説明

車両用空調装置

【課題】水温の早期上昇と水温の安定性を両立させることができるヒータ回路を有する車両用空調装置を提供する。
【解決手段】エアコンECU25は、目標水温と実水温との水温差が設定値ΔTよりも小さい場合は、電気ヒータ15の出力を最大値よりも小さい必要能力上限値となるように制御する。これによって水温差が設定値ΔTよりも小さい場合、実水温の上昇速度を小さくすることができる。実水温の上昇速度が小さいので、実水温を目標水温にゆっくりと到達させることができ、実水温を目標水温で安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の空調に用いられるヒータを制御する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の車両用空調装置として、水が循環するヒータ回路を備え、循環する水を電気ヒータによって加熱し、暖房時の熱源とする装置が知られている。電気ヒータは、バッテリからの電力にて駆動される。電気ヒータの出力は、ヒータ回路を循環する水が目標水温となるように、エアコンECUによってPI制御される(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−264629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図6は、従来技術におけるヒータ回路の水温の変化を示すグラフである。グラフの縦軸は水温を示し、横軸は時間を示す。前述の従来技術では、電気ヒータの水温制御に関して、電気ヒータの出力上昇に対して水温上昇の遅れが大きいので、早期の水温上昇を満足させようとすると、目標水温に対して、オーバーシュート量またはアンダーシュート量が大きくなり、図6に示すように、水温の安定性が悪い。したがって空調風の吹き出し温度の変動が生じ、乗員のフィーリングが悪化するという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、水温の早期上昇と水温の安定性を両立させることができるヒータ回路を有する車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0006】
請求項1に記載の発明では、 空気を送風する送風機(11)と、
前記送風機によって送風される空気が流れる空気通路(9)を形成する空調ケース(6)と、
水が循環する循環流路を構成するヒータ回路(3)と、
前記ヒータ回路に設けられ、前記ヒータ回路を循環する水を加熱するヒータ(15)と、
前記ヒータ回路に設けられ、前記循環する水を熱源として、前記送風機によって送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(13)と、
前記ヒータ回路を循環する水の温度を検出する水温検出手段(30,31)と、
車室内の空調要求に応じて、前記ヒータの出力を制御する制御手段(25)と、を含み、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するための目標水温よりも前記水温検出手段によって検出された実水温が小さい場合であって、前記目標水温と前記実水温との水温差が予め定める設定値よりも小さいとき、前記ヒータの出力を最大値よりも小さく一定の値である制限値に制御することを特徴とする車両用空調装置である。
【0007】
請求項1に記載の発明に従えば、水温差が設定値よりも小さい場合は、最大値よりも小さい一定の値の制限値となるように、制御手段によってヒータの出力を制御する。水温差が設定値以上の場合、ヒータの出力が最大値であっても、短時間で実水温が上昇して目標水温よりも大きくなる可能性が小さい。水温差が設定値よりも小さい場合には、ヒータの出力が最大値であると実水温が短時間で上昇して目標水温よりも大幅に大きくなる可能性がある。本発明では、水温差が設定値よりも小さい場合、制限値に制御されるので実水温の上昇速度を小さくすることができる。実水温の上昇速度が小さいので、実水温を目標水温にゆっくりと到達させることができ、実水温を目標水温で安定させることができる。また水温差が設定値になるまでは従来と同様の制御をすることによって、実水温を短時間で上昇させることができるので、短時間で目標水温に近づけることができる。このように本発明では、水温の早期上昇と水温の安定性を両立させることができる車両用空調装置を実現することができる。
【0008】
