説明

車両用空調装置のエアフィルタ構造

【課題】エアフィルタをフィルタ挿入孔に挿入する場合に、フィルタ部材に変形や損傷を与えることなく、しかも、作業性を良好にする。
【解決手段】エアフィルタ構造1は、車両用空調装置の空気通路Rを構成するケーシング101と、ケーシング101の空気通路Rに配設されるエアフィルタ10とを備えている。ケーシング101の壁部には、フィルタ挿入孔11が形成されている。フィルタ挿入孔11からエアフィルタ10を空気通路Rに挿入可能に構成されている。エアフィルタ10は、濾材31,41をそれぞれ有する第1及び第2フィルタ部材30,40を備えている。第1フィルタ部材30の濾材31は、第2フィルタ部材40の濾材41の厚み方向一側の面にスライド可能に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に搭載される車両用空調装置のエアフィルタ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に搭載される車両用空調装置には、空気を濾過するためのエアフィルタが設けられている。
【0003】
エアフィルタの濾過性能向上と長寿命化の両立を図るためには、濾過面積をできるだけ大きく確保すべく大きな濾材とするのが好ましい。ところが、エアフィルタは定期的な交換が必要であり、交換時に、空調装置の周囲に車両側の機器が搭載されている場合にはエアフィルタが大きいと交換作業が困難になる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1のエアフィルタ構造では、ケーシング内に配設されるフィルタを2つのフィルタ部材に分割し、一方のフィルタ部材をケーシングのフィルタ挿入孔からケーシング内に挿入してケーシング内に設けられているガイドに沿って押し上げた後、他方のフィルタ部材をフィルタ挿入孔から挿入するようにしている。
【0005】
特許文献1のものでは、初めに挿入したフィルタ部材をケーシング内のガイドで案内するようにしているが、作業者は目視できない状況なので、フィルタ部材をガイドに沿わせること自体が困難である。また、2回分の挿入作業が必要で交換作業が煩雑である。
【0006】
この特許文献1に対し、例えば、特許文献2、3では、エアフィルタの濾材を縮めてフィルタ挿入孔からケーシング内に挿入した後、ケーシング内で展開させるようにしており、これによれば、ガイドに沿わせる作業や、複数回の挿入作業が不要になるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−1142号公報
【特許文献2】特開2010−855号公報
【特許文献3】実用新案登録第256600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2、3のエアフィルタ構造では、濾材を縮めた後、展開するようにしているが、濾材を一旦縮めてしまうと、その縮まった形状が一部に残ってしまい、後に所期の形状で展開しない場合が考えられ、空気の濾過性能に悪影響を与えてしまう恐れがある。
【0009】
また、濾材を縮めながらフィルタ挿入孔に挿入する際に、濾材に無理な力がかかって濾材が損傷する恐れもある。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エアフィルタをフィルタ挿入孔に挿入する場合に、濾材に永久変形や損傷を与えることなく、しかも、作業性を良好にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、エアフィルタが第1及び第2フィルタ部材を備えるものとし、第1フィルタ部材の濾材を第2フィルタ部材の濾材に対してスライド可能に配置した。
【0012】
第1の発明は、車両用空調装置の空気通路を構成する空気通路構成部材と、上記空気通路構成部材の空気通路に配設されるエアフィルタとを備え、上記空気通路構成部材の壁部には、該壁部を貫通するフィルタ挿入孔が形成され、該フィルタ挿入孔から上記エアフィルタを上記空気通路に挿入可能に構成された車両用空調装置のエアフィルタ構造において、上記エアフィルタは、濾材を有する第1及び第2フィルタ部材を備え、上記第1フィルタ部材の濾材は、上記第2フィルタ部材の濾材の厚み方向一側の面に、該面に沿ってスライド可能に配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、第1フィルタ部材の濾材が第2フィルタ部材の濾材の厚み方向に重なることになるので、濾過面積の大きな濾材を小さくしておくことが可能になり、空調装置の周囲に様々な機器等が配設されている状況下でエアフィルタをフィルタ挿入孔から空気通路へ容易に挿入可能になる。挿入前には第1及び第2フィルタ部材の濾材を単に重ねておけばよいので、従来例のように縮めたり、無理な力をかけずに済む。
