説明

車両用設計支援システムおよびその方法

【課題】ペダルの操作性についての評価を、接触インピーダンスをも考慮したシミュレーションによって行えるようにする。
【解決手段】運転者の下肢部の運動特性を、腰関節部1と膝関節部2と足首関節部3とつま先関節部4とを有する回転関節ジョイントと、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の各接触インピーダンスとを含む特性でもってモデル化した下肢−ペダル系モデルが設定される。下肢−ペダル系モデルによって下肢の挙動が予測され、予測された挙動からペダル操作性が評価される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用設計支援システムおよびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を設計するのに際して、設計の良否をシミュレーションを用いて評価して、この評価に基づいて設計の手直しをするという手法が多く採択されている。特許文献1には、走行状態に適した運転姿勢となるよう運転シートの可動部分の調整を行う際に、運転者の生体姿勢を多関節モデルとして捉えて、各関節における変位角度を用いて操作性指標を算出し、評価することが開示されている。
【0003】
また、車両には、アクセルペダルやブレーキペダルのような足先で操作されるペダルが存在するが、このペダルの操作性をいかに良好に設定するかが重要となる。このため、設定されたペダル配置について、多くの試験者を用いた評価結果に基づいて、最終的に操作性のよくなるペダル位置を決定することが行われているが、多くの試験者を用いた評価には多大な時間と手間とを要することになる。特許文献2には、ニューラルネットワークによる評価に基づいて、ペダルの操作性を評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−324180号公報
【特許文献2】特開平5−87699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ペダルの操作性を評価する場合に、「しっかり踏めること」、「正確に踏めること」、「楽に踏めること」というような要素が重要である。特に、「楽にしっかり踏めること」は、同じペダル踏み込み力を得るのであれば、運転者の下肢部が発揮する力が小さくなって好ましいものとなる。また、「楽に正確に踏めること」は、踵をフロアに対して極力ずらすことなく(つまり足首への大きな負担を伴うことなく)、足先操作量に極力比例したペダル操作量が得られるので好ましいものとなる。しかしながら、従来は、「しっかり踏めること」、「正確に踏めること」、「楽に踏めること」の各要素を、多くの試験者の評価に基づいて行っており、最終的な好ましいペダル位置の決定までに多大な時間と労力とを要することになっており、しかもこの評価を行うためのシミュレーション手法もなんら提示されていないというのが現状である。とりわけ、足裏とペダル間、フロアと踵間、シートクッションと大腿部間にはそれぞれ接触インピーダンスが発生するが、このような複数箇所での接触インピーダンスの存在は、ペダル操作性に大きな影響を与えるものとなる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、ペダルの操作性についての評価を、接触インピーダンスを考慮したシミュレーションによって行えるようにした車両用設計支援システムおよびその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明における車両用設計支援システムにあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
運転者の下肢部の運動特性を、腰関節部と膝関節部と足首関節部とつま先関節部とを有する回転関節ジョイントと、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の各接触インピーダンスとを含む特性でもってモデル化した下肢−ペダル系モデル設定手段と、
前記下肢−ペダル系モデルによって下肢の挙動を予測する挙動予測手段と、
前記予測された挙動からペダル操作性を評価する操作性評価手段と、
を備えているようにしてある。上記解決手法によれば、ペダル位置に関するデータや人体のデータを入力して、下肢−ペダル系モデルによってシミュレーションを行うことにより、ペダルを操作する運転者の下肢部の挙動が予測され、この予測された下肢部の挙動に基づいて、ペダルの操作性に関する評価を行うことができる。特に、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の3箇所についての接触インピーダンスをも考慮したシミュレーションとなるので、実際に人間がペダル操作したのと極めて近似した下肢部の挙動が予測されることになり、ペダル操作性の評価を正確に行うことができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2〜請求項5に記載のとおりである。すなわち、
前記挙動予測手段が、足先発揮力を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測された足先発揮力が所定値よりも大きいときにペダルが適正配置であると評価する、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、ペダル操作性のうち、ペダルをしっかりと踏めるか否かの評価を正確に行うことができる。
