説明

車体剛性制御装置

【課題】 衝突するなど車両が異常なときに車体剛性を高めることを目的とする。
【解決手段】 車体の本体のドア開口部10にドア20を閉じた状態で、ドア開口部の縁部とドアの対向面との間で密閉空間部1を形成するシールゴム11を、少なくともドア開口部の縁部とドアの対向面のいずれか一方に設ける。さらに、車体剛性制御装置は、密閉空間部内の空気を排出し、減圧し、ドアを車体に吸引させる空気吸引ポンプ3と、車両の状態を検知する車両状態検知センサ5と、空気吸引ポンプの駆動モータへの電流を制御するコントローラ4を備えている。空気吸引ポンプは動作していないとき、吸引側を大気開放する弁を内蔵している。コントローラは車両状態検知センサからの信号にもとづいて、空気吸引ポンプの駆動モータへ通電して、ドアと車体との締結力を増大し、車体剛性を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアなど開閉体と車体本体との締結力を増大させて、車体の変形を抑制する車体剛性制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリクラッシュセンサにより、車体の衝突を予測し、車両の側面衝突が予測されたときに車体に設けられたピンが、ドアに設けられた凹部に嵌入することで側面衝突時のドアの車体に対する相対変位を拘束する構造が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−191879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に示された技術では、ピンと凹部を機械的に嵌め合わせる構造になっており、車両が衝突後にピンが凹部から抜けなくなるなどにより、ドアの開放ができなくなるという可能性があった。また、ピンは車体横方向に向かって移動しドアの凹部に嵌入する構造であるため、例えば車体が横転してドアの横方向に遠心力が働くときには、車体とドアとの締結力を増す効果がなかった。
また、車体に設けられた開口部に開閉体が強く締結された状態を作り出していないので、車両走行状態での旋回時に車体の剛性が不足であり、旋回時の操縦安定性が問題となっていた。
本発明は、上記の問題点を解決し、車体剛性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明は、車体本体の開口部に開閉自在に取り付けられた開閉体を備えた車両において、開閉体を閉じた状態で開口部と開閉体との間に密閉空間部を形成する密閉空間形成手段と、密閉空間部の空気圧を変化させる空気圧変化手段とを備え、空気圧の変化により開閉体と車体本体との締結力を調整する締結力調整手段と、車両の状態を検知する状態検知手段と、状態検知手段からの信号にもとづいて、締結力調整手段の作動を制御する制御手段とを有するものとした。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、車両の状態を検知する状態検知手段からの信号にもとづき、制御手段は締結力調整手段を作動させて、開閉体を閉じた状態で開口部と開閉体との間に形成する密閉空間部の空気圧を減圧し、開閉体を開口部に吸引して車体本体と閉状態の開閉体の締結力を増大することが可能なので、例えば衝突時、ロールオーバー時、旋回時に、開閉体を車体本体に強く締結できる。
また、事故が生じた後に、密閉空間部の減圧を停止することにより、開口部から開閉体を開放することを阻害しないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下本発明の実施の形態を実施例により説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は第1の実施例の車体剛性制御装置のブロック構成図である。
本実施例の車体剛性制御装置は、ドアを閉じたときにドア開口部の縁部とドアの対向面との間で密閉空間部1を形成するシール部材であるシールゴム11と、車両に搭載されているモータ駆動の空気吸引ポンプ3と、車体側に設けられた吸引配管2と、車両の走行状態を検知する車両状態検知センサ5と、車両状態検知センサ5から得られた信号にもとづき空気吸引ポンプ3を運転制御するコントローラ4とから構成される。
吸引配管2は一端が密閉空間部1に開口し、他端は空気吸引ポンプ3の吸引口に接続している。
【0008】
図2に、本装置のシールゴム11の車両への実装状態を示す。図2の(a)は、車両の側面を示した概念図であり、ドア20を取り除いた状態を示す。開閉体である前部のドア20がフロントピラーに、ヒンジ部22によって開閉自在に取り付けられる。
ドア開口部10の縁部12に、シールゴム11がドア開口部10を囲むように2本並行して間隔を設けて接着固定されている。この縁部12の2本のシールゴム11に挟まれた密閉空間部1を形成する面に図示省略の吸引配管2の一端が開口している。
