説明

車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法

【課題】ユーザ自身が乗車予定時刻を設定しなくても、ユーザ自身が乗車予定時刻を設定しなくても、状況に応じた適切なタイミングから事前空調を開始できる車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法を提供する。
【解決手段】車両に搭載される空調装置(1)は、空調空気を車室内に供給する空調部(2)と、車両が駐車されている間にその車両周囲の状況に関する状態を表す少なくとも一つの状態情報に基づいて出発時刻を推定する出発時刻推定部(53)と、出発時刻推定部(53)により推定された出発時刻よりも所定期間前の時刻を事前空調開始時刻として決定する事前空調開始時刻決定部(54)と、現在時刻が事前空調開始時刻になると空調部(2)の空調制御を開始する空調制御部(55)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法に関し、特に、ドライバが乗車するよりも前に車室内の空調を実行可能な車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両には空調装置が搭載され、その空調装置によって車室内の温度は乗員にとって快適となるように調節可能となっている。しかし、車室内は、直接日光が照射されるため、空調装置が停止されていると酷暑期でなくとも非常に高温となり易い。また酷寒期では、空調装置により車室内が暖められるまで時間が掛かり、それまで乗員は寒さに耐えなければならない。そこで、乗員が車両に乗車するよりも前の一定期間、車室内を暖房または冷房可能な空調装置が開発されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された電気自動車用事前空調装置は、走行距離、走行時間、所要電力量などの走行情報履歴と、走行開始時刻における車室内の熱環境予測値と、電池の充電状態と、走行開始時刻および目標車室内熱環境と、現在の時刻および熱環境とに基づいて乗員が事前空調の設定を行うための支援情報を表示する。そしてこの電気自動車用事前空調装置は、支援情報に対する事前空調の設定情報履歴に基づいて事前空調優先度を判定し、事前空調優先度に基づいて支援情報を変更するとともに空調装置の動作を補正する。またこの電気自動車用事前空調装置は、ユーザ自身が設定した搭乗予定時刻に応じて事前空調を実施する。
【0004】
また特許文献2に開示された車両用空調装置は、車両に搭載されたGPS受信機によって受信したGPS情報と、乗員が携帯するリモコン発信機から受信した乗員のGPS情報とから、乗員から車両までの距離を推定し、推定した距離から乗員が車両に乗り込むまでの時間を推定する。次にこの車両用空調装置は、バッテリ残量を検出してバッテリ残量から事前空調可能時間を算出する。そしてこの車両用空調装置は、事前空調可能時間の方が乗員が乗り込むまでの時間よりも長い場合には、直ぐに事前空調を開始し、事前空調可能時間の方が乗員が乗り込むまでの時間よりも短い場合には、所定時間経過後に事前空調を開始する。
【0005】
さらに特許文献3に開示された車両用空調装置は、事前空調を開始するか否かを判定するために、車室内の温度調整を行う温度調整手段に電力を供給する蓄電手段の蓄電量と、車室内の温度と、外気の温度と、目標温度と、温度調整手段の特性とに基づいて、温度調整手段によって車室内の温度を目標温度に調整可能か否かを判定し、その判定結果をユーザに通知する。その際、この車両用空調装置は、ユーザが所持する携帯端末から空調装置をONにする信号を受信するか、ユーザ自身が設定した乗車予定時刻に基づいて算出された駆動開始時刻になると、事前空調を開始するか否かの判定処理を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−109648号公報
【特許文献2】特開2006−298015号公報
【特許文献3】特開2006−290244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の空調装置の何れも、事前空調を開始するために、ユーザ自身により乗車予定時刻が予め設定されるか、その空調装置とユーザが所持する携帯端末とが通信可能であることを必要とする。
しかし、乗車予定時刻を車両に乗車する前に毎回設定する作業は煩雑である。特に、一日の間に何度も車両を運転する場合には、その作業の煩雑さは顕著となる。またユーザは、天候、道路の混雑状況などの環境によって事前に設定した乗車予定時刻とは異なる時刻に乗車することもある。
また、車両が駐車されている場所またはユーザがいる場所の電波状況によっては、ユーザが所持する携帯端末と空調装置とが通信不可能なこともある。このような場合、空調装置は、事前空調開始時刻を特定することができないので、事前空調を適切に実行することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ユーザ自身が出発時刻を設定しなくても、状況に応じた適切なタイミングから事前空調を開始できる車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態として、車両に搭載される空調装置が提供される。係る空調装置は、空調空気を車室内に供給する空調部(2)と、車両が駐車されている間にその車両周囲の状況に関する状態を表す少なくとも一つの状態情報に基づいて出発時刻を推定する出発時刻推定部(53)と、出発時刻推定部(53)により推定された出発時刻よりも所定期間前の時刻を事前空調開始時刻として決定する事前空調開始時刻決定部(54)と、現在時刻が事前空調開始時刻になると空調部(2)の空調制御を開始する空調制御部(55)とを有する。
係る構成を有することにより、この空調装置は、ユーザ自身が出発時刻を設定しなくても、状況に応じた適切なタイミングから事前空調を開始できる。
【0010】
また請求項2の記載によれば、出発時刻推定部(53)は、少なくとも一つの状態情報を定期的に確率モデルに入力することにより、前記車両が走行中である確率を前記出発時刻に関する確率として算出し、その確率が第1の閾値以上となる最初の時刻を出発時刻として推定することが好ましい。
このように、この空調装置は、車両が走行中である確率の時刻による遷移を調べることができるので、正確に出発時刻を推定できる。
【0011】
さらに請求項3の記載によれば、出発時刻推定部(53)は、確率モデルに入力される状態情報のうち、車両の制御ユニットが動作停止中に取得可能な状態情報のみを確率モデルに入力して、複数の時刻について車両が走行中である確率を算出し、その確率が第1の閾値よりも低い第2の閾値以上となる最初の時刻を推定開始時刻として設定し、推定開始時刻を過ぎると、確率モデルに入力される全ての状態情報を取得して、出発時刻を推定することが好ましい。
