説明

車体精度傾向管理システム

【課題】
品質管理者が車体精度の異常の兆候予測を行うことができ、品質向上、開発・管理コスト低減を行うことができる車体精度傾向管理システムを提供する。
【解決手段】
車体精度傾向管理システムは、車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された複数の測定値を測定部位毎に測定時刻とともに入力する入力装置20及び通信部18と、入力された測定値群を測定部位毎に時系列で保存する測定値データベース56を備える。前記システムは、測定部位毎に前記測定値群の統計処理を行い、所定の時間単位毎の平均値と標準偏差、又は、所定の時間単位毎の平均値と測定値の最大値及び最小値を出す処理装置10を備える。前記システムは、前記統計処理の結果を時系列でグラフにし、該グラフと該測定部位の管理値(基準値)とを出力するディスプレイ30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体精度傾向管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体製造において、組付け等の品質管理を行う際、特許文献1の車両組付け精度管理方法が提案されている。特許文献1は、車両の製造ラインにおいて、それぞれの車両構成部品等毎に組付け位置データを説明変数とし、最終又は中間の完成車両の組付け精度を表わす基準組付け位置データを目的変数として、前記説明変数と目的変数に基づいて回帰分析を行い、寄与率の相対的に高い部品等を特定して、目的変数を適宜の組付け精度に調整する方法となっている。
【0003】
又、特許文献2では、品質データを端末から受信し、統計処理を行って製品の品質管理を行うための特性値を算出し、該特性値をプロットした管理図を作成し、管理図上の異常点を検出することにより、品質データが採取された工程に異常がある場合に警告を行う品質管理システムが提案されている。
【0004】
さらに、特許文献3では、製造工程の生産ラインに設けられている検査工程毎に測定値を取り込みして該測定値が工程異常診断データベースに格納された許容範囲内か否かを診断する生産ラインの工程異常自動診断システムが提案されている。
【0005】
又、特許文献4では、検査工程の良不良判定及び検査項目毎の測定値を含む検査結果を蓄積する手段と、不良率及び検査項目毎の測定値の管理限界を管理限界値と連続上昇回数及び連続低下回数と上昇率及び低下率によって定めた不良管理テーブルとを有する品質管理システムが提案されている。この品質管理システムでは、検査結果の収集の度毎に周期的に不良率を計算し、不良率が不良管理テーブルに定めた管理限界を超えている場合、過去の一定期間にわたっての不良率と管理限界を超えた検査項目の測定値の時間推移を表わすグラフを出力するようにしている。
【0006】
特許文献5では、部品の寸法規格を示す情報と、ユニットの品質良否の判定に利用するユニットの設計仕様を示す情報と、部品を実際に測定することにより得られる部品の寸法のばらつきに関する情報とに基づいて、ユニットの組立不良率を求めるシステムが提案されている。
【特許文献1】特開2006−264521号公報
【特許文献2】特開2006−79354号公報
【特許文献3】特開平10−206200号公報
【特許文献4】特開平2−98632号公報
【特許文献5】特開2006−23238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、寄与率の相対的に高い部品等を特定して、目的変数を適宜の組付け精度に調整することになるが、この方法は、寄与率の相対的に高い部品等を特定して、目的変数を適宜の組付け精度に調整することはできても、部品毎或いは組立自体の組付け精度の時系列の変化を見ているものではない。
【0008】
又、特許文献2、特許文献3及び特許文献4では、品質データが採取された工程に異常の有無判定、測定値が許容範囲か否かの判定、或いは不良率が管理限界を超えているか否かの判定を行うことになる。しかし、これらは、異常が生じた場合以後に、品質管理のために対応することができるが、品質管理を行うためには、異常が生ずる前に対応できることが望ましい。又、特許文献5では、単にユニットの不良率を求めるだけであるから、この不良率が分かるだけでは、品質管理の向上のための対応が後手になる問題がある。
【0009】