【0014】
そして、空気通路への挿入後には、第1フィルタ部材の濾材を第2フィルタ部材の濾材に沿ってスライドさせることで、濾過面積の大きな濾材が得られる。第1フィルタ部材の濾材をスライドさせる際、第2フィルタ部材の濾材が第1フィルタ部材の濾材の案内として機能することになるので、作業者は目視できない状況でも作業が簡単に行える。
【0015】
また、空気通路内のエアフィルタを取り出す際には、第1フィルタ部材の濾材と第2フィルタ部材の濾材とが重るように第1フィルタ部材の濾材をスライドさせることで濾材が小さくなり、容易に取り出すことが可能になる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、第1及び第2フィルタ部材の濾材には、プリーツ形状となるように複数の折り目が成形されており、上記第1フィルタ部材の濾材は、該濾材のプリーツ形状と上記第2フィルタ部材の濾材のプリーツ形状とが略一致するように、かつ、該第2フィルタ部材の濾材に対して折り目の延びる方向にスライド可能に重ね合わされていることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、第1フィルタ部材の濾材を第2フィルタ部材の濾材の厚み方向に重ねて両フィルタ部材を空気通路に挿入した状態で第1フィルタ部材の濾材をスライドさせる際、第2フィルタ部材の濾材の折り目の延びる方向にスライドさせればよいので、第1フィルタ部材の濾材を所定方向に確実に、かつ、容易にスライドさせることが可能になる。
【0018】
また、空気通路内のエアフィルタを取り出す際にも、第1フィルタ部材の濾材を同様に容易にスライドさせて第2フィルタ部材の濾材と重ねることが可能になる。
【0019】
第3の発明は、第1または2の発明において、空気通路構成部材は、フィルタ挿入孔を開閉するカバー部材を備え、第1フィルタ部材には、該第1フィルタ部材が空気通路に配置された状態でフィルタ挿入孔側となる部位に被係合部が設けられ、上記カバー部材には、上記第1フィルタ部材の被係合部に係合する係合部が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
この構成によれば、第1及び第2フィルタ部材の濾材を重ね合わせた状態でフィルタ挿入孔から挿入すると、第1フィルタ部材の被係合部がフィルタ挿入孔側に位置することなる。この被係合部は、カバー部材の係合部に係合するので、カバー部材と第1フィルタ部材とを一体化することが可能になる。これにより、カバー部材を用いて第1フィルタ部材の濾材をスライドさせることが可能になる。
【0021】
第4の発明は、第3の発明において、空気通路構成部材には、カバー部材をフィルタ挿入孔の開閉方向に案内するための案内部が設けられ、上記案内部の案内方向は、第1フィルタ部材の濾材のスライド方向であることを特徴とするものである。
【0022】
この構成によれば、カバー部材の案内方向が第1フィルタ部材の濾材のスライド方向であるので、カバー部材の係合部を第1フィルタ部材の被係合部に係合させた状態でカバー部材を開閉方向に操作するだけで、第1フィルタ部材の濾材をスライドさせることが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、エアフィルタが第1及び第2フィルタ部材を備えるものとし、第1フィルタ部材の濾材を第2フィルタ部材の濾材に厚み方向に重ねた状態でスライド可能にしたので、エアフィルタをフィルタ挿入孔から空気通路に挿入する場合に、濾材に変形や損傷を与えることなく、しかも、作業性を良好にすることができる。
【0024】
第2の発明によれば、第1フィルタ部材の濾材のプリーツ形状と第2フィルタ部材の濾材のプリーツ形状とを略一致させ、第1フィルタ部材の濾材を、第2フィルタ部材の濾材に対して折り目の延びる方向にスライド可能に重ね合わせたので、第1フィルタ部材の濾材を所定方向にスライドさせる作業を確実に、かつ、容易に行うことができ、作業性をより一層良好にできる。
【0025】
第3の発明によれば、フィルタ挿入孔を開閉するカバー部材を用いて第1フィルタ部材の濾材をスライドさせることができるので、作業性をより一層良好にできる。
