説明

車体構成材の製造方法およびプレス加工装置

【課題】ワレの発生を極力回避しつつ複雑度の高い断面形状を有する車体構成材を製造可能な車体構成材の製造方法と、その方法の実施に適したプレス加工装置とを提供する。
【解決手段】プレス加工装置は、下型3、上型4、下型3によって両型の接近離間方向に出没可能に保持された可動入れ子7、及び、可動入れ子7を突出方向に付勢可能なダイクッション装置8を具備する。両型3,4間に金属板材Mをセットした後、下型3から突出した可動入れ子7を上型4で没入方向に押圧し、可動入れ子7と上型4とに挟圧される金属板材Mに対して谷部に相当する形状を付与する(第1付形工程)。続いて、ダイクッション装置8の設定クッション力S以上のプレス力Pでもって、上型4で可動入れ子7及び下型3を没入方向に押圧し、可動入れ子7を後退させつつ、両型3,4に挟圧される金属板材Mに対して二つの山部に相当する形状を付与する(第2付形工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を有する車体構成材の製造方法と、その方法の実施に適したプレス加工装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体骨格等を構成する車体構成材の製造方法として、予め加熱した鋼鈑を冷却機構付きの金型でプレスすることにより、鋼鈑に対する形状付与と焼入れによる高強度化とを同時達成する手法(以下、ダイクエンチ法という)が提案されている(例えば特許文献1参照)。他方、車体構成材の一種であるドアビーム等の衝突補強材については、その断面形状を複数の山形が連なるような波形状や凹凸形状にするという形状的工夫により、剛性や強度を向上させ得ることが知られている。
【0003】
しかしながら、従来のダイクエンチ法のように、金型での1度且つ一瞬の押圧動作(以下、ワンステップスタンピングという)で鋼鈑に対する付形と焼入れとを同時達成する方法には、鋼鈑の事前加熱に起因して鋼鈑自体の材料延びが少なくなるために、付形後の鋼鈑の一部にワレが発生し易いという欠点があった。特に、鋼鈑に付与すべき断面形状が上記波形状や凹凸形状のように複雑度の高い形状になるほど、ワンステップスタンピングによるワレの発生が顕著化する傾向にある。このため、従来のダイクエンチ法では、上記波形状や凹凸形状のように複雑度の高い断面形状を有する車体構成材を安定的に製造することが難しかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−231915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、出発材となる金属板材に材料延びが少ないというような事情が存在する場合であっても、ワレの発生を極力回避しつつ複雑度の高い断面形状を有する車体構成材を製造することができる車体構成材の製造方法を提供することにある。また、その方法の実施に適したプレス加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明(請求項1及び2)は、相対接近離間可能な第1の型及び第2の型と、前記第1の型によって前記両型の接近離間方向に出没可能に保持された可動入れ子と、前記可動入れ子を前記第2の型に向けた突出方向に付勢可能な入れ子付勢手段とを備えたプレス加工装置を用いて、二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を有する車体構成材を製造する方法であって、離間状態にある可動入れ子付き第1の型と第2の型との間に金属板材をセットする材料セット工程と、第1の型と第2の型とを相対接近させ、第2の型で第1の型から所定量だけ突出した可動入れ子を没入方向に相対押圧することにより、可動入れ子と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記谷部に相当する形状を付与する第1付形工程と、前記第1付形工程から更に第1の型と第2の型とを相対接近させ、前記入れ子付勢手段の付勢力設定値以上の押圧力でもって、第2の型で可動入れ子及び第1の型を没入方向に相対押圧することにより、可動入れ子と第2の型とによる前記谷部の付形状態を維持したまま可動入れ子を第1の型内に後退させ、第1の型と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記二つの山部に相当する形状を付与する第2付形工程とを備えることを特徴とする車体構成材の製造方法である。
