説明

車載用音響診断装置、車載用音響システム、車載用音響診断装置の制御方法および制御プログラム

【課題】ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができるようにする。
【解決手段】複数のスピーカ21〜26を有する車載音響システム100の音響特性を診断するとともに、各スピーカ21〜26に対応する複数のマイク31〜36を有する車載用音響診断装置は、所定の音響特性診断用の測定信号を生成させ、測定信号を複数のスピーカ21〜26に順次個別に供給させて出力される測定音をマイク31〜36を介して収音させ、伝達関数の算出および時間応答特性の測定を行わせ、算出させた伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて車載音響システム100の音響特性診断を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用音響診断装置、車載用音響システム、車載用音響診断装置の制御方法および制御プログラムに係り、特に車載用音響システムを構成しているスピーカを含む音響系の劣化を診断するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スピーカの特性劣化には、いくつかの要因があることが知られている。
具体的には、エッジ部分の経時劣化、取り付け部の緩みに因るがたつき、一部地域では塩害による金属腐食などである。また、端子部の接触不良、ケーブルの断線、コーン紙の劣化、などの要因も考えられる。
一方、スピーカの周波数特性は、理想的には再生帯域内でフラットであり、群遅延特性(位相特性の傾き)も一定であるべきである。しかし現実にはスピーカによってそれぞれ固有の特性を持つ。
【0003】
さらに車載用音響システムに用いられるスピーカにおいては、低周波領域の音がロードノイズに打ち消されないよう、意図的に低域を増強した特性にする場合がある。
ところで、スピーカの特性が劣化するということは、これら個別のスピーカ固有の周波数特性および位相特性が変化するということである。
これらの特性劣化が軽微なときは人間の耳に感じられないので、運転者もしくは同乗者(以下、ユーザという。)が気付かずに、劣化が放置される場合が多いが、何もせずに特性が改善することはない。
したがって、劣化が著しくなり、ユーザが聴感上、不快感を受ける段階に至って、初めて特性の劣化に気付くのが一般的である。
【0004】
ここで、従来の音響特性の評価技術について説明する。
図9は、スピーカの入出力システムとしての概念説明図である。
スピーカを、図9に示すように、ある信号x(t)を入力したときにある信号y(t)を出力する入出力システムとして考える。ここでx(t)、y(t)とは、時間tを引数に持つ時間軸上の信号である。
システムの特性をh(t)とし、x(t)、y(t)、h(t)のフーリエ変換をそれぞれX(ω)、Y(ω)、H(ω)とすると、下記の関係が成り立ち、H(ω)をこのシステムの伝達関数という。ここでωは角周波数である。
Y(ω)=H(ω)×X(ω) ……(式1)
この入出力システムの特性{h(t)もしくはH(ω)}を数学的に把握するために、単位インパルス信号δ(t)をシステムに入力してその出力を観測する。単位インパルス信号δ(t)とは、時間ゼロの瞬間のみ振幅が1で、その他では振幅がゼロのパルス性信号である。式で表すと、下記の式2−1および式2−2で表される。
δ(t)=1 (t=0の場合) ……(式2−1)
δ(t)=0 (t≠0の場合) ……(式2−2)
【0005】
ところで、単位インパルス信号δ(t)がすべての周波数成分を含むことはよく知られている。
単位インパルスのフーリエ変換はωに関わらず1であるから、入力信号x(t)が単位インパルス信号である場合、
H(ω)=1
となるので、出力信号は(式1)より、
Y(ω)=H(ω) ……(式3)
となる。
このことから、インパルス信号をシステムに入力してその出力をフーリエ変換処理することで、システムの伝達関数がわかる。
実際にスピーカの音響特性を調べるときにも、スピーカにインパルス信号を入力し、スピーカーから出る音をマイクで収録する。この出力信号をインパルス応答という。
そして、収録した信号にフーリエ変換の処理を施してスピーカの伝達関数を求める手法が、通常使われている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、実際の測定においては、インパルス信号として、拍手や競技用ピストルのような破裂音を使う場合がある。またインパルス信号の代わりに、インパルスに含まれる各周波数成分の位相を周波数の2乗に比例して変化させて生成したTSP(Time Stretched Pulse)信号を使う場合がある。これはインパルス応答を測定する「TSP法」としてよく知られた手法である。
【特許文献1】特開平11−285100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車載用音響システムを構成するスピーカにおいて、ユーザが気付かないような比較的軽微な音質劣化を放置すると、やがて音質の劣化が著しくなった場合に、ユーザに不快感を与えることになる。
また音質に対する許容範囲は個人によって異なるので、劣化が比較的軽微な場合、あるユーザにとっては問題が感じられない音質でも、別のユーザには不快感を与える場合がある。
