説明

車両用空調制御装置

【課題】可変容量コンプレッサ内に液冷媒が溜まった場合、コンプレッサの立ち上がり応答を確保し、液冷媒の排出時間を短縮することで、冷凍サイクルの起動性を向上させることができる車両用空調制御装置を提供すること。
【解決手段】冷凍サイクルに可変容量コンプレッサ8とコンデンサ9を有し、前記コンデンサ9の熱交換面に放熱用の電動ファン16を配置した車両用空調制御装置において、可変容量コンプレッサ8内に液冷媒が滞留していることを検出する液冷媒滞留検出手段と、可変容量コンプレッサ8を使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ前記電動ファン16の起動を遅延させる制御を行う電動ファン制御手段(図4)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクルに可変容量コンプレッサとコンデンサを有し、コンデンサの熱交換面に放熱用の電動ファンを配置した車両用空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クールダウン初期のコンデンサ冷却能力を向上させることを目的とし、冷凍サイクルの起動に応答して冷凍サイクルの高圧圧力にかかわらず、所定時間だけコンデンサ冷却用送風機を高速で作動させる電気回路を備えた自動車用空調装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭59−93160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の自動車用空調装置にあっては、冷凍サイクルがどのような状態であっても、冷凍サイクル状態に関わらず、コンプレッサ起動と同時に電動ファンを高速で作動させるため、コンプレッサに液冷媒溜まりが無い通常状態であれば、高圧圧力が上がらないためクールダウン時には有効ではあるが、自動車を放置している間にクランク室内に液冷媒が溜まることのある可変容量コンプレッサの場合、液冷媒が溜まっていると可変容量コンプレッサの吐出圧が上がらず、可変容量コンプレッサの立ち上がり遅れが懸念される、という問題があった。
【0004】
すなわち、コンプレッサは、吐出圧にて得られる圧縮反力にて立ち上がる。つまり、吐出圧を速やかに上昇させることができれば、コンプレッサを立ち上げることができる。しかし、クランク室内に液冷媒が溜まっている可変容量コンプレッサの場合、コンプレッサ起動と同時に電動ファンを高速で作動させると、コンデンサでの放熱による冷媒液化作用が促進され、可変容量コンプレッサの吐出ポートの下流側に配置されるコンデンサ内の冷媒圧力が上がらない。したがって、可変容量コンプレッサを起動させても、コンデンサ内の冷媒圧力が低いままであるため、可変容量コンプレッサの吐出圧も低いままでしばらく推移し、可変容量コンプレッサの立ち上がりが遅れるし、立ち上がり遅れにより溜まっている液冷媒の排出にも長時間を要する。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、可変容量コンプレッサ内に液冷媒が溜まった場合、コンプレッサの立ち上がり応答を確保し、液冷媒の排出時間を短縮することで、冷凍サイクルの起動性を向上させることができる車両用空調制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、冷凍サイクルに可変容量コンプレッサとコンデンサを有し、前記コンデンサの熱交換面に放熱用の電動ファンを配置した車両用空調制御装置において、
前記可変容量コンプレッサ内に液冷媒が滞留していることを検出する液冷媒滞留検出手段と、
前記可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ前記電動ファンの起動を遅延させる制御を行う電動ファン制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の車両用空調制御装置にあっては、電動ファン制御手段において、可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ電動ファンの起動を遅延させる制御が行われる。
すなわち、可変容量コンプレッサ内に液冷媒が溜まっていた場合、可変容量コンプレッサの起動と同時に電動ファンを起動させないことで、コンデンサでの放熱による冷媒液化作用が抑えられる。このため、コンデンサの冷媒圧力が上昇傾向になり、これに伴ってコンデンサの上流側に配置されている可変容量コンプレッサの吐出圧も上昇傾向となる。したがって、可変容量コンプレッサの吐出圧がコンプレッサ起動後から速やかに上昇し、吐出圧にて得られる圧縮反力により可変容量コンプレッサが応答良く立ち上がり、可変容量コンプレッサ内に溜まっていた液冷媒を短時間にて排出することができる。
この結果、可変容量コンプレッサ内に液冷媒が溜まった場合、コンプレッサの立ち上がり応答を確保し、液冷媒の排出時間を短縮することで、冷凍サイクルの起動性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の車両用空調制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車両用空調制御装置を示す全体システム図である。
実施例1の車両用空調制御装置の冷凍サイクルは、図1に示すように、可変容量コンプレッサ8と、コンデンサ9と、リキッドタンク10と、温度式自動膨脹弁11と、エバポレータ12と、を備えている。
【0010】
前記可変容量コンプレッサ8は、図外のエンジンの回転側との連結をオン・オフできるA/Cクラッチ(図示せず)を有する。A/Cクラッチのオフ時には、エンジンの回転側との連結が切断され、可変容量コンプレッサ8の駆動が停止される。A/Cクラッチのオン時には、エンジンの回転により可変容量コンプレッサ8が駆動され、エバポレータ12から送られてくる低温低圧の気化冷媒を高温高圧の気化冷媒としてコンデンサ9に送る。