また請求項2に記載の発明では、制御手段は、前記目標水温よりも前記実水温が小さい場合であって、前記水温差が前記設定値以上のとき、前記ヒータの出力が最大となるように制御することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明に従えば、水温差が設定値以上の場合、ヒータの出力が最大となるように制御手段によって制御される。水温差が設定値以上の場合は、前述したように、水温差が大きいので、ヒータの出力が最大値であっても、短時間で実水温が上昇して目標水温よりも大きくなる可能性が小さい。このような場合に、ヒータの出力を最大にすることによって、実水温を目標水温にさらに短時間で近づけることができる。またその後、水温差が設定値未満になると、前述のようにヒータの出力が制限値に制御されるので、短期間で、かつ安定した状態で目標水温に近づくけることができる。
【0010】
さらに請求項3に記載の発明では、制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を演算し、前記演算した熱量が得られるように前記制限値を設定することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明に従えば、水温差が設定値よりも小さい場合、制御手段によって空調要求を満足するために必要な熱量が演算される。これによって必要な熱量を用いて循環する水を加熱することができるので、実水温が目標水温をおおきく上回ることなく、目標水温に近づけることができる。
【0012】
さらに請求項4に記載の発明では、制御手段は、前記演算された熱量に、予め定める余裕量を加えた熱量が得られるように、前記制限値を設定することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明に従えば、演算された熱量に余裕量を加えた熱量が得られるように、ヒータの出力が制御される。したがって実水温が目標水温をやや上回らせるヒータ出力となるので、短時間で目標水温に近づけることができる。
【0014】
さらに請求項5に記載の発明では、空調ケース内に設けられ、前記送風機によって送風される空気を冷却する冷却用熱交換器(12)と、
前記冷却用熱交換器を通過した空気の温度を検出する温度検出手段(32)と、をさらに含み、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を、目標吹出温度と前記温度検出手段によって検出された空気温度とを用いて演算することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明に従えば、必要な熱量を、目標吹出温度と空気温度とを用いて演算するので、高精度に必要な熱量を演算することができる。
【0016】
さらに請求項6に記載の発明では、水温検出手段は、前記加熱用熱交換器の出口における水温を検出し、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を、前記目標水温と前記水温検出手段によって検出された実水温とを用いて演算することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明に従えば、必要な熱量を、目標水温と実水温とを用いて演算するので、高精度に必要な熱量を演算することができる。
【0018】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図4を用いて説明する。図1は、第1実施形態の車両用空調装置1の全体構成を示す模式図である。車両用空調装置1は、走行用電動モータ(図示せず)を走行用の駆動源とする車両に搭載される。車両用空調装置1は、冷凍サイクル2、ヒータ回路3、室内ユニット4および制御装置5を含む。車両用空調装置1は、たとえば車両の車室内前部の計器盤下部に設置される。
【0021】
室内ユニット4を構成する空調ケース6は、一端側に空気の吸入口7,8を有し、他端側に車室内への吹出口(図示せず)を有し、吸入口7,8から吹出口へ空調空気を導く空調空気通路9を構成している。空調ケース6の一端側には内気を吸入する内気吸入口7、および外気を吸入する外気吸入口8が設けられている。内気吸入口7と外気吸入口8は内外気切替ドア10により切替および開閉される。吸入口7,8に隣接して、空調ケース6内に空気を送風する送風機11が設置される。空調ケース6の他端側には車室内へ通ずる複数の吹出口(図示せず)が形成されている。これらの吹出口は吹出モード切替ドア(図示せず)によりそれぞれ切替および開閉され、たとえばフェイス、バイレベル、フット、およびデフロスタ等の吹出モードが設定される。
【0022】
送風機11より空気下流側における空調ケース6内には冷凍サイクル2の室内器12が設けられている。室内器12は、冷凍サイクル2の低圧冷媒が空気から吸熱して、空気を冷却するものである。室内器12より空気下流側にはヒータ回路3のヒータコア13が設けられている。ヒータコア13は、温水を加熱源として自身を流通する空調空気を加熱する熱交換器である。室内器12およびヒータコア13によって温度調節された空調空気は、選択された吹出口から車室内に吹出される。
