説明

車両用空調装置

【課題】エンジン停止状態において冷房の使用を可能としつつ、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに、従来よりもエンジン始動までの時間を短縮することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【解決手段】冷媒の1サイクルあたりの吐出容量が可変である可変容量コンプレッサ10と、可変容量コンプレッサ10の冷媒を圧縮する動力を生成する電動モータ7と、可変容量コンプレッサ10の吐出容量および、電動モータ7の回転数を制御する制御部2とを備え、制御部2はエンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するときに可変容量コンプレッサ10の吐出容量の増加または減少の方向と電動モータ7の回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御し、電動モータ7はさらに車両に搭載されるエンジン3の始動に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出容量が可変である可変容量コンプレッサの冷媒の1サイクルあたりの吐出容量、および、冷媒を圧縮する動力を生成する電動モータの回転数を制御する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置としてはエンジンが駆動している時(以下、「エンジン駆動状態」と称す)には、このエンジンを動力としてコンプレッサの冷媒の圧縮を行い、エンジンが停止している時(以下、「エンジン停止状態」と称す)には電動モータを動力としてコンプレッサの冷媒の圧縮を行うものがある。また、従来の車両用空調装置は、この電動モータをエンジン始動時のスタータモータとしても使用する。
【0003】
従来の車両用空調装置は、エンジン駆動状態では電動モータと圧縮機との連結を解除した状態で電動モータを駆動させるために、電動モータとエンジンとの間にクラッチを備えている。
【0004】
この従来の車両用空調装置では、エンジン停止状態に圧縮機を使用しているときにエンジンを始動させる場合、電動モータが駆動している状態で電動モータとエンジンとを動力伝達させるクラッチを接続する(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、従来の車両用空調装置としては、冷媒の1サイクルあたりの吐出容量を可変制御できる可変容量コンプレッサを用いるものもある。エンジン停止状態に冷房を使用する場合、電動モータにより可変容量コンプレッサの冷媒の圧縮を行う。この電動モータはエンジン始動時のスタータとしても用いる。
【0006】
この従来の車両用空調装置では、エンジン停止状態で圧縮機を使用しているときにエンジンを始動させる場合、回生制動をかけて早急に電動モータを停止させるとともに、電動モータへの負荷を減らすために可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの吐出容量を最小限とした後、電動モータをスタータとして使用する(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−324668号公報
【特許文献2】特開2002−202035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、廃棄ガスの排出削減や燃費節減のため、市街地走行時に交差点等で車両が一時停止したときエンジンを自動的に停止させた後、所定の条件下でエンジンを再始動させるものがある。エンジン停止状態からエンジン始動状態となるのは交差点において赤信号が青に変わったときが多いため、エンジン始動までの時間を短くする必要がある。
【0009】
特許文献1の車両用空調装置では、エンジンを始動させる場合、電動モータが駆動しているときに動力伝達機構であるクラッチを接続するため、クラッチが滑る、または、電動モータに急に大きなトルクが加わって電動モータが脱調する場合がある。従来の車両用空調装置はモータで圧縮機を駆動している状態からエンジンを始動させるに、一旦モータを停止させた後、再度モータを駆動する必要があり、エンジン始動時間をこの時間より短縮
はできなかった。
【0010】
また、特許文献2の車両用空調装置では、エンジンを始動させるときに、電動モータの回転数を所定の回転数以下に低下させるとともに可変容量コンプレッサの吐出容量を最小限とするものであった。この場合、エンジンを始動させる時点ではじめて電動モータおよび可変容量コンプレッサを制御するため、エンジン始動までの時間が長くなるという問題がある。
【0011】
一方、エンジン停止状態において電動モータを停止させるとともに可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの吐出容量を最小限とするとエンジン始動までの時間を短くできるが、このようにするとエンジン停止状態において冷房の使用ができなくなるという問題がある。
【0012】