そこで、本発明の目的は、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができ、ユーザが早期に対応することが可能な載用音響診断装置、車載用音響システム、車載用音響診断装置の制御方法および制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するための車載用音響診断装置であって、各前記スピーカに対応する一または複数のマイクと、所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成部と、前記測定信号生成部から出力される前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択部と、前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理部と、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行う診断部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、測定信号生成部は、所定の音響特性診断用の測定信号を生成する。
切換選択部は、測定信号生成部から出力される測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する。
これにより、信号処理部は、測定信号が供給されることにより各スピーカから出力される測定音をマイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する。
そして、診断部は、信号処理部が算出した伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて車載音響システムの音響特性診断を行う。
したがって、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができる。
【0010】
この場合において、前記車載音響システムの初期状態における各前記スピーカに対応した伝達関数である初期伝達関数および前記初期状態における各前記スピーカに対応した時間応答特性である初期応答特性を予め記憶する初期特性記憶部を備え、前記診断部は、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性を前記初期伝達関数および前記初期応答特性を参照することにより前記音響特性診断を行うようにしてもよい。
上記構成によれば、単純な比較処理により音響特性診断が行える。
また、前記診断部は、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて、各前記スピーカの周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えているか否かを判別し、前記許容範囲を超えている特性があった場合に、前記車載音響システムにおいて音響特性の劣化があったとの前記音響特性診断を行うようにしてもよい。
したがって、確実に音響特性の劣化を診断できる。
【0011】
また、前記診断部は、前記複数のスピーカのうち、一部のスピーカについて周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えていると判別した場合には、当該許容範囲を超えている前記スピーカが劣化しているとの前記音響特性診断を行うようにしてもよい。
上記構成によれば、確実にスピーカの劣化による音響特性の劣化を診断できる。
また、前記診断部は、前記複数のスピーカの全てについて周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えていると判別した場合には、当該車載用音響システムにおいて、前記スピーカ以外の部分が劣化しているとの前記音響特性診断を行うようにしてもよい。
上記構成によれば、確実に車載用音響システムのスピーカ以外の部分の劣化による音響特性の劣化を診断できる。
【0012】
また、前記診断部により、前記音響特性の劣化があったとの前記音響特性診断がなされた場合には、その旨を告知する告知部を備えるようにしてもよい。
上記構成によれば、ユーザは、容易に音響特性の劣化を知ることができる。
【0013】
また、複数のスピーカと、各前記スピーカに対応する一または複数のマイクと、所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成部と、前記測定信号生成部から出力される前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択部と、前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理部と、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて当該車載音響システムの音響特性診断を行う診断部と、を備えることを特徴としている。
上記構成によれば、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができる。
【0014】
また、複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するための車載用音響診断装置の制御方法であって、所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成過程と、前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択過程と、前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を各前記スピーカに対応する一または複数のマイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理過程と、算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行う診断過程部と、を備えることを特徴としている。
