説明

車両用空調装置

【課題】簡単な構成で、特定の座席の空調制御を実施することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置100では、内気温センサ71は、運転席の周囲の空気温度を検出する。したがって内気温センサ71によって検出された空気温度によって各種の空調制御を運転者に対する違和感を抑えて実施することができる。具体的には、運転席空調指令が与えられた場合、助手席側ドア34〜36を遮断状態に制御し、かつブロワ4の送風量を少なくする運転席モードとなるように助手席側ドア34〜36とブロワ4とがエアコンECU10によって制御される。またエアコンECU10は、運転席モードにおいて、通常モードよりも空調能力を上げるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の複数の空間に向かって空調風を吹き出す車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置では、運転席のみに空調風を吹き出す空調制御がある。たとえば運転席以外の座席に乗員が着座していない場合は、その座席用に設けた他の吹出口に通ずるダクト内通路を閉じて、その吹出口からの送風を停止する。これによって運転者だけの場合における車両用空調装置の省エネ化を図っている。
【0003】
このような運転席用の吹出口以外の他の吹出口を閉じた制御では、空調風の有無により運転席とそれ以外の座席の雰囲気温度に差が生ずる。これによって内気センサの検出温度と運転者の雰囲気温度との差が大きくなり、その結果、運転者にとって違和感を持つ空調制御となるという課題があった。
【0004】
この課題を解決する技術が、特許文献1に開示されている。特許文献1では、運転席以外の吹出口を閉じることによる影響を補正するため、内気センサとは別に、運転者の表面温度を検出する表面温度検出手段を備えている。そして運転者の表面温度を用いて内気温を補正する制御をしている。たとえば外気温が高い場合(たとえば夏の場合)、運転席以外の吹出口を閉じることによる影響で高くなる内気温を下げる方向に補正し、冷やしすぎを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−138793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1に記載の技術では、内気温を補正するために、内気センサとは別のセンサである表面温度検出手段を設けている。したがって内気温を補正するために別のセンサが必要であるので、部品数が多くなり構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、特定の座席の空調制御を実施することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0009】
請求項1に記載の発明では、一方側に空気取入口(6,7)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、複数の吹出口(20〜23,30〜33,91〜93)は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、空気取入口と吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する空調ケース(2)と、
空調ケースの通風路に対して空気を送風する空調用送風機(13)と、
空調用送風機から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、複数の吹出口に送る空調部(41,42)と、
複数の吹出口のうち、特定席を除く他の座席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と、通過を遮断する遮断状態とにわたって切替える開閉手段(34〜36)と、
運転席の周囲の空気温度を内気温度として検出する内気温度検出手段(71)と、
内気温度検出手段によって検出された空気温度を用いて、空調用送風機および空調部を制御し、車室内の空調を行う制御手段(10)と、を含み、
制御手段は、特定席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には特定席状態の制御として、開閉手段を遮断状態に制御し、特定席および他の座席を空調している通常状態よりも空調用送風機の送風量を少なくし、かつ通常状態よりも空調能力を上げるように空調部を制御することを特徴とする車両用空調装置である。
【0010】
請求項1に記載の発明に従えば、内気温度検出手段は、運転席の周囲の空気温度を内気温度として検出する。したがって制御手段は、内気温度によって各種の空調制御を運転者に対する違和感を抑えて実施することができる。具体的には、本発明では、特定席空調指令が与えられた場合、開閉手段を遮断状態に制御し、かつ空調用送風機の送風量を少なくする特定席状態となるように開閉手段と空調用送風機とが制御手段によって制御される。特定席は、少なくとも運転席を含むので、たとえば運転席のみ、および運転席および助手席などである。
【0011】
開閉手段を遮断状態にした場合、空調用送風機の送風量が通常状態のままであると、開状態の吹出口が減少しているので、特定席を空調範囲とする吹出口から通常状態よりも多い送風量で吹き出される。このような場合、通常状態と異なる送風量であるので、特定席に着座する乗員(以下、「特定乗員」ということがある)に違和感を与えることになる。そこで本発明では、前述のように空調用送風機の送風量を通常状態よりも少なくすることによって、違和感を抑えることができる。
【0012】
また制御手段は、特定席状態において、通常状態よりも空調能力を上げるように空調部を制御する。したがって、たとえば空調部が冷房運転の場合には、通常状態よりも低温側に空気を冷却するように空調部を制御し、暖房運転の場合には、通常状態よりも高温側に空気を加熱するように空調部を制御する。遮断状態にすると、車室内に送風される車両総風量が低下するので、空調性能が低下する。さらに前述のように空調用送風機の送風量を少なくするので、さらに空調性能が低下する。そこで前述のように空調能力不足を補うように制御することによって、遮断状態および送風量減少による特定乗員への空調感に対する違和感を抑えることができる。
【0013】
したがって従来技術のように表面温度検出手段などを設けることなく、特定席に着座する乗員に対して、通常状態との違和感を少なくして特定席状態における空調を実施することができる。これによって簡単な構成で、特定席の空調制御を実施することができる。
【0014】
また請求項2に記載の発明では、制御手段は、
