説明

車輪支持装置

【課題】小石や水がハブと筒状支持部との車体内側を覆うカバー部材の内部により進入し難い車輪支持装置を提供する。
【解決手段】車輪のハブ2を軸支する筒状支持部4aとロアアーム取り付け部6とを有するナックル4、及び、ハブ2と筒状支持部4aとの車体内側を覆うカバー部材18を備え、筒状支持部4aまたはカバー部材18の下部に水抜き用切り欠きが形成され、水抜き用切り欠きは、車体の外側向きに引退するように筒状支持部4aに形成された凹部4Bを含み、カバー部材18の下部に、凹部4Bに向けて凹んだ引退部18Dが設けられている車輪支持装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪のハブを軸支する筒状支持部とロアアーム取り付け部とを有するナックル、及び、前記ハブと前記筒状支持部との車体内側を覆うカバー部材を備え、前記筒状支持部または前記カバー部材の下部に水抜き用切り欠きが形成されている車輪支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車輪支持装置に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された車輪支持装置では、車輪のハブを軸支するハブベアリングの外方部材(筒状支持部)にはカバー部材が外嵌固定されている。そして、カバー部材の下部の一部には円弧状の水抜き用切り欠き(ドレン)が貫通形成されているので、外部からカバー部材の内部に雨水などの異物が浸入しても、この異物はカバー部材の内部を流れ落ち、水抜き用切り欠きから自然に排出され易い。その結果、錆付きが生じ難くなるため、筒状支持部などに回転速度検出用のエンコーダが設置されている構成でも、このエンコーダに錆が付着して検出精度に影響を及ぼすなどの問題が生じ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180617号公報(0037段落、図1、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記された車輪支持装置では、水抜き用切り欠きを細長い形状で設けてあるとはいえ、車両の内側と直接対向するように形成されているために、路面から跳ね上げられた小石や水などがこの水抜き用切り欠きからカバー部材の内部に進入し、場合によっては異物で水抜き用切り欠きが塞がれてしまう虞があった。
【0005】
さらに、特許文献1に記された車輪支持装置では、ロアアーム取り付け部の位置とカバー部材の形状次第では、ロアアームをロアアーム取り付け部へ取り付けようとする際に、既に装着済みのカバー部材の下部などがロアアームの先端と干渉し、ロアアームの組み付け作業が困難になるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による車輪支持装置が与える課題に鑑み、路面から跳ね上げられた小石や水がカバー部材の内部により進入し難い車輪支持装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、カバー部材の取り付け後におけるロアアーム取り付け部へのロアアームの組み付け作業をより容易に行うことのできる車輪支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車輪支持装置の第1の特徴構成は、
車輪のハブを軸支する筒状支持部とロアアーム取り付け部とを有するナックル、及び、前記ハブと前記筒状支持部との車体内側を覆うカバー部材を備え、
前記筒状支持部または前記カバー部材の下部に水抜き用切り欠きが形成された車輪支持装置であって、
前記水抜き用切り欠きは、前記車体の外側向きに引退するように前記筒状支持部に形成された凹部を含み、
前記カバー部材の下部に、前記凹部に向けて凹んだ引退部が設けられている点にある。
【0008】
本発明の第1の特徴構成による車輪支持装置では、車体の外側向きに引退するように筒状支持部に形成された凹部と、この凹部に向けて凹むように形成されたカバー部材の引退部との間隙が実質的な水抜き用通路として働くことになる。この間隙は、水抜き用切り欠きとしての凹部とカバー部材の下部とで囲まれた下方向きの経路を含むことで車両の内側と直接対向せず、しかも、ナックルの内側に引退した箇所に位置するので、そのため、路面から跳ね上げられた小石や水などがカバー部材の内部に進入し難くなった。また、カバー部材の下部が凹部に対応して車体の外側向きに引退するように配置されているため、ロアアームの取り付けの際にも、装着済みのカバー部材とロアアームの先端とが干渉し難いため、ロアアームの組み付け作業が容易になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る車輪支持装置の破断側面図である。
【図2】本発明に係る車輪支持装置の車体内側から見た正面図である。
【図3】本発明に係る車輪支持装置の斜視図である。
【図4】本発明に係る車輪支持装置のカバー部材を外した要部の斜視図である。
【図5】本発明に係る車輪支持装置のカバー部材の三面図である。
【図6】図1の要部を取り付け途中のロアアームと共に示す破断側面図である。
【図7】図6のさらに要部を示す破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1及び図2に示すように、本発明に係る前輪用の車輪支持装置は、車輪1を取り付けるハブ2を軸支するステアリングナックル4を有する。
ステアリングナックル4は、ハブ2を軸心X回りで軸支する筒状支持部4aの他に、車両のストラット20を取り付けるための上部アーム5と、車両のロアアーム21を取り付けるための下部アーム6(ロアアーム取り付け部の一例)と、ステアリング装置のタイロッド22を連結するためのナックルアーム7とを有する。
【0011】
車輪1のハブ2と筒状支持部4aとの間にはボールベアリング8が介装されており、図3にも示すように、ボールベアリング8の内面側は、筒状支持部4aの内側端部に内嵌されたキャップ18(カバー部材の一例)によって覆われている。