また、可変容量コンプレッサ8は、コントロールバルブ13を有する。コントロールバルブ13は、空調コントロールユニット14と情報交換するエンジンコントロールユニット15からの外部制御信号である制御パルス信号のデューティ比によって冷媒の吐出容量を可変にする。なお、可変容量コンプレッサ8の構成についての詳しい説明は後述する。
【0011】
前記コンデンサ9は、図外のラジエータの前面あるいは後面に配置されている。コンデンサ9は、走行風や電動ファン16の風によって、高温高圧の気化冷媒を凝縮点まで冷却して高圧中温の液化冷媒とする。そして、高圧中温の液化冷媒をリキッドタンク10に送る。
【0012】
前記リキッドタンク10は、高圧中温の液化冷媒に含まれる水分やゴミを取り除き、冷媒が円滑に供給できるように溜める。そして、このように溜められた液化冷媒を温度式自動膨脹弁11に送る。
【0013】
前記温度式自動膨脹弁11は、高圧中温の液化冷媒を急激に膨脹させ、低圧低温の霧状の液化冷媒としてエバポレータ12に送る。
【0014】
前記エバポレータ12は、霧状の液化冷媒を、ブロワファン17により車室内へと送られる送風の熱を奪うことによって蒸発させ、低圧低温の気化冷媒とする。そして、低圧低温の気化冷媒を可変容量コンプレッサ8に送る。なお、エバポレータ12は、インストルメントパネル内に配置される空調ユニット18に内蔵される。
【0015】
前記電動ファン16は、ファンモータ19の駆動力によって回転される。ファンモータ19は、エンジンコントロールユニット15からのモータ駆動電圧をPWMモジュール20でPWM(パルス幅変調)された信号によって駆動される。
【0016】
前記ブロワファン17は、回転駆動により内気及び/又は外気を吸い込み、この吸い込んだ送風をエバポレータ12に送り、熱交換により冷風を車室内に吹き出す。なお、ブロワファン17のファンモータは、空調コントロールユニット14からの駆動制御信号によって駆動される。
【0017】
実施例1の車両用空調制御装置の制御系は、図1に示すように、空調コントロールユニット14と、エンジンコントロールユニット15と、双方向通信線21と、車室内温度センサ62と、外気温度センサ63と、日射センサ64と、エバ出口空気温度センサ65と、高圧圧力センサ66と、を備えている。
【0018】
前記空調コントロールユニット14は、双方向通信線21を介してエンジンコントロールユニット15に接続されている。この空調コントロールユニット14には、車室内温度センサ62、外気温度センサ63、日射センサ64、エバ出口空気温度センサ65等からのセンサ情報が入力される。空調コントロールユニット14は、これらセンサ類等からの入力情報に基づいて、ブロワファン17のファンモータ制御やエアミックスドアや各モードドア等のドア開度制御等を行う。
【0019】
前記エンジンコントロールユニット15は、双方向通信線21を介して空調コントロールユニット14に接続されている。このエンジンコントロールユニット15には、高圧圧力センサ66等からのセンサ情報が入力される。エンジンコントロールユニット15は、空調コントロールユニット14に接続されたセンサ類や高圧圧力センサ66等から入力情報に基づいて、可変容量コンプレッサ8の容量制御、電動ファン16の電動ファン制御、エンジン制御、A/Cクラッチ制御等を行う。
【0020】
ここで、エンジンコントロールユニット15で行われる可変容量コンプレッサ8の容量制御は、次のように行われる。各種センサの検出値と温度調整ダイアルにより乗員が設定した目標室内温度に基づき、車両用空調装置からの目標吹き出し温度、目標吹き出し風量等を演算する。この時、目標エバポレータ出口空気温度を求め、更に、目標エバポレータ出口空気温度とエバポレータ出口空気温度検出値の差により可変容量コンプレッサ8のデューティ比を算出する。コントロールバルブ13は、この算出されたデューティ比により可変容量コンプレッサ8の容量を制御する。
【0021】
図2は実施例1の車両用空調制御装置に適用された可変容量コンプレッサの一例を示す断面図である。図3は車両用空調制御装置に適用された可変容量コンプレッサの可変容量制御メカニズムの説明図である。
【0022】
可変容量コンプレッサ8は、図2に示すように、周方向に複数のハウジングボア22aが形成されたハウジング22と、このハウジング22の中心位置に配置され、プーリ23の回転によって回転される回転軸24と、この回転軸24に斜板駆動体25を介して連結された斜板26と、この斜板26の回転に応じて各ハウジングボア22a内を往復移動し、この往復ストロークを斜板26の傾斜角によって可変する複数の冷媒圧縮部材であるピストン27と、ピストン背圧に作用するクランク室圧Pcを変化させ、これで斜板26の傾斜角が可変することによって冷媒の吐出容量を制御するコントロールバルブ13と、を備えている。
【0023】
前記ピストン27は、往復運動によって吸入室50の冷媒をシリンダ室51に吸引し、シリンダ室51で吸引した冷媒を圧縮し、この圧縮した冷媒を吐出室29に吐出する。
【0024】
前記斜板26及びピストン27は、可変容量コンプレッサ8の運転停止時において、吐出室29の高圧圧力と吸入室50の低圧側圧力が均等になると、第1バネ52と第2バネ53のスプリング力によって初期位置(例えば、ミニマムストローク位置、あるいは、ミニマムストローク位置とフルストローク位置の中間位置等)に配置される。
【0025】
前記吐出室29とクランク室30の間は供給通路54によって、クランク室30と吸入室50の間は抽気通路(図示せず)によって、それぞれ連通されている。そして、前記供給通路54の途中位置に、その通路面積を可変できるコントルールバルブ13が配置されている。
