説明

車両空調用クラッチ制御装置

【課題】電磁クラッチ接続時の省電力化を図る。
【解決手段】摩擦面を介して回転体3に接続および非接続し、回転体3の回転トルクを車両空調用コンプレッサ1に伝達および非伝達する電磁クラッチ1aと、電磁クラッチ1aに電磁クラッチ接続用のクラッチ電力を供給する電力供給手段6と、電磁クラッチ1aに供給されるクラッチ電力を制御する制御手段10とを備える。制御手段10は、電磁クラッチ1aの接続回数Nが増加すると、クラッチ接続時のクラッチ電力を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調用コンプレッサに動力を伝達する電磁クラッチを制御する車両空調用クラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサの駆動トルクの変化に応じて電磁クラッチに与える電力(クラッチ電圧)を制御して省電力化を図るようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、コンプレッサ起動時から所定時間だけクラッチ電圧を最大値に制御するとともに、熱負荷に基づきコンプレッサの駆動トルクを算出し、所定時間経過後は駆動トルクに応じてクラッチ電圧を制御する。
【0003】
【特許文献1】特開2003−240025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トルク伝達に必要な静摩擦トルクはクラッチの断続回数に応じて変化する。しかしながら、上記特許文献1記載の装置は、静摩擦トルクの変化を考慮せずにクラッチ電圧を制御するため、十分な省電力化を図ることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両空調用クラッチ制御装置は、摩擦面を介して回転体に接続および非接続し、回転体の回転トルクを車両空調用コンプレッサに伝達および非伝達する電磁クラッチと、電磁クラッチに電磁クラッチ接続用のクラッチ電力を供給する電力供給手段と、電磁クラッチに供給されるクラッチ電力を制御する制御手段とを備え、制御手段が、電磁クラッチの接続回数が増加すると、クラッチ接続時のクラッチ電力を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電磁クラッチの接続に際し、十分な省電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
−第1の実施の形態−
以下、図1〜図6を参照して本発明による車両空調用クラッチ制御装置の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係る車両空調用クラッチ制御装置のシステム構成を示すブロック図である。コンプレッサ1は、ベルト2、プーリ3,4を介してエンジン5により駆動される。コンプレッサ1は例えば固定容量型コンプレッサであり、エンジン5の動力をコンプレッサ1に伝達/非伝達するための電磁クラッチ1aを備える。なお、コンプレッサ1を可変容量型コンプレッサとすることもできる。
【0008】
電磁クラッチ1aに電力コントローラ6から電気エネルギー(クラッチ電流)が供給されると、電磁クラッチ1aのコイルが励磁され、電磁クラッチ1aがオンする。これにより電磁クラッチ1aが接続状態となり、プーリ3の回転がコンプレッサ1に伝達され、コンプレッサ1が駆動する。一方、電力コントローラ6からコイルへの電力供給が停止すると、コイルが消磁され、電磁クラッチ1aがオフする。これにより電磁クラッチ1aが非接続状態となり、プーリ3の回転がコンプレッサ1に非伝達となって、コンプレッサ1の駆動が停止する。
【0009】
エアコンアンプ7には、日射量を検出する日射センサ、外気温を検出する外気温センサ、室内温度を検出する室内温センサ、およびエバポレータ下流の空気温度(吸込温度)を検出する吸込温センサ等の各種センサ群8からの信号と、エアコン運転を指令するエアコンSW、オートエアコン運転を指令するオートSW、デフモード運転を指令するデフSW、およびエアコン運転の停止を指令するオフSW等の各種スイッチ群9からの信号が入力される。エアコンアンプ7は、これら空調情報に基づき、コンプレッサ1の作動の要否を判定する。すなわち冷房要求と除湿要求の有無を判定する。
【0010】
例えばエアコンSWのオン時やデフSWのオン時にコンプレッサ1の作動が必要と判定し、オフSWのオン時にコンプレッサ1の作動が不要と判定する。オートSWのオン時には、車室内温度や設定温度の変化等に応じてコンプレッサ作動の要否を判定する。コンプレッサ1の作動が必要と判定したときは、エアコンアンプ7は制御コントローラ10にコンプレッサオン信号を出力し、作動不要と判定したときは、コンプレッサオフ信号を出力する。
