説明

軟磁性工具用磁性着脱シート

【課題】使用時に軟磁性工具に巻きつけるだけで磁性を付与し、使用しないときには脱磁(消磁)することができ、ドライバーのみならず、六角レンチやボックスレンチなどの軟磁性工具にも磁性の付与と脱磁(消磁)を繰り返して行うことができる汎用性に優れた補助工具を提供すること。
【解決手段】軟磁性体からなる工具を着磁または脱磁させるための柔軟性を有する磁性着脱シートであって、希土類磁性粉末およびバインダーを含有する磁性シート上に保護層が形成されてなる軟磁性工具用磁性着脱シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性工具用磁性着脱シートに関する。さらに詳しくは、一般にねじ回しと称されているドライバー、六角レンチ、ボックスレンチ、電動ドライバービット、ペンチなどの軟磁性工具を容易に磁化させることができ、磁気が不要な場合には、磁化した軟磁性工具を容易に脱磁(消磁)させることができる軟磁性工具用磁性着脱シートに関する。
【0002】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、種々の形状や大きさを有する軟磁性工具に巻きつけるだけで、軟磁性工具に磁性を付与することができ、さらにその磁性着脱シートによって容易に脱磁(消磁)することができるので、汎用性に優れ、種々の軟磁性工具に幅広く適用することができる。
【0003】
なお、本明細書において、軟磁性工具は、工具の金属部分が軟磁性体で構成されている工具を意味する。また、工具用磁性着脱シートは、工具に磁性を着磁するシート、工具に着磁している磁性を脱磁(消磁)するシート、および工具に磁性を着磁するとともに工具に帯磁している磁性を脱磁するシートを意味する。
【0004】
本発明では、特に、軟磁性工具に磁性を付与することに重点を置いており、また、軟磁性工具に磁気が残存している場合には脱磁を施すことができるようにすることも意図していることから、軟磁性工具用磁性着脱シートは、主として、軟磁性工具に磁性を着磁するシートおよび軟磁性工具に磁性を着磁するとともに軟磁性工具に残存している磁気を脱磁するシートを意味する。
【背景技術】
【0005】
代表的な工具の1つであるドライバーにおいては、ビスやネジなどがその先端部から脱落するのを防止し、作業の利便性を高めるために、ドライバーの先端部を磁化させることが行われている。しかし、一般に用いられているドライバーには、焼き入れや窒化などが施された鋼が使用されているため、着磁機でドライバーに直接磁化を施したとしても、付与される保磁力が弱く、十分な磁束密度を付与することができないことから、磁化されたドライバーの先端部からビスなどが簡単に脱落するという欠点がある。
【0006】
工具に磁性を付与する手段として、工具に直接、永久磁石を取り付けることが考えられている。永久磁石が取り付けられた工具として、例えば、ドライバーのビット本体の係合部付近にビット本体に沿って磁化部材が摺動可能に設けられたねじ締め用ドライバー工具(例えば、特許文献1参照)、脱落防止手段を介して永久磁石が装着されたねじ締め用ビット(例えば、特許文献2参照)、ビット杵にスライド移動自在に被嵌される被嵌体が設けられ、被嵌体の先端部に磁石部が設けられたドライバービット(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
しかし、前記ねじ締め用ドライバー工具には、微細な切子、金属ごみ、使用時の摺動によって磁化部材から脱落した磁性粉などがビット本体と磁化部材との間などに入り込み、動作不良を起こすおそれがあるという欠点がある。
【0008】
前記ねじ締め用ビットには、細いドライバーやマイクロドライバーなどの直径が小さいものに永久磁石を装着することが困難であり、さらに常に磁性を帯びていることから、電子機器などの磁性を嫌う機器に近接させることができないため、磁性を嫌う用途に使用することができないという欠点がある。さらに、このねじ締め用ビットには、工具収納箱などへ収納したときに、周囲の微細な切子、金属ごみなどが永久磁石に吸着され、ビットとビスなどとの嵌着に支障をきたすおそれがあるため、工具収納箱などから取り出したとき、常に先端部の金属ゴミの除去を行った後に作業に入らなければならないという欠点がある。
【0009】
前記ドライバービットには、被嵌体が一定の直径を有するビット杵にのみ適用しうるものであることから、直径が異なるビット杵に適用することができないため、汎用性がなく、しかも被嵌体に、該被嵌体に設けられた磁石部の磁気により、微細な切子、金属ごみなどが付着すると、被嵌体の動作不良を起こすおそれがあるという欠点がある。
【0010】
