説明

車両用燃料電池システム

【課題】簡易かつ低コストで、登坂時に燃料電池内に気体が滞留することを防止することのできる車両用燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】液体燃料が供給される燃料供給路13を備える燃料電池3と、燃料電池3から排出される液体燃料を、燃料電池3に還流させるための第1還流管22と、第1還流管22に介在され、液体燃料に含まれる気体を分離するための第1気液分離器23とを備える燃料電池システム2において、第1気液分離器23を、その前端部32が、電動車両1の前後方向において、燃料供給路13の最前端33より前側に配置されるとともに、上端部34が、電動車両1の上下方向において、燃料供給路13の最上端35より上側に配置されるように、設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料が供給される燃料電池を備える車両用燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体燃料を使用する燃料電池システムとして、例えば、直接メタノール形燃料電池、直接ジメチルエーテル形燃料電池、ヒドラジン形燃料電池などを備えた燃料電池システムが知られている。
【0003】
液体燃料形燃料電池は、水素ガスを生成するための改質器を必要としないので、システムとしての構造の簡略化が期待されている。
【0004】
液体燃料形燃料電池が備えられる燃料電池システムは、一般的に、液体燃料が供給される燃料電池と、燃料電池に液体燃料を供給するための燃料供給ポンプと、燃料電池に空気を供給するためのエアコンプレッサとを備えている。
【0005】
このようなシステムでは、燃料電池のアノードに液体燃料が供給されるとともに、燃料電池のカソードに空気が供給されることによって、電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、直接メタノール形燃料電池では、下記式(1)および(2)の通りとなる。
【0006】
(1)CHOH+6OH→CO+5HO+6e (アノードでの反応)
(2)O+HO+4e→4OH (カソードでの反応)
しかし、アノード側に発生するCOガスが液体燃料中に気泡として滞留すると、アノード電極における液体燃料との接触面が気泡に覆われて、燃料電池の出力が低下するおそれがある。
【0007】
一方、近年では、液体燃料に含まれる気体を分離するための気液分離器を備える燃料電池システムが提案されている。
【0008】
例えば、液体燃料が供給される燃料電池と、その燃料電池から排出される液体燃料を、燃料電池に還流させるための還流路と、還流路に介在され、液体燃料に含まれる気体を分離するための気液分離部と、気液分離部に設けられ、気液分離部内の圧力を開放するための圧力開放手段と、圧力開放手段を、燃料電池の定常運転時に間欠的に動作させるための制御手段とを備える燃料電池システムが、提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この燃料電池システムでは、還流路に介在された気液分離部において圧力開放手段を間欠的に動作させることにより、その内部圧力を開放し、循環する液体燃料の圧力を低下させている。そして、これにより、液体燃料に対する気体の溶解度を低下させ、液体燃料に溶解する気体を気泡として発生させることにより、気液分離部において気体を回収している。
【特許文献1】特開2010−129305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、特許文献1記載の燃料電池システムでは、気液分離部が燃料電池の後方かつ上側に設けられている。
【0011】
そのため、例えば、燃料電池システムを車両に搭載し、その車両が登坂するときなど、燃料電池の前側が上方向に向くように、燃料電池が水平方向に対して傾斜する状態において発電する場合には、相対的に下方に配置される気液分離部内に、液体燃料が充填される。一方、相対的に上方に配置される燃料電池の前端部には、気体が滞留する。このような場合には、発電時に、その滞留気体に起因して、燃料電池の破損を生じる場合がある。
【0012】
本発明の目的は、簡易かつ低コストで、登坂時に燃料電池内に気体が滞留することを防止することのできる車両用燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の車両用燃料電池システムは、液体燃料が供給される燃料流路を備える燃料電池と、前記燃料流路から排出される液体燃料を、前記燃料流路に還流させるための還流路と、前記還流路に介在され、液体燃料と気体とを分離するための第1気液分離部とを備え、前記第1気液分離部は、前端部が、車両の前後方向において、前記燃料流路の最前端より前側に配置されるとともに、上端部が、車両の上下方向において、前記燃料流路の最上端より上側に配置されていることを特徴としている。
【0014】
このような車両用燃料電池システムにおいて、第1気液分離部は、その前端部が、車両の前後方向において、燃料流路の最前端より前側に配置されるとともに、上端部が、車両の上下方向において、燃料流路の最上端より上側に配置されている。
【0015】
そのため、燃料電池の前側が上方向に向くように、燃料電池が水平方向に対して傾斜する状態において発電する場合、例えば、車両用燃料電池システムを車両に搭載し、その車両を登坂させる場合にも、第1気液分離部内に気体を滞留させることができるので、燃料電池における燃料流路内に、液体燃料を充填でき、燃料流路内に気体が滞留することを、抑制できる。
【0016】
その結果、このような車両用燃料電池システムによれば、例えば、登坂時など、燃料電池の前側が上方向に向くように、燃料電池が水平方向に対して傾斜する場合においても、発電時おける燃料電池の破損を、簡易かつ低コストで抑制することができる。
【0017】
さらに、このような車両用燃料電池システムによれば、第1気液分離部の設置高さを抑制できるため、車両の車室内空間の有効利用を図ることができ、さらには、軽量化を図ることができる。
【0018】
また、本発明の車両用燃料電池システムは、さらに、前記燃料電池が水平方向に対して傾斜していることを検出する、傾斜検出手段と、前記傾斜検出手段による、前記燃料流路の前側が下方向に向くように前記燃料電池が傾斜していることの検出に基づいて、前記燃料電池による発電を停止させる燃料電池停止手段とを備えていることが好適である。
【0019】
このような車両用燃料電池システムでは、燃料電池の前側が下方向に向くように、燃料電池を水平方向に対して傾斜させる場合、例えば、車両を降坂させる場合には、燃料流路内に気体が滞留する場合がある。
【0020】
しかし、この車両用燃料電池システムでは、燃料電池の前側が下方向に向くように、燃料電池が水平方向に対して傾斜する状態では、燃料電池停止手段によって、燃料電池による発電が停止されるため、燃料流路内の気体に起因する燃料電池の破損を、防止することができる。
【0021】
