説明

車両用空調装置

【課題】乗員の寒暑の感覚の情報、さらにはより詳細な乗員の体調情報を高精度に検出して、その情報を用いて適切にプレ空調を実行する車両用空調装置を提供する。
【解決手段】リモコンキー5のプレ空調ボタン506が光電脈波センサを兼ねており、それを乗員が押圧することにより、車外にいる乗員の脈波が検出され、その脈波から脈拍数や血流量が算出されて、それらの数値に応じてエアコンECU3はプレ空調を指令するか否かを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車車両に装備された空調装置の性能を向上させるための各種提案がある。例えば下記特許文献1では、乗員の体温を測定する手段を備えて、乗車前に乗員の体温を測定して、その体温に基づいてプレ空調(乗員が車両に乗り込む前、あるいはイグニションオフ時の空調)を実行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−240438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に人間に体温の変動幅は外気温の変動幅に比べて小さく、外気温の影響を受け易いので、上記特許文献1の技術を用いる際、乗員の体温を精度よく検出できない場合がある。さらに体温の情報のみを用いる場合、体温だけからではわからない乗員の体調に応じたきめ細かい空調制御は困難であった。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、乗員の寒暑の感覚の情報、さらにはより詳細な乗員の体調情報を高精度に検出して、その情報を用いて適切にプレ空調を実行する車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明に係る車両用空調装置は、車両に備えられて、車室内の空調を調節する空調部と、携帯して車室外に持ち運べて、前記空調部と無線通信する機能を有する携帯機と、前記携帯機に備えられて、前記携帯機に接触した人体の脈波を検出する検出手段と、前記検出手段が検出した脈波から人体の寒暑の感覚と相関性を有する数値を算出する第1算出手段と、前記第1算出手段が算出した数値が暑さを感じていることを示す数値である場合に前記空調部に冷房を指令し、前記第1算出手段が算出した数値が寒さを感じていることを示す数値である場合に前記空調部に暖房を指令する第1指令手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
これにより本発明に係る車両用空調装置では、乗員が携帯する携帯機に人体の脈波を検出する手段を装備して、乗員の脈波を検出して、検出された脈波から乗員の寒暑の感覚に相関性を有する数値を算出して、その数値によりプレ冷房やプレ暖房を指令することにより、脈波を用いて精度よく乗員の寒暑の感覚の情報を検出して、適切にプレ冷房やプレ暖房を指令することができる。したがって例えば乗車前の乗員が暑く感じているか、寒く感じているかを高精度に検出してプレ空調を行う(か否かを決定する)ことにより、乗車した乗員を迅速に快適な状態にすることができる。
【0008】
また前記検出手段が検出した脈波から、人体のストレスと相関性を有する数値を算出する第2算出手段と、前記空調部に備えられて、鎮静作用のある成分を放出する第1放出手段と、前記第2算出手段が算出した数値が所定の高ストレスを示す数値である場合に、前記第1放出手段に鎮静作用のある成分の放出を指令する第2指令手段と、を備えたとしてもよい。
【0009】
これにより乗員が携帯する携帯機によって、乗員の脈波を検出して、その脈波から乗員のストレスを示す数値を算出して、その数値に応じて車室内に鎮静成分を放出するので、脈波を用いて精度よく乗員のストレスの情報を検出して、車室内に鎮静成分を放出できる。したがって例えば乗車前の乗員がストレスを感じているか否かを高精度に検出してプレ空調を行う(か否かを決定する)ことにより、乗車した乗員を迅速に快適な状態にすることができる。
【0010】
また前記第2算出手段が算出する数値は加速度脈波であるとしてもよい。
【0011】
これにより乗員の脈波を検出し、その脈波から加速度脈波を算出し、加速度脈波から算出されるストレス評価値に応じてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。例えばストレス評価値の計算方法の一例として特開2009-066017にあるアトラクタ構成手段を用いた計算方法がある。一般に人間がストレスを感じていると、それに応じて加速度脈波から算出されるストレス評価値が高くなるので、加速度脈波の情報は乗員がストレスを感じているか否かの高精度な情報となり得る。本発明では加速度脈波のこの性質を有効に利用することにより、例えば乗車前の乗員のストレス情報を精度よく取得して、それに応じて乗員の乗車前に車内に鎮静成分を放出する車両用空調装置が実現できる。