【0026】
第4の発明によれば、カバー部材をフィルタ挿入孔の開閉方向に案内するための案内部を設け、この案内部によるカバー部材の案内方向を第1フィルタ部材の濾材のスライド方向としたので、カバー部材の開閉動作に連動させて第1フィルタ部材の濾材をスライドさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態にかかる車両用空調装置の断面斜視図である。
【図2】実施形態にかかる車両用空調装置の部分断面図である。
【図3】縮小状態のエアフィルタをケーシングに収容した状態を示す図1相当図である。
【図4】縮小状態のエアフィルタをケーシングに収容した状態を示す図2相当図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】図4におけるVI−VI線断面図である。
【図7】エアフィルタの下部及びその近傍を拡大して示す断面図である。
【図8】縮小状態のエアフィルタをケーシングに収容する前の状態を示す図1相当図である。
【図9】カバー部材の取り付け途中を示す図1相当図である。
【図10】カバー部材の取り付け途中を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用空調装置のフィルタ構造1を示すものである。車両用空調装置100は、図示しないが例えば自動車の車室内に配設されたインストルメントパネル内に搭載されるようになっている。この空調装置100は、冷却用及び加熱用熱交換器(図示せず)を収容する樹脂製のケーシング101を備えている。ケーシング101には、図示しないが、空調用空気を導入するための導入口と、調和空気の吹出口とが形成されている。また、ケーシング101の内部には、導入口から吹出口まで延びる空気通路Rが形成されており、導入口から導入された空調用空気は空気通路Rを流れる間に上記熱交換器によって温度調節されて吹出口から車室の各部に供給される。上記ケーシング101は本発明の空気通路構成部材である。
【0030】
フィルタ構造1は、ケーシング101と、ケーシング101内に配設されるエアフィルタ10とを備えている。ケーシング101の空気通路Rにおける熱交換器よりも上流側には、エアフィルタ10を配設するためのフィルタ配設部R1が設けられている。このフィルタ配設部R1を囲むケーシング101の周壁部は、図2に示すように、断面が略矩形状とされており、上壁部101a、左側壁部101b、右側壁部101c及び底壁部101dを備えている。
【0031】
エアフィルタ10の上下寸法は、フィルタ配設部R1の上下寸法と略同じに設定され、また、エアフィルタ10の左右寸法は、フィルタ配設部R1の左右寸法と略同じに設定されている。そして、エアフィルタ10は、フィルタ配設部R1を横切るように配置されて空調用空気の略全量を濾過するようになっている。
【0032】
尚、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両左側を単に「左」といい、車両右側を単に「右」というものとする。
【0033】
図3及び図4に示すように、ケーシング101の右側壁部101cには、該右側壁部101cを貫通するフィルタ挿入孔11が形成されている。フィルタ挿入孔11は、カバー部材12によって開閉されるようになっている。
【0034】
フィルタ挿入孔11は、右側壁部101cの上下方向中央部近傍から下端部まで延びる上下方向に長い略矩形状に形成されている。つまり、フィルタ挿入孔11の上下寸法は、エアフィルタ10の上下寸法よりも短く、エアフィルタ10の上下寸法の約1/2程度に設定されている。その理由は、ケーシング101外部の右側壁部101cの上側近傍には、車両側の他の機器が配置されており、その機器の存在によってケーシング101の上側からはエアフィルタ10の挿入や取り出しができないためである。
【0035】
フィルタ挿入孔11の前縁部及び後縁部は、上下方向に直線状に、かつ、互いに略平行に延びている。フィルタ挿入孔11の上縁部は、前後方向に略直線状に延びている。フィルタ挿入孔11の下部は、底壁部101dの右端部に亘って形成されている。
【0036】
右側壁部101c外面におけるフィルタ挿入孔11の前縁部には、カバー部材12を開閉方向である上下方向に案内するための前側レール(案内部)13が設けられている。前側レール13は、フィルタ挿入孔11の前縁部に沿って上下方向に延びており、下縁部が、フィルタ挿入孔11の上下方向中間部に位置し、フィルタ挿入孔11の下部には、前側レール13が形成されない領域がある。