また、本発明の車両用燃料電池システムは、さらに、後端部が、前記前後方向において、前記燃料電池の最後端より後側に配置されるとともに、上端部が、前記上下方向において、前記燃料電池の最上端より上側に配置されている第2気液分離部と、前記燃料電池が水平方向に対して傾斜していることを検出する、傾斜検出手段と、前記傾斜検出手段による、前記燃料流路の前側が上方向に向くように前記燃料電池が傾斜していることの検出に基づいて、前記第1気液分離部を稼動させるとともに前記第2気液分離部を停止させ、一方、前記傾斜検出手段による、前記燃料流路の前側が下方向に向くように前記燃料電池が傾斜していることの検出に基づいて、前記第1気液分離部を停止させるとともに前記第2気液分離部を稼動させるための気液分離部切替手段とを備えることが好適である。
【0022】
このような車両用燃料電池システムでは、第1気液分離部が、前側に配置されるとともに、第2気液分離部が、後側に配置される。
【0023】
このような車両用燃料電池システムにおいて、燃料流路の前側が上方向に向くように燃料電池を傾斜させる場合、例えば、車両用燃料電池システムを車両に搭載し、その車両を登坂させる場合には、燃料電池の燃料流路、および、その燃料電池の後側に配置される第2気液分離部には液体燃料が充填される。一方、前側に配置される第1気液分離部には気体が滞留され、そして、第1気液分離部が稼動される。
【0024】
また、燃料流路の前側が下方向に向くように燃料電池を傾斜させる場合、例えば、車両用燃料電池システムを車両に搭載し、その車両を降坂させる場合には、燃料電池の燃料流路、および、その燃料電池の前側に配置される第1気液分離部には液体燃料が充填される。一方、後側に配置される第2気液分離部には気体が滞留され、そして、第2気液分離部が稼動される。
【0025】
すなわち、このような車両用燃料電池システムでは、登坂時および降坂時のいずれにおいても、第1気液分離部または第2気液分離部に気体を滞留させることによって、燃料電池の燃料流路内を、液体燃料で充填することができ、また、その気体が滞留される第1気液分離部または第2気液分離部のみを稼動させることができる。
【0026】
つまり、このような車両用燃料電池システムによれば、燃料流路に気体が滞留することを抑制することができるとともに、気体が滞留される第1気液分離部または第2気液分離部を、選択的に稼動させることができる。
【0027】
そのため、このような車両用燃料電池システムによれば、簡易な構成により、登坂時および降坂時のいずれにおいても、燃料電池の燃料流路内に気体が滞留することを抑制して、気体に起因する燃料電池の破損を、簡易かつ低コストで抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の車両用燃料電池システムによれば、燃料電池の燃料流路内に気体が滞留することを抑制することができる。
【0029】
そのため、本発明の車両用燃料電池システムによれば、気体に起因する燃料電池の破損を、簡易かつ低コストで抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用燃料電池システムを搭載した電動車両の概略構成図である。
【図2】図1に示す電動車両が登坂走行する状態を示す概略構成図である。
【図3】図1に示す電動車両が平坦走行する状態を示す概略構成図である。
【図4】図1に示す電動車両が降坂走行する状態を示す概略構成図である。
【図5】図1のコントロールユニットにおいて実行される制御処理を表わすフロー図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る車両用燃料電池システムを搭載した電動車両の概略構成図である。
【図7】図6に示す電動車両が登坂走行する状態を示す概略構成図である。
【図8】図6に示す電動車両が降坂走行する状態を示す概略構成図である。
【図9】図6のコントロールユニットにおいて実行される制御処理を表わすフロー図である。
【図10】図9に示す登坂/平坦路モードにおいて実行される制御処理を表わすフロー図である。
【図11】図9に示す降坂モードにおいて実行される制御処理を表わすフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1−1.燃料電池システムの全体構成(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用燃料電池システムを搭載した電動車両の概略構成図である。
【0032】
図1において、電動車両1は、燃料電池およびバッテリを選択的に動力源とするハイブリッド車両であって、車両用燃料電池システムとしての、燃料電池システム2を搭載している。
【0033】
燃料電池システム2は、燃料電池3と、燃料給排部4と、図示しない空気給排部と、制御部6と、動力部7とを備えている。
(1)燃料電池
燃料電池3は、液体燃料が直接供給される、例えば、アニオン交換型燃料電池であって、電動車両1の中央下側に配置されている。
【0034】
燃料電池3に供給される液体燃料としては、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジン(例えば、無水ヒドラジンや、ヒドラジン1水和物などの水加ヒドラジンなどを含む)などが挙げられる。
【0035】
また、燃料電池3の出力電圧は、例えば、0.2〜1.5Vであり、出力電流は、例えば、10〜400Aである。なお、これら出力は、後述する単位セル1つあたりの出力である。
【0036】
燃料電池3は、電解質層8と、電解質層8の一方側に配置されたアノード9と、電解質層8の他方側に配置されたカソード10とを有する燃料電池セル(単位セル)が、絶縁材料からなるセパレータ(図示せず)を介して複数積層されたスタック構造に形成されている。つまり、電解質層8を介してアノード9およびカソード10が対向配置されてなる単位セルが複数積層されている。なお、図1では、積層される複数の単位セルのうち、電動車両1の前後方向最前端に配置される単位セル1つだけを拡大して表わし、その他の単位セルについては簡略化して記載している。
【0037】
電解質層8は、例えば、アニオン成分が移動可能な層であり、アニオン交換膜を用いて形成されている。
【0038】
アノード9は、アノード電極11と、アノード電極11に液体燃料を供給するための燃料供給部材12とを有している。
【0039】
アノード電極11は、電解質層8の一方面に形成されている。アノード電極11の電極材料としては、例えば、触媒が担持された多孔質担体(触媒担持多孔質担体)などが挙げられる。
【0040】
燃料供給部材12は、ガス不透過性の導電性部材からなる。燃料供給部材12には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、燃料供給部材12は、溝の形成された表面がアノード電極11に対向接触されている。これにより、アノード電極11の一方面と燃料供給部材12の他方面(溝の形成された表面)との間には、アノード電極11全体に液体燃料を接触させるための燃料流路としての燃料供給路13が形成される。
【0041】
燃料供給路13には、液体燃料をアノード9内に流入させるための燃料供給口15が一端側(下側)に形成され、液体燃料をアノード9から排出するための燃料排出口14が他端側(上側)に形成されている。
【0042】
カソード10は、カソード電極16と、カソード電極16に空気を供給するための空気供給部材17とを有している。
【0043】