そこで本発明は、エンジン停止状態において冷房の使用を可能としつつ、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに、従来よりもエンジン始動までの時間を短縮することができる車両用空調装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車両用空調装置は、エンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するときに可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの冷媒吐出容量の増加または減少の方向と電動モータの回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御する制御部を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、エンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するときに可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの冷媒吐出容量の増加または減少の方向と電動モータの回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御することで、エンジン停止状態において単位時間あたりの冷媒の吐出容量を制御することが出来、要求される冷房性能を満たすことができる。
【0015】
また、電動モータの回転数を減少させ、可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの吐出容量を増加させると、電動モータをエンジン始動の際に必要な回転数まで短時間で回転数を低下させることができるためエンジン始動までの時間を短縮することができる。
【0016】
また、電動モータの回転数を増加させ、可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの吐出容量を減少させると電動モータへの負荷が軽減する。これにより電動モータをエンジン始動の際に必要な回転数まで短時間で低下し、エンジン始動までの時間を短縮することができる。
【0017】
以上のように本発明はエンジン停止状態において冷房の使用を可能としつつ、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに、従来よりもエンジン始動までの時間を短縮することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における車両用空調装置を説明するためのブロック図
【図2】同動作を説明するためのフロー図
【図3】本発明の実施の形態1における電動モータの回転数、および吐出容量の変化を説明する図
【図4】本発明の実施の形態1における電動モータの回転数、および吐出容量の変化を説明する図
【図5】本発明の実施の形態2における車両用空調装置を説明するためのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態における車両用空調装置について図面を参照しながら説明する。図1は本実施の形態における車両用空調装置を説明するためのブロック図である。
【0020】
図1に示すように、車両用空調装置1は、制御部2、エンジン3、電動モータ7、蓄電池8、および可変容量コンプレッサ10を備える。
【0021】
制御部2は、可変容量コンプレッサ10および電動モータ7を制御する。この可変容量コンプレッサ10はプーリ9を介してドライブベルト5と接続するとともに、電動モータ7はプーリ6を介してドライブベルト5と接続する。また、エンジン3はクラッチ11およびプーリ4を介してドライブベルト5と接続する。以下、各部の構成を詳細に説明する。
【0022】
制御部2は、入力された車両情報、または、温度情報の少なくとも1つに応じて可変容量コンプレッサ10が排出する冷媒の1サイクルあたりの吐出容量、および、電動モータ7の回転数を制御する。ここで車両情報とは、例えば、エンジン駆動状態からエンジン停止状態にする際に生成される信号(以下、「エンジン停止信号」と称する)である。
【0023】
また、温度情報とは、例えば、運転者が設定する設定温度情報や、外気温センサ、日射センサ、湿度センサ等の値のような環境温度情報、冷房サイクルのエバポレータの温度センサ、室温センサ等の値のような冷房状態に関する情報である。
【0024】
制御部2は、エンジン駆動状態からエンジン停止状態に移行することを検知すると、可変容量コンプレッサ10が排出する冷媒の1サイクルあたりの吐出容量、および、電動モータ7の回転数を制御する。いかに制御するかは後述する。また、制御部2は、後述するクラッチ11の接続および切断の制御も行う。
【0025】
電動モータ7は、エンジン駆動状態においては発電を行う機能を、エンジン停止状態においては冷媒を圧縮するための動力を生成する機能を、エンジンを始動するときにはエンジン3のスタータとしての機能をなす。以下、各機能を詳述する。
【0026】
