説明

軋み音防止表面処理剤

【課題】自動車の内装部品の接触部から発生する軋み音を低減ないし防止し、更に荷重依存性に優れ、耐久性を向上させた軋み音防止表面処理剤を提供すること。
【解決手段】インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー、サンバイザー、メータークラスター、コンソールボックス、シートレザー等の自動車の内装部品同士が接触、摺動する部位に用いられる表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子を含有させて成る軋み音防止表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軋み音防止表面処理剤に係り、更に詳細には、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー等の自動車の内装部品に好適に用いられ、自動車の走行時の振動により内装部品が擦れあって発生する軋み音を低減ないし防止する軋み音防止表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー、コンソール、メータークラスターなどの内装部品は主にポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂やアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂などを射出成形により成形しており、その表層は塩化ビニル(PVC)シートや熱可塑性オレフィン(TPO)シートで覆われているものが知られている。
また、その表層には耐光性を付与したり低光沢化などを付与する目的で厚さ10〜30μmのアクリル−塩化ビニル系塗料やウレタン系塗料等を塗布する表面処理が施されているものも知られている。
これらの自動車内装部品同士が隣接する部分では、隣接する部品間の隙間が大きいと、見栄えが悪く高級感に欠けることからできるだけ隙間を小さくしている。
また、これらの自動車内装部品同士が相互に接触する部分では、自動車走行時の振動、開閉動作、乗車又は降車動作などにより内装部品同士が擦れあい軋み音が発生する。
【0003】
一方で、ウレタン樹脂中にウレタンの微粒子を含有させた表面処理剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、アクリル−塩化ビニル系塗料用樹脂にウレタンの微粒子を含有させた表面処理剤が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【特許文献1】特開平5−156206号公報
【特許文献2】特許第3276257号明細書
【特許文献3】特開平8−27409号公報
【特許文献4】特開平8−281210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のウレタン系塗料にウレタンの微粒子を含有させた表面処理剤は、アクリル系塗料に比べてコストが高く、更に接触している部品が滑り出す時に発生する単発音に対しては、アクリル系塗料に比べて劣るという問題点があった。
また、ウレタン系塗料では表層の着色塗料の摩擦や摩耗による色落ち性や色移り性が劣るという問題点があった。
更に、アクリル−塩化ビニル系塗料塗料用樹脂にウレタンの微粒子を含有させた表面処理剤は、接触する部品間の荷重が高くなった場合の耐久性が不十分であり改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動車の内装部品の接触部から発生する軋み音を低減ないし防止し、更に荷重依存性に優れ、耐久性を向上させた軋み音防止表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、表面処理剤に所定のセラミック粒子を含有させることなどにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の軋み音防止表面処理剤は、自動車の内装部品に用いられる表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子を含有させて成る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自動車の内装部品に用いられる表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子を添加することなどとしたため、自動車の内装部品の接触部から発生する軋み音を低減ないし防止し、更に荷重依存性に優れ、耐久性を向上させた軋み音防止表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の軋み音防止表面処理剤について詳細に説明する。本明細書において、「%」は特記しない限り、質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の軋み音防止表面処理剤は、自動車の内装部品に用いられる表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子を含有させたものである。
ここで、表面処理剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えばアクリル−塩化ビニル系塗料樹脂、ウレタン樹脂などのコーティング剤やフッ素系ディスパージョンなどを挙げることができる。