これにより、この空調装置は、出発時刻を推定するために車両の制御ユニットを動作させる期間を推定開始時刻以降に限定できるので、消費電力を抑制できる。
【0012】
さらに請求項4の記載によれば、出発時刻推定部(53)は、少なくとも一つの状態情報を確率モデルに入力することにより、複数の時刻のそれぞれにおいて車両が走行開始する確率を出発時刻に関する確率として算出し、それら複数の時刻のうち、車両が走行開始する確率が最も高い時刻を出発時刻として推定することが好ましい。
これにより、この空調装置は、複数の時刻のうち、車両が走行開始する確率が最も高い時刻を選択することができるので、正確に出発時刻を推定できる。
【0013】
さらに請求項5の記載によれば、この空調装置は、車両が走行開始する度に、その走行開始時の出発時刻とその出発時刻において取得された少なくとも一つの状態情報との組を過去出発時刻情報として記憶する記憶部(51)をさらに有し、出発時刻推定部(53)は、記憶部(51)に記憶された過去一定期間の過去出発時刻情報の中から、現在時刻において取得された少なくとも一つの状態情報の値に最も近い状態情報の値を持ち、現在時刻よりも後でかつ現在時刻に最も近い過去出発時刻情報に含まれる出発時刻を、事前空調開始時刻を決定するための出発時刻として推定することが好ましい。
これにより、この空調装置は、ユーザ自身の出発時刻の履歴から、現在の状況に最も近いものを利用することができるので、ユーザの普段の行動に応じて正確に出発時刻を推定できる。
【0014】
さらに請求項6の記載によれば、本発明の他の形態として、空調空気を車両の車室内に供給する空調部(2)を有する空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両が駐車されている間にその車両周囲の状況に関する状態を表す少なくとも一つの状態情報を取得するステップと、少なくとも一つの状態情報に基づいて出発時刻を推定するステップと、推定された出発時刻よりも所定期間前の時刻を事前空調開始時刻として決定するステップと、現在時刻が事前空調開始時刻になると空調部(2)の空調制御を開始するステップとを含む。
係るステップを有することにより、この空調装置の制御方法は、ユーザ自身が出発時刻を設定しなくても、状況に応じた適切なタイミングから事前空調を開始できる。
【0015】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一つの実施形態による空調装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図3】事前空調開始時刻を決定するために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る空調装置の学習処理のフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る空調装置の事前空調処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一つの実施形態による車両用空調装置について説明する。
本発明の一つの実施形態による車両用空調装置は、車両周囲の状態を表す状態情報を確率モデルに入力して出発時刻を推定することにより、状況に応じて出発時刻が変動する場合でも、適切なタイミングで事前空調を実施するものである。なお、以下では、この空調装置は、バッテリから供給される電気を用いてモータを駆動することにより走行する電気自動車、または内燃機関による動力をバッテリの充電にのみ使用し、モータの動力により走行するハイブリッドカーに搭載されるものとして説明する。しかし、本発明に係る車両用空調装置は、内燃機関により走行し、かつ、走行中に内燃機関の動力を用いて発電機を駆動することにより、空調装置その他の機器に電気を供給するバッテリを充電する車両にも搭載可能である。
【0018】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る空調装置1の全体構成を示す概略構成図である。図1に示すように、空調装置1は、車両10に搭載され、主に機械的構成からなる空調部2と、車両に関する状態情報を取得するための情報取得部3と、操作部として機能する操作パネル4と、空調装置1の各部を制御する制御部5を有する。
【0019】
空調部2は、車内の空気または車外から取り入れた空気を冷却し、または暖めた空調空気を車内に供給する。そのために、空調部2は、例えば、車内または車外から空気を取り入れるための吸気口およびブロアファンと、取り入れられた空気と冷媒との間で熱交換するための冷凍サイクル(例えば、コンプレッサ、レシーバ、膨張弁、エバポレータなどで構成される)と、冷凍サイクルを逆転可能とするように冷凍サイクルに接続される四方弁と、熱交換された空調空気を車内に送出するための吹き出し口を有する。
また空調部2は、四方弁を有する代わりに、ラジエータの冷却水を用いて取り入れた空気を暖房するヒータコアと、ヒータコアを通過した空気とヒータコアを迂回した空気の混合比率を調整して空調空気を得るためのエアミックスドアを有してもよい。
なお、空調部2として、車載用空調装置に使用される周知の様々な構成を採用することができるため、ここでは、空調部2の構造の詳細な説明を省略する。
【0020】
情報取得部3は、車両周囲の状況に関する状態を表す各種の状態情報を取得する少なくとも一つのセンサを有する。本実施形態では、情報取得部3が有する代表的なセンサとして、内気温センサ、外気温センサ、日射センサ及びレインセンサがある。内気温センサは、例えば、ハンドル近傍のインストルメントパネルなどにアスピレータとともに設置され、車室内の温度(内気温)Trを測定する。また、外気温センサは、例えば、車両前方のラジエターグリルに設置され、車室外の温度(外気温)Tamを測定する。さらに、日射センサは、例えば、車室内のフロントガラス近傍に取り付けられ、車室内に照りつける日射光の強さ(日射量)Sを測定する。レインセンサも、例えば、フロントガラスに取り付けられ、フロントガラスに付着した雨滴の有無を検知する。
【0021】
さらに情報取得部3は、ナビゲーションシステムなどの車載機器をセンサとして有してもよい。例えば、ナビゲーションシステムは、車両の現在位置、周辺地域情報、Gbook情報などの位置情報を状態情報として取得してもよい。
また、車両10の電子制御ユニット(以下ECUと呼ぶ)7も情報取得部3に含まれるものとし、ECU7から曜日、現在時刻などの時間情報を状態情報として取得してもよい。