【0011】
制御コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。制御コントローラ10は、エアコンアンプ7からの信号と車速を検出する車速センサ11からの信号に基づいて後述する処理を実行し、電力コントローラ6に制御信号を出力する。この際、制御コントローラ10では電磁クラッチ1aの断続回数を記憶しておき、断続回数に応じた電気エネルギーが電磁クラッチ1aに供給されるように電力コントローラ6の出力を制御する。以下、この点について説明する。
【0012】
電磁クラッチ1aの内部には、コンプレッサ1の回転軸に連結されたアーマチュア(不図示)が軸方向に移動可能に設けられている。電力コントローラ6から電磁クラッチ1aのコイルに電気エネルギーが供給されると、アーマチュアが電磁力によってコイルに吸引され、互いに対向するアーマチュアとプーリ3の端面同士が接触し、接触面に摩擦力が発生する。この摩擦力によってアーマチュアとプーリ3が一体に回転し、電磁クラッチ1aがオンしてコンプレッサ1が駆動される。
【0013】
アーマチュアとプーリ3の接触面の摩擦係数をM,アーマチュアの軸方向の吸引力をF,摩擦力が発生する接触面の有効半径をRとすると、プーリ3とアーマチュアの摩擦面に生じるトルク、すなわち静摩擦トルクTは、T=M・F・Rとなる。
【0014】
図2は、電磁クラッチ1aに一定の電気エネルギーを供給して摩擦面に吸引力Fを与えたときの、電磁クラッチ1aの断続回数N(オンオフ回数)と静摩擦トルクTの関係を示す図である。図2に示すように静摩擦トルクTは、クラッチ1aの断続回数Nの増加に伴い上昇し、断続回数Nが所定回数N1以上になると静摩擦トルクTは一定となる。これは、断続回数Nの増加に伴い、プーリ3とアーマチュアの摩擦面における馴染みが促進され、静摩擦係数Mが大きくなるためである。
【0015】
図3は、クラッチ1aに供給される電力(クラッチ電流)と静摩擦トルクTの関係を示す図である。図中の特性f1〜f3はそれぞれ断続回数Nが0回、α回、β回のときの静摩擦トルクTの特性である。なお、α<βであり、βは図2のN1に相当する。ここで、プーリ3の回転トルクをアーマチュアに滑りなく伝達するために必要な静摩擦トルクをTaとすると、この静摩擦トルクTaを得るためのクラッチ電流(吸引力F)は、断続回数Nの増加により摩擦係数Mが大きくなった分、図示のように断続回数Nが増加するほど小さくなる。この点に着目し、本実施の形態では以下のように制御コントローラ10により電力コントローラ6を制御する。
【0016】
図4は、所定の静摩擦トルクTaを得るために必要な電磁クラッチ1aに供給する電気エネルギーEの特性f4を示す図である。断続回数Nがβ回以下では、断続回数Nの増加に伴い電気エネルギーEが徐々に減少し、断続回数Nがβ回を超えると電気エネルギーEは一定値E1となる。制御コントローラ10には、予め図4の特性f4が記憶されている。なお、Taは、トルクを滑りなく伝達するための必要最小トルクに所定のマージンをとった値である。
【0017】
図5は、第1の実施の形態に係る制御コントローラ10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエンジンキースイッチのオンによって開始される。ステップS1では、メモリに記憶された断続回数Nを読み込み、図4の特性f4に従い、クラッチ1aの断続回数Nに応じた電気エネルギーEを演算する。なお、断続回数Nは、電磁クラッチ1aが新品の初期状態では0であり、クラッチが接続される度にNに1が加算される(ステップS7)。
【0018】
ステップS2では、エアコンアンプ7からコンプレッサオン信号が出力されたか否か、すなわち冷房要求と除湿要求の少なくともいずれかがあったか否かを判定する。ステップS2が肯定されるとコンプレッサ1の作動が必要であり、ステップS3に進む。
【0019】
ステップS3では、エアコンアンプ7に入力されるセンサ群8とスイッチ群9の信号に基づき、冷房要求と除湿要求のレベルを判定する。例えば車室内温度が設定温度よりも高いとき、外気温、日射量、設定温度、室内温度等により算出される目標吹出温度が低下したとき、エアミックスドアがフルクール状態にあるとき、吸込温度が目標吹出温度よりも高いとき、熱負荷が一定レベル以上であるとき、冷房要求が高いと判定し、他の場合は冷房要求が低いと判定する。また、デフSWがオンされたとき、外気温が低く、除湿優先制御を行っているときは除湿要求が高いと判定し、他の場合は除湿要求が低いと判定する。
【0020】
