説明

軌間・通り整正機械

【課題】整正作業時には車体負荷配分がレールの整正に影響を及ぼさないようにするようにして、併せて整正作業機を上下方向に作用させる浮き操作時におけるレールへの異常な負荷を与えないで軌間の整正が行える軌間・通り整正機械を提供する。
【解決手段】スラブ軌道T上のレールR1,R2の軌間を整正する機械で、軌道上を走行自在な走行車両2の車両本体7の前部に設けられ、前方へ伸縮自在なブーム10の先端に支持されて整正作業機20が吊設され、作業時に前記車両2の車体重量が少なくともレールR1,R2締結済みタイプレート70位置で受止められる状態で、前記ブーム10を伸ばしてレール整正位置に整正作業機20が配置されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブ軌道における軌間の通り整正を計測データに基づいて行う軌間・通り整正機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道の軌間・通りは、列車の繰り返し走行により曲線部分に限らず直線区間でも狂いが生じる。列車の走行条件を維持するためには、この軌間・通りの狂いを整正する必要がある。この軌間・通りの狂いを整正する作業は、まず左右一対のレールにおける一方のレールを基準にして、所要区間で他方のレールを固定している締結押えボルトを緩め、予め検測車による区間内での軌道における計測走行によって得られた左右一対のレールのデータに基づいて、レールを軌間方向に移動してその状態を保持しながら締結押えボルトを締付け左右レールの間隔を整正している。
【0003】
このようなスラブ軌道上における軌間の通り整正を機械的に実施できるようにした整正機械については、軌道上を移動して軌間ゲージで計測して締結押えボルトの緩め・締め付けを行い、レールをデータの通りに移動調整して軌間の整正を行うことができるものが、特許文献1によって知られている。この整正機械は、軌道上を走行できる走行体の前部に、軌間計測器,締結押えボルトを締付け・緩めするナットランナを昇降可能に付されたナット締付け機構,左右一側部に取付けた第1レールクランプ機構と左右他側部に左右搖動自在に取付けた第2レールクランプ機構,その第1レールクランプ機構に対して第2レールクランプ機構を左右に搖動する伸縮機構とを備えて、軌道に沿って走行可能な作業機フレームが作業時に軌道上に降ろされて作業できるように、アームによって走行車両の前部に連結された構成にされている。
【0004】
通常、このような整正機械によりスラブ軌道上での軌間・通りの整正作業は、左右のレールを固定保持しているすべてのタイプレート位置で締結押えボルトの緩め・締付け操作をして整正を行うのではなく、例えば4ピッチおきのタイプレート位置で、軌間・通りの整正操作を行っている。この作業は、予め設定した区間ごとに、まず一方のレールを基準にして他方のレールの整正する位置で締結押えボルトの締結ナットを緩め、軌間ゲージに合致するように整正位置で締結押えボルトの締付けナットを緩めてレールを左右方向に移動させ、軌間を整えた後にナットで締結押えボルトの締付け操作を行って整正作業を行う。こうして、作業予定区間で片側のレールの通りを整正すると、作業車両を反転走行させ、こんどは通り整正が終ったレールを基準にして他方のレールの整正位置で締結押えボルトのナットを緩め、検測車によって予め計測されて得られた軌間データを基にしてレールを左右に動かして軌間ゲージに合致するように整正し、その後に緩められているナットを締付けて締結押えボルトによりタイプレートを固定する操作を順次行って、整正作業を遂行している。
【0005】
【特許文献1】特許第3079165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1で知られる軌間・通り整正機械では、走行車体と整正を行う作業機との位置関係について適正でないために、作業機が整正部に停止したとき、例えば図13に示されるように、締結押えボルトの締結されていない部分110に整正機械100の走行車体101の自重が作用し、そのために整正作業機102による整正部112でレール103が動いて整正に影響するという問題がある。特に、カント区間(曲線区間)ではそのカーブの内側になる部分においては、走行車体が内側に傾くことから、緩解された内側レールに車体側の荷重がかかってレールを広げる方向に変形させる作用が発生する。これにより,せっかく整正しても、締結操作を行う際に曲がりを残した状態で固定されてしまうことになり、仕上げ形状にゆがみが残る。したがって、仕上げ精度が悪化するという問題がある。