さらに、これらの工具には、通常、金属焼結によって製造された永久磁石が使用されているため、機械的強度が低くて脆く、例えば、工具を落としたり、工具箱の中で振動を受けたり、工具同士が衝突したときに割れや欠けなどの損傷が発生するため、工具用途には適していない。また、これらの工具には、使用されている永久磁石は、一旦工具に組み込むと容易に取外すことができないことから、他の工具に転用することができないため、汎用性に欠けるという欠点もある。
【0011】
【特許文献1】特開2001−71277号公報
【特許文献2】特開2003−62763号公報
【特許文献3】特開2003−165067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、使用時に軟磁性工具に巻きつけるだけで磁性を付与し、使用しないときには脱磁(消磁)することができ、ドライバー、六角レンチやボックスレンチなどをはじめ、これら以外の軟磁性金属体に磁性の付与と脱磁(消磁)を繰り返して行うことができる汎用性に優れた補助工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(1)軟磁性体からなる工具を着磁または脱磁させるための柔軟性を有するシートであって、希土類磁性粉末およびバインダーを含有する磁性シート上に保護層が形成されてなる軟磁性工具用磁性着脱シート、
(2)希土類磁性粉末が、ネオジム系磁性粉末、サマリウム−コバルト系磁性粉末およびサマリウム−鉄系磁性粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種の磁性粉末である前記(1)記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、
(3)バインダーが、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、架橋ウレタン樹脂および架橋シリコーン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(1)または(2)記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、
(4)磁性シートの厚さが、0.1〜5mmである前記(1)〜(3)いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、
(5)保護層が、ポリウレタン、加硫ゴムおよび熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種で形成されてなる前記(1)〜(4)いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、
(6)保護層の厚さが、5〜100μmである前記(1)〜(5)いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、
(7)磁性シートが、N極およびS極がシートの厚さ方向に着磁された磁性シートである前記(1)〜(6)いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート、ならびに
(8)磁性シートが、N極およびS極の多極が着磁された磁性シートである前記(1)〜(7)いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、使用時に軟磁性工具に巻きつけるだけで磁性を付与し、使用しないときには脱磁(消磁)することができ、ドライバー、六角レンチやボックスレンチなどをはじめ、これら以外の軟磁性体を使用した金属器具に磁性の付与と脱磁(消磁)を繰り返して行うことができるので、汎用性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、柔軟性を有するので、軟磁性工具に容易に巻きつけることができる。したがって、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを軟磁性工具に直接巻きつけることにより、その中心部に磁束密度を収束させることができることから、軟磁性工具に強い磁力を付与することができる。
【0016】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、希土類磁性粉末およびバインダーを含有する磁性シート上に保護層を形成させることによって得られる。
【0017】
磁性シートに含有される希土類磁性粉末は、磁性シートを柔軟で薄いシートとすることができるとともに、強い磁力を軟磁性工具に付与することができるという利点を有する。
【0018】