【0023】
ヒータ回路3は、温水(水)が循環する循環流路を構成する。ヒータ回路3には、温水を循環させる電動式のウォーターポンプ14、温水を加熱する電気ヒータ15、循環する温水の温度を検出する水温センサ30,31、およびヒータコア13が設けられる。したがって電気ヒータ15は、車室内に送風される空気を加熱して空調風を提供するときに、熱源として用いられる。ヒータコア13は、電気ヒータ15によって加熱された温水が、内部に流通するように構成される。
【0024】
水温センサ30,31は、ヒータ回路3を循環する水の温度を検出する水温検出手段である。水温センサ30,31は、電気ヒータ15を通過後、ヒータコア13に流入前の温水の温度を検出する入口水温センサ31と、ヒータコア13を通過後、電気ヒータ15を通過する前の温水の温度を検出する出口水温センサ30とが設けられる。水温センサ30,31は、検出した温度情報を、制御装置5を構成するエアコンECU25に与える。
【0025】
電気ヒータ15には、車載のバッテリ17から得た直流電力が、制御装置5を構成するインバータ部18によって個別にデューティ制御されて供給される。電気ヒータ15は、電力が供給されている状態での消費電力は一定であり、たとえばニクロム線を利用したシーズヒータである。
【0026】
冷凍サイクル2は、電動圧縮機19、膨張弁20、室外器21および室内器12が環状のサイクル流路22に順次接続される。冷凍サイクル2内を循環する冷媒としては、二酸化炭素(CO2)を用いており、高圧側の冷媒圧力が臨界圧力よりも高い状態で使用される場合を有している。
【0027】
電動圧縮機19は、交流モータ(図示せず)によって駆動されて、空気を冷却して空調風を提供するときに用いられる冷媒を高温高圧に圧縮して室外器21へ吐出する流体機械である。電動圧縮機19は、作動回転数によって冷媒の吐出量を可変可能としている。電動圧縮機19は、制御装置5によってその作動および冷媒吐出量が制御される。電動圧縮機19の交流モータには、車載のバッテリ17(本実施形態では定格電圧300Vの直流電源)から得た直流電力がインバータ部18によって交流電力に変換されて供給される。電動圧縮機19の吐出側であって、たとえば電動圧縮機19と室外器21との間には、冷媒の状態量を検出する冷媒状態検出手段(図示せず)が設けられる。冷媒状態検出手段は、吐出された冷媒の温度を検出する温度センサおよび冷媒の圧力を検出する圧力センサによって実現される。各センサは、検出した温度情報および圧力情報を制御装置5に与える。
【0028】
室外器21は、凝縮器であって、電動圧縮機19から吐出された冷媒とエンジンルーム内に流入する外気との間で熱交換する熱交換器である。室外器21は、車両のエンジンルームの前方、たとえばグリルの後方に配置される。室外器21の冷媒流出側であって、たとえば室外器21と膨張弁20との間には室外器21から流出される冷媒の温度を検出する温度センサ(図示せず)が設けられる。温度センサは、検出した温度情報を制御装置5に与える。
【0029】
膨張弁20は、室外器21から流出される冷媒を減圧する(低温低圧にする)減圧手段である。膨張弁20には感温部(図示せず)およびキャピラリ(図示せず)が接続されており、室外器21から流出される冷媒の温度に応じて膨張弁20の弁開度が調節される機械式膨張弁としている。具体的には、感温部での冷媒温度が高いと弁開度が小さい側に可変されて室外器21における冷媒圧力が高い側に維持され、逆に感温部での冷媒温度が低くなると弁開度が大きい側に可変されて室外器21における冷媒圧力が低い側に維持される。
【0030】
室内器12は、室内ユニット4の空調ケース6内で空調空気通路9全体を横断するように配設される。室内器12は、蒸発器であって、膨張弁20で減圧された冷媒と空調ケース6内を流通する空調空気との間で熱交換して、空調空気を冷却する熱交換器である。室内器12から流出された冷媒は、電動圧縮機19に与えられる。室内器12の空調空気流れの下流側には、冷却された空気温度(エバ後空気温度)を検出する室内器温度センサ32が設けられる。室内器温度センサ32は、検出した温度情報をエアコンECU25に与える。
【0031】
空調ケース6内には、室内器12に加えて、暖房器としてのヒータコア13が配設されている。ヒータコア13は、室内器12に対して空調空気流れ下流側に配置されている。ヒータコア13と空調ケース6との間にはヒータコア13をバイパスして空調空気が流通するバイパス流路23が形成されている。
【0032】