(b)は(a)のA−A部断面を示す。ドア20がドア開口部10を閉じた状態では、2本のシールゴム11は、ドア20側の対向面に密着し、2本のシールゴム11と、縁部12と、縁部12に対向するドア20側の対向面とで密閉空間部1を形成する。
なお、シールゴム11はウェザーストリップを兼ねている。
【0009】
車両状態検知センサ5は、車速を検出する車速センサから構成されている。車両状態検知センサ5の車速信号は、コントローラ4に入力される。
空気吸引ポンプ3は、空気吸引運転していないときは、空気吸引側を大気開放状態にする図示省略の大気開放弁を内蔵しており、空気吸引運転時は大気開放弁を閉じて、密閉空間部1の空気を吸引可能としている。
空気吸引ポンプ3の駆動モータは、車両に搭載されているオルタネーターまたはバッテリによって駆動される。
【0010】
コントローラ4は、マイクロコンピュータとリレースイッチからなる。車両状態検知センサ5からの信号は、マイクロコンピュータに入力され、マイクロコンピュータが車両状態検知センサ5からの信号にもとづいてリレースイッチを制御し、必要に応じて空気吸引ポンプ3の駆動モータに電流を供給する。
コントローラ4は、車速が所定値未満の時は空気吸引ポンプ3を停止しており、車両状態検知センサ5からの車速信号が所定値以上のとき、車両が走行状態と判定して、コントローラ4は空気吸引ポンプ3運転状態にする。その結果、ドア開口部10の縁部12とドア20側の対向面との間でシールゴム11によって形成される密閉空間部1の内部の空気が空気吸引ポンプ3により排出、減圧され、ドア20は縁部12に吸引され、ドア20と車体本体との締結力が増大する。
これまで前部のドア20を例にして説明したが、個々のドア開口部の縁部に同様にシールゴム11を固定し、ドアが閉じた状態で形成される密閉空間部1に吸引配管2の一端を開口させる。
【0011】
図3は、第1の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
本装置は図示しないキースイッチがオンのとき、待機状態となり、キースイッチがオフのとき動作を停止する。
ステップ101では、コントローラ4は、車速が所定値、例えば30km/h以上かどうかをチェックする。車速が所定値以上のときはステップ102に進み、そうでない場合はステップ103に進む。
ステップ102では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3が動作状態でないときは、駆動モータへ電力を供給し、動作状態にする。動作状態の場合はその状態を維持する。つまり、密閉空間部1の空気を排出し、その結果ドア吸引力を発生する。
【0012】
ステップ103では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3が動作状態のときは、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの電力供給をカットし、空気吸引ポンプ3の吸引側を大気圧開放する。その結果、密閉空間部1は大気圧となり、ドア吸引を解除する。
ステップ102、103の後ステップ101に戻る。
本実施例における密閉空間部1と吸引配管2と空気吸引ポンプ3は、本発明の締結力調整手段を構成する。特に、空気吸引ポンプ3は本発明の空気圧変化手段を、ドア20を閉じたとき密閉空間部1を形成するシールゴム11、縁部12、ドア20側の対向面は密閉空間形成手段を構成する。
また、本実施例におけるフローチャートのステップ101は本発明の状態検知手段を、ステップ102、103は制御手段を構成する。
【0013】
以上のように本実施例によれば、コントローラ4は、所定値以上の車速で走行中は空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電して、密閉空間部1を減圧することによりドア20を車体側に吸引する。
密閉空間部1はドア開口部10の縁部12の全周囲にわたってドア20側の対向面との間で形成されているので、ドア20がドア開口部10の縁部12全体で吸引され締結された状態になり、ドア20が部分的にヒンジ部22やドアロックストライカーにより局所的に締結されている状態よりも車体の剛性が強化される事になる。
【実施例2】
【0014】
次に第2の実施例を説明する。第2の実施例の車体剛性制御装置のブロック構成図は図1と同じであるが、車両状態検知センサ5の構成と、コントローラ4における制御が、第1の実施例と異なる。
車両状態検知センサ5は、車速を検出する車速センサ、操舵角を検出する操舵角センサ、車両のピッチ方向の角加速度を検出するピッチ角加速度センサ、車両のロール方向の角加速度を検出するロール角加速度センサ、車両の前後方向の加速度を検出する前後方向Gセンサ、車両の横方向の加速度を検出する横方向Gセンサから構成されている。車両状態検知センサ5の各信号は、コントローラ4に入力される。