内気温度検出手段によって検出された内気温度を用いて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度を決定し、
通常状態の場合には、決定した目標吹出温度となるように、空調用送風機および空調部を制御し、
特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が低い場合、目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、通常状態の目標吹出温度よりも低温側の低温目標吹出温度となるように空調部を制御し、
特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が高い場合、目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、通常状態の目標吹出温度よりも高温側の高温目標吹出温度となるように空調部を制御することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明に従えば、特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が低い場合、、目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、低温目標吹出温度となるように制御手段によって空調部が制御され、内気温度よりも目標吹出温度が高い場合、目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、高温目標吹出温度となるように制御手段によって空調部が制御される。目標吹出温度決定手段によって決定される目標吹出温度は、通常状態の空調制御に用いられるものであるので、特定席状態において目標吹出温度そのまま用いると、前述のように空調能力不足になる。したがって内気温度が高い場合などの冷房運転時は低温側の低温目標吹出温度、および内気温度が低い場合などの暖房運転時は高温側の高温目標吹出温度を用いて空調制御することによって、空調能力不足を補うことができる。したがって特定乗員に対して違和感を抑制した特定席制御を実現することができる。
【0016】
さらに請求項3に記載の発明では、空調部は、
空調ケース内に設けられ、送風された空気を冷却する冷却器(41)と、
空調ケース内に設けられ、送風された空気を加熱する加熱器(42)と、
冷却器を通過する空気と加熱器を通過する空気との風量比率を調整するエアミックス手段(15)と、を含み、
制御手段は、
決定した通常状態の目標吹出温度を用いて風量比率を決定し、
通常状態の場合には、決定した風量比率となるように、エアミックス手段を制御し、
特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が低い場合、または目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、通常状態の風量比率よりも冷却器を通過する空気の割合が高い低温風量比率となるようにエアミックス手段を制御し、
特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が高い場合、目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、通常状態の風量比率よりも加熱器を通過する空気の割合が高い高温風量比率となるようにエアミックス手段を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明に従えば、特定席状態において、内気温度よりも目標吹出温度が低い場合、または目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、低温風量比率となるようにエアミックス手段が制御手段によって制御され、内気温度よりも目標吹出温度が高い場合、目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、高温風量比率となるようにエアミックス手段が制御手段によって制御される。風量比率決定手段によって決定される風量比率は、通常状態の空調制御に用いられるものであるので、特定席状態において風量比率そのまま用いると、前述のように空調能力不足になる。したがって冷房運転時は冷却された空気が多い低温風量比率、および暖房運転時は加熱された空気が多い高温風量比率を用いて空調制御することによって、空調能力不足を補うことができる。したがって特定乗員に対して違和感を抑制した特定席制御を実現することができる。
【0018】
さらに請求項4に記載の発明では、各座席の乗員の存否を検出する乗員検出手段(77)をさらに含み、
制御手段は、乗員検出手段の検出結果に基づいて特定席のみに乗員がいると判断すると、特定席状態における制御を実施することを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明に従えば、乗員検出手段の検出結果に基づいて特定席のみに乗員がいると判定された場合、いわば自動的に特定席を集中して空調することができる。これによって乗員の操作が不要になるので、操作における利便性を向上することができる。 なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置100の全体構成を示す模式図である。
【図2】インストルメントパネル50付近の斜視図である。
【図3】エアコンECU10の通常モードにおけるフローチャートである。
【図4】エアコンECU10の運転席モードにおけるフローチャートである。
【図5】外気温と補正用の定数Cとの関係の一例を示すグラフである。
【図6】第2実施形態の運転席モードにおけるフローチャートである。
【図7】エアミックス開度の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0022】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図5を用いて説明する。図1は、第1実施形態の車両用空調装置100の全体構成を示す模式図である。図2は、車両用空調装置100が設けられる車両の車室内を示す斜視図である。車両用空調装置100は、走行用に水冷エンジンを搭載する自動車などの車両において、車室内を空調する空調ユニット1をエアコンECU10によって制御するように構成された、いわゆるオートエアコンシステムである。
【0023】
空調ユニット1は、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節、および吹出口モードの変更などを、互いに独立して行うことが可能なエアコンユニットである。運転席側空調空間は、運転席と運転席後方の後部座席を含む空間である。また助手席側空調空間は、助手席と助手席後方の後部座席を含む空間である。
