説明

車両走行路実形状の算出方法およびその車両走行路の補修量算出方法

【課題】差分法で測定された走行路面データから、ある基準弦に対する走行路面の絶対形状及びその補修量を算出する車両走行路実形状の算出方法およびその車両走行路の補修量算出方法を提供する。
【解決手段】車両走行路実形状の算出方法において、差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行路実形状の算出方法およびその車両走行路の補修量算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、車両走行路管理用のデータ取得方法に関わり、特に、鉄道線路の形状を管理し補修するための、差分法による線路形状測定データからある基準弦に対する形状を知るために必要となる、車両走行路管理用のデータ取得方法に関するものである。
【0003】
一般に、鉄道線路や道路の走行路面形状は差分法によって測定される、一例として2階差分法による測定方法を図3に示す。
【0004】
この方法では、長さcの弦を線路に沿って移動しながら、この弦の途中の点〔図3(a)の○の位置〕における走行路と弦との相対変位を連続的に測定する〔図3(b)〕のx1 ,…,xM ,…,xN )。このような測定は、通常軌道検測車(図4参照)と呼ばれる特別の車両や、これと同等の原理による簡易な軌道検測装置によって行われる。
【0005】
この方法は、弦の両端と測定点との相対変位を測定しているだけなので、この測定値x1 ,…,xM ,…,xN そのものは、地上の固定点から見た走行路面の絶対形状(図3(a)、図3(b)の黒太線)を示してはいない。
【0006】
この方法によって得られる走行路データは、数学的には走行路形状の2階微分と等価であるので、走行路形状の善し悪しの評価に用いることは不可能ではなく、現に多くの鉄道線路や走行路面(アスファルト面など)の形状の評価に、この2階微分の値が用いられている。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような走行路面の管理、特に補修にあたっては絶対形状のデータが必要となることがある。例えば、鉄道軌道の場合、走行路面の著大な凹凸の補修はレールの移動によって行うが、このためには任意の地点におけるレールの移動量を求める必要がある。しかし前述の通り、一般に行われている走行路面の測定で得られるデータは、走行路形状の2階微分であるので、このデータからレールの移動量を直接算出することはできない。
【0008】
かかる状況に対し、ディジタルフィルタによって軌道の実形状を求める手法が開発されている。しかし、この方法は、一種のバンドパスフィルタ処理であるため、ある特定の周波数帯域の軌道形状しか求めることができない。したがって、例えば短い曲線区間において、曲線線形そのものが崩れた箇所のレール移動量の算出を、この方法で行うことはできない。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、差分法で測定された走行路面データから、ある基準弦に対する走行路面の絶対形状及びその補修量を算出する車両走行路実形状の算出方法およびその車両走行路の補修量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕車両走行路実形状の算出方法において、差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出することを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の車両走行路実形状の算出方法において、前記車両が鉄道車両であり、前記走行路が鉄道線路であることを特徴とする。
【0012】
〔3〕車両走行路の補修量算出方法において、(a)差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、(b)前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、(c)さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出し、(d)同様な方法により車両走行路の設計形状を算出し、前記(c)及び前記(d)に基づいて車両走行路形状を設計値に復するための補修量を算出することを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔3〕記載の車両走行路実形状の算出方法において、前記車両が鉄道車両であり、前記走行路が鉄道線路であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
一般的に行われている、差分法による走行路形状データでは、走行路形状の凹凸の良し悪しの評価は可能であるが、これを具体的な補修に結びつけることができない。これに対し、本発明を用いることによって、各地点において補修に必要な値、たとえば鉄道線路の場合、その形状を設計状態に復するために必要となる、各地点におけるレールの移動量を知ることが可能となり、より合理的な鉄道線路や車両走行路の管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の車両走行路実形状の算出方法は、差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す走行路形状と基準弦との関係を示す図、図2は、特に測定弦長c=2a(すなわちa=b)であり、かつ基準弦の弦長Lがaの整数倍である場合を示している。
【0018】
従来例で示した図3に示すような差分法によって測定される走行路面データと、実際の走行路面形状との関係は伝達関数の形で表される。図3(a)に示す2階差分の場合、角周波数をωとすると、伝達関数H(ω)は式(1)で表されることが知られている。
【0019】
【数1】