カソード電極16は、電解質層8の他方面に形成されている。
【0044】
カソード電極16の電極材料としては、例えば、アノード電極11の電極材料として例示した、触媒担持多孔質担体などが挙げられる。
【0045】
空気供給部材17は、ガス不透過性の導電性部材からなる。空気供給部材17には、その表面から凹む葛折状の溝が形成されている。そして、空気供給部材17は、溝の形成された表面がカソード電極16に対向接触されている。これにより、カソード電極16の他方面と空気供給部材17の一方面(溝の形成された表面)との間には、カソード電極16全体に空気を接触させるための空気流路としての空気供給路18が形成される。
【0046】
空気供給路18には、空気をカソード10内に流入させるための空気供給口19が一端側に形成され、空気をカソード10から排出するための空気排出口20が他端側に形成されている。
(2)燃料給排部
燃料給排部4は、液体燃料を貯蔵するための燃料タンク21と、燃料タンク21から供給される液体燃料をアノード9に供給するとともに、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出される液体燃料を燃料電池3(アノード9の燃料供給路13)に還流するための還流路としての第1還流管22とを備えている。
【0047】
燃料タンク21は、燃料電池3よりも後方、電動車両1の後側に配置されている。燃料タンク21には、液体燃料として、例えば、メタノール、ジメチルエーテル、ヒドラジンなどが貯蔵されている。
【0048】
第1還流管22は、その一端側(下側)がシール材(ガスケットなど)を介して燃料供給口15に接続され、他端側(上側)がシール材(ガスケットなど)を介して燃料排出口14に接続されている。これにより、燃料電池3と燃料給排部4との間には、燃料排出口14(上流側)から排出される液体燃料が、第1還流管22を介して燃料供給口15(下流側)へ流れ、燃料供給路13を介して再び燃料排出口14に戻ることによりアノード9を循環するクローズドライン(閉流路)が形成される。
【0049】
第1還流管22の途中には、第1気液分離部としての第1気液分離器23が介在されている。第1気液分離器23は、例えば、中空の容器からなり、その下部には、第1気液分離器23の内外を流通させる第1底部流通口24が2つ形成されている。
【0050】
また、第1気液分離器23の上部には、第1気液分離器23の内外を流通させる第1上部流通口25が1つ形成されている。
【0051】
第1気液分離器23は、燃料電池3よりも電動車両1の前後方向前方、かつ、電動車両1の上下方向上方において、2つの第1底部流通口24が第1還流管22に接続されることにより、第1還流管22に介装されている。
【0052】
より具体的には、第1気液分離器23は、その前端部32が、燃料供給路13の最前端33(複数の単位セルを積層して形成される複数の燃料供給路13のうち、最も前側の燃料供給路13の最前端。以下同じ。)より前側に配置されるとともに、上端部34が、燃料供給路13の最上端35より上側に配置されている。
【0053】
つまり、電動車両1の車幅方向から投影したときに、第1気液分離器23の投影面が、燃料電池3の燃料供給路13の投影面より前方に突き出るように配置され、これにより、第1気液分離器23の前端部32が、燃料供給路13の最前端33より前側に配置されている。また、第1気液分離器23の投影面が、燃料電池3の燃料供給路13の投影面より上方に突き出るように配置され、これにより、第1気液分離器23の上端部34が、燃料供給路13の最上端35より上側に配置されている。
【0054】
これにより、燃料電池3が水平に配置される状態において、燃料供給路13が液体燃料で満たされる場合にも、第1気液分離器23内の液体燃料の水位は、燃料供給路13の最上端35と同位とされ、第1気液分離器23内の上部に気体を滞留させることができる。
【0055】
2つの第1底部流通口24と第1還流管22とは、シール材(ガスケットなど)を介して接続されている。これにより、第1気液分離器23の中空部分が、クローズドラインの一部を形成している。
【0056】
第1上部流通口25には、第1気液分離器23で分離されたガス(気体)を排出するための第1ガス排出管26が接続されている。第1ガス排出管26は、シール材(ガスケット)を介して第1上部流通口25に接続されている。また、第1ガス排出管26の途中には、圧力開放手段としての第1ガス排出弁27が設けられている。
【0057】
第1ガス排出弁27は、第1ガス排出管26を開放して第1気液分離器23内の圧力を開放するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。第1ガス排出弁27は、コントロールユニット42(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット42(後述)からの制御信号が第1ガス排出弁27に入力され、コントロールユニット42(後述)が、第1ガス排出弁27の開閉を制御する。
【0058】
第1還流管22において、第1気液分離器23と燃料供給口15との間には、燃料電池稼動手段および燃料電池停止手段としての第1燃料還流ポンプ29が介在されている。
【0059】
第1燃料還流ポンプ29としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第1燃料還流ポンプ29は、コントロールユニット42(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット42(後述)からの制御信号が、第1燃料還流ポンプ29に入力され、コントロールユニット42(後述)が、第1燃料還流ポンプ29の駆動および停止を制御する。
【0060】
第1還流管22において、第1燃料還流ポンプ29と燃料供給口15との間には、燃料タンク21に貯蔵された液体燃料を第1還流管22へ供給するための燃料供給管30が接続されている。つまり、燃料供給管30の上流側端部は、燃料タンク21と、シール材(ガスケットなど)を介して接続され、燃料供給管30の下流側端部は、第1還流管22の流れ方向途中と、シール材(ガスケットなど)を介して接続されている。
【0061】
燃料供給管30の流れ方向途中には、燃料電池稼動手段および燃料電池停止手段としての燃料供給ポンプ41が介在されている。
【0062】
燃料供給ポンプ41としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。燃料供給ポンプ41は、コントロールユニット42(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット42(後述)からの制御信号が、燃料供給ポンプ41に入力され、コントロールユニット42(後述)が、燃料供給ポンプ41の駆動および停止を制御する。
【0063】
燃料供給管30において燃料供給ポンプ41の下流側には、燃料供給弁31が設けられている。
【0064】
燃料供給弁31は、燃料供給管30を開閉するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。また、燃料供給弁31は、コントロールユニット42(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。これにより、コントロールユニット42(後述)からの制御信号が、燃料供給弁31に入力され、コントロールユニット42(後述)が、燃料供給弁31の開閉を制御する。