ヒータコア13の近傍には通過する空調空気量を調節するエアミックスドア24が設けられている。エアミックスドア24は、ヒータコア13の空調空気流通部を開閉する回動式のドアである。エアミックスドア24の開度に応じて、ヒータコア13を流通する加熱空気とバイパス流路23を流通する冷却空気との流量割合が調節されて、ヒータコア13の下流側の空調空気温度が調節される。エアミックスドア24の開度は、制御装置5によって制御される。
【0033】
制御装置5は、エアコン電子制御装置(Electronic Control Unit:略称ECU)25とインバータ部18を含む。エアコンECU25は、マイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。エアコンECU25には、前述したセンサの他に、外気温を検出する外気温度センサ33、内気温度を検出する内気温度センサ34および日射量を検出する日射センサ35からの情報が与えられる。エアコンECU25は、予め設定されたプログラムに従って各種センサから与えられる情報および操作パネル(図示せず)で乗員が設定する設定情報に対する演算処理を行う。エアコンECU25は、空調要求および空調負荷に基づいて、たとえばエアミックスドア24、電動圧縮機19、および電気ヒータ15などを制御する。
【0034】
インバータ部18は、エアコンECU25からの指令によって電動圧縮機19および電気ヒータ15の作動を制御する。したがってインバータ部18とエアコンECU25は、電気負荷である電動圧縮機19および電気ヒータ15への電力の供給を制御する制御手段を構成する。インバータ部18には、バッテリ17の直流電力がヒューズ29を介して供給されている。バッテリ17は、電源であって、たとえば水素と酸素との化学反応を利用して電力を発生する燃料電池(図示せず)にて充電される蓄電手段である。インバータ部18は、電気ヒータ用インバータ26および電動圧縮機用インバータ28を含む。各インバータ26,28は、バッテリ17およびヒューズ29に対して並列に接続される。
【0035】
ヒューズ29は、ヒューズ許容電流が予め設定され、ヒューズ許容電流以上となるとヒューズ29が断線し、過電流がバッテリ17から電気負荷に流れないように動作する。ヒューズ29の許容電流は、負荷の起動電流と定格電流とに基づいて設定され、負荷の定格電流がヒューズ29の許容電流以上になるとヒューズ29が断線する。
【0036】
電動圧縮機用インバータ28は、直流電力をスイッチングして可変周波数の交流出力(交流電力)を作りだし、その交流出力によって電動圧縮機19の回転数を可変制御する。電気ヒータ用インバータ26は、直流電力をスイッチングして、電気ヒータ15に供給される電力をデューティ制御する。デューティ制御は、電気ヒータなどの負荷への通電を短い周期で繰り返しオン/オフさせ、1周期当たりのオン時間(通電パルスの幅)の比率(デューティ比)を制御することで、負荷電流や負荷電圧を制御することである。このデューティ制御によって、電気ヒータ15にはバッテリ17の電圧と等しい電圧が電気ヒータ用インバータ26を介して印加される。各インバータ26,28のスイッチング素子としては、たとえば絶縁ゲートバイポーラトランジスタが用いられる。
【0037】
次に、エアコンECU25の電気ヒータ用インバータ26の制御処理に関して説明する。図2は、エアコンECU25における電気ヒータ用インバータ26のデューティ比の決定手順を示すフローチャートである。エアコンECU25は、図2の制御処理が実行される以前に電動圧縮機19の動作状態、たとえば運転および停止を決定している。またエアコンECU25は、図2に示す処理を短時間に繰返す。
【0038】
ステップa1では、ヒータ回路を循環する温水の目標水温を決定し、ステップa2に移る。目標水温は、たとえば次式(1)によって演算される。
【0039】
TWO(n)={TAO(n)−TE(n)}/φ+TE(n) …(1)
ここで、nは本フローの処理回数を示し、TWO(n)は目標水温を示し、TE(n)は室内器12を通過した空気の温度を示し、TAO(n)は目標吹出温度を示し、φはヒータコア13の温度効率を示す。このように式(1)では、目標吹出温度TWO(n)とエバ後温度TE(n)との温度差からヒータコア13にて必要な熱量を演算して、目標水温TWO(n)を求めている。
【0040】
ステップa2では、電気ヒータ15の出力を決定し、ステップa3に移る。電気ヒータ15の出力は、たとえば次式(2)および式(3)によって演算される。
【0041】
E(n)=TW(n)−TWO(n) …(2)
W(n)=W(n−1)+Kp{E(n)−E(n−1)}+(θ/Ti)×E(n)
…(3)
ここで、W(n)は電気ヒータ15の出力を示し、TWは現在の水温(実水温)を示し、