【0024】
空調ユニット1は、車両の車室内前方に配置され、内部を送風空気が通過する空調ケース2を備えている。空調ケース2は、一方側に空気取入口が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される。空調ケースは、空気取入口と吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する。空調ケース2の上流側(一方側)には、送風機ユニット13が設けられる。送風機ユニット(空調用送風機)13は、内外気切替ドア3およびブロワ4を含む。内外気切替ドア3は、サーボモータ5などのアクチュエータによって駆動され、空気取入口である内気吸込口6と外気吸込口7との開度を変更する吸込口切替手段である。
【0025】
空調ユニット1は、具体的には図示しないが、完全センター置きといわれるタイプのものであり、車室内前方の計器盤下方部であって、車両左右方向の中央位置に搭載されている。送風機ユニット13は、空調ユニット1の車両前方側に配設される。送風機ユニット13の内気吸込口6は、運転席側の下方に開口しており、運転席側から車室内空気を吸い込む。
【0026】
ブロワ4は、ブロワ駆動回路8によって制御されるブロワモータ9により回転駆動されて、空調ケース2内において車室内に向かう空気流を発生させる遠心式送風機である。ブロワ4は、後述する運転席側および助手席側の各吹出口20〜23,30〜33から車室内の運転席側空調空間および助手席側空調空間に向けてそれぞれ吹き出される空調風の吹出風量を変更する機能も有する。
【0027】
空調ケース2には、送風機ユニット13から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、複数の吹出口に送る空調部としてエバポレータ41およびヒータコア42が設けられる。具体的には、空調ケース2には、空調ケース2を通過する空気を冷却する冷却器としてのエバポレータ41が設けられている。また、エバポレータ41の空気下流側には、第1空気通路11および第2空気通路12を通過する空気を、エンジンの冷却水と熱交換して加熱する、加熱器としてのヒータコア42が設けられている。
【0028】
各空気通路11,12は、仕切板14により区画されている。また、例えば電力を用いて走行する車両に用いられた車両用空調装置100では、エバポレータ41やヒータコア42に換えてペルチェ素子に変更しても良い。そのヒータコア42の空気上流側には、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節を、互いに独立して行うための運転席側エアミックスドア15および助手席側エアミックスドア16が設けられている。
【0029】
各エアミックスドア15,16は、サーボモータ17,18などのアクチュエータにより駆動されており、運転席側および助手席側の各吹出口20〜23,30〜33から車室内の各空調空間に向けて、それぞれ吹き出される空調風の吹出温度を変更する。換言すると、エアミックスドア15,16は、エバポレータ41を通過する空気とヒータコア42を通過する空気との風量比率を調整するエアミックス手段として機能する。
【0030】
エバポレータ41は、冷凍サイクル(図示せず)の一構成部品を成すものである。冷凍サイクルは、車両のエンジンルーム内に搭載された車両走行用のエンジンの出力軸によるベルト駆動または電動モータによって駆動されて、冷媒を圧縮して吐出するコンプレッサと、このコンプレッサより吐出された冷媒を凝縮液化させるコンデンサと、このコンデンサより流入した液冷媒を気液分離するレシーバと、このレシーバより流入した液冷媒を断熱膨張させる膨張弁と、この膨張弁より流入した気液二相状態の冷媒を蒸発気化させるエバポレータ41とを含む。
【0031】
冷凍サイクルのうちコンプレッサは、エアコンECU10から出力される制御電流によって、圧縮容量が可変される。本実施形態では、エバ後温度センサ74が検出するエバ後温度(TE)と、目標エバ後温度(TEO)との比較結果に応じて出力される制御信号に基づき、容量可変制御を行う電磁式容量可変制御弁を有する容量可変コンプレッサが用いられている。
【0032】
空調ケース2の他方側、すなわち第1空気通路11の空気下流側には、図1に示すように、運転席側デフロスタ吹出口20、運転席側センタフェイス吹出口21、運転席側サイドフェイス吹出口22、および運転席側フット吹出口23が、各吹出ダクトを介して連通している。また、第2空気通路12の空気下流側には、図1に示すように、助手席側デフロスタ吹出口30、助手席側センタフェイス吹出口31、助手席側サイドフェイス吹出口32、および助手席側フット吹出口33が、各吹出ダクトを介して連通している。
【0033】
運転席側および助手席側デフロスタ吹出口20,30は、車両前方窓ガラスへ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フェイス吹出口21,22,31,32は、運転者および助手席乗員の頭胸部へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フット吹出口23,33は、運転者および助手席乗員の足元へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。
【0034】
また図1では、図示は省略するが、図2に示すように、後部座席への吹出口として、後部座席側センタフェイス吹出口91、後部座席サイドフェイス吹出口92、後部座席側フット吹出口93が第1空気通路11および第2空気通路12の下流側にそれぞれ形成されている。
【0035】
第1および第2空気通路11,12内には、車室内の運転席側と助手席側との吹出モードの設定を、互いに独立して行う運転席側および助手席側吹出口切替ドアとして、運転席側デフロスタドア24および助手席側デフロスタドア34、運転席側フェイスドア25および助手席側フェイスドア35、運転席側フットドア26および助手席側フットドア36が設けられている。
【0036】
運転席側および助手席側吹出口切替ドア24〜26,34〜36は、サーボモータ28,29,38,39などのアクチュエータにより駆動され、運転席側および助手席側の吹出モードをそれぞれ切り替える。助手席側吹出口切替ドア34〜36は、複数の吹出口20〜23,30〜33のうち、車両の運転手の座席(運転席)を除く残余の座席を空調範囲とする吹出口30〜33から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と通過を遮断する遮断状態とにわたって切替える開閉手段である。空調範囲とは、各吹出口20〜23,30〜33から吹き出される空調風が主に流通する範囲をいい、各吹出口20〜23,30〜33の吹出方向および吹出方向にある座席などの障害物によって決定される。運転席側および助手席側の吹出口モードとしては、たとえばフェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードおよびデフロスタモードがある。
【0037】
次に、車両用空調装置100の制御に関して説明する。エアコンECU10は、制御手段であって、エンジンの始動および停止を司るイグニッションスイッチが入れられた時に、車両に搭載された車載電源であるバッテリー(図示せず)から直流電源が供給され、演算処理や制御処理を開始するように構成されている。エアコンECU10には、インストルメントパネル50に一体的に設置されたエアコン操作パネル90上の各種操作スイッチから、各スイッチ信号が入力されるように構成されている。
【0038】
エアコン操作パネル90には、図示は省略するが、たとえば液晶ディスプレイ、内外気切替スイッチ、フロントデフロスタスイッチ、リヤデフロスタスイッチ、デュアルスイッチ、吹出モード切替スイッチ、ブロワ風量切替スイッチ、エアコンスイッチ、オートスイッチ、オフスイッチ、温度設定スイッチ、および運転席空調スイッチなどが設置されている。
【0039】
液晶ディスプレイには、たとえば運転席側および助手席側空調空間の設定温度を視覚表示する設定温度表示部、吹出モードを視覚表示する吹出モード表示部、およびブロワ風量を視覚表示する風量表示部などが設けられている。液晶ディスプレイには、たとえば外気温表示部、吸込モード表示部および時刻表示部などが設けられていても良い。また、エアコン操作パネル90上の各種の操作スイッチは、液晶ディスプレイに設けられていてもよい。
【0040】
エアコン操作パネル90を各種のスイッチに関して説明する。フロントデフロスタスイッチは、前面窓ガラスの防曇能力を上げるか否かを指令する空調スイッチに相当するもので、吹出モードをデフロスタモードに設定するように要求するデフロスタモード要求手段である。デュアルスイッチは、運転席側空調空間内の温度調節と助手席側空調空間内の温度調節とを、互いに独立して行う左右独立温度コントロールを指令する左右独立制御指令手段である。モード切替スイッチは、乗員のマニュアル操作に応じて、吹出モードを、フェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードのいずれかに設定するように要求するモード要求手段である。エアコンスイッチは、冷凍サイクルのコンプレッサの稼働、または停止を指令する空調操作スイッチである。エアコンスイッチは、コンプレッサを非稼働にして、エンジンの回転負荷を減らすことで燃費効率を高めるために設けられている。温度設定スイッチは、運転席側空調空間内と助手席側空調空間内のそれぞれ温度を、所望の温度に設定(Tset)するための運転席側および助手席側温度設定手段である。運転席空調スイッチは、乗員のマニュアル操作に応じて、空調モードを後述する運転席モードに設定するように要求する入力手段である。
【0041】
エアコンECU10の内部には、図示は省略するが、演算処理や制御処理を行うCPU(中央演算装置)、ROMやRAMなどのメモリ、およびI/Oポート(入力/出力回路)などの機能を含んで構成される周知のマイクロコンピュータが設けられている。各種センサからのセンサ信号がI/OポートまたはA/D変換回路によってA/D変換された後に、マイクロコンピュータに入力される。エアコンECU10には、運転席の周囲の空気温度(内気温)Trを検出する内気温度検出手段としての内気温センサ71、車室外温度(外気温)を検出する外気温検出手段としての外気温センサ72、および日射検出手段としての日射センサ73が接続されている。またエアコンECU10には、エバポレータ41を通過した直後の空気温度(エバ後温度TE)を検出するエバ後温度検出手段としてのエバ後温度センサ74、車両のエンジン冷却水温を検出して送風空気の加熱温度とする加熱温度検出手段としての冷却水温センサ75、車室内の相対湿度を検出する湿度検出手段としての湿度センサ76、および各席の乗員の存否を検出する乗員検出手段としての着座センサ77などが接続されている。
【0042】
内気温センサ71、外気温センサ72、エバ後温度センサ74、および冷却水温センサ75は、たとえばサーミスタなどの感温素子が使用されている。内気温センサ71は、運転席付近(たとえばステアリング付近のインストルメントパネル50内部)の運転席以外の吹出口を閉じても、ほとんど影響しない部位に設定される。また、日射センサ73は、運転席側空調空間内に照射される日射量(日射強度)を検出する運転席側日射強度検出手段と、助手席側空調空間内に照射される日射量(日射強度)を検出する助手席側日射強度検出手段とを有しており、たとえばフォトダイオードなどが使用されている。湿度センサ76は、たとえば内気温センサ71とともに、運転席近傍のインストルメントパネル50の前面に形成された凹所内に収容されており、前面窓ガラスの防曇のためにデフロスタ吹き出しの要否の判定に利用される。
【0043】
次に、エアコンECU10による制御方法を、図3を用いて説明する。図3は、エアコンECU10の通常モード(全席モード)における処理の一例を示したフローチャートである。まず、イグニッションスイッチがオンされてエアコンECU10に直流電源が供給されると、予めメモリに記憶されている図3に示す制御プログラムが実行される。
【0044】
ステップS11では、エアコンECU10内部のマイクロコンピュータに内蔵されたデータ処理用メモリの記憶内容などを初期化し、ステップS12に移る。ステップS12では、各種データをデータ処理用メモリに読み込み、ステップS13に移る。したがってステップS12では、エアコン操作パネル90上の各種操作スイッチからのスイッチ信号、および各種センサからのセンサ信号が入力される。センサ信号としては、たとえば内気温センサ71が検知する車室内温度Tr、外気温センサ72が検知する外気温Tam、日射センサ73が検知する日射量Ts、エバ後温度センサ74が検知するエバ後温度Te、および冷却水温センサ75が検知する冷却水温Twである。
【0045】
ステップS13では、記憶している演算式に入力データを代入して、運転席側の目標吹出温度TAO(Dr)、および助手席側の目標吹出温度TAO(Pa)を演算し、その運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)と外気温Tamから、目標エバポレータ後温度TEOを演算し、ステップS14に移る。
【0046】
ステップS13にて用いられる演算式の一例を数式1に示す。
【0047】
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C …(1)