【0007】
また、従来の整正機械100にあっては、上部旋回体104を支持している旋回サークル部105(旋回機構)におけるガタなどの作用により、車両が停止したときに整正作業機102を支持しているブーム106から自重による負荷で整正作業機102に対して鉛直方向に押下げる力が作用する。整正作業機102は車体に設けられたブーム106に繋がれて、そのブーム106を起伏させる油圧シリンダ107(ブームシリンダ)により浮かせる(浮き機構)ようにされているが、その油圧シリンダ107にかかる荷重の方向と車両停止時における負荷の方向とは異なる。そのために、カーブ区間などではレール103を倒す方向に負荷が作用して、整正作業における仕上げ精度が低下するという不具合が生じる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、整正作業時には車体負荷配分がレールの整正に影響を及ぼさないようにして、併せて整正作業機を上下方向に作用させる浮き操作時におけるレールへの異常な負荷を与えないで効果的に軌間の整正が行える軌間・通り整正機械を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明による軌間・通り整正機械は、
スラブ軌道の軌間を整正する機械であって、軌道上を走行自在な走行車両の車両本体の前部に設けられブームの先端に支持されて整正作業機が吊設され、作業時に前記車両の車体重量が少なくとも締結済みのレール位置で受止められる状態で、前記ブームを伸ばしてレール整正位置に前記整正作業機が配置されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
前記発明において、前記ブームは多段伸縮構造で、その前端部下部と前記車両の車両本体前端とを繋ぐブームシリンダにて伸縮ならびに起伏操作される構成にされ、最伸長状態で車両前輪が締結位置上に位置する状態で整正位置が最近接した箇所での整正作業が行えるようにされているのがよい(第2発明)。
【0011】
前記発明において、前記整正作業機は、前記ブーム先端に連結支持される吊下げフレームを上下伸縮構造にされ、その内部にブーム支持体直下と整正機フレームとを繋いで昇降シリンダが組込まれ、この昇降シリンダと前記ブームシリンダとによって整正作業機の浮き機構が構成されるのがよい(第3発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、走行車両前部に設けられたブームの先端にて整正作業機が吊設されて、走行車両の車体重量が少なくとも締結済みのレール位置で受止められた状態にて、前記ブームを伸ばしてレール整正位置に整正作業機が配置されるようにすることができるので、整正作業機を作動させてレールの整正作業を行うとき、車両が安定した位置に停止して自重量による影響で整正箇所におけるレールへの曲げ荷重が軽減される。したがって、本発明によれば、整正位置に走行車両による影響を及ぼさないでレールの整正作業を行うことができ、レール整正の仕上り精度を向上させることができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明では、整正作業機がブームによって吊設される吊下げフレームを上下伸縮構造にされて、その内部にブーム支持体直下と整正機フレームを繋ぐ昇降シリンダとブームシリンダによる浮き機構が構成されるので、車両を移動させて整正作業機を整正位置に定置させる際、整正作業機の自重以外の力によってレールに押し開くような負荷を掛けずに整正操作に移行することができ、整正作業の精度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明による軌間・通り整正機械の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1には本実施形態の軌間・通り整正機械の全体側面図が示されている。