説明

車両用蓄電体冷却システム

【課題】車両用蓄電体冷却システムにおいて、日射量にかかわらず蓄電体を効率よく冷却し、かつ、乗員の空調快適性を損なうことなく、すべての乗員に対する蓄電体冷却のためのファン及び送風による不快感をなくすか、または小さくすることである。
【解決手段】バッテリ冷却システム10は、制御部であるECUを備え、車両12の後方に設けられた左右の吸気口30,32から車室内の空気を取り入れてバッテリを冷却する。左右の吸気口30,32は、後席64の車体側部側である、左右両端部2個所に設ける。ECUは、前席20,22及び後席64の着座情報である乗員着座情報と日射情報とに基づいて、左右の吸気口30,32の開閉状態と、左右の吹き出し口44,46から選択される制御側吹き出し口44(46)の吹き出し風量とを制御し、車室内での冷気の流れを変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後方に設けられた吸気口から車室内の空気を取り入れて車両に搭載される蓄電体を冷却する車両用蓄電体冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両を駆動する駆動源であり、バッテリから電力を供給される走行用電動モータを備える電気自動車またはハイブリッド車または燃料電池車等の電動車両が知られている。例えば、エンジンと走行用電動モータとの一方または両方により駆動するハイブリッド車によれば、高い燃費性能を得られることが知られている。
【0003】
このような電動車両においては、走行用電動モータに電力を供給するための蓄電体としてのバッテリの充放電の際に熱が発生するため、バッテリの寿命増大やバッテリの性能低下防止の面から熱を除去する、すなわちバッテリを適度に温度低下させることが好ましい。このために、従来から、バッテリを冷却するためのバッテリ冷却装置を備えることが考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、車室内の冷気をリヤパーセルの吸気口からバッテリに導入する車両用蓄電器冷却装置が記載されている。この冷却装置では、エアコンCPUは、外気温センサと日射量センサとの検出値が外気温閾値と日射量閾値とをそれぞれ超えた場合で、かつ、バッテリ温度センサの検出値がバッテリ温度閾値を超えたときに、エアコンユニットの送風ファンの回転数を増加させるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、後席の後側に設けた吸気口可変機構が備える吸気口から空気を取り入れて冷却ファンによって走行用電池に通風して走行用電池を冷却する電池冷却装置が記載されている。この冷却装置では、座席の着座状態を着座取得手段により取得し、その取得された着座状態に基づいて吸気口を有する吸気箱を車両幅方向に移動させ、吸気口の位置を変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−123079号公報
【特許文献2】特開2007−220659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載された冷却装置の場合、車内への日射量と外気温とが高い場合で、バッテリ温度が高い場合に車室内へ吹き出される冷気の送風量を多くして、蓄電器に大きな流量で冷気を送り出し、バッテリ温度を低下できる可能性がないとはいえない。ただし、吸気口は、後席に座る乗員の耳の近くである、リヤパーセルに1個所のみ設けられており、後席の乗員が吸気口の近くに乗車している場合に、バッテリ温度及び日射量が高くなり、吸気口に対する冷気の吸入量が高くなると、乗員、特に後席の乗員にとって不要な風や、耳障りな送風音等の騒音が生じて、乗員の快適性を損なう可能性がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の構成では、電池冷却ファンの騒音による乗員の不快感の低減を図るために、後部座席の着座位置によって吸気口の位置を変化させている。ただし、特許文献2に記載された電池冷却装置の場合も、吸気口が後席の後側に設けられているため、後席の乗員の耳近くを通過した冷風が吸気口から吸気される可能性があり、この場合も乗員、特に後席の乗員にとって不要な風や、耳障りな送風音等の騒音が生じる可能性がないとはいえない。また、バックガラス等の窓ガラスを通じて車室内に照射される日射量が大きい場合に吸気口近くの空気が温められる可能性があり、吸気温度が上昇しやすくなり電池冷却に不利となる可能性がある。また、日射量にかかわらずエアコンの送風量が一定であると、日射量が大きい場合に乗員がエアコンを手動で操作して強風にする等を指示しない限り、高い空調快適性を得られない可能性がある。
【0009】