本発明の目的は、品質管理者が車体精度の異常の兆候予測を行うことができ、品質向上、開発・管理コスト低減を行うことができる車体精度傾向管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された複数の測定値(以下、測定値群という)を検査項目毎に測定時刻とともに入力する入力手段と、前記入力された測定値群を前記検査項目毎に時系列で保存する測定値データベースと、前記検査項目毎に前記測定値群の統計処理を行い、所定の時間単位毎の平均値と標準偏差、又は平均値と測定値の最大値及び最小値を出す統計処理手段と、前記統計処理の結果を時系列でグラフにし、該グラフと、該検査項目の基準値とを出力する出力手段を備えることを特徴とする車体精度傾向管理システムを要旨とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、前記統計処理手段の統計処理結果のグラフが描く傾向パターンが生ずる原因情報と、その傾向パターンを解消する対策情報を入力する傾向パターン対策情報入力手段と、入力された前記原因情報と、対策情報を該傾向パターンと関連付けて格納する傾向パターン対応情報データベースを備え、前記出力手段は、特定の検査項目において、新規に得られた傾向パターンがあった際、前記傾向パータン対応情報データベース中の該検査項目に係る過去の傾向パターンと該傾向パターンに関する原因情報と対策情報を出力することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記検査項目毎に、前記グラフが描く傾向パターンを、基準値との比較に基づいて評価する評価手段を備え、前記測定値データベースに、当該評価した検査項目の傾向パターンの測定値群と関連付けて格納することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3において、前記出力手段は、車体製造に使用する構成部品の一覧が出力可能にされており、該一覧が出力された際、前記検査項目に関連する構成部品に対して、該検査項目に関する傾向パターンの評価の表示を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4において、前記評価手段は、前記傾向パターンを、前記基準値との比較に基づいてクラス評価し、前記出力手段は、前記一覧が出力された際、前記検査項目に関連する部品又は組立体に対して、該検査項目に関する傾向パターンのクラス評価の表示を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された測定値群を検査項目毎に統計処理を行って、統計処理の結果を時系列でグラフにして、該グラフと該検査項目の基準値を出力することから、品質管理者が車体精度の異常の兆候予測を行うことができる。この結果、品質向上、開発・管理コスト低減を行うことができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、出力手段が、特定の検査項目において、新規に得られた傾向パターンがあった際、前記傾向パターン対応情報データベース中の該検査項目に係る過去の傾向パターンと該傾向パターンに関する原因情報と対策情報を出力する。この結果、該新規な傾向パターンに対応した原因情報と対策情報を効率的に得ることができ、精度向上のための対応を迅速に行うことができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、評価手段が、所定の時間単位毎の平均値と標準偏差の時系列が描く傾向パターンを、基準値との比較に基づいて評価して、測定値データベースに、当該評価した検査項目の傾向パターンの測定値群と関連付けて格納することから、検査項目において、過去に得られた傾向パターンの評価を得ることができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、出力手段が車体製造に使用する構成部品の一覧が出力可能にされており、該一覧が出力された際、検査項目に関連する構成部品に対して、該検査項目に関する傾向パターンの評価の表示を行うことから、どの構成部品に車体精度向上のためのアクションを起こすかを即座に判断することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、出力手段により、一覧が出力された際、検査項目に関連する構成部品に対して、該検査項目に関する傾向パターンのクラス評価の表示を行うことから、どの構成部品に車体精度向上のためのアクションを起こすかをクラス別に応じて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を車体製造のための工場又は管理センタ等に設けられた車体精度傾向管理システムに具体化した一実施形態を図1〜7を参照して説明する。
