状の左側面13d,右側面13eを形成し、周方向cの断面(図3のS2-S2断面)で見て、下方が開口した断面コ字状に形成している(図4参照)。
【0016】
このホールカバー3の外周縁8cまで延在した直線形状部13と対応して、直線形状部13の裏面13a下におけるフロアパネル1の座面部1cには、直線形状部13の裏面13aに当接するように座面部1cから突出したボルト締結部14を形成している。このボルト締結部14は、インスペクションホール2の周方向cに対して所定幅を有するボルト締結面14aと、フロアパネル1の座面部1cから立ち上がってボルト締結面14aに一体に接続するように形成され、径方向内側aに形成される径方向内側面14bと、直線形状部13の左側面13d、右側面13eに沿って側面略直角三角形状をした周方向c両側に形成される左側面14c,右側面14dとを有している(図4参照)。
ボルト締結面14aは、直線形状部13の裏面13aと当接すると共に、ホールカバー3のボルト穴13cと対応する位置にボルト5と螺合する雌ねじ部14eを形成する溶接ナットを溶着している(図3,図4参照)。
【0017】
図4に示すように、ホールカバー3をフロアパネル1に取り付けたとき、直線形状部13は、ボルト締結部14に嵌り込むように設定している。ボルト締結位置Aでは、直線形状部13がホールカバー3の環状部7の頂部9から下方のホールカバー3の外周縁8cに向かって直線状に傾斜する面を形成し、この傾斜する面にボルト5のボルト頭5aの下面が密着(図4参照)する。直線形状部13と同様に、径方向内側面14b上端から直線状に傾斜する面を形成している。
【0018】
インスペクションホール2のボルト締結面14aの上面がホールカバー3の直線形状部13の裏面13aと密着する。そして、ボルト5が、直線形状部13とボルト締結面14aの傾斜面と直交して直線形状部13とボルト締結面14aとを締結して、ホールカバー3をフロアパネル1に取り付けている。
周縁部8は、直線形状部13を除く部分でホールカバー3の外周を構成し、その裏面8aはフロアパネル1の座面部1cと面接触している。
【0019】
次に、作用を説明する。
従来の点検孔蓋構造では、図5に示すように、環状部をシールの上面を覆う頂部とシールの内外周に沿って略直角方向に立ち上がる内側側面と外側側面の2つの側面(破線)とから構成している。そして、乗員がホールカバーの中央部分を踏んだ場合など、ホールカバーの中央に下向きの外力が作用した場合、当該外力の入力点とボルト締結位置との間には、ホールカバー3を径方向内側へと引っ張る力が発生する。このとき、環状部の両側面の立ち上がり部分を構成する角部が径方向へ伸び変形することで、ホールカバーがインスペクションホールの下方に大きく変形するため、剛性に劣るという問題があった。
【0020】
これに対し、実施例1の点検孔蓋構造では、ホールカバー3のフロアパネル1とボルト締結位置Aの径方向内側aに位置する環状部7の径方向外側側面11を、環状部7の頂部9からホールカバー3の外周縁8cまで径方向外側へ向かって延びる直線形状部13とし、フロアパネル1に直線形状部13の裏面13aと当接するボルト締結部14を形成し、直線形状部13とボルト締結部14との当接位置をボルト締結した。
【0021】
つまり、径方向への伸び代となる角部を径方向内側側面10と中央リッド部6との角部のみとしたため、図6に示すように、ホールカバー3の下向きの外力が作用したときの伸び代が小さく、変形を抑えることができる。このため、実施例1では、従来の点検孔蓋構造に対して、ホールカバー3への負荷荷重に対する径方向の変位量を小さくでき、剛性を高めることができる(図7)。
【0022】
なお、環状部7の径方向内側側面10および径方向外側側面11の直線形状部13を除く部分の形状は、従来同様、シール4と密着する形状であるため、フロアパネル1とホールカバー3との間のシール性は確保される。
すなわち、実施例1では、ホールカバー3の剛性向上とシール性の確保との両立を図ることができる。
【0023】
また、実施例1では、フロアパネル1側の凸形状(ボルト締結部14)と、ホールカバー3側の凸形状(直線形状部13、両側面部13d,13e)とを嵌合させることでホールカバー3を位置決めできる。つまり、ホールカバー3とフロアパネル1とが嵌め合い構造であるため、ホールカバー3をフロアパネル1に取り付ける際、ホールカバー3の位置決めを正確かつ容易に行うことができる。
【0024】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用点検孔蓋構造にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0025】
(1) ボルト締結位置Aの径方向内側aに位置する環状部7の径方向外側側面11を、環状部7の頂部9からホールカバー3の外周縁8cまで径方向外側へ向かって延びる直線形状部13とし、フロアパネル1に直線形状部13の裏面13aと当接するボルト締結部14を形成し、直線形状部13とボルト締結部14との当接位置をボルト締結した。これにより、ホールカバー3の剛性を高めることができ、ホールカバー3をより薄く形成できるため、軽量化およびコストダウンが可能となる。
【0026】
(2) 直線形状部13のインスペクションホール2周方向c両側に側面13d,13eを形成し、両側面13d,13eと直線形状部13とからボルト締結部14と嵌合する凸形状を構成した。これにより、ホールカバー3をフロアパネル1に取り付ける際の作業性を向上させることができる。
【実施例2】
