説明

車両用空調装置

【課題】車両で発電した電力のうち従来まで余剰電力となっていた電力を有効に活用して、車室内の空調を行う。
【解決手段】車両に搭載された発電機(車両走行用モータ2)にて発電された電力によって、車両走行用モータ2に電力を供給するためのバッテリ3を充電可能な車両に適用される車両用空調装置であって、発電機、およびバッテリ3の少なくとも一方から供給される電力によって、冷媒を圧縮して吐出する電動式の圧縮機21、圧縮機21から吐出された高圧冷媒を減圧する膨張弁24、および膨張弁24にて減圧された低圧冷媒を蒸発させて車室内に吹き出す空気を冷却する蒸発器13を含んで構成される冷凍サイクル20と、低圧冷媒の冷熱を吸熱して冷熱を蓄冷剤Sに蓄積すると共に、蓄冷剤Sに蓄積された冷熱にて車室内に吹き出す空気を冷却する蓄冷手段(蒸発器13)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気自動車やハイブリッド自動車では、車両用空調装置の電気負荷(電動圧縮機等)と走行用電動機に共通のバッテリから電力を供給するようになっている。そして、電気自動車等では、車両減速時の回生等によって得られる電気エネルギを利用してバッテリの充電を効率よく行う構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−279989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の技術では、バッテリの充電容量が充分に確保されている状況(例えば、満充電状態)において、回生等によって発電可能であっても、発電した電力にてバッテリに充電することができず、発電によって得られた電力が余剰電力となってしまう。
【0005】
この場合、例えば、発電によって得られた電力を車両用空調装置の電気負荷(電動圧縮機)にて消費することが考えられるが、外気温度が低い場合や車室内が充分に冷えている場合には、依然として発電によって得られた電力が余剰電力となってしまう。
【0006】
上記点に鑑みて、本発明では、車両で発電した電力のうち従来まで余剰電力となっていた電力を有効に活用して、車室内の空調を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両に搭載された発電手段(2、5)にて発電された電力によって、車両走行用モータ(2)に電力を供給するためのバッテリ(3)を充電可能な車両に適用される車両用空調装置であって、発電手段(2、5)、およびバッテリ(3)の少なくとも一方から供給される電力によって、冷媒を圧縮して吐出する電動圧縮機(21)、電動圧縮機(21)から吐出された高圧冷媒を減圧する減圧手段(24)、および減圧手段(24)にて減圧された低圧冷媒を蒸発させて車室内に吹き出す空気を冷却する蒸発器(13)を含んで構成される冷凍サイクル(20)と、低圧冷媒の冷熱を吸熱して冷熱を蓄冷剤(S)に蓄積すると共に、蓄冷剤(S)に蓄積された冷熱にて車室内に吹き出す空気を冷却する蓄冷手段(13)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これによれば、車両に搭載されたバッテリ(3)の充電容量が充分に確保されている状況において、発電手段(2、5)にて発電した電力が余剰電力となる場合には、当該余剰電力にて冷凍サイクル(20)の電動圧縮機(21)を駆動して蓄冷手段(13)の蓄冷剤(S)に冷熱を蓄積することができる。そして、蓄冷剤(S)に蓄積した冷熱を、バッテリ(3)の充電容量が少なくなった場合に放熱することで、従来まで余剰電力となっていた電力を有効に活用して、車室内の空調を行うことが可能となる。
【0009】
具体的には、請求項2に記載の発明の如く、請求項1に記載の車両用空調装置において、電動圧縮機(21)の吐出能力を制御する容量制御手段(30a)を備え、バッテリ(3)の充電容量が所定の第1基準容量以上である場合に、容量制御手段(30a)にて、電動圧縮機(21)の吐出能力を、車室内の空調熱負荷に応じて設定される基準吐出能力よりも増大させて、蓄冷剤(S)にて低圧冷媒から吸熱する熱量を増大させるようにすればよい。
【0010】
また、請求項3に記載の発明の如く、請求項2に記載の車両用空調装置において、バッテリ(3)の充電容量が第1基準容量よりも小さい容量に設定された第2基準容量以下である場合に、容量制御手段(30a)にて、電動圧縮機(21)の吐出能力を基準吐出能力よりも低下させて、蓄冷剤(S)に蓄積された冷熱にて車室内に吹き出す空気を冷却するようにすればよい。
