説明

車両用軸受潤滑油

【課題】熱・酸化安定性の向上と低温特性の向上との双方を高水準で達成可能であり、種々の環境下での車両の高速運転で優れた特性を発揮する車両用軸受潤滑油を提供する。
【解決手段】動粘度(40℃)が15〜60mm2/sのポリ-α-オレフィンを主成分とする基油と、オレフィンコポリマー1〜10重量%と、酸化防止剤0.2〜3重量%とを含有し、動粘度(40℃)が20〜80mm2/sで且つ流動点が−30℃以下である車両用軸受潤滑油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道、自動車などの車両の軸受、特には、高速で走行する車両や、寒冷地を走行する車両の軸受に用いられ、熱・酸化安定性に優れかつ寒冷地での運転でも良好な性能を発揮でき、高い信頼性を有する車両用軸受潤滑油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道などの車両軸受用潤滑剤としては、主にグリース組成物が用いられている。例えば、特許第3254484号公報(特許文献1)には、40℃での動粘度が50〜180mm2/sの基油に対して、特定構造のジウレア化合物を配合した高速鉄道車両の車軸軸受用グリース組成物が開示されており、該グリース組成物は、dN値10万以上の高速条件下においても優れた潤滑性を示し、また、軸受寿命も十分に長いとのことである。また、特許第3508802号公報(特許文献2)には、40℃での粘度が47〜334mm2/sの基油と、ウレア化合物と、ジチオカルバミン酸ニッケル又はテルルからなるグリースが開示されており、該グリースを封入した鉄道車両の車軸用軸受は、従来よりも高速性及び長期信頼性に優れるとのことである。
【0003】
【特許文献1】特許第3254484号公報
【特許文献2】特許第3508802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グリースを車両軸受用潤滑剤として用いた場合、劣化時の潤滑剤交換が困難である。具体的に、潤滑剤の交換に際しては、機器から軸受部分を分解して取り出し、劣化したグリースを取り除くといった大変煩雑な作業が伴う。その点、液体である潤滑油は、メンテナンス性が良好であり、保守、管理し易いという利点がある。
【0005】
その軸受用潤滑油には、鉄道車両等の更なる高速化のための信頼性や、省エネルギー性の観点から耐久性の向上が求められている。また、特に高速走行や長期間の使用、即ち、油温の上昇や長期耐久に対応するには、潤滑油に熱・酸化安定性のさらなる向上が強く求められ、これらを解決することが、信頼性、省エネルギー性の向上にもつながる。さらに、寒冷地においても信頼性の高い潤滑油として、優れた低温特性を有する潤滑油が求められる。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱・酸化安定性の向上と低温特性の向上との双方を高水準で達成可能であり、種々の環境下での車両の高速運転で優れた特性を発揮する車両用軸受潤滑油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、合成油であるポリ-α-オレフィンを主成分とする基油にオレフィンコポリマーと酸化防止剤を添加した潤滑油によって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の車両用軸受潤滑油は、40℃での動粘度が15〜60mm2/sのポリ-α-オレフィンを主成分とする基油と、オレフィンコポリマー1〜10重量%と、酸化防止剤0.2〜3重量%とを含有し、40℃での動粘度が20〜80mm2/sで且つ流動点が−30℃以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の車両用軸受潤滑油において、前記基油は、ポリ-α-オレフィン50〜100重量%と、クロマト分析における飽和分が90%以上で粘度指数が100以上の鉱油基油0〜50重量%を含んでも良い。