図2には図1の平面図が示されている。また、図3には作業状態での軌間・通り整正機械の全体側面図が示されている。図4には整正作業機の平面図が、図5には図4のA−A視図が、図6にはナットランナ機構の正面図が、図7には図6の平面視図(a)とスライド支持機構を表わす図(b)が、図8にはレールクランプ装置の概要図が、図9には可動側レールクランプ装置の正面図が、図10には図9のB−B視図が、図11には固定側レールクランプ装置の正面図が、それぞれ示されている。
【0016】
図1から図3に示すように、本実施形態の軌間・通り整正機械1は、下部走行体3上に旋回機構6を介して車両本体7が載設された走行車両2と、この走行車両2の車両本体7の前部に伸縮・起伏自在なブーム10によってその先端に吊設される整正作業機20とで構成されている。
【0017】
前記走行車両2は、車両本体7に搭載されるエンジン駆動でスラブ軌道T上のレールR1,R2上を自走できる構造にされた下部走行体3と、この下部走行体3の走行体フレーム3a中央上で旋回機構6を介して旋回可能に搭載される車両本体7(上部旋回体)と、この車両本体7に搭載されて走行ならびに整正作業機20その他各部を作動させる動力源となるエンジンおよび油圧機器とその付属機器(いずれも図示せず)、および運転室8とで構成されている。そして、下部走行体3は、走行体フレーム3aの両側にて巻装されるゴム製の履帯3bの前後に、それぞれ支持フレーム4に軌間に合わせて軸受支された車軸を介し支持される左右一対の鉄輪5,5を備えている。
【0018】
前記車両本体7には、旋回フレーム7aの前部中央位置に設けられるブラケット9に基端をピン11で枢支されて、ブーム10が配置されている。このブーム10は伸縮構造にされており、旋回フレーム7a前端部に基端を枢着されるブームシリンダ13のロッド13a端を前下部のブラケット14にピン連結され、このブームシリンダ13の伸縮によりブーム10の伸縮および起伏が行えるようにされている。なお、ブーム10とブームシリンダ13とは、そのブーム10の直下位置で、ブーム10基端の枢支ピン11位置に対してブームシリンダ13の基端枢支位置が前側に位置するようにされ、前記ブーム10を収縮させて固定した状態でブームシリンダ13のロッド13aを伸長させるとブーム10が大きく起立できるようになされている。そのために、前記ブーム10には、最収縮位置で固定できるようにロックピン10aによる固定孔が側面部に設けられている。また、ブーム10の先端部には後述する整正作業機20を吊設するためのブラケット12が取着され、先端部上面に整正作業機20の姿勢を操作する姿勢操作シリンダ29の取付ブラケット15が付設されている。
【0019】
前記整正作業機20は、平面視方形に形成された主フレーム22と、その主フレーム22の下面に左右二個ずつ前後方向に所要間隔をおいて配設される四個の案内車輪25,25,25′,25′にて軌道スラブT上の左右一対のレールR1,R2上で移動可能に支持されている。前記主フレーム22の上面中央に縦部材23cが接続され、その縦部材23cのほほ中央位置上面に基端を固着されて直立する伸縮構造の吊下げフレーム24とで支持構造体21とされ、前記主フレーム22上には機器類が支持されて、前記吊下げフレーム24の上部を前記ブーム10先端のブラケット12に枢着されて吊設され、動力源を走行車両2側から受けるとともに、駆動制御されて整正作業が実施できるように構成されている。これら構成について、以下具体的に説明する。なお、この整正作業機20における各部の配置については、左右のレールR1およびR2に対して図示のものについて記述する。したがって、整正作業で反転させた場合は説明の逆に配置される。
【0020】
図4、図5に示すように前記支持構造体21の主フレーム22は、軌間を跨ぐ方向に長辺で、レールR1,R2に平行する方向を短辺とする長方形にされ、その長辺方向に一方端部で一本と他方でちょうどレールR2(反転するとレールR1)上から軌間方向に適宜寸法左右等分する位置にて平行して二本、前後それぞれ横部材22a,22b(軌間方向に配される部材)を相互に接続する縦部材23a,23b,23b(レールと平行する方向の部材)がそれぞれ配置されて枠組みされている。そして、中央部位置でレールR1,R2と平行する大きい断面の縦部材23cが前記横部材22a,22b上に架設されている。