【0007】
この方法では、第1の型、第2の型、可動入れ子及び入れ子付勢手段を具備したプレス加工装置を用いることで、出発材たる金属板材に対して二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を付与する手順が、第1の型と第2の型との相対接近という一つの連続した動作の流れの中にあっても若干の時間差を伴う二段階の手順として実現される。即ち第1付形工程では、第1及び第2の型を相対接近させて、第2の型に第1の型から所定量だけ突出した可動入れ子を没入方向に相対押圧させることで、可動入れ子と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記谷部に相当する形状を付与する。続く第2付形工程では、第1及び第2の型を更に相対接近させる際に、第2の型が可動入れ子及び第1の型を没入方向に相対押圧するときの押圧力を入れ子付勢手段の付勢力設定値以上の力とする。その押圧力によって入れ子付勢手段の付勢力を打ち負かし、可動入れ子と第2の型とによる前記谷部の付形又は保形状態を維持したまま可動入れ子を第1の型内に後退させ、その後に第1の型と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記二つの山部に相当する形状を付与する。
【0008】
この方法によれば、金属板材に谷部に相当する形状が付与された後に、可動入れ子が前記突出位置から入れ子付勢手段の付勢力又は反発力に逆らって第1の型内に後退するまでの時間差分だけ遅れて、金属板材に二つの山部に相当する形状が付与される。このため、従来のワンステップスタンピングと異なり、出発材となる金属板材に材料延びが少ないというような事情が存在する場合であっても、ワレの発生を極力回避しつつ、二つの山部の間に谷部が存在するというような複雑度の高い断面形状を持った車体構成材を製造することが可能となる。
【0009】
なお、材料セット工程では、加熱状態にある金属板材が第1の型と第2の型との間にセットされることは好ましい。第1及び第2の型間にセットされる金属板材が加熱状態にあることで、第1付形工程及びそれに続く第2付形工程が、金属板材に対する付形と焼入れとを同時達成するダイクエンチのための工程となる。このため、ダイクエンチの効果として、この方法で製造された車体構成材は、金属板材のときよりも剛性や硬度が向上すると共に、型外し後もほとんどスプリングバックを生じず寸法精度及び保形性に優れたものとなる。なお、一般に加熱状態の金属板材は材料延びが低下するため、ダイクエンチ法によって車体構成材を製造する場合に本件方法を利用することは極めて有益である。
【0010】
第2の発明(請求項3)は、二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を有する車体構成材を製造するためのプレス加工装置であって、相対接近離間可能に設けられた第1の型及び第2の型と、前記第1の型によって前記両型の接近離間方向に出没可能に保持された可動入れ子と、前記可動入れ子を前記第2の型に向けた突出方向に付勢可能な入れ子付勢手段とを備えており、前記可動入れ子及び第2の型には、両者の最接近時に車体構成材の前記谷部を形成するための谷形付形部がそれぞれ設けられ、前記第1及び第2の型には、両者の最接近時に車体構成材の前記二つの山部を形成するための山形付形部がそれぞれ設けられ、前記入れ子付勢手段は、所定の付勢力設定値(S)を持つと共に、可動入れ子が第2の型によって前記付勢力設定値(S)以上の押圧力(P)でもって押圧されたとき、可動入れ子の第1の型内への後退を許容しつつその押圧力に対する反発力を発揮することを特徴とするプレス加工装置である。
【0011】
