説明

車両用照明装置

【課題】車両周辺の交通環境の物体に対する運転者の視認性を向上させることができる車両用照明装置を提供する。
【解決手段】車両周辺検出部2は、車両周辺における交通環境の物体である歩行者、自転車、対向車、前方走行車、標識、標示、信号機を検出する。車両動作検出部3は、自車両の速度、ステアリングの舵角、車両の傾き(角速度センサ)情報を取得する。照明部4は、自車両の周辺、及び自車両の前方を光照射する。色推定部15は、車両周辺検出部2で検出した交通環境の物体の色を推定する。光調色部13は、交通環境の物体の色に応じて、光の色温度K(ケルビン)、輝度、照度のいずれか、または全てを変更する。光照射範囲制御部14は、車両動作検出部3で取得した車速、舵角、傾き、及び交通環境の物体との位置を基に、調色した光の照射範囲を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用照明装置に関するものであり、車両周辺における交通環境の物体を検出して、交通環境の物体の色に応じて調色した光を照射することで運転者の視認性を向上することを可能に構成された車両用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、夜間等に運転者前方の視認性を向上させるために、ヘッドライト等の車両用照明装置が備えられている。従来の車両用照明装置としては、例えば特許文献1および特許文献2に記載されているようなものがあった。
【0003】
特許文献1に記載された車両用前照灯光軸方向自動調整装置は、車両の前方道路にある物体が静止しているか動いているかで、前照灯の照射範囲を現状維持、拡大と変更するものである。図8は、特許文献1に記載された車両用前照灯光軸方向自動調整装置の概略構成を示す。この車両用前照灯光軸方向自動調整装置は、障害物を検出するための赤外線カメラ51と、車速を検出するための車速センサ52と、車両の方向を検出するための操舵角センサ53と、前方に動いている障害物が有る場合にその障害物へ光照射を行い、静止した障害物が有る場合に現状のままの光照射を行うように制御する制御部54と、制御部54からの信号に応じて光照射を行う照明部55とを有する。特許文献1に記載された車両用前照灯光軸方向自動調整装置によれば、車両の前方道路にある障害物と車両の車速に応じて、前照灯の照射範囲を拡大できるため、運転者の前方視認性を向上できる。
【0004】
また特許文献2には、道路面の再帰反射率に応じて車両用照明装置における光の色、照射方向、照射範囲を変更するものが記載されている。図9は、晴天時と雨天時の再帰反射機能の説明図である。図9(a)に示すように、晴天時は、ヘッドライト光61が路面64上の塗膜63に含まれるガラスビーズ62で再帰反射されるため、塗膜63(ライン)がよく見える。一方、雨天時は、図9(b)に示すように、塗膜63上が水膜65で覆われてガラスビーズ62のレンズ作用を失うため、ヘッドライト光61が散乱して塗膜63(ライン)が見えにくくなる。特許文献2に記載された車両用前照灯装置によれば、図9(b)に示した雨天時など、路面の再帰反射率が低下する場合であっても、路面に係る視認性を向上できる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−72461号公報
【特許文献2】特開平7−144577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、運転者の視認性は、車両周辺の交通環境の物体の色からも影響を受けている。例えば、黄色を視認する場合に道路標識の黄色と道路標示の黄色では色の種類が異なるために、運転者の視認性が異なる。従って、運転者の視認性を確保するためには、照射範囲の拡大、及び路面の再帰反射率に応じた光制御では不十分である。
【0007】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、車両周辺の交通環境の物体に対する運転者の視認性を向上させることができる車両用照明装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用照明装置は、自車両周辺における交通環境の物体を検出する車両周辺検出部と、前記車両周辺検出部で検出した交通環境の物体の色を推定する色推定部と、前記色推定部で推定した物体の色を基に光を調色する光調色部と、前記光調色部で調色した光を照射する照明部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検出した交通環境の物体の色を推定し、推定した物体の色を基に光を調色した光を照射することにより、交通環境の物体を目立たせるように光照射することができるため、運転者の視認性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(車両用照明装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施形態における車両用照明装置1の概略構成を表すブロック図である。車両用照明装置1は、四輪車、二輪車等の人が乗車して移動する乗り物に搭載される。車両用照明装置1は、車両周辺検出部2、車両動作検出部3、照明部4、照明制御部10を備える。