【0009】
前記挙動予測手段が、足先受動抵抗力を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測された足先受動抵抗力が所定値よりも小さいときにペダルが適正配置であると評価する、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、ペダル操作性のうち、ペダルの踏み込みを楽に行えるか否かの評価を正確に行うことができる。
【0010】
前記挙動予測手段が、アクセル踏み込み角度と足首変化角度の関係を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測されたアクセル踏み込み角度と足首変化角度との関係が、所定角度範囲以上の角度範囲で、基準の特性線に対して所定以上の相関度合いを有するときに、ペダルが適正配置であると評価する、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、ペダル操作性のうち、ペダルを正確に踏めるか否かの評価を行うことができる。
【0011】
前記挙動予測手段が、アクセル踏み込み角度と足首変化角度の関係を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測されたアクセル踏み込み角度と足首変化角度との関係が、所定角度範囲以上の角度範囲で、基準の傾き角度に対して所定の許容範囲内であるときに、ペダルが適正配置であると評価する、
ようにしてある(請求項5対応)。この場合、ペダル操作性のうち、ペダルを正確に踏めるか否かの評価を行うことができる。
【0012】
前記目的を達成するため、本発明における車両用設計支援方法にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項6に記載のように、
運転者の下肢部を、腰関節部と膝関節部と足首関節部とつま先関節部を有する回転関節ジョイントと、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の各接触インピーダンスとを含む特性でもってモデル化した下肢−ペダル系モデルが設定されており、
ペダル配置に関するデータと運転者を想定した人体モデルに関するデータを前記下肢−ペダル系モデルに入力して、評価対象となる下肢−ペダル系モデル系を設定するステップと、
前記下肢−ペダル系モデルによって、下肢の挙動を予測するステップと、
前記予測された挙動からペダル操作性を評価するステップと、
ようにしてある。上記解決手法によれば、請求項1に記載の車両用設計支援システムに対応した車両用設計支援方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ペダル操作性の評価を、運転者の下肢部に作用する複数カ所での接触インピーダンスを考慮したシミュレーションによって簡単かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】下肢−ペダル系モデルの一例を示す図。
【図2】図2の足先部分に着目した拡大図。
【図3】足首角度とペダル角度との関係例を示す図。
【図4】本発明のシステム構成例を示す図。
【図5】本発明の制御例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、車両としての自動車の下肢−ペダル系モデルを示すものであり、多関節リンクと接触インピーダンスでモデル化されている。図1中、1は腰関節部、2は膝関節部、3は足首関節部、4は足の指先関節部(親指等の付け根にある関節部)である。腰関節部1と膝関節部2とを連結するリンク(大腿部に相当)が符合5で示され、膝関節部2と足首関節部3とを連結するリンク(脛部に相当)が符合6で示され、足首関節部3と指先関節部4とを連結するリンクが符合7で示され、指先関節部4から先にある指先のリンクが符合8で示される。
【0016】
前記腰関節部1は、3軸方向の自由度を有し、その3つの関節角度がqh1、qh2、qh3で示される。膝関節2は、1軸方向の自由度を有し、その関節角度がqh4で示される。足首関節3は、3軸方向の自由度を有し、その3つの関節角度がqh5、qh6、qh7で示される。指先関節部4は1軸方向の自由度を有し、その関節角度がqh8で示される。
【0017】
図1において、アクセルペダルやブレーキペダルで代表されるペダル(ペダルパッド部)が符合11で示される。ペダル11のリンク12は、回動部13によって、例えばダッシュパネル21に揺動可能に取付けられたものとして設定されている。回動部13は、1軸方向の自由度を有し、その関節角度がqp1で示される。
【0018】
足裏を示すリンク(仮想足裏リンク)が符合21で示され、このリンク21とペダル11との間での滑りを含む接触インピーダンスがBpadとKpadで示される。同様に、リンク11の下端(踵)とフロア15との間での滑りを含む接触インピーダンスがBfloorとKfloorで示される。さらに、大腿部を示すリンク5とシートクッション23(の座面)との間での滑りを含む接触インピーダンスが、Bcushion、Kcushionで示される。
【0019】
図2に示す下肢−ペダル系モデルにおいて、3次元空間座標系におけるnリンクモデルの運動特性は、(1)式に示すようになる。(1)式は、(2)式および(3)式として表すことができる。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
【数3】