【0021】
前記支持構造体21の主フレーム22に付設される前記案内車輪25,25′は、軌道スラブT上の左右レールR1,R2に対応するようにして主フレーム22の下面で外軌側に配設される前後二箇所ずつのブラケット25aに、一方の二個の案内車輪25,25を両鍔付きにして、使用時一方のレールR1の頭部に沿って転動するようにされ、内軌側に配設される前後二箇所ずつのブラケット25bに、他方の二個の案内車輪25′,25′は鍔なしのものがレールR2頭部を転動するように、それぞれピン支持されている。なお、前記鍔付き案内車輪25を支持するブラケット25aは、主フレーム22下面に設けられた取付座26で外側部からハンドル26a操作によってレールR1と直交する向きにスライドできるように支持されており、そのハンドル26aによる操作によってスクリュー軸26bを回転させるとブラケット25aがスライドして、結果的に案内車輪25を基準にして主フレーム22が軌間方向に移動し、位置調整されるようになされている。この位置調整側の案内車輪25,25は、後述する整正操作側と反対の側に設けるのが好ましい。
【0022】
また、前記吊下げフレーム24は、上下に入れ子式の筒体にてなり、主フレーム22の上面ほぼ中央部で、前後方向に架設された縦部材23c上に設けてある取付座23dに直立して下側部材24aの基端が取着されている。上側部材24bの上端には所要間隔で直立して二股状のブラケット27が取着されており、このブラケット27の基端部を外側から挟むようにして走行車両2の前部に設けられたブーム10先端のブラケット12内側に介挿されて連結ピン28により結合され、ブーム10の先端に吊下げられている。また、前記ブラケット27の上部には、前記ブーム10先端上側の取付ブラケット15に基端を取付けられた姿勢操作シリンダ29のロッド端がピン29bで連結され、この姿勢操作シリンダ29によって整正作業機20の姿勢が操作されるようになっている。このような構成の吊下げフレーム24には、その中空内部に昇降シリンダ30が組込まれ、この昇降シリンダ30の作動によって下側部材24aを介して前記主フレーム22が昇降されるようになっている。
【0023】
図4から図7に示すように、前記主フレーム22上で平行する二本の縦部材23b、23b間の中間位置には、直立する二本のナットランナ32,32と、これらを同時に上下動させる一本のナットランナ昇降シリンダ35と、それらを支持するスライドベース34および支持フレーム39とを一組とするナットランナ機構31が、前記ナットランナ32,32の各ソケット32bを下向きにして配置されている。
【0024】
この一組のナットランナ32,32は、前記主フレーム22における二本平行して配設される縦部材23b,23b上に設置された各ボックス33a,33a内に配される平行軸33b,33b上で摺動自在に支持されるスライダ33c,33cにて両側を受支されて水平移動可能に架設されたスライドベース34に、目的とする軌道上のタイプレート70の締結押えボルト71,72に対応する配置で直立設置されている。前記二本のナットランナ32,32の支持構造は、ナットランナ昇降シリンダ35のシリンダ本体35aと支持フレーム39とが連結されてスライドベース34に直立され、かつこの支持フレーム39の軸線と同一方向で平行して直立する二本のガイドロッド39a,39aに案内される連結部材39b,39bによって前記両ナットランナ32,32が支持されている(図5,図6参照)。こうして、前記両ナットランナ32,32は、その連結部材39b,39bを介してナットランナ昇降シリンダ35にて昇降自在にされている。そして、前記スライドベース34は隣接位置に設けられたナットランナスライド用モータ36(サーボモータ)により操作されるリンク機構37と繋がれて、前記スライドベース34と一緒に移動する位置検出センサ38′により、締結押えボルト71,72に対するナットランナ32,32のソケット32b、32b位置を検知設定されるように、前記モータ36と関連させて適正な位置に移動操作させ、ナットランナ32,32の軸心が締結押えボルト71,72の軸心と合致するように構成されている。