この装置によれば、上記第1の発明(車体構成材の製造方法)を円滑且つ確実に実施可能となる。即ち、第1及び第2の型間に金属板材がセットされ、両型が相対接近して押圧し合う際には、先ず、第1の型から所定量だけ突出した可動入れ子を第2の型が没入方向に相対押圧することで、最接近した可動入れ子の谷形付形部と第2の型の谷形付形部とによって車体構成材の前記谷部が形成される。続いて、入れ子付勢手段の付勢力設定値(S)以上の押圧力(P)でもって第2の型が可動入れ子及び第1の型を没入方向に相対押圧することで、入れ子付勢手段の付勢力が打ち負かされ、可動入れ子と第2の型とによる前記谷部の付形状態を維持したまま、可動入れ子が前記突出位置から第1の型内に後退させられる。その際、入れ子付勢手段の反発力により可動入れ子が後退に要する時間差分だけ遅れて、第1及び第2の型が最接近し、第1の型の山形付形部と第2の型の山形付形部とによって車体構成材の前記二つの山部が形成される。
【0012】
尚、この明細書において「第1及び第2の型を相対接近させる」とは、第1及び第2の型のうちのいずれか一方が固定型で他方が可動型であり可動型が固定型に接近する場合はもちろんのこと、第1及び第2の型の双方が可動型であって互いに接近し合う場合をも含む意味である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車体構成材の製造方法によれば、従来のワンステップスタンピングと異なり、出発材となる金属板材に材料延びが少ないというような事情が存在する場合であっても、ワレの発生を極力回避しつつ、二つの山部の間に谷部が存在するというような複雑度の高い断面形状を持った車体構成材を製造することができる。
【0014】
本発明のプレス加工装置によれば、上記車体構成材の製造方法を円滑且つ確実に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。本実施形態は、図4(A)及び(B)に示すような形状の車体構成材としてのドアビームの製造事例である。このドアビームは、長さ600〜1100mm、幅150〜250mmというやや長尺な部材であり、図4(B)に示すように、二つの山部の間に一つの谷部が存在するような横断面形状(即ち山谷山の波形断面形状)を有する部材である。
【0016】
図1〜図3に示すように、本実施形態で用いられるプレス加工装置は、ベッドB(二点鎖線で示す)上に直立設置された基台1と、その基台1の上端に設けられた下型支持台2と、その下型支持台2上に支持固定された第1の型(及び固定型)としての成形用下型3と、その成形用下型3の上方に配設された第2の型(及び可動型)としての成形用上型4および上型保持台5とを備えている。図1〜図3は装置の横断面を示しているが、少なくとも下型3及び上型4は、図面の紙面と直交する方向(以下「型の長手方向」という)に沿って延びる長尺な金型要素として構成されている。
【0017】
上型保持台5及びそれに保持された上型4は、図示しない駆動機構により、下型3に対し垂直方向に接近離間可能となっている。上型保持台5及び上型4を支持・駆動するための機構は、一般的なプレス機に採用されている可動型駆動機構と同種のものであり、上型4で下型3を積極加圧するためのものである。
【0018】
基台1及び下型支持台2の内部には作動体収納室11が設けられ、その作動体収納室11内には、入れ子作動体6が垂直方向に移動可能に支持されている。具体的には、基台1の作動体収納室11を区画する壁部に垂直ガイド壁12を形成する一方、入れ子作動体6の垂直な側壁部に低摩擦ガイドプレート13をボルト等の締結具14で固着し、その垂直に延びる低摩擦ガイドプレート13を介して入れ子作動体6を作動体収納室の垂直ガイド壁12に沿って垂直摺動可能としている。
【0019】
入れ子作動体6の上端部には、それと一体化した可動入れ子7が設けられている。この可動入れ子7も、型の長手方向に沿って延びる長尺な金型要素として構成されている。下型3の幅方向中心位置には、型の長手方向に沿って溝状に延びる入れ子挿通溝31が貫通形成されており、その入れ子挿通溝31には可動入れ子7が挿通されている。
【0020】
入れ子作動体6及び可動入れ子7が、図1及び図2に示すように入れ子作動体6の肩部61が下型支持台2の下側面に当接するところの突出位置(最上動位置)にある場合には、可動入れ子7の上半部が下型3から上型4に向けて大きく突出配置される。他方、入れ子作動体6及び可動入れ子7が、図3に示すように入れ子作動体6の底部が作動体収納室11の底面に接触するところの没入位置(最下動位置)にある場合には、可動入れ子7の大部分が下型3内に没入配置される。つまり、可動入れ子7は、下型3によって上下両型の接近離間方向に出没可能に保持されている。