上記構成によれば、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができる。
【0015】
また、複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するとともに、各前記スピーカに対応する一または複数のマイクを有する車載用音響診断装置をコンピュータにより制御するための制御プログラムであって、所定の音響特性診断用の測定信号を生成させ、前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給させ、前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音させ、伝達関数の算出および時間応答特性の測定を行わせ、算出させた前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行わせる、ことを特徴としている。
上記構成によれば、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができる。
この場合において、上記制御プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体にきろくするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができ、ユーザが早期に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、車載用音響システムの主要構成を示すブロック図である。
本実施形態の車載用音響システム100は、スピーカの音質劣化検出機能を備えている。
車載用音響システム100は、大別すると、制御部1、操作部2、表示部3、測定信号生成部4、録媒体再生部5、第1信号切換部6、切換選択部7、パワーアンプ8、マイクアンプ9、第2信号切換部10、信号処理部11、第1記憶部12、診断部13、スピーカ21〜26およびマイク31〜36を備えている。
【0018】
制御部1は、車載用音響システム100のシステム全体を制御するコンピュータとして機能するものであり、図示しないCPU(Central Processing Unit)、CPUが実行する制御プログラムを格納する図示しないROM(Read Only Memory)、各種データを一時的に格納する図示しないRAM(Random Access Memory)および音質劣化検出用データを不揮発的に記憶する第2記憶部1A等を備えている。
操作部2は、ユーザが操作する操作スイッチを備え、操作スイッチを介してユーザからの動作指示を入力して制御部1に通知する。
表示部3は、液晶表示装置を備え、制御部1の制御の下、各種画像を表示する。
【0019】
測定信号生成部4は、インパルス信号(測定信号)を第1信号切換部6に出力する。
記録媒体再生部5は、CDやDVDの再生装置を備え、制御部1の制御に従って、CDやDVDに記録されたデータを読み出し、デコード処理を施して、音声アナログ信号を第1信号切換部6に出力する。
【0020】
第1信号切換部6は、通常時には、記録媒体再生部5側を選択し、音声アナログ信号を切換選択部7に出力する。また、スピーカ21〜26の音質劣化検出時には、測定信号生成部4側を選択し、インパルス信号を切換選択部7に出力する。
切換選択部7は、通常時には、第1信号切換部6を介して記録媒体再生部5から供給される6チャンネル(L、C、R、Ls、Rs、SWチャンネル)の音声アナログ信号をパワーアンプ8を介してスピーカ21〜26に出力する。また、スピーカ21〜26の音質劣化検出時には、第1信号切換部6を介して測定信号生成部4から供給されるインパルス信号を音質劣化検出対象のスピーカに対し順次パワーアンプ8を介して供給する。
マイクアンプ9は、各スピーカ21〜26にそれぞれ個別に対応しているマイク31〜36から6チャンネルの音声入力を受けて、それぞれ増幅し、第2信号切換部10に出力する。
【0021】
ここで、図2を参照して、各スピーカ21〜26とマイク31〜36との対応および配置関係について説明する。
図2は、車両内のスピーカおよびマイクの配置を示す図である。
図2に示すように、フロント右スピーカ21は、車両40の運転席41の前方右側に配置され、センタスピーカ22は、運転席41と助手席42との間の前方に配置され、フロント左スピーカ23は、助手席42の前方左側に配置され、サブウーファ24は、後部座席43の後方中央に配置され、リア右スピーカ25は、後部座席43の後方右側に配置され、リア左スピーカ26は、後部座席43の後方左側に配置されている。
一方、マイク31は、フロント右スピーカ21から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置、例えば、車両の天井等に設けられている。同様に、マイク32は、センタスピーカ22から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置に設けられ、マイク33は、フロント左スピーカ23から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置に設けられ、マイク34は、サブウーファ24から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置に設けられ、マイク35は、リア右スピーカ25から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置に設けられ、マイク36は、リア左スピーカ26から放音されるインパルス信号に対応する音を遮蔽物を介することなく直接集音可能な位置に設けられている。