【0026】
前記コントロールバルブ13は、図3に示すように、ハウジング22に対して往復移動自在に配置された制御体28を有する。この制御体28は、吐出室29からクランク室30への導入冷媒流量を制御する高圧ボール31と、吸入室50のコンプレッサ吸入側圧力Psが作用されたダイアフラム32と、セットバネ33のバネ力が作用されたバネ受け部34を一体に有し、電磁コイル35の通電によって発生する電磁力を移動方向に受けるように形成されている。電磁コイル35には、エンジンコントロールユニット15からの制御パルス信号のデューティ比による通電が行われ、デューティ比に比例する電磁力が制御体28に作用する。これにより、高圧ボール31の開弁ポイントが可変され、吐出室29からクランク室30への導入冷媒流量を制御し、斜板26の傾斜角が可変される。
【0027】
以上により、エンジンコントロールユニット15がコントロールバルブ13に送る制御パルス信号のデューティ比によって可変容量コンプレッサ8の冷媒の吐出容量が制御される。具体的には、最大容量運転信号、つまりデューティ比をMAX状態(100%)とすると、コントロールバルブ13が閉位置となり、クランク室30の圧力が低下し、斜板26が最大傾斜角で、ピストン27がフルストローク位置側に配置される。最小容量運転信号、つまりデューティ比をMIN状態(0%)とすると、コントロールバルブ13が開位置となり、クランク室30の圧力が上昇し、斜板26が最小傾斜角で、ピストン27がミニマムストローク位置側に配置されることになる。このように実施例1で用いた可変容量コンプレッサ8は、吐出室29からクランク室30への冷媒流量を調整することで冷媒の吐出容量を制御する。
【0028】
図4は実施例1の車両用空調制御装置のエンジンコントロールユニット15において実行される電動ファン制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(電動ファン制御手段)。
【0029】
ステップS1は、コンプレッサ起動か否かを判断する。
ここで、「コンプレッサ起動」は、実施例1のように、A/Cクラッチを有する場合、電磁クラッチOFF→ONによりコンプレッサ起動とする。なお、A/Cクラッチが無いクラッチレスの場合には、デューティ比100%の信号出力によりコンプレッサ起動とする。
ステップS1において、Yes(コンプレッサ起動)と判断された場合は、ステップS2へ移行し、No(コンプレッサ停止)と判断された場合は、ステップS1の判断を繰り返す。
【0030】
ステップS2は、ステップS1でのコンプレッサ起動であるとの判断、あるいは、ステップS5でのエバ直温>T3との判断に続き、電動ファン16のファンモータ19に対しファン停止の信号を出力し、ステップS3へ移行する。
【0031】
ステップS3は、ステップS2での電動ファン停止に続き、外気温度センサ63からの外気温情報(=外気温度情報)と、エバ出口空気温度センサ65からのエバ直温情報(=エバポレータ直後温度情報)が読み込まれる。
【0032】
ステップS4は、ステップS3での温度情報の読み込みに続き、外気温が第2設定温度T2以上で第1設定温度T1以下の範囲内にあるという中間負荷条件が成立するか否かを判断する(液冷媒滞留検出手段)。Yes(T2≦外気温≦T1)と判断された場合はステップS5へ移行し、No(外気温<T2、または、外気温>T1)と判断された場合はステップS6へ移行する。
ここで、第2設定温度T2は、例えば、15℃に設定され、第1設定温度T1は、例えば、25℃に設定される。つまり、負荷条件として、可変容量コンプレッサ8に液冷媒が溜まり易い中間負荷と呼ばれる春(例えば、初夏の時期)や秋(例えば、残暑の時期)であるどうかを、外気温が15℃から25℃の温度域に存在することで判断する。
【0033】
ステップS5は、ステップS4でのT2≦外気温≦T1であるとの判断に続き、エバ直温が第3設定温度T3以下のエバポレータ直後温度条件が成立するか否かを判断する(液冷媒滞留検出手段)。Yes(エバ直温≦T3)と判断された場合はステップS6へ移行し、No(エバ直温>T3)と判断された場合はステップS2へ戻る。
ここで、第3設定温度は、例えば、8℃に設定される。つまり、エバ直温が低いとうことは、可変容量コンプレッサ8には液冷媒の溜まりがなく、冷媒が流れていることであり、冷凍サイクルの起動遅れはないとみなすことができる。これに対し、エバ直温が高いということは、可変容量コンプレッサ8に液冷媒が溜まっていることにより冷媒が足りず、冷凍サイクルが起動遅れ状態であるとみなすことができることによる。
【0034】
ステップS6は、ステップS5でのエバ直温≦T3との判断、あるいは、ステップS4での外気温<T2、または、外気温>T1との判断に続き、電動ファン16のファンモータ19に対しファン作動信号を出力し、ステップS7へ移行する。
【0035】
ステップS7は、ステップS6での電動ファンONに続き、高圧圧力情報等を用いた通常の電動ファン制御が開始される。
【0036】
次に、本発明に至る経緯を説明する。
車両用空調制御装置で、冷凍サイクルのコンプレッサとして、可変容量コンプレッサを用いた場合、例えば、初夏の時期や残暑の時期等のように、昼と夜の温度差が大きな時期の夜間に、放置状態で外に車両を駐車しておくと、可変容量コンプレッサのシリンダ室内に液冷媒が溜まる。
【0037】
その理由は、冷凍サイクルの構成要素のうち、車室内に配置されるエバポレータは、夜になっても高い温度を維持するのに対し、エンジンルーム内に配置される可変容量コンプレッサは、夜になったら外気温の低下に伴って温度が低下する。このため、冷凍サイクルのうち、エバポレータやエバポレータに接続される管路系内の冷媒圧力が高くなり、可変容量コンプレッサやコンプレッサに接続される管路系内の冷媒圧力が低くなる。このように冷媒圧力差が生じると、冷凍サイクルにおいて、圧力が高いエバポレータ側から低いコンプレッサ側へと冷媒が流れ込む冷媒流れが生じ、可変容量コンプレッサのシリンダ室内に液冷媒が溜まるというメカニズムによる。
