説明

車載空気調和機用インバータシステム

【課題】不使用時における待機電力を抑えることのできる車載空気調和機用インバータシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】通信ドライバ27aからの信号に基づき通信用電源80からの電圧供給がON/OFFすることで、電気的スイッチが切り替わって車載バッテリ電源50からDC−DCコンバータ26への電圧供給をON/OFFし、モータ制御マイコン24、ゲート回路22への電圧供給をON/OFFする。これにより、不使用時には上位ECU60の制御によりモータ制御マイコン24をスリープモードに移行させて電圧供給を停止し、消費電力を抑えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載空気調和機用インバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載用空気調和機を構成する圧縮機を駆動するモータは、インバータシステムによりその動作が制御されている。
図3に示すように、従来、インバータシステム1は、モータ2を駆動するため高電圧電源3から供給される100V以上の高電圧を、非絶縁型DC−DCコンバータ4により5V程度に変換した低電圧により動作していた。このインバータシステム1は、車載用空気調和機のコントロール等のために、通信インターフェイス5を介して通信を行う。ここで、インバータシステム1に対する上位ECU6等を含む車両の他の電装系統は車載バッテリ電源7から供給される12V、24Vといった電圧によって動作している。モータ2を駆動するための高電圧が何らかの原因で他の電装系統に印加されると故障に繋がるため、インバータシステム1と他の電装系統とは、フォトカプラ等の絶縁型の通信コネクタ8によって、絶縁しつつ通信が行えるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特許第3351330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両の制御の高度化に伴い、車両の電装系統各部の故障診断等も行われている。しかし従来のインバータシステム1においては、高電圧電源3側を立ち上げないとインバータシステム1を司るモータ制御マイコン9が起動できない。つまり、車載バッテリ電源7の投入と同時に上位ECU6とインバータシステム1の通信を確立させることができない。したがって、車載バッテリ電源7を投入したのみでは、高電圧電源3側から電源供給を受ける回路の故障診断を行うことができない。
そこで、故障診断を行うため、高電圧電源3側からインバータシステム1に電源を供給すると、モータ2を駆動するためのスイッチング素子10等が短絡故障しているような場合、モータ2側とインバータシステム1側とで接地を共有しているため、高電圧電源3側からインバータシステム1に高電圧が印加され、モータ2やインバータシステム1がともに破損してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、車載空気調和機を構成する圧縮機を駆動するためのモータの作動を制御する車載空気調和機用インバータシステムとして、モータを回転駆動させるためのスイッチング素子と、スイッチング素子のゲートを駆動するためのゲート回路と、ゲート回路への電流の供給を制御する制御回路と、インバータシステムの外部から制御回路に対する指令を行う上位制御回路との通信を行う通信インターフェイスと、を備え、モータに予め定められた第一の電圧を印加する第一の電源とは絶縁されるとともに、上位制御回路に第一の電圧よりも低い第二の電圧を印加する第二の電源から電圧供給を受けることを特徴とする技術を既に提案した(特願2007−55211)。
これにより、第一の電源から第一の電圧が印加される回路で短絡等が生じていた場合にも、車載空気調和機用インバータシステム側に第一の電圧が印加されることはなく、車載空気調和機用インバータシステムの故障を防ぐことが可能となった。
【0006】
本発明者らは、このような車載空気調和機用インバータシステムについてさらなる検討を重ねた。
車載空気調和機用インバータシステムに限る話ではないが、電気を用いるシステムにおいては、消費電力、待機電力を少しでも抑えることが求められている。特に、車載のシステムにおいては、バッテリの消耗を防ぐために、不使用時の待機電力を抑えることが課題となっており、本発明者らが提案した車載空気調和機用インバータシステム等においても待機電力を抑えることが望まれた。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、不使用時における待機電力を抑えることのできる車載空気調和機用インバータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような目的を達成するためになされた本発明は、車載空気調和機を構成する圧縮機を駆動するためのモータの作動を制御する車載空気調和機用インバータシステムであって、モータを回転駆動させるためのスイッチング素子と、スイッチング素子のゲートを駆動するためのゲート回路と、ゲート回路への電流の供給を制御する制御回路と、ゲート回路および制御回路に対し、スイッチング素子、ゲート回路、および制御回路とは絶縁された電源から供給される電圧を所定の電圧に変換して印加する絶縁型のDC−DCコンバータと、前記の電源から供給される電圧によって作動し、インバータシステムの外部の上位制御回路から制御回路への制御信号を伝達する通信部と、通信部にて、制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を上位制御回路から受けたときに、DC−DCコンバータから制御回路への電圧の印加を遮断するスリープモード移行制御部と、を備えることを特徴とする。