コントローラ4は、マイクロコンピュータとリレースイッチからなる。車両状態検知センサ5からの信号は、マイクロコンピュータに入力され、マイクロコンピュータが車両状態検知センサ5からの信号にもとづいてリレースイッチを制御し、必要に応じて空気吸引ポンプ3の駆動モータに電流を供給する。
【0015】
図4は、第2の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
ステップ201では、コントローラ4は、異常状態を検知したかどうかを判定する。検知したと判定したときはステップ202に進み、そうでない場合はステップ201を繰り返す。
異常状態の検知とは、ここではロールオーバー、正面衝突、側面衝突それぞれの検知をいう。
【0016】
ロールオーバーの検知判定は、車速が所定値以上、かつ操舵角が左右いずれかの所定の角度以上のときに、車両の所定値以上の減速とピッチ方向の所定値以上の角加速度の場合、または車速が所定値以上、かつ操舵角が左右いずれかの所定の角度以上のときに、ロール方向の角加速度が所定値以上のとき、ロールオーバーを検知と判定する。
なお、車両の型式、たとえばセダン、ピックアップなどに応じて車両の重心高が異なるため、上記の判定条件の閾値は、車両の型式に応じて車両の重心高から計算するなど車両ごとに定められて、コントローラ4のマイクロコンピュータに予め内蔵されている。
また、正面衝突、側面衝突などの衝突の検知の判定は、コントローラ4は、前後方向Gセンサまたは横方向Gセンサからの所定の第1の閾値以上の加速度信号を検知した時、正面衝突または側面衝突を検知と判定する。
【0017】
ステップ202では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへ電力を供給開始し、通電状態を維持する。つまり、密閉空間部1の空気が排出され、ドア吸引力を発生する。
ステップ203では、コントローラ4は、異常状態が終了したかどうかを判定する。
コントローラ4は、ステップ201において、異常状態(ロールオーバー)検知を判定後、車両状態検知センサ5のピッチ角加速度センサとロール角加速度センサからの信号状態を監視し、所定時間以上継続してピッチ方向の角加速度信号とロール方向の角加速度信号の入力が無い場合に、異常状態(ロールオーバー)終了と判定する。
また、フローチャートのステップ201において、異常状態(正面衝突または側面衝突)検知を判定後、前後方向Gセンサまたは横方向Gセンサからの信号状態を監視し、所定時間以上継続して前後方向の加速度信号または横方向の加速度信号の入力が無い場合に、異常状態(正面衝突または側面衝突)終了と判定する。
【0018】
異常状態が続いていると判定した時はステップ202に戻り空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を続ける。異常状態が終了したと判定した時は、ステップ204に進み、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの電力供給をカットし、吸引側を大気圧開放状態とする。その結果、密閉空間部1は大気圧状態となり、ドア吸引を解除する。
本実施例における密閉空間部1と吸引配管2と空気吸引ポンプ3は、本発明の締結力調整手段を構成する。特に、空気吸引ポンプ3は本発明の空気圧変化手段を、ドア20を閉じたとき密閉空間部1を形成するシールゴム11、縁部12、ドア20側の対向面は密閉空間形成手段を構成する。
また、フローチャートのステップ201、203は本発明の状態検知手段を、ステップ202、204は制御手段を構成する。
【0019】
以上のように本実施例によれば、所定値以上の車速で走行中に急ハンドル操作をして車両がロールオーバーする場合に、コントローラ4が、車両状態検知センサ5からの車速、操舵角、前後方向の加速度、ピッチ方向の角加速度、ロール方向の角加速度信号にもとづきロールオーバーを検知したと判定して、密閉空間部1の空気を排出してドア20を車体のドア開口部10に強く吸引した状態にするので、車体の剛性が強化される事になる。
その結果、ロールオーバー中のドアの開放による車体天井部のつぶれを抑制できる。
【0020】
また、正面衝突、側面衝突の場合にも、コントローラ4が、車両状態検知センサ5からの前後方向の加速度または横方向の加速度にもとづき衝突を検知したと判定して、密閉空間部1の空気を排出してドア20を車体のドア開口部10に強く吸引した状態にするので、車体の剛性が強化される事になる。
その結果、衝突による車室のつぶれを抑制でき、対衝突性能の向上を図る事ができる。
なお、本実施例では正面衝突、側面衝突について説明したが、前後方向Gセンサは追突されるような事故の場合にも信号を出すので、そのような異常状態にも同様に機能する。