情報取得部3は、車両10の走行中、定期的(例えば、10分毎、30分毎など)に一つ以上の状態情報を取得する。あるいは、情報取得部3は、車両10が始動されたとき(すなわち、車両10のイグニッションスイッチがONになったとき)、あるいは停止されたとき(すなわち、車両10のイグニッションスイッチがOFFになったとき)に一つ以上の状態情報を取得してもよい。さらに情報取得部3は、後述する事前空調開始処理の実行中にも一つ以上の状態情報を定期的に取得する。なお、本実施形態では、イグニッションスイッチは、単に車両10を起動するためのスイッチとして機能する。そして、イグニッションスイッチがONにされることにより、ユーザは車両10を走行させることが可能となり、一方、イグニッションスイッチがOFFにされることにより、ユーザは車両10を走行させることができなくなる。
そして、情報取得部3は、その取得された状態情報をコントロールエリアネットワーク(CAN)のような車載通信規格に従ってデータ通信する、車両10内に設置された車内通信回線6を介して制御部5へ渡す。
【0022】
操作パネル4は、空調装置1に対する設定操作を行うための操作部であり、例えば、空調装置1の設定情報を調整するための各種のスイッチと、設定情報を表示するための表示部などを有する。そして操作パネル4は、ユーザが空調装置1に対して何等かの設定を変更する操作(例えば、設定温度を変える、風量または風向きを調整する、内気循環モードまたは外気導入モードに設定する等)を行ったことを検知すると、その操作内容を表す信号を制御部5へ送信する。例えば、設定情報には、車内の設定温度Tset、風量W、吸気設定モード(内気循環モードまたは外気導入モード)、風向き設定などが含まれる。
【0023】
制御部5は、ユーザによって設定された設定値に従って車室内の温度を適切に保つよう空調装置1を制御する。また制御部5は、ユーザが車両10に乗車するよりも前の一定期間中、車室内を空調するように空調装置1を制御する。すなわち、制御部5は、空調装置1に事前空調を実施させる。
図2は、空調装置1の制御部5の機能ブロック図である。
制御部5は、図示していない1個もしくは複数個のプロセッサ及びその周辺回路(図示せず)と、電気的に書き換え可能あるいは書き換え不可能な不揮発性半導体メモリ、揮発性半導体メモリを有する記憶部51と、車内通信回線6に制御部5を接続する車内通信インターフェース部52とを有する。
【0024】
記憶部51は、制御部5で実行されるプログラム、そのプログラムが使用する各種設定パラメータなどを記憶する。また記憶部51は、事前空調の開始タイミングの決定に用いられる確率モデルの構造、及びその確率モデルで用いられるパラメータを記憶する。さらに記憶部51は、確率モデルの学習に用いられる、状態情報の組を学習データセットとして記憶する。
【0025】
車内通信インターフェース部52は、車内通信回線6を介して情報取得部3の各センサから状態情報を取得する。また車内通信インターフェース部52は、空調装置1及び車両10を駆動するためのモータに電気を供給するバッテリ8の残量を検出するバッテリセンサ9から、そのバッテリ8の残量を表す信号を取得する。なお、バッテリ8は、例えば、リチウムイオン蓄電池、ニッケル・水素蓄電池あるいは鉛蓄電池の何れかにより構成される。またバッテリセンサ9は、例えば、電圧計あるいは電流計若しくはその組み合わせにより構成され、バッテリ8から放電される電気の電圧あるいは電流を計測することにより、バッテリ残量を算出する。
【0026】
さらに、制御部5は、制御部5が有するプロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、出発時刻推定部53、事前空調開始時刻決定部54、空調制御部55、学習データ蓄積部56及び学習部57を有する。
【0027】
出発時刻推定部53は、車両10が走行を開始する出発時刻を、確率モデルに基づいて推定する。なお、出発時刻は、イグニッションスイッチがONにされた時刻、あるいは、車両10のドアの鍵が解錠された時刻、あるいは、車両10の車速センサにより検知された車速が0でなくなった時刻の何れにより特定されてもよい。
本実施形態では、確率モデルとして、ベイジアンネットワークを用いた。ベイジアンネットワークは、複数の事象の確率的な因果関係をモデル化するものであり、各ノード間の伝播を条件付き確率で求める、非循環有向グラフで表されるネットワークである。なお、ベイジアンネットワークの詳細については、本村陽一、岩崎弘利著、「ベイジアンネットワーク技術」、初版、電機大出版局、2006年7月、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、又は尾上守夫監修、「パターン識別」、初版、新技術コミュニケーションズ、2001年7月などに開示されている。
【0028】
出発時刻推定部53は、車両10が駐車され、車両10のイグニッションスイッチがOFFに設定されている間、あるいは、後述する推定開始時刻の以後であってイグニッションスイッチがONになるか事前空調が開始されるまでの間、定期的(例えば、15分間隔)に状態情報を確率モデルに入力する。そして出発時刻推定部53は、確率モデルにより算出された、車両10が走行中である確率が最初に所定の閾値Th1以上となる時刻を出発時刻として推定する。なお、閾値Th1は、車両10が走行中であることが高確率であることを示す値、例えば、0.8に設定される。
【0029】
図3に、本実施形態において使用される確率モデルの一例を示す。図3に示す確率モデル300は、出発時刻の推定に使用され、車両10が走行中である確率を出力する。そのために、確率モデル300は、4個の入力ノード301〜304と、1個の出力ノード305を有し、各入力ノードがそれぞれ出力ノード305に接続されている。また、各入力ノード301〜304には、入力される状態情報として、それぞれ、曜日(x1)、時刻(x2)、出発地(x3)及び雨滴の有無(x4)が与えられる。そして、出力ノード305は、車両10が走行中である確率P(x5=True|x1,x2,x3,x4)及び車両10が駐車中である確率P(x5=False|x1,x2,x3,x4)を出力する。なお、P(x5=False|x1,x2,x3,x4)は、(1-P(x5=True|x1,x2,x3,x4))と等しい。
【0030】
図3に示す条件付確率表(以下、CPTという)311〜314は、それぞれ、入力ノード301〜304に対応し、入力される状態情報に対して入力ノード301〜304が出力する事前確率を規定する。またCPT315は、出力ノード305に対応し、出力ノード305が出力する確率を、各入力ノードに入力される状態情報の値の組ごとに割り当てられた条件付き確率分布として規定する。
【0031】