ステップS3は、冷房除湿運転を優先するか否かの判定であり、冷房要求と除湿要求の少なくともいずれか一方のレベルが高いと判定されると、冷房除湿運転を優先する必要があるため、ステップS8に進む。冷房要求と除湿要求がいずれも低いと判定されると、冷房除湿運転を一時的に停止しても吹出温度の変化は小さく、乗員の空調快適性に与える影響は小さいため、冷房除湿運転を優先する必要がなく、ステップS4に進む。
【0021】
ステップS4では、車速センサ11により検出された車速Vが所定値V1より大きいか否かを判定する。これはクラッチ断続時の音(クラッチ断続音)の影響を考慮した処理である。すなわち走行時は停止時よりも車内の静粛性が小さいため、クラッチの断続音を乗員はさほど気にならない。この点を考慮し、所定値V1は例えば0に設定される。ステップS4が肯定されるとステップS5に進み、否定されるとステップS8に進む。
【0022】
ステップS5では、クラッチ1aの断続回数Nがβ回よりも少ないか否かを判定する。これは所定の静摩擦トルクTaを発生するために必要な電気エネルギーEが安定しているか否かの判定である。すなわち図4の特性f4に示すように、断続回数Nがβ回以上では電気エネルギーEが一定の最小値E1となっているため、ステップS5で電気エネルギーEが安定と判定する。ステップS5が肯定されるとステップS6に進み、否定されるとステップS8に進む。
【0023】
ステップS6では、電磁クラッチ1aが1回だけ断続するように、すなわちクラッチオン→クラッチオフ→クラッチオンの順番に電磁クラッチ1aが切り換わるように電力コントローラ6に制御信号を出力する。この際、クラッチオン時には、ステップS1で演算した電気エネルギーEが電磁クラッチ1aに供給されるように電力コントローラ6を制御する。また、クラッチ1aを一旦オフすることによって冷房除湿要求が高くならないように、クラッチオフ時間は短時間(例えば1秒程度)とする。
【0024】
ステップS7では、断続回数Nを1回分だけインクリメントし、不揮発性のメモリにNを記憶する。なお、コントローラ10にはリセットスイッチ(不図示)が接続され、コンプレッサ1を交換したときなどは、リセットスイッチがオンされ、クラッチ1aの断続回数Nがリセットされる。
【0025】
一方、ステップS8では、ステップS1で演算した電気エネルギーEが電磁クラッチ1aに供給されるように電力コントローラ6に制御信号(クラッチオン信号)を出力する。これにより電磁クラッチ1aが接続(オン)され、コンプレッサ1が駆動する。
【0026】
ステップS9では、ステップS8の処理によりクラッチ1aが接続された直後か否かを判定する。クラッチオフ→クラッチオンになった直後であればステップS7に進み、断続回数Nを1回分インクリメントする。既にクラッチオンになっているときはステップS7をパスし、リターンする。
【0027】
ステップS2で、コンプレッサオフ信号が出力と判定されるとステップS10に進む。ステップS10では、ステップS4と同様、車速センサ11により検出された車速Vが所定値V1より大きいか否かを判定する。ステップS10が肯定されるとステップS11に進み、否定されるとステップS13に進む。
【0028】
ステップS11では、ステップS5と同様、クラッチ1aの断続回数Nがβ回よりも少ないか否かを判定する。ステップS11が肯定されるとステップS12に進み、否定されるとステップS13に進む。
【0029】
ステップS12では、電磁クラッチ1aが1回だけ断続するように、すなわちクラッチオフ→クラッチオン→クラッチオフの順番に電磁クラッチ1aが切り換わるように電力コントローラ6に制御信号を出力する。この際、クラッチオン時には、ステップS1で演算した電気エネルギーEが電磁クラッチ1aに供給されるように電力コントローラ6を制御する。また、クラッチオンによってクラッチの摩擦面の馴染みが十分促進されるように、クラッチオン時間は少なくともクラッチが完全に接続するのに要する時間(例えば1秒程度)とする。次いで、ステップS7で断続回数を1回分だけインクリメントする。
【0030】
ステップS13では、電磁クラッチ1aへの電気エネルギーEの供給が停止するように電力コントローラ6に制御信号(クラッチオフ信号)を出力する。これにより電磁クラッチ1aが遮断(オフ)され、コンプレッサ1の駆動が停止する。
【0031】
第1の実施の形態の動作をまとめると次のようになる。例えば乗員がデフSWをオンすると、エアコンアンプ7からコンプレッサオン信号が出力される。このとき手動で除湿運転が指令されたことにより、制御コントローラ10は冷房除湿要求が高いと判定する。その結果、電力コントローラ10にクラッチオン信号が出力され、電力コントローラ10から電磁クラッチ1aのコイルに電気エネルギーEが供給される(ステップS8)。これによりプーリ3とアーマチュアの摩擦面に所定の静摩擦トルクTaが発生し、クラッチ1aが接続状態となってコンプレッサ1が駆動する。
【0032】