電動モータ7は蓄電池8に蓄積した電力により駆動されドライブベルト5に動力を伝達するものである。より詳細には、電動モータ7の回転軸はプーリ6を介してドライブベルト5に接続される。電動モータ7による駆動力はこのプーリ6を介してドライブベルト5に伝達される。この伝達された動力は、可変容量コンプレッサ10に伝達され、後述するように冷媒を圧縮するための動力として使用される。
【0027】
電動モータ7の単位時間あたりの回転数(以下、単に「回転数」という)は制御部2が制御する。
【0028】
なお、蓄電池8には、例えば、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、または高容量のキャパシタを用いることができる。
【0029】
また、電動モータ7は、ドライブベルト5からプーリ6を介して伝達された動力により発電を行う機能も備える。発電した電力は蓄電池8に蓄電される。このときのドライブベルト5の駆動はエンジン3からプーリ4を介してドライブベルト5に伝達されたものである。
【0030】
また、電動モータ7は、エンジンを始動するときにはエンジン3のスタータとしての役割も有する。電動モータ7はエンジン停止状態のときにエンジンを始動する際、制御部2の制御により蓄電池8が蓄積した電力によりエンジンを始動するための駆動力を生成する。この駆動力はプーリ6、ドライブベルト5を介してエンジン3に伝達される。
【0031】
エンジン3は、例えば、車両の駆動力を得るためのガソリンエンジンである。エンジン3は電動モータ7が生成する駆動力により始動する。また、エンジン駆動状態ではエンジン3が生成する駆動力はドライブベルト5に伝達される。この駆動力が電動モータ7を駆動して蓄電池8に蓄電させるとともに、可変容量コンプレッサ10にも伝達され、冷媒を圧縮するための動力としても用いられる。
【0032】
各部を詳述すると、エンジン3のクランク軸は、クラッチ11を介してプーリ4と接続し、このプーリ4はドライブベルト5に接続する。クラッチ11が接続されているときはエンジン3の駆動力はクラッチ11およびプーリ4を介してドライブベルト5に伝達される。一方、クラッチ11が切断されているときは、エンジン3の駆動力はクラッチ11により断絶されドライブベルト5には伝達されない。
【0033】
可変容量コンプレッサ10は、車両で冷房を使用する際に冷媒を圧縮するための圧縮機である。
【0034】
冷媒を圧縮するための動力は、エンジン駆動状態においてはドライブベルト5を介してエンジン3から伝達される。
【0035】
また、エンジン停止状態において車両内で冷房を使用する場合は、冷媒を圧縮する必要があるため、この冷媒を圧縮するための動力はドライブベルト5を介して電動モータ7から伝達される。
【0036】
なお、この可変容量コンプレッサ10は冷媒の1サイクルあたりの吐出容量が可変である。冷媒の1サイクルあたりの吐出容量は制御部2が制御する。ここで、1サイクルあたりの吐出容量とは、可変容量コンプレッサ10が1サイクルの期間に吐出する冷媒の容積のことである。
【0037】
制御部2は、車両情報および温度情報の少なくとも1つに基づいて可変容量コンプレッサ10の吐出容量を制御する。具体的には、1サイクルあたりの吐出容量の制御は、制御部2からの信号を受け、可変容量コンプレッサ10が備える電磁弁の開度を調整してクランク室内圧力を調整することにより行われる。本実施の形態における可変容量コンプレッサ10は、例えば、片斜板式コンプレッサである。1サイクルあたりの吐出容量は、クランク室内の圧力とピストン内圧力の均衡によって調節されたクランク室のラグプレートの傾度によってピストンの稼動範囲を調整することにより変化する。
【0038】
ラグプレートの傾度はクランク室内の圧力とピストン内圧力の均衡によって調節され、外部からの電磁弁の制御により、可変容量コンプレッサ10の吐出部の圧力からクランク室内の圧力へ移動させることにより圧力を変化させる。
【0039】
1サイクルあたりの吐出容量が多くなるにつれてより多くの冷媒を排出する必要があるため、より冷媒を圧縮するのに動力を必要とする。換言すると、1サイクルあたりの吐出容量が多くなるにつれてドライブベルト5により大きな負荷が掛かることとなる。エンジン3を始動するときには電動モータ7およびエンジン3への負荷を極力少なくする必要があり、1サイクルあたりの吐出容量を略最小容量としておくことが望ましい。
【0040】
次に、エンジン駆動状態、エンジン停止状態、およびエンジン3の始動時における冷房機能について概説する。
【0041】
エンジン3が駆動しているときに冷房機能を利用する場合、クラッチ11を接続し、エンジン3の駆動力をドライブベルト5、および、プーリ9を介して可変容量コンプレッサ10へ伝達する。
【0042】
制御部2は、温度情報に含まれる外気温や車両の温度状態に応じて可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を制御することにより冷房能力を調整している。
【0043】
信号待ちなどにより停車してアイドリングストップをする場合、すなわちエンジン停止状態において冷房機能を利用する場合、エンジン3の停止とともに制御部2はクラッチ11を遮断する。
【0044】