また、本発明に使用できるセラミック粒子としては、例えば酸化チタン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、タルク、ウィレムサイト、ケロライト、ピメライト、パイロフィライト、フェリパイロフィライト、クレー、酸化アルミニウム、酸化鉄、カーボンブラック、フッ素マイカ、マイカ、ベンナイト、カリオナイト、ディカイト、ナクライト、オーディナイト、モンモリロナイト、リザーダイト、アメサイト、ネポーアイト、フレポナイト、ブリンドリアイトなどを挙げることができ、これらを混合して用いてもよい。
【0009】
このような表面処理剤に平均粒径が5〜200nmの球状セラミック粒子を含有させて得られたものを自動車の内装部品に用いると軋み音を低減ないし防止することができる。
【0010】
ここで、現時点で推定される本発明の軋み音防止表面処理剤が部品間に発生する軋み音を低減させるメカニズムについて説明する。
自動車室内において発生する音は2種類に大別できる。一方は部品が滑り出す時に発生する単発音であり、他方は自動車走行時の定常的な振動によって発生する連続音である。単発音は発進時や段差乗り越え時などに内装部品が衝撃を受けた時に発生するものであり、連続音は路面の状況によって車両が走行中、連続的に頻繁に起こり得るものである。 本発明は、これら双方を低減すること目的とするものである。
【0011】
図1に、試験例で用いた往復動による評価試験の概要を示す。同図に示すように、被試験体1と被試験体2を用い、必要に応じて被試験体2に矢印A方向に荷重をかけて、被試験体1を矢印B方向に往復動させる。
このときに被試験体1上で被試験体2を滑らせる試験を行い、2つの被試験体間の摩擦係数の経時変化を測定すると、一般的に、図2に示すような時間に対する摩擦係数の変化したデータが得られる。
単発音に対しては、静摩擦係数と動摩擦係数との差を小さくすることが有効であり、連続的な微振動によって発生する音を防止するためには動摩擦係数の変動幅を小さくすることが有効である。
【0012】
また、現時点で推定される本発明の軋み音防止表面処理剤が、部品の摩耗を抑制するメカニズムについて説明する。
表面処理剤に添加された粒子は接触部にコロ状態を形成し、粒子が転がることにより、摺動時の応力を低下させ、部品の摩耗を抑制していると考えられ、結果として部品の耐久性を向上させることができる。
セラミック粒子は、従来の樹脂粒子と比較して硬度が高いため、接触する2物品間の接触面圧が高い場合でも、粒子がほとんど破損、変形することなく面圧を受けることができ、コロとしての働きが荷重によって変化せず、荷重依存性に優れた軋み音防止表面処理剤となる。荷重依存性に優れるため、結果として軋み音防止表面処理剤の耐久性を向上させることができる。
このように擦れ合うときには粒子がコロとして働き易く、摺動時の応力低下させ、発生する軋み音を低減することができる。
【0013】
平均粒径が200nmを超えるとセラミック粒子は逆に研磨剤として働き、部品の摩耗を抑制することができず、結果として軋み音を低減することができない。また、5nm未満では、コロとしての働きが低下する場合があり、軋み音を低減することが困難な場合が生じる。
なお、軋み音防止効果や耐摩耗性を考慮すると平均粒径が10〜100nmであることが好ましい。
【0014】
セラミック粒子の形状は、上述した所望の効果を得るために、球状であることが必要であり、真球状であることが好ましい。
セラミック粒子の全部又は一部が1次粒子であることが望ましい。1次粒子であると、粒子内部に隙間がほぼ無いため、荷重依存性に優れたものとなる。
【0015】
セラミックス粒子としては、上述したような種々のものを利用できるが、セラミック粒子の耐久性や硬度、コストなどの観点から、酸化ケイ素や酸化アルミニウムが好ましく、例えば気相法により得られる酸化ケイ素や酸化アルミニウムは粒径を小さくできる、更には表面に水酸基が多く凝集力が高く、部品表面に付着し易いなどの観点からより好ましい。
【0016】
表面処理剤100重量部に対し、セラミック粒子の添加量が0.5〜70重量部であることが好ましく、5〜20重量部であることがより好ましい。添加量が0.5重量部未満であると軋み音低減効果が不十分であり、70重量部を超えると粘度が高くなり皮膜形成(塗布)が困難となる。
【0017】
このようにして得られる本発明の軋み音防止表面処理剤は、現状の表面処理剤と同様の形態で使用することができる。現状の使用態様とは、例えばプラスチック成形体の表面又は塩化ビニルシート若しくは熱可塑性オレフィン系シートの表面にエアスプレー、はけ塗り、ローラー塗り、浸漬塗装、グラビア塗装などにより塗布することができる。
【0018】
本発明の軋み音防止表面処理剤の被塗対象物である自動車の内装部品としては、例えばインストルメントパネル、ドアトリム、ピラー、サンバイザー、メータークラスター、コンソールボックス、シートレザー等の部品が挙げられる。これらの部品の材質は、例えば各種プラスチック、ゴム、金属、ガラス等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
表面処理剤であるフッ素系ディスパージョン(ダウコーニングアジア株式会社製、PD910)90重量部に対して、セラミック粒子である酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL300(1次粒子の平均粒径:7nm))を10重量部添加して、ミキサー(オリエンタル技研工業製、レシプロシェーカーRS10ベーシック)により混合して、本例の軋み音防止表面処理剤を得た。
【0021】
(実施例2)