【0012】
また前記第2算出手段が算出する数値は心拍変動パラメータであるとしてもよい。
【0013】
これにより乗員の脈波を検出し、その脈波から加速度脈波を算出し、加速度脈波から心拍変動パラメータを算出して、それに応じてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。したがってストレスの程度を心拍変動の程度によって高精度に検出して、その情報を有効に利用することにより、例えば乗車前の乗員のストレス情報を精度よく取得して、それに応じて乗員の乗車前に車内に鎮静成分を放出する車両用空調装置が実現できる。
【0014】
また前記検出手段が検出した脈波から、人体の眠気レベルと相関性を有する数値を算出する第3算出手段と、前記空調部に備えられて、覚醒作用のある成分を放出する第2放出手段と、前記第3算出手段が算出した数値が所定の高眠気レベルを示す数値である場合に、前記第2放出手段に覚醒作用のある成分の放出を指令する第3指令手段と、を備えたとしてもよい。
【0015】
これにより乗員が携帯する携帯機によって、乗員の脈波を検出して、その脈波から乗員の眠気レベルを示す数値を算出して、その数値に応じて車室内に覚醒成分を放出するので、脈波を用いて精度よく乗員の眠気レベルの情報を検出して、車室内に覚醒成分を放出できる。したがって例えば乗車前の乗員が眠気を感じているか否かを高精度に検出してプレ空調を行う(か否かを決定する)ことにより、乗車した乗員の眠気を迅速に解消できる。
【0016】
また前記第3算出手段が算出する数値は脈圧を含むとしてもよい。
【0017】
これにより乗員の脈波を検出し、その脈波から脈圧を算出し、脈圧に応じて眠気を推定し、眠気の度合いに応じてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。一般に人間が眠気を感じていると、脈圧値が増加傾向になるので、脈圧の情報は乗員が眠気を感じているか否かの高精度な情報となり得る。本発明では脈圧のこの性質を有効に利用することにより、例えば乗車前の乗員の眠気情報を精度よく取得して、それに応じて乗員の乗車前に車内に覚醒成分を放出する車両用空調装置が実現できる。
【0018】
また前記携帯機は車両のリモコンキーであるとしてもよい。
【0019】
これにより今日普及している車両のリモコンキーを兼用することにより、利用者にとっての利便性もよく、低コストで車両のプレ空調が適切に実行できる車両用空調装置が実現できる。
【0020】
また前記第1算出手段が算出する数値は脈拍数を含むとしてもよい。
【0021】
これにより乗員の脈波を検出し、その脈波から脈拍数を算出し、脈拍数の数値に応じてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。一般に人間が暑く(寒く)感じていると、それに応じて脈拍数が高く(低く)なるので、脈拍数の情報は乗員が暑く(寒く)感じているか否かの高精度な情報となり得る。本発明では脈拍数のこの性質を有効に利用することにより、例えば乗車前の乗員が暑く(寒く)感じているか否かの情報を精度よく取得して、それに応じてプレ空調する車両用空調装置が実現できる。
【0022】
また前記第1算出手段が算出する数値は血流量を含むとしてもよい。
【0023】
これにより乗員の脈波を検出し、その脈波から血流量を算出し、血流量の数値に応じてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。一般に人間が暑く(寒く)感じていると、それに応じて血流量が高く(低く)なるので、血流量の情報は乗員が暑く(寒く)感じているか否かの高精度な情報となり得る。本発明では血流量のこの性質を有効に利用することにより、例えば乗車前の乗員が暑く(寒く)感じているか否かの情報を精度よく取得して、それに応じてプレ空調する車両用空調装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態における車両用空調装置の構成図。
【図2】エアコン部の構造例を示す図。
【図3】空調制御の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。まず図1、図2は、本発明の実施例に係る車両用の空調システム1の概略構成図である。空調システム1は自動車車両に装備すればよい。
【0026】
