説明

軌道車両のプラットホーム

【課題】 軌道車両の衝突を防止し、衝突による被害の回避等を図ることができる軌道車両のプラットホームを提供する。
【解決手段】 ホーム床2をホーム柱4ないしホームドア5が設けられている部分までの固定された床とし、それより軌道7側のプラットホーム側端部分には可動式とした出没自在のホーム可動部を設ける。ホーム可動部は、列車が停車した乗降時には出現し、車体側面との間隙を最小限にして乗客の安全な乗降を可能にする。一方、乗降時以外では所定の位置に待避し、ホーム側端部と通過列車の車体側面との間に間隔の広いホーム側端部間隙3を形成する。これにより、脱線した通過列車等がプラットホームの側端部分と衝突する可能性を大幅に低減し、衝突による被害の回避を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する軌道車両のプラットホームに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、その台車に取り付けられた車輪によって平行な一対のレール等からなる線路軌道上を走行するものとなっており、軌道上を走行する軌道車両の代表的な例である。鉄道車両に関しては、他の車両等との衝突を防止したり衝突時の衝撃を軽減したりするための技術が従来より提案されている。例えば、特許文献1においては、新幹線軌道の保守用車両相互間での衝突を防止するシステムが開示されており、無線信号の授受によって軌道起点からの各車両の絶対位置を検知し、車両相互の相対距離を求めて車両の速度制御を行うものとしている。また、特許文献2においては、流体バッグを装備した突出部位を鉄道列車の先頭車両前部に設け、前方の列車等と衝突する時の衝撃を緩和する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平7−267090号公報(段落0013〜段落0041、図1〜図9)
【特許文献2】特開2003−285739号公報(段落0022〜段落0028、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、鉄道車両等の軌道車両では、乗車ないし降車等をするためのプラットホームが軌道に隣接して設けられる。この軌道車両のプラットホームは、停車する軌道車両の車体に対して可能な限り近付けるように張り出した構造になっているのが通常である。例えば、鉄道車両の列車発着駅にある一般的なプラットホームは、乗客等が安全に乗降できるようにするため、線路側のプラットホーム側端部と停車列車の車体側面との間を所定の狭い間隔以内にすることが義務付けられている。
【0004】
図5は、かかる一般的なプラットホームの構造を鉄道車両10の進行方向に垂直な面から見た立面構造図である。この図に示すように、一般的なプラットホームは、ホーム床11、ホーム柱12、ホームドア13及びホーム屋根14によって構成され、列車が走行する軌道15に隣接して設けられており、図5中では、その軌道15上を走行する列車として車体10aが台車10b上に載置された鉄道車両10を示してある。ホーム床11は、ホーム柱12が立設されている基礎構造体上に支持され、ホーム柱12及びホームドア13より軌道15側に張り出した構造になっている。このホーム床11の軌道15側は、進入してくる鉄道車両10に対し、鉄道車両10に対向するホーム側端面11aと車体10aの側面との間隙が上記所定の狭い間隔以内となる位置まで張り出している。これにより、列車が停車してホームドア13が開扉すると、列車の乗客がホーム床11の張り出した部分を通って安全に乗降できるようになっている。
【0005】
鉄道車両のプラットホームは、このように軌道との間隔を乗降に適した一定の大きさに固定した構造物となっているため、乗降する乗客の安全性をより高めるためには、ホーム床の側端部を列車の車体側面により近付けられることが望ましいのは云う迄もない。
【0006】
しかし、地震を初めとする予期しない事態によって車両が脱線した状態(本来の位置から外れた状態)でプラットホームに進入してきたりすると、乗降時の安全性を考慮して軌道との間隔が狭く設定されたプラットホームほど列車が衝突する可能性が高くなるという問題がある。さらに、地震などの状況によっては、車両が脱線には至らずとも、左右に大きく揺れる可能性もなしとしないものであり、その左右動によって列車が進入したプラットホーム先端部分と衝突する可能性もなしとしないものである。特に、通過専用線を含む線路配線を有しない駅構内等の区間では、プラットホームに接する線路を高速で列車が通過する場合があるので、その通過列車が通過直前に地震等により脱線してしまうと、引き続き走行し続けて通過線路に接するプラットホームの側端部分に激突するおそれがある。なお、かかる区間の具体例として、通過専用線を持たない新幹線途中駅等がある。このような駅では、旅客乗降用プラットホームに接する線路を新幹線車両が高速で通過する場合があり、万一、かかる区域を車両が通過している途中に地震や横風を受けると、車両とプラットホームとが接触することがあり得る。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鉄道車両が地震等により脱線した場合を始めとして、軌道車両が軌道から逸れて走行し、あるいは、軌道上で揺れながら走行するような場合において、当該軌道車両とプラットホームとの接触さらには衝突を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明に係る軌道車両のプラットホームは、隣接する軌道上を走行する軌道車両と所定間隙を隔てて設けられたホーム床と、前記ホーム床より軌道側に出没自在な可動部であって、軌道車両内外への乗降時に前記ホーム床の軌道側端部と当該軌道車両との間に配置されると共に、軌道車両内外への乗降時以外には退避して前記間隙を確保する可動部と、前記軌道における軌道車両の運行情報に基づいて前記可動部の出没を制御する制御部とを設けた構成となっている。