出発時刻推定部53は、図3に示した確率モデル300を使用して出発時刻を推定する場合、情報取得部3から取得した状態情報のうち、曜日、現在時刻、車両10の現在地及び雨滴の有無から、確率モデル300の各入力ノードに入力される値を決定する。その際、出発時刻推定部53は、入力ノード303に入力される時刻の値を、CPT303に規定された各区分の時刻のうち、現在時刻に事前空調が行われる最長期間に相当する期間を加えた時刻よりも後で、最も早い時刻とする。例えば、事前空調が行われる最長期間が30分である場合、出発時刻推定部53は、現在時刻が4時15分であるとき、入力ノード303に入力される時刻を5時とし、現在時刻が5時45分であるとき、入力ノード303に入力される時刻を7時とする。
【0032】
例えば、曜日が平日(x1=1)、時刻が5時(x2=1)、出発地がユーザの自宅(x3=1)、雨滴有り(x4=1)であれば、車両10が走行中である確率P(x5=True|x1=x2=x3=x4=1)は、CPT315より、0.0となる。同様に、曜日が平日(x1=1)、出発地がユーザの自宅(x3=1)、雨滴有り(x4=1)であり、時刻が6時(x2=2)、7時(x2=3)の場合に、車両10が走行中である確率P(x5=True|x1=x3=x4=1,x2=2)、P(x5=True|x1=x3=x4=1,x2=3)は、それぞれ、0.8、1.0となる。したがって、確率P(x5=True|x1=x3=x4=1,x2=2)が閾値Th1以上となるので、出発時刻推定部53は、6時を出発時刻として推定する。
【0033】
また、図3に示した確率モデル300のように、確率モデルに入力される状態情報として、車両10のECUあるいはその他の車載機器を起動しなければ取得できない状態情報が使用されることもある。例えば、確率モデル300では、雨滴の有無を検知するために雨滴センサを動作させる必要がある。そしてこれらの機器を動作させるためには、バッテリからこれらの機器へ電力を供給する必要がある。しかし、車両10のバッテリが充電中でなければ、出発時刻の推定のためだけにこれらの機器を動作させることは、バッテリの電力消費を抑制するため、避けることが好ましい。
そこで、出発時刻推定部53は、出発時刻推定のための確率モデルの入力ノードに入力される状態情報のうち、最後に車両10のイグニッションキーがOFFにされたときに取得される状態情報のみを用いて、出発時刻の推定を開始する時刻である推定開始時刻を決定してもよい。
【0034】
そのために、出発時刻推定部53は、出発時刻推定のための確率モデルの入力ノードのうち、車両10のECU7が停止されている間は取得不能な状態情報に関する入力ノードについて、その入力ノードに対応するCPTを参照することにより、その取得不可能な状態情報の事前確率を求める。そして出発時刻推定部53は、その事前確率と、イグニッションスイッチが最後にOFFにされたときに取得された状態情報とを用いて、確率伝播法により、複数の時刻において車両10が走行中である確率を算出する。出発時刻推定部53は、その確率が所定の閾値Th2を超える最初の時刻を決定する。そして出発時刻推定部53は、その時刻よりも、所定時間前の時刻を推定開始時刻とする。この所定時間は、事前空調が実施される最長の期間と同程度か、その期間に複数回の出発時刻推定に要する期間を加えた期間となるように設定される。なお、一部の状態情報が未知である場合において車両10が走行中である確率の精度は、全ての状態情報が既知である場合において車両10が走行中である確率の精度よりも低い。そこで閾値Th2は、閾値Th1よりも低い値、例えば、0.5に設定される。
【0035】
例えば、図3に示した確率モデル300が使用される場合、入力ノード304に入力される状態情報である雨滴の有無は、車両10のイグニッションキーがOFFにされている間は取得不能である。そこで出発時刻推定部53は、入力ノード304については、CPT304に規定される事前確率P(x4=1)(雨滴有り)、P(x4=2)(雨滴無し)を使用して、各出発時刻に対する、車両10が走行中である確率を算出する。
例えば、曜日が平日(x1=1)、出発地がユーザの自宅(x3=1)であり、時刻が6時(x2=2)の場合に、車両10が走行中である確率P(x5=True|x1=x3=1,x2=2,x4)は、CPT314及びCPT315から以下のように算出される。
P(x5=True|x1=x3=1,x2=2,x4)
= P(x5=True|x1=x3=1,x2=2,x4=1)P(x4=1) + P(x5=True|x1=x3=1,x2=2,x4=2)P(x4=2)
= 0.8・0.5 + 0.6・0.5 = 0.7
同様に、曜日が平日(x1=1)、出発地がユーザの自宅(x3=1)であり、時刻が5時(x2=1)、7時(x2=3)の場合に、車両10が走行中である確率P(x5=True|x1=x2=x3=1,x4)、P(x5=True|x1=x3=1,x2=3,x4)は、それぞれ、0.0、1.0となる。
したがって、6時に対応する確率P(x5=True|x1=x3=1,x2=2,x4)が最初に閾値Th2以上となるので、出発時刻推定部53は、6時の所定時間前の時刻、例えば5時を推定開始時刻とする。
【0036】
出発時刻推定部53は、推定開始時刻が設定されている場合、ECU7から取得した時刻がその推定開始時刻になると、上記の出発時刻推定処理を開始する。
出発時刻推定部53は、推定した出発時刻を事前空調開始時刻決定部54に通知する。
【0037】
事前空調開始時刻決定部54は、出発時刻推定部53により推定された出発時刻よりも事前空調実施期間前の時刻を、事前空調を開始する事前空調開始時刻として決定する。例えば、事前空調実施期間は、予め定められた一定期間(例えば、10分間あるいは30分間)に設定されてもよい。あるいは、事前空調実施期間は、設定温度Tsetと内気温Trとの差及び日射センサにより検出される日射量Sに基づいて決定される可変期間であってもよい。この場合、設定温度Tsetと内気温Trとの差及び日射量Sと、事前空調実施期間との関係を表した参照テーブルが予め作成され、記憶部51に記憶される。なお、設定温度Tsetと内気温Trとの差及び日射量Sと、事前空調実施期間の関係は、内気温Trが設定温度Tsetと略等しくなるまでの期間を、例えば、空調装置1の特性を考慮したシミュレーション、あるいは実験により求めることで、予め決定される。そして事前空調開始時刻決定部54は、内気温センサ及び日射センサからの信号に基づいて、設定温度Tsetと内気温Trとの差及び日射量Sを求め、そして参照テーブルを参照することにより、事前空調実施期間を決定する。