【0011】
これによれば、バッテリ(3)の充電容量が少ない場合において、電動圧縮機(21)にて消費する消費電力を抑えたとしても、蓄冷剤(S)の冷熱を放冷して、車室内の空調を充分に行うことができる。この結果、発電手段(2、5)にて発電した電力をバッテリ(3)の充電や車両走行用モータ(2)にて有効に活用することが可能となり、燃費の向上を図ることが可能となる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明の如く、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、発電手段(2、5)を、車両減速時の運動エネルギを電気エネルギに回生する発電機(2)としてもよい。
【0013】
また、請求項5に記載の発明の如く、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、発電手段(2、5)を、太陽光線を受光することにより受光量に応じた発電電力を出力する太陽電池(5)としてもよい。
【0014】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る車両用空調装置の模式図である。
【図2】第1実施形態に係る圧縮機の容量制御処理を示すフローチャートである。
【図3】第2実施形態に係る車両用空調装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両用空調装置1および車両を図1に基づいて説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る車両用空調装置1の模式図である。
【0018】
本実施形態の車両用空調装置1は、エンジン(図示略)および車両走行用モータ2から車両走行用の駆動力を得るハイブリッド車両に搭載されている。
【0019】
本実施形態のハイブリッド車両は、車両の走行負荷等に応じてエンジンを作動あるいは停止させて、エンジンおよび車両走行用モータ2の双方から駆動力を得て走行する走行状態や、エンジンを停止させて車両走行用モータ2のみから駆動力を得て走行する走行状態等を切り替えることができる。これにより、車両走行用の駆動力をエンジンのみから得る通常の車両に対して車両燃費を向上させている。なお、このようなエンジンの作動あるいは停止といったエンジンの作動は、車両制御装置(図示略)によって制御される。
【0020】
ここで、本実施形態の車両走行用モータ2は、発電機を兼ねるモータジェネレータであり、充電可能な車載バッテリ3から電力が供給された場合に電動機として機能する一方、動力切替機構(図示略)により駆動輪側から機械的エネルギ、つまり車両が走行時に保有する運動エネルギを、車両の減速時に電気エネルギに回生する発電機(回生ブレーキ)として機能する。このモータジェネレータ(車両走行用モータ2)にて発電された電力は、バッテリ3に蓄えることができると共に、車両用空調装置1を構成する各構成機器をはじめとする各種車載機器に供給することができる。なお、動力切替機構は、エンジンおよび車両走行用モータと車軸(図示略)との間の動力の伝達を切替える機能を有するものである。
【0021】
次に、本実施形態の車両用空調装置1について説明する。本実施形態の車両用空調装置1は、室内空調ユニット10、冷凍サイクル20、空調制御装置30等を備えている。
【0022】
室内空調ユニット10は、車室内最前部の計器盤の内側に配置されて、その外殻をなすケーシング11内に送風機12、蒸発器13、ヒータコアやPTCヒータといった加熱器(図示略)等を収容したものである。
【0023】
ケーシング11は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ケーシング11内の空気流れ最上流側には、車室内空気と車室外空気とを切替導入するための内外気切替箱が配置されている。
【0024】
ケーシング11における内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内に向けて送風する送風機12が配置されている。この送風機12は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置30から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0025】
送風機12の空気流れ下流側には、蒸発器13が配置されている。この蒸発器13は、内部を流通する冷媒(低圧冷媒)を蒸発させて、送風機12から送風された送風空気を冷却する冷却用熱交換器として機能するものである。