【0023】
ここで、qi∈Rn(i=h,p)は、n次元の行列である関節の回転角度と定義し、添え字iは、hが下肢、pがペダルを意味する。Mi(qi)∈Rn×nは回転慣性行列であり、hi(qi,q'i)∈Rnは、遠心力とコリオリ力に関する項、gi(qi)∈Rnは重力項、τiact,τipk,τipb∈Rnはそれぞれ発揮力、関節粘弾性による能動・受動関節トルク項であり、τextpad,τextfloor,τextcushion∈Rnは各接触点からの外力トルク項である。
【0024】
ここで、下肢の足への外力トルクτextpad,τextfloorは、図2に示すように、靴裏と踵の接触点で働く相互作用力Fextpad,Fextfloor∈R3に起因すると仮定して、ペダル/フロアから靴裏/踵への作用力を意味することになる。例えば、ペダルパッド面(ペダル11の靴裏21に対する接触面)と靴裏面(靴裏21のペダル11に対する接触面)との接触点Xps∈R3における靴裏への作用力Fextpadは、式(4)、式(5)で示すことができる。
【0025】
【数4】

【0026】
【数5】

【0027】
pad,Kpad∈R1は、空間座標系における接触点の粘性・剛性であり、xcshoe∈R1は靴裏面とペダルパッド面の仮想平衡長さ、xcp,xcs∈R3はそれぞれペダルパッド面と靴裏面仮想接触点と定義する。大腿部への外力トルクτextcushion も上述した場合と同様にしてモデル化した。
【0028】
以上の計算式に基づいて、下肢とペダルの機械特性が設定され、入力には、計測した踏力(運転者の体格や性別等に基づいて実験的に得られている)に基づいて決定した係数を位置エネルギへ乗じた関節トルクτhact=(ψ・ghTとして与え、ペダルの下肢の操作挙動を計算する。なお、ψは、人間の重力トルクベクトルghに掛ける重みベクトルであり、人間の重力トルクベクトルghは、[大腿関節x軸、大腿関節y軸、大腿関節z軸、膝x軸トルク、足首x軸、足首y軸、足首z軸、つま先x軸]の各成分からなる。したがって、ψ=[0,0,0,0,0,0,0,0]とすると、重力に逆らわずダラっと足が倒れる状態を表し、ψ=[0,0,0,1,0,0,0,0]とすると、膝関節にかかる重量分だけ抵抗するトルクを出している状態を表し、この数値をコントロールすることで各種状態におけるレイアウトを検討することが可能となる。
【0029】
足先の能動・受動力Fhact,Fhpk∈R3と等価な能動・受動関節トルクτhact,τhpk の関係は、式(6)で与えられる。 +
【0030】
【数6】

【0031】
ここで、添え字jは、actpkが能動・受動関節トルクベクトルである。また、「J∈R3×n((JT*T=1」は、リンク作用位置xeのqhに関するヤコビ行列である(「*」は擬似逆行列を意味する)。能動・受動関節トルクは、式(7)式、(8)と定義する。
【0032】
【数7】

【0033】
【数8】

【0034】
なお、式(8)において、diagは、その対角成分以外がゼロである対角行列を表す。
【0035】
上記式中、α(0≦α≦1)は関節活動レベル、Tjnは、人間の関節角度に対する関節トルクの変化を多項式もしくは指数関数で近似した関節トルクである。ここで、関節活動レベルαは、次式(9)と式(6)、式(7)、式(8)から展開することができる。式(8)から、Tact,Tpkは、姿勢qhにかかわらず常に正則であるから、「αの絶対値」≦1または「αの絶対値」=1の下で実現可能な足先力の集合を考えると、式(9)を用いて、式(10)、式(11)で与えられるR3の空間の楕円体、楕円体面となり、能動・受動関節トルク特性を反映した足先力の大きさと方向を表現できる。
【0036】
【数9】