ここで、Tsetは、温度設定スイッチにて設定された設定温度、Trは内気温センサ71にて検出された内気温度、Tamは外気温センサ72にて検出された外気温度、Tsは日射センサ73にて検出された日射量である。また、Kset,Kr,KamおよびKsは各ゲインであり、Cは全体にかかる補正用の定数である。したがってエアコンECU10は、内気温センサ71によって検出された空気温度を用いて、目標吹出温度を決定する目標吹出温度決定手段としての機能を有する。
【0048】
ステップS14では、演算した運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)に基づいてブロワ風量、すなわちブロワモータ9に印加するブロワ制御電圧VAを演算し、ステップS15に移る。ブロワ制御電圧VAは、運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)にそれぞれ適合したブロワ制御電圧VA(Dr),VA(Pa)を、予め定めた特性パターンに基づいて求めるとともに、それらのブロワ制御電圧VA(Dr),VA(Pa)を平均化処理することにより得ている。
【0049】
ステップS15では、演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)とステップS12における入力データとを、メモリに記憶されている演算式に代入して、運転席側エアミックスドア15のエアミックス開度SW(Dr)(%)、および助手席側エアミックスドア16のエアミックス開度SW(Pa)(%)を演算し、ステップS16に移る。したがってエアコンECU10は、目標吹出温度を用いて、エアミックス開度を決定する風量比率決定手段としての機能を有する。
【0050】
ステップS16では、ステップS13にて演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)に基づき、車室内へ取り込む空気流の吸込モードと、車室内へ吹き出す空気流の吹出モードとを決定し、ステップS17に移る。
【0051】
ステップS17では、ステップS13で演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)とエバ後温度センサ74が検知する実際のエバポレータ後温度Teとが一致するように、フィードバック制御(PI制御)にてコンプレッサを目標吐出量とするための制御電流値を決定し、ステップS18に移る。具体的には、コンプレッサに付設された電磁式容量制御弁の電磁ソレノイドに供給する制御電流の目標値となるソレノイド電流(制御電流:In)を、メモリに記憶されている演算式に基づいて演算する。
【0052】
ステップS18では、ステップS14にて演算されたブロワ制御電流VAとなるように、ブロワ駆動回路8に制御信号を出力し、ステップS19に移る。ステップS19では、ステップS15で決定されたエアミックス開度SW(Dr),SW(Pa)となるように、サーボモータ17,18に制御信号を出力し、ステップS110に移る。
【0053】
ステップS110では、ステップS16で決定された吸込モードと吹出モードとなるように、サーボモータ28,29,38,39に制御信号を出力し、ステップS111に移る。ステップS111では、ステップS17で決定されたソレノイド電流(制御電流:In)をコンプレッサに付設された電磁式容量制御弁の電磁ソレノイドに出力し、ステップS12に戻り、ステップS12〜ステップS111までの処理を繰り返す。このような一連の処理を繰り返すことによって、乗員が設定した車室内温度にすることができる。
【0054】
次に、エアコンECU10による運転席モードに関する制御の一例を、図4を用いて説明する。運転席モードは、各座席(全席)のうちの少なくとも1つ特定席を集中して空調する制御モードである。本実施形態では、特定席は運転席に設定されている。図4は、運転席モードにおけるエアコンECU10の制御プログラムの一例を示したフローチャートである。図4に示す処理は、前述の図3における処理と並行して実施される。
【0055】
フローが開始されると、ステップS21では、着座センサ77が検知する各席の乗員の存否に対応した信号より、乗員は運転者のみか否かを判定し、ステップS22に移る。運転者以外にも乗員がいる場合は、ステップS26に移り、ステップS26にて図3に示す通常の空調制御を行い、乗員が運転者のみの場合には、運転席を空調する運転席空調指令が与えられたと判断し、ステップS23に移る。
【0056】
ステップS23では、運転席のみに乗員がいるので、記憶している運転席モード用の演算式に入力データを代入して、運転席側の目標吹出温度TAO(Dr)を演算し、その目標吹出温度TAO(Dr)と外気温Tamから、目標エバポレータ後温度TEOを演算し、ステップS24に移る。これによって目標吹出温度は、運転モード用となり、具体的には冷房モードの場合には、通常モードの目標吹出温度よりも低温側の低温目標吹出温度に決定される。また暖房モードの場合には、通常モードの目標吹出温度よりも高温側の高温目標吹出温度に決定される。
【0057】
ステップS24では、演算した運転席モード用の目標吹出温度TAO(Dr)に基づいて運転席モード用のブロワ風量を演算(ブロワ制御電圧VAを演算)し、演算したブロワ制御電流VAとなるように、ブロワ駆動回路8に制御信号を出力し、ステップS25に移る。これによって運転席モードでは、通常モードよりもブロワ風量が少ない運転席モード用のブロワ風量に決定される。
【0058】
ステップS25では、乗員が運転者のみの場合であるので、運転席空間を温度調節するモードとして、吸込吹出モードを「運転席モード」に変更し、本フローを終了する。たとえば吸込モードは内気モードとして、内外気切替ドア3にて運転席側下方にある内気吸込口6を開口させる。また乗員のいない助手席側空調空間に開口した吹出口30〜33を、対応する各ドア34〜36で全て閉じる(たとえば図2おける仮想線で囲う吹出口を閉じ、実線で囲った吹出口は開く)。そして、空調モードが冷房モード(冷房運転)である場合には、運転席側の各ドア24〜26にて、フェイス吹出口21,22とフット吹出口23との両方を開口させるバイレベル吹出モードとして冷風吹き出しを行う。また、空調モードが暖房モード(暖房運転)である場合には、運転席側の各ドア24〜26にて、フット吹出口23だけを開口させるフット吹出モードとして温風吹き出しを行う。また暖房時の吹出モードは、冷房時と同じバイレベル吹出モードとしてもよい。これらにより、運転席空間にだけ空調風を吹き出すため、運転席空間を効率良く設定温度に近付けることができる。
【0059】