このとき、可変容量コンプレッサ10を駆動する動力がなくなるため、電動モータ7の駆動力によって可変容量コンプレッサ10を駆動する。
【0045】
制御部2は、温度情報に含まれる外気温や車両の温度状態に応じて可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量および電動モータ7の回転数を制御することにより冷房能力を調整する。
【0046】
エンジン停止状態からエンジン3を始動する際、制御部2は、クラッチ11を接続するとともに、電動モータ7を駆動させ、エンジン3を始動させる。このとき、電動モータ7の回転数が高いまま電動モータ7をスタータとして使用すると、エンジン3が始動しない、車両に大きな振動を生じさせ乗員に対し違和感を生じさせる、もしくは電動モータ7の故障の原因にもなる。
【0047】
このため、エンジン停止状態からエンジン3を始動する際、制御部2は、電動モータ7を所定の回転数以下にまで低下させた後、クラッチ11を接続してからエンジン3を始動させる。
【0048】
また、エンジン3の始動の際、電動モータ7への負荷をできるだけ抑えるため、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を最小にしてから、エンジン3の再始動を行う必要がある。このため、制御部2は可変容量コンプレッサ10の容量を最小にした後、電動モータ7をスタータとして使用する。
【0049】
以上のように構成された車両用空調装置について、図2〜図4を用いてその処理動作を説明する。
【0050】
図2は本発明の一実施の形態における制御部2の動作を説明するフロー図である。また、図3および図4は、本発明の一実施の形態における電動モータ7の回転数、および、吐出容量の変化を説明する図である。
【0051】
図2のSTARTはエンジン駆動状態であるものとして説明を行う。
【0052】
最初に制御部2は、エンジン停止信号が入力されたか否かを判断する(S1)。エンジン停止信号が入力された場合、エンジン3は図示しないエンジン制御装置により停止される。エンジン停止信号が入力されていない場合(S1でNO)、制御部2は処理を再度S1に戻す。
【0053】
エンジン停止信号が入力されたとき(S1でYES)、制御部2は、運転者が設定する設定温度値、外気温センサの出力値、日射センサの出力値、湿度センサの出力値などの環境温度情報、または、冷房サイクルのエバポレータの温度センサの出力値、室温センサの出力値等の冷房状態から判断された冷房能力、可変容量コンプレッサ10のクランク室内圧力や吐出室圧力を含む冷房サイクルの圧力条件などに基づいて下記の動作を行う。
【0054】
制御部2は、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を調整するために、クランク室内圧力と吐出圧力の差に基づいて2つの空調制御のモード(以下、動作モードA、および、動作モードB)のいずれかを選択する(S2)。
【0055】
これら空調制御のモードは、エンジン停止状態において冷房の使用を可能としつつ、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに、エンジン始動までの時間を短縮できるように可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量および電動モータ7の回転数を制御するものである。
【0056】
ここで、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量と電動モータ7の回転数との積を冷房能力と称する。この冷房能力が同じであれば、車室内へ同等の冷房機能を提供できる。
【0057】
動作モードA(S3)は、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を増加させるとともに、電動モータ7の回転数を減少させる制御である。また、動作モードB(S4)は、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を減少させるとともに、電動モータ7の回転数を増加させる制御である。S3およびS4については後に詳述する。
【0058】
S3およびS4では、エンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するとき(S1でYES)に可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量の増加または減少の方向と電動モータ7の回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御している。
【0059】
1サイクルあたりの吐出容量と回転数の一方を増加させるとともに他方を減少させることで可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量と電動モータ7の回転数との積を一定にでき、エンジン停止状態において冷房性能を維持することができる。
【0060】