このため、日射量にかかわらず蓄電体を冷却する冷却風の温度を低く抑えて蓄電体を効率よく冷却でき、かつ、乗員の空調快適性を損なうことなく、蓄電体冷却のための送風及びファンの騒音による不快感をすべての乗員でなくすか、または小さくできる蓄電体冷却システムの実現が望まれている。
【0010】
本発明の目的は、車両用蓄電体冷却システムにおいて、日射量にかかわらず蓄電体を効率よく冷却し、かつ、乗員の空調快適性を損なうことなく、すべての乗員に対する蓄電体冷却のためのファン及び送風による不快感をなくすか、または小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る車両用蓄電体冷却システムは、車両の後方に設けられた吸気口から車室内の空気を取り入れて車両に搭載される蓄電体を冷却する車両用蓄電体冷却システムであって、吸気口は、後席の車体側部側である、左右両端部2個所に設けられた左右の吸気口であり、左右の吸気口の開閉状態と、車室内空調装置の前席前側の左右両側に離れて2個所に設けられた左右の吹き出し口の一方または両方の吹き出し風量とを制御する制御部であって、前席及び後席の着座情報である乗員着座情報と、日射量の高低状態を表す日射情報とに基づいて、左右の吸気口の開閉状態と、左右の吹き出し口から選択される制御側吹き出し口の吹き出し風量とを制御し、車室内での冷気の流れを変更可能とする制御部を備えることを特徴とする車両用蓄電体冷却システムである。
【0012】
また、本発明に係る車両用蓄電体冷却システムにおいて、好ましくは、制御部は、乗員着座情報と日射情報とに基づいて、左右の吸気口の開閉状態と、左右の吹き出し口から選択される制御側吹き出し口と、制御側吹き出し口の吹き出し風量との関係を規定するマトリクスデータを用いて、左右の吸気口の開閉状態と制御側吹き出し口の吹き出し風量とを制御する。
【0013】
また、本発明に係る車両用蓄電体冷却システムにおいて、好ましくは、左右の吹き出し口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吹き出し口から吹き出される風向きを調整可能な左右吹き出しルーバーと、左右吹き出しルーバーの向きを変更する左右吹き出しアクチュエータとを備え、制御部は、左右吹き出しアクチュエータの駆動を制御する吹き出しアクチュエータ制御手段を有する。
【0014】
また、本発明に係る車両用蓄電体冷却システムにおいて、好ましくは、左右の吸気口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吸気口の開閉を切換可能な左右吸気ルーバーと、左右吸気ルーバーの開閉を切り換える左右吸気アクチュエータとを備え、制御部は、左右吸気アクチュエータの駆動を制御する吸気アクチュエータ制御手段を有する。
【0015】
また、本発明に係る車両用蓄電体冷却システムにおいて、好ましくは、左右の吸気口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吸気口の開閉を切換可能な左右吸気ルーバーと、左右吸気ルーバーの開閉を切り換える左右吸気アクチュエータとを備え、制御部は、左右吸気アクチュエータの駆動を制御する吸気アクチュエータ制御手段と、吹き出しアクチュエータ制御手段及び吸気アクチュエータ制御手段を統合制御し、左右吹き出しルーバー及び左右吸気ルーバーの向きを互いに連動して制御するルーバー統合制御手段とを有する。
【0016】
また、本発明に係る車両用蓄電体冷却システムにおいて、好ましくは、左右の吸気口にそれぞれ接続した左右ダクト内に設けられた左右吸気温度センサを備え、制御部は、左右吸気温度センサの一方または両方の吸気温度センサにより検出された吸気温度が予め設定された閾値温度を越えた場合に、乗員着座情報及び日射情報に無関係に、左右の吹き出し口の一方または両方から吹き出される吹き出し風量が増大するように制御する吹き出し風量強制増大手段を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両用蓄電体冷却システムによれば、乗員着座情報と日射情報とから、適切な左右の吸気口の開閉状態と、制御側吹き出し口と、その制御側吹き出し口の風量とを設定できるので、例えば制御側吹き出し口の風量を高くする等により、日射量にかかわらず蓄電体を冷却する冷却風の温度を低く抑えて蓄電体を効率よく冷却できる。また、乗員の空調快適性を損なうことなく、蓄電体冷却のための送風及びファンの騒音による不快感をすべての乗員でなくすか、または小さくできる。しかも、左右の吸気口は、後席の車体側部側である左右両端部2個所に設けられているので、すべての乗員に対する、蓄電体冷却のための送風及びファンの騒音による不快感をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の1例の車両用蓄電体冷却システムを備える車両を示す模式図である。