【0037】
前側レール13は、ケーシング101外へ突出した後、その先端側が前側へ向けて折り曲げられており、水平方向の断面形状が略L字状となっている。また、右側壁部101c外面におけるフィルタ挿入孔11の後縁部には、前側レール13と同様に、カバー部材12を案内するための後側レール(案内部)14が該前側レール13と略平行に設けられている。尚、前側及び後側レール13,14の一方を省略することも可能である。
【0038】
カバー部材12は、フィルタ挿入孔11よりも大型の矩形板状に形成された樹脂材からなるものである。カバー部材12の前縁部には、上記前側レール13が嵌る前溝16が形成されている。前溝16は、前側レール13の水平方向の断面形状に対応した略L字状の断面を有している。また、カバー部材12の後縁部には、同様に上記後側レール14が嵌る後溝17が形成されている。これら前溝16及び後溝17は、互いに略平行に延びている。前溝16及び後溝17の上端部は開放されており、この上端の開放部分から前側及び後側レール13,14の下端部を前溝16及び後溝17に挿入することができるようになっている。
【0039】
前側及び後側レール13,14が前溝16及び後溝17に嵌った状態で、カバー部材12は、上下方向にのみ移動可能となり、前後方向や左右方向には移動不能となる。
【0040】
カバー部材12の上部近傍には、摘み部18がケーシング101外へ突出するように形成されている。摘み部18は、カバー部材12をケーシング101に取り付ける際に作業者が指で摘んで操作するためのものであり、カバー部材12の開閉方向(上下方向)と略直交する方向(水平方向)に延びる厚肉板状に形成されている。図4や図7に示すように、摘み部18の内部には、中空部Sが設けられており、この中空部Sは、カバー部材12におけるケーシング101内側の面に開口している。
【0041】
図4に示すように、カバー部材12の下端部には、左側へ延出する延出部20が形成されている。この延出部20は、フィルタ挿入孔11の下端部を下方から閉塞するための部分であり、閉塞状態でケーシング101の底壁部101d外面に当接するようになっている。
【0042】
カバー部材12におけるケーシング101内側の面には、ケーシング101内側へ向けて突出する突出部21が設けられている。突出部21は、上下方向に延びており、その上端部21aは、後述するエアフィルタ10の第1枠状部材32に下側から当接するようになっている。
【0043】
図1及び図2に示すように、上記カバー部材12を上端位置まで移動させると、フィルタ挿入孔11が完全に閉じられる全閉位置となり、一方、図9及び図10に示すように、カバー部材12を下端位置まで移動させると、フィルタ挿入孔11が開放された開放位置となる。カバー部材12は、全閉位置にあるときに、図示しないが周知の係合爪等がケーシング101の一部に係合して全閉状態が維持されるようになっている。
【0044】
図2に示すように、エアフィルタ10は、第1フィルタ部材30と第2フィルタ部材40とを備えている。第1フィルタ部材30は、空気を濾過するための第1濾材31と、第1濾材31を保持する第1枠状部材32とを備えている。また、第2フィルタ部材40は、第1フィルタ部材30と同様に、第2濾材41と、第2枠状部材42とを備えている。
【0045】
図5及び図6に示すように、第1濾材31は、例えば薄い不織布等をプリーツ成形してなるものである。プリーツ成形とは、多数の山及び谷が交互に連続するように多数の折り目を付ける成形である。図2に示すように、第1濾材31は、空気の通過方向から見て左右方向に長い略矩形状をなしている。第1濾材31の上下寸法は、フィルタ挿入孔11の上下寸法よりも短く設定されている。
【0046】
第1枠状部材32は、第1濾材31よりも変形しにくい樹脂材を成形してなり、第1濾材31の変形を抑制するためのものである。第1枠状部材32は、全体として下方に開放する略コ字状をなし、第1濾材31の上縁部に沿って左右方向に延びる上板部32aと、上板部32aの左端部から第1濾材31の左側縁部に沿って下方向に延びる左板部32bと、上板部32aの右端部から第1濾材31の右側縁部に沿って下方向に延びる右板部32cとを備えている。第1濾材31の上縁部、左右両側縁部は、第1枠状部材32の上板部32a、左右両板部32b,32cに固着されている。
【0047】