【0025】
図4,図8から図11で示すように、前記ナットランナ機構31の設置箇所の前側位置には、レールクランプ装置40,41が配置されている。このレールクランプ装置40,41は、前記ナットランナ機構31設置箇所の前部位置(レールR2上部位置)とその反対側のレールR1上部位置とに設けられ、上部で接続部材51によって相互に連結されている。これら両レールクランプ装置40,41は、概略同一の構造からなる。したがって、その一方の可動側(第2レールクランプ装置41)について説明し、他方の固定側(第1レールクランプ装置40)のものについては必要以外の構造の説明を省略して、同一構造部分については第2レールクランプ装置41のものと同一の符号を付して詳細な説明を省略することとする。
【0026】
まず、一方の可動側レールクランプ装置(第2レールクランプ装置41)は、上端部を前記支持構造体21の主フレーム22の前部横部材22aから起立する支柱42の上部に取付く片持ち梁材42a先端下部に付設のブラケット42bに、頂部をピン42cにて枢着されて垂下支持される縦長の吊下げ主部材43と、その吊下げ主部材43下端に設けられたクランプ片取付ブラケット44に基端を連結ピン46,46により枢支されて、左右対称に配設される一対のクランプ片45,45と、これらクランプ片45,45を操作するクランプ操作シリンダ47,47とで構成されている。
【0027】
前記クランプ片45,45は、いずれも所要間隔で配された二枚の部片先端部の内側を相互に繋ぐにように横向きで付設された把持爪45aを備え、対向する位置でレールR2の座部r両側端を挟んで整正動作を行えるように形成されている。これらクランプ片45,45は、その中間位置で、前記吊下げ主部材43の上部両側にて対称に取着されるブラケット48,48にてそれぞれ枢支されるトラニオンマウント型のクランプ操作シリンダ47のロッド47a端がピン47bで連結され、それらクランプ操作シリンダ47,47の各ロッド47aが突き出されると連結ピン46,46を基点として回動され、両側からレールR2の座部rを挟むようにされている。なお、この第2レールクランプ装置41は、吊下げ主部材43の頂端部で枢支ピン42bにより支持されているので、軌間の整正時に横移動(搖動)可能なようになされている。また、他方の固定側レールクランプ装置(第1レールクランプ装置40)は、クランプ片45′、45′とそのクランプ操作シリンダ47′との関係について、前記第2レールクランプ装置41と同様であるが、吊下げ主部材43′については主フレーム22に付設される支持部材49によって直立静止状態に支持されている。
【0028】
このようにされる左右の第1レールクランプ装置40と第2レールクランプ装置41は、前記第2レールクランプ装置41の上頂部を支持する支柱42頂部のブラケット42aと第1レールクランプ装置40の静止支持される吊下げ主部材43′の上側部とが接続部材51によって相互に連結されて上部で固定状態に保たれている。そして、前記第2レールクランプ装置41は、その吊下げ主部材43の中間位置で他方の第1レールクランプ装置41と対向する側面に、可動操作ブラケット52が横向きに突設されている。また、第1レールクランプ装置40の吊下げ主部材43′の中間位置で前記第2レールクランプ装置41における可動操作ブラケット52と対向する位置にもブラケット53が横向きに突設されている。この可動操作ブラケット52とブラケット53とには、主フレーム22の横部材22aに取着される油圧サーボモータ55aにより駆動されるパワーシリンダ55(整正シリンダ)の可動ロッド55b端がピン56で連結されている。そのパワーシリンダ55が制御部からの指令で駆動されて進退することにより、第2レールクランプ装置41の吊下げ主部材43を枢支ピン42bを基点にして左右に搖動変位させることにより、クランプしたレールR2を軌間に合わせるように整正操作する。この際の作動反力は第1レールクランプ装置40を介して他方のレールR1に受止められる。なお、第2レールクランプ装置41の吊下げ主部材43に対して、その中間部の両脇には、オーバーランを防止するリミットスイッチ57,57が設置されている。