【0009】
ここで、本プラットホームにおいては、車両が走行しない軌道部の延長部を前記間隙に対応する位置に設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本プラットホームにおける前記可動部は、前記軌道側端部において回転自在に支持された乗降ステップを有し、前記乗降ステップは、前記ホーム床側から当該軌道車両側に回転して前記軌道側端部から当該軌道車両に向かい、前記軌道側端部と当該軌道車両との間を通行可能にし、当該軌道車両側から前記ホーム床側に回転して収納され、前記間隙を確保するものとしてもよい。あるいは、前記可動部は、前記軌道側端部において昇降自在に支持された乗降ステップを有し、前記乗降ステップは、前記ホーム床の位置に下降して前記軌道側端部と当該軌道車両との間を通行可能にし、当該軌道車両よりも上昇して前記間隙を確保するものとしてもよい。さらに、これらの乗降ステップを有する場合には、前記可動部は、前記軌道側端部と当該軌道車両との間の通行者が前記乗降ステップから脱落することを防止する脱落防止手段を有するものとしてもよい。
【0011】
そして、本プラットホームにおける前記可動部の出没制御としては、本プラットホームに停車する軌道車両の接近を検知したときに前記可動部を出現させる出没制御をするものとしてもよい。また、本プラットホームに停車した軌道車両が発車し、本プラットホーム外の区間に進入したときに前記可動部を待避させる出没制御をするものとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、隣接する軌道上を走行する軌道車両と広い間隙を隔ててホーム床を設け、そのホーム床より軌道側に出没自在な可動部により、軌道車両内外への乗降時にはホーム床の軌道側端部と当該軌道車両との間を通行可能にし、乗降時以外には前記間隙を確保することとし、その可動部の出没制御を軌道車両の走行に応じて行うこととしたので、乗降対象となる軌道車両内外への乗降を可能としつつ、乗降時以外では軌道車両との間に広い間隙が確保される。これにより、鉄道車両が地震等により脱線した場合を始めとして、軌道車両が軌道から逸れて走行し、あるいは、軌道上で揺れながら走行するような場合においても、当該軌道車両がプラットホームに衝突する可能性が低減され、衝突を防止して衝突による被害の回避等を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<基本構成>
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態による軌道車両のプラットホームを鉄道車両のプラットホームに適用した場合の基本構成の例を示した図であり、その基本構成によるプラットホームの構造を鉄道車両1の進行方向に垂直な面から見た立面構造図で示している。この図に示すように、本プラットホームは、ホーム床2、ホーム側端部間隙3、ホーム柱4、ホームドア5及びホーム屋根6を有し、軌道7に隣接している。
【0014】
鉄道車両1は、軌道7上を走行している鉄道列車の車両であり、車体1aが台車1b上に載置された構成になっている。車体1aは、中空構造で内部の床面ないし壁面に座席等が設けられ、図1中左右の側構体に乗客等が乗降するための車両側扉を有している。台車1bは、軌道上を走行するための車輪を有し、その車輪に脱線等による位置ずれが生じない限り鉄道車両1は軌道7上の図示の位置にある。この鉄道車両1は、本プラットホームと隣接軌道を走行する鉄道車両との位置関係を明らかにするために例示した通過中列車の鉄道車両であり、図1は、プラットホームの近くの軌道7を列車が通過する状態を示している。
【0015】
ホーム床2は、その床面を車体1a内部の床面とほぼ同一の高さとして地面に定着された基礎構造体等によって構成され、軌道7側に基礎構造体から立設されているホーム柱4とホームドア5が設けられている。このホーム床2の軌道7側は、ホーム柱4ないしホームドア5が設けられている部分までの固定された床となっており、それより軌道7側のプラットホーム側端部分には、本プラットホーム特有の可動式としたホーム可動部が設けられるものとなっている。
【0016】
ここにいうホーム可動部は、本プラットホームに進入してくる鉄道車両の運行状況に応じて出没自在なものとなっており、鉄道車両が停車して乗客等が乗降するときに出現して安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成し、その乗降時以外では所定の位置に待避している。したがって、鉄道車両1が通過中である図1の状態では、ホーム可動部が所定の位置に待避しており、これによって鉄道車両1に対向するホーム床2のホーム側端面2aと車体1aの側面との間に間隔の広いホーム側端部間隙3を形成している。ホーム可動部の構成形態には様々なものがあるので、待避状態にある基本構成の図1中では、その具体的な構成の明示を省略して待避状態時のホーム側端部間隙3を点線で示してある。このような広いホーム側端部の間隙を形成し、かつ、必要に応じて安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成するホーム可動部の具体的な構成形態については、さらに後述の説明で明らかにする。
【0017】
ホーム側端部間隙3は、ホーム側端面2aと車体1aの側面との間に形成されるが、ホーム側端面2aは、固定された床であるホーム床2の軌道7側の側端面であり、上述したようにホーム柱4ないしホームドア5が設けられている部分にある。図1に示した基本構成では、ホーム柱4とホームドア5がホーム床2の幅方向位置(図1中の左右方向位置。以下単に「幅方向位置」といい、その方向を「ホーム幅方向」という。)を同じくして設けられているので、その幅方向位置の部分にホーム側端面2aがあり、それより車体1a側にホーム側端部間隙3の空隙が確保される。