【図2】図1の車両において、左右の吹き出し口と左右の吸気口とを示す、図1の上方から下方に見た模式図である。
【図3】図1の車両用蓄電体冷却システムにおいて、エアコンユニットと、制御部であるエアコンバッテリ冷却ECUと、電池冷却ユニットとを示す構成図である。
【図4】エアコンバッテリ冷却ECUで使用するマトリクスデータのうち、前席では運転席のみに乗車している場合の第1マトリクスデータを示す図である。
【図5】エアコンバッテリ冷却ECUで使用するマトリクスデータのうち、前席では助手席のみに乗車している場合の第2マトリクスデータを示す図である。
【図6】エアコンバッテリ冷却ECUで使用するマトリクスデータのうち、前席では運転席及び助手席の両方に乗車している場合の第3マトリクスデータを示す図である。
【図7】運転席のみに乗員が着座している場合で日射有りの場合の冷気の流れを説明するための図2に対応する図である。
【図8】運転席及び後席の左端にのみ乗員が着座している場合で日射無しの場合の冷気の流れを説明するための図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図8は、本発明の実施の形態を示している。なお、以下の説明では、前後左右は、車両における前後左右とする。図2,7,8の矢印は前後左右の向きを表している。
【0020】
図1から図3に示すように、本実施の形態の車両用蓄電体冷却システムであるバッテリ冷却システム10を備える車両12は、図示しないエンジン及び走行用電動モータを搭載し、エンジン及び走行用電動モータのうち、一方または両方を駆動源として車両を駆動する電動車両であるハイブリッド車両である。ただし、バッテリ冷却システム10を備える車両は、走行用電動モータを備える電気自動車や燃料電池車等の他の電動車両としてもよい。また、バッテリ冷却システム10を備える車両は、蓄電体であるバッテリであって、車内から取り込んだ空気によりバッテリを冷却する他の種類の車両とすることもできる。
【0021】
車両12において、走行用電動モータは、車両12の後部に搭載された蓄電体であるバッテリ14からインバータ等を含む駆動部(図示せず)を介して電力を供給され、回転駆動し、図示しない動力伝達機構を介して車輪、例えば前輪16または後輪18または前輪16及び後輪18を駆動する。また、車両12は、回生制動時に走行用電動モータが発電機として機能して、発電した電力を上記の駆動部を介してバッテリ14に供給し、充電する。
【0022】
バッテリ冷却システム10は、車両12の前席20,22前側に設けられた車室内空調装置であるエアコンユニット24と、制御部であるエアコンバッテリ冷却ECU26と、車両12の後部に設けられたバッテリ冷却ユニット28とを備える。バッテリ冷却システム10は、車両12の後方に設けられた左右の吸気口30,32から車室内の空気を取り入れて車両12に搭載されているバッテリ14を冷却する。
【0023】
エアコンユニット24は、図示しない凝縮器(コンデンサ)及びコンプレッサと、蒸発器(エバポレータ)34とを有する冷媒循環部36と、エアコンダクト38と、エアコンダクト38内に配置されたエアコン送風ファン40とを含む。エアコンダクト38は、外気導入口42と、図示しない内気導入口と、車室内に開口する左右の吹き出し口44,46とを有する。外気導入口42は、車室外から空気を取り入れるもので、内気導入口は、車室内から空気を取り入れるものである。図2に示すように、左右の吹き出し口44,46は、前席20,22前側の左右両端部に左右両側に離れて2個所に設けられている、左右のサイドレジスターである。また、エアコン送風ファン40(図1)の駆動により、空気が外気導入口42(図1)または内気導入口から取り込まれ、蒸発器34(図1)を通過した後、左右の吹き出し口44,46の一方または両方から吹き出すことが可能になる。
【0024】
図3に示すように、エアコンダクト38は、外気導入口42(図1)または内気導入口から内部に送られた空気を分岐ダクト部48,50に分流し、各分岐ダクト部48,50の端部に接続された左右の吹き出し口44,46側に流す。エアコンダクト38の中間部内側に蒸発器34とエアコン送風ファン40とが設けられている。蒸発器34は、内部を流れる冷媒が蒸発することで温度低下する。そして蒸発器34に空気を通過させることで、この空気を温度低下させ、エアコン送風ファン40は、エアコンダクト38内で空気を下流側に流し、左右の吹き出し口44,46から温度低下した空気を吹き出すようにしている。なお、エアコンユニット24には、図示しないヒータを配置した別の空気通路を設け、エアコンユニット24の設定温度に応じてヒータにより温度上昇した空気と、蒸発器34で温度低下した空気とを適切量混合させるようにしているが、この構成の図示及びこれ以上の説明は省略する。また、左右の吹き出し口44,46以外に、車室内には前席20,22(図1)の前側の左右方向中間部に左右のセンターレジスタ及び左右のセンターレジスタに接続され、エアコンダクト38を構成する別の分岐ダクト部も設けられているが、これらの図示は省略している。