【0022】
第2信号切換部10は、スピーカ21〜26の音質劣化検出時に、制御部1の制御下で、マイクアンプ9を介してマイク31〜36から供給されるインパルス信号に対応する音に対応するアナログ信号を音質劣化検出対象のスピーカに対応づけて順次、信号処理部11に供給する。
信号処理部11は、マイクアンプ9を介してマイク31〜36からそれぞれ別個に供給されるインパルス信号に対応する音に対応するアナログ信号を処理し、その伝達関数および時間応答特性を算出して、診断部13に供給する。
第1記憶部12は、例えば、工場出荷時等のように予めスピーカ21〜26毎の初期伝達関数および初期時間応答特性を記憶している。
【0023】
診断部13は、信号処理部11から供給された音質劣化検出時の各スピーカ21〜26毎の伝達関数および時間応答特性を第1記憶部12に記憶されているスピーカ21〜26毎の初期伝達関数および初期時間応答特性と比較することによって、スピーカ21〜26毎の音質劣化状況を診断し、診断結果を制御部1に出力することとなる。
次に実施形態の車載用音響システムの動作について説明する。
以下の説明においては、車載用音響システム100の出荷時の初期設定および出荷後の音響特性診断に分けて説明する。
まず、車載用音響システム100は、出荷時に各スピーカ21〜26に対応した伝達関数である初期伝達関数および各スピーカ21〜26に対応した時間応答特性である初期時間特性が第2記憶部1Aに記憶されるようになっている。
【0024】
図3は、出荷時(初期状態)の音響特性データの格納処理フローチャートである。
ここで、音響特性データとしては、伝達関数および時間応答特性が格納される。
出荷前において、オペレータは、操作部2の操作スイッチを操作して車載用音響システム100に初期状態の音響特性データの格納を指示することとなる。
これにより、制御部1は、測定信号生成部4を制御して、測定信号生成部4に、インパルス信号(測定信号)を生成させ、第1信号切換部6に出力させる(ステップS11)。
これと並行して制御部1は、第1信号切換部6に測定信号生成部4側を選択させ、インパルス信号を切換選択部7に出力させ、さらに切換選択部7に第1信号切換部6を介して測定信号生成部4から供給されるインパルス信号を音質劣化検出対象のスピーカ、具体的には、例えば、フロント右スピーカ21に対しパワーアンプ8を介して供給させ、音質劣化検出対象のスピーカからインパルス信号に対応する音を出力させる。
【0025】
この結果、音質劣化検出対象のスピーカから出力されるインパルス信号に対応する音を対応するマイクで収録する(ステップS13)。具体的には、音質劣化検出対象のスピーカがフロント右スピーカ21である場合には、マイク31を介して出力されたインパルス信号に対応する音を収録する。
これにより、マイクアンプ9は、各スピーカ21〜26にそれぞれ個別に対応しているマイク31〜36から6チャンネルの音声入力を受けて、それぞれ増幅し、第2信号切換部10に出力する。
【0026】
図4は、伝達関数としての周波数特性の一例の説明図である。
図5は、時間応答特性としての時間応答特性の一例の説明図である。
図6は、伝達関数としての位相特性の一例の説明図である。
第2信号切換部10は、制御部1の制御下で、マイクアンプ9を介してマイク31〜36から供給されるインパルス信号を音質劣化検出対象のスピーカに対応づけて順次、信号処理部11に供給し、信号処理部11は、マイクアンプ9を介してマイク31〜36からそれぞれ別個に供給されるインパルス信号に対応するアナログ信号をフーリエ変換処理によって処理し、その伝達関数(初期伝達関数:具体的には、図4に示す周波数特性CFINITおよび図6に示す位相特性CPINIT)および時間応答特性(初期時間応答特性:具体的には、図5に示す時間応答特性PINIT)を算出して、診断部13を介して第1記憶部12に供給する(ステップS14)。
この結果、第1記憶部12には、スピーカ毎の初期伝達関数および初期時間応答特性が記憶されることとなる(ステップS15)。具体的には、上述の例の場合、フロント右スピーカ21の初期伝達関数および初期時間応答特性が第1記憶部12に記憶されることとなる。
【0027】
次に、制御部1は、全てのスピーカ21〜26について初期伝達関数の算出および初期時間応答特性の測定が完了したか否かを判別する(ステップS16)。
ステップS16の判別において、未だ全てのスピーカ21〜26について初期伝達関数の算出および初期時間応答特性の測定が完了していない場合には(ステップS16;No)、処理を再びステップS11に移行し、全てのスピーカ21〜26について初期伝達関数の算出および初期時間応答特性の測定が完了し、第1記憶部12に記憶されるまで同様の処理を繰り返すこととなる。
ステップS16の判別において、全てのスピーカ21〜26について初期伝達関数および初期時間応答特性の測定が完了した場合には(ステップS16;Yes)、処理を終了する。
【0028】
次に出荷後の音響特性診断時の処理について説明する。
図7は、出荷後の音響特性診断時の処理フローチャート(1)である。
図8は、出荷後の音響特性診断時の処理フローチャート(2)である。
まず制御部1は、診断を実行するタイミングであるか否かを判別する(ステップS21)。