S3およびS4のいずれか1つが終了した後、制御部2は、シフトポジションなどの車両情報から、エンジン3の始動がされるか否かを判断する。エンジン3の始動がされない場合(S5でNO)、制御部2は再度S5を実行する。
【0061】
エンジン3の始動がされる場合(S5でYES)、制御部2は可変容量コンプレッサ10の略最小吐出容量にまで低下させる(S6)。このようにすることにより、電動モータ7への負荷を減少させることができるからである。
【0062】
S6の次に、制御部2は電動モータ7の回転数を低下させる(S7)。制御部2は電動モータ7の回転数が所定の回転数(R3)以下となるまでS7の処理を行う(S8)。
【0063】
電動モータ7の回転数がR3以下になったことを検知(S8でYES)すると、制御部2はクラッチ11を接続する(S9)。S9を行うことで、電動モータ7が生成した駆動力がドライブベルト5を経由してエンジン3に伝達される。
【0064】
S9の次に、制御部2は、電動モータ7の回転数をR3よりも高い回転数であるR4まで上げることでエンジン3を始動させる(S10)。
【0065】
制御部2は、エンジン3が始動する(S11でYES)までS10を実行する。制御部2は、エンジン3が始動したと判断すると処理を終了(END)させる。なお、制御部2は、処理が終了した(END)後、処理を図2のSTARTに戻す。
【0066】
続いて、動作モードA(図2のS3)について図3を用いて説明する。
【0067】
T0〜T1はエンジン駆動状態(図2のSTART)である。このときの電動モータ7の回転数はR1であり、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量はD1である。R1とD1は前述のごとく車両情報、温度情報によって決定される。
【0068】
T1はエンジン停止信号が入力された時点(図2のS1)である。図2のS2で動作モードAが選択されたものとして説明する。
【0069】
T1〜T2が図2のS3に相当する。T1の後、制御部2は、電動モータ7の回転数を現在の回転数であるR1よりも低い回転数であるR2となるように制御するとともに、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を現在の1サイクルあたりの吐出容量であるD1よりも大きい1サイクルあたりの吐出容量であるD2となるように制御する。冷房能力は1サイクルあたりの吐出容量と回転数の積で決定するため、回転数を減少させるとともに1サイクルあたりの吐出容量を増加させると冷房性能を維持することができる。車両の乗員は冷房性能を維持されているため、制御部2が制御を行っていることに気がつかず違和感はない。
【0070】
図3のT2が、図2のS5に相当する。エンジン3を始動すると判断した場合(図2のS5でYES)、制御部2は、T2からT3にかけて可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量をD2から略最小吐出容量まで減少(S6)させるとともに、電動モータ7の回転数をR2から電動モータ7がエンジン3を始動できるだけのトルクの発生が可能な回転数である回転数R3まで低下させる(S7、S8)。
【0071】
図3のT3が、図2のS9に相当する。制御部2はT3においてクラッチ11を接続する。続いてT3以降で制御部2は、電動モータ7の回転数を回転数R3よりも高い回転数であるR4まで上げて(S10)、エンジンが始動すると(S11でYES)処理を終了する。
【0072】
図3のようにエンジン駆動状態において、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を小さく設定し、電動モータ7の回転数を高めに設定することで冷房機能を実現したままの設定でエンジン停止状態となった場合、図3の点線で示すように再度エンジン3を始動する場合に、電動モータ7の回転数を所定の回転数R3にまで下げるのに時間がかかり、再始動までの時間(T4)が長くなってしまう。
【0073】
そこで、上記のごとくエンジン停止状態において、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を増加させるとともに電動モータ7の回転数を減少させるよう制御する。
【0074】
このようにすることにより、冷房性能を維持したまま、電動モータ7の回転数を減少させた状態に移行させることができるため、エンジン3を始動させる際に所定の回転数R3にまで下げる時間が短くなる。また、コンプレッサ1回転あたりの負荷が大きいので、1サイクルあたりの吐出容量が小さい場合と比べて、モータ回転数の減少の速度が速いので、
再始動までの時間(T3)を短縮することができる。
【0075】
続いて、動作モードB(図2のS4)について図4を用いて説明する。
【0076】
図4のT0〜T1はエンジン駆動状態(図2のSTART)である。このときの電動モータ7の回転数はR1であり、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量はD1である。
【0077】
図4はエンジン駆動状態において、可変容量コンプレッサ10で冷房機能を実現している場合である。
【0078】