【0025】
外気導入口42(図1)及び内気導入口のいずれから空気を取り入れるかは、エアコンユニット24の車室内に設けたインストルメントパネル上の操作部により設定可能としている。その設定に応じてエアコンダクト38内に設けた切換ドア(図示せず)の切換により、外気取り込みモードと内気循環モードとを切換可能としている。
【0026】
また、エアコンダクト38の分岐ダクト部48,50の端部の左右の吹き出し口44,46周辺部にそれぞれ左右の吹き出しルーバー52,54が設けられている。左右の吹き出しルーバー52,54は、ルーバーの向きを変えることで、左右の吹き出し口44,46から吹き出される風の風向き及び風量を調整可能である。例えば、各吹き出しルーバー52,54は、いずれか一方を全閉とすることで全閉側の吹き出し風量を0とすることもできる。また、左右の吹き出しルーバー52,54は、それぞれ詳しい図示を省略するモータ及び駆動機構を含む左右の吹き出しアクチュエータ56、58により風向き及び風量を変更可能としている。
【0027】
図1に戻って、バッテリ冷却ユニット28は、車両の後部のトランクルーム下側に設けられたバッテリ収容室60と、バッテリ収容室60に収容されたバッテリ14と、バッテリ収容室60に接続されたバッテリダクト62とを備える。バッテリダクト62には、図2、図3に示すように左右に分かれて設けられた左右の吸気口30,32が設けられており、左右の吸気口30,32から取り入れられた空気が下流側に設けられたバッテリ収容室60(図3)に送られ、バッテリ14を冷却した後、外部に排出されるか、または車室内に戻される。
【0028】
図2に示すように、左右の吸気口30,32は、後席64の車体側部側の左右両端部2個所である、座面66の両端よりも外側のシートサイド部68に設けられている。シートサイド部68は、座面66から外れたシートの一部または樹脂等のパネル部により構成することができる。各吸気口30,32は例えば上側に向くように開口させている。なお、左右の吸気口30,32は、後席64の車体側部側の左右両端部2個所である、シートバック70の両端よりも外側のシートバックサイド部に、例えば前方に向くように開口させることもできる。シートバックサイド部は、シートバック70から外れたシートの一部または樹脂等のパネル部により構成することができる。
【0029】
また、図3に示すように、各吸気口30,32に接続された2本の分岐ダクト部72,74を流れた空気は合流部で合流した後、バッテリ送風ファン76により下流側のバッテリ収容室60に送風されるようにしている。このため、バッテリ送風ファン76の駆動によりバッテリ14を冷却することが可能になる。
【0030】
また、左右の吸気口30,32の周辺部にそれぞれ左右の吸気ルーバー78,80が設けられている。左右の吸気ルーバー78,80は、左右の吸気口30,32の風向きを調整し、かつ、開閉状態を切り換えるためのもので、ルーバーの向きを変えることで吸気方向を調整可能であり、かつ、開閉の切換が可能である。例えば、各吸気ルーバー78,80は、いずれか一方を全閉とすることで全閉側の吸気風量を0とすることができる。また、左右の吸気ルーバー78,80は、それぞれ詳しい図示を省略するモータ及び駆動機構を含む左右の吸気アクチュエータ82,84により風向き及び風量及び開閉を変更可能としている。
【0031】
また、バッテリ冷却システム10は、制御部であるエアコンバッテリ冷却ECU(electronic control unit)(以下、単に「ECU」という場合がある。)26を備える。ECU26は、CPU、メモリ等の記憶部を有するマイクロコンピュータを含むもので、左右の吸気口30,32の開閉状態と、エアコンユニット24の左右の吹き出し口44,46の一方または両方の吹き出し風量とを制御する。具体的には、バッテリ冷却システム10は、吹き出しアクチュエータ制御手段86と、吸気アクチュエータ制御手段88と、ルーバー統合制御手段90とを有する。吹き出しアクチュエータ制御手段86は、左右吹き出しアクチュエータ56,58の駆動を、ルーバー統合制御手段90からの制御信号に応じて制御する。吸気アクチュエータ制御手段88は、左右吸気アクチュエータ56,58の駆動を、やはりルーバー統合制御手段90からの制御信号に応じて制御する。ルーバー統合制御手段90は、吹き出しアクチュエータ制御手段86と、吸気アクチュエータ制御手段88とを、後述するマトリクスデータを用いて統合制御し、左右吹き出しルーバー52,54と左右吸気ルーバー78,80との向きを互いに連動して制御する。
【0032】