【0026】
ここで、本実施形態の蒸発器13では、冷却用熱交換器としての機能に加えて、冷媒の冷熱を吸熱して蓄積する蓄熱機能を付加した蓄熱用熱交換器としても機能する構成としている。
【0027】
具体的には、本実施形態の蒸発器13は、例えば、特開2000−205777号公報に示す蓄熱機能が付加された蒸発器を用いることができる。すなわち、本実施形態の蒸発器13は、複数本の二重管構造のチューブ、各チューブの外表面に接合された熱交換フィン、各チューブにおける内管の長手方向の両端部に接続された一対のタンクを有する構成とする。そして、二重管構造のチューブにおける内管の内部に、冷媒が流通する冷媒流通路を構成し、チューブの内管と外管との間の隙間に、内管を流通する冷媒の冷熱を吸熱して蓄積する蓄冷剤S(例えば、パラフィン)を充填した蓄熱室を構成すればよい。なお、説明の便宜のため、図1では蓄冷剤Sを模式的に図示している。
【0028】
これにより、蒸発器13では、チューブ内を冷媒が通過する際に、送風空気を冷却することができると共に、蓄冷剤Sに低圧冷媒の冷熱を蓄積することができる。なお、本実施形態では、蒸発器13が本発明の蓄冷手段を構成している。
【0029】
また、本実施形態の蒸発器13は、圧縮機21、凝縮器22、膨張弁24等とともに、蒸気圧縮式の冷凍サイクル20を構成している。
【0030】
圧縮機21は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル20において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものであり、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構21aを電動モータ21bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。電動モータ21bは、インバータ25から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。
【0031】
また、インバータ25は、後述する空調制御装置30から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機21の冷媒吐出能力が変更される。なお、本実施形態では、圧縮機21の冷媒吐出能力を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を容量制御手段30aとする。
【0032】
凝縮器22は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と、室外送風機としての送風ファン22aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させることにより、圧縮機21から吐出された高圧冷媒を凝縮させるものである。送風ファン22aは、冷凍サイクル20の作動時に、空調制御装置30から出力される制御電圧によって稼働率、すなわち、回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0033】
膨張弁24は、凝縮器22にて凝縮された高圧冷媒(液相冷媒)を減圧膨張させる減圧手段である。蒸発器13は、膨張弁24にて減圧膨張された低圧冷媒を蒸発させて、送風機12からの送風空気を冷却するものである。上述したように、本実施形態の蒸発器13は、送風空気を冷却する冷却用熱交換器として機能すると共に、低圧冷媒の冷熱を蓄冷剤に蓄積する蓄冷用熱交換器として機能する。
【0034】
また、ケーシング11内において蒸発器13の空気流れ下流側には、蒸発器13通過後の空気を再加熱して温度調節するための加熱器(図示略)が配置されている。さらに、ケーシング11の送風空気流れ最下流部には、加熱器にて温度調節された空気を車室内に吹き出す吹出口(図示略)が設けられている。なお、吹出口としては、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口等が設けられている。
【0035】
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。本実施形態の電気制御部は、主にエンジンの作動を制御する車両制御装置(図示略)、車室内の空調を制御する空調制御装置30等で構成されている。
【0036】