【0021】
更に、基台1の下方(本実施形態ではベッドBの内部)には、一般のプレス加工装置に多く採用されているダイクッション装置8が装備されている。このダイクッション装置8は、基台1の底壁部を貫通するクッションピン81を介して前記入れ子作動体6の下端部と連結されている。通常、ダイクッション装置は、プレス加工の受圧時に成形品の突上げ力又は加圧反力を発生させる圧力保持装置として用いられるが、本実施形態のダイクッション装置8は、クッションピン81及び入れ子作動体6を介して可動入れ子7に作動連結されており、上型4による垂直下向き押圧力の受圧時に、可動入れ子7を上型4に向けた突出方向に付勢可能な入れ子付勢手段として機能する。ダイクッション装置8には、付勢力設定値としてのクッション力Sが設定されている。ダイクッション装置8は、前記クッション力S以上の押圧力を受けたとき、可動入れ子7が下型3内に後退するのを許容するようなクッション性を発現しつつも、前記押圧力に対する突上げ力又は加圧反力を可動入れ子7に及ぼす。なお、ダイクッション装置8の方式は、油圧式、油空圧式又は空圧式のいずれであってもよい。
【0022】
下型3、上型4及び可動入れ子7には、プレス加工を施される金属板材Mに対して所望の波形状を付与するための付形部(32,41,42,71)が設けられている。即ち、可動入れ子7には、金属板材Mに谷部を付形するための横断面が上向き凸状の谷形付形部71が突設されている。また、可動入れ子の前記谷形付形部71に対応して、上型4には、金属板材Mに谷部を付形するための横断面が下向き凹状の谷形付形部41が凹設されている。他方、下型3には、その中央に位置する可動入れ子7の左右両側において金属板材Mに二つの山部を付形するための横断面が上向き凹状の山形付形部32が凹設されている。また、下型3における前記二つの山形付形部32に対応して、上型4には、金属板材Mに二つの山部を付形するための横断面が下向き凸状の山形付形部42が突設されている。尚、可動入れ子7における上向き凸状の谷形付形部71と、その両側に位置する下型3の二つの上向き凹状の山形付形部32とは、可動入れ子7が没入位置(図3参照)にあるときに、それらが一連の滑らかな波形カーブを描くように湾曲形成されている。
【0023】
入れ子作動体6の内部には冷却水路62が設けられている。この冷却水路62は、可動入れ子7の内部の冷却水路(図示略)につながっており、装置外から導入される冷却水を可動入れ子7の内部に供給及び循環させて、可動入れ子7を強制冷却するためのものである。下型3及び上型4の内部にも同趣旨の冷却水路(図示略)が設けられている。
【0024】
次に、上記プレス加工装置を用いて、車体構成材としてのドアビームを製造する方法を説明する。
【0025】
出発材たる金属板材Mとしては、長さ600〜1100mm、幅150〜250mm、厚さ1〜3mmの高張力鋼鈑を使用した。その高張力鋼鈑は、鉄以外の添加元素の品質管理範囲がそれぞれ、炭素:0.18〜0.25wt%(重量パーセント)、珪素:0.15〜0.35wt%、マンガン:1.15〜1.40wt%、クロム:0.15〜0.25wt%及びチタン:0.01〜0.03wt%であって、融点が1300〜1400℃の鋼鈑である。この金属板材Mを加熱装置(例えば電気加熱炉)にて910℃に加熱した。そして、図1のように離間状態にある下型3と上型4との間に高速搬送することで、850℃以上の温度を保った加熱状態の金属板材Mを両型3,4間にセットした。この材料セット段階では、可動入れ子7は下型3から所定量だけ突出した突出位置に配置されている。
【0026】
材料セット後の第1付形工程では、下型3及びそれに保持された可動入れ子7に対し上型4を接近させると共に、図2に示すように、所定のプレス力P(=P1)でもって上型4で可動入れ子7を没入方向(垂直下向き)に押圧する。このときの上型4のプレス力P1は、ダイクッション装置8の前記設定クッション力S未満又は以上のいずれであってもよい。いずれの場合でも、設定クッション力Sはプレス加工の受圧時に成形品の突上げ力又は加圧反力を生じ得る大きさに設定されているので、ダイクッション装置8のバックアップを受けた可動入れ子7は、上型4からの押圧を受けた瞬間もほぼ突出位置に保持される。従って、金属板材Mの幅方向略中央部が上型4の谷型付形部41と可動入れ子7の谷型付形部71とに挟圧され、その結果、金属板材Mには図4の谷部に相当する形状が付与される。