【0029】
また、前記第1、第2レールクランプ装置40,41の配置に平行して近接箇所下部には電動式の軌間ゲージ60が併設されている。この軌間ゲージ60は、周知構造のもので、レールの頭部内側面にローラを当接させて左右のレール間を計測できるように構成されたものである。この軌間ゲージ60によって検知される計測データは、車両本体7に設けられる図示されない制御部に送られて、軌間整正時に前記両レールクランプ装置40,41の作動に反映して制御するようになされている。また、前記一方のレールR2に沿って整正作業機20を走行案内する案内車輪25′の一つにはその回転支持軸端にエンコーダ65を付設して、整正作業機における移動距離を計測して整正作業位置を検知できるように制御部に移動距離データが送信できるようにされている。
【0030】
なお、前記各部の油圧シリンダ(クランプ操作シリンダ47,ナットランナ昇降シリンダ35,吊上げフレーム昇降シリンダ30)やその他の油圧機器の作動については、図示されない制御部において、検測車によって計測されたデータに基づく整正データの入力データに従って油圧制御部を作動させて、整正操作が行われるようにそれら油圧機器を作動させる制御機構が設けられている。
【0031】
このように構成される本実施形態の軌間・通り整正機械1は、軌道のレールR1,R2上に走行車両2を載せて整正作業現場に移動させる。この場合、ブーム10は最短にして、図示省略するが整正作業機20をレールR1,R2上から上方に持上げた状態で走行車両2を走行させる。
【0032】
整正作業を行う位置に到達すれば、まず走行車両2の下部走行体3が、図3に示されるように、走行前部の鉄輪5がタイプレート70位置の上に位置する状態で停止して、ブーム10のロックピン10aによる固定を解いて後、ブームシリンダ13を伸長作動させてブーム10を最大長さに伸長させる。こうすることにより、予め設定されているブーム10の伸長寸法に従って整正位置のタイプレート70上に整正作業機20におけるナットランナ機構31を対向させるようになる。こうした後、ロックピン10aでブーム10を伸長状態にて固定し、姿勢操作シリンダ29を作動させて吊下げフレーム24をほぼ垂直な姿勢に調整する。次いで、そのまま吊下げフレーム24に内設の昇降シリンダ30の伸長操作とブームシリンダ13の一部収縮操作とによって持上げられていた整正作業機20をレール上に降ろし、昇降シリンダ30を浮き状態にして整正作業機20の自重だけがレールR2(R1)に作用するように設定して、作業体制に移行する。なお、この時点ではナットランナ機構31におけるナットランナ32,32は上昇した状態にある。オペレータは運転室8で整正作業機20の運転を開始する指令を制御部に与えて各部を作動させる。
【0033】
軌間ゲージ60によって現在の軌間が計測される。次いで、第1レールクランプ装置40ならびに第2レールクランプ装置の各クランプ操作シリンダ47,47,47′,47′への油圧制御部にクランプ開始の信号が与えられて、各シリンダのロッドを前進させ各クランプ片45が一斉に対向する位置のレールを両側から把持するように作動させる。こうして、両レールクランプ装置40,41のクランプ片によって左右のレールR1,R2が同時にクランプされる。このレールクランプ位置は、図3で明らかなように、整正するタイプレート70から外れた近傍箇所で、レールの座部rをそれぞれ両側からクランプ片45,45先端に付されている把持爪45a,45aによって把持される。
【0034】
次いで、前記軌間ゲージ60による計測値に基づいて、軌間寸法に合致するように、制御部から整正のための信号がパワーシリンダ55の作動部に与えられる。すると、軌間寸法がオーバーしている場合、そのパワーシリンダ55が収縮作動することにより、現時点で整正されない反対側のレールR1を基準にして締結押えボルトの締付けが緩められている側の第2レールクランプ装置41が内側に引き寄せられ、軌間が適正寸法に達するまでクランプ部を横移動させる。この際、前述のように、この第2レールクランプ装置41は、吊下げ主部材43が傾動可能に設けられているので、所要量変位して所定位置までレールR2を移動させることができる。もちろん、軌間寸法が狭まっている場合、前述と逆に作動して所定位置に整正される。