同図のとおり空調システム1は、主にエアコンECU2、照合ECU3、エアコン部4、リモコンキー5(携帯機)を備える。エアコンECU2、照合ECU3は多重通信バス6(バス)により接続されて各種情報の受け渡しが可能なように構成されている。
【0027】
エアコンECU2は、各種演算など情報処理のためのCPU200、CPU200の作業領域としてのRAM201、各種情報を記憶するための不揮発性メモリ202を備える。エアコンECU2は通信インターフェイス部203(I/F)を介して多重通信バス6と接続されている。エアコンECU2はCPU200、RAM201、不揮発性メモリ202、I/F203、I/O204がバスによって接続されて情報の受け渡しが可能となっている。
【0028】
エアコンECU2は入出力部204(I/O)を介して、温度設定入力部205と接続されている。温度設定入力部205は例えば車室内のインパネ正面下部などに配置されたエアコン操作パネルのなかに配置される。運転者など乗員は、温度設定入力部205によって希望温度の設定入力を行うことができる。
【0029】
またエアコンECU2はI/O204を介して、吹出口切替ダンパ400、内外気切替ダンパ401、エアミックスダンパ402と接続されており、これらに駆動を指令する。吹出口切替ダンパ401は、車室内のエアコンの吹出し口(例えばフェイス、フット、デフロスタ)を切り替えるために、個々の吹出し口の開閉状態を決めるダンパである。
【0030】
内外気切替ダンパ402は、車内の空気を循環させるための内気吸込口と車外の空気を取り込むための外気吸込口とを切り替えるダンパである。エアミックスダンパ402は、エバポレータで冷却された冷気と、その下流のヒータコア405で加熱された暖気との混合比率を決めるダンパである。
【0031】
さらにエアコン部4は、図2に示されているように、ブロアファン403、エバポレータ404、ヒータコア405を備える。ブロアファン403の回動によって空調風が形成される。エバポレータ404では、車両のエンジンによって駆動されたコンプレッサ(図示せず)によって圧縮された冷媒ガスがエバポレータ404内へ噴出されて気化することによって周囲の熱が奪われる。こうしてエバポレータ404がブロワファンによる空気流を冷却する。
【0032】
ヒータコア405は、エンジンを冷却することによって昇温した冷却水の熱を用いて空気流を昇温させる。以上のとおりエバポレータ404は冷房機能を有し、ヒータコア405は暖房機能を有する。上述のとおり、エアミックスダンパ402の開度によって、エバポレータで冷却された冷気と、ヒータコア405で加熱された暖気との混合比率を決定して、温度調節を行う。
【0033】
さらにエアコン部4は、鎮静成分放出部406を備える。鎮静成分放出部406はエアコンから車室内に放出される空気に乗員を鎮静させる効果を有する成分(鎮静成分)を放出する。鎮静成分としては、例えばラバジンの香りなどとすればよい。鎮静成分放出部406は、エアコン部4内で車室内に送られる空気流が通過する場所など、鎮静成分を混入するのに適した場所に設置すればよい。
【0034】
さらにエアコン部4は、覚醒成分放出部407を備える。覚醒成分放出部407はエアコンから車室内に放出される空気に乗員を覚醒させる効果を有する成分(覚醒成分)を放出する。覚醒成分としては、例えば緑茶(テアニン)の香りなどとすればよい。覚醒成分放出部406は、エアコン部4内で車室内に送られる空気流が通過する場所など、覚醒成分を混入するのに適した場所に設置すればよい。なお鎮静成分放出部406と覚醒成分放出部407とは、少なくとも一方を装備すればよい。
【0035】
照合ECU3は、照合処理などの情報処理のためのCPU300、CPU300の作業領域としてのRAM301、各種情報を記憶するためのROM302を備える。照合ECU3は通信インターフェイス部303(I/F)を介して多重通信バス6と接続されている。無線通信部304は、リモコンキー5との無線通信のために装備されている。照合ECU3は以上のCPU300、RAM301、ROM302、I/F303、無線通信部304がバスによって接続されて情報の受け渡しが可能となっている。
【0036】
リモコンキー5は、CPU500、RAM501、ROM502、無線通信部503、ロックボタン504、アンロックボタン505、プレ空調ボタン506を備える。CPU500は各種の情報処理を実行する。RAM501はCPU500の作業領域としての記憶部である。ROM502は各種情報を記憶するために装備される。
【0037】