W(n−1)が電気ヒータ15の出力の前回値を示し、Kpは比例定数を示し、θはサンプリング周期を示し、Tiは積分定数を示す。式(3)に示すように、電気ヒータ15の出力がPI制御によって決定される。
【0042】
ステップa3では、ヒータ出力の決定処理を実行し、ステップa4に移る。ヒータ出力の決定処理は、目標水温と実水温との差が小さい場合に、電気ヒータ15の出力を最大値(最大能力値)よりも小さく、一定の値の制限値に決定し、小さくない場合には、前述のステップa2で演算したヒータ出力に決定する処理である。
【0043】
ステップa4では、ステップa2およびステップa3で決定されたヒータ出力と電気ヒータ最大出力(Wmax)から、電気ヒータ15のデューティ比(Duty)は、次式(4)によって演算される。
【0044】
Duty=W(n)/Wmax …(4)
ステップa5では、ステップa4にて算出されたデューティ比(Duty)を電気ヒータ用インバータ26へ出力し、本フローを終了する。これによってデューティ比が与えられた電気ヒータ用インバータ26は、電気ヒータ15を与えられたデューティ比でデューティ制御する。
【0045】
このようにエアコンECU25は、ステップa2にて目標水温に基づいて電気ヒータ15の出力を仮決定する。エアコンECU25は、ステップa2にて仮決定した電気ヒータ15の出力が大きすぎて目標水温を上回るような場合は、ステップa3にて出力を小さくするように制御し、最終的なヒータ出力を決定する。
【0046】
次に、ステップa3のヒータ出力の決定処理に関してさらに説明する。図3は、エアコンECU25におけるヒータ出力の決定処理を示すフローチャートである。エアコンECU25は、図2のステップa2の処理がなされると、本フローを開始する。
【0047】
ステップb1では、目標水温TWOと実水温TWとの水温差が、予め定める設定値(たとえば5度)よりも小さいか否かを判断し、小さい場合、ステップb2に移り、大きい場合、本フローを終了する。
【0048】
ステップb2では、水温差が設定値よりも小さいので、電気ヒータ15の出力の制限値である必要能力上限値(Wupper)を演算し、ステップb3に移る。必要能力上限値は、たとえば次式(5)によって演算される。
【0049】
Wupper={TAO(n)−TE(n)}×C×ρ×Va+α …(5)
ここでCは空気比熱を示し、ρは空気密度を示し、Vaは風量を示し、αは余裕量を示す。このように式(5)では、目標吹出温度TAOとエバ後空気温度TEとの差に、単位時間当たりの空気通過量を乗算して目標吹出温度TAOに必要な熱量を演算し、この必要な熱量に余裕量αを加算した値が必要能力上限値Wupperとして演算される。したがって必要能力上限値は、空調要求(目標吹出温度)を満足するために必要な熱量である。また必要能力上限値は、式(5)に示すように、実水温に依存しないので、目標水温TAO(n)が変化しない限り、一定の値となる。
【0050】
ステップb3では、ステップa2にて演算した出力W(n)と、ステップb2にて演算した必要能力上限値Wupperとを比較し、出力W(n)が大きい場合、ステップb4に移り、大きくない場合、本フローを終了する。ステップb4では、出力W(n)が必要能力上限値Wupperよりも大きいので、出力W(n)を必要能力上限値Wupperに値を書き換え、本フローを終了する。
【0051】
このようにエアコンECU25は、ステップb2にて必要能力上限値を演算する。必要能力上限値は、前述したように目標吹出温度を達成するためにヒータ回路3によって確保すべき熱量に、余裕量を加算したものである。余裕量によって、実水温が目標水温に無限に近づくことを防止することができる。
【0052】
次に、図3に示す決定処理を実行することによる効果に関して説明する。図4は、ヒータ回路3を循環する水の水温の変化を示すグラフである。図5は、電気ヒータ15の出力の変化を示すグラフである。図4の縦軸は水温を示し、横軸は時間を示す。また図5の縦軸は電気ヒータ15の出力を示し、横軸は時間を示す。また図4および図5では、エアコンECU25の処理の波形を実線で示し、従来技術の制御部の処理(以下、単に「従来制御」ということがある)の波形を破線で示す。従来制御は、図2のステップa3を除いた、ステップa1、ステップa2、ステップa4、およびステップa5を順次実行する処理である。
【0053】
図4に示すように、時刻t0から時刻t1までは、実水温と目標水温との水温差は設定値ΔT(たとえば5度)よりも大きいので、エアコンECU25のステップb1の判断処理にてステップa4に移る。したがってエアコンECU25の処理と従来制御とは、同様の処理となる。これによって時刻t0から水温差が設定値ΔTよりも小さくなる時刻t1までの波形は、互いに等しい。
【0054】