具体的には、車載用音響システム100が搭載されている車両の使用開始後、ユーザが任意に設定できるスケジュールで、半年あるいは1年に1回、若しくはそれ以上の間隔で、音響特性特性診断を行うように設定すればよい。この場合において、音響特性診断スケジュールは、操作部2においてユーザが入力し、その情報は、制御部1の第2記憶部1Aに記憶されている。なお、スケジュールは、車両メーカーが決めてあらかじめ第2記憶部1Aに記録させておいた初期値をそのまま用いてもよい。また、スケジュールとは別個にユーザの所望のタイミングで音響特性診断を実施するように構成することも可能である。
【0029】
ステップSS21の判別において、音響特性診断を実行するタイミングではない場合には(ステップS21;No)、音響特性診断処理を終了する。
ステップS21の判別において、音響特性診断を実行するタイミングである場合、スケジュールで決められた診断期日が到来して後、ユーザが初めてエンジンをかけた時、あるいは車両のキーをアクセサリ(ACC)位置に回した時に(ステップS21;Yes)、制御部1は、表示部3を制御して、診断時期になった旨のメッセージを表示する。
これにより、ユーザが操作部2を介して診断開始の命令を入力すると(ステップS23)、診断が開始される。
すなわち、制御部1は、測定信号生成部4を制御して、測定信号生成部4に、インパルス信号(測定信号)を生成させ、第1信号切換部6に出力させる(ステップS24)。
これと並行して制御部1は、第1信号切換部6に測定信号生成部4側を選択させ、インパルス信号を切換選択部7に出力させ、さらに切換選択部7に第1信号切換部6を介して測定信号生成部4から供給されるインパルス信号を音質劣化検出対象のスピーカ、具体的には、例えば、フロント右スピーカ21に対しパワーアンプ8を介して供給させ、音質劣化検出対象のスピーカからインパルス信号に対応する音を出力させる(ステップS25)。
この結果、音質劣化検出対象のスピーカから出力されるインパルス信号に対応する音を対応するマイクで収録する(ステップS26)。具体的には、音質劣化検出対象のスピーカがフロント右スピーカ21である場合には、マイク31を介して出力されたインパルス信号に対応する音を収録する。
【0030】
これにより、マイクアンプ9は、各スピーカ21〜26にそれぞれ個別に対応しているマイク31〜36から6チャンネルの音声入力を受けて、それぞれ増幅し、第2信号切換部10に出力する。
第2信号切換部10は、制御部1の制御下で、マイクアンプ9を介してマイク31〜36から供給されるインパルス信号を音質劣化検出対象のスピーカに対応づけて順次、信号処理部11に供給し、信号処理部11は、マイクアンプ9を介してマイク31〜36からそれぞれ別個に供給されるインパルス信号に対応するアナログ信号をフーリエ変換処理によって処理し、その伝達関数(具体的には、図4に示す周波数特性CFSAMPおよび図6に示す位相特性CPSAMP)および時間応答特性(具体的には、図5に示す時間応答特性PSAMP)を算出して(ステップS27)、診断部13を介して第1記憶部12に供給する(ステップS28)。
【0031】
次に、制御部1は、全てのスピーカ21〜26について伝達関数の算出および時間応答特性の測定が完了したか否かを判別する(ステップS29)。
ステップS29の判別において、未だ全てのスピーカ21〜26について伝達関数の算出および時間応答特性の測定が完了していない場合には(ステップS29;No)、処理を再びステップS24に移行し、全てのスピーカ21〜26について伝達関数の算出および時間応答特性の測定が完了し、第1記憶部12に記憶されるまで同様の処理を繰り返すこととなる。
ステップS29の判別において、全てのスピーカ21〜26について伝達関数および時間応答特性の測定が完了した場合には(ステップS29;Yes)、診断部13は、第1記憶部12に記憶してあった初期伝達関数および初期時間応答特性を読み出す(ステップS30)。
【0032】
続いて診断部13は、音響特性診断を行うための許容範囲の判別用数値(周波数特性のレベル差の基準値、時間応答特性のパルス検出時間差の基準値、位相特性の位相遅れ量の基準値など)を制御部1の第2記憶部1Aから読み込む(ステップS31)。
さらに診断部13は、初期伝達関数としての周波数特性CFINITと、周波数特性CFSAMPと、を比較し、初期時間応答特性としての時間応答特性PINITと、時間応答特性PSAMPと、を比較し、初期伝達関数としての位相特性CPINITと、位相特性CPSAMPと、を比較する(ステップS32)。
次に、制御部1は、全てのスピーカ21〜26について伝達関数の比較および時間応答特性の比較が完了したか否かを判別する(ステップS33)。
ステップS33の判別において、未だ全てのスピーカ21〜26について伝達関数の比較および時間応答特性の比較が完了していない場合には(ステップS33;No)、処理を再びステップS32に移行し、全てのスピーカ21〜26について伝達関数の比較および時間応答特性の比較が完了されるまで同様の処理を繰り返すこととなる。
【0033】
ステップS32の判別において、全てのスピーカ21〜26について伝達関数の比較および時間応答特性の比較が完了した場合には(ステップS32;Yes)、診断部13は、伝達関数の比較結果および時間応答特性の比較結果において、許容範囲を超える変動があったか否かを判別する(ステップS34)。
ステップS34の判別において、伝達関数の比較結果および時間応答特性の比較結果において、許容範囲を超える変動があった場合には(ステップS34;Yes)、診断部13は、全てのスピーカ21〜26について一様な劣化が検出されたか否かを判別する(ステップS35)。