(3)空気給排部
空気給排部は、詳しくは図示しないが、燃料電池システム2に採用される公知の構成でよく、具体的には、空気をカソード10に供給するための空気供給管(図示せず)と、カソード10から排出される空気を外部に排出するための空気排出管(図示せず)とを備えている。
【0065】
空気供給管(図示せず)は、その一端側(上流側)が大気中に開放され、他端側(下流側)が空気供給口19に接続されている。空気供給管(図示せず)の途中には、エアコンプレッサなどの公知の空気供給ポンプ(図示せず)が介在されており、また、その下流側には、空気供給弁(図示せず)が設けられている。
【0066】
これら空気供給ポンプ(図示せず)および空気供給弁(図示せず)は、それぞれ、コントロールユニット42(後述)に電気的に接続されており、コントロールユニット42(後述)からの制御信号が、空気供給ポンプ(図示せず)および空気供給弁(図示せず)に入力され、コントロールユニット42(後述)が、空気供給ポンプ(図示せず)の駆動および停止、および、空気供給弁(図示せず)の開閉を制御する。
【0067】
空気排出管(図示せず)は、その一端側(上流側)が空気排出口20に接続され、他端側(下流側)がドレンとされる。
(4)制御部
制御部6は、制御手段としてのコントロールユニット42と、電動車両1において、燃料電池3が水平方向に対して傾斜していることを検出し、また、その傾斜角度を検出する傾斜検出手段としての傾斜センサ43とを備えている。
【0068】
コントロールユニット42は、電動車両1における電気的な制御を実行するユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)であり、CPU、ROMおよびRAMなどを備えるマイクロコンピュータで構成されている。
【0069】
傾斜センサ43は、コントロールユニット42と電気的に接続されている(図1の破線参照。)。傾斜センサ43としては、例えば、加速度センサなどの公知のセンサが用いられる。具体的には、傾斜センサ43は、電動車両1(燃料電池3)の進行方向に平行な方向に対して掛かる重力加速度g・sinθを検出して、電動車両1(燃料電池3)が水平方向に対して傾斜している傾斜角度θを検出する。そして、検出した傾斜角度θを電気信号に変換し、コントロールユニット42に出力する。
(5)動力部
動力部7は、燃料電池3から出力される電気エネルギを電動車両1の駆動力として機械エネルギに変換するためのモータ37と、モータ37に電気的に接続されるインバータ38と、モータ37による回生エネルギを蓄電するための動力用バッテリ40と、動力用バッテリ40に電気的に接続されるDC/DCコンバータ36とを備えている。
【0070】
モータ37は、燃料電池3よりも後方、電動車両1の後側に配置されている。モータ37としては、例えば、三相誘導電動機、三相同期電動機など、公知の三相電動機が挙げられる。
【0071】
インバータ38は、モータ37と燃料電池3との間に配置されている。インバータ38は、燃料電池3で発電された直流電力を交流電力に変換する装置であって、例えば、公知のインバータ回路が組み込まれた電力変換装置が挙げられる。また、インバータ38は、配線により、燃料電池3およびモータ37にそれぞれ電気的に接続されているとともに、配線の分岐により、DC/DCコンバータ36に電気的に接続されている。
【0072】
動力用バッテリ40としては、例えば、定格電圧が100V程度のニッケル水素電池や、リチウムイオン電池など、公知の二次電池が挙げられる。また、動力用バッテリ40は、モータ37に電力を供給可能とされている。
【0073】
また、このような動力用バッテリ40には、その電池容量(State of Charge:SOC)を計測するための計測器44が備えられている。計測器44は、動力用バッテリ40およびコントロールユニット42(後述)に電気的に接続されている(図1の破線参照)。
【0074】
DC/DCコンバータ36は、動力用バッテリ40と燃料電池3との間に配置されている。DC/DCコンバータ36は、燃料電池3の出力電圧を昇降圧する機能を有し、燃料電池3の電力および動力用バッテリ40の入出力電力を調整する機能を有している。
【0075】
また、DC/DCコンバータ36は、配線により、燃料電池3および動力用バッテリ40にそれぞれ電気的に接続されているとともに、配線の分岐により、インバータ38に電気的に接続されている。
【0076】
これにより、DC/DCコンバータ36からモータ37への電力は、インバータ38において直流電力から三相交流電力に変換され、三相交流電力としてモータ37に供給される。
1−2.燃料電池システムによる発電(第1実施形態)
上記した燃料電池システム2では、コントロールユニット42の制御により、燃料供給弁31が開かれ、第1燃料還流ポンプ29および燃料供給ポンプ41が駆動されることにより、液体燃料が第1還流管22を介してアノード9に供給される。一方、空気供給弁(図示せず)が開かれ、空気供給ポンプ(図示せず)が駆動されることにより、空気が空気供給管(図示せず)を介してカソード10に供給される。なお、燃料供給弁31は、液体燃料が所定量供給された後に閉じられる。
【0077】
アノード9では、液体燃料が、アノード電極11と接触しながら燃料供給路13を通過する。一方、カソード10では、空気が、カソード電極16と接触しながら空気供給路18を通過する。
【0078】
そして、各電極(アノード電極11およびカソード電極16)において電気化学反応が生じ、起電力が発生する。例えば、液体燃料がメタノールである場合には、下記式(1)〜(3)の通りとなる。
(1)CHOH+6OH→CO+5HO+6e(アノード電極11での反応)
(2)O+2HO+4e→4OH (カソード電極16での反応)
(3)CHOH+3/2O→CO+2HO (燃料電池3全体での反応)
すなわち、メタノールが供給されたアノード電極11では、メタノール(CHOH)とカソード電極16での反応で生成した水酸化物イオン(OH)とが反応して、二酸化炭素(CO)および水(HO)が生成するとともに、電子(e)が発生する(上記式(1)参照)。
【0079】
アノード電極11で発生した電子(e)は、図示しない外部回路を経由してカソード電極16に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e)が、電流となる。
【0080】
一方、カソード電極16では、電子(e)と、外部からの供給もしくは燃料電池3での反応で生成した水(HO)と、空気供給路18を流れる空気中の酸素(O)とが反応して、水酸化物イオン(OH)が生成する(上記式(2)参照)。
【0081】
そして、生成した水酸化物イオン(OH)が、電解質層8を通過してアノード電極11に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
【0082】
また、例えば、液体燃料がヒドラジンである場合には、下記式(4)〜(6)の通りとなる。