【0037】
【数10】

【0038】
【数11】

【0039】
上記楕円体、楕円体面の断面において、ペダルストローク軌道の接線ベクトル方向の半径をそれぞれ足先発揮力(=発揮力で、最大出せる力とみることができる)、および足先受動抵抗力(=機械特性で、足先への負担力とみることができる)と定義することができる。つまり、足先発揮力が運転者の体格や性別等に応じてあらかじめ設定された第1所定値よりも大きければ、「しっかりと踏める」状態であるとみることができる。また、足先受動抵抗力が、体格や性別等に応じてあらかじめ設定された第2所定値よりも小さければ、「楽に踏める」状態であるとみることができる。さらに、足先発揮力が第1所定値よりも大きくかつ足先受動抵抗力が第2所定値よりも小さければ、「楽にしっかり踏める」状態であるとみることができる。
【0040】
次に、「楽に正確に踏める」という点について述べる。まず、ブレーキペダルの車幅方向位置を、運転者の頭部の車幅方向中心位置から右方へのオフセット量xbrjとして示し、ブレーキペダルの右方への最大オフセット量(規格上の上限値)をxbrjmaxとする。「xbrj/xbrjmax」の正規化値を選択したとき、この正規価値が0.2付近(より具体的には0.16〜0.24の範囲)に設定するのが、多くの試験者の評価結果から、運転者の下肢の発揮力が小さくかつブレーキペダルを踏む踏力が大きい状態で、しかも違和感を感じない好ましい適正位置となる。そして、アクセルペダルの車幅方向位置は、ブレーキペダルに対して所定の(規格上の)許容範囲に設定すればよいことになる。
【0041】
ブレーキペダルを上述した適正位置とし、この適正位置にあるブレーキペダルに対して所定の許容範囲でもってアクセルペダルを配置したときに、アクセルペダルを楽に正確に踏める条件としては、所定の角度範囲(理想的には角度0から最大踏み込み角度までの範囲)において、踏み始めからの足首角度の変化量とペダル角度の変化量とが1:1の関係で変化するのが好ましいものとなる。すなわち、例えば、図3に示すように、足首角度変化量を横軸に、ペダル角度変化量を縦軸にとったとき、ペダル踏み込み終了位置と原点位置とを結んだ仮想直線(図3でY1で示される)を考えたとき、この仮想直線が、原点を通る傾き45度の基準直線に対して極力近い関係にあること(相関係数SRが1に近いこと)、および上記仮想直線の傾きAが45度に極力近いこと、という2つの条件を満足することである(図3では、横軸と縦軸との寸法比が1:1とはなっていないので、1:1の寸法比としたときの45度)。特に、相関係数SRが1に近いことが強く望まれるものである(相関係数SRの方が、傾きAよりも優先する)。
【0042】
図5中、X1は、運転者が比較的大柄な体格である場合で、足首と膝との2つの関節部を使用してアクセルペダルを踏み込み操作したときの様子を示す。このX1では、アクセルペダルが最大踏み込み角度となる直前の段階で、一旦足首角度が減少するすべり現象β1が見られるが、このすべり現象β1は、踵が浮いてフロアに対して滑っていることを示すものであり、楽に操作するという点で好ましくない現象となる。ただし、すべり現象β1は、最大踏み込み角度付近で発生しており、また相関係数SRが0.9941であり、原点と踏み込み終了位置とを結ぶ仮想直線Y1の傾き(角度)は35.6度となっていて、操作性が良好であると評価できるものである。
【0043】
一方、図5中、X2で示すのは、運転者が比較的小柄な体格である場合で、足首と膝と腰との3つの関節部を使用してペダル操作したときのものである。X2では、すべり現象β2が、足首角度の変化量が相当に小さい段階で生じており、しかも相関係数SRが0.9440と小さいため、傾きAが40.7度と良好であるにもかかわらず、全体的には操作性の点では適正と評価できないものとなる。
【0044】
以上の説明から明かなように、「1−相関係数SR」の絶対値が第1所定値(例えば0.03)よりも小さいときに相関係数SRに関する条件が満足していると考えることができる。同様に、「45−傾きA」の絶対値が第2所定値(例えば10度)よりも小さいときに、傾きAに関する条件が満足していると考えることができる。なお、相関係数SRの基準線は、傾き45度の直線に限らず、45度以外の傾きを有する直線や曲線として設定することもでき、また傾きの相違する複数の直線を結んだものとして設定することもできる(車種に応じて好ましいペダル操作性が相違してくるのに対応)。勿論、図3に示すような角度変化量の特性は、図1に示すqh8とqp1との関係から得ることができる。
【0045】
