説明

軌道回路装置

【課題】軌道回路装置において、送信装置と受信装置の入出力ゲイン調整作業を自動化し、軌道回路装置の信頼性の向上を図る。
【解決手段】モニタ受信装置60より、従来、異常検知を目的として測定された軌道回路0の受信点近傍を流れる電流値を参照し、この電流値が車上装置71にて許容する値となる様に送信装置40のソフトアッテネータ42を制御することで、車上装置71が受信する信号レベルを一定に保つことを可能にする。更に、送信装置40の送信ゲインの増減分、受信装置50のソフトアッテネータ52の入力ゲインを調整することで、気候の変動等に起因する受信レベルの変動による列車の不正な検知を抑止することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車制御信号が列車検知信号を兼ねる軌道回路装置において、列車制御信号に対しての入出力ゲイン調整を自動にて行い、信号レベルを一定に保つことを可能とした軌道回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に軌道回路装置には、図4に示されているように、各軌道回路0の両端に送信装置40と受信装置50、及び、トランスを介してモニタ受信装置60が接続されている。送信装置40は列車制御信号の出力を行う。列車制御信号は軌道回路0を介して列車70に搭載された車上装置71で受信され、列車制御に用いられる。軌道回路装置の受信装置50は、送信装置40からの出力された列車制御信号を軌道回路0を介して受信する。列車制御信号が列車検知信号を兼ねる軌道回路装置においては、受信装置50にて受信した列車制御信号の受信レベルが軌道回路0上の列車70の在線・非在線の判定に用いられる。
【0003】
モニタ受信装置60は、受信装置50近傍に設けられており、送信装置40から出力された列車制御信号の電圧値/電流値を軌道回路0からトランスを介して測定し、軌道回路装置の異常検知に用いられる。また、軌道回路装置において、気候の変動等に起因する信号レベルの変動が制御に大きな影響を与えるという特性を持つため、軌道回路装置の設置時に送/受信装置40,50の入出力ゲイン調整が必要とされる。
【0004】
この軌道回路装置において、送信装置40から出力される列車制御信号の出力ゲイン調整は、設置時調整にて人員と時間をかけ、軌道上の送信装置40に対応する受信装置50近傍の電流値を専用の測定器にて実測し、実測値が列車70に搭載された車上装置71で受信できる許容値以上であることを条件として、送信装置40の出力ゲインを送信装置40に搭載されたハードウェアアッテネータ44の手動設定により調整する。この結果、車上装置71が受信する列車制御信号の信号レベルを一定に保っている。ハードウェアアッテネータ44は目盛り付きダイヤル式のアッテネータであり、手動で調整される。
【0005】
また、この軌道回路装置において、受信装置50にて受信する列車制御信号の入力ゲイン調整は、調整済み送信装置の出力に対して、対応する受信装置50の受信レベルが一定範囲内であることを条件として、受信装置50の入力ゲインを受信装置50に搭載されたハードウェアアッテネータ54の手動設定により調整する。この結果、気候の変動等に起因する列車制御信号の受信レベル変動による列車の不正な検知を抑止している。
【0006】
また、この軌道回路装置の受信装置50において、受信レベルの変動に対して列車検知判定値を追従させ、自動調整する技術が適応されているのに対し、ゲイン調整を自動で行う技術は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−011815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
気候の変動等に起因する信号レベルの変動が制御に大きな影響を与えるという特性を持つ軌道回路装置において、設置時調整以外の送/受信装置の入出力ゲイン調整は年に数回程度しか行えない。このため、気候の変動等に対して、送/受信装置の入出力ゲイン調整が対応できず、入出力ゲインを一定に保つことができない。具体的には、梅雨から初夏にかけての時期や、降雪地域における冬季の積雪時期など、前記期間は短期間で気候の変動が大きいが、この変動に対して信号が外に漏れて減衰が大きくなることに対して、1km程度毎に設けられる軌道回路0のそれぞれについて送/受信装置の入出力ゲイン調整が対応できなく、信号レベルが安定しないという問題がある。このため、本発明が解決しようとする課題は、軌道回路装置が気候の変動等に起因する信号レベルの変動が制御に大きな影響を与えるという特性を持つため、送/受信装置に必要とされる入出力ゲイン調整を気候の変動等に対応させ、信号レベルを一定に保つことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、既存のモニタ装置に送/受信装置の入出力ゲイン調整を行う軌道調整部を新たに設け、受信装置近傍に設けられたモニタ受信装置より異常検知用に測定された受信装置近傍の電流値を利用し、軌道調整部は送信装置に設けられたソフトアッテネータの調整を行って送信レベルを調整する。