【0038】
このように、可変容量コンプレッサのシリンダ室内に液冷媒が溜まっている状態で、従来技術にて提案されているように、コンプレッサ起動と同時に電動ファンを高速で作動させると、可変容量コンプレッサの吐出圧が上がらず、可変容量コンプレッサの立ち上がり遅れが懸念される。
【0039】
その理由を説明する。まず、コンプレッサは、吐出圧にて得られる圧縮反力にて立ち上がる。つまり、吐出圧を速やかに上昇させることができれば、コンプレッサを立ち上げることができる。しかし、クランク室内に液冷媒が溜まっている可変容量コンプレッサの場合、コンプレッサ起動と同時に電動ファンを高速で作動させると、コンデンサでの放熱による冷媒液化作用が促進され、可変容量コンプレッサの吐出ポートの下流側に配置されるコンデンサ内の冷媒圧力が上がらない。また、可変容量コンプレッサの場合、ガス化した冷媒を圧縮して圧力を上げる構造であるため、仮に可変容量コンプレッサを起動するときの初期状態をフルストローク位置としても(通常、初期状態はフルストロークではなく、例えばミニマムストローク位置等に設定する場合が多い。)、吐出圧の急激な上昇を望むことができない。
【0040】
したがって、クランク室内部に液冷媒が溜まっている可変容量コンプレッサを起動させても、コンデンサ内の冷媒圧力が低いままであるため、可変容量コンプレッサの吐出圧も低いままでしばらく推移し、可変容量コンプレッサの立ち上がりが遅れるし、立ち上がり遅れにより溜まっている液冷媒の排出に長時間を要する。
この結果、冷凍サイクルが正常に作動する冷凍サイクルの起動タイミングが遅れ、冷風を車室内に吹き出すまでに要する時間も大幅に遅れることになり、例えば、乗員がエアコンを入れても、例えば、エアコンを入れてから1分間以上も冷風が車室内に吹き出されないことがあり、乗員に違和感を与えることになる。
【0041】
本発明者は、クランク室内部に液冷媒が溜まっているとき、可変容量コンプレッサの立ち上がり遅れがあるという問題に対し、コンプレッサは吐出圧を速やかに上昇させることができれば圧縮反力によりコンプレッサを立ち上げることができる点と、コンデンサの冷媒圧力を上げるとこれに伴ってコンプレッサの吐出圧も上昇する点と、走行風の無い停車時には電動ファンのみでコンデンサの高圧圧力をコントロールできる点に着目した。
【0042】
この着目点にしたがって、可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ電動ファンの起動を遅延させる制御を行う構成を採用した。この構成を採用することによって、可変容量コンプレッサ内に液冷媒が溜まった場合、コンプレッサの立ち上がり応答が確保され、液冷媒の排出時間が短縮されることで、冷凍サイクルの起動性を向上させることができる。
【0043】
次に、作用を説明する。
以下、実施例1の車両用空調制御装置における作用を、「外気温度条件不成立時の電動ファン制御作用」、「外気温度条件とエバポレータ直後温度条件が成立時の電動ファン制御作用」、「外気温度条件成立時でエバポレータ直後温度条件が不成立時の電動ファン制御作用」に分けて説明する。
【0044】
[外気温度条件不成立時の電動ファン制御作用]
例えば、昼と夜の温度差が小さな真冬の時期にエアコンを入れた場合、外気温条件は、外気温<T2(例えば、T2=15℃)となる。また、例えば、昼と夜の温度差が小さな真夏の時期にエアコンを入れた場合、外気温条件は、外気温>T1(例えば、T1=25℃)となる。
このため、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まることがない真冬や真夏の時期にエアコンを入れ、可変容量コンプレッサ8を起動させると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6→ステップS7へと進み、ステップS6では、コンプレッサ起動からの遅延時間を待つことなく、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされる。
したがって、例えば、真夏の時期にエアコンを入れると、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされるため、コンデンサ9での冷媒液化が促進され、高圧圧力が上がらず、クールダウン時に有効な電動ファン制御となる。
【0045】
[外気温度条件とエバポレータ直後温度条件が成立時の電動ファン制御作用]
中間負荷と呼ばれる春や秋の時期にエアコンを入れると、ステップS4の外気温条件は成立する。しかし、エアコンの入切を繰り返している場合等であって、エバポレータ直後温度が低い場合には、エバポレータ直後温度条件は、エバ直温≦T3となる。
このため、中間負荷条件は成立しているときであって、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない状況でエアコンを入れ、可変容量コンプレッサ8を起動させると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進み、ステップS6では、コンプレッサ起動からの遅延時間を待つことなく、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされる。