また、図2に示すように、バッテリ冷却システム10は、運転席及び助手席である右左の前席20,22と、後席64との着座情報である乗員着座情報、すなわち着座の有無を検出する複数の着座センサ92を備える。着座センサ92は、右左の前席20,22と、後席64の左右位置及び中央位置とのシート下にそれぞれ設けられた複数の圧力センサにより構成されることができる。なお、着座センサ92は、右左の前席20,22と後席64の左右位置及び中央位置とにそれぞれ対応して設けられた複数のシートベルト(図示せず)の着脱部に設けたバックルスイッチにより構成されることもできる。この場合、シートベルトがバックルに装着されている場合に、対応する座席に乗員が着座していると判定し、シートベルトがバックルから外れている場合に、対応する座席に乗員が着座していないと判定する。着座センサ92により検出された乗員着座情報は、ECU26(図3)に出力される。
【0033】
また、図1に示すように、バッテリ冷却システム10は、後席64の後側の上部に設けられたリヤパーセルと呼ばれるアッパーパネル94上に設けられた日射量センサ96を備える。日射量センサ96は、バックガラスを通して照射される日射量を検出可能で、日射量の高低状態、すなわち日射量が閾値よりも高いか否かを検出し、その高低状態を表す日射情報をECU26に出力する。
【0034】
また、ECU26には、車内温度を検出する車内温度センサからの車内温度や、バッテリ14の温度を検出するバッテリ温度センサからのバッテリ温度や、エアコンユニット24の操作部のオンオフ等の操作を表す操作信号や、エアコンユニット24の操作部で設定された設定温度も入力される。また、場合により、車室外の温度、すなわち外気温を検出する車外温度センサを設けて、車外温度センサから車外温度をECU26に入力することもできる。ECU26は、車両が始動された場合にバッテリ送風ファン76を駆動し、バッテリダクト62内に車室内の空気を取り入れてバッテリ14を冷却する。なお、ECU26は、バッテリ温度に基づいてバッテリ送風ファン76を駆動させることもできる。例えばバッテリ温度が閾値温度を超えた場合にのみバッテリ送風ファン76を駆動することもできる。
【0035】
ECU26は、上記の各種センサで検出された情報等に基づいて、操作部によりエアコンユニット24のオンが指示された場合に、エアコンユニット24を駆動し、適切な温度に調整した空気を左右の吹き出し口44,46等から吹き出すようにする。本実施の形態では、エアコンユニット24の操作部にオート・マニュアル切換部(図示せず)が設けられており、この切換部によりオートモードが選択され、温度設定部で温度が設定された場合に、その設定温度で車室内温度を調節するようにしている。また、これに伴って、左右の吹き出し口44,46の一方に設けられた吹き出しルーバー52(または54)(図3)の開度、すなわち風向きがオート、すなわち自動で調節されるようにしている。なお、オート・マニュアル切換部によりマニュアルモードが選択された場合に、風量指示部の調節により指示された風量に応じて左右の吹き出し口44,46の一方に設けられた吹き出しルーバー52(または54)の風向きが自動で調節されるようにしてもよい。また、エアコンユニット24の操作部にオート・マニュアル切換部を設けず、風量指示部の調節により指示された風量に応じて左右の吹き出し口44,46の一方に設けられた吹き出しルーバー52(または54)の風向きが自動で調節されるようにしてもよい。
【0036】
また、ECU26は、エアコンユニット24のオンが指示された場合に、左右の吹き出し口44,46の他方を制御側吹き出し口として選択し、選択された制御側吹き出し口46(または44)の吹き出し風量を中間風量よりも大、例えば最大であるハイのままとする。本実施の形態では、左右の吹き出し口44,46のうち、吹き出し風量を大のまま維持する制御側吹き出し口46(または44)と、風向きをオートで変える吹き出し口44(または46)との選択を、上記の着座情報と日射情報とに基づいて、次のマトリクスデータを用いて行うようにしている。そして、ECU26はマトリクスデータを用いて、上記の着座情報と日射情報とに基づいて、バッテリ冷却ユニット28の左右の吸気口30,32の開閉状態と、制御側吹き出し口46(または44)の吹き出し風量とを制御し、車室内の冷気の流れを変更可能とする。
【0037】
マトリクスデータは、図4に示す第1マトリクスデータと、図5に示す第2マトリクスデータと、図6に示す第3マトリクスデータとを含む。これらの各マトリクスデータは、ECU26の記憶部に記憶させている。以下、図1から図3に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。上記の各マトリクスデータは、前席20,22及び後席64の乗員着座状態と、日射高低(日射有無)と、使用する吸気口30,32(電池吸気口)と、左右の吹き出し口44,46の吹き出し風量との関係を規定している。図4の第1マトリクスデータは、前席20,22では右の前席20(運転席)のみに乗車している場合を規定する。図5の第2マトリクスデータは、前席20,22では左の前席22(助手席)のみに乗車している場合を規定する。図6の第3マトリクスデータは、左右の前席20,22の両方に乗車している場合を規定する。