図6に示すように、ハブ2と一体回転するボールベアリング8のインナレース8aの端面には磁性を帯びたエンコーダ9が全周に亘って取り付けられている。他方、ステアリングナックル4の一部には、回転速度検出用の検出素子10が一定の距離のギャップを介してエンコーダ9と対向するように配置されている。
【0012】
図4に示すように、ステアリングナックル4の筒状支持部4aの下部中央には、軸心Xに沿って車両の外側向きに大きく凹んだ排水用の切り欠き4B(車体の外側向きに引退するように形成された凹部の一例)が形成されている。切り欠き4Bが設けられた筒状支持部4aのさらに中央部の内周面には、キャップ18の内側に侵入した水分を集めて外部にスムースに流し出すための排水溝4Cが形成されている。キャップ18を内嵌状に支持するステアリングナックル4の支持内周面4Sは切削加工されているが、切り欠き4B及び排水溝4Cは鋳造されたステアリングナックル4の鋳肌面に錆止め塗装を施した状態であり、切削加工は施されていない。
【0013】
排水溝4Cは、支持内周面4Sから径方向外側(下側)に段状に凹んだ第1溝部4C1と、第1溝部4C1から傾斜部4CSを経てさらに径方向外側(下側)に段状に凹んだ第2溝部4C2とを含む。排水用の切り欠き4Bが形成されているために、第1溝部4C1と傾斜部4CSと第2溝部4C2とからなる排水溝4Cは、その他の箇所における筒状支持部4aに比して軸心X方向の長さが非常に短くなっており、排水効率が高められている。
【0014】
図5に示すように、キャップ18は、車両内側に突出したハブボルト2Bの頭部に対応するように車両内側にドーム状に突出したキャップ本体部18aと、キャップ本体部18aの外周から径方向外向きに延出したフランジ部18bと、フランジ部18bの一部から車両の外側に向かって垂直に折り曲がった円筒状の係止部18cとを有する。キャップ18は、円筒状の係止部18cを介してステアリングナックル4の支持内周面4Sに内嵌固定される。
【0015】
フランジ部18bの一部は、車両内側に突出するように折り曲げ加工されることで、キャップ18を支持内周面4Sから取り外す際に工具の先端を受け入れるための被操作部18Tを構成している。被操作部18Tはキャップ18を正面から見て真上方向と、左右の両方向との3箇所に設けられている。
被操作部18Tが設けられていないフランジ部18bの真下方向には、被操作部18Tとは逆に車両外側に突出するように折り曲げ加工された引退部18Dが設けられている。引退部18Dは、筒状支持部4aの切り欠き4Bに向けて凹むことで、切り欠き4B及び排水溝4Cを近接位置から保護し、且つ、筒状支持部4aとキャップ18との間に形成される排水用の間隙の幅を必要最小限に規定する役目を果たしている。
【0016】
図7に示すように、キャップ18の内部からキャップ18の外部に向かう水抜き用通路は、前述した2段階状に連続的に凹んだ溝部4C1,4C2の形状と、引退部18D及び引退部18Dから延びた短い係止部18cとの協働によってジグザグ状の開口部で構成されている。特に、引退部18Dは筒状支持部4aの切り欠き4Bと軸心X方向に沿って近接しているので、ジグザグ状の開口部の最も出口側付近は、軸心X方向の間隙の狭い下方向きの経路空間Vとなっている。この経路空間Vは、車両の内側と直接対向せず、しかも、ステアリングナックル4の内側に引退した箇所に位置するので、路面から跳ね上げられた小石や水などがカバー部材の内部に進入し難くなった。
以上の構成の結果、車輪によって路面から跳ね上げられた小石や水などがキャップ18の内部に非常に進入し難くなっている。また、一旦侵入した小石や水は2段階状に連続的に凹んだ溝部4C1,4C2を介してスムースに排出される。
【0017】
また、図6に示すように、キャップ18の下部が、車体の外側向きに引退するように配置された引退部18Dとなっているため、キャップ18を取り付け後におけるロアアーム21の組み付け作業が容易になった。組み付け時におけるロアアーム21の先端箇所の円弧状の軌跡Lが図6に示されているが、下部に引退部18Dを備えたキャップ18の形状は軌跡Lと重なり合わない様子が図示されている。すなわち、ロアアーム21の先端箇所がキャップ18と干渉せず、ロアアーム21の組み付け作業を容易に行えることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0018】
車輪のハブを軸支する筒状支持部と、ハブと筒状支持部との車体内側を覆うカバー部材とを備え、筒状支持部またはカバー部材の下部に水抜き用切り欠きが形成された車輪支持装置の構造として、乗用車や商用車に限らずトラックやバス等にも利用可能である。
【符号の説明】
【0019】
2 ハブ
4 ステアリングナックル
4a 筒状支持部
4B 切り欠き
4C 排水溝
4C1 第1溝部
4CS 傾斜部
4C2 第2溝部
6 下部アーム(ロアアーム取り付け部)
8 ボールベアリング
9 エンコーダ
10 検出素子
18 キャップ(カバー部材)
18a キャップ本体部
18b フランジ部
18T 被操作部
18D 引退部
L 軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪のハブを軸支する筒状支持部とロアアーム取り付け部とを有するナックル、及び、前記ハブと前記筒状支持部との車体内側を覆うカバー部材を備え、
前記筒状支持部または前記カバー部材の下部に水抜き用切り欠きが形成された車輪支持装置であって、
前記水抜き用切り欠きは、前記車体の外側向きに引退するように前記筒状支持部に形成された凹部を含み、
前記カバー部材の下部に、前記凹部に向けて凹んだ引退部が設けられている車輪支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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