【0012】
車両周辺検出部2は、車両周辺における交通環境の物体である歩行者、自転車、対向車、前方走行車、標識、標示、信号機等を検出する。例えば、車両周辺検出部2は、イメージセンサにより構成され、画像を取得する。また、車両周辺検出部2は、イメージセンサと同様の画像を取得可能であれば、レーダー、レーザー等で実現してもよい。
【0013】
車両動作検出部3は、自車両の速度、ステアリングの舵角、車両の傾き(角速度センサ)情報を取得する。照明部4は、自車両の周辺、及び自車両の前方を光照射する。光源は、ハロゲン、LED(Light Emitting Diode)、有機EL(Electro Luminescence)等で実現してよく、特定箇所かつ特定箇所のみ調色した光を照射することが可能であれば実現手段は問わない。照明部4の具体的構成例は、後述する。
【0014】
照明制御部10は、交通環境の物体の形状を基に調色した光を照射するよう制御するものであり、色推定部15、光調色部13、光照射範囲制御部14を備える。
【0015】
色推定部15は、車両周辺検出部2で検出した交通環境の物体の色を推定する。具体的には、色推定部15は、車両周辺検出部2から出力された画像から、交通環境の物体の位置毎に各物体の色を推定する。光調色部13は、色推定部15で推定した交通環境の物体の色に応じて、光の色温度K(ケルビン)、輝度、照度のいずれか、または全てを変更する。光照射範囲制御部14は、車両動作検出部3で取得した車速、舵角、傾き、及び交通環境の物体との位置を基に、調色した光の照射範囲を制御する。
【0016】
(車両用照明装置の動作概要)
図2は、本実施形態の車両用照明装置1の動作概要を説明するための概要図である。自車両24に搭載された車両用照明装置1が、夜間において、道路標識21を含む前方に対して光を照射する例を示す。自車両24に搭載された車両用照明装置1は、通常、ヘッドライト配光領域23に対して光照射を行っている。車両用照明装置1は、車両周辺検出部2で交通環境の物体(標識)21を検出すると、色推定部15で物体21の色を推定する。そして、光調色部13で物体21の色に応じて光を調色し、光照射範囲制御部14で車両動作検出部3の出力を参照して照射範囲22を決定し、照明部4が交通環境の物体21に対して調色した光を照射する。すなわち、車両用照明装置1は、ヘッドライト配光領域23のうち、交通環境の物体21を含む領域(調色した配光領域)22に対しては調色した光を照射する。
【0017】
このように本実施形態の車両用照明装置1によれば、交通環境の物体21を検出した場合、物体21の色に応じて光を調色して、交通環境の物体21に対して調色した光を照射するので、物体21が最も目立つように照射することができる。
【0018】
(照明部の具体的構成例及び照射例)
図3は、本実施形態の車両用照明装置1における照明部4の具体的構成例を示す。照明部4は、面発光可能なLED前照灯を用いており、LEDは素子毎に調色制御が可能である。本実施形態では、左右のLED前照灯をそれぞれ6つの領域に分割して、それぞれの領域毎に調色光およびその照射範囲を制御している。
【0019】
図4は、本実施形態の車両用照明装置1における前照灯と調色光照射範囲の例を示す。左の前照灯は、(1)左・上部領域、(2)中央・上部領域、(3)左・中央領域、(4)中央・中央領域、(5)左・路面領域および(6)中央・路面領域に分割制御され、車両前方の(1)〜(6)の領域を照射する。
【0020】
また、右の前照灯は、同様に、(7)中央・上部領域、(8)右・上部領域、(9)中央・中央領域、(10)右・中央領域、(11)中央・路面領域および(12)右・路面領域に分割制御され、車両前方の(7)〜(12)の領域を照射する。
【0021】
図5は、本実施形態の車両用照明装置1における調色光照射範囲と色の例を示す。図5において、車両の前方には、自転車、歩行者、標識、対向車両といった交通環境の物体が存在する。そこで、車両用照明装置1は、交通環境の物体の色に応じて、例えば、(1)左・上部領域、(2)中央・上部領域、(3)左・中央領域、(4)中央・中央領域、(7)中央・上部領域、(8)右・上部領域、(9)中央・中央領域および(10)右・中央領域を白色とし、(5)左・路面領域、(6)中央・路面領域、(11)中央・路面領域および(12)右・路面領域を青白色として調色した光を照射する。
【0022】
このように本実施形態の車両用照明装置1によれば、検出した交通環境の物体の色を推定し、推定した物体の色を基に光を調色し、調色した光の照射範囲を制御し、自車両から交通環境の物体に調色した光を照射するので、夜間等において、車両周辺の交通環境の物体に対する運転者の視認性を向上させることができ、障害物を早期に発見することができる。