【0018】
ここで、ホーム柱4は、ホーム屋根6を支持している支柱であるが、鉄道車両のプラットホームについては、その乗降場に立設する柱類を乗降場の縁端からある程度離隔することが義務付けられている。このため、ホーム柱4と鉄道車両1の幅方向中心との間の距離(図1中の上段に示した寸法線の距離)は、その義務付けられた離隔を満たす一定の距離になっており、ホーム柱4の幅方向位置は、車体1aから相当程度離れた位置にある。したがって、その幅方向位置の部分にあるホーム側端面2aは、車体1aの側面から大きく離れており、ホーム側端部間隙3としては、間隔の広い大きな空隙が確保されるようになっている。
【0019】
ホームドア5は、乗客等の乗降時に開扉してホーム床2と停車鉄道車両の間の通行を可能にし、乗降時以外では閉扉して軌道7への転落防止柵ないしホーム防護壁として機能するホーム壁のドアであり、例えば、ホーム床2の長さ方向(図1紙面に垂直な方向。以下「ホーム長さ方向」という。)にスライドする水平開閉式のドア等によって構成される。ホームドア5の幅方向位置は、ホーム柱4の幅方向位置と必ずしも一致している必要はなく、いずれかをより軌道7側に設ける場合には、その軌道7に近い方の幅方向位置の部分をホーム側端面2aとすればよい。さらに、ホーム側端面2aは、必ずしもホーム柱4ないしホームドア5が設けられている部分にしなければならないわけではなく、固定されたホーム床2の幅を積極的に狭め、軌道7上を走行する鉄道車両とホーム床2のホーム幅方向側端部との離隔を積極的に広げるようになっていればよい。
【0020】
すなわち、本プラットホームは、上記図5の一般的なプラットホームでは軌道側に張り出している固定ホーム床の張出し部分を削除し、その削除した軌道側の部分を可動式にした構成となっており、既存のプラットホームにおいて軌道側の張出し部分を切断し、ホーム可動部を設けることによって構成することもできる。このような構成により、本プラットホームは、隣接軌道を走行している鉄道車両との間には意図的に間隔を広げたホーム側端部間隙3を形成し、鉄道車両が停車したときの乗降時には安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成する。
【0021】
したがって、本プラットホームによれば、鉄道車両が停車して乗客等が乗降する際にはホームドア5の開扉と共に乗降用のホーム可動部が展開され、停車中車両と乗降部の間の離隔が最小限に保たれる一方、それ以外の鉄道車両が通過する際等にはホームドア5の閉扉とホーム可動部の待避状態を保つことによりホームの幅が積極的に狭められる。これにより、列車の通過時にはホームとの間隙が広げられ、通過列車とホームとの離隔が確保されるので、地震等によって通過列車が万一脱線して本プラットホームに進入してきた場合であっても、その脱線した列車がホーム側端部に衝突する可能性は大幅に低減され、脱線した鉄道車両の衝突を防止して衝突による被害の回避を図ることができる。また、通過列車が地震等により進行方向に対して左右に揺れながら本プラットホームに進入してきたような場合にも、その列車の車体側面がホーム側端部に衝突する可能性は同様に低減されるので、衝突を防止して被害を回避することが可能である。なお、乗降時以外ではホームドア5が閉扉しており、乗客等がホームドア5より軌道7側に進入することはできないので、その部分が空隙になっていても何等支障は生じない。
【0022】
軌道7は、軌道床上に平行な2本のレールが敷設された構成であり、それらのレールとこれを支持するスラブ(あるいは路盤とその上にしかれたバラスト、および枕木)によって構成されている。軌道7においては、台車1bの車輪がレール上にあり、スラブ等がレールを支持しているが、そのスラブ等の部分がホーム側に延長されており、ホーム側端部間隙3の下方に当たる部分に軌道7が図示のような延長部7aを有している。延長部7aは、スラブ板等をホーム側に拡幅し、その上面を平らにして形成されており、延長部7aの高さは、レールを路盤の上面と同じ高さになっている。この延長部7aは、通常では(脱線等をしない限り)鉄道車両の台車内の輪軸部分が走行しない軌道部位であり、軌道7の本プラットホームに隣接している区間とその前後に適宜設けられている。
【0023】
上記図5の一般的なプラットホームに隣接する軌道15は、鉄道線路を構成する部分しかなく、敷設されるレールよりも若干広い程度であり、かつ、走行する鉄道車両の幅方向中心に対して左右対称になってる。かかる一般的な軌道は、図1中、軌道7の点線で示した部分までの延長部7aを有しない軌道であり、走行中の鉄道車両が脱線すると、軌道から落下して進行方向が線路の中心から大きく外れ、軌道下の底に車輪がはまり込んで鉄道車両が姿勢を崩したり転覆したりするおそれがある。これに対し、図1中の矢印で示したように延長した延長部7aを有する軌道7では、走行中の鉄道車両が脱線しても延長部7aによって支えられるので、脱線した鉄道車両が姿勢を大きく崩し、さらには転覆したりすることを回避することが可能になる。また転倒を防止することにより、脱線した列車がホーム側端部に衝突する可能性をさらに低減することもできるので、脱線後の安全性をより高めることができる。
【0024】
上述したように本プラットホームによれば、ホームの乗降口となるホーム可動部を乗降時以外には待避させ、高速列車通過時等においてホーム側端部と列車側面との離隔を十分に確保することとしたので、通過列車が通過直前に地震等により脱線し、軌道中心から車体が離れた場合においても、ホームに衝突する可能性が既存のプラットホームより少なくなり、より安全性が高められる。また、その十分な離隔を確保したことにより、線路脇の作業スペースも広く確保され、プラットホーム外の線路と同様に保線作業等を行うことができる
【0025】