これによってエアコンECU10は、着座センサ77の検知結果より、乗員が運転者のみと判定された場合、運転席空間を温度調節する運転席モードとすることができる。具体的には、複数の吹出口20〜23,30〜33のうち、運転席空間以外に開口した吹出口30〜33を、対応する各ドア34〜36にて全て遮断状態とし、ブロアの送風量を少なくし、さらに目標吹出温度が運転席モード用に設定される。これによって運転席空間にだけ空調風を吹き出して、運転席空間を効率良く設定温度に近付けることができる。また、運転席空間だけを空調するため、空調にかかる動力を低減することができる。
【0060】
また図4に示す処理において、たとえば乗員によってエアコン操作パネル90上の各種操作スイッチの1つである運転席空調スイッチが操作された場合に、運転席空調指令(特定席空調指令)が与えられたとして、ステップS23からの処理を実施するように制御してもよい。これによってエアコンECU10は、運転席空調指令を入力するための入力手段である運転席空調スイッチが操作された場合、運転席空間を急速に温度調節するモードとすることができる。したがって前述の図4に関連して説明した運転席空間の空調効果と同様の効果を達成することができる。
【0061】
次に、図4のステップS23における運転席モードの目標吹出温度の演算に関して説明する。図5は、外気温と補正用の定数Cとの関係の一例を示すグラフである。図5に示すように、前述の数式1における補正用の定数Cは、通常モードでは図5にて仮想線で示すように一定の値である。これに対して運転席モードでは、補正用の定数Cを外気温に応じて変更している。これによって外気温が高い場合(たとえば夏の場合)には、通常モードよりも定数Cを小さくし、外気温が低い場合(たとえば冬の場合)には、通常モードよりも定数Cを大きくする。これによって運転席モードにおける目標吹出温度は、前述のように冷房モードの場合(すなわち内気温が目標吹出温度よりも高い場合)には、通常モードの目標吹出温度よりも低温側の低温目標吹出温度に決定される。また暖房モードの場合(すなわち内気温が目標吹出温度よりも低い場合)には、通常モードの目標吹出温度よりも高温側の高温目標吹出温度に決定される。
【0062】
以上説明したように本実施形態の車両用空調装置100では、内気温センサ71は、運転席の周囲の空気温度を検出する。具体的には、運転席付近の運転席用の吹出口以外の吹出口を閉じてもほとんど内気温センサ71の検出値への影響をうけない位置に、内気温センサ71を設置する。したがって従来技術のように表面温度検出手段などを設けることなく、内気温センサ71によって検出された空気温度によって各種の空調制御を運転者に対する違和感を抑えて実施することができる。具体的には、通常モードにおいて運転席空調指令が与えられた場合、助手席側ドア34〜36を遮断状態に制御し、かつブロワ4の送風量を少なくする運転席モードとなるように助手席側ドア34〜36とブロワ4とがエアコンECU10によって制御される。
【0063】
助手席側ドア34〜36を遮断状態にした場合、ブロワ4の送風量が通常モードのままであると、開状態の吹出口が減少しているので、運転席を空調範囲とする吹出口から通常モードよりも多い送風量で吹き出される。このような場合、通常モードと異なる送風量であるので、運転席に着座する乗員に違和感を与えることになる。そこで本実施形態では、前述のようにブロワ4の送風量を通常モードよりも少なくすることによって、違和感を抑えることができる(図4のステップS34参照)。
【0064】
またエアコンECU10は、運転席モードにおいて、空調能力を上げるように制御し、たとえば冷房モードの場合には、通常モードよりも低温側に空気を冷却するように空調ユニット1を制御し、暖房モードの場合には、通常モードよりも高温側に空気を加熱するように空調ユニット1を制御する(図4のステップS33参照)。遮断状態にすると、車室内に送風される車両総風量が低下するので、空調性能が低下する。さらに前述のようにブロワ4の送風量を少なくするので、さらに空調性能が低下する。そこで前述のように空調能力不足を補うように制御することによって、遮断状態および送風量減少による運転席の乗員への空調感に対する違和感を抑えることができる。
【0065】
したがって従来技術のように表面温度検出手段などを設けることなく、運転席に着座する乗員に対して、通常モードとの違和感を少なくして運転席モードにおける空調を実施することができる。これによって簡単な構成で、運転席の空調制御を実施することができる。
【0066】
また本実施形態では、運転席モードにおいて冷房モードの場合には低温目標吹出温度となるようにエアコンECU10によって空調ユニット1が制御され、運転席モードにおいて暖房モードの場合には高温目標吹出温度となるようにエアコンECU10によって空調ユニット1が制御される。エアコンECU10によって決定される目標吹出温度は、通常モードの空調制御に用いられるものであるので、運転席モードにおいて目標吹出温度そのまま用いると、前述のように空調能力不足になる。したがって冷房モード時は低温側の低温目標吹出温度、および暖房モード時は高温側の高温目標吹出温度を用いて空調制御することによって、空調能力不足を補うことができる。したがって運転席乗員に対して違和感を抑制した運転席制御を実現することができる。
【0067】
さらに本実施形態では、着座センサ77の検出結果に基づいて運転席のみに乗員がいると判定された場合、いわば自動的に運転席を集中して空調することができる(図4のステップS32参照)。これによって乗員の操作が不要になるので、操作における利便性を向上することができる。
【0068】
本実施形態の車両用空調装置100の作用および効果を換言すると、運転席モードのような空調にかかる動力を低減した省燃費モードを、従来技術のように別センサを用いず、フィーリングの悪化を防止したモードとして実施することができる。したがって、省燃費モード時に運転席以外の吹出口を閉じることによる影響で、運転席の空調フィーリングが悪化するのを新たな補正用のセンサなしで達成することができる。
【0069】
また図4に示す吹出温度制御(風温)において、通常モードや省燃費モード時といったモードにより必要吹出温度を変更する手段を持ち、その変更手段は、数式1の補正用定数Cを補正し、夏は吹出温度が低くなる方向、冬は吹出温度が高くなる方向に制御することを特徴としている。その目的は、省燃費モード時に運転席以外の吹出口を閉じることにより、車両総風量が低下し空調性能低下するため、運転席が夏は暑め、冬は寒めになるといった問題を解決するものである。省燃費モード時は、運転席の風速感を変えないようブロワ4の出力も低減するため、上記空調性能低下が、さらに顕著な結果となる。
【0070】