【0021】
ロールオーバー、衝突の異常状態が終了後は、コントローラ4は空気吸引ポンプ3の駆動モータへの通電を停止し、吸引側を大気圧開放状態とするので、密閉空間部1は吸引力を発生せず、乗員の脱出は容易に行える。
密閉空間部1の減圧によるドア開口部10へのドア20の吸引というドア開口部10の剛性向上なので、従来技術におけるドアと車体の開口部の縁を機械的に締結した場合のような、変形によるドア20の開閉性への悪影響が生じるという弊害を回避できる。
また、通常時は、空気吸引ポンプ3は動作しておらず、密閉空間部1は大気圧開放状態なので燃費の悪化とか、通常のドア20の開閉が重くなるということはない。
【実施例3】
【0022】
次に第3の実施例を以下に説明する。本実施例における車体剛性制御装置のブロック構成図は図1と同じである。
ただし、車両状態検知センサ5は、車両の前後方向および横方向の加速度を検知する前後方向Gセンサ、横方向Gセンサと、プリクラッシュセンサを含んでいる。
プリクラッシュセンサは、自車両周囲の障害物との距離を検知する障害物センサと、車速センサとから構成されるセンサ部と、それらセンサからの信号にもとづいて衝突予測を判定するマイクロコンピュータからなるインテリジェントセンサである。障害物センサは、例えば、レーザレーダ、ミリ波レーダ、または超音波レーダであり、自車両周囲に出射した電磁波または超音波の反射を受波して、出射から受波までの時間から障害物との距離を検知する。
なお、障害物センサとして上記の各レーダの代わりに車両の周囲をカメラで撮影して、カメラ画像を処理して自車両周囲の障害物との距離を検知するものでもよい。
また、前後方向Gセンサと横方向Gセンサの代用としてエアバッグ用センサを共用しても良い。
【0023】
プリクラッシュセンサのマイクロコンピュータは、障害物センサからの距離信号にもとづいて、自車両と障害物との相対速度を算出し、相対速度と障害物までの距離とから衝突までの時間を算出する。プリクラッシュセンサのマイクロコンピュータは、自車両の車速が所定値以上の場合で、衝突までの時間が所定値以下のとき衝突と判定して、コントローラ4に衝突予測信号を送信する。
また、プリクラッシュセンサは、衝突予測信号を発してから、障害物との衝突までの時間が増大する場合、衝突回避と判定し、衝突回避信号をコントローラ4に送信する。
コントローラ4には、さらに前後方向Gセンサ、横方向Gセンサからの信号も入力されている。
【0024】
本実施例におけるコントローラ4は、プリクラッシュセンサからの衝突予測信号によって空気吸引ポンプ3の駆動モータへ給電を開始し、プリクラッシュセンサからの衝突回避信号が入力されたとき、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を停止し、吸引側を大気圧開放状態とする。またコントローラ4は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへ給電を開始した後、前後方向Gセンサ、横方向Gセンサからの所定時間以上の入力信号がないとき、衝突が終了したと判定して空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を停止し、吸引側を大気圧開放状態とする。
【0025】
図5は、第3の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
ステップ301では、コントローラ4は、プリクラッシュセンサが衝突判定をしたかどうかをチェックする。プリクラッシュセンサから衝突予測信号を受けたときはステップ302に進み、そうでない場合はステップ301を繰り返す。
ステップ302では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへ電力を供給開始し、通電状態を維持する。つまり、密閉空間部1の空気が排出され、ドア吸引力を発生する。
【0026】
ステップ303では、コントローラ4は、プリクラッシュセンサから衝突回避信号が入力されたかどうかチェック。衝突回避信号がある場合は、ステップ306に進み、衝突回避信号が入力されていない場合はステップ304に進む。
ステップ304では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を継続する。つまり、密閉空間部1の空気排出を継続する。
ステップ305では、コントローラ4は、衝突が終了したかどうかを判定する。衝突が終了したとの判定は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を開始した後、所定時間以上前後方向Gセンサと横方向Gセンサからの加速度の入力信号がないとき、衝突終了と判定する。そうでない場合は衝突が続いていると判定する。衝突が継続していると判定した場合、ステップ304に戻り、衝突が終了したと判定した場合は、ステップ306に進む。