次に、前述した下肢−ペダル系モデルを利用したシミュレーションによって、ペダル操作性の評価を行う手法について、特に「楽にしっかり踏める」、「楽に正確に踏める」という2つの条件を満足するように設定した場合に着目して説明する。まず、図4は、シミュレーションを行うための車両用設計支援システム30を示す。車両用設計支援システム30は、CPU31,RAM32等の主記憶装置、ROM34,ハードディスク装置35等の補助記憶装置、入力手段としてのキーボード36,マウス37,出力装置としてのディスプレイ38,プリンタ39等が、入出力経路40を介して接続されたコンピュータによって構成されている。
【0046】
ハードディスク装置35には、前述した下肢−ペダル系モデルが記憶されていると共に、運転者の体格や性別に応じた運転者に関するデータが記憶され、さらに後述するシミュレーション用の制御を行うためのプログラムを記憶している。キーボード36、マウス37、ディスプレイ38を利用して、シミュレーションの対象となるペダル位置が入力されるが、このペダル位置の入力の際には、ペダル位置に関連した各種車両データ(例えばシートの上下、左右位置、座面の傾き等、およびペダルの前後、車幅方向位置および高さ位置、リンク12の長さ等)が入力される。また、運転者の身体的な情報が入力される。具体的には、例えば標準、小柄、大柄等の相違に基づいて、各リンク5〜8の関節部を含む質量、長さ重心位置等とされる。さらに、例えば式(3)に示すτhactとして、体格や性別の相違に応じて経験的に得られた値が入力される。そして、CPU31は、上述した入力結果に基づいて後述するようにシミュレーションを行って、ペダル操作性に関する評価をディスプレイ38やプリンタ39に出力する。
【0047】
次に、CPU31による制御(シミュレーション)について、図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明でSはステップを示す。まずS1において、車両の設計諸元値(ペダル、シートの位置や角度)が入力される。次いで、S2において、運転者の体格に応じた各種データが入力される。S3では、S1、S2での入力に応じたペダル位置や運転者の体格に応じてシミュレーションを行うための下肢−ペダル系モデルが作成される(例えばペダルの高さ位置や、リンク5〜8の質量や長さ等の設定や、各リンク5〜8の長さや質量等の設定)。
【0048】
S4では、前述した下肢−ペダル系モデルに基づいて、足先発揮力が算出され、同様にS5において、足先受動抵抗力が算出される。S6では、足先発揮力が第1所定値よりも大きく、かつ足先受動抵抗力が第2所定値よりも小さいか否かが判別される。このS6の判別でNOのときは、「楽にしっかり踏める」という条件を満足していないということで、S7においてNGの判定とされる。また、S6の判別でYESのときは、「楽にしっかり踏める」という条件を満足しているときであるとして、S8において、OKの判定がされる。
【0049】
S7あるいはS8の後は、S9において、足首角度の変化が算出される。また、S10において、ペダルの変化角度が算出される。この後、S7,S8で得られ得る2つの角度関係から、図3の原点を通る傾きが45度の基準直線との相関係数SRが算出され、また傾き(角度)Aが算出される。この後、S13において、「1−R」の絶対値が所定値よりも小さく、かつ「45−A」の絶対値が所定値よりも小さいか否かが判別される。このS13の判別でNOのときは、「楽に正確に踏める」という条件を満足していないときであるとして、S14においてNGと判定される。S13の判別でYESのときは、S15において、「楽に正確に踏める」という条件を満足しているということで、OKであると判定される。
【0050】
上記S14あるいはS15の後は、S16において、前述したS7,S8、S14,S15の判定結果が表示される(ディスプレイ38への表示や、プリンタ39でのプリントアウト実行)。
【0051】
性別を含めて想定している各種の体格の範囲全てについて、前述したS8,S15でOKの判定が得られたときに、ペダル位置が適正であると最終決定することができる。なお、シミュレーションの際には、体格差に応じて、シート位置が調整可能範囲でもって設定されることになる(S1での設計諸元値の入力の際に、体格差に応じてシートクッション位置を実際の車両で調整可能な範囲で調整した値として入力する)。