なお、現在地下鉄や新交通システム等で主に用いられているホームドアは、乗降時以外の旅客のホームからの転落等を防ぐ目的で設置されたものであるが、車体とホームの幅(軌道中心との距離)方向の隙間を狭める構造とはなっていない。また、車両とホームの間のバリアフリー化を目的としてホームから乗降ステップを展開し、乗降時の間隙を狭めるようにしたものもあるが、車両とホームの間隙や段差を減少させることを目的としたものであるため、ホームと通過列車の間の間隙を衝突回避のために積極的に変更したものとはなっていない。
【0026】
一方、磁気浮上式鉄道用車両の乗降ホームでは、乗降口付近を全て覆うシールドを備えたものがあるが、その技術は、旅客が軌道敷内に転落する、あるいは、乗客の所持品が超伝導磁石に吸着されることなどを防止するためのものであり、高速列車がホームの近傍を通過することを想定して設置されたものではない(かかるシールドは、そもそも通過列車がない停止線ホームに設置するものとなっている。)。また、可動式の乗降口としては、旅客機のタラップもあるが、これは駐機した状態で乗降を可能にするためのものであり、旅客機の走行を考慮して設けたものではない。
【0027】
<ホーム可動部の具体的構成形態>
・第1構成形態
次に、本プラットホームにおけるホーム可動部の具体的な構成形態について説明する。図2は、第1の構成形態によるホーム可動部8を備えた本プラットホームの構成を示した図であり、その構造を鉄道車両1の進行方向に垂直な面から見た立面構造図を下段に示し、上方から見た平面構造図を上段に示してある。なお、上記図1の基本構成における構成要素と物理的に同様の構成要素については、図2中に同一の参照符号で表し、重複する説明を省略してホーム可動部8に関わる特異な事項のみを説明することにする。また、上段の平面構造図においては、ホーム可動部8の構成を明示するためにホーム屋根6は省略してあり、上段の平面構造図と下段の立面構造図において対応する箇所は一点鎖線で示してある。
【0028】
鉄道車両1は、上記図1における鉄道車両1と同様の鉄道車両であるが、本プラットホームに停車し、車体1aにある車両側扉1cが開扉して乗客が乗降するときの状態になっている。このため、図2中の本プラットホームは、隣接する軌道7に列車が停車しているときの状態になっており、ホーム可動部8が出現して乗降用のプラットホーム側端部分を構成している。
【0029】
ホーム可動部8は、ステップ板8a、ステップ用アクチュエータ8b及び脱落防止柵8c等によって構成されている。ステップ板8aは、ホーム床2の軌道7側のホーム側端部にヒンジ結合等によって取り付けられており、ホーム側端部におけるホーム長さ方向の軸を中心としてホーム側端部の鉛直方向下方から水平方向前方に90°回転可能に設けられている。ステップ用アクチュエータ8bは、伸縮してステップ板8aを回転させる油圧アクチュエータ等のアクチュエータであり、伸縮する側がステップ板8aの下面側に取り付けられ、地面側の支点から鉛直方向面内で回転しつつステップ板8aを押し上げる。脱落防止柵8cは、ホームドア5を構成しているホーム壁からステップ板8aに向かって鉛直方向軸回りに90°回転可能な柵であり、ホーム壁においてステップ板8aのホーム長さ方向両側付近に設けられ、それぞれの鉛直方向軸がステップ板8aのホーム長さ方向両端のそれぞれに近接している。
【0030】
このような構成において、ホーム可動部8がプラットホーム側端部分を構成するときには、図2中に実線で示してあるようにステップ用アクチュエータ8bが伸長してステップ板8aを押し上げると共に、脱落防止柵8cが回転してステップ板8aの両側に柵を形成する。ステップ用アクチュエータ8bは、伸縮状態を維持するロック機構を有しており、ステップ板8aがホーム側端部の鉛直方向下方から90°回転して図示のように水平になると、その伸長状態をロック機構によって維持し、ステップ板8aを地面側から突っ張っている安定した水平状態に維持する。これにより、水平に保たれるステップ板8a上で十分な荷重を支えることを可能にし、ステップ板8aは、乗客の通行に安全な乗降ステップとなる。
【0031】
また、ステップ板8aのホーム幅方向は、車体1aの対向側面との間隙を最小限にして乗客の安全な乗降を可能にする幅となっており、ステップ板8aのホーム長さ方向は、開扉した車両側扉1cの乗降口(平面構造図中の点線部分)に対して乗降に十分な長さとなっている。さらに、脱落防止柵8cは、ホーム幅方向がステップ板8aと同じ幅になっており、鉛直方向に一定の高さを有している。したがって、乗客は、ステップ板8a上を安全に通行して鉄道車両1内外への乗降をすることができ、その乗降ステップと車体1aの間の間隙に転落することはなく、かつ、通行中に乗降ステップの左右からホーム側端部間隙に脱落することもない。
【0032】
そして、ホーム可動部8が待避状態となるときには、まずホームドア5が閉扉した後に、ステップ板8a、ステップ用アクチュエータ8b及び脱落防止柵8cが図2中に破線で示したように動作し、それぞれ点線で示した所定の位置に収納される。すなわち、ステップ用アクチュエータ8bは、ロック機構が解除されて収縮し、点線で示した収縮状態に畳まれ、これに伴ってステップ板8aがホーム側端部の鉛直方向下方に収納される。一方、脱落防止柵8cは、ホーム壁に向かって鉛直方向軸回りに90°回転し、ホーム壁側に収納される。これにより、上述したホーム側端部間隙3が再び形成され、脱線した鉄道車両等の衝突を防止する待避状態になる。ホーム可動部8は、このように乗降時以外ではホーム壁と一体化するように収納することが可能なものとなっており、乗降時には乗降ステップがはね上げ式の橋のように出現し、脱落防止柵8cと共に安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成する。
【0033】