無線通信部503は、照合ECU3との無線通信のために装備されている。ロックボタン504は車両の乗員が車両のドアを施錠(ロック)するときに押下(オン操作)するボタンであり、アンロックボタン505は車両の乗員が車両のドアを開錠(アンロック)するときに押下(オン操作)するボタンである。プレ空調ボタン506は、車両の乗員が車外からあるいは車室内でプレ空調を指令するときに押下(オン操作)するボタンである。
【0038】
照合ECU3とリモコンキー5との間の照合処理は以下のように実行される。照合ECU3の無線通信部304は、車両の周辺の空間に向けて、識別信号の返信を求めるポーリング信号(要求信号)を無線送信する。リモコンキー5がポーリング信号の到達範囲内にある場合は、無線通信部503がポーリング信号を受信する。
【0039】
そしてポーリング信号を受信したリモコンキー5は、例えばROMに記憶されている識別信号(IDコード)を無線通信部503から送信する。照合ECU3の無線通信部304は、リモコンキー5から送信された識別信号を受信する。例えばROM302にはリモコンキー5から送信された識別信号と照合するためのマスター信号(マスターID、参照信号)が記憶されているとする。そして照合ECU3では、受信したIDコードとマスターIDとを照合し、一致したら照合を終了する。照合がOKとなればユーザがアンロックボタン506を押下することにより車両のドアが開錠される。
【0040】
プレ空調ボタン506は光電脈波センサを兼用する。光電脈波センサは光電方式により人体の脈拍を検出するセンサであり、具体的な検出原理は以下のとおりである。まず光電脈波センサから光(電磁波、主に赤外光)を人体に照射し、光電脈波センサはその反射光(あるいは透過光)を受光する。光電脈波センサから照射された光を受けた人体では、人体の血流におけるヘモグロビンによって光の吸収作用が起きる。
【0041】
それにより、人体の血流の脈拍につれて、反射光(あるいは透過光)の強度も脈動することとなる。光電脈波センサでは、この反射光(あるいは透過光)の強度の脈動を脈波検出回路によって検出することによって、人体の脈拍波形(脈波)を検出する。乗員がプレ空調ボタン506を押下(オン操作)すると、接触した指先に対して以上の原理が働いて脈拍(波形)が検出される。
【0042】
検出した脈拍波形からは、(単位時間あたりの)脈拍数が算出できる。また上記原理から、脈拍波形の例えば振幅値が大きい(小さい)ことは、血流量が小さい(大きい)ことと相関を有する。よって例えば脈拍波形の振幅値から血流量が算出できる。
【0043】
このように本発明では、検出した脈拍波形から脈拍数、血流量を算出する。この算出はリモコンキー5のCPU500で行ってもよく、照合ECU3のCPU300で行ってもよい。前者の場合、リモコンキー5から照合ECU3へ脈拍数、血流量の数値が無線で送信される。また後者の場合は、リモコンキー5から照合ECU3へ脈拍波形が無線で送信される。
【0044】
以上の構成のもとで空調システム1は、リモコンキー5を用いて乗車前の乗員の体調に関係する情報(脈拍数、血流量、加速度脈波)を取得して、その情報をもとにしてプレ空調を実行する(か否かを決定する)。その処理手順が図3に示されている。図3の処理手順はプログラム化して予め例えば不揮発性メモリ202などに記憶しておき、CPU200、300(、500)が協働して、これを自動的に実行するとすればよい。以下では乗員が乗車していない場合の例を説明する。
【0045】
図3の処理ではまず、S10で車室外にいる乗員の脈拍数、血流量をリモコンキー5を用いて取得する。具体的には、車室外にいる乗員が、携帯するリモコンキー5のプレ空調ボタン506を押圧(接触)する。
【0046】
上述のとおりプレ空調ボタン506は光電脈波センサを兼ねているので、プレ空調ボタン506に接触した乗員の指先から脈波を検出する。そして脈波から脈拍数と血流量とを算出する。脈拍数と血流量との算出はリモコンキー5のCPU500で実行してもよい。この場合、算出された脈拍数と血流量とを無線通信部503で照合ECU3へ送信する。
【0047】
また脈拍数と血流量との算出は照合ECU3のCPU300で実行してもよい。この場合、リモコンキー5の無線通信部503からは脈波が送信されて、照合ECU3は、脈波を受信して、それからCPU300で脈拍数と血流量とを算出する。
【0048】
次にS20で脈拍数、血流量がそれぞれに設定された(プレ)冷房指令のための所定値以上であるか否かを判定する。具体的には、脈拍数が(プレ)冷房指令のための所定値以上であることと、血流量が(プレ)冷房指令のための所定値以上であることとの少なくとも一方(あるいは両方)が満たされるか否かを判定すればよい。この条件が満たされた場合(S20:YES)はS40に進み、満たされていない場合(S20:NO)はS30に進む。