ステップ306では、コントローラ4は空気吸引ポンプ3の駆動モータへの電力供給をカットし、吸引側を大気圧開放する。つまり、密閉空間部1は大気圧開放状態となり、ドア吸引を解除する。
【0027】
本実施例における密閉空間部1と吸引配管2と空気吸引ポンプ3は、本発明の締結力調整手段を構成する。特に、空気吸引ポンプ3は本発明の空気圧変化手段を、ドア20を閉じたとき密閉空間部1を形成するシールゴム11、縁部12、ドア20側の対向面は密閉空間形成手段を構成する。
また、フローチャートのステップ301、303、305は本発明の状態検知手段を、ステップ302、304、306は制御手段を構成する。
以上のように本実施例によれば、車両状態検知センサ5のプリクラッシュセンサが衝突の虞があると判定した場合に、コントローラ4が、実際に衝突を生じる前に、空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電してドア20を車体のドア開口部10に強く吸引した状態にするので、車体の剛性が衝突前に強化される事になる。
衝突回避または衝突終了後は、コントローラ4は空気吸引ポンプ3の駆動モータへの通電を停止し、密閉空間部1を大気圧開放状態とするので、ドア20の車体への吸引は解除されているので、乗員の脱出、車外からの救出を阻害することがない。
【0028】
また、第2の実施例と同様に通常時は、空気吸引ポンプ3は動作していないので燃費の悪化とか、通常のドア20の開閉が重くなるということはない。
さらに、ドア20の車体本体への密閉空間部1の減圧による締結力の増大という手段を用いているので、機械的な締結のような衝突変形によるドア20の開放阻害を生じない。
【0029】
本実施例において、コントローラ4は、車両状態検出センサ5のプリクラッシュセンサからの衝突予測信号により空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電するものとしたが、第2の実施例と組み合わせてもよい。
つまり、車両状態検出センサ5は、車速センサ、前後方向Gセンサ、横方向Gセンサ、プリクラッシュセンサに加えて、さらにピッチ角加速度センサ、ロール角加速度センサ、操舵角センサを有し、これらのセンサ信号もコントローラ4のマイクロコンピュータに入力されている。
コントローラ4は、これらの信号にもとづき第2の実施例のように、ロールオーバー、正面衝突、側面衝突などの異常状態検知を判定して、空気吸引ポンプ3の駆動モータへ通電する。
【0030】
このように組み合わせることにより、プリクラッシュセンサが衝突を事前に予測できなかった場合、または障害物センサの検知できないものとの衝突の場合においても異常状態を検知し、車体の剛性を高める制御ができる。この結果、前段、後段と多重の車体剛性制御の機会を確保できる。
【実施例4】
【0031】
次に本発明の第4の実施例を説明する。本実施例は、本車体剛性制御装置を通常走行時の旋回時などに適用する例である。本実施例における車体剛性制御装置のブロック構成図は図1と同じである。
ただし、本実施例の車両状態検知センサ5は、車速センサおよび操舵角センサと、車両横方向の加速度を検出する横方向Gセンサまたは車両のヨー方向の角加速度を検出するヨー角加速度センサを含んでいる。さらに、車両状態検知センサ5は、それらセンサからの信号にもとづいて、コントローラ4に旋回信号を送信するマイクロコンピュータを有するインテリジェントセンサである。
【0032】
車両状態検知センサ5のマイクロコンピュータが、車速が所定値以上かつ、操舵角が左右いずれかに所定値以上の場合に、横方向Gセンサが衝突判定の場合より低い第2の閾値である所定値以上の横方向の加速度を検出したとき、高速旋回を検知したと判定し旋回信号を出力する。
また、車速が所定値以上かつ、操舵角が左右いずれかに所定値以上の場合に、ヨー角加速度センサが所定値以上の加速度を検出したとき、スピンを検知したと判定し旋回信号を出力する。
コントローラ4は、車両状態検知センサ5からの旋回信号を受け取ったとき、空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電し、密閉空間部1の空気を吸引してドア20を車体側に吸引させる。
【0033】
図6は、第4の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
ステップ401では、コントローラ4は、車両状態検知センサ5からの旋回信号を受けたかどうかをチェックする。旋回信号を受けたときはステップ402に進み、そうでない場合はステップ401を繰り返す。
ステップ402では、コントローラ4は、空気吸引ポンプ3の駆動モータへ電力を供給開始し、通電状態を維持する。つまり、密閉空間部1の空気を排出し、その結果ドア吸引力を発生する。
【0034】