ステップS35の判別において、全てのスピーカ21〜26について一様な劣化が検出された場合には(ステップS36;Yes)、診断部13は、その旨を制御部1に通知し、制御部1は、表示部3にスピーカ21〜26以外の音響系の劣化を示唆する、整備勧告情報を表示して(ステップS36)、処理を終了する。
すなわち、すべてのスピーカ21〜26が同程度劣化したという結果になれば、実際にすべてのスピーカ21〜26が同時に同程度劣化する可能性はきわめて低いので、スピーカ21〜26以外の音響信号系(たとえば収録用マイクや、アンプ等のセット内出力系)が劣化している可能性を表示部に示して、メンテナンスを勧告する。
【0034】
ステップS35の判別において、一部のスピーカ21〜26について劣化が検出された場合には(ステップS36;No)、診断部13は、その旨を制御部1に通知し、制御部1は、表示部3にスピーカ21〜26のいずれかについて劣化の検出がなされた旨を示唆し、当該スピーカについての整備勧告情報を表示して(ステップS37)、処理を終了する。具体的には、周波数特性のレベル変動や位相特性の変動が許容範囲を超えていれば、音響特性に無視できない大きさの変化が発生しているというメッセージを表示部3に表示して、特性変化の原因がスピーカの劣化によるものであることを明らかにしたうえで、メンテナンスを勧告する。あるいは、特性変化の原因が車室内の一時的環境変化(荷物を積む等)によるものであることを明らかにしたうえで、メンテナンスを勧告する。
【0035】
また、ステップS34の判別において、伝達関数の比較結果および時間応答特性の比較結果において、許容範囲を超える変動がなかった場合には(ステップS34;No)、すなわち、初期特性と比較して、両者に違いがないか、あるいは許容範囲内の違いであれば、診断部13は、「異常なし」という診断結果を制御部1に通知し、制御部1は、その旨を表示部3に表示して(ステップS38)、処理を終了する。
以上の説明のように、本実施形態によれば、ユーザの個人的聴感に左右されず、数値的判断に基づいた客観的に、車載用音響システム(特にスピーカ)の劣化をユーザが気付かないほどの比較的軽微な状態において検出することができ、ユーザが早期に対応することができる。
以上の説明においては、マイク31〜36を車両の天井に設ける場合について説明したが、各マイク31〜36を対応するスピーカ21〜26に隣接して設けるように構成することも可能である。
以上の説明においては、測定信号としてインパルス信号を用いる場合について説明したが、インパルス信号の代わりに、インパルスに含まれる各周波数成分の位相を周波数の2乗に比例して変化させて生成したTSP信号を使うようにすることも可能である。
【0036】
以上の説明においては、上記各機能を実現するための制御プログラムが、予めROMに格納されている場合について説明したが、制御プログラムを、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録するようにしてもよい。このような構成であれば、コンピュータによってプログラムが記憶媒体から読み取られ、読み取られたプログラムに従ってコンピュータが処理を実行すると、上記実施形態の画像情報処理装置と同等の作用および効果が得られる。
ここで、記憶媒体とは、RAM、ROM等の半導体記憶媒体、FD、HD等の磁気記憶型記憶媒体、CD、CDV、LD、DVD等の光学的読取方式記憶媒体、MO等の磁気記憶型/光学的読取方式記憶媒体であって、電子的、磁気的、光学的等の読み取り方法のいかんにかかわらず、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体であれば、どのような記憶媒体であってもよい。
また、インターネット、LANなどの通信ネットワークを介して制御用プログラムをダウンロードし、インストールして実行するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】車載用音響システムの主要構成を示すブロック図である。
【図2】車両内のスピーカおよびマイクの配置を示す図である。
【図3】出荷時(初期状態)の音響特性データの格納処理フローチャートである。
【図4】伝達関数としての周波数特性の一例の説明図である。
【図5】時間応答特性としての時間応答特性の一例の説明図である。
【図6】伝達関数としての位相特性の一例の説明図である。
【図7】出荷後の音響特性診断時の処理フローチャート(1)である。
【図8】出荷後の音響特性診断時の処理フローチャート(2)である。
【図9】スピーカの入出力システムとしての概念説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 制御部
1A 第2記憶部
2 操作部
3 表示部
4 測定信号生成部
5 記録媒体再生部
6 第1信号切換部
7 切換選択部
8 パワーアンプ
9 マイクアンプ
10 第2信号切換部
11 信号処理部
12 第1記憶部
13 診断部
21〜26 スピーカ
31〜36 マイク
40 車両
41 運転席
42 助手席
43 後部座席
100 車載用音響システム
CFINIT 周波数特性(初期伝達関数)
CFSAMP 周波数特性(伝達関数)
CPINIT 位相特性(初期伝達関数)
CPSAMP 位相特性(伝達関数)
INIT 時間応答特性
SAMP 時間応答特性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するための車載用音響診断装置であって、
各前記スピーカに対応する一または複数のマイクと、