図1は、車体精度傾向管理システムの要部を概略的に示したブロック図である。同図に示すように、車体精度傾向管理システムは、コンピュータからなる処理装置10と、図示しないキーボードやマウスなどを備えた入力装置20と、ディスプレイ30と、印字装置40と、記憶装置50とを備える。処理装置10はCPU12と、所定のプログラムや統計処理を行うための計算プログラムなどを格納したROM14と、各種データを一時記憶するRAM16、及び外部の複数の測定装置(図示しない)と通信を行う通信部18とを備える。通信部18は、例えば、LAN等により前記複数の測定装置と通信が可能とされ、精度測定情報の入力が可能となっている。なお、処理装置10は統計処理手段、及び評価手段に相当し、入力装置20は、入力手段及び傾向パターン対策情報入力手段に相当する。又、ディスプレイ30は出力手段に相当する。
【0021】
次に、上記のように構成された車体精度傾向管理システムの記憶装置50について説明する。
まず、記憶装置50は、基本情報データベース52、傾向パターン対応情報データベース54、測定値データベース56を備える。
【0022】
基本情報データベース52は、車体製造に関係する各種の車両情報、車両毎に該車両を構成する各種構成部品情報(アッシーを含む)、各種構成部品における少なくとも1つ以上の測定部位情報からなる。車両情報は、車両を特定するための情報である。
【0023】
前記構成部品情報(アッシーを含む)は、前記車両を構成する構成部品を特定するための情報であって、該車両の車両情報と関連付けされている。又、該構成部品がアッシーの場合、そのアッシーを構成するサブアッシー、又は部品単体は、該アッシーに対して階層構造となるように関連付けられている。図2は、ある車両のシェルボデーアッシーの例を示し、シェルボデーアッシーには、フロント回り建付け(アッシー)が関連付けられ、その下層には、フロント回り建付けを構成するフードアッシーとフェンダーアッシーが関連付けられている。又、フードアッシーの下層には、このフードアッシーを構成するフードアウター、フードインナー、フードリンホース、フードヒンジリンホースの各構成部品が関連付けられている。又、構成部品情報には、各構成部品を表わす画像情報が関連付けられていて、基本情報データベース52に格納されており、ディスプレイ30、及び、印字装置40に出力可能である。図3には、図2で示した、階層構造(本実施形態では、ツリー構造)の構成部品を前記画像情報に基づいて表示した例が示されている。
【0024】
このように車両を構成する構成部品の一覧表示(ツリー構造での一覧)は、入力装置20を介して一覧表示モードを選択することにより、可能である。
測定部位情報は、各構成部品において、検査の測定に必要な部位を特定するための情報であり、構成部品情報に関連付けされている。例えば、特定のアッシーにおいて、3箇所の測定部位がある場合には、その3箇所の測定部位を特定するための情報が、該アッシー(構成部品)に関連付けられている。又、測定部位情報には、各測定部位毎に、測定部位の「正寸」、「基準公差」、「限界値」等の諸条件が入力装置20により入力(登録)されて、該測定部位情報に関連付けされている。
【0025】
これらの基本情報は、入力装置20により、基本情報データベース52に登録される。なお、前記通信部18を介して他の端末が備える入力装置を入力手段として前記基本情報を入力するようにしてもよい。
【0026】
測定値データベース56には、精度測定情報が格納されている。
精度測定情報は、車体製造時に各種工程で設けられている検査による測定部位毎の測定値群と、測定部位が測定された時刻情報、すなわち測定時刻(年,月,日,時,分を含む)からなり、両情報は相互に関連付けされるとともに、測定部位情報と関連付けされて、基本情報データベース52の測定部位情報毎にファイル化されている。なお、前記測定部位は、検査項目に相当する。
【0027】