【0038】
図4から図6では、前席20,22及び後席64の着座状態を「0」または「1」で示している。「0」は乗員が着座していることを、「1」は乗員が着座していないことを示している。また、「日射有無」の欄では、「有」が日射量が高いことを、「無」は日射量が低いことを示している。また、「使用する電池吸気口」の欄では、左右の吸気口30,32の開閉状態を示しており、「左」は左の吸気口30を開放し、右の吸気口32を閉鎖していることを示し、「右」は右の吸気口32を開放し、左の吸気口30を閉鎖していることを示している。また、「左右」は左右両方の吸気口30,32を開放していることを示している。これらの開放閉鎖は、上記の吸気ルーバー78,80の吸気方向の切換により切り換えられる。
【0039】
また、「前席A/C風量」の欄では、左の前席22(助手席)側、右の前席20(運転席)側それぞれに設けられた左右の吹き出し口44,46から吹き出される吹き出し風量を示しており、「X」は、オート、すなわち操作部で設定された設定温度や風量等に応じて自動で風量が切り換えられることを示している。また、「Hi」は吹き出し風量が中間風量よりも大、例えば最大であることを示している。そして、ECU26は、乗員着座情報と日射情報とから、左右の吸気口30,32の開閉状態と、左右の吹き出し口44,46から選択される制御側吹き出し口46(または44)と、制御側吹き出し口46(または44)の吹き出し風量との関係を規定する上記のマトリクスデータを用いて、車室内での冷気の流れを変更可能とする。なお、図示しない左右のセンターレジスタの吹き出し風量は両方でオートとすることもでき、この場合には、左右のセンターレジスタに左右の吹き出し口44,46と同様の吹き出しルーバーと吹き出しアクチュエータとを設けることができる。そしてECU26でセンターレジスタ用の吹き出しルーバーの駆動を制御することもできる。
【0040】
また、この場合に、左のセンターレジスタの吹き出し風量を、サイドレジスターである左の吹き出し口44の風量に合わせて制御し、右のセンターレジスタの吹き出し風量を、サイドレジスターである右の吹き出し口46の風量に合わせて制御することもできる。例えば、左の吹き出し口44の風量がHi(またはX)である場合に左のセンターレジスタの吹き出し風量もHi(またはX)とし、右の吹き出し口46の風量がX、すなわちオート(またはHi)である場合に左のセンターレジスタの吹き出し風量もX(またはHi)とすることもできる。
【0041】
次に、車室内の冷気の流れの2例を、図7、図8を用いて説明する。まず、図7に示すように、車両12において、乗員98が運転席である右の前席20のみに着座している場合で日射有りの場合には、ECU26は、図4の第1マトリクスデータで、後席64のすべてで着座していない、日射有のデータ(図4のα位置のデータ)を使用する。この場合、図4から分かるように左の吸気口30が使用され、開状態となり、右の吸気口32は閉鎖状態となる。また、左右の吹き出し口44,46については、運転席側、すなわち右側で吹き出し風量が大となり、助手席側、すなわち左側で吹き出し風量がオートとなる。この場合には、図7に矢印β方向の冷気の流れが車室内に生じる。この場合、右の前席20に乗車する乗員98、すなわち運転者には多くの冷気が当たり、しかも左の吸気口30に多くの冷気を効率よく取り入れることができる。
【0042】
また、図8に示すように、車両12において、乗員98が運転席である右の前席20と、後席64の左とのみに着座している場合で日射無しの場合には、ECU26は、図4の第1マトリクスデータで、後席64の左のみで着座している、日射無のデータ(図4のγ位置のデータ)を使用する。この場合、図4から分かるように右の吸気口32が使用され、開状態となり、左の吸気口30は閉鎖状態となる。また、左右の吹き出し口44,46については、助手席側、すなわち左側で吹き出し風量が大となり、運転席側、すなわち右側で吹き出し風量がオートとなる。この場合には、図8に矢印δ方向の冷気の流れが車室内に生じる。この場合、運転者である乗員98と、後席64の左の乗員98とには、多くの冷気が当たることがなく、しかも右の吸気口32に多くの冷気を効率よく取り入れることができる。
【0043】