時刻t1では、水温差がΔTよりも小さくなるので、エアコンECU25のステップb1の判断処理にてステップb2に移り、実水温が目標水温よりも小さいのでステップb3からステップb4に移り、ステップb4にて、ヒータ出力が必要能力上限値に決定される。したがって図5に示すように、時刻t1にてヒータ出力が最大値から必要能力上限値まで下げられる。これに対して従来制御では、前述の式(3)に基づくPI制御によってヒータ出力は最大値から多少は小さくなるが、図4に示すように、時刻t2にて目標水温を達し、その後、ヒータ出力を低下するが、水温の上昇がすぐに止まらないので、目標水温を大きく上回る。
【0055】
これに対してエアコンECU25は、ヒータ出力を早めの段階(時刻t1)で必要能力上限値まで低下させているので、ゆるやかに水温が上昇し、時刻t3にて目標水温に達する。実水温が目標水温に達した時刻t3以降は、ステップb3における判断で、ステップa4に移るので、前述の式(3)に基づくPI制御に再び戻り、目標水温が維持される。したがって図4に示すように、従来制御では温度変化の波形が大きく波打っているが、エアコンECU25による処理では、ゆるやかな曲線で目標水温に達して、維持される。また目標水温に達するまでの時間は、従来制御と大きくかわらないので、ヒータ出力が最大値の従来制御と同様に、短時間で目標水温にすることができる。
【0056】
以上説明したように本実施の形態のエアコンECU25は、水温差が設定値ΔTよりも小さい場合は、電気ヒータ15の出力を最大値よりも小さく一定の値である必要能力上限値となるように制御する(図5参照)。これによって水温差が設定値ΔTよりも小さい場合、実水温の上昇速度を小さくすることができる。実水温の上昇速度が小さいので、実水温を目標水温にゆっくりと到達させることができ、実水温を目標水温で安定させることができる。また設定値ΔTまではPI制御をすることによって、実水温を短時間で上昇させることができるので、短時間で目標水温に近づけることができる。このように本実施形態では、水温の早期上昇と水温の安定性を両立させることができる。したがって乗員のフィーリングが悪化することなく、快適な空調空間を提供することができる。
【0057】
また本実施の形態では、水温差が設定値ΔT以上(時刻t1まで)の場合、電気ヒータ15の出力が最大となるようにエアコンECU25によって制御される(図5参照)。水温差が設定値ΔT以上の場合は、前述したように、水温差が大きいので、電気ヒータ15の出力が最大値であっても、短時間で実水温が上昇して目標水温よりも大きくなる可能性が小さい。このような場合に、電気ヒータ15の出力を最大にすることによって、実水温を目標水温に短時間で近づけることができる。したがって実水温をさらに短時間で上昇させることができる。
【0058】
また本実施の形態では、水温差が設定値ΔTよりも小さい場合、エアコンECU25によって空調要求を満足するために必要な熱量が式(5)によって演算される。これによって必要な熱量を用いて循環する水を加熱することができる。
【0059】
さらに本実施の形態では、式(5)では余裕量αが加算されているので、実水温が目標水温をやや上回るので、短時間で目標水温に近づけることができる。また余裕量αが小さすぎると、実水温が無限に目標水温に近づくような制御となるので、余裕量αは確実に目標水温に達することができる値に設定される。このように余裕量αは、必要な熱量を補正する補正量としての効果も有する。
【0060】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して説明する。前述の第1実施形態では熱量の演算は式(5)を用いていたが、本実施の形態では、次式(6)によって演算される点に特徴を有する。
【0061】
Wupper={TAO(n)−TWout(n)}×Cw×ρw×Gw+α …(6)
ここでTWout(n)は出口水温センサ30によって検出される出口水温を示し、Cwはヒータ回路3を循環する温水の比熱を示し、ρwは温水の密度を示し、Gwは温水の流量を示し、αは余裕量を示す。このように式(6)では、目標吹出温度TAOと出口水温TWoutとの差に、単位時間当たりの流量を乗算して目標吹出温度に必要な熱量を演算し、この必要な熱量に余裕量αを加算した値が必要能力上限値として演算している。したがって必要能力上限値は、空調要求(目標吹出温度)を満足するために必要な熱量となる。このように前述の式(5)に換えて式(6)を用いても、前述の第1実施形態と同様の作用および効果を達成することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0063】
前述の第1実施形態では、電気ヒータ15はヒータ回路3に1つだけ設けられていたが、1つに限ることはなく、2つ以上であってもよい。