精度測定情報は、入力装置20を介して、或いは前記図示しない測定装置からリアルタイムに測定値データベース56に取り込み(すなわち、登録)される。この精度測定情報が、前記時刻情報を備えることにより、測定部位毎の測定値の履歴を得ることができる。この場合、前記測定装置は入力手段に相当する。
【0028】
傾向パターン対応情報データベース54は、原因情報、対策情報、対策確認情報、及び、傾向パターンがある特定の期間の統計処理結果情報からなり、これらの情報は、前記測定値データベースにおいて、測定部位情報と関連付けされた精度測定情報の時刻情報のうち、特定の期間に関連付けされている。この特定の期間とは、後述する統計処理が行われた際に、統計処理結果に後述する傾向パターンが出ている期間である。
【0029】
ここで、統計処理は、測定部位において、所定の時間毎に測定値群が得られた際に、これらの測定値の平均(xbar)と標準偏差σの算出処理、又は測定値の平均(xbar)と、測定値の最大値及び最小値の抽出処理である。ここで所定の時間とは、測定部位の測定時間のまとまりであり、本実施形態では時間単位、日単位、週単位、月単位のいずれかとなる。なお、所定の時間単位とは、これらの単位に限定されるものではなく、2時間毎、3時間毎、2週間毎、2月毎のように、あるまとまりのものでよく、限定されるものではない。
【0030】
又、傾向パターンとしては、例えば図7(a)〜(e)に示すような傾向パターンを挙げることができる。なお、図7(a)〜(e)において、上向き矢印の頂点は測定値における+3σを示し、下向きの矢印の頂点は測定値の−3σを示す。なお、測定値が正規分布を示す場合、平均値±3σの範囲には測定値の99.73%が存在することになる。
【0031】
図7(a)は、「中央値変化型」を示し、中央値を挟んで管理上限値、管理下限値がある場合、測定値の平均値が時間の経過とともに、徐々に変化している。図7(b)は、「バラツキ拡大型」を示し、測定時刻毎の測定値の+3σ、及び−3σが時間の経過とともにその差が大きくなる場合である。図7(c)は、「工程能力不足型」を示し、測定時刻毎の測定値の+3σ、及び−3σがもともとばらつきが大きい場合である。図7(d)は、「中央値ズレ型」を示し、平均値が、いずれの測定時刻においても中央値からズレている。図7(e)は、「突発バラツキ拡大型」を示し、ある測定時刻において、測定値の+3σ、−3σの差が他の測定時刻のものよりも突然大きくなっている。
【0032】
なお、これらの傾向パターンは例示であって、傾向パターンはこれらに限定されるものではない。
原因情報は、前記のような傾向パターンがある場合、その傾向パターンが生ずる原因、或いは問題点を示した情報である。対策情報は、前記のように傾向パターンを解消するための対策を示した情報である。対策確認情報は、前述の対策が行われた結果の情報である。
【0033】
これらの原因情報、対策情報、及び対策確認情報は、傾向パターン対策情報入力手段としての入力装置20から、入力可能である。
(作用)
さて、上記のように構成された車体精度傾向管理システムの作用を説明する。
【0034】
なお、入力装置20等の入力手段により、あらかじめ基本情報データベース52に基本情報が格納され、測定値データベース56には、過去の測定値群が格納され、傾向パターン対応情報データベース54には、前記測定値データベース56に格納された各種傾向パターンに対応した原因情報、対策情報、対策確認情報が格納されているものとする。
【0035】
車体精度傾向管理システムに、ある構成部品のある測定部位に関して所定の測定時刻毎に測定値群が、通信部18を介して、或いは入力装置20にて入力されて精度測定情報のファイルが格納されている。
【0036】
ここで、特定の測定部位のファイルを統計処理する場合、品質管理者は、ディスプレイ30上の表示画面70のファイル名欄72に特定の測定部位を指定するファイル名を入力する。又、表示画面70の集計区分欄74には、時間単位、日単位、週単位、月単位を選択する項目欄が設けられており、品質管理者は、いずれかの項目欄を選択入力する。
【0037】
又、表示画面70の集計区分領域73には、測定値の表示範囲を時間的に区切るための期間入力設定欄75が設けられており、品質管理者は、期間入力設定欄75に表示範囲を入力する。又、図4に示すディスプレイ30の表示画面70の表示/非表示選択領域71において、「平均(xbar)」、「3σ」、「max/min」を選択可能になっており、又、「規格値」、「管理値」では、表示するべき測定部位の規格値、管理値の入力設定が可能になっている。そこで、品質管理者は、これらのうち希望する項目を選択、及び入力設定する。