【0023】
図6は、本発明の第2の実施形態における車両用照明装置1の概略構成を表すブロック図である。図1に示した車両用照明装置1とは、照明制御部10の構成が異なる。本実施形態の車両用照明装置1は、照明制御部10が、物体形状抽出部11、物体色判定部12、光調色部13、光照射範囲制御部14で構成される。すなわち、図6に示される物体形状抽出部11及び物体色判定部12は、図1に示される色推定部15に相当し、車両周辺検出部2で検出した交通環境の物体の色を推定するものである。
【0024】
物体形状抽出部11は、車両周辺検出部2のイメージセンサで取得した画像から物体の形状を抽出する。物体色判定部12は、取得した物体の形状を基に物体の色を判定する。具体的には、物体色判定部12は、物体形状抽出部11で検出した物体の種別に応じて、例えば標識の場合は形状と色との対応、歩行者の場合は日時・場所と色との対応を記憶したテーブルに基づいて物体色を判定する。なお、形状が同じもの(例えば丸)でも、青色の標識(例えば“歩行者専用”)と赤色の標識(例えば“進入禁止”)が存在する場合があるが、この場合は、物体の模様からいずれの色かを判定する。
【0025】
光調色部13は、交通環境の物体の色に応じて、光の色温度K(ケルビン)、輝度、照度のいずれか、または全てを変更する。光照射範囲制御部14は、車両動作検出部3で取得した車速、舵角、傾き、及び交通環境の物体との位置を基に、調色した光の照射範囲を制御する。
【0026】
(車両照明制御部の動作フローチャート)
図7は、本実施形態の車両用照明装置1における照明制御部10の動作概要を説明するためのフローチャートである。以下、交通環境の物体が道路標識である場合を例に照明制御部10の動作概要を説明する。車両周辺検出部2は、車両周辺における交通環境の物体の画像を取得する(S301)。物体形状抽出部11は、取得した物体の画像を基に、物体の形状を取得し判定する(S302)。
【0027】
道路標識は、規制標識、警戒標識および指示標識を含み、それぞれ形状が異なっている。また、標識の種類によって、その色が異なっている。物体色判定部12は、標識の形状が丸、下三角形の場合は、規制標識であり物体の色は赤色と判定し(S303)。標識の形状がひし形の場合は、警戒標識であり物体の色は黄色と判定し(S304)。標識の形状が四角形の場合は、指示標識であり物体の色は青色と判定する(S305)。このように物体色判定部12は、例えば標識の場合は形状と色との対応、歩行者の場合は日時・場所と色との対応を記憶したテーブルに基づいて物体色を判定することができる。また、物体色判定部12は、例えば車両の形状と色とを対応付けておき、車両がスポーツカーの場合は赤色と判定してもよい。
【0028】
次に、光調色部13及び照明部4は、物体が赤色の場合は、通常の照射時の光、すなわち物体の周囲に照射される光よりも、やや色温度が低い演色性の良い高輝度光源で照射することで、物体の赤色が鮮明に見え運転者の視認性が向上する(S306)。また、物体が黄色の場合は、物体の周囲よりやや色温度が低い演色性の良い高輝度光源で照射することで、物体の黄色が鮮明に見え運転者の視認性が向上する(S307)。物体が青色の場合は、周囲よりやや色温度が高い演色性の良い高輝度光源で照射することで、物体の青色が鮮明に見え運転者の視認性が向上する(S308)。これは、周囲よりやや色温度が低い演色性の良い高輝度光源で照明すると、物体色の赤、黄色が鮮明に見えるためである。
【0029】
そして、光照射範囲制御部14は、自車両の車速、舵角、傾き、および交通環境の物体位置を基に、光照射範囲を制御する(S309)。自車両の速度が速い場合は、交通環境の物体に対して速く光の照射範囲を移動させる。反対に自車両の速度が遅い場合は、交通環境の物体に対してゆっくりと光の照射範囲を移動させる。
【0030】
このように本実施形態の車両用照明装置1によれば、検出した物体を基に物体の形状を抽出し、抽出した物体の形状を基に物体の色を判定するので、夜間の降雨時など物体の色を直接検出することが困難な場合でも、交通環境の物体の色に応じて調色した光の照射を行うことが可能となる。
【0031】
以上、交通環境の物体が道路交通標識である場合を例に説明したが、本発明では、歩行者、自転車、二輪車、車両、道路標示、信号機も対象とする。歩行者の場合は、歩行者全体、ガードレール等による一部隠れた歩行者を対象とする。自転車、二輪車の場合は、自転車、二輪車を運転する歩行者全体、ガードレール等による一部隠れた自転車、二輪車を運転する歩行者も対象とする。車両の場合は、普通乗用車、スポーツカー、ワゴン、大型車等の四輪車を対象とする。道路標示の場合は、車両通行帯、追い越し車線、横断歩道等を対象とする。
【0032】