車両制御装置および空調制御装置30は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶されたエンジン制御プログラムや空調制御プログラム等の各種プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種機器の作動を制御する。
【0037】
車両制御装置の出力側には、エンジンを構成する各種エンジン構成機器やバッテリ等が接続されている。具体的には、エンジンを始動させるスタータ(図示略)、エンジンに燃料を供給する燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動回路(図示略)等が接続されている。そして、車両制御装置の入力側には、アクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ(図示略)、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ(図示略)等のエンジン制御用のセンサ群が接続されている。
【0038】
また、本実施形態の車両制御装置(図示略)は、エンジンの作動を制御すると共に、バッテリ3の充電容量(SOC:State Of Charge)を検出し、検出したバッテリ3の充電容量に応じて車両走行用モータ2を制御して、バッテリ3の充電容量を管理している。
【0039】
バッテリ3の充電容量の管理としては、例えば、車両の減速時において、車両の減速手段である油圧ブレーキおよび回生ブレーキのうち回生ブレーキを優先的に利用するように制御する。このようにバッテリ3を効率よく充電することで、エンジンの作動頻度の低減(省燃費)を図ることが可能となる。
【0040】
なお、車両制御装置によるバッテリの充電容量の検出方法としては、バッテリ3の電解液の比重変化を検出するセンサを設け、当該センサの検出信号に基づいて充電容量を検出する方法や、バッテリ3の充放電時の電流値と、充放電時間とを積算することにより充電容量を検出(推定)する方法を採用することができる。
【0041】
空調制御装置30の出力側には、送風機12、圧縮機21の電動モータ21b用のインバータ25、送風ファン22a、各種電動アクチュエータ等が接続されている。そして、空調制御装置30の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ31、外気温Tamを検出する外気センサ32(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ33、蒸発器13における冷媒蒸発温度TEを検出する蒸発器温度センサ34(蒸発器温度検出手段)の空調制御用のセンサ群が接続されている。
【0042】
本実施形態の蒸発器温度センサ34は、具体的に蒸発器13の熱交換フィンの温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ34として、蒸発器13における他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、蒸発器13を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。なお、冷媒蒸発温度TEは、蒸発器13の熱交換フィン温度、蒸発器13における他の部位の温度、蒸発器13を流通する冷媒自体の温度を意味するだけでなく、蒸発器13を通過直後の送風空気の吹出空気温度を意味している。
【0043】
本実施形態の空調制御装置30は、車室内を冷房する際の冷房運転として、空調熱負荷に応じて車室内の空調を行う通常運転、蓄冷剤Sに蓄積する冷熱の蓄積量を増大させる蓄冷運転、および蓄冷剤Sに蓄積した冷熱を放冷する放冷運転のいずれかを実行するように構成されている。
【0044】
なお、空調制御装置30は、エンジンの作動を制御する車両制御装置(図示略)に電気的接続されており、空調制御装置30および車両制御装置は互いに電気的に通信可能に構成されている。これにより、一方の制御装置に入力された検出信号や操作信号等に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。
【0045】
次に、本実施形態の空調制御装置30にて実行する圧縮機21の容量制御処理について図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る圧縮機21の容量制御処理を示すフローチャートである。この圧縮機21の容量制御処理は、車室内の計器盤に設けられたコントロールパネル(図示略)に設けられたエアコンスイッチがオンされることでスタートする。
【0046】