また、本発明の車両用軸受潤滑油は、更に、エステルを0.5〜5重量%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温特性に優れ、かつ、熱・酸化安定性に優れた交換容易な車両用軸受潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の車両用軸受潤滑油においては、基油として、40℃における動粘度が15〜60mm2/sのポリ-α-オレフィンを主成分する炭化水素を用いる。該ポリ-α-オレフィンは、1-デセンなどの炭素数8〜20、特には10〜16のα-オレフィンを重合させたものであり、その40℃における動粘度は、好ましくは25〜60mm2/s、更に好ましくは30〜60mm2/s、特に好ましくは30〜50mm2/sである。なお、基油中のポリ-α-オレフィンの含有割合は、50〜100重量%の範囲が好ましい。
【0012】
本発明の車両用軸受潤滑油においては、上記基油の他の成分として、鉱油基油を配合することもでき、該鉱油基油は、ASTM D2007のクロマト分析における飽和分が90%以上で粘度指数が100以上であり、粘度指数が110〜130であることが好ましい。また、該鉱油基油は、飽和分が90〜100%であることが好ましく、95〜100%であることが更に好ましい。なお、基油中の鉱油基油の含有割合は、0〜50重量%の範囲が好ましい。
【0013】
具体的に、上記鉱油基油としては、パラフィン系原油などの常圧蒸留残さを減圧蒸留して得られる留分を、水素化分解あるいはフルフラールなどによる溶剤抽出、水素化精製さらにMEK/トルエンなどによる溶剤脱ろうあるいは水素化脱ろうなどの処理方法によって処理することで得られる潤滑油基油、前記減圧蒸留の残さを脱れきして得られる脱れき油を前記の適宜な処理方法によって処理することで得られる潤滑油基油、スラックワックスやFT合成ワックスなどを水素異性化処理して得られる高精製基油及びこれらの混合物が使用できる。
【0014】
本発明の車両用軸受潤滑油に用いるオレフィンコポリマーとしては、数平均分子量が30000以下のオレフィンコポリマーが好ましく、低分子量のエチレン-α-オレフィン共重合体が特に好ましい。該エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンとα-オレフィンを配位アニオン重合触媒などによって共重合させたものであり、重合度によって粘度を調整することが可能である。本発明においては、数平均分子量が2000〜10000のオレフィンコポリマーが更に好ましく、特に限定されるものではないが、40℃での動粘度が300〜40000mm2/sで数平均分子量が1000〜4000のエチレン-プロピレンコポリマーが特に好ましい。
【0015】
上記オレフィンコポリマーの含有量は、1〜10重量%であり、2〜5重量%の範囲が好ましい。オレフィンコポリマーの含有量が1重量%未満では、粘度指数を十分に向上させられないことがあり、一方、10重量%を超えると、粘度指数の向上効果が飽和する。
【0016】
本発明の車両用軸受潤滑油において、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤や、ジチオリン酸亜鉛等の金属を含有する酸化防止剤が使用できるが、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等の実質的に金属元素を含まない酸化防止剤が好ましい。また、本発明の車両用軸受潤滑油において、該酸化防止剤の含有量は0.2〜3重量%である。酸化防止剤の含有量が0.2重量%未満では、酸化安定性が不十分であり、一方、3重量%を超えると、酸化防止剤自体の劣化物が析出しやすくなり、スラッジ化するおそれがある。
【0017】
上記アミン系酸化防止剤化合物としては、ジフェニルアミン誘導体、フェニル-α-ナフチルアミン誘導体等が挙げられ、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物が好ましく、下記一般式(2)で表される化合物が特に好ましい。
【0018】
【化1】