希土類磁性粉末の具体例としては、ネオジム系磁性粉末、サマリウム−コバルト系磁性粉末、サマリウム−鉄系磁性粉末などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの希土類磁性粉末は、いずれも軟磁性工具に強い磁力を付与することができるので、好適に使用しうるものである。
【0019】
好適な希土類磁性粉末の具体例としては、Nd−Fe−B系磁性粉末などのネオジム系磁性粉末、Pr−Fe−B系磁性粉末、これらの磁性粉末に含まれている鉄の一部をコバルトに置換した磁性粉末などが挙げられる。これらのなかでは、ネオジム系磁性粉末、特にNd−Fe−B系磁性粉末は、強い磁力を軟磁性工具に付与することができるので、好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、「○○系」とは、当該○○を主成分とすることを意味し、主成分は1種類だけでなく複数種類であってもよい。
【0021】
ネオジム系磁性粉末に代表される希土類磁性粉末の平均粒子径は、強い磁力を付与する観点および希土類磁性粉末とバインダーの混合物に流動性を付与するとともに充填密度を高める観点から、好ましくは10〜250μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0022】
なお、希土類磁性粉末の平均粒子径は、レーザー光を用いた光散乱法を用いて測定することができる。より具体的には、希土類磁性粉末の平均粒子径は、例えば、大塚電子(株)製のレーザー粒子解析システムELS−8000(商品名)を用いて測定することができる。
【0023】
磁性シートにおける希土類磁性粉末の含有率は、磁性シートに磁性を十分に付与する観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上であり、磁性シートの成形を容易にする観点から、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0024】
磁性シートに含有されるバインダーは、磁性シートに柔軟性を付与するとともに、磁性シートに適度の機械的強度を付与する観点から、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、架橋ウレタン樹脂および架橋シリコーン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
【0025】
磁性シートにおけるバインダーの含有率は、磁性シートの成形を容易にする観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、得られる磁性着脱シートに磁性を十分に付与する観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0026】
磁性シートにおける希土類磁性粉末の含有率が高くなるにしたがって磁性シートの硬度が増大する。直径が5mm程度のドライバーのビットに本発明の磁性着脱シートを巻きつけることができる程度の柔軟性を磁性シートに付与する観点から、25℃におけるバインダーのアスカーC硬さは、好ましくは60以下であり、より好ましくは50以下である。一方、磁性シートの硬度が低くなるにしたがって層間破壊が生じ、繰り返して使用するときの耐久性が乏しくなる傾向があることから、磁性シートの硬度は、好ましくは10以上である。
【0027】
なお、前記アスカーC硬さは、JIS K 7312で規定されているAskerC硬度計で25℃にて測定したときの値である。
【0028】
磁性シートは、例えば、希土類磁性粉末とバインダーとを混合し、得られた混合物を所望の厚さとなるように成形することによって得られる。
【0029】
なお、磁性シートには、本発明の目的が阻害されない範囲内で、必要に応じて、例えば、滑剤、相溶化剤、シランカップリング剤などのカップリング剤、酸化防止剤、顔料などの樹脂添加剤が使用されていてもよい。例えば、カップリング剤の場合、磁性粉末にカップリング剤で表面処理を施すことにより、使用することができる。また、酸化防止剤、顔料などの場合、希土類磁性粉末とバインダーとの混合物に添加することにより、使用することができる。樹脂添加剤の量は、その種類などによって異なるので一概には決定することができないため、その種類などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0030】
希土類磁性粉末、バインダーおよび必要に応じて用いられる樹脂添加剤を混合する際には、例えば、2本ロール混練機、遊星式攪拌脱泡装置、プラネタリーミキサー、スクリュー押出機型ミキサー、バンバリーミキサーなどの混合機を用いることができる。
【0031】
