説明

車両

【課題】空調装置を備えた車両において、空調装置の作動時においても部品点数の増大を招くことなく安定して冷却液の液温制御を行えるようにする。
【解決手段】冷却液により冷却する液冷式の内燃機関1と、冷媒を冷却するためのコンデンサ14を備えた空調装置2と、これら内燃機関1及び空調装置2の制御を行う制御装置3とを備え、内燃機関1が、冷却液を循環させる電動ポンプ10と、冷却液を放熱させる放熱器たるラジエータ8を有する放熱装置7とを備えた車両において、制御装置3が、空調装置2の作動を検出した際に、前記電動ポンプ10からの冷却液の吐出量を増加させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷式の内燃機関と、空調装置とを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載された内燃機関を冷却する方法の一つとして、冷却液により冷却する液冷式のものが考えられている。具体的には、前記冷却液を循環させて冷却を行うためのポンプと、冷却液を放熱させる放熱器を有する放熱装置とを内燃機関に設け、放熱器に達した冷却液を送風機による送風された外気により冷却する構成のものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方、このような車両の内部空間の温度調節を行うべく、冷媒をコンプレッサにより圧縮し、コンデンサにより走行風等を利用して圧縮された冷媒からの放熱を行うとともに冷媒を液化し、液化した冷媒をエバポレータに導いて車両内部の大気との熱交換を行うことにより車両内部の大気を冷却する一方で冷媒を気化させ、気化した冷媒を前記コンプレッサに導く冷却サイクルを利用する空調装置が多く用いられる。
【0004】
ところで、特に空間に限りがある小型の車両等においては、前記放熱装置の放熱器と前記空調装置のコンデンサとが近接して設けられることがある。この場合、空調装置が作動すると、空調装置のコンデンサから放出される熱により放熱装置の放熱器に導入された冷却液が加熱され、放熱装置による冷却効率が低下する。
【0005】
しかして、冷却液の温度上昇に伴うノッキングの発生を防止するには、放熱装置の送風機からの送風量を増加させる制御や、冷却液を循環させるためのポンプを内燃機関と連動する機械式ポンプとするとともに内燃機関の回転数を上昇させてこの機械式ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御や、冷却液を循環させるためのポンプをバッテリからの電力により作動する電動ポンプとするとともに放熱装置の放熱器から排出された冷却水温に基づき電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御等が考えられるが、これらの制御を採用した場合、以下に述べるような不具合が存在する。
【0006】
すなわち、放熱装置の送風機からの送風量を増加させる制御を採用する場合は、ノッキングが発生しやすい高速域ではそもそも放熱装置の送風機からの送風量を最大又はその付近としていることが多く、また、そもそも走行風の風量が多いため冷却水の冷却効率の向上を期待しにくいという問題や、この送風機からの送風量の制御は2〜3段階程度の有段制御であることが多いので精密な制御が困難であるという問題が存在する。
【0007】
また、内燃機関の回転数を上昇させて前記機械式ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を採用する場合、回転数を上昇させることによるアイドル運転時の燃費の悪化や、走行時に回転数を上昇させるべく変速機の減速比が大きくなることによる騒音の増大や乗り心地の悪化といった問題が存在する。
【0008】
一方、放熱装置の放熱器から排出された冷却水温に基づき電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を行う場合、放熱装置の放熱器出口と内燃機関入口との間に水温センサを設ける必要があるので、内燃機関から排出される冷却水の水温を計測する水温センサを省略して部品点数を削減するとノッキング発生の抑制を行いにくくなり燃費が悪化する不具合が存在し、内燃機関から排出される冷却水の水温を計測する水温センサも設けると部品点数の増大によるコスト上昇が発生するという別の不具合が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−266105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の点に着目し、空調装置を備えた車両において、空調装置の作動時においても部品点数の増大を招くことなく安定して冷却液の液温制御を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る車両は、冷却液により冷却する液冷式の内燃機関と、冷媒を冷却するためのコンデンサを備えた空調装置と、これら内燃機関及び空調装置の制御を行う制御装置とを備え、前記内燃機関が、前記冷却液を循環させる電動ポンプと、冷却液を放熱させる放熱器を有する放熱装置とを備えた車両であって、前記制御装置が、前記空調装置の作動を検出した際に、前記電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を行うことを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、空調装置の作動に伴い該空調装置のコンデンサから放熱が行われ、このコンデンサからの熱により放熱装置の放熱器による冷却性能が低下することを見越して電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御、すなわち放熱装置による冷却能力を増強する制御を行うので、特別な装置を用いることなく、冷却液の液温制御の収束性を向上させることができる。