所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成部と、
前記測定信号生成部から出力される前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択部と、
前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理部と、
前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行う診断部と、
を備えることを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の車載用音響診断装置において、
前記車載音響システムの初期状態における各前記スピーカに対応した伝達関数である初期伝達関数および前記初期状態における各前記スピーカに対応した時間応答特性である初期応答特性を予め記憶する初期特性記憶部を備え、
前記診断部は、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性を前記初期伝達関数および前記初期応答特性を参照することにより前記音響特性診断を行う、
ことを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の車載用音響診断装置において、
前記診断部は、前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて、各前記スピーカの周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えているか否かを判別し、
前記許容範囲を超えている特性があった場合に、前記車載音響システムにおいて音響特性の劣化があったとの前記音響特性診断を行う、
ことを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の車載用音響診断装置において、
前記診断部は、前記複数のスピーカのうち、一部のスピーカについて周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えていると判別した場合には、当該許容範囲を超えている前記スピーカが劣化しているとの前記音響特性診断を行う、
ことを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の車載用音響診断装置において、
前記診断部は、前記複数のスピーカの全てについて周波数特性、位相特性あるいは時間応答特性の変動が許容範囲を超えていると判別した場合には、当該車載用音響システムにおいて、前記スピーカ以外の部分が劣化しているとの前記音響特性診断を行う、
ことを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれかに記載の車載用音響診断装置において、
前記診断部により、前記音響特性の劣化があったとの前記音響特性診断がなされた場合には、その旨を告知する告知部を備えたことを特徴とする車載用音響診断装置。
【請求項7】
複数のスピーカと、
各前記スピーカに対応する一または複数のマイクと、
所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成部と、
前記測定信号生成部から出力される前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択部と、
前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理部と、
前記信号処理部が算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて当該車載音響システムの音響特性診断を行う診断部と、
を備えることを特徴とする車載用音響システム。
【請求項8】
複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するための車載用音響診断装置の制御方法であって、
所定の音響特性診断用の測定信号を生成する測定信号生成過程と、
前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給する切換選択過程と、
前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を各前記スピーカに対応する一または複数のマイクを介して収音し、伝達関数の算出および時間応答特性を測定する信号処理過程と、
算出した前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行う診断過程部と、
を備えることを特徴とする車載用音響診断装置の制御方法。
【請求項9】
複数のスピーカを有する車載音響システムの音響特性を診断するとともに、各前記スピーカに対応する一または複数のマイクを有する車載用音響診断装置をコンピュータにより制御するための制御プログラムであって、
所定の音響特性診断用の測定信号を生成させ、
前記測定信号を、複数のスピーカに順次個別に供給させ、
前記測定信号が供給されることにより各前記スピーカから出力される測定音を前記マイクを介して収音させ、伝達関数の算出および時間応答特性の測定を行わせ、
算出させた前記伝達関数および測定した時間応答特性に基づいて前記車載音響システムの音響特性診断を行わせる、
ことを特徴とする制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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