【0049】
一般に人間が暑く(寒く)感じていると、それに応じて脈拍数が高く(低く)なるので、脈拍数の情報は人間が暑く(寒く)感じているか否かの高精度な情報となり得る。また一般に人間が暑く(寒く)感じていると、それに応じて血流量が高く(低く)なるので、血流量の情報は乗員が暑く(寒く)感じているか否かの高精度な情報となり得る。したがってS40に進んだ場合は、乗車前の乗員が暑く感じているとみなされる。そこでS40でCPU200は(プレ)冷房を指令する。
【0050】
次にS30で脈拍数、血流量がそれぞれに設定された(プレ)暖房指令のための所定値以下であるか否かを判定する。(プレ)暖房指令のための所定値は、上記(プレ)冷房指令のための所定値よりは大きい数値とすればよい。S30では具体的には、脈拍数が(プレ)暖房指令のための所定値以下であることと、血流量が(プレ)暖房指令のための所定値以下であることとの少なくとも一方(あるいは両方)が満たされるか否かを判定すればよい。
【0051】
この条件が満たされた場合(S30:YES)はS50に進み、満たされていない場合(S30:NO)はS60に進む。S50に進んだ場合は、前述の理由から、乗車前の乗員が寒く感じているとみなされる場合である。そこでS50でCPU200は(プレ)暖房を指令する。こうしてS40、S50でプレ空調(プレ冷房、プレ暖房)が指令される。これにより乗員の乗車時には車内の空調は既に快適な状態に調節されている。
【0052】
なお上記S20やS30で用いられる所定値は、通常(つまり乗員が暑くも寒くも感じていない)の状態における脈拍数、血流量を記憶しておき、その数値から明確にはずれた数値として設定すればよい。この場合例えば、ROM202がEEPROMを含むように装備して、乗員の過去の脈拍数、血流量をそこに記憶しておき、それから通常の脈拍数、血流量の範囲を算出して、その上限値、下限値をS20やS30で用いられる所定値とすればよい。
【0053】
次にS60で加速度脈波を算出する。上記S10で検出した脈波波形の時間に関する2階微分を算出すれば加速度脈波が算出される。続いてS70で、その加速度脈波に応じたストレス評価値を算出する。例えばストレス評価値の計算方法の一例として特開2009-066017にあるアトラクタ構成手段を用いた計算方法がある。
【0054】
あるいはストレス評価値は心拍変動を示す数値(心拍変動パラメータ)としてもよい。一般に人間の(単位時間あたりの)心拍数は周期的に変動する(心拍変動、あるいは心拍変動性、HRV:Heart Rate Variability)が、ストレスを感じていると、心拍数の変動が不規則的となる。したがって、心拍数の変動の規則性(あるいは不規則性)の度合いを示すパラメータである心拍変動パラメータは、ストレス評価値となり得る。心拍変動パラメータの例としては、心拍数の時間波形の周波数成分のばらつき(分散値)や、最大周波数と最小周波数との差分値等があげられる。
【0055】
以上に例示したストレス評価値では、その値の大小に人体が感じているストレスの度合いが示されるので、ストレス評価値の情報は人間がストレスを感じているか否かの高精度な情報となり得る。
【0056】
次にS80でストレス評価値が所定値以上であるか否かを判定する。ストレス評価値が所定値以上である場合(S80:YES)はS90に進み、ストレス評価値が所定値未満である場合(S80:NO)はS100に進む。
【0057】
S90では乗員が乗車していない車内に鎮静成分を放出する。この処理は上述のとおり、鎮静成分放出部406から鎮静成分(例えばラバジン)を放出することによって実行すればよい。これにより乗員がストレスを感じている場合には、乗員の乗車時には車内には鎮静成分が既に放出されており、乗員のストレスをただちに軽減する効果が得られる。
【0058】
続いてS100で脈圧を算出する。脈圧は上記S10で求めた脈波から算出すればよい。一般に人間の眠気レベルが高くなるほど、それに応じて脈圧が高くなる傾向があることが知られており、脈圧の情報は人間の眠気レベルの高精度な情報となり得る。
【0059】
そしてS110で、S100で所得した脈圧が示す眠気レベルが所定値以上であるか否かを判定する。眠気レバルが所定値以上である場合(S110:YES)はS120に進み、眠気レベルが所定値未満である場合(S110:NO)は図3の処理を終了する。
【0060】
S120では乗員が乗車していない車内に覚醒成分を放出する。この処理は上述のとおり、覚醒成分放出部407から覚醒成分(例えばテアニン)を放出することによって実行すればよい。これにより乗員が眠気を感じている場合には、乗員の乗車時には車内には覚醒成分が既に放出されており、乗員の眠気をただちに軽減する効果が得られる。以上が図3の処理手順である。