なお、以上のホーム可動部8を備えた本プラットホームにおいては、隣接する軌道7の延長部7aをステップ板8aと接触しないようにする必要がある。このため、延長部7aの部分が小さくなる場合もあり得るが、鉄道線路を構成する部分しかない従前の軌道よりは脱線後の安全性が高まるという点に変わりはなく、延長部7aの部分を小さくするにしても、ステップ板8aを設ける箇所(乗降箇所等)だけを小さくすることにしてもよい。
【0034】
・第2構成形態
図3は、第2の構成形態によるホーム可動部9を備えた本プラットホームの構成を示した図であり、その構造を鉄道車両1の進行方向に垂直な面から見た立面構造図を下段に示し、上方から見た平面構造図を上段に示してある。なお、上記図1の基本構成における構成要素と物理的に同様の構成要素については、図3中に同一の参照符号で表し、重複する説明を省略してホーム可動部9に関わる特異な事項のみを説明することにする。また、上段の平面構造図においてはホーム屋根6を省略してあり、上段の平面構造図と下段の立面構造図において対応する箇所は一点鎖線で示してある。
【0035】
鉄道車両1は、上記図1における鉄道車両1と同様の鉄道車両であるが、本プラットホームに停車し、車体1aにある車両側扉1cが開扉して乗客が乗降するときの状態になっている。このため、図3中の本プラットホームは、隣接する軌道7に列車が停車しているときの状態になっており、ホーム可動部9が出現して乗降用のプラットホーム側端部分を構成している。
【0036】
ホーム可動部9は、十分な荷重に耐え得る水平なステップ板9a及び鉛直に立設された脱落防止柵9b等を有し、ステップ板9aのホーム長さ方向両端に脱落防止柵9bが設けられた構成になっており、その全体がホーム柱4′に取り付けられて図3中の破線矢印で示したように昇降させることができるものとなっている。ホーム柱4′は、上記ホーム柱4にホーム可動部9の支柱としての機能を追加したものであり、長さや強度を必要に応じて変更したホーム柱を立設し、ホーム可動部9の昇降機構等を設けることによって構成される。
【0037】
このような構成において、ホーム可動部9がプラットホーム側端部分を構成するときには、図3中に実線で示してあるようにステップ板9aがホーム床2の位置となるまでホーム可動部9全体が下降する。下降したホーム可動部9は、ステップ板9a上で十分な荷重を支えることができるものとなっており、ステップ板9aが乗客の通行に安全な乗降ステップとなる。また、ステップ板9aのホーム幅方向は、車体1aの対向側面との間隙を最小限にして乗客の安全な乗降を可能にする幅となっており、ステップ板9aのホーム長さ方向は、開扉した車両側扉1cの乗降口(平面構造図中の点線部分)に対して乗降に十分な長さとなっている。さらに、脱落防止柵9bは、ホーム幅方向がステップ板9aと同じ幅になっており、鉛直方向に車両側扉1c以上の高さを有している。したがって、乗客は、ステップ板9a上を安全に通行して鉄道車両1内外への乗降をすることができ、その乗降ステップと車体1aの間の間隙に転落することはなく、かつ、通行中に乗降ステップの左右からホーム側端部間隙に脱落することもない。
【0038】
そして、ホーム可動部9が待避状態となるときには、ホーム可動部9全体が上昇して図3中の点線で示した所定の位置に待避する。この所定の位置は、図示のようにホーム可動部9が車体1aの側面と対向しない位置とする。これにより、上述したホーム側端部間隙3が再び形成され、脱線した鉄道車両等の衝突を防止する待避状態になる。ホーム可動部9は、このようにしてエレベータ状に昇降するものとなっており、列車が停車して乗客が乗降する際には、ホーム床面の位置まで下降して安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成し、列車が通過する際には、上昇位置に納められていてホームと鉄道車両の間の間隙を確保する。
【0039】
なお、以上のホーム可動部9を備えた本プラットホームにおいては、隣接する軌道7の延長部7aをホーム幅方向のホーム側端部まで広げることができる。すなわち、ホーム床2の位置から上方に構成したホーム可動部9は、軌道7を延長するに当たっての支障にはならないので、ホーム側端部直下までをバラスト面上部又はスラブ板等の上部と同じ高さにし、固定されるホーム床を削除した分だけ軌道7を延長することが可能であり、脱線後の安全性をより高めることができる。
【0040】
上記ホーム可動部8及び9は、既存のプラットホームにおいて軌道側の張出し部分を切断し、ステップ板や脱落防止柵等の構成要素を適宜設けることによって実現することができる。ホーム可動部9は、張出し部分を切断した既存のプラットホームにエレベータ等の乗降用昇降ステップを取り付ければよいので実用的といえる面もあるが、その乗降用昇降ステップを車体側面と対向しない位置まで上昇させるために高さ方向の制限がある。したがって、上方の空間に制限があるトンネル内等の駅では、よりコンパクトなホーム可動部8の方が適している。また、ホーム可動部9を設ける場合には、必要に応じて上方のホーム屋根を撤去し、脱落防止柵の上端間に屋根を設けたりしてもよい(図3の構成ではホーム屋根6の軌道側を撤去してある。)。
【0041】
・ホーム可動部に関するその他の具体的構成
(1)車体幅が異なる鉄道車両への対応
山形新幹線等の新在直通鉄道車両は、通常の新幹線規格の鉄道車両に比べて車体幅が狭いが、かかる車体幅の狭い鉄道車両が新幹線規格の線路を走行する場合、通常規格の新幹線車両が走行する場合よりもホームとの離隔が大きくなる。このため、現在においては、車体幅が狭い鉄道車両に乗降用のステップを設け、車体側のステップによりホームとの離隔を補って停車時の乗降を行うものとしている。
【0042】