【0010】
また、送信装置とは独立して、或いは送信装置の調整終了後、対応する受信装置においても、受信装置に設けられたソフトアッテネータの調整を行う。即ち、本発明は、モニタ装置に送/受信装置の入出力ゲイン調整を行う軌道調整部を新たに設け、受信装置が受信した列車制御信号の受信レベルに追従させて、軌道調整部は受信装置に設けられたソフトアッテネータの調整を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の軌道回路装置は、受信装置近傍に設けられたモニタ受信装置より、異常検知用に測定された受信装置近傍の電流値を利用することによって、受信装置近傍の電流値の専用の測定器による実測を不要とする。また、軌道調整部に送/受信装置の入出力ゲイン調整機能を設け、送/受信装置にソフトアッテネータを設けたことにより、軌道回路装置における送/受信装置の入出力ゲイン調整が自動化され、軌道回路装置の設置時調整以外に送/受信装置における入出力ゲイン調整を短時間で行うことができる。この結果、軌道回路装置において、送/受信装置における入出力ゲイン調整を気候の変動等に自動的に対応させ、信号レベルを一定に保つことが可能となり、軌道回路装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による軌道回路装置の一実施例を示すシステム構成図である。
【図2】図1に示した軌道回路装置による送信装置の出力ゲイン調整の説明図である。
【図3】図1に示した軌道回路装置による受信装置の入力ゲイン調整の説明図である。
【図4】従来の軌道回路装置のシステム構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明による軌道回路装置の一実施例を示すシステム構成図である。軌道回路装置は、軌道回路0に送信装置40と受信装置50が接続されて構成されており、地上制御装置10に設けられた列車制御信号作成部11にて作成された列車制御信号S1が、変調の後、送信装置40から軌道回路0に出力される。列車制御信号S1は、軌道回路0を通じて列車70に搭載された車上装置71で受信され、列車制御に用いられる。受信装置50は列車制御信号S1を軌道回路0を介して受信する。受信装置50にて受信した列車制御信号S1の受信レベルが、地上制御装置10に設けられた列車検知判定部12に送信され、軌道回路0上の列車70の在線・非在線の判定に用いられる(列車70の在線状態では、列車制御信号S1が列車70で短絡するので、受信装置50にて受信した列車制御信号S1の受信レベルがゼロに近い)。
【0014】
また、モニタ受信装置60は、受信装置50の近傍に設けられており、送信装置40からの出力された列車制御信号S1の電圧値/電流値を軌道回路0からトランスを介して測定し、地上モニタ装置20に設けられた異常判定部21に送信され、軌道回路装置の異常検知に用いられる。
【0015】
送信装置40の内部には、軌道回路0に列車制御信号S1を送出する送信部41、軌道回路0に送出する列車制御信号S1の出力調整を行うソフトアッテネータ42、列車制御信号S1の変調を行う演算部43が設けられている。また、受信装置50の内部には、軌道回路0から列車制御信号を受信する受信部51、軌道回路0から受信した列車制御信号の入力調整を行うソフトアッテネータ52、軌道回路0から受信した列車制御信号の復調、及び在線位置検出のために軌道回路0から受信した列車制御信号の受信レベルを算出する演算部53が設けられている。モニタ受信装置60の内部においては、軌道回路0からトランスを介して列車制御信号S1を受信する受信部61、受信した列車制御信号の電圧値/電流値を算出する演算部62が設けられている。そして、各装置(40,50,60)はネットワーク3を介して地上制御装置10と地上モニタ装置20に接続されている。
【0016】
地上モニタ装置20には、異常判定部21に加え、送信装置40のソフトアッテネータ42値と受信装置50のソフトアッテネータ52値のゲイン調整を行う軌道調整部22、及び軌道回路の異常情報とゲイン調整結果の表示を行う表示部23が設けられている。
【0017】
軌道調整部22にて行われる送信装置の出力ゲイン調整を、図2を用いて説明する。軌道調整部22は、モニタ受信装置60の演算部62より異常判定部21が受信していた受信装置近傍電流値Sms1を横取りして受信する。受信装置近傍電流値Sms1を車上装置で受信できる許容値以上となる様、送信装置アッテネータ42の値Sms2を決定し、送信装置40のソフトアッテネータ42に送信する。ソフトアッテネータ42は送信装置アッテネータ値Sms2を受信し、ソフトアッテネータ42のアッテネータ値が設定される。これにより、送信装置40が送り出す信号の強さがフィードバック調整される。
【0018】