この際、クラッチ1aの断続回数Nに応じて電気エネルギーEが演算され、断続回数Nが増加すると、電気エネルギーEが減少する。これによりクラッチ1aへの供給電力を節約することができ、省電力を図ることができる。すなわち図4の特性f4に示すように断続回数Nの増加に伴い電気エネルギーEを減少させるので、特性f6に示すように断続回数に拘わらず一定の電気エネルギーEを供給する場合に比べ、特性f4とf6の差分だけ省エネを達成できる。
【0033】
一方、例えばデフSWがオフで、車室内温度が設定温度まで下がっているとき、コントローラ20は冷房除湿要求が低いと判定する。このとき車両走行中であれば、車速V>V1であり、クラッチ1aの断続回数Nがβ回より少なければ、電力コントローラ6にクラッチオン信号、クラッチオフ信号、クラッチオン信号が続けて出力され、クラッチ1aが強制的に断続される(ステップS6)。
【0034】
図6の特性f7は、クラッチ1aを強制的に断続させた場合の断続回数Nの増加を示す特性であり、特性f8,f9はそれぞれクラッチ1aを強制的に断続させない場合の特性である。なお、特性f8は固定容量コンプレッサを用いた場合の特性、特性f9は可変容量コンプレッサを用いた場合の特性である。この図から明らかなように、クラッチ1aを強制的に断続させた場合は、強制的に断続させない場合よりも短時間に断続回数Nがβ回まで増加する。このため、早期に電気エネルギーEを所定値E1(図4)まで減少することができ、より一層の省エネを実現できる。
【0035】
この場合、冷房除湿要求が高いときはクラッチ1aの強制的な断続を行わず、冷房除湿要求が低いことを条件としてクラッチ1aの断続を行うので、例えば車内をフルクールで冷房しているときにコンプレッサ1が停止することはなく、乗員の空調快適性を損なわずにすむ。また、車速VがV1より大きいことを条件としてクラッチ1aの断続を行うので、乗員1aはクラッチ1aの断続音を気にしないですむ。断続回数Nがβ回より少ないことを条件としてクラッチ1aの断続を行うので、電気エネルギーEが最小値E1となった後は強制的なクラッチ1aの断続は行われず、必要以上にクラッチオフすることを防止できる。
【0036】
エアコンアンプ7からコンプレッサオフ信号が出力されているときも、クラッチ1aの強制的な断続が行われる(ステップS12)。これによりクラッチ1aの断続回数が早期にβ回以上となり、コンプレッサオン信号が出力された際の電気エネルギーEを節約することができ、省エネを実現できる。この場合、車速VがV1より大きいことを条件としてクラッチの断続を行うので、クラッチ1aの断続音の影響は小さい。また、断続回数Nがβ回より少ないことを条件としてクラッチ1aの断続を行うので、必要以上にクラッチオンすることを防止できる。
【0037】
第1の実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)電磁クラッチ1aの断続回数Nが多いほど静摩擦トルクTが大きいという現象(図2)に着目し、断続回数Nの増加に伴い電磁クラッチ1aに供給する電気エネルギーEを減少するようにしたので、電磁クラッチ1aの制御に関し、省エネを実現できる。
(2)断続回数Nの増加に伴い電気エネルギーEを徐々に減少するので(図4)、電磁クラッチ1aに供給する電力を必要最小限に抑えることができる。
【0038】
(3)断続回数Nがβ回より少ないときに、クラッチ1aを強制的に断続するようにしたので(ステップS6,ステップS12)、断続回数Nが短時間でβ回まで増加し、より一層の省エネを実現できる。
(4)車速Vが所定値V1より大きいことを条件としてクラッチ1aを強制的に断続するので、乗員はクラッチ1aの断続音が気にならず、断続音を耳障りに感じることがない。
(5)冷房除湿要求が高いときは、クラッチ1aの強制的な断続を行わないので、クラッチ1aの断続による空調快適性に与える影響は小さい。
【0039】
−第2の実施の形態−
図7,8を参照して本発明による車両空調用クラッチ制御装置の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態では、クラッチオン時の静摩擦トルクをTaとして説明したが、クラッチオンに必要な静摩擦トルクTaはコンプレッサ1の駆動トルクに応じて変化する。この点を考慮したのが第2の実施の形態である。以下では第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0040】