第1枠状部材32の左板部32bは、ケーシング101の左側壁部101bの内面に沿って延び、また、右板部32cは、ケーシング101の右側壁部101cの内面に沿って延びるように形成されている。また、第1枠状部材32の上板部32aは、ケーシング101の上壁部101aの内面に沿って延びるように形成されている。
【0048】
第1枠状部材32の上下寸法は、フィルタ挿入孔11の上下寸法よりも短く設定されている。また、第1枠状部材32の前後寸法は、フィルタ挿入孔11の前後寸法よりも短く設定されている。
【0049】
図3及び図4に示すように、第1枠状部材32の右板部32cの外面には、突板部32dが形成されている。突板部32dは、右板部32cの下側に位置付けられている。突板部32dの厚み寸法は、カバー部材12の摘み部18の中空部Sの上下寸法よりも若干短く設定され、また、突板部32dの前後寸法は、摘み部18の中空部Sの前後寸法よりも若干短く設定されている。つまり、突板部32dは、カバー部材12の摘み部18の中空部Sに対し、その左側(開放側)から挿入可能となっている。挿入状態では、カバー部材12の摘み部18が突板部32dに係合して両者が一体化する。これにより、カバー部材12を上下動させることによって第1枠状部材32及び第1濾材31を同時に上下動させることが可能になる。突板部32dの配設位置は、カバー部材12を全閉位置としたときに、図2に示すように第1枠状部材32の上板部32aがケーシング101の上壁部101aの内面に近接するように設定されている。
【0050】
また、図10に示すように、カバー部材12の摘み部18が突板部32dに係合した状態で、カバー部材12の突出部21の上端部21aが第1枠状部材32の右板部32cの下端部に下方から当接するようになっている。
【0051】
図5及び図6に示すように、第2濾材41も第1濾材31と同様にプリーツ成形され、略矩形状とされている。図2に示すように、第2濾材41の上下寸法は、第1濾材31の上下寸法よりも短めに設定されている。
【0052】
第2枠状部材42は、第1枠状部材32と同様な樹脂材を成形してなるものであり、全体として上方に開放する略コ字状をなし、第2濾材41の下縁部に沿って左右方向に延びる下板部42aと、下板部42aの左端部から第2濾材41の左側縁部に沿って上方向に延びる左板部42bと、下板部42aの右端部から第2濾材41の右側縁部に沿って上方向に延びる右板部42cとを備えている。第2濾材41の下縁部、左右両側縁部は、第2枠状部材42の下板部42a、左右両板部42b,42cに固着されている。
【0053】
第2枠状部材42の左板部42b及び右板部42cは、第1枠状部材32の左板部32b及び右板部32cの間に嵌入されている。第2枠状部材42の左板部42bは、第1枠状部材32の左板部32b内面に沿って延び、第2枠状部材42の右板部42cは、第1枠状部材32の右板部32c内面に沿って延びている。
【0054】
上記第1枠状部材32の内部に第2枠状部材42を配置した状態で、図5及び図6に示すように、第1濾材31は、第2濾材41の前側の面に沿うように配置され、第1濾材31の山が第2濾材41の谷に嵌り、第1濾材31の谷に第2濾材41の山が嵌っている。つまり、第1濾材31は、第1濾材31のプリーツ形状と第2濾材41のプリーツ形状とが略一致するように配置されている。この状態で、第1濾材31は第2濾材41に接触しているだけであり、第2濾材41の折り目の延びる方向(上下方向)にスライド可能となっている。
【0055】
次に、上記のように構成された車両用空調装置のフィルタ構造1において新品のエアフィルタ10を取り付ける場合について説明する。尚、古いエアフィルタはケーシング101から予め取り出しているものとする。
【0056】
新品のエアフィルタ10は、図8に示すように、第1枠状部材32の内側に第2枠状部材42が嵌入されて縮小状態となっている。縮小状態では、第1濾材31と第2濾材41との大部分が互いに厚み方向に重なっている。
【0057】
エアフィルタ10を縮小状態のまま、ケーシング101のフィルタ挿入孔11からフィルタ配設部R1へ挿入していく。このようにエアフィルタ10を縮小状態のままフィルタ配設部R1に挿入できるので、ケーシング101の周囲に他の機器が存在していても、濾過面積の広いエアフィルタ10をフィルタ配設部R1へ挿入できる。
【0058】
図3及び図4に示すように、縮小状態のエアフィルタ10がフィルタ配設部R1へ挿入されると、エアフィルタ10の突板部32dがケーシング101のフィルタ挿入孔11内に位置する。このとき、突板部32dの突出長さをフィルタ挿入孔11からケーシング101の外部へ飛び出すように設定しておくのが好ましい。