また、軌道調整部22にて行われる受信装置の入力ゲイン調整を、図3を用いて説明する。軌道調整部22は受信装置50の演算部53より受信レベルSmr1を受信する。即ち、軌道調整部22は受信装置50の信号を直接拾う。受信レベルSmr1を受信装置50の許容範囲内となる様、受信装置アッテネータ値Smr2を決定し、受信装置50のソフトアッテネータ52に送信するというフィードバック制御が行われる。ソフトアッテネータ52は受信装置アッテネータ値Smr2を受信し、ソフトアッテネータ52のアッテネータ値が設定される。
【0019】
このように、本発明である軌道回路装置によれば、送信装置の送る信号の強さ(ゲイン)と受信装置が受ける信号の強さ(ゲイン)との調整をソフトウェアアッテネータの自動調整で行うことができる。地上モニタ装置の軌道調整部22は、例えば1km単位程度で繋がっている各軌道回路について、それらゲインを統括的に制御することができる。
【0020】
なお、本発明で用いたソフトアッテネータは、自動アッテネータ、即ち、アッテネータとしてはメカ的な構成であるが、自動的に変更可能なものでもあってもよい。
【符号の説明】
【0021】
0 軌道回路
10 地上制御装置 11 列車制御信号作成部
12 列車検知判定部
20 地上モニタ装置 21 異常判定部
22 軌道調整部 23 表示部
3 ネットワーク
40 送信装置 41 送信部
42 ソフトアッテネータ 43 演算部
50 受信装置 51 受信部
52 ソフトアッテネータ 53 演算部
60 モニタ受信装置 61 受信部
62 演算部
70 列車 71 車上装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道回路に送信装置と受信装置が接続され、また前記受信装置近傍にモニタ受信装置が接続され、前記送信装置から出力された列車制御信号を、前記軌道回路を介して、前記受信装置と前記モニタ受信装置にて受信を行う軌道回路装置において、
前記モニタ受信装置にて受信した前記列車制御信号の変動量に追従させて前記送信装置の出力ゲイン調整を行う軌道回路調整部を備えることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項2】
軌道回路に送信装置と受信装置が接続され、また前記受信装置近傍にモニタ受信装置が接続され、前記送信装置から出力された列車制御信号を、前記軌道回路を介して、前記受信装置と前記モニタ受信装置にて受信を行う軌道回路装置において、
前記受信装置にて受信した前記列車制御信号の受信レベルに追従させて前記受信装置の入力ゲイン調整を行う軌道回路調整部を備えることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項3】
軌道回路に送信装置と受信装置が接続され、また前記受信装置近傍にモニタ受信装置が接続され、前記送信装置から出力された列車制御信号を、前記軌道回路を介して、前記受信装置と前記モニタ受信装置にて受信を行う軌道回路装置において、
前記モニタ受信装置にて受信した前記列車制御信号の変動量に追従させて前記送信装置の出力ゲイン調整を行うとともに、前記受信装置にて受信した前記列車制御信号の受信レベルに追従させて前記受信装置の入力ゲイン調整を行う軌道回路調整部を備えることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の軌道回路装置において、
前記送信装置は、前記送信装置の前記出力ゲイン調整を行うためのソフトアッテネータを備えることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の軌道回路装置において、
前記受信装置は、前記受信装置の前記入力ゲイン調整を行うためのソフトアッテネータを備えることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の軌道回路装置において、
前記列車制御信号を作成する列車制御信号作成部と前記軌道回路における列車検知を行う列車検知判定部とを有している地上制御装置と、前記軌道回路の異常を判定する異常判定部を有している地上モニタ装置とが、ネットワークを介して前記軌道回路に接続されており、
前記軌道回路調整部は、前記地上モニタ装置に備わっていることを特徴とする軌道回路装置。
【請求項7】
請求項6に記載の軌道回路装置において、
一つの前記軌道回路に、前記送信装置、前記受信装置及び前記モニタ受信装置が備わっており、
前記地上制御装置と前記地上モニタ装置とは、連続して繋がった複数の前記軌道回路を統括して制御・モニタしていることを特徴とする軌道回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−56447(P2012−56447A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201705(P2010−201705)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】