図7は、第2の実施の形態に係る車両空調用クラッチ制御装置のシステム構成を示すブロック図である。なお、図1と同一の箇所には同一の符号を付す。制御コントローラ10には、エンジン回転数Neを検出する回転数センサ21と、コンプレッサ1の吐出圧Pを検出する圧力センサ22と、電源電圧を検出する電圧センサ23と、エアコンアンプ7と、電磁クラッチ1aのコイルに供給されるクラッチ電流Iを検出する電流センサ24からの信号がそれぞれ入力される。これらの入力信号に基づき制御コントローラ20は後述の処理を実行し、駆動素子25に制御信号を出力する。この制御信号に応じて駆動素子25は、電源26から電磁クラッチ1aのコイルに供給する電力のパルス幅を調整し、クラッチ電流Iを制御する。
【0041】
図8は、制御コントローラ20で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエアコンSWのオンによってエアコンアンプ7からコンプレッサ信号が入力されたときにスタートする。なお、スタート直後はクラッチの断続回数Nは0である。ステップS21では、各センサ21〜24からの検出値を読み込む。
【0042】
ステップS22では、クラッチ1aを接続するために必要な静摩擦トルク(必要トルク)Taを演算する。ここで、必要トルクTaは、コンプレッサ1の駆動トルクが大きいほど大きくなり、コンプレッサ駆動トルクは、コンプレッサ1の吐出圧Pが高いほど、かつ、エンジン回転数Neが高いほど大きい。そこで、コンプレッサ1の吐出圧Pが高いほど、かつ、エンジン回転数が高いほど必要トルクTaが大きくなるような特性を予めコントローラ10のメモリに設定しておき、ステップS22ではこの特性に基づいて必要トルクTaを演算する。なお、エンジン回転数Neとコンプレッサ吐出圧Pをパラメータとした推定式によって必要トルクTaを算出することもできる。
【0043】
ステップS23では、必要トルクTaを得るために必要なクラッチ電流(必要電流In)を算出する。この際、クラッチ1aの断続回数Nを考慮し、図4の特性を用いて断続回数Nに応じた電気エネルギーEから必要電流Inを算出する。ステップS24では、必要電流Inとクラッチ電流の検出値Iとを比較し、検出値Iが必要電流Inとなるように駆動素子25を制御(フィードバック制御)する。
【0044】
ステップS25では、クラッチ1aの断続回数がβ回より少ないか否かを判定する。ステップ25が肯定されるとステップS26に進み、コンプレッサ吐出圧Pが所定値P1より小さいか否か、つまり熱負荷が所定値より小さいか否かを判定する。ステップ26が肯定されると、冷房要求が低いとしてステップS27に進み、図5のステップS6と同様、電磁クラッチ1aが1回だけ断続するように駆動素子25に制御信号を出力する。次いで、ステップS28で断続回数Nを1回分インクリメントし、リターンする。
【0045】
第2の実施の形態では、クラッチ1aの断続回数Nだけでなく、コンプレッサ1の駆動トルクを考慮してクラッチ電流を制御するようにしたので、摩擦面における静摩擦トルクTaを過不足なく最適な値に制御することができる。
【0046】
なお、上記実施の形態では、カウント手段としてのコントローラ10により断続回数Nをカウントし(ステップS7)、図4の特性f4に基づき断続回数Nの増加に伴いクラッチ電流(クラッチ電力)を徐々に小さくしたが、少なくとも電磁クラッチ1aの接続時に前回のクラッチ接続時よりもクラッチ電流を減少させるのであれば、制御手段の構成はこれに限らない。例えば図4の特性f6に示すように断続回数Nがα回未満では電気エネルギーを一定とし、断続回数がα回以上β回以下のときは電気エネルギーを所定量だけ減少させ、断続回数Nがβ回を超えると電気エネルギーを最小値E1とするようにしてもよい。これによっても電気エネルギーの特性f6は特性f5よりも小さいため、省エネを実現できる。
【0047】
上記実施の形態では、電磁クラッチ1aを交換した際に断続回数Nをリセットするようにしたが、電磁クラッチ1aの交換時以外であっても、エンジンキースイッチをオンしてからオフするまでの間にクラッチ1aの断続回数Nの増加に伴い静摩擦トルクTが増加するのであれば、エンジンキースイッチをオフする度に断続回数Nをリセットするようにしてもよい。断続回数Nが所定回数βに至るまで、クラッチ電流を制御して電磁クラッチ1aを強制的に断続するようにしたが、クラッチ断続手段はこれに限らない。
【0048】
車速検出手段としての車速センサ11により車速Vを検出し、V≦V1のときに強制的なクラッチ1aの断続を禁止するようにしたが、禁止手段はこれに限らない。判定手段としてのコントローラ10により車内の冷房除湿要求レベルを判定し、冷房除湿要求レベルが所定レベル以上のときにクラッチ1aの強制的な断続を禁止するようにしたが、禁止手段はこれに限らない。指令手段としてのスイッチ群9(例えばデフSW)の操作により除湿運転が手動で指令された際に、冷房除湿要求レベルが高いとしてクラッチ1aの強制的な断続を禁止するようにしたが、禁止手段はこれに限らない。オートSWの操作により通常のエアコン制御を行っているときは、熱負荷に応じてコンプレッサ1が自動でオンオフする。このため、クラッチ1aを強制的に断続しても影響が小さいので、オートSWの操作時にクラッチ1aの強制的な断続を行うようにしてもよい。