【0059】
エアフィルタ10の挿入後、図7に示すように、カバー部材12をエアフィルタ10に接近させていき、図10に示すように、カバー部材12の摘み部18の中空部Sにエアフィルタ10の突板部32dを挿入する。これにより、カバー部材12の摘み部18が突板部32dに係合して一体化する。
【0060】
しかる後、図9に示すように、カバー部材12を上方へ移動させていきながら、カバー部材12の前溝16及び後溝17に、ケーシング101の前側レール13及び後側レール14の下端部を挿入する。前溝16及び後溝17に前側レール13及び後側レール14を挿入していくと、カバー部材12は、両レール13,14によって上方へ案内されるので、作業者は目視することなくカバー部材12を閉方向に移動させることができる。
【0061】
カバー部材12を上方へ移動させていくと、エアフィルタ10の第1枠状部材32がカバー部材12と一体化しているので、第1濾材31と共に上方へ移動していく。このとき、図10に示すように、カバー部材12の突出部21の上端部21aが第1枠状部材32の右板部32cの下端部に下方から当接しているので、右板部32cの下端部にも上向きの力を加えることができ、第1枠状部材32が安定する。尚、第2濾材41及び第2枠状部材42は自重により下に留まったままとなるが、第2枠状部材42をケーシング101の内面に係合させるようにしてもよい。
【0062】
カバー部材12の動きに連動して第1濾材31は、第2濾材41に沿って上方へ移動していく。図2に示すように、カバー部材12が全閉状態になると、フィルタ挿入孔11がカバー部材12で閉塞されるとともに、第1枠状部材32が上端位置になってケーシング101の上壁部101a内面に近接し、さらに、第1濾材31が上端位置になり、エアフィルタ10が展開した状態になる。
【0063】
また、カバー部材12は、その係合爪がケーシング101に係合して全閉状態が維持され、これにより、エアフィルタ10が展開したままになる。
【0064】
以上のようにしてエアフィルタ10がケーシング101に装着される。
【0065】
エアフィルタ10が展開した状態では第1濾材31の下端部と第2濾材41の上端部とが前後方向(空気の流通方向)に重なっている。これにより、第1濾材31と第2濾材41との間から未濾過の空気が下流側へ洩れるのを抑制することができる。
【0066】
また、古くなったエアフィルタ10をケーシング101から取り出す際には、カバー部材12のケーシング101への係合状態を解除した後、カバー部材12を下へ移動させる。これにより、第1フィルタ部材30が下方へ移動していき、エアフィルタ10が縮小状態になる。そして、カバー部材12をケーシング101から外した後、エアフィルタ10をフィルタ挿入孔11から抜き出す。
【0067】
以上説明したように、この実施形態によれば、エアフィルタ10が第1及び第2フィルタ部材30,40を備えており、第1フィルタ部材30の第1濾材31を第2フィルタ部材40の第2濾材41に厚み方向に重ね合わせた状態でスライド可能にしたので、エアフィルタ10をフィルタ挿入孔11に挿入する場合に、第1及び第2濾材31,41に変形や損傷を与えることなく、しかも、作業性を良好にすることができる。
【0068】
また、第1フィルタ部材30の第1濾材31のプリーツ形状と、第2フィルタ部材40の第2濾材41のプリーツ形状とを略一致させ、第1濾材31を、第2濾材41に対して折り目の延びる上下方向にスライド可能に重ね合わせたので、第1濾材31を上下方向にスライドさせる作業を確実に、かつ、容易に行うことができ、作業性をより一層良好にできる。
【0069】
また、フィルタ挿入孔11を開閉するカバー部材12を用いて第1フィルタ部材30をスライドさせることができるので、作業性をより一層良好にできる。
【0070】
また、カバー部材12をフィルタ挿入孔11の開閉方向に案内するための前側及び後側レール13,14を設け、これらレール13,14の案内方向を第1濾材31のスライド方向としたので、カバー部材12の開閉動作に連動させて第1濾材31をスライドさせることができる。
【0071】
尚、この実施形態では、第1濾材31をカバー部材12によってスライドさせるようにしているが、これに限らず、作業者が第1フィルタ部材30を直接持って第1濾材31をスライドさせるようにしてもよい。この場合、カバー部材12と第1フィルタ部材30とを係合させなくてもよい。
【0072】