特許文献1に記載の従来技術は、省燃費モード時に運転席以外の吹出口を閉じることにより、夏の場合、内気センサ温度が高くなり吹出温度が下がるのを、内気センサの低い側に補正し吹出温度を上げる方向で防止しているが今回の制御は、運転席乗員が運転席以外の吹出口を閉じることにより、暑く感じるのを解消するため吹出温度を下げる方向で防止している。(冬は逆に上げる方向に制御する)。これによって新たなセンサや複雑な補正処理なしで集中制御による燃費向上および乗員の快適性の確保が可能となる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して、図6および図7を用いて説明する。図6は、第2実施形態の運転席モードにおけるエアコンECU10の制御プログラムの一例を示したフローチャートである。本実施形態では、前述の図4のステップS33における処理に換えて、エアミックス開度を運転席モード用に変更する点に特徴を有する。
【0072】
図6に示すフローが開始されると、ステップS31では、ステップS21と同様に、乗員は運転者のみか否かを判定し、運転者以外にも乗員がいる場合は、ステップS36に移り、乗員が運転者のみの場合には、ステップS33に移る。
【0073】
ステップS33では、運転席のみに乗員がいるので、通常モードの目標吹出温度とステップS12における入力データとを、メモリに記憶されている運転席モード用の演算式に代入して、運転席側エアミックスドア15のエアミックス開度SW(Dr)(%)を演算し、演算したエアミックス開度SW(Dr)となるように、サーボモータ17に制御信号を出力し、ステップS34に移る。
【0074】
ステップS34では、通常モード用の目標吹出温度TAO(Dr)に基づいてブロワ風量を演算し、演算したブロワ風量を運転席モード用に減少(たとえば半分以下)させて、演算したブロワ風量のブロワ制御電流VAとなるように、ブロワ駆動回路8に制御信号を出力し、ステップS35に移る。これによって運転席モードでは、通常モードよりもブロワ風量が少ない運転席モード用のブロワ風量に決定される。
【0075】
ステップS35では、乗員が運転者のみの場合であるので、運転席空間を温度調節するモードとして、吸込吹出モードを「運転席モード」に変更し、本フローを終了する。
【0076】
これによってエアコンECU10は、着座センサ77の検知結果より、乗員が運転者のみと判定された場合、運転席空間を温度調節する運転席モードとすることができる。具体的には、複数の吹出口20〜23,30〜33のうち、運転席空間以外に開口した吹出口30〜33を、対応する各ドア34〜36にて全て遮断状態とし、ブロアの送風量を少なくし、さらにエアミックス開度が運転席モード用に設定される。これによって運転席空間にだけ空調風を吹き出して、運転席空間を効率良く設定温度に近付けることができる。また、運転席空間だけを空調するため、空調にかかる動力を低減することができる。
【0077】
次に、図6のステップS33における運転席モードのエアミックス開度の演算に関して説明する。図7は、算出したエアミックス開度(風量比率)と実際のエアミックス開度との関係の一例を示すグラフである。図7に示すように、通常モードで算出されたエアミックス開度と実際のエアミックス開度とは図7にて仮想線で示すように等しい。これに対して運転席モードでは、算出したエアミックス開度を補正して、実際のエアミックス開度と算出したエアミックス開度とが等しくない。これによって外気温が高い場合(たとえば夏の場合)には、通常モードよりも冷却された空気の割合を大きくし、外気温が低い場合(たとえば冬の場合)には、通常モードよりも加熱された空気の割合を大きくする。これによって運転席モードにおけるエアミックス開度は、前述のように冷房モードの場合(すなわち外気温が高い場合)には、通常モードのエアミックス開度よりもエバポレータ41を通過する空気の割合が高い低温エアミックス開度に決定される。また暖房モードの場合(すなわち外気温が低温の場合)には、通常モードのエアミックス開度よりもヒータコア42を通過する空気の割合が高い高温エアミックス開度に決定される。
【0078】
このように本実施形態では、運転席モードにおいて冷房モードの場合には低温風量比率となるように運転席側エアミックスドア15がエアコンECU10によって制御され、運転席モードにおいて暖房モードの場合には、高温風量比率となるように運転席側エアミックスドア15がエアコンECU10によって制御される。エアコンECU10によって決定されるエアミックス開度は、通常モードの空調制御に用いられるものであるので、運転席モードにおいてエアミックス開度そのまま用いると、前述のように空調能力不足になる。したがって冷房モード時は冷却された空気が多い低温エアミックス開度、および暖房モード時は加熱された空気が多い高温エアミックス開度を用いて空調制御することによって、空調能力不足を補うことができる。したがって運転席の乗員に対して違和感を抑制した運転席モードを実現することができる。
【0079】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0080】
前述の第1実施形態では、運転席モードの場合には、補正用定数Cを変更して、運転席モード用に目標吹出温度を変更したが、このような制御に限るものではなく、運転席モード用の目標吹出温度を設定するように制御してもよい。したがって通常モードの数式1とは別に、運転席モード用の演算式によって通常モード用の目標吹出温度を算出してもよい。
【0081】
前述の第1実施形態では、特定席(特定席状態)は運転席(運転席状態)であったが、運転席だけに限るものではなく、運転席および助手席を含む前方座席を特定席として、前方座席を含む空調範囲と通常の空調範囲とを切り替えるように制御してもよい。また運転席モード、前方座席モードおよび通常モード(通常状態)の3つのモードを切り替えられるように制御してもよい。
【0082】
また前述の第1実施形態では、内気温度と目標吹出温度を比較しているが、このような制御に限るものではなく、目標吹出温度が予め設定される閾値より高い場合、または外気温が予め設定される閾値より低い場合には、通常モードよりも低温側に空気を冷却するように空調ユニット1を制御してもよい。また目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、通常モードよりも高温側に空気を加熱するように空調ユニット1を制御してもよい。このような制御によっても空調能力不足を補うように制御することができる。
【0083】
また前述の第2実施形態では、内気温度と目標吹出温度を比較しているが、このような制御に限るものではなく、目標吹出温度が予め設定される閾値より高い場合、または外気温が予め設定される閾値より低い場合には、低温風量比率となるように運転席側エアミックスドア15がエアコンECU10によって制御してもよい。また目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、高温風量比率となるように運転席側エアミックスドア15がエアコンECU10によって制御してもよい。このような制御によっても空調能力不足を補うように制御することができる。