【0049】
なお、電気エネルギーにより作動し、回転体としてのプーリ3の回転トルクを摩擦面を介してコンプレッサ1に伝達するのであれば、電磁クラッチの構成はいかなるもでのよい。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の車両空調用クラッチ制御装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1の実施の形態に係る車両空調用クラッチ制御装置のシステム構成を示すブロック図。
【図2】電磁クラッチの断続回数と静摩擦トルクの関係を示す図。
【図3】クラッチ電流と静摩擦トルクの関係を示す図。
【図4】所定の静摩擦トルクを得るために必要な電気エネルギーの特性を示す図。
【図5】第1の実施の形態に係る制御コントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【図6】第1の実施の形態に係る車両空調用クラッチ制御装置によるクラッチの断続回数の増加特性を示す図。
【図7】第2の実施の形態に係る車両空調用クラッチ制御装置のシステム構成を示すブロック図。
【図8】第2の実施の形態に係る制御コントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0051】
1 コンプレッサ
1a 電磁クラッチ
6 電力コントローラ
7 エアコンアンプ
8 センサ群
9 スイッチ群
10,20 制御コントローラ
11 車速センサ
21 回転数センサ
22 圧力センサ
25 駆動素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦面を介して回転体に接続および非接続し、前記回転体の回転トルクを車両空調用コンプレッサに伝達および非伝達する電磁クラッチと、
前記電磁クラッチに電磁クラッチ接続用のクラッチ電力を供給する電力供給手段と、
前記電磁クラッチに供給されるクラッチ電力を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記電磁クラッチの接続回数が増加すると、クラッチ接続時のクラッチ電力を減少させることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
前記電磁クラッチの接続回数をカウントするカウント手段をさらに有し、
前記制御手段は、カウントされた接続回数が所定回数に至るまでクラッチ電力を徐々に小さくすることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
前記電磁クラッチの接続回数をカウントするカウント手段と、
カウントされた接続回数が所定回数に至るまで前記電磁クラッチの断続を行うクラッチ断続手段とを備えることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
車速を検出する車速検出手段と、
前記車速検出手段により検出された車速が所定値以下のとき、前記クラッチ断続手段による電磁クラッチの断続を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
空調情報に基づき車内の冷房除湿要求レベルを判定する判定手段と、
前記判定手段により冷房除湿要求レベルが所定レベル以上であると判定されると、前記クラッチ断続手段による電磁クラッチの断続を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
空調装置の除湿運転を手動で指令する指令手段と、
前記指令手段により除湿運転が指令されると、前記クラッチ断続手段による電磁クラッチの断続を禁止する禁止手段とを備えることを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両空調用クラッチ制御装置において、
前記コンプレッサの駆動トルクを検出するトルク検出手段を有し、
前記制御手段は、前記トルク検出手段により検出された駆動トルクに応じて前記電力供給手段を制御することを特徴とする車両空調用クラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−41713(P2009−41713A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209437(P2007−209437)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】