上記式(1)の化合物は、一般的には、N-フェニルベンゼンアミンとアルケンとを反応させて得られる。式(1)において、R1は、水素または炭化水素基であり、n及びmはそれぞれ独立して0〜5の整数である。なお、R1が複数存在する場合、各R1は、同一であっても異なっていてもよい。ここで、炭化水素基の炭素数は、1以上12以下が好ましく、1以上9以下が特に好ましい。また、炭化水素基としては、アルキル基が特に好ましい。
【0019】
【化2】

上記式(2)において、R2は炭素数が3以上20以下の炭化水素基であり、pは0〜5の整数で、qは0〜7の整数であり、但し、p及びqの両方が0であることはない。なお、R2が複数存在する場合、各R2は、同一であっても異なっていてもよい。また、R2としては、直鎖又は分枝鎖のオクチル基ないしノニル基が特に好ましく、また、ナフチル基及びフェニル基のどちらか一方が1個のR2で置換されているものが特に好ましい。
【0020】
上記フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビスフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ビス(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、ビス[2-(2-ヒドロキシ-5-メチル-3-t-ブチルベンジル)-4-メチル-6-t-ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等を挙げることができる。特にはエステル基を含有するフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0021】
本発明の車両用軸受潤滑油は、更に、エステルを含有することが好ましい。該エステルとしては、モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等が使用でき、これらの中でも、飽和のジエステル及びポリオールエステルが好ましい。該ジエステルは、2価カルボン酸と1価アルコールから合成され、例えば、アジピン酸のエステル等が挙げられる。また、アルコールの炭素数は6〜20が好ましく、直鎖でも分岐でも良い。
【0022】
上記ポリオールエステルは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコ−ルと1価カルボン酸から合成され、1価カルボン酸の炭素数は5〜20が好ましく、直鎖でも分岐でも良い。
【0023】
上記エステルの添加量は、0.5〜5重量%の範囲が好ましく、1〜5重量%の範囲が更に好ましい。エステルを0.5重量%以上添加することで、シールに使われるゴム材料が若干膨潤し、潤滑油の漏れを防ぐことができる。一方、5重量%を超えると、ゴム材料が膨潤しすぎ、シール材が弱くなる。
【0024】
本発明の車両用軸受潤滑油には、更にその各種性能を高めるために、公知の添加剤である防錆剤、摩耗防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性剤などを適宜配合することができる。
【0025】
本発明の車両用軸受潤滑油の性状としては、40℃での動粘度が20〜80mm2/sであり、好ましくは40〜70mm2/sである。車両用軸受潤滑油の40℃での動粘度が20mm2/s未満では、充分な潤滑性を確保することができず、軸受が異常摩耗する可能性がある。一方、80mm2/sを超えると、粘度抵抗が大きすぎ、省エネルギー化が図られないからである。また、本発明の車両用軸受潤滑油は、100℃での動粘度が4〜12mm2/sであることが好ましく、6〜10.5mm2/sであることが更に好ましい。更に、本発明の車両用軸受潤滑油は、粘度指数が100以上であることが好ましく、120〜160であることが更に好ましく、140〜160であることが特に好ましい。また更に、本発明の車両用軸受潤滑油は、流動点が−30℃以下、好ましくは−40℃以下、特に好ましくは−50℃以下である。車両用軸受潤滑油の流動点が−30℃を超えると、低温特性が悪くなり、冬期の寒冷地での使用における信頼性が低下する。
【0026】
以上に詳述した本発明の車両用軸受潤滑油は、鉄道、自動車などの車両の軸受の潤滑剤として使用される。また、本発明の車両用軸受潤滑油は、熱・酸化安定性に優れるとともに低温特性が良好であり冬場の寒冷地用としても高い信頼性を有する。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
表1、2に示す配合量で、車両用軸受潤滑油となる試作油1〜7を調製した。
【0029】
PAO(ポリ-α-オレフィン)としては、1-デセンを重合させた、動粘度(40℃)が47.6mm2/sのものを用いた。
【0030】
鉱油としては、動粘度(40℃)が45.4mm2/s、動粘度(100℃)が7.5mm2/s、粘度指数が131、飽和分が99重量%、流動点が−12.5℃、引火点が256℃、硫黄分が1ppmのものを用いた。
【0031】
オレフィンコポリマーしては、数平均分子量が3700、動粘度(40℃)が37500mm2/sのエチレン-プロピレンコポリマーを用いた。
【0032】
酸化防止剤としては、N-(p-tert-オクチルフェニル)-1-ナフチルアミンを用いた。
【0033】
エステルとしては、アジピン酸ジトリデシルを用いた。
【0034】
また、これらには、共通して、防錆剤としてアルケニルコハク酸エステルを0.03重量%、極圧剤としてトリクレジルフォスフェートを1重量%、消泡剤としてジメチルシロキサンを5重量ppm添加した。
【0035】
試作油1〜7と、比較のために、市販の車両用軸受油である「JRスーパータービン68」(ジャパンエナジー製)を評価し、その結果を市販油として併せて表2に示した。
【0036】
評価方法として、動粘度及び粘度指数はJIS K2283に準拠して、流動点はJIS K2269に準拠して、回転ボンベ式酸化安定度試験(RBOT、150℃)はJIS K2514に準拠して、内燃機関用酸化安定度試験(ISOT、165.5℃、288hr)はJIS K2514に準拠して、試験後の潤滑油の汚染度(SAE ARP598、重量法、0.8μ、mg/100ml)を測定した。長期酸化安定性についてはタービン油酸化安定度試験方法(JIS K2515)で温度を120℃とし、2000hr後の汚染度(mg/100ml)を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
試作油1〜5、特に試作油1〜3は、試作油6、7および市販品に比べて、流動点が低く低温特性に優れている。また、試作油1〜5、特に試作油1〜2は、試作油6、7および市販品に比べて、RBOT値が高く、酸化による汚染度が低いため、熱・酸化安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の車両用軸受潤滑油は、鉄道、自動車などの車両の軸受、特には、高速運転を行う車両や、寒冷地を走行する車両の軸受に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動粘度(40℃)が15〜60mm2/sのポリ-α-オレフィンを主成分とする基油と、
オレフィンコポリマー1〜10重量%と、
酸化防止剤0.2〜3重量%とを含有し、
動粘度(40℃)が20〜80mm2/sで且つ流動点が−30℃以下である車両用軸受潤滑油。
【請求項2】
前記基油が、ポリ-α-オレフィン50〜100重量%と、クロマト分析における飽和分が90%以上で粘度指数が100以上の鉱油基油0〜50重量%とを含む請求項1に記載の車両用軸受潤滑油。
【請求項3】
更に、エステルを0.5〜5重量%含む請求項1又は2に記載の車両用軸受潤滑油。

【公開番号】特開2008−239704(P2008−239704A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79597(P2007−79597)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】