ステップ403では、コントローラ4は、車両状態検知センサ5からの旋回信号が継続しているかどうかをチェックする。
コントローラ4は、旋回信号を受信してから旋回信号が所定時間以上継続して入力が無い場合に、旋回終了と判定する。
旋回信号が継続している時はステップ402に戻り空気吸引ポンプ3の駆動モータへの給電を続ける。旋回信号が継続しない時は、ステップ404に進み、空気吸引ポンプ3の駆動モータへの電力供給をカットし、吸引側を大気圧開放状態とする。つまり、密閉空間部1は、大気圧開放状態となり、ドア吸引を解除する。
本実施例における密閉空間部1と吸引配管2と空気吸引ポンプ3は、本発明の締結力調整手段を構成する。特に、空気吸引ポンプ3は本発明の空気圧変化手段を、ドア20を閉じたとき密閉空間部1を形成するシールゴム11、縁部12、ドア20側の対向面は密閉空間形成手段を構成する。
また、フローチャートのステップ401、403は本発明の状態検知手段を、ステップ402、404は制御手段を構成する。
【0035】
以上のように本実施例によれば、車両状態検知センサ5が高速旋回、スピンと判定した場合に、コントローラ4が、空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電して、密閉空間部1を減圧してドア20を車体に吸引させ、車体のドア開口部10にドア20が強く吸引された状態にするので、車体の剛性が強化される事になる。
その結果、高速旋回時の車体の剛性が高まり操縦の安定性、乗り心地の向上を図ることができる。また、高速旋回時、スピン時のドア開放が抑制される。
旋回終了後は、コントローラ4は空気吸引ポンプ3の駆動モータ3への通電を停止し、密閉空間部1は大気圧開放状態となっているので、燃費の悪化とか、通常のドア20の開閉が重くなるということはない。
【0036】
次に、図7にもとづき、第1の実施例から第4の実施例における密閉空間部1の変形例を説明する。
図7は、本変形例におけるシールゴム11の車両への実装状態を示す。
(a)は、図2の(a)と同様に車両の側面を示した概念図である。環状のシールゴム11が長円状または矩形状の空間を形成するようにドア開口部10の縁部12に配置接着固定され、この縁部12のシールゴム11に囲まれた密閉空間部1を形成する面に図示省略の吸引配管2の一端が開口している。図7では環状のシールゴム11を2箇所、縁部12に固定しているが、それに限定されない。
(b)は(a)のB−B断面図を示す。ドア20がドア開口部10を閉じた状態では、環状のシールゴム11は、ドア20側の対向面に密着し、環状のシールゴム11と、縁部12と、縁部12に対向するドア20側の対向面とで密閉空間部1を形成する。
【0037】
また、図2、図7ではドア開口部10の縁部12に密閉空間部1を形成するシールゴム11を固定して設けたが、それに限定されるものではない。縁部12のドア20側の対向面に設けても良いし、両方に設けてドア20が閉じられた状態で、シールゴム11同士が密着するようにしても良い。
【0038】
また、密閉空間部1を形成して、密閉空間部1を減圧して吸引する開口部の開閉体は、乗員の乗り降りに使用するドアに限定されない。
少なくとも車両前部のフードの周縁部と車体側開口部縁のいずれか一方にシールゴム11を、密閉空間部1を形成するように固定配置し、空気吸引ポンプ3の駆動モータに通電時にフード部を車体側に吸引させるように本車体剛性制御装置を適用することにより、前面衝突時に車両前部の車体剛性を高め、対衝突性能を向上させることもできる。
さらに、車両がハッチバック、ワゴンタイプである場合は、少なくとも車体のバックドア開口部の縁とバックドア側の対向面のいずれか一方に、セダンタイプであれば少なくとも車体のトランク開口部の縁とトランクリッド側の周縁部の対向面のいずれか一方にシールゴム11を、密閉空間部1を形成するように固定配置し、空気吸引ポンプの駆動モータに通電時に、密閉空間部1を減圧してバックドア、トランクリッドを車体側に吸引させるように本車体剛性制御装置を適用することにより、後ろからの衝突に対して車体の対衝突性能を向上させることもできる。
【0039】
次に、第2の実施例から第4の実施例の変形例を説明する。
図8は、本変形例における車体剛性制御装置のブロック構成図である。第2の実施例から第4の実施例までと同一の構成については同一符号を付し、説明を省略する。
本変形例の車体剛性制御装置は、密閉空間部1を形成するシールゴム11と、吸引配管2と、モータ駆動の空気吸引ポンプ3と、コントローラ4’と、車両状態検知センサ5と、タンク6と、タンク6の圧力を検知する圧力計7と、コントローラ4’によって制御される吸引弁8a、8bと、大気開放弁9とから構成される。
吸引配管2は一端が密閉空間部1に開口し、他端は空気吸引ポンプ3の吸引口に接続し、その間に密閉空間部1に近い方から順に、吸引弁8a、タンク6、吸引弁8bが直列に配置されている。吸引配管2の吸引弁8aの密閉空間部1側にはT字状に一端が大気に開放された大気開放弁9が接続されている。