また、エアフィルタ10の第1枠状部材32に凹部を形成し、カバー部材12に突出部を形成し、カバー部材12の突出部を第1枠状部材32の凹部に挿入して係合させるようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、熱交換器を収容したケーシング101にエアフィルタ10を配設しているが、これに限らず、例えば、空調装置が、送風機を備えた送風ユニットと、熱交換器を備えた空調ユニットと、両ユニットを接続する中間ダクトとを備えている場合には、中間ダクトや送風ユニットにエアフィルタ10を配設し、本発明を適用することができる。
【0074】
また、上記実施形態では、エアフィルタ10の第1濾材31を上下方向にスライドさせるようにしているが、これに限らず、例えば、水平方向にスライドさせるようにしてもよい。
【0075】
また、第1濾材31及び第2濾材41の形状は、矩形状に限られるものではなく、空気通路Rの形状に対応するように任意の形状に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明にかかる車両用空調装置のエアフィルタ構造は、例えば、自動車のインストルメントパネル内に搭載された空調装置に適用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 車両用空調装置のエアフィルタ構造
10 エアフィルタ
11 フィルタ挿入孔
12 カバー部材
13 前側レール(案内部)
14 後側レール(案内部)
18 摘み部(係合部)
30 第1フィルタ部材
31 第1濾材
32 第1枠状部材
32d 突板部(被係合部)
40 第2フィルタ部材
41 第2濾材
42 第2枠状部材
100 車両用空調装置
101 ケーシング
R 空気通路
R1 フィルタ配設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空調装置の空気通路を構成する空気通路構成部材と、
上記空気通路構成部材の空気通路に配設されるエアフィルタとを備え、
上記空気通路構成部材の壁部には、該壁部を貫通するフィルタ挿入孔が形成され、該フィルタ挿入孔から上記エアフィルタを上記空気通路に挿入可能に構成された車両用空調装置のエアフィルタ構造において、
上記エアフィルタは、濾材を有する第1及び第2フィルタ部材を備え、
上記第1フィルタ部材の濾材は、上記第2フィルタ部材の濾材の厚み方向一側の面に、該面に沿ってスライド可能に配置されていることを特徴とする車両用空調装置のエアフィルタ構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置のエアフィルタ構造において、
第1及び第2フィルタ部材の濾材には、プリーツ形状となるように複数の折り目が成形されており、
上記第1フィルタ部材の濾材は、該濾材のプリーツ形状と上記第2フィルタ部材の濾材のプリーツ形状とが略一致するように、かつ、該第2フィルタ部材の濾材に対して折り目の延びる方向にスライド可能に重ね合わされていることを特徴とする車両用空調装置のエアフィルタ構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用空調装置のエアフィルタ構造において、
空気通路構成部材は、フィルタ挿入孔を開閉するカバー部材を備え、
第1フィルタ部材には、該第1フィルタ部材が空気通路に配置された状態でフィルタ挿入孔側となる部位に被係合部が設けられ、
上記カバー部材には、上記第1フィルタ部材の被係合部に係合する係合部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置のエアフィルタ構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用空調装置のエアフィルタ構造において、
空気通路構成部材には、カバー部材をフィルタ挿入孔の開閉方向に案内するための案内部が設けられ、
上記案内部の案内方向は、第1フィルタ部材の濾材のスライド方向であることを特徴とする車両用空調装置のエアフィルタ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−176689(P2012−176689A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40618(P2011−40618)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】