このようなバッテリ冷却システム10によれば、乗員着座情報と日射情報とから、適切な左右の吸気口30,32の開閉状態と、制御側吹き出し口46(または44)と、その制御側吹き出し口46(または44)の風量とを設定できるので、例えば制御側吹き出し口46(または44)の風量を高くする等により、日射量にかかわらずバッテリダクト62内の吸気温度を低く抑えて、バッテリ14を冷却する冷却風の温度を低く抑えることができ、バッテリ14を効率よく冷却できる。
【0044】
また、日射が高い場合に乗員98に積極的に多くの冷気を当てる一方、日射が低い場合に乗員98に多くの冷気が当たることを防止できる。このため、乗員98の空調快適性を損なうことがない。しかも、後席64に乗員98が着座する場合に、後席64の乗員98の着座位置近くの吸気口30(または32)が開放状態となる場合を少なくできる。このため、バッテリ14冷却のための送風及びバッテリ送風ファン76の騒音による不快感をすべての乗員98でなくすか、または小さくできる。しかも、左右の吸気口30,32は、後席64の車体側部側である左右両端部2個所に設けられているので、すべての乗員98に対する、バッテリ14冷却のための送風及びバッテリ送風ファン76の騒音による不快感をより低減することができる。
【0045】
また、後席64に乗員が3人着座した場合には、図4から図6のマトリクスデータから分かるように、左右の両方の吸気口30,32が使用され、開状態となる。このため、後席64の中央の乗員等の1人の乗員に過度に集中して冷気が吹き付けられることがない。このため、すべての乗員に対して、吸気口30,32からの冷気の取り入れによる不快感を低減することができる。特に、後席64の中央の乗員に対する不快感を効果的に低減できる。これに対して、上記の特許文献2に記載された電池冷却装置の場合、後席に3人が着座した場合に、中央または右の1人の乗員の後側の1の吸気口のみに車室内の空気が取り込まれるため、1人の乗員の耳の近くに吸気口が存在するだけでなく、吸気による送風音が大きくなり、不快感を低減する面から改良の余地がある。本実施の形態によれば、このような改良すべき点を改良できる。
【0046】
なお、本実施の形態のバッテリ冷却システム10において、図1、図3に示すように、左右の吸気口30,32にそれぞれ接続した左右の2本の分岐ダクト部72,74内に左右の吸気温度センサ100をそれぞれ設けるとともに、ECU26は、吹き出し風量強制増大手段102(図3)を有するようにすることもできる。吹き出し風量強制増大手段102は、エアコンユニット24の駆動状態で、左右吸気温度センサ100の一方または両方の吸気温度センサ100により検出された吸気温度が予め設定された閾値温度を越えた場合に、乗員着座情報及び日射情報に無関係に、すなわち上記のマトリクスデータを用いずに、左右の吹き出し口44,46の一方または両方から吹き出される吹き出し風量が増大するように、左右の吹き出しルーバー52,54を制御する。
【0047】
なお、吹き出し風量強制増大手段102は、エアコンユニット24の停止状態でも、左右吸気温度センサ100の一方または両方の吸気温度センサ100により検出された吸気温度が予め設定された閾値温度を越えた場合に、強制的にエアコンユニット24を冷房状態で駆動するように制御するとともに、左右の吹き出し口44,46の一方または両方から吹き出される吹き出し風量が増大するように、左右の吹き出しルーバー52,54を制御することもできる。
【0048】
なお、上記の実施形態において、エアコンバッテリ冷却ECU26は、単一のECUにより構成することもできるが、複数のECUの組み合わせにより構成することもできる。例えば、本発明の車両用蓄電体冷却システムが備える制御部は、エアコンユニット24を制御するエアコンECUと、バッテリ冷却ユニット28を制御するバッテリ冷却ECUとにより構成することもできる。
【0049】
また、上記では、ECU26が、左右の吹き出し口44,46の吹き出し風量を左右の吹き出しルーバー52,54の向きを変更することにより制御する場合を説明した。ただし、図1、図3に示すように、エアコンユニット24の分岐ダクト部48,50の分岐部付近にそれぞれ切換ドアを設けて、ECU26が、切換ドアを変位させるアクチュエータを制御することで、切換ドアによる分岐ドアの開度を全開と全閉との間で段階的または無段階で制御することもできる。この場合も、制御側吹き出し口である吹き出し口46(または44)からの吹き出し風量をECU26により制御できる。なお、本実施の形態では、制御部であるECU26は、乗員着座情報と日射情報とに基づいて、マトリクスデータを用いて、左右の吸気口30,32の開閉状態と、左右の吹き出し口44,46から選択される制御側吹き出し口44(または46)の吹き出し風量とを制御し、車室内での冷気の流れを変更可能としているが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、ECU26は、上記のマトリクスデータを用いることなく、例えば、記憶させた他の情報やデータ等を用いて、乗員着座情報と日射情報とに基づいて、左右の吸気口30,32の開閉状態と、左右の吹き出し口44,46から選択される制御側吹き出し口44(または46)の吹き出し風量とを制御し、車室内での冷気の流れを変更可能とすることもできる。