【0027】
引き続く第2付形工程では、下型3に対して上型4を更に接近させるが、上型4が可動入れ子7及び下型3を没入方向に押圧するときのプレス力P(=P2)は、前記設定クッション力S以上の押圧力とされる。設定クッション力S以上のプレス力P2でもって上型4で可動入れ子7及び下型3を押圧すると、そのプレス力P2はダイクッション装置8の突上げ力又は加圧反力を凌駕するため、図3に示すように、上型4の谷型付形部41と可動入れ子7の谷型付形部71とによる前記谷部の付形又は保形状態が維持されたまま、可動入れ子7及び入れ子作動体6が下型3内の前記没入位置にまで後退する。入れ子作動体6が作動体収納室11の底面に接触すると、可動入れ子7はそれ以上下動できなくなる。従って、金属板材Mの前記谷部の両側が上型4の山型付形部42と下型3の山型付形部32とに挟圧され、その結果、金属板材Mには図4の二つの山部に相当する形状が付与される。
【0028】
なお、プレス加工装置の上型4によるプレス力Pと、上型4の動作開始からの経過時間tとは、一般に図5のような関係にある。つまり、プレス力Pの設定値(目標値)がP2である場合でも、いきなりP2のプレス力が発現するわけではなく、P2のプレス力に到達するまでにプレス力の変化期間がある。本実施形態では、このようなプレス力Pの経過特性をうまく利用し、プレス力の変化期間中のプレス力P1で谷部付形を行い、その後に設定値(目標値)通りのプレス力P2が発現するタイミングで山部付形を行った。仮に前記設定クッション力SがP1以上P2以下となるような上型4の動作タイミングを設定するならば、上記第1及び第2付形工程が円滑化することは言うまでもない。
【0029】
第2付形工程の完了後、下型3から上型4を離間させ、成形品を型外しすることで、図4(A)及び(B)に示すような形状のドアビームが得られる。
【0030】
本実施形態に準拠した試作実験によれば、上型4の設定プレス力P2を1500kNとする条件の下で、ダイクッション装置8の設定クッション力Sを50kN以上に設定した場合には、成形品(ドアビーム)は全て良品となった。これに対し、ダイクッション装置8の設定クッション力Sを50kN未満(例えば40kN)に設定した場合には、成形品(ドアビーム)にワレ等の不良が生じた。おそらく、設定クッション力Sが50kN未満のケースでは、最初の受圧時における可動入れ子7の反発作用が十分でなく、従来のワンステップスタンピングと比べて有意差がないためであろう。
【0031】
以上説明したように本実施形態によれば、上記プレス加工装置を用いることで、出発材たる金属板材Mに対して二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を付与する手順が、上型4の下型3への接近という一つの連続したプレス動作の流れの中にあっても若干の時間差を伴う二段階の手順として実現される。つまり、第1付形工程で金属板材Mに谷部に相当する形状を付与した後に、可動入れ子7が前記突出位置から、ダイクッション装置8の付勢力又は反発力に逆らって没入位置に後退するまでの時間差分だけ遅れた第2付形工程で、金属板材Mに二つの山部に相当する形状が付与される。このため、従来のワンステップスタンピングと異なり、出発材となる金属板材Mに材料延びが少ないというような事情が存在する場合であっても、ワレの発生を極力回避しつつ、二つの山部の間に谷部が存在するというような断面形状を持ったドアビームを製造することができる。
【0032】
また、本実施形態では、加熱状態の金属板材Mをプレスすることで付形と焼入れとを同時達成するダイクエンチ法を採用している。このため、得られたドアビームは、平らな金属板材Mのときよりも剛性や硬度が向上すると共に、型外し後もほとんどスプリングバックを生じず寸法精度及び保形性に優れたものとなる。
【0033】
(変更例)上記実施形態では、可動入れ子7を突出方向に付勢するための入れ子付勢手段としてダイクッション装置8を用いたが、これに限らず入れ子付勢手段は、スプリングやガス封入式スプリング等の機械構造で代替されてもよい。