【0040】
車両状態検知センサ5は、少なくとも車速を検出する車速センサを含んでいる。車両状態検知センサ5の信号は、コントローラ4’に入力される。また、圧力計7の信号もコントローラ4’に入力される。
コントローラ4’は、マイクロコンピュータとリレースイッチからなる。車両状態検知センサ5からの信号は、マイクロコンピュータに入力され、マイクロコンピュータが車両状態検知センサ5からの信号にもとづいてリレースイッチを介して、吸引弁8aと吸引弁8bの開閉制御、空気吸引ポンプ3の起動停止の動作制御、大気開放弁9の開閉制御を行う。
【0041】
大気開放弁9は、通電時閉の弁であり、通常時は、コントローラ4’は、大気開放弁9を無通電状態として、密閉空間部1を大気圧状態とする。また、吸引弁8a、8bは、通電時開の弁であり、通常時は閉じられている。コントローラ4’は、車速が所定値以上、例えば30km/h以上のとき、圧力計7の信号により、タンク6の圧力が大気圧より低い所定値以下に減圧されていない場合は、吸引弁8bを開状態とし、空気吸引ポンプ3を動作させてタンク6の内圧を低下させ、所定値以下になったとき、吸引弁8bを閉状態とし、空気吸引ポンプ3を停止する。
このように、タンク6は、車両が所定値以上の車速で走行時は、所定値以下の圧力に減圧されて保たれる。
【0042】
車両状態検知センサ5からの信号にもとづき、コントローラ4’が、第2の実施例から第4の実施例のように、車両の異常状態を検知(衝突またはロールオーバーの検知)、衝突予測信号を受けたとき、または旋回と判定したとき、コントローラ4’は、先ず大気開放弁9aを閉じ、次いで吸引弁8aを開状態にする。その結果、密閉空間部1の空気はタンク6側に急速吸引され減圧し、ドア20は縁部12に吸引され、ドア20と車体本体との締結力を急速に増大させることができる。
続いて、コントローラ4’は空気吸引ポンプ3を起動し、ポンプの吸引機能が働いた状態で、吸引弁8bを開状態としタンク6、吸引配管2を介して密閉空間部1の空気を排出する。
本変形例では、密閉空間部1、吸引配管2、空気吸引ポンプ3、タンク6、圧力計7、吸引弁8a、8b、大気開放弁9が、本発明の締結力調整手段を構成する。特に、空気吸引ポンプ3、タンク6、吸引弁8a、8b、大気開放弁9は本発明の空気圧変化手段を、ドア20を閉じたとき密閉空間部1を形成するシールゴム11、縁部12、ドア20側の対向面は密閉空間形成手段を構成する。
【0043】
本変形例によれば、吸気弁8aとタンク6により密閉空間部1を急速減圧できるので、衝突、ロールオーバー、旋回などを検知したときに、容易にドア20と車体との締結力を急速増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施例のブロック構成を示す図である。
【図2】車体剛性制御装置のシールゴムの実装状態を説明する概念図である。
【図3】第1の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】第2の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】第3の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
【図6】第4の実施例における車体剛性制御の流れを示すフローチャートである。
【図7】車体剛性制御装置のシールゴムの実装状態を説明する概念図である。
【図8】本発明の第2実施例から第4の実施例に対する変形例のブロック構成を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 密閉空間部
2 吸引配管
3 空気吸引ポンプ
4、4’ コントローラ
5 車両状態検知センサ
6 タンク
7 圧力計
8a、8b 吸引弁
9 大気開放弁
10 ドア開口部
11 シールゴム
12 縁部
20 ドア
22 ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体本体の開口部に開閉自在に取り付けられた開閉体を備えた車両において、
前記開閉体を閉じた状態で、前記開口部と前記開閉体との間に密閉空間部を形成する密閉空間形成手段と、前記密閉空間部の空気圧を変化させる空気圧変化手段とを備え、空気圧の変化により前記開閉体と前記車体本体との締結力を調整する締結力調整手段と、
前記車両の状態を検知する状態検知手段と、
該状態検知手段からの信号にもとづいて、前記締結力調整手段の作動を制御する制御手段とを有することを特徴とする車体剛性制御装置。
【請求項2】
前記状態検知手段は、車速から車両の走行状態を検知し、
前記制御手段は、前記車両が走行状態のとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項3】