【0084】
前述の第1実施形態では、各席の乗員の存否を検知するのに、シートに配された着座センサを用いているが、インストルメントパネルなどに配置したIR(非接触赤外線温度)センサにより、各席の乗員の存否を検知するようにしてもよい。また、シートベルトの嵌着信号や各席のドアの開閉信号を用いて、各席の乗員の存否を推定するようにしても良いし、これらの手段を組み合わせて各席の乗員の存否を判断するものであってもよい。
【0085】
前述の第1実施形態では、アクチュエータはサーボモータによって実現されているが、サーボモータに限ることはなく、残余のアクチュエータ、たとえばバイメタルおよび形状記憶合金を用いてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…空調ユニット
2…空調ケース
6…内気吸込口(空気取入口)
7…外気吸込口(空気取入口)
10…エアコンECU(制御手段)
13…送風機ユニット(空調用送風機)
15…運転席側エアミックスドア(エアミックス手段)
20…運転席側デフロスタ吹出口(吹出口)
21…運転席側センタフェイス吹出口(吹出口)
22…運転席側サイドフェイス吹出口(吹出口)
23…運転席側フット吹出口(吹出口)
24…運転席側デフロスタドア
25…運転席側フェイスドア
26…運転席側フットドア
30…助手席側デフロスタ吹出口(吹出口)
31…助手席側センタフェイス吹出口(吹出口)
32…助手席側サイドフェイス吹出口(吹出口)
33…助手席側フット吹出口(吹出口)
34…助手席側デフロスタドア(開閉手段)
35…助手席側フェイスドア(開閉手段)
36…助手席側フットドア(開閉手段)
41…エバポレータ(冷却器)
42…ヒータコア(加熱器)
71…内気温センサ(内気温度検出手段)
77…着座センサ(乗員検出手段)
91…後部座席側センタフェイス吹出口(吹出口)
92…後部座席サイドフェイス吹出口(吹出口)
93…後部座席側フット吹出口(吹出口)
100…車両用空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に空気取入口(6,7)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、前記複数の吹出口(20〜23,30〜33,91〜93)は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、前記空気取入口と前記吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する空調ケース(2)と、
前記空調ケースの前記通風路に対して空気を送風する空調用送風機(13)と、
前記空調用送風機から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、前記複数の吹出口に送る空調部(41,42)と、
前記複数の吹出口のうち、前記特定席を除く他の座席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と、前記通過を遮断する遮断状態とにわたって切替える開閉手段(34〜36)と、
前記運転席の周囲の空気温度を内気温度として検出する内気温度検出手段(71)と、
前記内気温度検出手段によって検出された空気温度を用いて、前記空調用送風機および前記空調部を制御し、前記車室内の空調を行う制御手段(10)と、を含み、
前記制御手段は、前記特定席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には特定席状態の制御として、前記開閉手段を前記遮断状態に制御し、前記特定席および前記他の座席を空調している通常状態よりも前記空調用送風機の送風量を少なくし、かつ前記通常状態よりも空調能力を上げるように前記空調部を制御することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記内気温度検出手段によって検出された前記内気温度を用いて、前記車室内に吹き出す空気の目標吹出温度を決定し、
前記通常状態の場合には、決定した前記目標吹出温度となるように、前記空調用送風機および前記空調部を制御し、
前記特定席状態において、前記内気温度よりも前記目標吹出温度が低い場合、前記目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、前記通常状態の前記目標吹出温度よりも低温側の低温目標吹出温度となるように前記空調部を制御し、
前記特定席状態において、前記内気温度よりも前記目標吹出温度が高い場合、前記目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、前記通常状態の前記目標吹出温度よりも高温側の高温目標吹出温度となるように前記空調部を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記空調部は、
前記空調ケース内に設けられ、送風された空気を冷却する冷却器(41)と、
前記空調ケース内に設けられ、送風された空気を加熱する加熱器(42)と、
前記冷却器を通過する空気と前記加熱器を通過する空気との風量比率を調整するエアミックス手段(15)と、を含み、
前記制御手段は、
決定した前記通常状態の前記目標吹出温度を用いて前記風量比率を決定し、
前記通常状態の場合には、決定した前記風量比率となるように、前記エアミックス手段を制御し、
前記特定席状態において、前記内気温度よりも前記目標吹出温度が低い場合、または前記目標吹出温度が閾値より低い場合、または外気温が閾値より高い場合には、前記通常状態の前記風量比率よりも前記冷却器を通過する空気の割合が高い低温風量比率となるように前記エアミックス手段を制御し、
前記特定席状態において、前記内気温度よりも前記目標吹出温度が高い場合、前記目標吹出温度が閾値より高い場合、または外気温が閾値より低い場合には、前記通常状態の前記風量比率よりも前記加熱器を通過する空気の割合が高い高温風量比率となるように前記エアミックス手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記各座席の乗員の存否を検出する乗員検出手段(77)をさらに含み、
前記制御手段は、前記乗員検出手段の検出結果に基づいて前記特定席のみに乗員がいると判断すると、前記特定席状態における制御を実施することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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