これに対し、ホーム可動部は、ホーム側に設けられており、ホーム側から乗降ステップを出すものとなっている。そこで、ホーム可動部の乗降ステップ(上記ステップ板8a及び9a等)を伸縮可能な構成にし、車体幅が狭い鉄道車両が停車したときには乗降ステップを延長するようにしてもよい。例えば、進退自在な突き出し収納型等のステップ板を設け、ホーム側端部から車体側へと出ていくステップ板のストロークを何通りかに調整できるようにしておき、停車した鉄道車両の車体幅に応じたストロークでステップ板を伸縮するようにしてもよい。これにより、車体幅が異なるそれぞれの鉄道車両に対し、それぞれの車体側面との間隙を最小限にして乗客の安全な乗降を可能にするプラットホーム側端部分を構成することができ、ホーム側で車体幅の違いに対応することが可能となり、車体側にステップを設ける必要はなくなる。
【0043】
なお、車体幅の狭い鉄道車両はホームとの離隔が大きくなるが、その離隔は、ホーム側で衝突防止のために積極的に確保したものではない。このため、本プラットホームにおけるホーム側端部間隙3のように広くはなく、かつ、車体幅の狭い鉄道車両が走行するときにしか形成されない(通常規格の新幹線車両に対しては依然としてホーム側端部との離隔が狭いままになっている)ので、衝突の可能性を大幅に低減するには至らない。また、その離隔が通常より大きい程度でさほど広いものではないことから、車体側のステップには転落防止の手段が特に設けられていない。これに対し、本プラットホームにおけるホーム可動部は、乗降ステップからの転落を防止する上記脱落防止柵8c及び9b等の手段を有しており、より安全な乗降が可能になっている。
【0044】
(2)脱落防止柵
本プラットホームにおいては、上述したようにホーム側(地上側)から乗降ステップが出し入れされることにより、列車が停車した乗降時にホーム−車体間の乗降を行うが、上記脱落防止柵8c及び9b等による脱落防止構造ないし脱落防止装置を付加したことにより、ホーム側端部間隙3として大きな間隙を確保しても、乗降ステップ上を通行して乗降を安全に行うことができるようになっている。このような脱落防止柵は、透明な部材によって転落防止用に構成した透明門扉状のものとし、見通しを確保するようにしてもよい。また、高さを適宜定め、脱落防止柵が手すりとしての機能も有するものとしてもよい。
【0045】
(3)建築限界
プラットホームに関しては、建築限界が定められているので、ホーム可動部は、その建築限界内に収まる構造とし、出現しているときの乗降ステップが既存のプラットホームの張出し部分と同程度にホーム側端部から進出しているようにする。これにより、仮にホーム可動部が出現状態で故障し、待避状態とすることができなくなったとしても、プラットホーム側端部分と鉄道車両との位置関係は既存のプラットホームと同様となるので、通過列車等の通常の運行には支障がないようにすることができる。
【0046】
(4)設置箇所
ホーム可動部は、本プラットホームのホーム長さ方向全体に亘って設置することも可能だが、停車する鉄道車両の車両側扉と対向する箇所に設置すれば足りる。この場合、上記図2や図3で示したように各車両側扉と対向する箇所毎にホーム可動部を1つ設けることにしてもよく、あるいは、隣接する2つの車両側扉(例えば、連結されている前後車両の前車両後方乗降口と後車両前方乗降口等)毎に2つの車両側扉分の乗降ステップとなるホーム可動部を1つ設けることにしてもよい。各車両側扉と対向する箇所毎にホーム可動部を設置すると、列車が停車した乗降時には、ホームと車体の間に多数の橋が架かっているような状態になる。また、本プラットホームを設ける駅の利用状況等によっては、停車した列車の開閉する車両側扉を限定し、その車両側扉と対向する箇所だけにホーム可動部を設置することにしてもよい。
【0047】
(5)部材等
本プラットホームにおいては、脱線した通過列車等の衝突をホーム側端部間隙3の形成によって防止しているが、さらに、脱線した通過列車等が接触したときに自ら破壊して鉄道車両に損傷を与えないよう、ホーム可動部にハニカムのような強度に異方性を有する部材などにより、垂直方向には高い強度を有し前後や横方向には万が一の衝突の際には潰れやすいような構造によってホーム可動部を構成することにしてもよい。これにより、列車の脱線等による被害を軽減することも可能になる。
【0048】
<ホーム可動部の出没制御形態>
以上のような構成のホーム可動部は、乗降時に出現して乗降時以外は待避しているが、その出没の制御については、ホームドアとの連動機構を備え、ホームドアの開閉と連動して乗降ステップを出し入れすることにしてもよく、あるいは、停車する列車の車両側扉との連動機構を備え、車両側扉の開閉と連動して乗降ステップを出し入れすることにしてもよい。また、待避状態時にはホームドアを開扉しないようにするホームドアとのロック安全機構、待避状態時には車両側扉を開扉しないようにする車両側扉とのロック安全機構等を付加することにしてもよい。
【0049】
ここで、ホーム可動部の出現と待避は、その具体的な構成形態にもよるが、単なるドア開閉より時間を要する場合が多いことが想定される。したがって、ホームドアや車両側扉との連動を実現するためには、本プラットホームに進入してくる鉄道車両の運行状況に応じてホーム可動部の出没を制御することが必要になってくる。
【0050】
図4は、かかるホーム可動部の出没制御の具体的な一形態を示した図である。図4中、上段は、本プラットホームと前後の信号機等を示した略図であり、下段は、ホーム可動部の出没制御を含む鉄道車両の運行過程毎の動作推移を示した図である。
【0051】
上段の略図においては、右上の矢印が鉄道車両の進行方向を示しており、信号S1が本プラットホームへの進入側の信号機、信号S2が本プラットホームからの進出側の信号機を示している。信号S1、S2は、それぞれ軌道7上を走行している鉄道車両の位置に応じて青、黄又は赤の3色のいずれかを点灯する。なお、略図中ではホーム床2のみを示してあるが、本プラットホームは、上述した構成を備えており、列車発着駅のプラットホームが備える通常の列車運行に必要な構成(鉄道車両の接近検知手段や発車ベル等)も備えている。
【0052】