まず、各種センサ31〜34のセンサ信号、乗員が設定した車室内設定温度Tsetを読み込むと共に、車両制御装置にて検出したバッテリ3の充電容量等を読み込む(S10)。
【0047】
そして、各種センサ31〜34のセンサ信号に基づいて、車室内に吹き出す空気の目標温度TAOを算出する(S20)。この目標温度TAOは、次に示す数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
なお、数式F1におけるTsetは乗員が設定した車室内設定温度、Trは内気センサ31によって検出された車室内温度、Tamは外気センサ32によって検出された外気温、Tsは日射センサ33によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0048】
次に、車室内吹出空気の目標温度TAOに基づいて、予め空調制御装置30のROMに記憶された制御マップ等を参照して、蒸発器13における冷媒蒸発温度TEの目標冷媒蒸発温度TEOを決定する。そして、目標冷媒蒸発温度TEOと冷媒蒸発温度TEとの温度差ΔTに基づいて、圧縮機21の第1目標回転数(目標吐出能力)を算出する(S30)。この第1目標回転数は、温度差ΔTの増加に応じて、高回転数に設定され、温度差ΔTの減少に応じて、低回転数に設定される。
【0049】
ここで、目標冷媒蒸発温度TEOと冷媒蒸発温度TEとの温度差ΔTは、空調熱負荷(車室内温度Trを車室内設定温度Tsetに維持するために必要となる熱量)に相関するものであり、上述の第1目標回転数は、空調熱負荷に応じて設定されることとなる。なお、本実施形態における第1目標回転数は、本発明の圧縮機の基準吐出能力に相当している。
【0050】
次に、車両制御装置にて検出したバッテリ3の充電容量が、バッテリ3の上限充電容量付近に設定された第1基準容量以上であるか否かを判定する(S40)。
【0051】
ここで、バッテリ3の充電容量が上限充電容量付近となる場合には、回生ブレーキによる発電が可能であるにも関わらず、バッテリ3を充電することができないので、発電によって得られる電気エネルギが余剰電力となる場合がある。
【0052】
このため、バッテリ3の充電容量が第1基準容量以上であると判定された場合(S40:YES)には、空調熱負荷に応じて設定した第1目標回転数よりも大きい第2目標回転数を圧縮機21の目標回転数(目標吐出能力)に決定する(S50)。すなわち、回生ブレーキによって発電した電気エネルギが余剰電力となるような状況では、圧縮機21の回転数を空調熱負荷に応じて設定した目標回転数(第1目標回転数)よりも増大させる。
【0053】
一方、バッテリ3の充電容量が第1基準容量より小さいと判定された場合(S40:NO)には、さらに、バッテリ3の充電容量が下限充電容量付近に設定された第2基準容量以下であるか否かを判定する(S60)。なお、第2基準容量は、第1基準容量よりも小さい容量に設定されている。
【0054】
この結果、バッテリ3の充電容量が第2基準容量以下であると判定された場合(S60:YES)には、空調熱負荷に応じて設定した第1目標回転数よりも小さい第3目標回転数を圧縮機21の目標回転数(目標吐出能力)に決定する(S70)。すなわち、バッテリ3の充電容量が少ない状況では、圧縮機21の回転数を空調熱負荷に応じて設定した目標回転数(第1目標回転数)よりも減少させる。
【0055】
また、S60の判定処理の結果、バッテリ3の充電容量が第2基準容量以下であると判定された場合(S60:NO)には、空調熱負荷に応じて算出した第1目標回転数を今回の圧縮機21の目標回転数に決定する(S80)。
【0056】
そして、S50の処理、S70の処理、およびS80の処理にて決定した圧縮機21の目標回転数(目標吐出能力)となるように、インバータ25に制御信号を出力し、インバータ25を介して、電動モータ21bに制御信号に応じた周波数の交流電圧が出力される。
【0057】
ここで、バッテリ3の充電容量が第1基準容量以上である場合には、圧縮機21の回転数(吐出能力)を、空調熱負荷に応じて設定する圧縮機21の回転数(吐出能力)よりも増大させるので、蒸発器13における冷媒蒸発温度TEが低下する。このため、バッテリ3の充電容量が第1基準容量以上である場合には、蒸発器13の蓄冷剤Sが凝固しやすくなるので、蒸発器13の蓄冷剤Sに蓄積される冷熱の蓄積量を増大させることが可能となる。すなわち、バッテリ3の充電容量が充分に確保されている状況では、蓄冷剤Sに蓄積する冷熱の蓄積量を増大させる蓄冷運転を実行することとなる。
【0058】