【0034】
本発明の適用対象となる車体構成材としては、ドアビームのほかに、バンパーリインフォースメントや、ルーフリインフォースメント等を例示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】材料セット段階におけるプレス加工装置の概略断面図。
【図2】第1付形工程におけるプレス加工装置の概略断面図。
【図3】第2付形工程におけるプレス加工装置の概略断面図。
【図4】車体構成材としてのドアトビームを示し、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X線での横断面図。
【図5】プレス加工装置におけるプレス圧Pと時間tとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0036】
1…基台、2…下型支持台、3…下型(第1の型)、4…上型(第2の型)、5…上型保持台、6…入れ子作動体、7…可動入れ子、8…ダイクッション装置(入れ子付勢手段)、32…下型の山形付形部、41…上型の谷形付形部、42…上型の山形付形部、71…可動入れ子の谷形付形部、B…ベッド、M…金属板材(出発材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対接近離間可能な第1の型及び第2の型と、前記第1の型によって前記両型の接近離間方向に出没可能に保持された可動入れ子と、前記可動入れ子を前記第2の型に向けた突出方向に付勢可能な入れ子付勢手段とを備えたプレス加工装置を用いて、二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を有する車体構成材を製造する方法であって、
離間状態にある可動入れ子付き第1の型と第2の型との間に金属板材をセットする材料セット工程と、
第1の型と第2の型とを相対接近させ、第2の型で第1の型から所定量だけ突出した可動入れ子を没入方向に相対押圧することにより、可動入れ子と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記谷部に相当する形状を付与する第1付形工程と、
前記第1付形工程から更に第1の型と第2の型とを相対接近させ、前記入れ子付勢手段の付勢力設定値以上の押圧力でもって、第2の型で可動入れ子及び第1の型を没入方向に相対押圧することにより、可動入れ子と第2の型とによる前記谷部の付形状態を維持したまま可動入れ子を第1の型内に後退させ、第1の型と第2の型とに挟圧される金属板材に対して前記二つの山部に相当する形状を付与する第2付形工程と
を備えることを特徴とする車体構成材の製造方法。
【請求項2】
前記材料セット工程では、加熱状態にある金属板材が第1の型と第2の型との間にセットされることを特徴とする請求項1に記載の車体構成材の製造方法。
【請求項3】
二つの山部の間に谷部が存在するような断面形状を有する車体構成材を製造するためのプレス加工装置であって、
相対接近離間可能に設けられた第1の型及び第2の型と、
前記第1の型によって前記両型の接近離間方向に出没可能に保持された可動入れ子と、
前記可動入れ子を前記第2の型に向けた突出方向に付勢可能な入れ子付勢手段と
を備えており、
前記可動入れ子及び第2の型には、両者の最接近時に車体構成材の前記谷部を形成するための谷形付形部がそれぞれ設けられ、
前記第1及び第2の型には、両者の最接近時に車体構成材の前記二つの山部を形成するための山形付形部がそれぞれ設けられ、
前記入れ子付勢手段は、所定の付勢力設定値(S)を持つと共に、可動入れ子が第2の型によって前記付勢力設定値(S)以上の押圧力(P)でもって押圧されたとき、可動入れ子の第1の型内への後退を許容しつつその押圧力に対する反発力を発揮する
ことを特徴とするプレス加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−7251(P2006−7251A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185721(P2004−185721)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】