さらに、空調装置1が複数の空調モードの何れかにしたがって空調運転可能であれば、記憶部51は、それぞれの空調モードに対応する参照テーブルを記憶する。なお、空調モードは、例えば、最大パワーで車室内を冷房または暖房する急速冷暖房モード、最もエネルギー効率が良い方法で車室内を冷房または暖房する省エネモードなどが含まれる。そして事前空調開始時刻決定部54は、前回空調装置1が停止されたときの空調モードに対応する参照テーブルにしたがって事前空調実施期間を決定してもよい。
【0038】
さらに、事前空調開始時刻決定部54は、バッテリセンサから受け取ったバッテリの残量から、記憶部51に記憶されている走行予定距離に対応する推定バッテリ使用量を引いた電力量である予備バッテリ量と、事前空調実施期間中に消費される電力量を表す事前空調使用量とを比較する。そして事前空調開始時刻決定部54は、予備バッテリ量が事前空調使用量以下である場合、事前空調開始時刻を設定しない、すなわち、空調装置1は事前空調を実施しない。あるいは、事前空調開始時刻決定部54は、事前空調使用量が予備バッテリ量よりも少なくなるまで、事前空調開始時刻を遅くするように修正してもよい。なお、特定の事前空調実施期間に対応する事前空調使用量は、例えば、空調装置1の特性を考慮したシミュレーション、あるいは実験により求めることにより決定される。そして事前空調実施期間と事前空調使用量の関係を表した参照テーブルが記憶部51に記憶され、事前空調開始時刻決定部54は、その参照テーブルを参照することにより、事前空調実施期間に対応する事前空調使用量を決定できる。
【0039】
あるいは、事前空調開始時刻決定部54は、予備バッテリ量が事前空調使用量以下である場合、バッテリ残量を維持すること、または事前空調を実施することの何れを優先するかを示す蓄電空調優先度にしたがって、事前空調を実施するか否かを決定してもよい。
この場合、蓄電空調優先度を示す優先度フラグが記憶部51に記憶される。初期設定では、優先度フラグの値は、バッテリ残量を維持することを示す値に設定される。そして予備バッテリ量が事前空調使用量以下となる度、制御部5は、ユーザが車両10のイグニッションスイッチをONにした時点で、バッテリ残量を維持することと、事前空調を実施することの何れを優先するかを問いかけるメッセージを操作パネル4の表示部に表示させる。その際、ユーザが操作パネル4の操作スイッチを操作することで、バッテリ残量を維持することまたは事前空調を実施することを選択すると、制御部5は、その選択に従って優先度フラグの値を更新する。
【0040】
さらに、制御部5は、バッテリ残量を維持することと、事前空調を実施することの何れを優先するかの問いかけに対するユーザの操作履歴を記憶部51に記憶しておき、その操作履歴に従って、優先度フラグの値を決定してもよい。例えば、制御部5は、所定回数(例えば、10回)連続してユーザが事前空調を実施することを選択する操作を行った場合、以後予備バッテリ量が事前空調使用量以下となっても、どちらを優先するかの問いかけを行わず、事前空調を実施してもよい。すなわち、事前空調開始時刻決定部54は、予備バッテリ量が事前空調使用量以下となっても、決定した事前空調開始時刻を取り消さない。
事前空調開始時刻決定部54は、決定した事前空調開始時刻を制御部5に通知する。
【0041】
空調制御部55は、各設定情報及び各センサから取得したセンシング情報をRAMから読み出し、それらの値に基づいて、空調部2を制御する。特に空調制御部55は、事前空調開始時刻決定部54によって決定された事前空調開始時刻になると、車両10のイグニッションスイッチがONにされていなくても、空調制御を開始する。すなわち、空調制御部55は、事前空調開始時刻になると事前空調を開始する。
【0042】
具体的には、空調制御部55は、設定温度Tset及び各温度センサ及び日射センサの測定信号に基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の必要吹出口温度(空調温度Tao)を決定する。その後、空調制御部55は、その空調空気の温度が空調温度Taoとなるように、冷凍サイクルを構成するコンプレッサを駆動する。
【0043】
さらに空調制御部55は、空調温度Tao、設定温度Tsetなどに基づいて、風量及び各吹き出し口から送出される空調空気の風量比を求める。そして空調制御部55は、決定した風量に対応するように、空調部2のブロアファンの回転数を調整する。また空調制御部55は、その風量比に対応するように、各吹き出し口の開度を決定する。さらにまた、空調制御部55は、空調温度Tao、設定温度Tset、内気温Trなどに基づいて、空調装置1が内気吸気口から吸気する空気と外気吸気口から吸気する空気の比率を設定する。
【0044】
空調制御部55は、空調温度Taoを決定するために、例えば、設定温度Tset、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sと空調温度Taoの関係を表した温調制御式を使用する。また空調制御部55は、風量Wを決定するために、例えば、設定温度Tset、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sと風量Wの関係を表した風量制御式を使用する。あるいは、空調制御部55は、空調温度Tao及び風量Wを決定するために、周知の様々な制御方法を用いることができる。同様に、空調制御部55は、風量比の決定、コンプレッサのON/OFF制御、吸気比の決定についても、周知の様々な制御方法を用いることができる。そのため、それらの制御方法の詳細な説明は省略する。
【0045】
学習データ蓄積部56は、出発時刻推定部53にて出発時刻を推定するために使用される確率モデルを学習するために用いられる状態情報の値の組を学習データセットとして記憶部51に記憶する。そのために、学習データ蓄積部56は、車両10のイグニッションスイッチがONになっている間、定期的(例えば、10分毎あるいは30分毎)に、確率モデルの入力ノードに入力される各状態情報の値を取得する。そして学習データ蓄積部56は、それら状態情報の値の組に、車両10が走行中であることを関連付けて一つの学習データセットとし、記憶部51に記憶する。
また学習データ蓄積部56は、出発時刻推定部53が出発時刻を推定するために取得した状態情報の値の組も、学習データセットとして記憶部51に記憶してもよい。この場合、車両10のイグニッションスイッチはOFFとなっているので、それら状態情報の値の組に、車両10が駐車中であることを関連付けて一つの学習データセットとする。
さらに学習データ蓄積部56は、学習データセットの数が確率モデルを適切に学習するために不十分である場合、車両10が駐車中である間も、定期的に状態情報を取得し、その状態情報の値の組に車両10が駐車中であることを関連付けて学習データセットとし、その学習データセットを記憶部51に保存してもよい。