一方、バッテリ3の充電容量が第2基準容量以下である場合には、圧縮機21の回転数(吐出能力)を、空調熱負荷に応じて設定する圧縮機21の回転数(吐出能力)よりも減少させるので、蒸発器13における冷媒蒸発温度TEが上昇する。このため、バッテリ3の充電容量が第1基準容量以上である場合には、蒸発器13の蓄冷剤Sが融解しやすくなるので、蓄冷剤Sに蓄積された冷熱(融解潜熱)にて送風機12から送風される空気を冷却することができる。すなわち、バッテリ3の充電容量が少ない状況では、蓄冷剤Sに蓄積する冷熱を放冷させる放冷運転を実行することとなる。
【0059】
なお、バッテリ3の充電容量が第1基準容量より小さく、第2基準容量よりも大きい容量である場合には、圧縮機21の回転数を空調熱負荷に応じて設定するので、通常の冷房運転(通常運転)を実行することとなる。
【0060】
以上説明した本実施形態によれば、蒸発器13に蓄冷熱交換器としての機能を付加しているので、車両に搭載されたバッテリ3の充電容量が充分に確保されている状況において、発電手段である回生ブレーキ(車両走行用モータ2)にて発電した電力が余剰電力となる場合には、当該余剰電力にて圧縮機21を駆動して、蒸発器13の蓄冷剤Sに低圧冷媒の冷熱を蓄積することができる。そして、蒸発器13の蓄冷剤Sに蓄積した冷熱を、バッテリ3の充電容量が少なくなった場合に放熱することができる。
【0061】
従って、本実施形態では、車両に搭載された発電手段にて生ずる余剰電力を、車室内を空調するための冷熱に変換して有効に活用することができ、従来まで余剰電力となっていた電力を有効に活用して、車室内の空調を行うことが可能となる。
【0062】
また、バッテリ3の充電容量が少ない場合において、圧縮機21の吐出能力を低下させ、圧縮機21にて消費する消費電力を抑えることができるので、回生ブレーキ(車両走行用モータ2)にて発電した電力をバッテリ3の充電や車両走行用モータ2へと供給することができ、燃費の向上を図ることが可能となる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図3に基づいて説明する。ここで、図3は、本実施形態の車両用空調装置1の模式図である。
【0064】
本実施形態では、車両に太陽電池5を搭載している点が第1実施形態と異なっている。なお、本実施形態では、主に上記第1実施形態と異なる点について説明し、上記第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略する。
【0065】
車両に搭載された太陽電池5は、例えば、車両のルーフの上面、トランクリッドの上面、ウインドガラスの表面などで、乗員の視界を妨げることがなく、かつ、太陽光線が照射される任意の部位に取り付けられるものであってよい。
【0066】
太陽電池5は、太陽光線を受光すると、受光した太陽光線の光エネルギを電力に変換して出力する。このときに、太陽電池5は、太陽光線の受光量に応じた電力を出力するようになっている。なお、このような太陽電池5は、公知の一般的構成を適用でき、ここでは詳細な説明を省略する。
【0067】
本実施形態の太陽電池5における発電電力は、バッテリ3に蓄えることができると共に、車両用空調装置1を構成する各構成機器をはじめとする各種車載機器に供給することが可能となっている。このため、本実施形態では、太陽電池5の発電電力を利用して、車両用空調装置1が作動可能となっている。
【0068】
太陽電池5を搭載している車両では、車両の駆動時に加えて、車両の駐車中にも発電可能となるが、バッテリ3の充電容量が充分に確保されていると、太陽電池5にて発電可能であっても、発電によって得られた電力を有効に活用することができない場合がある。特に車両の駐車中においては、車両駆動時に比べて、各種車載機器にて電力を消費することが少ないので、太陽電池5にて発電した電力が余剰電力となってしまうことがある。
【0069】
そこで、本実施形態では、車両の駐車中において、バッテリ3の充電容量が充分に確保されている状況となる場合に、太陽電池5の余剰電力を利用して、冷凍サイクル20の圧縮機21を駆動することで、蒸発器13の蓄冷剤Sに冷熱を蓄積することとしている。そして、車両の駐車時に蓄冷剤Sに蓄積した冷熱を、車両の駆動時に放熱するようにしている。
【0070】
具体的には、車両の駐車中において、車両制御装置にてバッテリ3の充電容量を検出し、検出したバッテリ3の充電容量が所定の基準容量(例えば、上限充電容量付近に設定された容量)以上となる場合に、冷凍サイクル20の圧縮機21を駆動して、蒸発器13の蓄冷剤Sに冷熱を蓄積すればよい。そして、車両の駆動時に、送風機12を作動させて、蒸発器13の蓄冷剤Sの冷熱にて送風空気を冷却するようにすればよい。