【0013】
このような車両において、燃費の改善を図るための構成として、前記制御装置が、前記空調装置の作動を検出した際に、所定のディレイ時間の間待機し、その後前記電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を行うものが挙げられる。空調装置が作動を開始した後該空調装置のコンデンサから放熱が開始されるまでにはタイムラグが存在するが、このような制御を行えば、前記所定のディレイ時間を前記タイムラグに対応させることにより、空調装置のコンデンサから放熱が行われていない時間帯に冷却液の吐出量を増加させる、すなわち電動ポンプの出力を増大させることによる電力負荷の上昇を抑制できるからである。さらに、このような制御を行えば、前記空調装置の作動開始のタイミングと前記電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御の開始のタイミングとをずらすことができるので、制御を安定して行うこともできる。
【発明の効果】
【0014】
空調装置を備えた車両において、空調装置の作動時においても部品点数の増大を招くことなく安定して冷却液の液温制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両を概略的に示す図。
【図2】同実施形態に係る制御装置が行う制御の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を図1〜図2を参照しつつ以下に述べる。
【0017】
本発明の車両100は、図1に示すように、冷却液により冷却する液冷式の内燃機関1と、冷媒を冷却するためのコンデンサ14を備えた空調装置2と、これら内燃機関1及び空調装置2の制御を行う制御装置3とを備えたものである。
【0018】
前記内燃機関1は、例えば冷却液として冷却水を使用するもので、シリンダブロック4とシリンダヘッド5との内部に設けられて冷却水が循環するウォータジャケット6と、冷却水を放熱させる放熱器たるラジエータ8及びラジエータ8に送風する送風機9からなる放熱装置7と、前記ウォータジャケット6と前記ラジエータ8との間で冷却水を循環させるための電動ポンプ10とを備えている。また、この内燃機関1は、冷却水の温度(冷却水温度)を検出する水温センサ11を、冷却水がラジエータ8に送り出されるウォータアウトレット6aの近傍位置において備えている。
【0019】
放熱装置7は、前記ラジエータ8と、このラジエータ8の背面側に配置されて該ラジエータ8に放熱のための風を供給する送風機9を構成する送風モータ9a及び送風モータ9aにより回転駆動される送風ファン9bを有する送風機9とを備えている。送風モータ9aの作動は、後述する制御装置3により制御される。ラジエータ8は、前記ウォータジャケット6に連通するウォータアウトレット6aに接続される冷却水戻り管路7aに接続されるとともに、前記電動式ウォータポンプの近傍に配置されたウォータジャケット6と連通するウォータインレット6bに接続される冷却水供給管路7bに接続される。送風モータ9aは、例えば直流モータである。
【0020】
電動ポンプ10は、回転速度を変更できる形式の例えば直流モータで、その回転数を検出する回転数センサ12を備えている。この電動ポンプ10は、制御装置3から出力される駆動信号cによりその回転数が、冷却水温度に基づいて制御される。回転数センサ12から出力される回転数信号bは、制御装置3に入力される。
【0021】
一方、前記空調装置2は、この種の車両100に用いられる空調装置2として周知のものと略同様の構成を有する。具体的には、冷媒をコンプレッサ13により圧縮し、コンデンサ14により走行風等を利用して圧縮された冷媒からの放熱を行うとともに冷媒を液化し、液化できなかった冷媒をレシーバ15により液化した冷媒と分離し、液化した冷媒をエキスパンションバルブ16からエバポレータ17に噴射させることによりエバポレータ17内で冷媒を気化させ、気化した冷媒を前記コンプレッサ13に導く冷却サイクルを利用するとともに、エバポレータ17内の冷媒と熱交換を行うことにより熱を奪われた大気をブロワファン18により内部空間に送り込む構成のものである。ここで、前記コンデンサ14は前記放熱装置7のラジエータ8と近接する位置に設けている。さらに、このコンデンサ14内を流通する冷媒は、走行風だけでなく前記放熱装置7の送風機9からの風によっても冷却されるようにしている。ここで、この空調装置2の作動の開始及び終了は、電磁クラッチ19の連結及び解除によりコンプレッサ13と内燃機関1の出力軸20との接続を開始及び終了することにより行っている。そして、この電磁クラッチ20の連結及び解除は、後述する制御装置3により行う。
【0022】
制御装置3は、中央演算処理装置と記憶装置と入力インターフェースと出力インターフェースとを具備してなるマイクロコンピュータシステムを主体に構成されている。記憶装置には、後述する放熱装置制御プログラムが格納してあり、また同プログラムの実行に必要なデータなどが記憶してある。入力インターフェースには、水温センサ11から出力される水温信号aと、電動ポンプ10の回転を検出する前記回転数センサ12から出力される回転数信号bとが、その他の各種のセンサやスイッチ(それぞれ図示しない)の出力信号とともに入力される。また、出力インターフェースからは、電動ポンプ10に対して回転制御信号cが、放熱装置7の送風モータ9aに対して駆動信号dが、さらには図示しない燃料噴射弁やスパークプラグなどに対してそれぞれ作動のための信号が出力される。そして、この制御装置3は、上述した電磁クラッチ20の接続及び解除を行うためのスイッチとしての機能をも有する。