次に、このような差分法によるデータから走行路の実形状を算出する方法について説明する。走行路の実形状を算出する場合、例えば緯度経度のような地球に対する絶対的な位置を示す必要はなく、実際の管理に用いる基準との相対的な位置がわかれば実用上は十分である。走行路は線状構造物であるので、このような基準は弦であるのが望ましく、さらにはこのような基準弦はその両端が走行路上にあっても良い。
【0020】
よって、ここでは、図1に示すように、走行路上に両端がある長さLの基準弦(図1の2重線)と、この中間にある走行路の各位置との相対距離(図2のy1 ,y2 ,…,yM ,…,yN-1 ,yN )を算出することを考える。
【0021】
ここで図1と図3(a)を比較すると、例えば、図1のy2 は図3(a)でa=p2 ,b=q2 とした場合の2階差分の値と等しい。前述の通り、走行路形状の測定は図3(a)に示す2階差分で行われている。2階差分から2階差分への変換は、両者の伝達関数が既知であれば演算可能である。具体的には、図2のy2 の場合、図3(a)に示す2階差分によって測定された走行路形状データのフーリエ変換をX(ω)とすれば、a=p2 ,b=q2 とした場合の波形のフーリエ変換Y(ω)が以下に示す式(2)から算出できる。
【0022】
【数2】

したがって、走行路形状データが、図3(a)に示す2階差分によって走行路に沿って連続的に得られていれば、上記式(2)のY(ω)を逆フーリエ変換することで、図1のy2 を演算で求めることが可能である。
【0023】
なお、図3(a)でa=b(このような場合を「正矢」という。)で、p,qがaの整数倍である場合は、図1は図2となるので、上記の演算は以下に示す式(3)のように簡略化される。
【0024】
【数3】

上記式(2)、式(3)のいずれの方法によっても、p+q=Lの条件下でpとqの比を変えながら各点の2階差分の値yM を求めることができれば、長さLの基準弦に対する、走行路上の各点の離れy1 ,y2 ,…,yM ,…,yN-1 ,yN の連続的な算出が可能である。
【0025】
なお、上述した例でy1 ,y2 ,…,yN-1 ,yN は変位として算出されるが、基準弦に対する角度として出力することも可能である。
【0026】
算出したy1 ,y2 ,…,yN-1 ,yN をもとに、走行路の変位を0とするためのレール保守量(移動量)を算出するには、基準弦に対する走行路の設計形状(図1の点線)の形状をあらかじめ算出しておき、これとy1 ,y2 ,…,yN-1 ,yN との差を求めれば良い。
【0027】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の車両走行路管理用のデータ取得方式は、差分法による走行路形状測定データから、走行路の実形状を算出し、鉄道線路や車両走行路などの管理のためのデータを得るのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例を示す走行路形状と基準弦との関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す走行路形状と基準弦との関係、特に測定弦長c=2a(すなわちa=b)かつ基準弦の弦長Lがaの整数倍である場合を示している。
【図3】従来の2階差分法によって測定される走行路面データを示す図である。
【図4】従来の軌道検測車を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、
(b)前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、
(c)さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出することを特徴とする車両走行路実形状の算出方法。
【請求項2】
請求項1記載の車両走行路実形状の算出方法において、前記車両が鉄道車両であり、前記走行路が鉄道線路であることを特徴とする車両走行路実形状の算出方法。
【請求項3】
(a)差分法により、連続的に測定された車両の走行路形状データを得て、
(b)前記車両の走行路形状データを任意の弦と車両走行路との離れの値に変換し、
(c)さらに前記弦を基準とする車両走行路実形状を算出し、
(d)同様な方法により車両走行路の設計形状を算出し、
(e)前記(c)及び前記(d)に基づいて車両走行路形状を設計値に復するための補修量を算出することを特徴とする車両走行路の補修量算出方法。
【請求項4】
請求項3記載の車両走行路実形状の算出方法において、前記車両が鉄道車両であり、前記走行路が鉄道線路であることを特徴とする車両走行路の補修量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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