さらにまた、学習データ蓄積部56は、レインセンサから取得される雨滴の有無など、ECUを起動しなければ取得不能な状態情報を、車両10のイグニッションスイッチがOFFになっている間に対応する学習データセットとして取得するために、イグニッションスイッチがONになっている直近のその状態情報の値、あるいは他の情報から推定してもよい。例えば、学習データ蓄積部56は、イグニッションスイッチがOFFとなっている間の所定時刻における雨滴の有無を、イグニッションスイッチが最後にOFFにされたとき、あるいはその所定時刻後に最初にイグニッションスイッチがONにされたときの雨滴の有無の値で代用してもよい。また、学習データ蓄積部56は、車両10が駐車された地区のその所定時刻における降水確率を、例えばナビゲーションシステムから取得し、その降水確率を、学習データセットに含める状態情報の値としてもよい。
【0046】
例えば、図3に示した確率モデル300が使用される場合、学習データ蓄積部56は、ECUから取得される曜日及び時刻と、ナビゲーションシステムから取得される出発地と、レインセンサから取得される雨滴の有無を一つの学習データセットとする。なお、出発地は、車両10の走行中において取得される学習データセットについては、イグニッションスイッチがONにされたときの車両10の位置であり、車両10のイグニッションスイッチが次にOFFにされるまでの期間中、同じ位置が学習データセットに記録される。一方、出発地は、車両10の駐車中において取得される学習データセットについては、イグニッションスイッチが最後にOFFにされたときの車両10の位置である。
【0047】
さらに、学習データ蓄積部56は、各曜日の各出発時における走行予定距離を推定するために、一旦イグニッションスイッチがONにされてから、OFFにされるまでの期間に車両10が走行した距離をECUから取得する。そして学習データ蓄積部56は、その走行距離を、出発時、すなわち、イグニッションスイッチがONにされた時刻及び曜日と、出発地に関連付けて記憶部51に記憶する。
学習データ蓄積部56は、例えば、イグニッションスイッチがOFFにされたとき、曜日、時刻、出発地ごとに、記憶部51に記憶されている走行距離の平均値、中央値あるいは最頻値などの統計的代表値を算出する。そして学習データ蓄積部56は、その統計的代表値を、対応する曜日、時刻、出発地における走行予定距離とする。そして学習データ蓄積部56は、求めた走行予定距離を、対応する曜日、時刻、出発地と関連付けて記憶部51に記憶する。
【0048】
学習部57は、記憶部51に蓄積された学習データセットを用いて、出発時刻推定部53で使用される確率モデルを学習する。そこで、学習部57は、学習データセットから、確率モデルの入力ノードに入力されるパラメータとなる状態情報の値の区分ごとに、車両10が走行中である出現頻度と車両10が駐車中である出現頻度を表したクロス集計表(以下、CTTという)を作成する。そして学習部57は、各状態情報の値の区分に含まれる、車両10が走行中である出現頻度を、車両10が走行中である出現頻度と車両10が駐車中である出現頻度の合計で除することにより、入力パラメータとなる状態情報の値の区分ごとに、車両10が走行中である確率を求める。そして、学習部57は、求めた確率に従って各ノードに対応するCPTを更新する。
【0049】
なお、ユーザによって、出発時刻の決定に関与する状態情報が異なる可能性がある。そこで学習部57は、入力パラメータの異なる複数の確率モデルに対して、上記と同様にそれぞれCPTを求めてもよい。そして学習部57は、それら複数の確率モデルに対して情報量基準を算出し、その情報量基準の値が最適となる確率モデルを、出発時刻を推定するための確率モデルとして選択してもよい。この場合において、学習部57は、情報量基準として、AIC(赤池情報量基準)、ベイズ情報量基準(BIC)、竹内情報量基準(TIC)、最小記述長(MDL)基準などを用いることができる。
【0050】
さらに、学習部57は、他の公知の様々な方法を用いて、確率モデルを学習してもよい。例えば、学習部57は、K2アルゴリズムや遺伝的アルゴリズムを用いてベイジアンネットワークのグラフ構造の探索を行うようにしてもよい。例えば遺伝的アルゴリズムを用いる場合には、各ノード間の接続の有無を各要素とする遺伝子を複数準備する。そして、学習部57は、上記の情報量基準を用いて各遺伝子の適応度を計算する。その後、学習部57は、適応度が所定以上の遺伝子を選択し、交叉、突然変異などの操作を行って次の世代の遺伝子を作成する。学習部57は、このような操作を複数回繰り返して、最も適合度の高い遺伝子を選択する。そして学習部57は、選択された遺伝子で記述されるグラフ構造をベイジアンネットワークに使用する。
学習部57は、学習した確率モデルのグラフ構造、各ノードに対応するCPTなどを記憶部51に記憶する。
【0051】
以下、図4に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の一つの実施形態に係る空調装置1の学習処理について説明する。なお、この学習処理は、制御部5により実行される。
【0052】
先ず、情報取得部3により、一つ以上の状態情報が取得され、制御部5に渡される(ステップS101)。制御部5の学習データ蓄積部56は、取得された状態情報のうち、出発時刻の推定に使用される確率モデルに入力される状態情報の値の組を選択する。そして学習データ蓄積部56は、選択された状態情報の値の組に、その値の組の取得時において車両10が走行中か駐車中かを表す走行状態情報を関連付けて学習データセットとし、その学習データセットを記憶部51に保存する(ステップS102)。
【0053】
次に、制御部5は、状態情報取得時の直前あるいは直後の所定期間にイグニッションスイッチがONからOFFに操作されたか否か判定する(ステップS103)。この所定期間は、状態情報取得間隔とすることができる。なお、制御部5は、車両10のECUからイグニッションスイッチが操作されたことを示す信号を受信することにより、イグニッションスイッチがどのように操作されたかを判定することができる。そして制御部5の学習部57は、イグニッションスイッチがONからOFFに操作された場合、記憶部51に記憶されている学習データセットを用いて出発時刻の推定に使用される確率モデルを学習することにより、その学習モデルを更新する(ステップS104)。そして学習部57は、更新された確率モデルに関する各ノードのCPTに示された確率値などのパラメータを記憶部51に記憶する。
【0054】