(4)N+4OH→N+4HO+4e (アノード電極11での反応)
(5)O+2HO+4e→4OH (カソード電極16での反応)
(6)N+O→N+2HO (燃料電池3全体での反応)
このようなアノード電極11およびカソード電極16での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池3全体として、上記式(3)または上記式(6)で表わされる反応が生じて、燃料電池3に起電力が発生する。
【0083】
そして、動力部7では、発生した起電力が、配線を介してインバータ38、および/または、DC/DCコンバータ36に送電され、モータ37および/または動力用バッテリ40に送電される。そして、モータ37では、インバータ38により三相交流電力に変換された電気エネルギが電動車両1の車輪を駆動させる機械エネルギに変換される。一方、動力用バッテリ40では、DC/DCコンバータ36で降圧された電力が受電され、その電力が充電される。
【0084】
また、燃料給排部4では、第1燃料還流ポンプ29および燃料供給ポンプ41の駆動力により、アノード9から排出される使用後および未反応の液体燃料が、第1還流管22を通過して上流側の第1底部流通口24から第1気液分離器23に流入する。第1気液分離器23では、水位が第1上部流通口25よりも下方位置に保持される液体燃料の液溜まり39が、第1気液分離器23の中空部分に生じるとともに、液溜まり39に含まれるガス(気体)が液溜まり39の上方空間へ分離される。その一方で、液溜まり39の一部が、下流側の第1底部流通口24から第1還流管22に流出する。第1還流管22に流出する液体燃料は、再び燃料供給口15から燃料供給路13に流入する。このようにして、液体燃料が、クローズドライン(第1還流管22、第1気液分離器23および燃料供給路13)を循環する。なお、第1気液分離器23で分離された気体は、第1ガス排出弁27が開かれることにより、第1ガス排出管26を介して外部へ排出される。
【0085】
そして、このような燃料電池システム2が搭載された電動車両1が、登坂を走行するときには、図2に示すように、液体燃料が燃料供給路13に充填され、一方、気体が第1気液分離器23内に滞留する。また、電動車両1が平坦路を走行するときにも、図3に示すように、液体燃料が燃料供給路13に充填され、一方、気体が第1気液分離器23内に滞留する。
【0086】
このように、液体燃料が燃料供給路13に充填され、一方、気体が第1気液分離器23内に滞留するとき(登坂/平坦路走行時)には、燃料電池3が稼動され、そのエネルギーにより、電動車両1が走行する。
【0087】
これに対して、電動車両1が降坂を走行するときには、図4に示すように、第1気液分離器23内に液体燃料が充填される一方、燃料供給路13に気体が滞留する。このような状態において燃料電池3を稼動させると、燃料電池3の破損を惹起する場合があるため、この燃料電池システム2では、燃料供給路13に気体が滞留した状態では、燃料電池3を停止させる。
【0088】
そのため、この燃料電池システム2は、燃料電池の破損を抑制するための制御モードとして、第1気液分離器23の稼動を制御する燃料電池制御モードを有している。
1−3.燃料電池制御モードによる制御処理(第1実施形態)
図5は、図1のコントロールユニット42において実行される制御処理を表わすフロー図である。
【0089】
この処理は、燃料電池3の運転開始をトリガーとしてスタートされる。処理がスタートされると、まず、電動車両1の走行中、すなわち、燃料電池3の発電中、電動車両1の水平方向に対する傾斜角θが、傾斜センサ43によって検出され、その検出信号がコントロールユニット42に入力される(ステップS1)。
【0090】
次いで、コントロールユニット42では、その入力信号に基づいて、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°より小さい(すなわち、燃料供給路13の前側が下を向くように燃料電池3が傾斜している(以下、電動車両1が降坂走行中であるとする。))か、あるいは、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°以上である(すなわち、燃料供給路13の前側が上を向くように燃料電池3が傾斜している(以下、電動車両1が登坂走行中であるとする。)、または、電動車両1が平坦路走行中である)かが検出される(ステップS2)。
【0091】
なお、この判断においては、電動車両1の水平方向に対する傾斜が負の値である場合でも、傾斜角が−5°以上(−5〜0°の範囲)の緩やかな傾斜であれば、平坦路走行中であるとみなす。
【0092】
そして、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°以上である(すなわち、電動車両1が登坂走行中である(図2参照)、または、電動車両1が平坦路走行中である(図3参照))ことが検出される場合(ステップS2のNO)には、ステップS1に戻り、再度、電動車両1の水平方向に対する傾斜が、傾斜センサ43によって検出される。
【0093】
一方、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°より小さい(すなわち、電動車両1が降坂走行中である(図4参照))ことが検出される場合(ステップS2のYES)には、コントロールユニット42の制御により燃料供給ポンプ41および第1燃料還流ポンプ29が停止され、燃料電池3による発電が停止される(ステップS3)。
【0094】
そして、燃料電池3の停止に伴い、動力用バッテリ40の電池容量が、計測器44により計測され、コントロールユニット42に入力される(ステップS4)。
【0095】
コントロールユニット42では、入力された信号に基づき、モータ37の出力制限処理がなされる(ステップS5)。
【0096】
より具体的には、動力用バッテリ40の電池容量が所定量以上である場合には、モータ出力を許可し、動力用バッテリ40に充電されている電力を、DC/DCコンバータ36およびインバータ38を介してモータ37に供給する。これにより、電動車両1が降坂走行する。
【0097】
一方、動力用バッテリ40の電池容量が所定量未満である場合には、モータ出力を許可せず、これにより、電動車両1は、走行路の傾斜角および重力に従って降坂走行する。
【0098】
その後は、上記と同様の制御処理が、燃料電池3の定常運転中に連続的に実行される。
1−4.作用効果(第1実施形態)
以上のような燃料電池システム2において、第1気液分離器23は、その前端部32が、電動車両1の前後方向において、燃料供給路13の最前端33より前側に配置されるとともに、上端部34が、電動車両1の上下方向において、燃料供給路13の最上端35より上側に配置されている。
【0099】
そのため、燃料電池3の前側が上方向に向くように、燃料電池3が水平方向に対して傾斜する状態において発電する場合、例えば、電動車両1を登坂させる場合にも、第1気液分離器23内に気体を滞留させることができるので、燃料電池3における燃料供給路13内に、液体燃料を充填でき、燃料供給路13内に気体が滞留することを、抑制できる。
【0100】