【0027】
実施例2では、ホールカバーの直線形状部およびフロアパネルのボルト締結部の形状を実施例1と異ならせた例である。
【0028】
図8は実施例2の車両用点検孔蓋構造を示す要部斜視図、図9は実施例2のインスペクションホール(点検孔)周囲のフロアパネルの形状を示す斜視図、図10は実施例2の車両用点検孔蓋構造を示す縦断面図である。
【0029】
実施例2の直線形状部20は、ホールカバー3の頂部9から一体にホールカバー3の径方向外側へ向かって水平に延びている。この直線形状部20のボルト締結位置Aには、ボルト5を挿入するボルト孔20cを形成している。直線形状部20は、その周方向c両側に、側面視略矩形状の左側面部20d,右側面部20eを形成し、周方向cの断面で見て、下方が開口した断面コ字状に形成している。
【0030】
この直線形状部20と対応して、直線形状部20の裏面20a下におけるフロアパネル1の座面部1cには、直線形状部20の裏面20aに当接するように座面部1cから突出したボルト締結部21を形成している。このボルト締結部21は、インスペクションホール2の周方向cに対して所定幅を有するボルト締結面21aと、フロアパネル1の座面部1cから立ち上がってボルト締結面21aに一体に接続するように形成され、径方向内側aに形成される径方向内側面21bと、直線形状部20の左側面21d、右側面21eに沿って側面視略矩形状をした周方向c両側に形成される左側面21c、右側面21dとを有している(図9参照)。
ボルト締結部21は、直線形状部20の路面20aと当接すると共に、ホールカバー3のボルト穴20cと対応する位置にボルト5と螺合する雄ねじ部21eを形成する溶接ナットを溶着している(図9,10参照)。
【0031】
ここで、実施例1の直線形状部13およびボルト締結面14aは、径方向外側bへ向かって下方へ傾斜した形状であるのに対し、実施例2の直線形状部20およびボルト締結面21aは、地面と水平、すなわちフロアパネル1と平行に形成し、ボルト締結面21aの高さを、フロアパネル1と同一に設定している。
【0032】
以上のように構成した実施例2の車両用点検孔蓋構造にあっては、実施例1の効果(1),(2)と同様の効果を得ることができる。
また、実施例2では、直線形状部20およびボルト締結部21を側面視矩形状に形成したため、ボルト締結部14を側面視略三角形状に形成した実施例1に対し、ボルト締結部21を容易に形成できる。
【0033】
(他の実施例)
以上、本発明の車両用点検孔蓋構造を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の車両用点検孔蓋構造を示す斜視図である。
【図2】実施例1のインスペクションホール周囲のフロアパネルの形状を示す斜視図である。
【図3】中央部分を省略した図1のS1-S1断面図である。
【図4】図3のS2-S2断面図である。
【図5】従来の点検孔蓋構造において、ホールカバーの中央に外力が作用したときの状態を示す縦断面図である。
【図6】実施例1の車両用点検孔蓋構造において、ホールカバーの中央に外力が作用したときの状態を示す縦断面図である。
【図7】実施例1の剛性向上作用を示す負荷荷重に対する変位量の特性図である。
【図8】実施例2の車両用点検孔蓋構造を示す要部斜視図である。
【図9】実施例2のインスペクションホール(点検孔)周囲のフロアパネルの形状を示す斜視図である。
【図10】実施例2の車両用点検孔蓋構造を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 フロアパネル
1a 裏面
1b 表面
1c 座面部
2 インスペクションホール(点検孔)
2a 開口縁
3 ホールカバー(蓋部材)
4 シール(シール部材)
4a 表面
4b 内周面
4c 外周面
5 ボルト
6 中央リッド部
6a 裏面
6b 表面
6c エンボス部
7 環状部
7a 裏面
7b 表面
8 周縁部
8a 裏面
8c 外周縁
9 頂部
10 径方向内側側面
11 径方向外側側面
13a 裏面
13c ボルト穴
13d 左側面
13e 右側面
13 直線形状部
14 ボルト締結部
14a ボルト締結面
14b 径方向内側面
14c 左側面
14d 右側面
14e 雌ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルに形成した点検孔を塞ぐ蓋部材に、下方が開口し上方へ凸となる断面コ字状の環状部を形成し、この環状部の裏面側に前記点検孔の周縁と前記蓋部材との間をシールするシール部材を嵌め込み、前記環状部よりも径方向外側で前記蓋部材と前記フロアパネルとを締結した車両用点検孔蓋構造であって、
締結位置の径方向内側に位置する前記環状部の径方向外側側面を、前記環状部の頂部から前記蓋部材の外周縁まで径方向外側へ向かって延びる直線形状部とし、
前記フロアパネルに前記直線形状部の裏面と当接する締結部を形成し、
前記直線形状部と前記締結部との当接位置を締結したことを特徴とする車両用点検孔蓋構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用点検孔蓋構造において、
前記直線形状部の前記点検孔周方向両側に側面を形成し、両側面と前記直線形状部とから前記締結部と嵌合する凸形状を構成したことを特徴とする車両用点検孔蓋構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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