【0038】
そして、品質管理者は、表示/非表示選択領域71で、いずれかを選択、及び入力設定し、表示画面70のファイル名欄72を「開く」ボタンキー72aを入力装置20にて操作する。すると、CPU12は、これを受けて、ファイル名欄72のファイルを読込みし、表示範囲で設定された期間において、集計区分欄74で選択された単位毎に、表示/非表示選択領域71で選択された項目の指示に従って入力された測定値群の統計処理を行ない、グラフ表示領域80に統計処理結果をグラフ化して表示する。併せて、CPU12は、入力設定された「規格値」、「管理値」を表示する。「規格値」及び「管理値」は基準値に相当する。これらの値は数値表示でもよく、或いは、前記統計処理結果がグラフ化された際に、そのグラフとともに表示画面70上にライン表示するようにしてもよい。
【0039】
図4の例では、「平均(xbar)」、「3σ」が選択され、日単位が設定されているため、CPU12は、日単位で測定値の平均値及び標準偏差σを算出する。そして、CPU12は該統計処理結果を、ディスプレイ30のグラフ表示領域80に平均(xbar)と±3σで表示する。
【0040】
なお、統計処理において、「平均(xbar)」、「max/min」が選択されている場合、CPU12は、測定値の平均(xbar)と、測定値の最大値及び最小値を抽出処理し、xbar−R管理図で表示する。なお、xbar−R管理図は、平均(xbar)とR(範囲:測定値の「最大値−最小値」)をグラフ化したものである。
【0041】
前述したように図4は例示であり、ここでは、ディスプレイ30の表示画面の例示であり、ある測定部位の「測定穴」を測定時刻の単位を1日として、統計処理結果(すなわち、平均(xbar)と±3σ)の時間的変移を示している。すなわち、同図に示すように、測定値の表示の時間的な範囲(図示の例では、2008/06/27〜2008/07/04)が設定されて、この期間の統計処理結果が日単位毎にグラフ化されている。図4では、グラフ表示領域80に統計処理結果がグラフにして表示される。又、本実施形態では、図4に示すように、ディスプレイ30の表示画面の表表示領域90には、測定値を表形式で表示する。
【0042】
ここで、図5に示すように、統計処理結果が管理値、或いは規格値を越える傾向パターンとなった際、品質管理者が入力装置20を操作して、コメント記入モードに設定する。すると、CPU12は、これを受けてコメント記入モードとなり、ディスプレイ30に図5に示すように精度課題コメント記入欄100、対策コメント記入欄110、対策確認コメント記入欄120を表示する。この表示状態で、品質管理者は、入力装置20のキーボートのキー入力により各欄にコメントを記入する。精度課題コメント記入欄100には、そのような傾向パターンが生ずる原因、課題がコメントとして記入される。対策コメント記入欄110には、そのような傾向パターンを解消するための対策がコメントとして記入される。又、対策確認コメント記入欄120には、前記対策がとられた結果の確認された事項がコメントとして記入される。
【0043】
この精度課題コメント記入欄100、対策コメント記入欄110、対策確認コメント記入欄120に記入されたコメント(内容)は、それぞれ原因情報、対策情報、対策確認情報となるものである。そして、記入後、品質管理者が各欄に対応して表示された登録キー102,112,122を図示しないマウス等にて操作すると、次の処理が行われる。
【0044】
すなわち、CPU12は、当該測定値の測定部位情報と関連付けされた精度測定情報の時刻情報のうち、傾向パターンが出ている期間(すなわち、表示範囲で設定された期間である表示画面70に表示されている期間)を特定の期間にして、各欄に記入されたコメントを、該特定の期間に関連付けして、傾向パターン対応情報データベース54に格納する。この格納の際に、後に当該測定部位毎に傾向パターンの検索を品質管理者ができるように、傾向パターンの読出しのための識別データを当該傾向パターンに関連付けする。又、前記傾向パターンが出ている特定の期間の統計処理結果も傾向パターンがある特定の期間の統計処理結果情報として、前記識別データと関連付けされて傾向パターン対応情報データベース54に格納される。又、このように統計処理結果が管理値、或いは規格値を越える傾向パターンが生じた測定部位に関係する構成部品情報には、管理注意フラグを付与して基本情報データベースに格納する。
【0045】
このようにして傾向パターンが発生する毎に、前記精度課題コメント記入欄100、対策コメント記入欄110、対策確認コメント記入欄120に記入されたコメントをそれぞれ登録することにより、傾向パターン対応情報データベース54が構築される。又、この傾向パターンを検索する場合は、測定部位情報と前記傾向パターンの識別コードを入力することにより、その識別コードが付与された傾向パターンが傾向パターン対応情報データベース54から読み出され、前記特定の期間の傾向パターンがディスプレイ30に表示される。
【0046】
例えば、ある測定部位に関して新たな測定値群の統計処理結果がグラフ化された際に、ある種の傾向パターンがみられるときは、品質管理者は、該測定部位に関する過去に似た傾向パターンを検索するべく、当該測定部位の測定部位情報と、該当すると思われる傾向パターンの識別コードを入力装置20を介して入力する。この入力された測定部位情報と識別コードに基づいて、CPU12は、傾向パターン対応情報データベース54から、過去の傾向パターンを検索し、その検索結果を、ディスプレイ30に表示する。
【0047】
この検索は、識別コードを複数入力して「OR」条件で検索することも可能である。
図6には、複数の傾向パターンの識別コードを「OR」条件とし、かつ、測定部位情報を「AND」条件にしてディスプレイ30に表示された結果を示す。図6は、CPU12によりディスプレイ30には、当該測定部位において、種々の傾向パターンが表示され、かつ、原因情報、及び対策情報が表示されたものが図示されている。なお、説明の便宜上、対策情報は図6には図示がされていないが、ディスプレイ30の表示画面上を、例えば、図6において、スクロールすると、それぞれの傾向パターンに対応した、対策確認情報も表示される。図6において、K1,K2はそれぞれ管理値の上限値及び下限値、Tは中央値である。
【0048】
又、本実施形態では、傾向パターンが出ている統計処理結果のグラフと、原因情報と、対策情報と、対策確認情報を表示するようしているが、傾向パターンが出ている統計処理結果のグラフと、原因情報と、対策情報を表示するようにしてもよい。
【0049】
このように検索して、過去の傾向パターンに付与された原因情報、対策情報及び対策確認情報が表示されることにより、品質管理者は、新たな測定群の統計処理結果に、ある種の傾向パターンがあった場合、対応する過去の傾向パターンを検索して表示して、新たな傾向パターンが発生した測定部位について最も適切な対索を立てることができる。
【0050】
又、本実施形態では、車両を構成する構成部品の一覧表示(ツリー構造での一覧)は、入力装置20を介して一覧表示モードを選択することによりディスプレイ30上に車両を構成する構成部品の一覧表示が可能である(図3参照)。
【0051】
このように、CPU12は、階層構造(本実施形態では、ツリー構造)の構成部品を画像表示すると、評価結果である管理注意フラグが付与された構成部品情報を有する構成部品の画像には、表示色を通常の表示色とは異なるように、例えば、画像情報の背景色を白から、赤色等のように注意喚起するための色を表示する。この結果、ツリー構造のように車両を構成する種々の構成部品が一覧表示された場合、注意喚起するための色が表示された画像情報が示されていれば、品質管理者は、車両を構成する構成部品のうち、どの構成部品が問題があるかを人目で視認することができる。この結果、品質管理者が問題がある構成部品に対して早期に対策を行うことができる。なお、色表示に変えて、注意喚起のためには、評価結果である管理注意フラグが付与された構成部品情報を有する構成部品の表示画像をフラッシュ表示するようにしてもよく、注意喚起の方法は限定されるものではない。他に、例えば、×印、△印等の注意喚起マークを当該構成部品の画像情報上に表示するようにしてもよい。
【0052】
又、本実施形態では、車両の構成部品に関して、リアルタイムに測定部位の測定値群を取り込むことも可能であり、又、一旦、ファイル化された精度測定情報として収集することも可能である。このようにして車両の構成部品に関する精度測定情報を一元管理することが可能となる。
【0053】
又、本実施形態では、傾向パターンを把握し、その原因情報にてその特性をつかみ、それに対する対策情報と、現状(新たな)の精度測定情報の傾向を比較することができ、将来発生する可能性のある不具合を予知して、事前の対策を取ることができる。又、対策情報といったノウハウ的情報を蓄積するため、品質管理者の交替等で発生する経験不足を補うことができ、管理の標準化ができるものとなる。
【0054】
以上のように構成された車体精度傾向管理システムは、下記の特徴がある。
(1) 本実施形態の車体精度傾向管理システムは、車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された複数の測定値(以下、測定値群という)を測定部位(検査項目)毎に測定時刻とともに入力する入力装置20及び通信部18(入力手段)と、入力された測定値群を測定部位毎に時系列で保存する測定値データベース56を備える。又、車体精度傾向管理システムは、測定部位(検査項目)毎に前記測定値群の統計処理を行い、所定の時間単位毎の平均値と標準偏差、又は、所定の時間単位毎の平均値と測定値の最大値及び最小値を出す処理装置10(統計処理手段)を備える。さらに、車体精度傾向管理システムは、前記統計処理の結果を時系列でグラフにし、該グラフと該測定部位の管理値(基準値)とを出力するディスプレイ30(出力手段)を備える。
【0055】
この結果、車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された測定値群を測定部位毎に統計処理を行って、統計処理の結果を時系列でグラフにした傾向パターンと、該測定部位の基準値とを出力することから、品質管理者が車体精度の異常の兆候予測を行うことができる。この結果、品質向上、開発・管理コスト低減を行うことができる。
【0056】
(2) 前記システムは、処理装置10(統計処理手段)の統計処理結果のグラフが描く傾向パターンが生ずる原因情報と、その傾向パターンを解消する対策情報を入力する入力装置20(傾向パターン対策情報入力手段)と、入力された原因情報と、対策情報を該傾向パターンと関連付けて格納する傾向パターン対応情報データベース54を備える。又、車体精度傾向管理システムのディスプレイ30(出力手段)は、特定の測定部位(検査項目)において、新規に得られた傾向パターンがあった際、傾向パターン対応情報データベース54中の該測定部位に係る過去の傾向パターンと該傾向パターンに関する原因情報と対策情報を出力する。
【0057】
この結果、新規な傾向パータンに対応した原因情報と対策情報を効率的に得ることができ、精度向上のための対応を迅速に行うことができる。
(3) 本実施形態の車体精度傾向管理システムは、測定部位(検査項目)毎に、グラフが描く傾向パターンを、規格値又は管理値(基準値)との比較に基づいて評価する処理装置10(評価手段)を備え、測定値データベース56に、当該評価した測定部位の傾向パターンの測定値群と関連付けて格納するようにした。この結果、測定部位(検査項目)において、過去に得られた傾向パターンの評価を得ることができる。
【0058】
(4) 本実施形態の車体精度傾向管理システムは、ディスプレイ30(出力手段)は、車体製造に使用する構成部品の一覧が出力可能にされており、該一覧が出力された際、測定部位に関連する構成部品に対して、該測定部位に関する傾向パターンの評価の表示を行うようにした。この結果、品質管理者が問題がある構成部品に対して早期に対策を行うことができ、どの構成部品に車体精度向上のためのアクションを起こすかを即座に判断することができる。
【0059】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 前記実施形態では、評価する際に、単に色の表示変えを行うようにしたが、基準値である管理値や、或いは規格値に大小関係がある、すなわち、レベルがある複数の値とし、どのレベルを統計処理結果が越えたかに応じて、そのレベルに応じて処理装置10(評価手段)は、傾向パターンを、クラス評価してもよい。この場合、例えば、ディスプレイ30(出力手段)は、構成部品をツリー等による一覧に表示した際、測定部位に関連する構成部品に対して、該測定部位に関する傾向パターンのクラス評価の表示を行う。この場合、クラス評価は、画像のフラッシュ間隔をクラス毎に変えたり、色別でクラス別にする等で行うものとする。このようにすると、どの構成部品に車体精度向上のためのアクションを起こすかをクラス別に応じて行うことができる。
【0060】
○ 傾向パターンを傾向パターン対応情報データベース54に格納する際、この傾向パターンを識別するための識別コードを付与して傾向パターン対応情報データベース54に格納するようにしてもよい。この場合、傾向パターンを検索する際、この識別コードを入力することにより、簡単に対応する過去の傾向パターンの検索が容易に行うことができる。
【0061】
○ 前記実施形態では、統計処理結果等をディスプレイ30に出力するようにしたが、出力手段として印字装置40に出力するようにしてもよい。
○ 前記実施形態では、構成部品は、ツリー構造で表示したが、表形式であってもよく、又、他の一覧表示形式であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】一実施形態の車体精度傾向管理システムの要部を概略的に示したブロック図。
【図2】階層構造の構成部品の例を示す説明図。
【図3】図2で示した、階層構造の構成部品の画像を示す説明図。
【図4】ディスプレイ30の表示画面70における説明図。
【図5】ディスプレイ30の表示画面70における説明図。
【図6】ディスプレイ30の表示画面70における説明図。
【図7】(a)〜(e)は傾向パターンの説明図。
【符号の説明】
【0063】
10…処理装置(統計処理手段、評価手段)、
12…CPU、
14…ROM、
16…RAM
18…通信部、
20…入力装置(入力手段、傾向パターン対策情報入力手段)、
30…ディスプレイ(出力手段)、
40…印字装置(出力手段)、
50…記憶装置、
52…基本情報データベース、
54…傾向パターン対応情報データベース、
56…測定値データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体製造の各種工程で設けられている検査で測定された複数の測定値(以下、測定値群という)を検査項目毎に測定時刻とともに入力する入力手段と、
前記入力された測定値群を前記検査項目毎に時系列で保存する測定値データベースと、
前記検査項目毎に前記測定値群の統計処理を行い、所定の時間単位毎の平均値と標準偏差、又は、所定の時間単位毎の平均値と測定値の最大値及び最小値を出す統計処理手段と、
前記統計処理の結果を時系列でグラフにし、該グラフと該検査項目の基準値とを出力する出力手段を備えることを特徴とする車体精度傾向管理システム。
【請求項2】
前記統計処理手段の統計処理結果のグラフが描く傾向パターンが生ずる原因情報と、その傾向パターンを解消する対策情報を入力する傾向パターン対策情報入力手段と、
入力された前記原因情報と、対策情報を該傾向パターンと関連付けて格納する傾向パターン対応情報データベースを備え、
前記出力手段は、特定の検査項目において、新規に得られた傾向パターンがあった際、前記傾向パターン対応情報データベース中の該検査項目に係る過去の傾向パターンと該傾向パターンに関する原因情報と対策情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の車体精度傾向管理システム。
【請求項3】
前記検査項目毎に、前記グラフが描く傾向パターンを、基準値との比較に基づいて評価する評価手段を備え、
前記測定値データベースに、当該評価した検査項目の傾向パターンの測定値群と関連付けて格納することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車体精度傾向管理システム。
【請求項4】
前記出力手段は、車体製造に使用する構成部品の一覧が出力可能にされており、
該一覧が出力された際、前記検査項目に関連する構成部品に対して、該検査項目に関する傾向パターンの評価の表示を行うことを特徴とする請求項3に記載の車体精度傾向管理システム。
【請求項5】
前記評価手段は、前記傾向パターンを、前記基準値との比較に基づいてクラス評価し、
前記出力手段は、前記一覧が出力された際、前記検査項目に関連する構成部品に対して、該検査項目に関する傾向パターンのクラス評価の表示を行うことを特徴とする請求項4に記載の車体精度傾向管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−134642(P2010−134642A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308937(P2008−308937)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】