さらに、制御部5の出発時刻推定部53は、出発時刻の推定に使用される確率モデルに入力される状態情報のうち、イグニッションスイッチOFF時に取得可能な状態情報のみをその確率モデルに入力することで、複数の異なる時刻に対して、車両10が走行中である確率をそれぞれ算出する(ステップS105)。そして出発時刻推定部53は、車両10が走行中である確率が所定の閾値Th2よりも高くなる時刻のうちの最も早い時刻を決定する。そして出発時刻推定部53は、その最も早い時刻よりも所定時間前の時刻を推定開始時刻とする(ステップS106)。出発時刻推定部53は、曜日ごとに推定開始時刻を求め、その推定開始時刻を対応する曜日とともに記憶部51に記憶する。
ステップS106の後、あるいは、ステップS103にてイグニッションスイッチがONからOFFに操作されていない場合、制御部5は学習処理を終了する。制御部5は、上記の学習処理を状態情報の取得間隔で定期的に繰り返す。
【0055】
以下、図5に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の一つの実施形態に係る空調装置1の事前空調処理について説明する。なお、この事前空調処理は、制御部5により実行され、上記の学習処理と独立して動作する。
【0056】
図5に示すように、制御部5は、曜日及び現在時刻を車両10のECU7から取得する(ステップS201)。そして制御部5の出発時刻推定部53は、現在時刻が、取得した曜日により特定される推定開始時刻以降か否か判定する(ステップS202)。現在時刻が推定開始時刻よりも前であれば、所定期間の経過後、制御をステップS201に戻す。
一方、現在時刻が推定開始時刻以降であれば、制御部5は、車両10のECUに起動信号を送信して、ECUを起動させる(ステップS203)。そして制御部5は、出発時刻の推定に使用される確率モデルに入力される全ての状態情報を情報取得部3から取得する(ステップS204)。
【0057】
次に出発時刻推定部53は、得られた状態情報を確率モデルに入力することにより、推定対象となる時刻において車両10が走行中である確率を算出する(ステップS205)。そして出発時刻推定部53は、その確率が所定の閾値Th1以上か否か判定する(ステップS206)。その確率が閾値Th1未満である場合、制御部5は、所定の時間間隔が経過した後、制御をステップS204に戻す。
一方、ステップS206において、求めた確率が閾値Th1以上である場合、出発時刻推定部53は、推定対象となった時刻を出発時刻と推定する(ステップS207)。
【0058】
次に、制御部5の事前空調開始時刻決定部54は、事前空調実施期間を決定し、推定した出発時刻よりもその事前空調実施期間だけ前の時刻を事前空調開始時刻とする(ステップS208)。そして事前空調開始時刻決定部54は、予備バッテリ量と事前空調使用量に基づいて事前空調開始時刻を修正する(ステップS209)。
その後、事前空調開始時刻になると、制御部5の空調制御部55は、空調部2を動作させて、事前空調を開始する(ステップS210)。そして空調制御部55は、イグニッションスイッチがONにされた時か、出発時刻の何れか早い方まで、事前空調を実施する。
【0059】
以上説明してきたように、本発明の一つの実施形態に係る車両用空調装置は、車両周囲の状態を表す状態情報の値の組を学習データセットとして定期的に記録し、その学習データセットに基づいて、所定の時刻において車両が走行中である確率を算出する確率モデルを学習する。この車両用空調装置は、車両の駐車中に取得される状態情報をその確率モデルに入力することで、所定時刻において車両が走行中となる確率を算出し、その確率が高くなる最初の時刻を出発時刻として推定する。そしてこの車両用空調装置は、推定した出発時刻に応じた事前空調開始時刻を設定するので、状況に応じて出発時刻が変動しても、ユーザが事前に出発予定時刻を設定しなくても、適切なタイミングで事前空調を開始することができる。
【0060】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、制御部の出発時刻推定部は、2層のネットワーク構成を有する確率モデルを使用した。しかし出発時刻推定部は、中間層を含む3層以上のネットワーク構成を有する確率モデルを使用してもよい。また、入力ノードの数、入力ノードに与えられる状態情報の種類及び状態情報の値の区分も、上記の例に限られない。
さらに、出発時刻推定部は、出力ノードが複数の出発時刻に関する確率を出力する確率モデルを使用してもよい。この場合、出発時刻推定部は、各出発時刻について算出された確率のうち、最も高い確率が上記の閾値Th1以上であれば、その最も高い確率に対応する出発時刻に決定すればよい。またこのような確率モデルが使用される場合、制御部の学習データ蓄積部は、実際の出発時刻(例えば、車両のイグニッションスイッチがONにされたとき)に取得された状態情報の値の組に、その出発時刻を関連付けて学習データセットとする。
さらに、出発時刻推定部は、確率モデルを使用する代わりに、学習データセットとして蓄積された状態情報の値の組に基づいて、k-NN法を適用することにより出発時刻を推定してもよい。
【0061】
また上記のように、学習データ蓄積部が、実際の出発時刻とその出発時刻時に取得された状態情報の値の組を学習データセット(すなわち、過去出発時刻情報)として記憶する場合、出発時刻推定部は、過去一定期間(例えば、過去5日間あるいは過去一ヶ月間)に記憶された過去出発時刻情報群に示される出発時刻の履歴に基づいて、事前空調開始時刻を決定するための出発時刻を推定してもよい。例えば、出発時刻推定部は、現在時刻において取得された状態情報と最も近い状態情報を含む過去出発時刻情報のうち、現時刻よりも後で、かつ、現時刻と最も近い出発時刻を抽出して、事前空調開始時刻を決定するための出発時刻の推定値とする。例えば、過去一定期間の出発時刻の履歴として、(1)「雨滴:有、出発時刻:6時」、(2)「雨滴:無、出発時刻:7時」、(3)「雨滴:有、出発時刻:19時」という3組の過去出発時刻情報が記憶されていたとする。この場合において、事前空調を実施しようとする際の状態情報が、「雨滴:有」であり、現時刻が5時であれば、出発時刻推定部は、上記の3組の過去出発時刻情報のうち、「雨滴:有」となっている過去出発時刻情報(1)及び(3)を抽出する。そして出発時刻推定部は、このうち、現時刻に最も近い出発時刻が示されている、過去出発時刻情報(1)から、出発時刻を6時と推定する。
なお、過去出発時刻情報に含まれる状態情報が3値以上の値を有し、かつ数値でない場合には、現在時刻において取得される状態情報と過去出発時刻情報に含まれる状態情報の距離を定義するために、予め状態情報の各値間の距離を定義したテーブルを記憶部に記憶しておく。そして出発時刻推定部は、そのテーブルを参照して、現在時刻において取得される状態情報と過去出発時刻情報に含まれる状態情報間の距離を求める。例えば、そのテーブルにおいて、状態情報が曜日である場合、同じ曜日間の距離を0、互いに平日でかつ異なる曜日間の距離を1、平日と休日間の距離を2と定義しておけばよい。そして現在時刻において取得される状態情報が、例えば月曜日であれば、出発時刻推定部は、過去出発時刻情報のうち、状態情報として月曜日が記録されている過去出発時刻情報を最も優先して抽出し、該当する過去出発時刻情報がなければ、次に状態情報として火曜日〜金曜日の何れかが記録されている過去出発時刻情報を抽出する。