【0023】
前記制御装置3の記憶装置には、中央演算処理装置が実行することにより、前記空調装置2の作動を検出した際に、前記電動ポンプ10からの冷却水の吐出量を増加させる制御を行う放熱装置制御プログラムが内蔵されている。
【0024】
以下、この放熱装置制御プログラムによる制御の手順を、フローチャートである図を参照しつつ説明する。
【0025】
まず、空調装置2の作動を検出したか否か、より具体的には前記電磁クラッチ20の接続が行われたか否かを判定する(S1)。空調装置2の作動を検出した際、すなわち前記電磁クラッチ20の接続が行われた際には、続けて所定のディレイ時間の間だけ待機する(S2)。このディレイ時間は、空調装置2が作動を開始した後該空調装置2のコンデンサ14から放熱が開始されるまでの時間帯の長さに対応するものであり、例えば実験により予め決定される。その後、電動ポンプ10からの冷却水の吐出量を増加させる制御を行う(S3)。なお、電動ポンプ10からの冷却水の吐出量の増加幅ΔQは、以下の式(1)により決定される。一方、空調装置2の作動を検出していない際、すなわち前記電磁クラッチ20の接続が行われていない際には、電動ポンプ10からの冷却水の吐出量増加を解除する制御を行う(S4)。
【0026】
ΔQ= (a×A) + (b×B) + (c×C) + (d×D) - (e×E) - (f×F) (1)
ここで、式(1)のAは空調装置2の負荷、Bは前記水温センサ11から出力される水温信号が示す冷却水温、Cは別途設けた図示しない外気温センサから出力される外気温信号が示す外気温、Dは別途設けた図示しない吸気圧センサから出力される吸気圧信号が示す要求負荷、Eは送風モータ9aの状態、Fは別途設けた図示しない車速センサから出力される車速信号が示す車速であり、a〜fは実験等により予め決定された係数である。また、前記式(1)のEは送風量が「最小」である場合に「1」、「中」である場合に「2」、「最大」である場合に「3」の値をそれぞれとる。なお、吸気圧に代えて、アクセルペダルの操作量や内燃機関1の吸気マニホルドに供給される空気流量を、要求負荷を示す変数である式(1)のDとして採用してもよい。
【0027】
以上に述べたように、本実施形態の構成によれば、空調装置2の作動に伴い該空調装置2のコンデンサ14から放熱が行われ、このコンデンサ14からの熱により放熱装置7の放熱器による冷却性能が低下することを見越して、電動ポンプ10からの冷却水の吐出量を増加させる制御、すなわち放熱装置7による冷却能力を増強する制御を行う。従って、通常の放熱装置7及び空調装置2のみを利用して、特別な装置を用いることなく、冷却水の液温制御の収束性を向上させることができる。
【0028】
また、前記制御装置3が、前記空調装置2の作動を検出した際に、所定のディレイ時間の間待機し、その後前記電動ポンプ10からの冷却水の吐出量を増加させる制御を行うとともに、このディレイ時間が、空調装置2が作動を開始した後該空調装置2のコンデンサ14から放熱が開始されるまでのタイムラグに対応しているので、空調装置2のコンデンサ14から放熱が行われていない時間帯に冷却水の吐出量を増加させる、すなわち電動ポンプ10の出力を増大させることによる電力負荷の上昇を抑制できる。従って、燃費の向上を図ることができる。さらに、このような制御を行うことにより、前記空調装置2の作動開始のタイミングと前記電動ポンプ10からの冷却水の吐出量を増加させる制御の開始のタイミングとを異ならせることができるので、この面からも制御を安定して行うようにすることができる。
【0029】
なお、本発明は以上に述べた実施態様に限らない。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、空調装置の作動を検出した後、電動ポンプからの冷却水(冷却液)の吐出量を増加させる制御を行うまでのディレイ時間を、実験により予め決定するようにしているが、空調装置の配管中に冷媒の圧力を検知する圧力センサを設け、空調装置の作動を検出した後、この圧力センサの出力信号が示す冷媒の圧力が所定値を上回るまで待機するようにしてもよい。また、場合によっては、空調装置の作動を検出した直後に電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を開始するようにしてもよい。
【0031】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変形してよい。
【符号の説明】
【0032】
100…車両
1…内燃機関
2…空調装置
3…制御装置
7…放熱装置
8…ラジエータ(放熱器)
9…送風機
10…電動ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液により冷却する液冷式の内燃機関と、冷媒を冷却するためのコンデンサを備えた空調装置と、これら内燃機関及び空調装置の制御を行う制御装置とを備え、前記内燃機関が、前記冷却液を循環させる電動ポンプと、冷却液を放熱させる放熱器を有する放熱装置とを備えた車両であって、
前記制御装置が、前記空調装置の作動を検出した際に、前記電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を行うことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記制御装置が、前記空調装置の作動を検出した際に、所定のディレイ時間の間待機し、その後前記電動ポンプからの冷却液の吐出量を増加させる制御を行う請求項1記載の車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate