説明

車載機器の取付構造

【課題】搭乗者が車載機器に強く衝突したときのダメージを充分に軽減でき、かつ、走行中の振動等で車載機器の取付位置がずれる虞のない「車載機器の取付構造」を提供する。
【解決手段】車載機器3はブラケット1,2を介して車両側の設置部材4に取り付けられる。一方のブラケット1は、車載機器3の側面部に固定される機器取付部10と、車載機器3の下方で設置部材4に固定される車両取付部12と、これら機器取付部10と車両取付部12とを滑らかに連続する湾曲形状に絞り曲げ加工された絞り曲げ部11と、車両取付部12から機器取付部10の前端側へ向かって斜め上方かつ斜め前方へ延びて絞り曲げ部11に連続する傾斜部13と、略前後方向に並設された複数のスリット15とを有し、各スリット15が絞り曲げ部11を横切って延びている。他方のブラケット2はブラケット1と左右対称な形状に形成されているが大きさや基本構造は全く同等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラケットを介して車両内に取り付けられるカーオーディオやカーナビゲーション等の車載機器の取付構造に係り、特に、そのブラケットの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の車載機器は車両内のインストルメントパネル等に設置されることが多いため、急ブレーキ時に搭乗者の頭部等が車載機器に衝突する可能性がある。また、走行中の車両には左右方向や上下方向の振動が路面から伝わりやすく、悪路走行中には車両内が激しく揺れることになる。したがって、車載機器を車両側の設置部材にブラケットを介して取り付ける際には、走行中の振動等で取付位置がずれないようにブラケットに所要の剛性を確保しておかねばならず、かつ、搭乗者の体が車載機器に強く衝突しても人体へのダメージを軽減できるように安全性に配慮しておかねばならない。
【0003】
このような要望に応えるために、前後方向に延びるスロットを設けたガイド部材(振動減衰要素)を車両側の設置部材に固設すると共に、車載機器に締結部材を固設し、この締結部材を通常はスロットの所定位置に係合させて拘持しておき、前方(搭乗者側)から強い衝撃が車載機器に加わったときに、締結部材がスロットに沿って後方へ移動できるようにした車載機器の取付構造が従来より提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる従来技術によれば、通常は、締結部材がガイド部材のスロットの所定位置に拘持されているため、車両の走行中に左右方向や上下方向の振動が加わっても、車載機器の取付位置はずれないようになっている。また、急ブレーキ時等に搭乗者の体が車載機器に衝突すると、その強い衝撃によって締結部材が拘持力に抗してスロット内の後方へスライド移動するため、車載機器が連動して後方へ移動し、それゆえ搭乗者に過大な反力が作用せず人体へのダメージを軽減できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−261571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前述した従来技術では、ガイド部材のスロットの所定位置に締結部材を保持しておく拘持力にばらつきが避け難いため、強い衝撃に対して搭乗者を十分に保護できなかったり、あるいは、搭乗者の不注意などにより日常レベルの押圧力で車載機器を押し込んでしまった場合にもその取付位置がずれてしまう虞があった。すなわち、締結部材に対するガイド部材の拘持力が強過ぎて、搭乗者が車載機器に衝突しても締結部材がスロットに沿って移動できないと、後方移動が阻害された車載機器からの強い反力が搭乗者に作用することになって安全上好ましくない。また、それとは逆に締結部材に対する拘束力が弱過ぎて、人や物が軽くぶつかった程度で車載機器の取付位置がずれてしまうことも性能維持の観点で好ましくない。
【0006】
さらに、前述した従来技術では、搭乗者が車載機器に衝突して締結部材がスロット内の後方へスライド移動した場合にも、締結部材がスロット内での摩擦力に抗して後方移動するだけなので、搭乗者からの衝撃を効果的に吸収することができない。そのため、搭乗者が衝突して車載機器が後方へ若干量移動した時点で、この搭乗者に強い反力が作用する可能性があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、搭乗者が車載機器に強く衝突しても人体へのダメージを充分に軽減でき、かつ、走行中の振動等で車載機器の取付位置がずれる等して性能劣化を招く虞がない車載機器の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、車載機器を両側から挟み込む位置関係で複数のブラケットを該車載機器に固定すると共に、前記車載機器を前記ブラケットを介して車両側の設置部材に取り付けて該車載機器の前面部を車室内に露出させる車載機器の取付構造において、前記ブラケットが、前記車載機器に固定される平板状の機器取付部と、この機器取付部に対して略直交する平板状の車両取付部と、これら機器取付部と車両取付部とを滑らかに連続する湾曲形状に絞り曲げ加工された絞り曲げ部と、この絞り曲げ部を横切って前記機器取付部を切り欠く位置まで延びる複数のスリットとを有し、前記複数のスリットが略前後方向に並設されていると共に、前記車両取付部が前記設置部材に固定されているという構成にした。
【0009】
このように構成された車載機器の取付構造では、複数のスリットを有するブラケットの剛性を絞り曲げ部によって高めているため、ブラケットの機器取付部を車載機器に固定して車両取付部を車両側の設置部材に固定した状態で左右方向や上下方向の振動が加わっても、ブラケットが変形する可能性は極めて低く、それゆえ車両走行中の振動で車載機器の取付位置がずれる虞はない。また、搭乗者の体が車載機器に強く衝突した場合は、略前後方向に並ぶ複数のスリットを有するブラケットが比較的容易に変形するため、かかるブラケットの変形によって前方からの衝撃を効果的に吸収することができる。ただし、所要の剛性が確保されているブラケットは、前方からの衝撃がさほど強くなければ変形することはないので、搭乗者の不注意などにより日常レベルの押圧力が車載機器に作用した時にブラケットが変形する虞はない。つまり、このブラケットは、前方からの衝撃を緩和するために形成した複数のスリットが全体の剛性を低下させることを予め考慮して、絞り曲げ加工により幾何剛性を高めた絞り曲げ部で機器取付部と車両取付部とを滑らかに連続させて全体の剛性を高めているため、車載機器を取付位置に安定的に保持する所要の剛性を確保しつつ、搭乗者が車載機器に強く衝突した際に役立つ優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0010】
上記の構成において、ブラケットが車両取付部から機器取付部の前端側へ向かって斜めに延びて絞り曲げ部に連続する傾斜部を有していると、傾斜部がブラケットの梁や筋交いのような機能を果たすため、左右方向や上下方向の振動に対するブラケットの剛性を一層高めることができる。
【0011】
この場合において、絞り曲げ部の前端部が機器取付部の前端部よりも後方に位置していると、車載機器に対する前方からの衝撃で機器取付部が後方へ強く付勢されたときに、傾斜部と車両取付部の境界部分に応力が集中しやすくなるため、境界部分が速やかに変形してブラケット全体の変形が促進される。それゆえ、前方からの衝撃をブラケットの変形によって確実に吸収することができる。
【0012】
また、上記の構成において、ブラケットの機器取付部の後端部に、複数のスリットのうち最奥に位置するスリットと隣接して奥行き寸法を局所的に狭くした狭小部が設けてあると、車載機器に対する前方からの衝撃で機器取付部が後方へ強く付勢されたときに狭小部に応力が集中しやすくなるため、該狭小部が速やかに変形してブラケット全体の変形が促進される。それゆえ、前方からの強い衝撃をブラケットの変形によって確実に吸収することができる。
【0013】
また、上記の構成において、ブラケットの複数のスリットが機器取付部および前記車両取付部に対して略直交する平面に沿って延びていると、各スリットの周縁部が、左右方向や上下方向の外力に対しては変形しにくく、前後方向の外力に対しては変形しやすくなるため好ましい。
【0014】
また、上記の構成において、車載機器を左右両側から挟み込む位置に配設された一対のブラケットは、それぞれの機器取付部が車載機器の側面部に固定されていると共に、それぞれの車両取付部が車載機器の下方で設置部材に固定されていると、これら一対のブラケットを介して車載機器を所定位置に安定した姿勢でコンパクトに取り付けることが容易となる。
【0015】
この場合において、一対のブラケットの車両取付部どうしが車載機器の下方で互いに近付く向きに突出していると、これら一対のブラケットが車載機器を抱持するように配設できるため、ブラケットを含めた車載機器の取付スペースがコンパクト化しやすくなって好ましい。
【0016】
また、上記の構成において、ブラケットが金属板からなると、加工が容易で機械的強度および耐久性に優れたブラケットが安価に得られるため好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による車載機器の取付構造では、ブラケットの機器取付部を車載機器に固定して車両取付部を車両側の設置部材に固定した状態で左右方向や上下方向の振動が加わっても、絞り曲げ部によって剛性を高めているブラケットが変形する可能性は極めて低いため、車両走行中の振動で車載機器の取付位置がずれる虞はない。また、搭乗者の体が車載機器に強く衝突した場合は、略前後方向に並ぶ複数のスリットを有するブラケットが比較的容易に変形するため、かかるブラケットの変形によって前方からの衝撃を効果的に吸収することができる。ただし、所要の剛性が確保されているブラケットは前方からの衝撃がさほど強くなければ変形することはないので、日常レベルの押圧力が車載機器に作用した時にブラケットが変形する虞はない。それゆえ、かかるブラケットを用いた車載機器の取付構造は、搭乗者が車載機器に強く衝突しても人体へのダメージを軽減できて安全性が高く、しかも、車載機器を取付位置に安定的に保持することができて、走行中の振動等で取付位置がずれる等して性能が劣化する虞がないという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態例に係る車載機器の取付構造を示す説明図である。
【図2】図1の取付構造に使用されるブラケットの斜視図である。
【図3】該ブラケットの側面図である。
【図4】該ブラケットの上面図である。
【図5】該ブラケットの正面図である。
【図6】前方から衝撃を加えて該ブラケットを変形させた状態を示す斜視図である。
【図7】比較例としてのブラケットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態例に係る車載機器の取付構造は、金属板からなる一対のブラケット1,2が車載機器3を左右両側から挟み込む位置に配設されている。各ブラケット1,2はそれぞれ、機器取付部10,20が車載機器3の側面部に固定されると共に、車両取付部12,22が車載機器3の下方で車両側の設置部材4(図1に1点鎖線で示す)に固定されるようになっている。
【0020】
なお、一対のブラケット1,2は左右方向(図1のY1−Y2方向)に対称な形状に形成されているが、大きさや基本構造は全く同等なので、図2〜図6では左側のブラケット1だけを図示しており、以下の説明でも主にこのブラケット1についてのみ詳述する。
【0021】
車載機器3は例えばカーオーディオやカーナビゲーション等の電子機器であり、この車載機器3は直方体形状の外殻部材(筐体)を備えており、図1ではこの外殻部材の外形を2点鎖線で示している。
【0022】
ブラケット1は、車載機器3の側面部に固定される略鉛直な平板状の機器取付部10と、この機器取付部10の底部に連続して設けられた絞り曲げ部11と、この絞り曲げ部11を介して機器取付部10の底部に連なる略水平な平板状の車両取付部12と、この車両取付部12から機器取付部10の前端側へ向かって斜め上方かつ斜め前方へ延びて絞り曲げ部11に連続する傾斜部13と、機器取付部10の前端部から側方へ延出するように折曲加工されたフランジ部14と、絞り曲げ部11を横切って延びる3本のスリット15とを有する。他方のブラケット2も同様に、機器取付部20と絞り曲げ部21と車両取付部22と図示せぬ傾斜部とフランジ部24と3本のスリット25とを有する。
【0023】
ブラケット1の機器取付部10には4箇所に取付孔10aが形成されており、これらの取付孔10aに挿通せしめた図示せぬ取付ねじによって機器取付部10は車載機器3の左側面部に固定される。この機器取付部10は概ね矩形状であるが、機器取付部10の後ろ寄りの底部は下方から後方へとせり出しており、このせり出した部分の一部が各スリット15によって上下方向に切り欠かれている。また、スリット15群のうち最奥に位置するスリット15の上端部の後方には、機器取付部10の狭小部10bが設けられている。この狭小部10bは、最奥のスリット15と隣接して奥行き寸法が局所的に狭められた部位である。なお、他方のブラケット2の機器取付部20は車載機器3の右側面部に固定されており、一対のブラケット1,2の機器取付部10,20どうしが相対向する位置関係に配置される(図1参照)。
【0024】
ブラケット1の絞り曲げ部11は機器取付部10の底部と車両取付部12および傾斜部13とを滑らかに連続する湾曲形状に絞り曲げ加工されており、この絞り曲げ部11の前端部は機器取付部10の前端部よりも後方に位置している。
【0025】
ブラケット1の車両取付部12には取付孔12aが形成されており、この取付孔12aに挿通せしめた図示せぬ取付ねじによって車両取付部12が設置部材4に固定されるようになっている。車両取付部12はブラケット1の台座に相当し、機器取付部10を車載機器3の左側面部に固定することによって車両取付部12が車載機器3の下方に配置される。なお、他方のブラケット2の機器取付部20を車載機器3の右側面部に固定することによって車両取付部22も車載機器3の下方に配置され、一対のブラケット1,2の車両取付部12,22どうしが互いに近付く向きに突出する位置関係となる(図1参照)。
【0026】
ブラケット1の傾斜部13は、車両取付部12との境界部13aから斜め上方かつ斜め前方へ延びている(図2〜図5参照)。この傾斜部13は、絞り曲げ部11の前部を介して機器取付部10の底部に連なっている。
【0027】
ブラケット1の各スリット15は、機器取付部10および車両取付部12に対して略直交する平面(図1のY−Z平面)に沿って延びながら絞り曲げ部11を横切っている。また、各スリット15の上端部は機器取付部10の底部を切り欠く位置まで延びており、各スリット15の下端部は車両取付部12または傾斜部13を切り欠く位置まで延びている。これらのスリット15は、前後方向(図1のX1−X2方向)に略等間隔に並設されている。
【0028】
ブラケット1のフランジ部14は、機器取付部10の前端部から車両取付部12とは逆向きに側方へ突出している。フランジ部14には上下2箇所に取付孔14aが形成されており、これらの取付孔14aに挿通せしめた図示せぬ取付ねじによってフランジ部14が図示せぬパネル等に固定されるようになっている。
【0029】
なお、前述したように、ブラケット1とブラケット2は、互いの形状が左右方向(図1のY1−Y2方向)に対称であるという点を除いて全く同等の構成なので、他方のブラケット2に関する詳細な説明は省略する。
【0030】
このように本実施形態例に係る取付構造にあっては、ブラケット1,2の機器取付部10,20を車載機器3の左側面部と右側面部に固定したうえで、ブラケット1,2の車両取付部12,22を車載機器3の下方で設置部材4に固定すると共に、ブラケット1,2のフランジ部14,24を図示せぬパネル等に固定するため、これら一対のブラケット1,2を介して車載機器3を車両内の所定位置に安定した姿勢でコンパクトに取り付けることができる。すなわち、絞り曲げ部11,21を設けたブラケット1,2には左右方向(Y1−Y2方向)や上下方向(Z1−Z2方向)の振動が加わっても変形しにくい剛性が付与されているため、車載機器3に左右方向や上下方向の振動が加わってもブラケット1,2が変形する可能性は極めて低く、よって車両走行中の振動で車載機器3の取付位置がずれる虞はない。
【0031】
なお、ブラケット1,2の変形例として、機器取付部10,20に対する車両取付部12,22の突出方向を逆向きに設定することも可能であり、その場合、車載機器3の左右側面部にブラケット1,2を取着すると車両取付部12,22どうしが互いに離反する向きに突出して、車載機器3の底面と重なり合わない左右両側で車両取付部12,22が設置部材4に固定されることになる。したがって、この場合も車載機器3を車両内の所定位置に安定した姿勢で取り付けることができるが、ブラケット1,2を含めた車載機器3の取付スペースの左右方向(Y1−Y2方向)の寸法が拡大してしまうためスペースファクタは若干悪くなる。
【0032】
また、本実施形態例に係る取付構造にあっては、搭乗者の体が車載機器3に強く衝突したときには、前後方向(X1−X2方向)に並ぶスリット15,25を有するブラケット1,2が比較的容易に変形するため、かかるブラケット1,2の変形によって前方からの衝撃を効果的に吸収することができる。すなわち、車載機器3に前方からの強い衝撃が加わると、ブラケット1,2の機器取付部10,20が後方へ強く付勢されるため、例えばブラケット1の場合、図6に示すように、傾斜部13の境界部13aや機器取付部10の狭小部10bに応力が集中して比較的容易に変形する。図示していないが、他方のブラケット2も同様の理由で比較的容易に変形する。
【0033】
より詳しく説明すると、ブラケット1の場合、傾斜部13と連続する絞り曲げ部11の前端部が機器取付部10の前端部よりも後方に位置するため、車載機器3に対する前方からの衝撃で機器取付部10が後方へ強く付勢されると、傾斜部13と車両取付部12の境界部分(境界部13a)に応力が集中しやすく、よって境界部13aは速やかに変形する。また、機器取付部10の狭小部10bは最奥のスリット15と隣接して奥行き寸法が局所的に狭められているため、車載機器3に対する前方からの衝撃で機器取付部10が後方へ強く付勢されると、狭小部10bに応力が集中しやすくなり、狭小部10bは速やかに変形する。他方のブラケット2の場合も同様である。それゆえ、前方からの強い衝撃をブラケット1,2の変形によって確実に吸収することができる。
【0034】
ただし、所要の剛性が確保されているブラケット1,2は、前方からの衝撃がさほど強くなければ変形することはないので、搭乗者の不注意などにより日常レベルの押圧力で車載機器3を押し込んでしまったときにブラケット1やブラケット2が変形する虞はない。
【0035】
つまり、左右一対のブラケット1,2は、前方からの衝撃を緩和するために形成したスリット15,25が全体の剛性を低下させることを予め考慮して、絞り曲げ加工により幾何剛性を高めた絞り曲げ部11,21で機器取付部10,20と車両取付部12,22とを滑らかに連続させて全体の剛性を高めているため、車載機器3を所定の取付位置に安定的に保持する所要の剛性を確保しつつ、搭乗者が車載機器3に強く衝突した際に役立つ優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0036】
また、本実施形態例に係る取付構造にあっては、ブラケット1,2がそれぞれ傾斜部13(ブラケット2の傾斜部は図示せず)を有しており、これらの傾斜部13が車両取付部12,22から機器取付部10,20の前端側へ向かって斜め上方かつ斜め前方へ延びて絞り曲げ部11,21に連続しているため、これらの傾斜部13がブラケット1,2の梁や筋交いのような機能を果たしている。したがって、左右方向や上下方向の振動に対するブラケット1,2の剛性が該傾斜部13等によって一層高まっている。
【0037】
また、本実施形態例に係る取付構造にあっては、ブラケット1,2の各スリット15,25が、機器取付部10,20および車両取付部12,22に対して略直交する平面(図1のY−Z平面)に沿って延びているため、各スリット15,25の周縁部は、左右方向や上下方向の外力に対して変形しにくく、前後方向の外力に対して変形しやすくなっている。それゆえ、車両走行中の振動等で車載機器3の取付位置がずれないようにするための所要の剛性を確保しつつ、車載機器3に強く衝突した搭乗者を保護するための衝撃吸収性能が無理なく高められるようになっている。ただし、各スリット15,25の延在方向がY−Z平面に対して若干傾いていても良く、スリット15やスリット25の本数が2本あるいは4本以上であっても良い。
【0038】
図7に示すブラケット6は、本実施形態例に係るブラケット1の比較例として作製したものであり、両者1,6の材料や大きさは同等である。ただし、比較例のブラケット6では、機器取付部10の下端部が単純なL字形状に曲げ加工されて車両取付部12に連続しており、絞り曲げ部11や傾斜部13やスリット15等は形成されていない。また、本実施形態例に係るもう1つのブラケット2の比較例として、図示していないがブラケット6と左右対称な形状のブラケットも作製した。そして、車載機器3に相当する剛体を図1と同様にブラケット1,2を介して設置部材に取り付けた場合と、ブラケット1,2を比較例のブラケット6に置換したうえで該剛体を設置部材に取り付けた場合のそれぞれについて、左右方向の振動に対する最低次固有周波数と、上下方向の振動に対する最低次固有周波数と、前方からの衝撃に対する最大加速度および平均加速度とをそれぞれ測定した。
【0039】
まず、左右方向(図1のY−Y方向)の振動を加えて最低次固有周波数を測定したところ、本実施形態例に係るブラケット1,2を使用した場合は54.9Hzであり、比較例を使用した場合は54.2Hzであった。つまり、本実施形態例に係るブラケット1,2は、絞り曲げ部11,21や傾斜部13等を有しているためスリット15,25が形成されているにも拘らず、左右方向の振動に対する剛性が比較例のブラケット6等と同程度ないし若干上回ることを確認できた。次に、上下方向(図1のZ1−Z2方向)の振動を加えて最低次固有周波数を測定したところ、本実施形態例に係るブラケット1,2を使用した場合は71.7Hzであり、比較例を使用した場合は70.0Hzであった。つまり、この場合も本実施形態例に係るブラケット1,2は、上下方向の振動に対する剛性が比較例のブラケット6等と同程度ないし若干上回ることを確認できた。
【0040】
また、前方から衝撃を加える衝突試験を行って最大加速度と平均加速度(公知の3ミリ秒クリップ加速度)とを測定した結果、本実施形態例に係るブラケット1,2を使用した場合は最大加速度が280.3Gで平均加速度が13.1Gであり、比較例を使用した場合は最大加速度が348.1Gで平均加速度が27.5Gであった。つまり、本実施形態例に係るブラケット1,2は、スリット15,25を有して境界部13aや狭小部10b等で変形しやすいため、衝撃吸収性能が大幅に向上していることを確認できた。
【0041】
なお、ブラケット1,2の材料は適宜選択可能ではあるが、本実施形態例のようにブラケット1,2が金属板からなると、加工が容易で機械的強度および耐久性に優れたブラケットを安価に得られるため好ましい。また、スリット15,25の本数は3本に限定されるものではなく、必要な剛性を得られる範囲で複数本であれば何本でも良い。
【0042】
また、上記の実施形態例では、一対のブラケット1,2の機器取付部10,20を車載機器3の左側面部と右側面部に固定しているが、一対のブラケットの機器取付部を車載機器の上面部または底面部に固定しても良く、その場合、一対のブラケットの車両取付部を車載機器の側方で設置部材に固定すれば良い。さらに、片側について2つ以上のブラケットを用い、車載機器3を複数対のブラケットを介して車両側の設置部材に固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
1,2 ブラケット
3 車載機器
4 設置部材
10,20 機器取付部
10b 狭小部
11,21 絞り曲げ部
12,22 車両取付部
13 傾斜部
13a 境界部
15,25 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載機器を両側から挟み込む位置関係で複数のブラケットを該車載機器に固定すると共に、前記車載機器を前記ブラケットを介して車両側の設置部材に取り付けて該車載機器の前面部を車室内に露出させる車載機器の取付構造において、
前記ブラケットが、前記車載機器に固定される平板状の機器取付部と、この機器取付部に対して略直交する平板状の車両取付部と、これら機器取付部と車両取付部とを滑らかに連続する湾曲形状に絞り曲げ加工された絞り曲げ部と、この絞り曲げ部を横切って前記機器取付部を切り欠く位置まで延びる複数のスリットとを有し、前記複数のスリットが略前後方向に並設されていると共に、前記車両取付部が前記設置部材に固定されていることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記ブラケットが前記車両取付部から前記機器取付部の前端側へ向かって斜めに延びて前記絞り曲げ部に連続する傾斜部を有していることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記絞り曲げ部の前端部が前記機器取付部の前端部よりも後方に位置することを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の記載において、前記機器取付部の後端部に、前記複数のスリットのうち最奥に位置するスリットと隣接して奥行き寸法を局所的に狭くした狭小部が設けてあることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項の記載において、前記複数のスリットが前記機器取付部および前記車両取付部に対して略直交する平面に沿って延びていることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の記載において、前記車載機器を左右両側から挟み込む位置に配設された一対の前記ブラケットは、それぞれの前記機器取付部が前記車載機器の側面部に固定されていると共に、それぞれの前記車両取付部が前記車載機器の下方で前記設置部材に固定されていることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項7】
請求項6の記載において、一対の前記ブラケットの前記車両取付部どうしが前記車載機器の下方で互いに近付く向きに突出していることを特徴とする車載機器の取付構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の記載において、前記ブラケットが金属板からなることを特徴とする車載機器の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−140065(P2012−140065A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293107(P2010−293107)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】