その結果、このような燃料電池システム2によれば、例えば、登坂時など、燃料電池3の前側が上方向に向くように、燃料電池3が水平方向に対して傾斜する場合においても、発電時おける燃料電池3の破損を、簡易かつ低コストで抑制することができる。
【0101】
さらに、このような燃料電池システム2によれば、第1気液分離器23の設置高さを抑制できるため、電動車両1の車室内空間の有効利用を図ることができ、さらには、軽量化を図ることができる。
【0102】
また、このような燃料電池システム2では、燃料電池3の前側が下方向に向くように、燃料電池3を水平方向に対して傾斜させる場合、例えば、電動車両1を降坂させる場合には、燃料供給路13内に気体が滞留する場合がある。
【0103】
しかし、この燃料電池システム2では、燃料電池3の前側が下方向に向くように、燃料電池3が水平方向に対して傾斜する状態では、燃料供給ポンプ41および第1燃料還流ポンプ29が停止することによって、燃料電池3による発電が停止されるため、燃料供給路13内の気体に起因する燃料電池3の破損を、簡易かつ低コストで防止することができる。
【0104】
なお、上記した第1実施形態において、第1気液分離器21は、その前端部32が、燃料供給路13の最前端33より前側に配置されるとともに、上端部34が、燃料供給路13の最上端35より上側に配置されていれば、電動車両1の車幅方向における配置は特に制限されない。より具体的には、例えば、第1気液分離器23は、燃料電池3の車幅方向一方側または他方側に配置されることができ、また、第1気液分離器23の投影面は、燃料電池3の燃料供給路13の投影面と、車幅方向において重複することができる。
2−1.燃料電池システムの全体構成(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る車両用燃料電池システムを搭載した電動車両の概略構成図である。なお、上記した部材に対応する部材については、図6において同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0105】
また、図6では、積層される複数の単位セルのうち、電動車両1の前後方向最後端に配置される単位セル1つだけを拡大して表わし、その他の単位セルについては簡略化して記載している。
【0106】
上記した第1実施形態では、燃料電池3に対して1つの気液分離部(第1気液分離部)を設けたが、例えば、本発明の第2実施形態として、燃料電池3に対して2つの気液分離部、すなわち、第1気液分離部および第2気液分離部を設けることもできる。
【0107】
図6において、燃料給排部4は、燃料タンク21と、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出される液体燃料を燃料電池3(アノード9)に還流するための還流路としての第1還流管22と、燃料タンク21から供給される液体燃料をアノード9に供給するとともに、燃料電池3(具体的には、アノード9の燃料供給路13)から排出される液体燃料を燃料電池3(アノード9)に還流するための還流路としての第2還流管45とを備えている。
【0108】
第1還流管22において、第1気液分離器23と燃料供給口15との間には、気液分離部切替手段としての第1燃料還流ポンプ29が介在されている。
【0109】
また、第2実施形態では、上記の第1実施形態と異なり、第1還流管22は、燃料供給管30が接続されることなく、クローズドライン(閉流路)を形成している。
【0110】
第2還流管45は、その一端側(下側)がシール材(ガスケットなど)を介して燃料供給口15に接続され、他端側(上側)がシール材(ガスケットなど)を介して燃料排出口14に接続されている。これによって、燃料電池3と燃料給排部4との間には、燃料排出口14(上流側)から排出される液体燃料が、第2還流管45を介して燃料供給口15(下流側)へ流れ、燃料供給路13を介して再び燃料排出口14に戻ることによりアノード9を循環するクローズドライン(閉流路)が形成される。
【0111】
第2還流管45の途中には、第2気液分離部としての第2気液分離器46が介在されている。第2気液分離器46は、例えば、中空の容器からなり、その下部には、第2気液分離器46の内外を流通させる第2底部流通口51が2つ形成されている。
【0112】
また、第2気液分離器46の上部には、第2気液分離器46の内外を流通させる第2上部流通口52が1つ形成されている。第2上部流通口52および2つの第2底部流通口51は、中空部分を介して互いに流通可能とされている。
【0113】
第2気液分離器46は、燃料電池3よりも電動車両1の後方、かつ、電動車両1の上方において、2つの第2上部流通口52が第2還流管45に接続されることにより、第2還流管45に介装されている。
【0114】
より具体的には、第2気液分離器46は、その後端部47が、燃料供給路13の最後端48(なお、複数の単位セルを積層して形成される複数の燃料供給路13のうち、最も後側の燃料供給路13の最後端。以下同じ。)より後側に配置されるとともに、上端部49が、燃料供給路13の最上端50より上側に配置されている。
【0115】
つまり、電動車両1の車幅方向から投影したときに、第2気液分離器46の投影面が、燃料電池3の燃料供給路13の投影面より後方に突き出るように配置され、これにより、第2気液分離器46の後端部47が、燃料供給路13の最後端48より後側に配置されている。また、第2気液分離器46の投影面が、燃料電池3の燃料供給路13の投影面より上方に突き出るように配置され、これにより、第2気液分離器46の上端部49が、燃料供給路13の最上端50より上側に配置されている。
【0116】
これにより、燃料電池3が水平に配置される状態において、燃料供給路13が液体燃料で満たされる場合にも、第2気液分離器46内の液体燃料の水位は、燃料供給路13の最上端50と同位とされ、第2気液分離器46内の上部に気体を滞留させることができる。
【0117】
2つの第2底部流通口51と第2還流管45とは、シール材(ガスケットなど)を介して接続されている。これにより、第2気液分離器46の中空部分が、クローズドラインの一部を形成している。
【0118】
第2上部流通口52には、第2気液分離器46で分離されたガス(気体)を排出するための第2ガス排出管53が接続されている。
【0119】
第2ガス排出管53は、その下流側端部が第2気液分離器46に接続されるとともに、上流側端部が第1ガス排出管26の流れ方向途中、より具体的には、ガス排出弁27の下流側に接続されている。また、第2ガス排出管53の途中には、圧力開放手段としての第2ガス排出弁54が設けられている。
【0120】
第2ガス排出弁54は、第2ガス排出管53を開放して第2気液分離器46内の圧力を開放するための弁であって、例えば、電磁弁など、公知の開閉弁が用いられる。第2ガス排出弁54は、コントロールユニット42に電気的に接続されている(図6の破線参照)。これにより、コントロールユニット42からの制御信号が第2ガス排出弁54に入力され、コントロールユニット42が、第2ガス排出弁54の開閉を制御する。
【0121】
第2還流管45において、第2気液分離器46と燃料供給口15との間には、気液分離部切替手段としての第2燃料還流ポンプ55が介在されている。
【0122】