なお、物体の色は、日時、場所から判定することも可能である。例えば、物体の形状、及び車両周辺検出部2で取得した画像から物体の色を取得できない場合は、冬であれば歩行者の衣服は黒色を着衣することが多いと判定し、国、地域によって好む衣服の色が異なることを基に、歩行者の衣服の色を判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、車両周辺の交通環境の物体に対する運転者の視認性を向上させることができる効果を有し、車両用照明装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置の概略構成を表すブロック図(1)
【図2】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置1の動作概要を示す図
【図3】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置1における照明部4の具体的構成を示す図
【図4】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置1における前照灯と調色光照射範囲の例を示す図
【図5】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置1における調色光照射範囲と色の例を示す図
【図6】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置の概略構成を表すブロック図(2)
【図7】本発明の実施形態にかかる車両用照明装置1の照明制御部10の動作を説明するためのフローチャート
【図8】従来の車両用前照灯光軸方向自動調整装置の概略構成を示す図
【図9】晴天時と雨天時の再帰反射機能の説明図
【符号の説明】
【0035】
1 車両用照明装置
2 車両周辺検出部
3 車両動作検出部
4,55 照明部
10 照明制御部
11 物体形状抽出部
12 物体色判定部
13 光調色部
14 光照射範囲制御部
15 色推定部
21 交通環境の物体
22 調色した配光領域
23 ヘッドライト配光領域
24 自車両
51 赤外線カメラ
52 車速センサ
52 操舵角センサ
54 制御部
61 ヘッドライト光
62 ガラスビーズ
63 塗膜
64 路面
65 水膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両周辺における交通環境の物体を検出する車両周辺検出部と、
前記車両周辺検出部で検出した交通環境の物体の色を推定する色推定部と、
前記色推定部で推定した物体の色を基に光を調色する光調色部と、
前記光調色部で調色した光を照射する照明部と、を備える車両用照明装置。
【請求項2】
前記色推定部は、前記車両周辺検出部の出力画像から交通環境の物体の色を推定するものを含む請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項3】
前記色推定部は、
前記車両周辺検出部で検出した物体の形状を抽出する物体形状抽出部と、
前記物体形状抽出部で抽出した物体の形状を基に物体の色を判定する物体色判定部と、を有するものを含む請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項4】
自車両の速度、舵角、及び傾きを取得する車両動作検出部と、
前記車両動作検出部で取得した自車両の速度、舵角、傾き、及び自車両と物体との位置を基に、前記光調色部で調色した光の照射範囲を制御する光照射範囲制御部と、を備え、
前記照明部は、前記光調色部で調色した光を、前記光照射範囲制御部で制御される照射範囲に照射するものである請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項5】
前記車両周辺検出部は、自車両の周辺に存在する歩行者、自転車、二輪車、対向車、前方走行車、白線、標識、及び信号機のいずれか、または全てを検出するものである請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項6】
前記色推定部は、日時及び場所のいずれか、または全てを用いて、交通環境の物体の色を推定するものを含む請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項7】
前記光調色部は、色温度、輝度、及び照度のいずれか、または全てを制御するものである請求項1に記載の車両用照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−107543(P2009−107543A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283824(P2007−283824)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】