したがって、例えば、春や秋の時期であって、エアコンの入切を繰り返している場合等においては、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされるため、コンデンサ9での冷媒液化が促進され、高圧圧力が上がらず、エアコン入操作に対し応答良く冷風吹き出しが始まる応答の良い冷房運転を行うことができる。
【0046】
[外気温度条件成立時でエバポレータ直後温度条件が不成立時の電動ファン制御作用]
例えば、中間負荷と呼ばれる春や秋の時期に、夜間は自動車を車庫内に駐車させている場合等であって、最初にエアコンの入れた直後のエバポレータ直後温度が高い場合には、エバポレータ直後温度条件は、エバ直温>T3となる。
このため、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない状況であり、中間負荷条件は成立しているが、エバポレータ直後温度が不成立のときにエアコンを入れ、可変容量コンプレッサ8を起動させると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進み、ステップS5からステップS2へ戻り、ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5を繰り返し、ステップS5において、エバポレータ直後温度が成立するとステップS6へ進む。
したがって、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない状況では、コンプレッサ起動直後から冷凍サイクルが起動を開始することで、エバポレータ直後温度が第3設定温度T3以下に低下するまでの僅かな遅延時間を待って、電動ファン16がONとされる。
【0047】
例えば、中間負荷と呼ばれる春や秋の時期に、夜間は自動車を屋外に放置したまま駐車させている場合等であって、エアコンの入れたときのエバポレータ直後温度が高い場合には、エバポレータ直後温度条件は、エバ直温>T3となる。
このため、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっている状況であり、中間負荷条件は成立しているが、エバポレータ直後温度が不成立のときにエアコンを入れ、可変容量コンプレッサ8を起動させると、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進み、ステップS5からステップS2へ戻り、ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5を繰り返し、ステップS5において、エバポレータ直後温度が成立するとステップS6へ進む。
したがって、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっている状況では、この電動ファンOFFの状態としたままで、コンプレッサ起動から、可変容量コンプレッサ8の立ち上がり、液冷媒の排出、冷凍サイクルの起動開始の一連の動作が速やかに行われる。そして、冷凍サイクルの起動開始後、エバポレータ直後温度が第3設定温度T3以下に低下するまでの遅延時間を待って、電動ファン16がONとされる。
【0048】
すなわち、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていた場合、可変容量コンプレッサ8の起動と同時に電動ファン16を起動させないことで、コンデンサ9での放熱による冷媒液化作用が抑えられる。このため、コンデンサ9の冷媒圧力が上昇傾向になり、これに伴ってコンデンサ9の上流側に配置されている可変容量コンプレッサ8の吐出圧も上昇傾向となる。したがって、可変容量コンプレッサ8の吐出圧がコンプレッサ起動後から速やかに上昇し、吐出圧にて得られる圧縮反力により可変容量コンプレッサ8が応答良く立ち上がり、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を短時間にて排出することができる。
【0049】
加えて、コンプレッサ起動後、エバポレータ直後温度条件の成立を待って電動ファン16の作動を開始するようにしているため、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない場合には、最短の遅延時間となり、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっている場合には、より多くの液冷媒が溜まっているほど遅延時間が延びる。つまり、電動ファン16の停止を解除するタイミングを、冷凍サイクルの起動開始を確認することができるエバポレータ直後温度条件により与えているため、コンプレッサ起動から電動ファン16の作動を開始するまでの遅延時間として、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を排出して冷凍サイクルの起動に至るまでの必要時間に一致する最適可変時間を得ることができる。
【0050】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用空調制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0051】
(1) 冷凍サイクルに可変容量コンプレッサ8とコンデンサ9を有し、前記コンデンサ9の熱交換面に放熱用の電動ファン16を配置した車両用空調制御装置において、前記可変容量コンプレッサ8内に液冷媒が滞留していることを検出する液冷媒滞留検出手段と、前記可変容量コンプレッサ8を使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ前記電動ファン16の起動を遅延させる制御を行う電動ファン制御手段(図4)と、を備えたため、可変容量コンプレッサ8内に液冷媒が溜まった場合、コンプレッサの立ち上がり応答を確保し、液冷媒の排出時間を短縮することで、冷凍サイクルの起動性を向上させることができる。