図4のT1はエンジン停止信号が入力された時点(図2のS1)である。図2のS2で動作モードBが選択されたものとして説明する。
【0079】
T1〜T2が図2のS3に相当する。T1の後、制御部2は、電動モータ7の回転数を現在の回転数であるR1よりも高い回転数であるR2となるように制御するとともに、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を現在の吐出容量であるD1よりも小さい吐出容量であるD2となるように制御する。
【0080】
冷房能力は1サイクルあたりの吐出容量と回転数の積で決定するため、回転数を増加させるとともに1サイクルあたりの吐出容量を減少させると冷房性能を維持することができる。車両の乗員は冷房性能を維持されているため、制御部2が制御を行っていることに気がつかず違和感はない。
【0081】
図4のT2が、図2のS5に相当する。エンジン3を始動すると判断した場合(図2のS5でYES)、制御部2は、T2からT3にかけて可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量をD2から最小吐出容量まで減少(S6)させるとともに、電動モータ7の回転数をR2から電動モータ7がエンジン3を始動できるだけのトルクの発生が可能な回転数である回転数R3まで低下させる(S7、S8)。
【0082】
図4のT3が、図2のS9に相当する。制御部2はT3においてクラッチ11を接続する。続いてT3以降で制御部2は、電動モータ7の回転数を回転数R3よりも高い回転数であるR4まで上げて(S10)、エンジンが始動すると(S11でYES)処理を終了する。
【0083】
図4の点線で示すように可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を大きく設定し、電動モータ7の回転数を低めに設定することで冷房機能を実現したままの設定でエンジン停止状態となった場合、電動モータ7をスタータとして使用する際に可変容量コンプレッサ10の吐出容量による負荷の影響が大きくなる場合があるので、1サイクルあたりの吐出容量を最小にする必要がある。
【0084】
このとき、モータ回転数をR3に低下させても、吐出容量が最小になっていない場合があるので、吐出容量が最小になるのを待たないと、エンジン負荷が大きく、エンジン3の再始動が出来ない場合がある。これを防ぐために、1サイクルあたりの吐出容量が最小になるのを待ってエンジンを始動する必要があるため、エンジン3を始動する時間(T4)が長くかかってしまう。
【0085】
そこで、上記のごとくエンジン停止状態において、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を減少させるとともに電動モータ7の回転数を増加させるよう制御する。このようにすることにより、冷房性能を維持したまま、可変容量コンプレッサ10
が電動モータ7へ与える負荷を減少し、エンジン3を始動させる際に最小の吐出容量にまで減少させる時間が短くなるので、再始動までの時間(T3)を短縮することができる。
【0086】
実施の形態1によれば、エンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するときに可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの冷媒吐出容量の増加または減少の方向と電動モータ7の回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御することで、エンジン停止状態において単位時間あたりの冷媒の吐出容量を制御することが出来、要求される冷房性能を満たすことができる。
【0087】
また、電動モータ7の回転数を減少させ、可変容量コンプレッサ10の1サイクルあたりの吐出容量を増加させることで、電動モータ7をエンジン3の始動の際に必要な回転数まで短時間で回転数を低下させることができるためエンジン始動までの時間を短縮することができる。
【0088】
また、電動モータ7の回転数を増加させ、可変容量コンプレッサの1サイクルあたりの吐出容量を減少させることで電動モータ7への負荷が軽減する。これにより電動モータ7をエンジン3の始動の際に必要な回転数まで短時間で低下し、エンジン始動までの時間を短縮することができる。
【0089】
以上のように実施の形態1によれば、エンジン停止状態において冷房の使用を可能としつつ、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに、従来よりもエンジン3の始動までの時間を短縮することができるという効果を奏するものである。
【0090】
なお、本実施の形態では、エンジン駆動状態からエンジン停止状態になった際に、動作モードを選択しているが、アイドリングストップ中に可変容量コンプレッサ10のクランク室圧力、吐出室圧力の差を検知し、エンジン再始動にかかる時間が短い動作モードを選択して動作モードを切り替えてもよい。
【0091】
なお、本実施の形態はエンジン駆動状態からエンジン停止状態に移行した時に動作モードを選んでいるが、アイドリングストップだけでなく駐車状態から冷房機能を始動させている場合にも適用可能である。