ここで、スリープモード移行制御部は、DC−DCコンバータから制御回路への電圧の印加を遮断することができるのであれば、いかなる構成としてもよい。例えば、スリープモード移行制御部は、制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を上位制御回路から受けたときに予め定められた信号を出力する信号出力手段と、信号を受け取ったときに、DC−DCコンバータから制御回路への電圧の印加を遮断する電圧印加遮断部とを備えるようにしてもよい。信号出力手段として、前記の電源から供給される電圧を所定の電圧に変換して通信部に印加する通信用電源を備えるともに、電圧印加遮断手段として、通信用電源からの電圧の印加の有無に応じて電源からDC−DCコンバータへの電圧供給回路を遮断するスイッチと、をさらに備えるようにしてもよい。この場合、スリープモード移行制御部は、制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を上位制御回路から受けたときに、通信用電源における通信部への電圧の印加を中止すればよい。これにより、電源からDC−DCコンバータへの電圧供給回路を遮断することができる。
このスイッチは、通信部への電圧の印加が中止できるのであれば、その位置等を限定する意図はない。例えば、通信用電源と、DC−DCコンバータとの間にスイッチを設けることができる。このようなスイッチとしては、例えばトランジスタを用いることができる。
また、スイッチは、通信用電源からの電圧の印加の有無によって切り替わるのではなく、他の制御手段、例えば上位制御回路から直接出力される制御信号等によって、切り替えるようにしてもよい。
【0008】
このような車載空気調和機用インバータシステムは、モータに予め定められた第一の電圧を印加する第一の電源とは絶縁されるとともに、上位制御回路に第一の電圧よりも低い第二の電圧を印加する第二の電源から電圧供給を受けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不使用時には上位制御回路の制御により制御回路をスリープモードに移行させて電圧供給を停止し、消費電力を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態におけるインバータシステム(車載空気調和機用インバータシステム)20の構成を説明するための図である。
図1に示すように、インバータシステム20は、車載用空気調和機を構成する圧縮機の駆動源となるモータ30の駆動を制御するものである。
【0011】
インバータシステム20は、スイッチング素子21と、ゲート回路22と、モータ制御マイコン(制御回路)24と、を備える。
モータ30は、高電圧バッテリや発電機等の高電圧電源40から供給される、例えば300Vといった高電圧(第一の電圧)V1により駆動される。
スイッチング素子21は、このモータ30を駆動するため、高電圧電源40から供給される直流電流を三相の交流電流に変換し、モータ30に出力する。
ゲート回路22は、モータ制御マイコン24の制御により、スイッチング素子21のゲートを駆動する。
【0012】
さて、これらスイッチング素子21、ゲート回路22、モータ制御マイコン24からなるインバータシステム20のモータ制御回路Caは、例えば5Vといった低電圧(第三の電圧)V3で作動する。モータ制御回路Caに対する電圧供給は、車載バッテリ電源(第二の電源)50から供給される、例えば12V、24Vといったバッテリ電圧(第二の電圧)V2を、絶縁型のDC−DCコンバータ26において前記の低電圧V3に変換する。このDC−DCコンバータ26は、絶縁型であり、モータ制御回路Caと、車載バッテリ電源50から供給されるバッテリ電圧V2によって作動する車両の他の電気系回路Cbとを絶縁している。
【0013】
モータ制御マイコン24は、上位ECU(上位制御回路)60からの指令信号に基づき、モータ30を駆動・制御する。このため、インバータシステム20は、車載の各電装機器の制御を司るECU間の通信を行うためのCAN(Controller Area Network)バス70に対し、通信回路(通信部)27を介してCAN通信が行えるようになっている。この通信回路27は、CAN通信を司る通信ドライバ27aと、通信ドライバ27aとモータ制御マイコン24との間で電気的絶縁を確保しつつデータのやり取りを行うためのフォトカプラ27bとから構成されている。
通信ドライバ27aは、車載バッテリ電源50から供給される、例えば12V、24Vといったバッテリ電圧V2によって駆動される。
また、このインバータシステム20は、フォトカプラ27bを駆動するための通信用電源(スリープモード移行制御部、信号出力手段)80を備えている。通信用電源80は、車載バッテリ電源50から供給される、例えば12V、24Vといったバッテリ電圧V2を、例えば5Vといった低電圧V4に変換し、フォトカプラ27bに供給する。
【0014】
ところで、通信ドライバ27aは、上位ECU60からの要求に応じ、モータ制御マイコン24をスリープモードに移行させたり、スリープモードから復帰させる信号を通信用電源80に出力する。
通信用電源80は、前記したフォトカプラ27bとともに、DC−DCコンバータ26にも低電圧V4を印加するようになっている。そして、通信ドライバ27aから、モータ制御マイコン24をスリープモードに移行させるための信号が入力されると、通信用電源80は、フォトカプラ27bおよびDC−DCコンバータ26への電圧印加を停止し、モータ制御マイコン24をスリープモードから復帰させるための信号が入力されると、フォトカプラ27bおよびDC−DCコンバータ26への電圧印加を開始するようになっている。
【0015】
図2に示すように、DC−DCコンバータ26には、通信用電源80との間に、トランジスタ等の電気的スイッチ(スリープモード移行制御部、電圧印加遮断手段、スイッチ)81が備えられている。電気的スイッチ81は、通信用電源80からの低電圧V4の印加が行われているときにはONとなり、通信用電源80からの低電圧V4の印加が行われていないとき(0V)にはOFFとなる。電気的スイッチ81がONの状態では、車載バッテリ電源50からDC−DCコンバータ26への電圧供給が通常通り行われ、DC−DCコンバータ26からの出力により、モータ制御マイコン24、ゲート回路22に電圧が供給されて、これらが動作する。