例えば、可変容量コンプレッサ8内に液冷媒が滞留しているとき、従来は1分以上冷凍サイクルが起動しないような場合があったのに対し、電動ファン16の起動を遅延させる制御により、冷凍サイクルが起動するまでの時間を30秒(1分の1/2)〜12秒(1分の1/5)のレベルまで短縮することができた。
【0052】
(2) 前記液冷媒滞留検出手段は、外気温度が中間負荷と呼ばれる温度域(T2≦外気温≦T1)であるという中間負荷条件が成立し(ステップS4でYes)、かつ、冷凍サイクル中のエバポレータ12の出口空気温度が設定温度以下(エバ直温≦T3)であるというエバポレータ直後温度条件が不成立である(ステップS5でNo)ことにより、可変容量コンプレッサ8内への液冷媒滞留を予測検出するため、既存のセンサを流用した低コストの検出手段としながら、季節的に液冷媒滞留がみられる春と秋の時期に限定し、かつ、冷凍サイクルが起動していることを確認できるエバポレータ直後温度条件を加えたことで、液冷媒の滞留が解消されたタイミングを精度良く予測検出することができる。
【0053】
(3) 前記電動ファン制御手段(図4)は、前記可変容量コンプレッサ8を使った冷凍サイクル起動時、中間負荷条件が成立し(ステップS4でYes)、かつ、冷凍サイクル中のエバポレータ12の出口空気温度が設定温度以下であるというエバポレータ直後温度条件が不成立(ステップS5でNo)である間は前記電動ファン16の停止を維持し、中間負荷条件が成立したままで(ステップS4でYes)エバポレータ直後温度条件が成立に移行すると(ステップS5でYes)前記電動ファン16を起動させる制御を行う(ステップS6)ため、コンプレッサ起動から電動ファン16の作動を開始するまでの遅延時間として、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を排出して冷凍サイクルの起動に至るまでの必要時間に一致する最適可変時間を得ることができる。
【0054】
(4) 前記電動ファン制御手段(図4)は、前記可変容量コンプレッサ8を使った冷凍サイクル起動時、中間負荷条件が不成立であると(ステップS4でNo)、直ちに前記電動ファン16を起動させる制御(ステップS6)を行うため、真冬や真夏の時期にエアコンを入れると、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされ、クールダウン要求に対して有効な電動ファン制御とすることができる。
【実施例2】
【0055】
実施例2は、実施例1では検出温度に基づいて電動ファン制御を行う例を示したが、高圧圧力差の判別に基づいて電動ファン制御を行うようにした例である。
【0056】
まず、構成を説明する。
図5は実施例2の車両用空調制御装置のエンジンコントロールユニット15において実行される電動ファン制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(電動ファン制御手段)。
なお、ステップS21,ステップS22,ステップS26,ステップS27の各ステップは、図4のフローチャートのステップS1,ステップS2,ステップS6,ステップS7の各ステップと同様の処理を行うステップであるため、説明を省略する。
【0057】
ステップS23は、ステップS22での電動ファン停止に続き、高圧圧力センサ66からのA/CクラッチON後の高圧圧力情報と、A/CクラッチOFF時に読み込み記憶されていた高圧圧力情報が読み込み、ステップS24へ移行する。
なお、実施例2のように、A/Cクラッチを有する場合、電磁クラッチのON時とOFF時の高圧圧力情報を読み込むが、A/Cクラッチが無いクラッチレスの場合には、デューティ比100%後の高圧圧力情報とデューティ比0%時の高圧圧力情報を読み込む。
【0058】
ステップS24は、ステップS23での高圧圧力情報の読み込みに続き、A/CクラッチON後の高圧圧力から、A/CクラッチOFF時の高圧圧力を差し引くことにより高圧圧力差を算出し、ステップS25へ移行する。
【0059】
ステップS25は、ステップS24での高圧圧力差の算出に続き、算出された高圧圧力差が設定圧力差ΔP以上であるか否かを判断する(液冷媒滞留検出手段)。Yes(高圧圧力差≧ΔP)と判断された場合はステップS26へ移行し、No(高圧圧力差<ΔP)と判断された場合はステップS22へ戻る。
ここで、設定圧力差ΔPは、例えば、高圧圧力差が低いと液冷媒の排出が無く、起動遅れが生じていると判断することができ、また、高圧圧力差が高いと液冷媒が無く正常に稼働していて、起動遅れが無いと判断することができる。よって、液冷媒が無く正常に稼働していて、起動遅れが無いと判断することができる値に設定される。
なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0060】
次に、作用を説明する。
以下、実施例2の車両用空調制御装置における高圧圧力差条件による電動ファン制御作用について説明する。
可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない状況であっても液冷媒が溜まっている状況であっても、エアコンを入れると、可変容量コンプレッサ8の起動直後は、高圧圧力差<ΔPとなる。
【0061】
したがって、可変容量コンプレッサ8を起動させると、図5のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25へと進み、ステップS25からステップS22へ戻り、ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25を繰り返し、ステップS25において、高圧圧力差条件(高圧圧力差≧ΔP)が成立するとステップS26へ進む。
【0062】