【0064】
また空調要求を満足するために必要な熱量は、前述の第1実施形態では式(5)を用いて演算し、前述の第2実施形態では式(6)を用いて演算しているが、この2つの式に限ることはなく、他のパラメータから必要な熱量を演算してもよく、また予め設定される制御マップなどから熱量を決定してもよい。
【0065】
また前述の第1実施形態では、電気ヒータ15をデューティ制御しているが、デューティ制御に限ることはなく、デューティ比に依存することなく通電状態と非通電状態を単に切り替えるように制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置1の全体構成を示す模式図である。図である。
【図2】エアコンECU25における電気ヒータ用インバータ26のデューティ比の決定手順を示すフローチャートである。
【図3】エアコンECU25におけるヒータ出力の決定処理を示すフローチャートである。
【図4】ヒータ回路3を循環する水の水温の変化を示すグラフである。
【図5】電気ヒータ15の出力の変化を示すグラフである。
【図6】従来技術におけるヒータ回路の水温の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1…車両用空調装置
3…ヒータ回路
5…制御装置(制御手段)
9…空調空気通路(空気通路)
11…送風機
12…室内器(冷却用熱交換器)
13…ヒータコア(加熱用熱交換器)
15…電気ヒータ(ヒータ)
17…バッテリ
18…インバータ部
19…電動圧縮機
25…エアコンECU(制御手段)
26…電気ヒータ用インバータ
28…電動圧縮機用インバータ
29…ヒューズ
30…出口水温センサ
31…入口水温センサ
32…室内器温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を送風する送風機(11)と、
前記送風機によって送風される空気が流れる空気通路(9)を形成する空調ケース(6)と、
水が循環する循環流路を構成するヒータ回路(3)と、
前記ヒータ回路に設けられ、前記ヒータ回路を循環する水を加熱するヒータ(15)と、
前記ヒータ回路に設けられ、前記循環する水を熱源として、前記送風機によって送風される空気を加熱する加熱用熱交換器(13)と、
前記ヒータ回路を循環する水の温度を検出する水温検出手段(30,31)と、
車室内の空調要求に応じて、前記ヒータの出力を制御する制御手段(25)と、を含み、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するための目標水温よりも前記水温検出手段によって検出された実水温が小さい場合であって、前記目標水温と前記実水温との水温差が予め定める設定値よりも小さいとき、前記ヒータの出力を最大値よりも小さく一定の値である制限値に制御することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記目標水温よりも前記実水温が小さい場合であって、前記水温差が前記設定値以上のとき、前記ヒータの出力が最大となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を演算し、前記演算した熱量が得られるように前記制限値を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記演算された熱量に、予め定める余裕量を加えた熱量が得られるように、前記制限値を設定することを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記空調ケース内に設けられ、前記送風機によって送風される空気を冷却する冷却用熱交換器(12)と、
前記冷却用熱交換器を通過した空気の温度を検出する温度検出手段(32)と、をさらに含み、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を、目標吹出温度と前記温度検出手段によって検出された空気温度とを用いて演算することを特徴とする請求項3または4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記水温検出手段は、前記加熱用熱交換器の出口における水温を検出し、
前記制御手段は、前記空調要求を満足するために必要な熱量を、前記目標水温と前記水温検出手段によって検出された実水温とを用いて演算することを特徴とする請求項3または4に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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