第2燃料還流ポンプ55としては、例えば、ロータリーポンプ、ギヤポンプなどの回転式ポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプなどの往復式ポンプなど、公知の送液ポンプが用いられる。第2燃料還流ポンプ55は、コントロールユニット42に電気的に接続されている(図6の破線参照)。これにより、コントロールユニット42からの制御信号が、第2燃料還流ポンプ55に入力され、コントロールユニット42が、第2燃料還流ポンプ55の駆動および停止を制御する。
【0123】
第2還流管45において第2燃料還流ポンプ55と燃料供給口15との間には、燃料タンク21に貯蔵された液体燃料を第2還流管45へ供給するための燃料供給管30が接続されている。
【0124】
また、このような燃料電池システム2では、動力用バッテリ40の電池容量を計測するための計測器44は備えられておらず、一方、燃料電池3の電流を計測するための計測器56が備えられている。計測器56は、燃料電池3およびコントロールユニット42に電気的に接続されている(図6の破線参照)。
2−2.燃料電池システムによる発電(第2実施形態)
上記した燃料電池システム2では、コントロールユニット42の制御により、燃料供給弁31が開かれ、第1燃料還流ポンプ29および/または第2燃料還流ポンプ55と、燃料供給ポンプ41とが駆動されることにより、液体燃料が第1還流管22および/または第2還流管45を介してアノード9に供給される。一方、空気供給弁(図示せず)が開かれ、空気供給ポンプ(図示せず)が駆動されることにより、空気が空気供給管(図示せず)を介してカソード10に供給される。なお、燃料供給弁31は、液体燃料が所定量供給された後に閉じられる。
【0125】
アノード9およびカソード10における反応は、上記の通りである。
【0126】
そして、このような燃料電池システム2では、電動車両1が登坂を走行するときには、図7に示すように、液体燃料が第2気液分離器46に充填され、一方、気体が第1気液分離器23内に滞留する。これに対して、電動車両1が降坂を走行するときには、図8に示すように、液体燃料が第1気液分離器23に充填され、一方、気体が第2気液分離器46内に滞留する。
【0127】
そこで、この燃料電池システム2では、気体が滞留される第1気液分離器23または第2気液分離器46を選択的に稼動させ、発電する。
【0128】
そのため、この燃料電池システム2は、燃料電池の破損を抑制するための制御モードとして、第1気液分離器23および第2気液分離器46の稼動を切り替える気液分離切替制御モードを有している。
2−3.気液分離切替制御モードによる制御処理(第2実施形態)
図9は、図6のコントロールユニット42において実行される制御処理を表わすフロー図であり、図10は、図9に示す登坂/平坦路モードにおいて実行される制御処理を表わすフロー図であり、図11は、図9に示す降坂モードにおいて実行される制御処理を表わすフロー図である。
【0129】
この処理は、燃料電池3の運転開始をトリガーとしてスタートされる。処理がスタートされると、まず、電動車両1の水平方向に対する傾斜が、傾斜センサ43によって検出され、その検出信号がコントロールユニット42に入力される(ステップS1)。
【0130】
次いで、コントロールユニット42では、その入力信号に基づいて、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°より小さい(すなわち、燃料供給路13の前側が下を向くように燃料電池3が傾斜している(電動車両1が降坂走行中である))か、あるいは、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°以上である(すなわち、燃料供給路13の前側が上を向くように燃料電池3が傾斜している(電動車両1が登坂走行中である)、または、電動車両1が平坦路走行中である)かが検出される(ステップS2)。
【0131】
なお、上記と同様、この判断においては、電動車両1の水平方向に対する傾斜が負の値である場合にも、傾斜角が−5°以上(−5〜0°の範囲)の緩やかな傾斜であれば、平坦路走行中であるとみなす。
【0132】
そして、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°以上である(すなわち、電動車両1が登坂走行中である、または、電動車両1が平坦路走行中である)ことが検出される場合(ステップS2のNO)には、登坂/平坦路走行モードを実行する(ステップS3)。
【0133】
登坂/平坦路走行モードでは、図10に示すように、コントロールユニット42の制御により、まず、第1ガス排出弁27が開放されるとともに、第2ガス排出弁54が閉鎖される(ステップS31)。
【0134】
次いで、コントロールユニット42の制御により、第1燃料還流ポンプ29が駆動されるとともに、第2燃料還流ポンプ55が停止される(ステップS32)。
【0135】
これにより、登坂/平坦路走行モードでは、気体が滞留される第1気液分離器23が稼動され、第1気液分離器23において気液が分離される一方、第2気液分離器46は停止される。
【0136】
そして、登坂/平坦路走行モードでは、燃料電池3の電流が、計測器56により計測され、コントロールユニット42に入力される(ステップS33)。そして、その入力に基づいて、液体燃料の供給流量が、下記式(1)により算出される。なお、下記式(1)において、K1は、測定電流から液体燃料の供給流量を算出するための係数である。
流量(L/min)
=K1(L/A・min)×電流(A)
=[反応物質量×分子量÷濃度÷密度](L/min・A)×電流(A)
=セル数÷ファラデー定数(A・sec/mol)÷反応電子数(mol)÷<秒→分変換>(min/sec)×分子量÷濃度÷密度(kg/L)×電流(A) (1)
より具体的には、例えば、燃料電池3のセル数を100とし、液体燃料としてヒドラジン1水和物(分子量:50、反応電子数:4)の水溶液(濃度:10質量%、密度:1.03kg/L)を用いる場合には、液体燃料の流量は、上記式(1)および測定電流から、下記の通り計算される。
流量(L/min)
=100÷96485(A・sec/mol)÷4(mol)×60(sec/min)×50÷0.1÷1.03(kg/L)×電流(A)
そして、登坂/平坦路走行モードでは、算出された液体燃料の供給流量に基づいて、ポンプ回転数、すなわち、第1燃料還流ポンプ29の回転数が、下記式(2)により決定され、コントロールユニット42により、第1燃料還流ポンプ29の回転数が制御される(ステップS35)。なお、下記式(2)において、K2は、液体燃料の供給流量からポンプ回転数を算出するための係数であって、ポンプ1回転あたりの液体燃料吐出量(L/回)の逆数を示す。
ポンプ回転数(回/min)
=K2(回/L)×流量(L/min) (2)
より具体的には、第1燃料還流ポンプ29が、1回転あたり2Lの液体燃料を供給する場合には、ポンプ回転数は、上記により算出された液体燃料の供給流量から、下記の通り計算される。
ポンプ回転数(回/min)
=1/2(回/L)×流量(L/min)
このようにして、登坂/平坦路走行モードでは、気体が滞留される第1気液分離器23が稼動された後、ステップS1に戻り、再度、電動車両1の水平方向に対する傾斜が、傾斜センサ43によって検出される。