セラミック粒子を酸化アルミニウム(日本エアロジル株式会社製、酸化アルミニウムC(1次粒子の平均粒径:13nm))に替えた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の軋み音防止表面処理剤を得た。
【0022】
(比較例1)
セラミック粒子を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の軋み音防止表面剤を得た。
【0023】
(比較例2)
セラミック粒子を酸化ケイ素(デグサ・ヒュルスAG製、Sipernat50(1次粒子の平均粒径:50μm))に替えた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の軋み音防止表面処理剤を得た。
【0024】
[性能評価]
(試験片の準備)
上記各例の軋み音防止表面処理剤を、自動車用内装部品材料であるポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製、TX2020B(タルク含有量:25%))の試験用サンプル(平板:10cm角)に、それぞれスプレー(家庭用霧吹き)で塗布し、常温で1時間放置して、試験片を作製した(これを実施試験片1及び2、比較試験片2及び3とした。)。
また、比較のために試験用サンプル自体を比較試験片1とした。得られた試験片の仕様を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(摩擦特性評価)
各試験片(図1中の被試験体1)にその相手材(図1中の被試験体2)として同じポリプロピレンの試験用サンプルを用い、往復動摩擦摩耗試験機(新東科学株式会社製、トライボギアTYPE:30S)を用い、下記条件の下で往復動による摩擦試験を行い、動摩擦係数の変動幅を測定した。得られた結果を表2に示す。
(評価条件)
・摺動速度 :50mm/sec
・面圧 :0.5MPa
【0027】
(軋み音発生評価)
各試験片の相手材として同じポリプロピレンの試験用サンプルを用い、往復動摩擦摩耗試験機(新東科学株式会社製、トライボギアTYPE:30S)を用い、下記条件の下で往復動による摩擦試験を行い、軋み音が発生する面圧を測定した。得られた結果を表2に併記する。
(評価条件)
・摺動速度 :50mm/sec
・面圧 :面圧を0.05MPaごとに段階的に上げる。
【0028】
(摩耗特性評価)
各試験片の相手材として同じポリプロピレンの試験用サンプルを用い、往復動摩擦摩耗試験機(新東科学株式会社製、トライボギアTYPE:30S)を用い、下記条件の下で往復動による摩耗試験を行い、耐久性を評価した。得られた結果を表2に併記する。なお、表2中、「摩耗小」とは摩耗痕がほとんど見えない(光に反射させて見ると分かる)、「摩耗中」とは摩耗痕がうっすらと見える、「摩耗大」とは摩耗痕が明確に見える(筋状の摩耗痕)という観察基準に基づく評価である。また、評価対象は試験片及び相手材の両方とした。
(試験条件)
・摺動速度:50mm/sec
・面圧 :0.5MPa
・摺動回数:3000回
【0029】
【表2】

【0030】
表2より、本発明に属する実施例1及び2の軋み音防止表面処理剤を塗布した実施試験片1及び2は、本発明外の比較例1及び2の軋み音防止表面処理剤を塗布した比較試験片2及び3や表面処理を施さない比較試験片1と比較して、動摩擦係数の変動幅が小さく、軋み音発生面圧が高く、更に耐久性が向上していることが分かる。
現時点では、これらの観点から、実施例1が最も良好な結果をもたらすものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】試験例で用いた往復動による摩擦試験の概要を示す説明図である。
【図2】図1に示した摩擦試験により得られた時間に対する摩擦係数の変化を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0032】
1 被試験体
2 被試験体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の内装部品に用いられる表面処理剤に、平均粒径5〜200nmの球状セラミック粒子を含有させて成ることを特徴とする軋み音防止表面処理剤。
【請求項2】
上記セラミック粒子の全部又は一部が1次粒子であることを特徴とする請求項1に記載の軋み音防止表面処理剤。
【請求項3】
上記セラミック粒子が酸化ケイ素又は酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の軋み音防止表面処理剤。
【請求項4】
上記表面処理剤100重量部に対し、上記セラミック粒子の含有量が0.5〜70重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の軋み音防止表面処理剤。
【請求項5】
上記自動車の内装部品が、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラー、サンバイザー、コンソールボックス、メータークラスター及びシートレザーから成る群より選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の軋み音防止表面処理剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28444(P2006−28444A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212860(P2004−212860)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】