【符号の説明】
【0050】
10 バッテリ冷却システム、12 車両、14 バッテリ、16 前輪、18 後輪、20,22 前席、24 エアコンユニット、26 エアコンバッテリ冷却ECU、28 バッテリ冷却ユニット、30,32 吸気口、34 蒸発器(エバポレータ)、36 冷媒循環部、38 エアコンダクト、40 エアコン送風ファン、42 外気導入口、44,46 吹き出し口、48,50 分岐ダクト部、52,54 吹き出しルーバー、56,58 吹き出しアクチュエータ、60 バッテリ収容室、62 バッテリダクト、64 後席、66 座面、68 シートサイド部、70 シートバック、72,74 分岐ダクト部、76 バッテリ送風ファン、78,80 吸気ルーバー、82,84 吸気アクチュエータ、86 吹き出しアクチュエータ制御手段、88 吸気アクチュエータ制御手段、90 ルーバー統合制御手段、92 着座センサ、94 アッパーパネル、96 日射量センサ、98 乗員、100 吸気温度センサ、102 吹き出し風量強制増大手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後方に設けられた吸気口から車室内の空気を取り入れて車両に搭載される蓄電体を冷却する車両用蓄電体冷却システムであって、
吸気口は、後席の車体側部側である、左右両端部2個所に設けられた左右の吸気口であり、
左右の吸気口の開閉状態と、車室内空調装置の前席前側の左右両側に離れて2個所に設けられた左右の吹き出し口の一方または両方の吹き出し風量とを制御する制御部であって、前席及び後席の着座情報である乗員着座情報と、日射量の高低状態を表す日射情報とに基づいて、左右の吸気口の開閉状態と、左右の吹き出し口から選択される制御側吹き出し口の吹き出し風量とを制御し、車室内での冷気の流れを変更可能とする制御部を備えることを特徴とする車両用蓄電体冷却システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用蓄電体冷却システムにおいて、
左右の吹き出し口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吹き出し口から吹き出される風向きを調整可能な左右吹き出しルーバーと、
左右吹き出しルーバーの向きを変更する左右吹き出しアクチュエータとを備え、
制御部は、左右吹き出しアクチュエータの駆動を制御する吹き出しアクチュエータ制御手段を有することを特徴とする車両用蓄電体冷却システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用蓄電体冷却システムにおいて、
左右の吸気口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吸気口の開閉を切換可能な左右吸気ルーバーと、
左右吸気ルーバーの開閉を切り換える左右吸気アクチュエータとを備え、
制御部は、左右吸気アクチュエータの駆動を制御する吸気アクチュエータ制御手段を有することを特徴とする車両用蓄電体冷却システム。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用蓄電体冷却システムにおいて、
左右の吸気口周辺部にそれぞれ設けられ、左右の吸気口の開閉を切換可能な左右吸気ルーバーと、
左右吸気ルーバーの開閉を切り換える左右吸気アクチュエータとを備え、
制御部は、左右吸気アクチュエータの駆動を制御する吸気アクチュエータ制御手段と、吹き出しアクチュエータ制御手段及び吸気アクチュエータ制御手段を統合制御し、左右吹き出しルーバー及び左右吸気ルーバーの向きを互いに連動して制御するルーバー統合制御手段とを有することを特徴とする車両用蓄電体冷却システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1に記載の車両用蓄電体冷却システムにおいて、
左右の吸気口にそれぞれ接続した左右ダクト内に設けられた左右吸気温度センサを備え、
制御部は、左右吸気温度センサの一方または両方の吸気温度センサにより検出された吸気温度が予め設定された閾値温度を越えた場合に、乗員着座情報及び日射情報に無関係に、左右の吹き出し口の一方または両方から吹き出される吹き出し風量が増大するように制御する吹き出し風量強制増大手段を有することを特徴とする車両用蓄電体冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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