【0137】
一方、電動車両1の水平方向に対する傾斜角が−5°より小さい(すなわち、電動車両1が降坂走行中である)ことが検出される場合(ステップS2のYES)には、降坂走行モードを実行する(ステップS4)。
【0138】
なお、電動車両1が降坂走行中であることが検出されるとき、第2気液分離器46内には、気体が滞留される。
【0139】
そして、降坂走行モードでは、図11に示すように、コントロールユニット42の制御により、まず、第2ガス排出弁54が開放されるとともに、第1ガス排出弁27が閉鎖される(ステップS41)。
【0140】
次いで、コントロールユニット42の制御により、第2燃料還流ポンプ55が駆動されるとともに、第1燃料還流ポンプ29が停止される(ステップS42)。
【0141】
これにより、降坂走行モードでは、気体が滞留される第2気液分離器46が稼動され、第2気液分離器46において気液が分離される一方、第1気液分離器23は停止される。
【0142】
そして、降坂走行モードでは、燃料電池3の電流が、計測器56により計測され、コントロールユニット42に入力される(ステップS43)。そして、その入力に基づいて、液体燃料の供給流量が、上記式(1)により算出される。
【0143】
そして、降坂走行モードでは、算出された液体燃料の供給流量に基づいて、ポンプ回転数、すなわち、第2燃料還流ポンプ55の回転数が、上記式(2)により決定され、コントロールユニット42により、第2燃料還流ポンプ55の回転数が制御される(ステップS45)。
【0144】
このようにして、降坂走行モードでは、気体が滞留される第2気液分離器46が稼動された後、ステップS1に戻り、再度、電動車両1の水平方向に対する傾斜が、傾斜センサ43によって検出される。
【0145】
その後は、上記と同様の制御処理が、燃料電池3の定常運転中に連続的に実行される。
2−4.作用効果(第2実施形態)
以上のように、このような燃料電池システム2では、第1気液分離器23が、前側に配置されるとともに、第2気液分離器46が、後側に配置される。
【0146】
このような燃料電池システム2において、燃料供給路13の前側が上方向に向くように燃料電池3を傾斜させる場合、例えば、電動車両1を登坂させる場合には、燃料電池3の燃料供給路13、および、その燃料電池3の後側に配置される第2気液分離器46には液体燃料が充填される。一方、前側に配置される第1気液分離器23には気体が滞留され、そして、第1気液分離器23が稼動される。
【0147】
また、燃料供給路13の前側が下方向に向くように燃料電池3を傾斜させる場合、例えば、電動車両1を降坂させる場合には、燃料電池3の燃料供給路13、および、その燃料電池3の前側に配置される第1気液分離器23には液体燃料が充填される。一方、後側に配置される第2気液分離器46には気体が滞留され、そして、第2気液分離器46が稼動される。
【0148】
すなわち、このような燃料電池システム2では、登坂時および降坂時のいずれにおいても、第1気液分離器23または第2気液分離器46に気体を滞留させることによって、燃料電池3の燃料供給路13内を、液体燃料で充填することができ、また、その気体が滞留される第1気液分離器23または第2気液分離器46のみを稼動させることができる。
【0149】
つまり、このような燃料電池システム2によれば、燃料供給路13に気体が滞留することを抑制することができるとともに、気体が滞留される第1気液分離器23または第2気液分離器46を、選択的に稼動させることができる。
【0150】
そのため、このような燃料電池システム2によれば、簡易な構成により、登坂時および降坂時のいずれにおいても、燃料電池3の燃料供給路13内に気体が滞留することを抑制して、気体に起因する燃料電池3の破損を、簡易かつ低コストで抑制することができる。
【0151】
なお、第1実施形態と同様、上記した第2実施形態において、第1気液分離器23は、燃料電池3の車幅方向一方側または他方側に配置されることができ、また、第1気液分離器23の投影面は、燃料電池3の燃料供給路13の投影面と、車幅方向において重複することができる
また、第2実施形態において、第2気液分離器46は、その後端部47が、燃料供給路13の最後端48より後側に配置されるとともに、上端部49が、燃料供給路13の最上端50より上側に配置されていれば、電動車両1の車幅方向における配置は特に制限されない。より具体的には、例えば、第2気液分離器46は、燃料電池3の車幅方向一方側または他方側に配置されることができ、また、第2気液分離器46の投影面は、燃料電池3の燃料供給路13の投影面と、車幅方向において重複することができる。
【符号の説明】
【0152】
1 電動車両
2 燃料電池システム
3 燃料電池
13 燃料供給路
22 第1還流管
32 前端部
33 最前端
34 上端部
35 最上端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料が供給される燃料流路を備える燃料電池と、
前記燃料流路から排出される液体燃料を、前記燃料流路に還流させるための還流路と、
前記還流路に介在され、液体燃料と気体とを分離するための第1気液分離部とを備え、
前記第1気液分離部は、
前端部が、車両の前後方向において、前記燃料流路の最前端より前側に配置されるとともに、
上端部が、車両の上下方向において、前記燃料流路の最上端より上側に配置されていることを特徴とする、車両用燃料電池システム。
【請求項2】
さらに、前記燃料電池が水平方向に対して傾斜していることを検出する、傾斜検出手段と、
前記傾斜検出手段による、
前記燃料流路の前側が下方向に向くように前記燃料電池が傾斜していること
の検出に基づいて、前記燃料電池による発電を停止させる燃料電池停止手段と
を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の車両用燃料電池システム。
【請求項3】
さらに、後端部が、前記前後方向において、前記燃料電池の最後端より後側に配置されるとともに、上端部が、前記上下方向において、前記燃料電池の最上端より上側に配置されている第2気液分離部と、
前記燃料電池が水平方向に対して傾斜していることを検出する、傾斜検出手段と、
前記傾斜検出手段による、前記燃料流路の前側が上方向に向くように前記燃料電池が傾斜していることの検出に基づいて、前記第1気液分離部を稼動させるとともに前記第2気液分離部を停止させ、一方、前記傾斜検出手段による、前記燃料流路の前側が下方向に向くように前記燃料電池が傾斜していることの検出に基づいて、前記第1気液分離部を停止させるとともに前記第2気液分離部を稼動させるための気液分離部切替手段と
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両用燃料電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−74293(P2012−74293A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219171(P2010−219171)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】