例えば、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まることがない真冬や真夏の時期にエアコンを入れた場合、あるいは、春や秋の時期であっても、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない状況では、コンプレッサ起動から直ちにコンプレッサが立ち上がり、冷凍サイクルが正常に起動を開始することで、短時間にて高圧圧力差条件が成立する。
【0063】
したがって、例えば、真夏の時期にエアコンを入れると、コンプレッサ起動と同時に電動ファン16がONとされるため、コンデンサ9での冷媒液化が促進され、高圧圧力が上がらず、クールダウン時に有効な電動ファン制御となる。
【0064】
例えば、中間負荷と呼ばれる春や秋の時期に、夜間は自動車を屋外に放置したまま駐車させている場合等であって、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっている状況でエアコンを入れると、電動ファンOFFの状態としたままであるため、コンプレッサ起動から、可変容量コンプレッサ8の立ち上がり、液冷媒の排出、冷凍サイクルの起動開始の一連の動作が速やかに行われる。
【0065】
すなわち、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていた場合、可変容量コンプレッサ8の起動と同時に電動ファン16を起動させないことで、コンデンサ9での放熱による冷媒液化作用が抑えられる。このため、コンデンサ9の冷媒圧力が上昇傾向になり、これに伴ってコンデンサ9の上流側に配置されている可変容量コンプレッサ8の吐出圧も上昇傾向となる。したがって、可変容量コンプレッサ8の吐出圧がコンプレッサ起動後から速やかに上昇し、吐出圧にて得られる圧縮反力により可変容量コンプレッサ8が応答良く立ち上がり、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を短時間にて排出することができる。
【0066】
加えて、コンプレッサ起動後、高圧圧力差条件の成立を待って電動ファン16の作動を開始するようにしているため、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっていない場合には、最短の遅延時間となり、可変容量コンプレッサ8のシリンダ室51内に液冷媒が溜まっている場合には、より多くの液冷媒が溜まっているほど遅延時間が延びる。つまり、電動ファン16の停止を解除するタイミングを、冷凍サイクルの起動開始を確認することができる高圧圧力差条件により与えているため、コンプレッサ起動から電動ファン16の作動を開始するまでの遅延時間として、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を排出して冷凍サイクルの起動に至るまでの必要時間に一致する最適可変時間を得ることができる。なお、他の作用は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0067】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用空調制御装置にあっては、実施例1の(1)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0068】
(5) 前記液冷媒滞留検出手段は、コンプレッサ起動後のコンデンサ出口側高圧圧力とコンプレッサ起動前のコンデンサ出口側高圧圧力の高圧圧力差が設定圧力差ΔP以上という高圧圧力差条件の不成立(ステップS25でNo)により、可変容量コンプレッサ8内への液冷媒滞留を予測検出するため、既存のセンサを流用した低コストの検出手段としながら、冷凍サイクルが起動していることを確認できる高圧圧力差条件により、液冷媒の滞留が解消されたタイミングを精度良く予測検出することができる。
【0069】
(6) 前記電動ファン制御手段(図5)は、前記可変容量コンプレッサ8を使った冷凍サイクル起動時、高圧圧力差条件が不成立(ステップS25でNo)である間は前記電動ファン16の停止を維持し、高圧圧力差条件が成立(ステップS25でYes)に移行すると前記電動ファン16を起動させる制御を行うため、コンプレッサ起動から電動ファン16の作動を開始するまでの遅延時間として、可変容量コンプレッサ8内に溜まっていた液冷媒を排出して冷凍サイクルの起動に至るまでの必要時間に一致する最適可変時間を得ることができる。
【0070】
以上、本発明の車両用空調制御装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0071】
実施例1,2では、A/Cクラッチ付きの可変容量コンプレッサ8の例を示したが、クラッチレスの可変容量コンプレッサやメカニカルコントロールバルブを採用したクラッチ付きの可変容量コンプレッサにも適用できる。
【0072】
実施例1,2では、液冷媒滞留検出手段として、外気温度及びエバポレータ直後温度の検出による手段と高圧圧力差の検出による手段の例を示したが、例えば、温度と圧力の両方を用いて液冷媒の滞留を検出する手段としても良いし、直接的に可変容量コンプレッサ内に液冷媒が滞留していることを検出する手段としても良い。
【0073】
実施例1,2では、電動ファン制御手段として、液冷媒滞留の検出条件と電動ファンの起動開始条件を分けることなく、液冷媒が排除され、冷凍サイクルが起動していることが想定される1つの条件を用いて電動ファンの起動を遅延させる制御例を示した。しかし、例えば、コンプレッサ起動後、液冷媒が滞留しているという所定の条件が成立すると、電動ファンの停止を維持し、少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間を温度情報や圧力情報により決め、電動ファンを停止した後、設定時間の経過を待って電動ファンの起動を開始するようなタイマー管理による電動ファン制御としても良い。