【0052】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。シミュレーションの対象となるペダルは、アクセルペダル、ブレーキペダルの他、クラッチペダルとすることもできる。ペダル操作性の評価に際しては、しっかり踏める、楽にしっかり踏める、正確に踏める、楽に正確に踏める、楽に踏める、のいづれか1つあるいは2以上の任意の数の組み合わせについて行うこともできる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものであり、また図5に示すような制御(シミュレーション)を行うためのプログラムを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば自動車の設計支援用として用いて、アクセルペダル等の操作性について簡単かつ正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:腰関節部
2:膝関節部
3:足首関節部
4:足先関節部
5〜8:リンク
11:ペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の下肢部の運動特性を、腰関節部と膝関節部と足首関節部とつま先関節部とを有する回転関節ジョイントと、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の各接触インピーダンスとを含む特性でもってモデル化した下肢−ペダル系モデル設定手段と、
前記下肢−ペダル系モデルによって下肢の挙動を予測する挙動予測手段と、
前記予測された挙動からペダル操作性を評価する操作性評価手段と、
を備えていることを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記挙動予測手段が、足先発揮力を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測された足先発揮力が所定値よりも大きいときにペダルが適正配置であると評価する、
ことを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項3】
請求項2において、
前記挙動予測手段が、足先受動抵抗力を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測された足先受動抵抗力が所定値よりも小さいときにペダルが適正配置であると評価する、
ことを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記挙動予測手段が、アクセル踏み込み角度と足首変化角度の関係を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測されたアクセル踏み込み角度と足首変化角度との関係が、所定角度範囲以上の角度範囲で、基準の特性線に対して所定以上の相関度合いを有するときに、ペダルが適正配置であると評価する、
ことを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記挙動予測手段が、アクセル踏み込み角度と足首変化角度の関係を予測し、
前記操作性評価手段が、前記予測されたアクセル踏み込み角度と足首変化角度との関係が、所定角度範囲以上の角度範囲で、基準の傾き角度に対して所定の許容範囲内であるときに、ペダルが適正配置であると評価する、
ことを特徴とする車両用設計支援システム。
【請求項6】
運転者の下肢部の運動特性を、腰関節部と膝関節部と足首関節部とつま先関節部を有する回転関節ジョイントと、足裏とペダル間、フロアと踵間およびシートクッションと大腿部間の各接触インピーダンスとを含む特性でもってモデル化した下肢−ペダル系モデルが設定されており、
ペダル配置に関するデータと運転者を想定した人体モデルに関するデータを前記下肢−ペダル系モデルに入力して、評価対象となる下肢−ペダル系モデル系を設定するステップと、
前記下肢−ペダル系モデルによって、下肢の挙動を予測するステップと、
前記予測された挙動からペダル操作性を評価するステップと、
を備えていることを特徴とする車両用設計支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−133963(P2011−133963A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290538(P2009−290538)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 自動車技術会 刊行物名:学術講演会前刷集 2009年秋期大会 発行日:平成21年10月7日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】