【0092】
なお、本実施の形態では、車両情報からエンジン3の再始動タイミングを判断すると記載したが、その他、赤信号による停車時に道路信号との通信により、青信号に変わるタイミングを算出する、車載レーダを用いる、または前方の車との通信で得た前方車両の位置または速度情報により停止時の前方車両との車間距離が離れたことを感知することによって、エンジン3の再始動の準備前に、エンジン再始動のタイミングを予測してエンジン3の再始動の準備を行っても良い。
【0093】
また、本実施の形態には、通常の冷房駆動に関する吐出容量の制御や、モータ回転数の制御、電池残量の低下によって、エンジン3の再始動ができなくなる、または、要求される冷房性能を実現できない場合がある。その際、エンジン3の再始動を最優先して電動モータ7による可変容量コンプレッサ10の駆動を制限する、または、ユーザの選択に依って可変容量コンプレッサ10の駆動の制限の可否を選択するようにしても良い。これにより、エンジン3の再始動が出来なる、または、ユーザの意図に反して冷房性能が遮断されることを防ぐことができる。
【0094】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における車両用空調装置ついて図面を参照しながら説明する。図5は本発明の一実施の形態における車両用空調装置を説明するためのブロック図で
ある。
【0095】
なお、実施の形態1の構成と同様の構成を有するものについては、同一符号を付しその説明を省略し、相違点について詳述する。
【0096】
実施の形態1と実施の形態2との相違点は、電動モータ7と可変容量コンプレッサ10とが、電動モータ7と可変容量コンプレッサ10との両方を備えたモータ一体型可変容量コンプレッサ12で構成されている点である。モータ一体型可変容量コンプレッサ12の内部にて、電動モータ7の回転軸と可変容量コンプレッサ10の回転軸が共用している。
【0097】
モータ一体型可変容量コンプレッサ12は、プーリ9、ドライブベルト5およびプーリ4を介して、エンジン3と接続されている。
【0098】
実施の形態2においても、制御部2は図2で説明した動作を行なうことで、エンジン3の再始動時間を短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、可変容量コンプレッサの冷媒の1サイクルあたりの吐出容量、および、冷媒を圧縮する動力を生成する電動モータの回転数を制御する車両用空調装置等として有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 車両用空調装置
2 制御部
3 エンジン
4 プーリ
5 ドライブベルト
6 プーリ
7 電動モータ
8 蓄電池
9 プーリ
10 可変容量コンプレッサ
11 クラッチ
12 モータ一体型可変容量コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の1サイクルあたりの吐出容量が可変である可変容量コンプレッサと、
前記可変容量コンプレッサの冷媒を圧縮する動力を生成する電動モータと、
前記可変容量コンプレッサの吐出容量および、前記電動モータの回転数を制御する制御部とを備え、
前記制御部はエンジン駆動状態からエンジン停止状態へ移行するときに前記可変容量コンプレッサの吐出容量の増加または減少の方向と前記電動モータの回転数の増加または減少の方向とが反対方向となるよう制御し、
前記電動モータはさらに車両に搭載されるエンジンの始動に用いることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記可変容量コンプレッサの吐出容量と前記電動モータの回転数の積が略一定となるように制御すること特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記可変容量コンプレッサの吐出容量を増加させるとともに前記電動モータの回転数を減少させるよう制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御部はさらに、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに前記可変容量コンプレッサの吐出容量を減少させるとともに、前記電動モータの回転数をさらに減少させることを特徴とする請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記可変容量コンプレッサの吐出容量を減少させるとともに前記電動モータの回転数を増加させるよう制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記制御部はさらに、エンジン停止状態からエンジン駆動状態へ移行するときに前記可変容量コンプレッサの吐出容量をさらに減少させるとともに、前記電動モータの回転数を減少させることを特徴とする請求項5に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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