前記状態検知手段は、前記車両の加速度を検出し、前記車両の加速度が所定の第1の閾値を越えたとき、衝突信号を出力し、
前記制御手段は、前記衝突信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項4】
前記加速度が、車両の前後方向または横方向の加速度であって、
前記状態検知手段は前記前後方向、または横方向の加速度が前記第1の閾値を越えたとき、前記衝突信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の車体剛性制御装置。
【請求項5】
前記状態検知手段は、前記車両の前後方向の加速度とピッチ方向の角加速度を検出し、前記前後方向の加速度とピッチ方向の角加速度がそれぞれの所定の閾値を越えたことを検知したとき、ロールオーバー信号を出力し、
前記制御手段は、前記ロールオーバー信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1、3、または4のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項6】
前記状態検知手段は、前記車両のロール方向の角加速度を検出し、前記ロール方向の角加速度が所定の閾値を越えたことを検知したとき、ロールオーバー信号を出力し、
前記制御手段は、前記ロールオーバー信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1、3、または4のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項7】
前記状態検知手段は、前記車両の横方向の加速度、または前記車両のヨー方向の角加速度を検出し、前記横方向の加速度が所定の第2の閾値を越えたことを検知したとき、または前記ヨー方向の角加速度が所定の閾値を越えたことを検知したとき、旋回信号を出力し、
前記制御手段は、前記旋回信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1、または3から6のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項8】
前記状態検知手段は、前記車両の周囲の障害物との距離を検出し、前記距離の変化にもとづき衝突予測信号を出力し、
前記制御手段は、前記衝突予測信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項9】
前記状態検知手段は、前記車両の加速度と前記車両の周囲の障害物との距離とを検出し、前記距離の変化にもとづき衝突予測信号を出力し、また前記車両の加速度が所定の第1の閾値を越えたとき衝突信号を出力し、
前記制御手段は、前記衝突予測信号または衝突信号を受けたとき、締結力を増大させるよう前記締結力調整手段を作動させることを特徴とする請求項1または3に記載の車体剛性制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記開閉体の閉じた状態における前記締結力を増大させた状態を、所定の時間維持継続後、前記締結力を増大させた状態を解除することを特徴とする請求項3から9のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項11】
前記密閉空間形成手段は、少なくとも前記開口部の縁部または前記開閉体の対向面のいずれか一方に、2重に並行して前記開口部を囲むように配した2本のシールゴムを有し、前記開閉体が閉状態のとき前記シールゴム、前記開口部の縁部、前記開閉体の対向面で密閉空間部を形成するものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項12】
前記密閉空間形成手段は、少なくとも前記開口部の縁部または前記開閉体の対向面のいずれか一方に配し、閉じた環状のシールゴムを有し、前記開閉体が閉状態のとき前記シールゴム、前記開口部の縁部、前記開閉体の対向面で密閉空間部を形成するものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。
【請求項13】
前記空気圧変化手段は、前記密閉空間部の空気を吸引する空気吸引ポンプであることを特徴とする請求項1から12のいずれか1に記載の車体剛性制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−36036(P2006−36036A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219056(P2004−219056)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】