【0074】
要するに、可変容量コンプレッサ内に液冷媒が滞留していることを検出する液冷媒滞留検出手段と、可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ前記電動ファンの起動を遅延させる制御を行う電動ファン制御手段と、を備えたものであれば、実施例1,2に限られることはない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、コンプレッサの吐出圧を上げて液冷媒の排出時間を短縮するのが目的であるため、コントロールバルブの制御方式は、実施例1,2に示す制御方式に限られることはなく、様々な制御方式でも適用可能である。要するに、冷凍サイクルに可変容量コンプレッサとコンデンサを有し、コンデンサの熱交換面に放熱用の電動ファンを配置した車両用空調制御装置であれば適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1の車両用空調制御装置を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の車両用空調制御装置に適用された可変容量コンプレッサの一例を示す断面図である。
【図3】車両用空調制御装置に適用された可変容量コンプレッサの可変容量制御メカニズムの説明図である。
【図4】実施例1の車両用空調制御装置のエンジンコントロールユニット15において実行される電動ファン制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例2の車両用空調制御装置のエンジンコントロールユニット15において実行される電動ファン制御処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
8 可変容量コンプレッサ
9 コンデンサ
10 リキッドタンク
11 温度式自動膨脹弁
12 エバポレータ
13 コントロールバルブ
14 空調コントロールユニット
15 エンジンコントロールユニット
16 電動ファン
19 ファンモータ
63 外気温度センサ
65 エバ出口空気温度センサ
66 高圧圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルに可変容量コンプレッサとコンデンサを有し、前記コンデンサの熱交換面に放熱用の電動ファンを配置した車両用空調制御装置において、
前記可変容量コンプレッサ内に液冷媒が滞留していることを検出する液冷媒滞留検出手段と、
前記可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、液冷媒滞留が検出されると少なくとも液冷媒の排出に要する設定時間だけ前記電動ファンの起動を遅延させる制御を行う電動ファン制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用空調制御装置において、
前記液冷媒滞留検出手段は、外気温度が中間負荷と呼ばれる温度域であるという中間負荷条件が成立し、かつ、冷凍サイクル中のエバポレータの出口空気温度が設定温度以下であるというエバポレータ直後温度条件が不成立であることにより、可変容量コンプレッサ内への液冷媒滞留を予測検出することを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用空調制御装置において、
前記電動ファン制御手段は、前記可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、中間負荷条件が成立し、かつ、冷凍サイクル中のエバポレータの出口空気温度が設定温度以下であるというエバポレータ直後温度条件が不成立である間は前記電動ファンの停止を維持し、中間負荷条件が成立したままでエバポレータ直後温度条件が成立に移行すると前記電動ファンを起動させる制御を行うことを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載された車両用空調制御装置において、
前記電動ファン制御手段は、前記可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、中間負荷条件が不成立であると、直ちに前記電動ファンを起動させる制御を行うことを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載された車両用空調制御装置において、
前記液冷媒滞留検出手段は、コンプレッサ起動後のコンデンサ出口側高圧圧力とコンプレッサ起動前のコンデンサ出口側高圧圧力の高圧圧力差が設定圧力差以上という高圧圧力差条件の不成立により、可変容量コンプレッサ内への液冷媒滞留を予測検出することを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載された車両用空調制御装置において、
前記電動ファン制御手段は、前記可変容量コンプレッサを使った冷凍サイクル起動時、高圧圧力差条件が不成立である間は前記電動ファンの停止を維持し、高圧圧力差条件が成立に移行すると前記電動ファンを起動させる制御を行うことを特徴とする車両用空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−302721(P2008−302721A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149076(P2007−149076)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】