下段の動作推移では、本プラットホームと関連する鉄道車両の列車の運行過程をP1〜P6の6過程に分け、それぞれの運行過程における“信号S1”、“信号S2”、“接近検知”、“発車ベル”及び“ホーム出没”を示してある。“信号S1”、“信号S2”は、それぞれ信号S1、信号S2の点灯信号である。“接近検知”は、本プラットホームに列車が接近していることを検知したか否かのON/OFF信号であり、接近を検知したときのON信号を“1”、それ以外のときのOFF信号を“0”として示してある。“発車ベル”は、本プラットホームから列車が発車するときに発生させる発車ベル音のON/OFF信号であり、ON信号を“1”、OFF信号を“0”として示してある。“ホーム出没”は、本プラットホームにおいてホーム可動部を出現状態とするか待避状態とするかを決定するホーム可動部出没の制御信号であり、出現状態とするときを“1”、待避状態とするときを“0”として示してある。以下、図4を参照しつつホーム可動部の出没制御形態を、本ホームに停車する列車の運行過程毎に説明する。
【0053】
まず、始めの運行過程P1では、本プラットホーム周辺の軌道7に鉄道車両が走行しておらず、信号S1及びS2が共に“青”となっており、列車の接近は検知されずに“接近検知”が“0”で“発車ベル”も“0”になっている。このときの本プラットホームは列車待ちの状態になっており、“ホーム出没”は“0”としてホーム可動部を待避状態にしておく。
【0054】
そして、本プラットホームに停車する列車が接近するに際し、運行過程P1から運行過程P2へと移っている。運行過程P2では、列車を停止させるため信号S1が“黄”、信号S2が“赤”となり、列車を本プラットホームに停車させる信号が点灯する。その後、その列車の接近が検知されて“接近検知”が“1”となり、“発車ベル”は未だ“0”となっている。このとき、直前まで“0”としていた“ホーム出没”を“1”とし、ホーム可動部を出現状態とする制御信号を発生する。これにより、ホーム可動部が出現する動作を開始し、ホーム側端部に乗降ステップや脱落防止柵が現れる。なお、“接近検知”が“1”となったときには、そのON信号を受けて「電車が来ます」の構内アナウンス等がなされる。
【0055】
接近してきた列車が本プラットホームに進入して停車すると、運行過程P2から運行過程P3へと移る。運行過程P3では、列車が本プラットホームに停車していることによって信号S1と信号S2が共に“赤”となっており、“接近検知”は停車と同時に“0”又は“1”で“発車ベル”は未だ“0”となっている(“接近検知”は、列車が接近して停車するまでの接近状態を検知する場合には“1”のままであり、列車が停車した場合には“0”に戻る。)。このとき、本プラットホームは列車が停車中の状態になっているが、“ホーム出没”は“1”のままとし、上記運行過程P2で出現動作を開始して既に出現状態となっているホーム可動部をそのまま維持する。これにより、乗降ステップと脱落防止柵が用意された状態でホームドア及び車両側扉が開扉し、その乗降ステップ上を通行して乗客が停車中列車内外に乗降する。
【0056】
乗客の乗降が完了すると列車が出発する準備段階になり、運行過程P3から運行過程P4へと移る。運行過程P4では、列車が未だ本プラットホームに進入していることによって信号S1は“赤”のままだが、信号S2が“黄”又は“青”となって列車の進行が可能な信号を点灯し、“接近検知”は“0”となって“発車ベル”が“1”となる。このとき、本プラットホームにおいては発車ベル音が発生するが、“ホーム出没”は“1”のままとし、ホーム可動部を出現状態に維持する。発車ベル音は、間もなくホームドア及び車両側扉が閉扉して列車が発車することを告げる音であるが、その発生時点では未だホームドア及び車両側扉が開扉していて列車が停車中なので、ホーム可動部は出現状態のままにする。
【0057】
発車ベル音の発生後に車両側扉及びホームドアが閉扉し、停車していた列車が発車して動き始めると、運行過程P4から運行過程P5へと移る。運行過程P5では、動き始めた時点での列車の位置が運行過程P4のときとあまり変わらないので、信号S1は“赤”、信号S2は“黄”又は“青”のままであり、“接近検知”は“0”で“発車ベル”が“0”に戻る。この時点では“ホーム出没”を依然として“1”のままとし、ホーム可動部を出現状態にしておく。
なお、特別な場合として、運行状態P4,P5の時に、後続列車が接近してきた場合には、”接近検知”は”1”となるが、信号S1が赤の状態であり、駅には進入できない。よってこの場合は”接近検知”は無視することとし、あらためて駅への進入側の信号S1が”黄”の表示をした場合に接近検知を判定することとする。
【0058】
その後、列車が進出して信号S2が切り替わると、運行過程P5から運行過程P6へと移る。運行過程P6では、列車が本プラットホームの区間から信号S2の防護区域を走行しており、信号S1及びS2が共に“赤”となり、“接近検知”は“0”で“発車ベル”は“0”である。すなわち、運行過程P5から運行過程P6へと移るのは、発車した列車が進出して信号S2が“赤”になったときであり、本プラットホームの区間より先の区間に進入したときである。このとき、直前まで“1”としていた“ホーム出没”を“0”とし、ホーム可動部を待避状態とする制御信号を発生する。これにより、ホーム可動部が待避する動作を開始し、乗降ステップや脱落防止柵を待避させてホーム側端部間隙3を形成する待避状態とする。
【0059】
発車した列車が本プラットホームから遠ざかると、信号S1及びS2が共に“青”となり、本プラットホームは再び上記運行過程P1の列車待ちの状態に戻る。以後、列車の接近、停車及び発車の度に上記運行過程P1〜P6における動作が同様に繰り返され、ホーム可動部の出没制御が行われる。
【0060】
本プラットホームにおけるホーム可動部は、以上のように信号機の信号、列車の接近検知及び発車ベル音との関係によって出現及び待避の条件を特定することができ、それらの関係の組み合わせによって乗客の乗降と列車の運行に適した出没制御を行うことが可能である。