【0061】
以上のとおり、本発明では1つの脈波から、乗員の寒暑の感覚、ストレス、眠気レベルといった複数の情報を取得しており、効率的な情報取得となっている。なお脈拍数、血流量の算出と同様、ストレス評価値(心拍変動パラメータ)や眠気レベル(脈圧)等の算出も、リモコンキー5のCPU500で行ってもよく、照合ECU3のCPU300で行ってもよい。
【0062】
上記実施例は本発明の一実施形態にすぎず、本発明の特許請求の範囲に記載された主旨の範囲内で適宜変更できる。例えば上記ではプレ空調ボタン506を装備したが、例えば上記のプレ空調ボタン506の機能をアンロックボタン505にもたせるように変形した形態でもよい。また上記での鎮静成分は、厳密な意味で鎮静効果が証明された成分に限定しなくともよく、乗員が快適に感じる香りを有する成分、つまり芳香剤一般に広げてもよい。またリモコンキー5は乗員が携帯する他の携帯機(携帯電話機など)に変更してもよい。
【0063】
図3における鎮静成分の放出と覚醒成分の放出とはいずれか一方のみを実行するように変形してもよい。また上記実施例では、図3のフローチャートを乗員が乗車していない状態で実行する例を示したが、本発明はこれに限定されず、図3のフローチャートは例えば乗員が乗車しているがイグニションオフである状態でも実行してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 車両用空調システム
2 エアコンECU
3 照合ECU
4 エアコン部
5 リモコンキー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられて、車室内の空調を調節する空調部と、
携帯して車室外に持ち運べて、前記空調部と無線通信する機能を有する携帯機と、
前記携帯機に備えられて、前記携帯機に接触した人体の脈波を検出する検出手段と、
前記検出手段が検出した脈波から人体の寒暑の感覚と相関性を有する数値を算出する第1算出手段と、
前記第1算出手段が算出した数値が暑さを感じていることを示す数値である場合に前記空調部に冷房を指令し、前記第1算出手段が算出した数値が寒さを感じていることを示す数値である場合に前記空調部に暖房を指令する第1指令手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記検出手段が検出した脈波から、人体のストレスと相関性を有する数値を算出する第2算出手段と、
前記空調部に備えられて、鎮静作用のある成分を放出する第1放出手段と、
前記第2算出手段が算出した数値が所定の高ストレスを示す数値である場合に、前記第1放出手段に鎮静作用のある成分の放出を指令する第2指令手段と、
を備えた請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記第2算出手段が算出する数値は加速度脈波である請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記第2算出手段が算出する数値は心拍変動パラメータである請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記検出手段が検出した脈波から、人体の眠気レベルと相関性を有する数値を算出する第3算出手段と、
前記空調部に備えられて、覚醒作用のある成分を放出する第2放出手段と、
前記第3算出手段が算出した数値が所定の高眠気レベルを示す数値である場合に、前記第2放出手段に覚醒作用のある成分の放出を指令する第3指令手段と、
を備えた請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記第3算出手段が算出する数値は脈圧を含む請求項5に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記携帯機は車両のリモコンキーである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記第1算出手段が算出する数値は脈拍数を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記第1算出手段が算出する数値は血流量を含む請求項1乃至8のいずれか1項に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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