電気的スイッチ81がOFFの状態では、車載バッテリ電源50からDC−DCコンバータ26への電圧供給回路が遮断される。これにより、通信用電源80からの低電圧V4の印加が行われていないとき、つまりモータ制御マイコン24をスリープモードに移行させるための信号が入力されてから、スリープモードから復帰させるための信号が入力されるまでの間、DC−DCコンバータ26からの出力が停止する。DC−DCコンバータ26からの出力が停止すると、モータ制御マイコン24、ゲート回路22への電圧供給が停止してOFFとなり、スリープモードに移行する。
【0016】
このようにして、通信ドライバ27aからの信号に基づき通信用電源80からの電圧供給がON/OFFすることで、電気的スイッチ81が切り替わって車載バッテリ電源50からDC−DCコンバータ26への電圧供給をON/OFFし、モータ制御マイコン24、ゲート回路22への電圧供給をON/OFFすることができる。
これにより、不使用時には上位ECU60の制御によりモータ制御マイコン24をスリープモードに移行させて電圧供給を停止し、消費電力を抑えることが可能となる。
また、モータ制御マイコン24をスリープモードに移行させた状態でも、通信ドライバ27aには駆動電圧が印加されており、上位ECU60との通信に支障は生じない。
加えて、上記したような構成を実現するにあたっては、通信用電源80と電気的スイッチ81との間の配線、および電気的スイッチ81を追加するのみでよく、低コストで上記効果を得ることができる。
【0017】
なお、上記実施の形態では、インバータシステム20の回路構成等について説明したが、本願発明の主旨を実現するための機能を発揮することができるのであれば、その具体的構成を変更しても何らの支障はない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態における車載用空気調和機のインバータシステムの構成を示す図である。
【図2】DC−DCコンバータに備えたスイッチを示す図である。
【図3】従来の車載用空気調和機のインバータシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
20…インバータシステム(車載空気調和機用インバータシステム)、21…スイッチング素子、22…ゲート回路、24…モータ制御マイコン(制御回路)、26…DC−DCコンバータ、27…通信回路(通信部)、27a…通信ドライバ、27b…フォトカプラ、30…モータ、40…高電圧電源、50…車載バッテリ電源、80…通信用電源(スリープモード移行制御部、信号出力手段)、81…電気的スイッチ(スリープモード移行制御部、電圧印加遮断手段、スイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載空気調和機を構成する圧縮機を駆動するためのモータの作動を制御する車載空気調和機用インバータシステムであって、
前記モータを回転駆動させるためのスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のゲートを駆動するためのゲート回路と、
前記ゲート回路への電流の供給を制御する制御回路と、
前記ゲート回路および前記制御回路に対し、前記スイッチング素子、前記ゲート回路、および前記制御回路から絶縁された電源から供給される電圧を所定の電圧に変換して印加する絶縁型のDC−DCコンバータと、
前記電源から供給される電圧によって作動し、前記インバータシステムの外部の上位制御回路から前記制御回路への制御信号を伝達する通信部と、
前記通信部にて、前記制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を前記上位制御回路から受けたときに、前記DC−DCコンバータから前記制御回路への電圧の印加を遮断するスリープモード移行制御部と、を備えることを特徴とする車載空気調和機用インバータシステム。
【請求項2】
前記スリープモード移行制御部は、
前記制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を前記上位制御回路から受けたときに予め定められた信号を出力する信号出力手段と、
前記信号を受け取ったときに、前記DC−DCコンバータから前記制御回路への電圧の印加を遮断する電圧印加遮断手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の車載空気調和機用インバータシステム。
【請求項3】
前記信号出力手段として、前記電源から供給される電圧を所定の電圧に変換して前記通信部に印加する通信用電源を備えるとともに、
前記電圧印加遮断手段として、前記通信用電源からの電圧の印加の有無に応じて前記電源から前記DC−DCコンバータへの電圧供給回路を遮断するスイッチを備え、
前記スリープモード移行制御部は、前記制御回路への電圧の印加を遮断する要求信号を前記上位制御回路から受けたときに、前記通信用電源による前記通信部への電圧の印加を中止することを特徴とする請求項2に記載の車載空気調和機用インバータシステム。
【請求項4】
前記通信用電源と、前記DC−DCコンバータとの間に前記スイッチが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車載空気調和機用インバータシステム。
【請求項5】
前記スイッチがトランジスタであることを特徴とする請求項3または4に記載の車載空気調和機用インバータシステム。
【請求項6】
前記モータに予め定められた第一の電圧を印加する第一の電源とは絶縁されるとともに、
前記上位制御回路に前記第一の電圧よりも低い第二の電圧を印加する第二の電源から電圧供給を受けることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の車載空気調和機用インバータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−89519(P2009−89519A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256311(P2007−256311)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】