【0061】
ただし、列車の通過や、地震や列車の脱線等の異常が検知された場合には、無条件でホーム可動部を待避状態に維持する。例えば、通過車両の所定区間への進入や、異常検知時には割込制御によってホーム可動部を待避状態にロックてもよい。異常検知時では、列車についても緊急停車する位置が不定なので、手動制御に切り替えて柔軟な対応をすることもできる。
【0062】
また、ホーム可動部を一旦出現状態としたときには、乗降ステップに乗降客等がいる限り出現状態を維持し、乗降ステップに乗降客等がいるままの状態で待避状態にすることは避ける必要がある。このため、乗降ステップに乗降客等がいるか否かを検知し、乗客等がいる限りは出現状態を維持するようにしておく。乗降客等がいるか否かを検知する手段としては、例えば、乗降ステップ上の荷重を検知する荷重センサや乗降ステップ上の物体を検知する光センサ等が挙げられる。
【0063】
以上のような本プラットホームは、鉄道車両の軌道に隣接する任意の場所に設けることができるが、特に、通過専用線を含む線路配線を有しない駅構内等の区間では、プラットホームに接する線路を高速で列車が通過する場合があるので、そのプラットホームとして本プラットホームを設けることとすれば、通過列車が地震によって脱線した場合等にプラットホームの側端部分に激突することを防止することができる。通過専用線を持たない新幹線途中駅等の駅構内は、かかる区間に当たる例であり、旅客乗降用プラットホームに接する線路を新幹線車両が高速で通過する場合があるので、その旅客乗降用プラットホームを本プラットホームとすることによって脱線時等の衝突を防止し、衝突の被害回避や安全性の向上等を図ることができる。また、本プラットホームは、列車が通常では通過するが停車する場合もあり得る緊急用ホーム等のプラットホームにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態による軌道車両のプラットホームを適用した鉄道車両のプラットホームの基本構成例を示した図である。
【図2】第1の構成形態によるホーム可動部8を備えた同プラットホームの構成を示した図である。
【図3】第2の構成形態によるホーム可動部9を備えた同プラットホームの構成を示した図である。
【図4】同プラットホームにおけるホーム可動部の出没制御の具体的な一形態を示した図である。
【図5】鉄道車両の列車発着駅にある一般的なプラットホームの構造を示した立面構造図である。
【符号の説明】
【0065】
1 鉄道車両 1a 車体 2 ホーム床
3 ホーム側端部間隙 4、4′ ホーム柱 5 ホームドア
7 軌道 7a 延長部 8、9 ホーム可動部
10 鉄道車両 10a 車体 10b 台車
11 ホーム床 11a ホーム側端面 12 ホーム柱
13 ホームドア 14 ホーム屋根 15 軌道


【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する軌道上を走行する軌道車両と所定間隙を隔てて設けられたホーム床と、
前記ホーム床より軌道側に出没自在な可動部であって、軌道車両内外への乗降時に前記ホーム床の軌道側端部と当該軌道車両との間に配置されると共に、軌道車両内外への乗降時以外には退避して前記間隙を確保する可動部と、
前記軌道における軌道車両の運行情報に基づいて前記可動部の出没を制御する制御部と、
を有することを特徴とする軌道車両のプラットホーム。
【請求項2】
軌道車両が走行しない軌道部の延長部を前記間隙に対応する位置に設けたことを特徴とする請求項1記載の軌道車両のプラットホーム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の軌道車両のプラットホームにおいて、
前記可動部は、前記軌道側端部において回転自在に支持された乗降ステップを有し、
前記乗降ステップは、前記ホーム床側から当該軌道車両側に回転して前記軌道側端部から当該軌道車両に向かい、前記軌道側端部と当該軌道車両との間を通行可能にし、当該軌道車両側から前記ホーム床側に回転して収納されることを特徴とする軌道車両のプラットホーム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の軌道車両のプラットホームにおいて、
前記可動部は、前記軌道側端部において昇降自在に支持された乗降ステップを有し、
前記乗降ステップは、前記ホーム床の位置に下降して前記軌道側端部と当該軌道車両との間を通行可能にし、当該軌道車両よりも上昇することを特徴とする軌道車両のプラットホーム。
【請求項5】
前記可動部は、前記軌道側端部と当該軌道車両との間の通行者が前記乗降ステップから脱落することを防止する脱落防止手段を有する、請求項3又は4記載の軌道車両のプラットホーム。
【請求項6】
前記制御部は、当該プラットホームに停車すべき車両が所定の領域に進入したことを条件として前記可動部を出現させる出没制御をすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の軌道車両のプラットホーム。
【請求項7】
当該プラットホームに停車した軌道車両が発車し、当該プラットホーム外の区間に進入したときに前記可動部を待避させる出没制御をすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の軌道車両のプラットホーム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−273035(P2006−273035A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92240(P2005−92240)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】