【0035】
レールR2が所定位置に整正されると、ナットランナ機構31の各ナットランナ32,32を締め方向に作動させ、締結押えボルト71,72を締付けてレールR2とともに変位したタイプレート70を軌道スラブTに対して固定する。こうして、整正が行われると、ナットランナ32,32を上昇退避させ、両レールクランプ装置40,41の各クランプ操作シリンダ47,47,47′,47′を逆作動させてクランプ片45対によるレールのクランプを解除して移動可能な状態にする。その後、次の整正位置に移動して再び前記操作を繰返すのであり、通常はタイプレート70によるレールの締結固定位置4ピッチ分ごとに整正操作が行われている。したがって、整正作業機20を案内車輪25,25′によってレール上を移動し、4ピッチ前進した位置で次の作業を行う。
【0036】
本実施形態では、このような整正作動時に整正作業機20の自重が、案内車輪25,25′を介してレール上に常時負荷されることになるが、その整正作業機20全体をブーム10を介して支持する走行車両2が、整正位置から大きく離して、レールR2がタイプレート70に締結されている位置上で作業時負荷が大きく作用する前側の鉄輪5を停止保持されるように構成されているので、その走行車両2による負荷の影響が整正位置に作用するのを抑制することができ、そのレールR2にかかる曲げ荷重が軽減されて整正作業におけるレールの姿勢を安定状態に保って整正することができる。なお、走行車両2は、下部走行体3として鉄輪5,5とともにゴム製の履帯3bを備えているので、その履帯3bとレールとの接触摩擦によって走行停止時におけるスリップをなくし、ほぼ等ピッチで配置されるタイプレート70の例えば4ピッチごとの位置に移動して正しく停止させることができ、整正作業を容易にすることができる。
【0037】
こうして前進方向に順次移動して整正作業が行われ、所定区間の軌道における一方のレールR2の通り整正が終ると、今度は走行車両2を反転させて、先に通りの基準としていた他方のレールR1の整正を行う。こうするためには、走行車両2の車両本体7を旋回機構6を作動させて旋回し、ブーム10とその先端に装着する整正作業機20を反対向きに旋回移動させる。
【0038】
整正作業機20を反転させるには、まずブームシリンダ13を収縮作動させてブーム10を図3の状態から図1に示す状態に戻す。次いで、図12にて示されるように、ブーム10を起立させて運転室8側に寄せると同時に整正作業機20を真横に変位させて保持させる。このようにするには、作業状態からブーム10のロックピン10aによるロックを解いてブームシリンダ13のロッド13aを後退させてブーム10を収縮させ、ブーム10を最収縮位置でロックピン10aにてロックする。この状態でブームシリンダ13のロッド13aを伸長させるとともに、姿勢操作シリンダ15のロッドを伸長させると、ブーム10が起立して運転室8寄りに回動変位できる。同時に、整正作業機20は、その吊下げフレーム24上端のブラケット27がブーム10先端のブラケット12との連結ピン28位置を基点にしてほぼ90度回動し、横向きに変位される。こうすることにより、ブーム10を介して整正作業機20が走行車両2の車両限界内に収まることになる。したがって、車両本体7を旋回させても軌道から大きくはみ出すことなく下部走行体3上で旋回させて先の状態と逆の向きに整正作業機20を位置させることができる。
【0039】
方向変換後は、ブームシリンダ13のロッド13aを収縮させてブーム10を倒伏させると同時に姿勢操作シリンダ29のロッドを後退させて整正作業機20を元の姿勢に戻して浮かせた状態にして、ブームのロックピン10aによる固定を解いてブームシリンダ13を作動させ、ブーム10を伸長させる。その後は姿勢操作シリンダ29によって吊下げフレーム24を垂直姿勢に整える。整正作業機20は、軌道に対面する状態にした後に昇降シリンダ30を作動させて浮き状態からレール上に降ろす。
【0040】