【0071】
本実施形態によれば、車両の駐車中においても、太陽電池5にて発電した電力を利用して蒸発器13の蓄冷剤Sに冷熱を蓄積することができるので、従来まで余剰電力となっていた電力を充分に有効に活用して、車室内の空調を行うことが可能となる。この結果、車両の駆動時に車両用空調装置1にて消費する消費電力を抑えることができるので、太陽電池5等にて発電した電力をバッテリ3の充電や車両走行用モータに供給することができ、燃費の向上を図ることが可能となる。
【0072】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0073】
例えば、上述の各実施形態では、蒸発器13に蓄冷剤Sを設け、蒸発器13を蓄冷用熱交換器として機能させる構成としているが、これに限定されず、蒸発器13とは別体の蓄冷器(蓄冷用熱交換器)を設ける構成としてもよい。例えば、特許文献2009−229014に記載された蓄冷器付き冷凍サイクル装置の如く、冷凍サイクル20において、蓄冷器を蒸発器13に対して並列に設ける構成を採用したり、蓄冷器を蒸発器の冷媒流れ下流側に設ける構成を採用したりしてもよい。
【0074】
また、上述の各実施形態では、本発明をハイブリッド車両に適用した例を説明しているが、本発明の適用はこれに限定されず、電気自動車(燃料電池自動車を含む)等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 車両用空調装置
2 車両走行用モータ(発電手段)
5 太陽電池(発電手段)
10 冷凍サイクル
13 蒸発器(蓄冷手段)
20 冷凍サイクル
21 圧縮機(電動圧縮機)
23 膨張弁(減圧手段)
30a 容量制御手段
S 蓄冷剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された発電手段(2、5)にて発電された電力によって、車両走行用モータ(2)に電力を供給するためのバッテリ(3)を充電可能な車両に適用される車両用空調装置であって、
前記発電手段(2、5)、および前記バッテリ(3)の少なくとも一方から供給される電力によって、冷媒を圧縮して吐出する電動圧縮機(21)、前記電動圧縮機(21)から吐出された高圧冷媒を減圧する減圧手段(24)、および前記減圧手段(24)にて減圧された低圧冷媒を蒸発させて車室内に吹き出す空気を冷却する蒸発器(13)を含んで構成される冷凍サイクル(20)と、
前記低圧冷媒の冷熱を吸熱して前記冷熱を蓄冷剤(S)に蓄積すると共に、前記蓄冷剤(S)に蓄積された冷熱にて前記車室内に吹き出す空気を冷却する蓄冷手段(13)と、
を備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記電動圧縮機(21)の吐出能力を制御する容量制御手段(30a)を備え、
前記容量制御手段(30a)は、前記バッテリ(3)の充電容量が所定の第1基準容量以上である場合に、前記電動圧縮機(21)の吐出能力を、車室内の空調熱負荷に応じて設定される基準吐出能力よりも増大させて、前記蓄冷剤(S)にて前記低圧冷媒から吸熱する熱量を増大させることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記容量制御手段(30a)は、前記バッテリ(3)の充電容量が前記第1基準容量より小さい容量に設定された第2基準容量以下の場合には、前記電動圧縮機(21)の吐出能力を前記基準容量よりも低下させて、前記蓄冷剤(S)に蓄積された冷熱にて前記車室内に吹き出す空気を冷却することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記発電手段(2、5)は、前記車両の減速時の運動エネルギを電気エネルギに回生する発電機(2)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記発電手段(2、5)は、太陽光線を受光することにより受光量に応じた発電電力を出力する太陽電池(5)であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178309(P2011−178309A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45460(P2010−45460)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】