また、過去出発時刻情報に複数の状態情報が含まれる場合、出発時刻推定部は、現在時刻において取得された複数の状態情報のそれぞれについて、過去出発時刻情報に含まれる対応する状態情報との距離を求め、その距離の合計値が最も小さい過去出発時刻情報を選択する。
【0062】
また、制御部の事前空調開始時刻決定部は、予備バッテリ量が事前空調使用量以下である場合、ユーザが所持する携帯端末に対して、事前空調を実施するか否かの問い合わせ信号を送信してもよい。そして事前空調開始時刻決定部は、その携帯端末から事前空調の実施を許可する信号を受信した場合にのみ、事前空調を開始するようにしてもよい。
この場合、制御部は、公衆無線回線を通じて携帯端末と通信するための通信部をさらに有する。そのような通信部は、例えば、携帯端末との間での通信セッションの確立あるいは終了処理、送信する信号の符号化処理、変調処理、及び受信した信号の復調処理、復号処理などを行う通信処理用回路を有する。そして通信部は、公衆無線回線に対して無線信号を送信し、かつ公衆無線回線から信号を受信するためのアンテナと接続される。
【0063】
また、本発明に係る空調装置が内燃機関により走行し、かつ、走行中に内燃機関の動力を用いて発電機を駆動することにより、空調装置その他の機器に電気を供給する蓄電池を充電する車両に搭載される場合、バッテリ残量が極端に少ない場合を除いて事前空調の実施によってバッテリ残量が不足することはない。そこでこの場合、制御部の事前空調開始時刻決定部は、予備バッテリ量にかかわらず、事前空調開始時刻を修正しなくてもよい。そして制御部の空調制御部は、現在時刻が事前空調開始時刻になれば、予備バッテリ量にかかわらず事前空調を開始する。
同様に、車両用空調装置が電気自動車またはハイブリッドカーに搭載されている場合であっても、その車両の駐車中にバッテリが充電されていれば、事前空調開始時刻決定部は、予備バッテリ量にかかわらず、事前空調開始時刻を修正しなくてもよい。そして空調制御部は、現在時刻が事前空調開始時刻になれば、予備バッテリ量にかかわらず事前空調を開始してもよい。
【0064】
さらに、制御部の学習部は、出発時刻の推定に用いる確率モデルの学習を、図4に示した動作フローのステップS104のように、イグニッションスイッチがOFFにされる度に行うのではなく、予め定められた期間ごと、あるいは、前回の学習以降に蓄積された学習データセットの数が所定数に達する度に行ってもよい。
上記のように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 空調装置
2 空調部
3 情報取得部
4 操作パネル
5 制御部
6 車内通信回線
7 電子制御ユニット(ECU)
8 バッテリ
9 バッテリセンサ
10 車両
51 記憶部
52 車内通信インターフェース部
53 出発時刻推定部
54 事前空調開始時刻決定部
55 空調制御部
56 学習データ蓄積部
57 学習部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される空調装置であって、
空調空気を車室内に供給する空調部(2)と、
前記車両が駐車されている間に該車両周囲の状況に関する状態を表す少なくとも一つの状態情報に基づいて前記車両が走行開始する出発時刻を推定する出発時刻推定部(53)と、
前記出発時刻推定部(53)により推定された出発時刻よりも所定期間前の時刻を事前空調開始時刻として決定する事前空調開始時刻決定部(54)と、
現在時刻が前記事前空調開始時刻になると前記空調部(2)の空調制御を開始する空調制御部(55)と、
を有することを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記出発時刻推定部(53)は、前記少なくとも一つの状態情報を定期的に確率モデルに入力することにより、前記車両が走行中である確率を前記出発時刻に関する確率として算出し、該確率が第1の閾値以上となる最初の時刻を前記出発時刻として推定する、請求項1に記載の空調装置。
【請求項3】
前記出発時刻推定部(53)は、前記確率モデルに入力される状態情報のうち、前記車両の制御ユニットが動作停止中に取得可能な状態情報のみを前記確率モデルに入力して、複数の時刻について車両が走行中である確率を算出し、該確率が前記第1の閾値よりも低い第2の閾値以上となる最初の時刻を推定開始時刻として設定し、
前記推定開始時刻を過ぎると、前記確率モデルに入力される全ての状態情報を取得して、前記出発時刻を推定する、請求項2に記載の空調装置。
【請求項4】
前記出発時刻推定部(53)は、前記少なくとも一つの状態情報を確率モデルに入力することにより、複数の時刻のそれぞれにおいて前記車両が走行開始する確率を前記出発時刻に関する確率として算出し、前記複数の時刻のうち、前記車両が走行開始する確率が最も高い時刻を前記出発時刻として推定する、請求項1に記載の空調装置。
【請求項5】
前記車両が走行開始する度に、該走行開始時の出発時刻と該出発時刻において取得された前記少なくとも一つの状態情報との組を過去出発時刻情報として記憶する記憶部(51)をさらに有し、
前記出発時刻推定部(53)は、前記記憶部(51)に記憶された過去一定期間の過去出発時刻情報の中から、現在時刻において取得された前記少なくとも一つの状態情報の値に最も近い状態情報の値を持ち、現在時刻よりも後でかつ現在時刻に最も近い過去出発時刻情報に含まれる出発時刻を前記出発時刻として推定する、請求項1に記載の空調装置。
【請求項6】
空調空気を車両の車室内に供給する空調部(2)を有する空調装置の制御方法であって、
前記車両が駐車されている間に該車両周囲の状況に関する状態を表す少なくとも一つの状態情報を取得するステップと、
前記少なくとも一つの状態情報に基づいて該出発時刻を推定するステップと、
前記推定された出発時刻よりも所定期間前の時刻を事前空調開始時刻として決定するステップと、
現在時刻が前記事前空調開始時刻になると前記空調部(2)の空調制御を開始するステップと、
を含むことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−234905(P2010−234905A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83525(P2009−83525)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】