なお、走行車両2に対して整正作業機20を近づけて整正作業を行う必要がある場合は、図1に示されるように、ブーム10の長さを収縮させた状態にして使用することができる。この場合においても、整正作業機による整正作業位置に対して走行車両は、その自重が締結されているタイプレートの上位置に自重が作用するように停止させて行うことができる位置関係を保つことができる。
【0041】
上述したように、本実施形態の軌間・通り整正機械1によれば、走行車両2と整正作業機20との支持構造を伸縮機能を備えたブーム10により整正作業機20の支持操作ができる構成して、整正作業時における整正位置でのレールに対して走行車両2の自重による負荷の影響を低減できるように、走行車両2の停止位置から整正位置を大きく離すことができる構成とされ、しかも作業現場への機械の移動や軌道上での方向変換時に支持しているブーム10を収縮させると整正作業機20が車両限界内に収まって旋回できるので、作業に支障を来たすことがない。また、整正作業機20は、支持するブーム10の伸縮に伴う起伏機能とその整正作業機10に昇降機能を組込むことで、レール上に対しての載置や退避に際するいわゆる浮き機構をそれらによって合理的に機能させることができ、作業に際してのレールに対する変則的な負荷をかけずに整正作業を行える機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施形態の軌間・通り整正機械の全体側面図
【図2】図1の平面図
【図3】作業状態での軌間・通り整正機械の全体側面図
【図4】整正作業機の平面図
【図5】図4のA−A視図
【図6】ナットランナ機構の正面図
【図7】図6の平面視図(a)とスライド支持機構を表わす図(b)
【図8】レールクランプ装置の概要図
【図9】可動側レールクランプ装置の正面図
【図10】図9のB−B視図
【図11】固定側レールクランプ装置の正面図
【図12】整正作業機の方向変換時における支持状態を表わす図
【図13】従来の軌間・通り整正機械の作業態様説明図
【符号の説明】
【0043】
1 軌間・通り整正機械
2 走行車両
3 下部走行体
5 鉄輪
10 ブーム
13 ブームシリンダ
20 整正作業機
21 支持構造体
22 主フレーム
24 吊下げフレーム
25,25′ 案内車輪
29 姿勢操作シリンダ
30 昇降シリンダ
31 ナットランナ機構
32 ナットランナ
32b ソケット
34 スライドベース
35 ナットランナ昇降シリンダ
36 ナットランナスライド用モータ
37 リンク機構
40 第1レールクランプ装置
41 第2レールクランプ装置
43,43′ 吊下げ支持体
45 クランプ片
45a 把持爪
47,47′ クランプ操作シリンダ
55 パワーシリンダ
60 軌間ゲージ
70 タイプレート
71,72 締結押えボルト
R1,R2 レール
T スラブ軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ軌道の軌間を整正する機械であって、軌道上を走行自在な走行車両の車両本体の前部に設けられたブームの先端に支持されて整正作業機が吊設され、作業時に前記車両の車体重量が少なくとも締結済みのレール位置で受止められる状態で、前記ブームを伸ばしてレール整正位置に前記整正作業機が配置されるように構成されていることを特徴とする軌間・通り整正機械。
【請求項2】
前記ブームは多段伸縮構造で、その前端部下部と前記車両の車両本体前端とを繋ぐブームシリンダにて伸縮ならびに起伏操作される構成にされ、最伸長状態で車両前輪が締結位置上に位置する状態で整正位置が最近接した箇所での整正作業が行えるようにされている請求項1に記載の軌間・通り整正機械。
【請求項3】
前記整正作業機は、前記ブーム先端に連結支持される吊下げフレームを上下伸縮構造にされ、その内部にブーム支持体直下と整正機フレームとを繋いで昇降シリンダが組込まれ、この昇降シリンダと前記ブームシリンダとによって整正作業機の浮き機構が構成される請求項1に記載の軌間・通り整正機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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