希土類磁性粉末、バインダーおよび必要に応じて含有される樹脂添加剤の混合物から磁性シートを成形する方法としては、例えば、バインダーが加硫ゴムである場合、その原料として、加硫硬化型ゴムを用いて加熱プレスによって成形する方法、バインダーが架橋ウレタン樹脂である場合、その原料として、架橋反応硬化型ウレタン樹脂を用いて所定の成形型内でシート状に加熱成形する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
磁性シートの厚さは、手回しドライバーのビット部、電動ドライバー用ビット、レンチなどの軟磁性工具に容易に巻きつけることができるようにする観点から、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上であり、軸が細いドライバーなどの直径が小さい軟磁性工具に容易に巻きつけることができるようにする観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。
【0033】
磁性シートの幅および長さは、軟磁性工具に巻きつけるのに適していればよく、特に限定されない。その一例として、幅が1〜100mm程度、長さが10〜100mm程度である磁性シートが挙げられるが、必要により、切断することにより、磁性シートの寸法を適宜調整することができる。
【0034】
着磁後の磁束密度は、磁性シートの比重(密度)によって影響を受けることから、磁性シートの比重は、4以上であることが好ましく、シートへの成形性を高めるとともに工具などに容易に巻きつけるための柔軟性を付与する観点から、6以下であることが好ましい。磁性シートの比重は、希土類磁性粉末およびバインダーの量を調整することによって調節することができる。例えば、希土類磁性粉末の含有量が94質量%であり、バインダーの含有量が6質量%である磁性シートの比重は、約5となる。
【0035】
本発明の軟磁性工具用磁性シートの表面磁束密度は、十分な磁性を軟磁性工具に付与する観点から、好ましくは50mT以上、より好ましくは100mT以上である。本発明の軟磁性工具用磁性シートにおける表面磁束密度の上限値は、特に限定されないが、磁性シートに含有される磁性粉体の含有量と密度との兼ね合いから、好ましくは200mT以下である。
【0036】
磁性シートへの着磁は、着磁機によって行うことができる。その際、磁性シートの厚さ方向に対してN極およびS極となるように着磁した場合には、磁性着脱シートをドライバーのビットなどに巻きつけたときに磁性シートの磁束密度は中心部に収束し、中心部にある軟磁性体のドライバーのビットのヨーク効果によってドライバーの先端にも強い磁束を発生させることができる。したがって、磁性シートは、N極およびS極がシートの厚さ方向に着磁されていることが好ましい。
【0037】
前記磁性シートの厚さ方向に対してN極およびS極となるように着磁を施す方法としては、コイル内磁場着磁機を用いて磁性シートの厚さ方向に対して垂直の方向に磁束を通すことによって磁性シートを励磁する。
【0038】
また、磁性シートの面にN極およびS極の多極着磁を行なった場合には、得られる磁性着脱シートは、軟磁性工具に帯磁している磁性を脱磁(消磁)することができるという、1枚のシートで軟磁性工具に着磁と脱磁を容易に施すことができるという利点がある。
【0039】
磁性シート表面にN極およびS極の多極を着磁する方法としては、ヨーク方式の多極着磁機を用いる。例えば、磁性着脱シート1の表面の長手方向に対して直角方向にN極とS極が交互に磁化される方法などが挙げられる。N極とS極との間隔は、磁性着脱シート表面隔部における磁束密度を高める観点から、2mm以上であることが好ましく、表面至近部における磁束密度を確保する観点から、10mm以下であることが好ましい。磁性シートにおけるN極およびS極の多極の着磁が施される箇所は、磁性シートの全面および一部分のいずれであってもよいが、磁気の存在は目視では判別不能であり、作業の間違いをなくす観点から磁性シートの全面であることが好ましい。
【0040】
磁性シートの磁気特性である最大エネルギー積は、大きいことが好ましい。例えば、希土類磁性粉末の含有量が94質量%であり、バインダーの含有量が6質量%である磁性シートの最大エネルギー積は、好ましくは40kJ/m以上、より好ましくは45〜60kJ/mである。
【0041】
磁性シートの表面上には、保護層が形成されている。保護層は、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートが繰り返して屈曲させて使用された場合であっても、該磁性着脱シートに含まれている希土類磁性粉末が脱落するのを防止するとともに、磁性シートの耐久性を高め、さらに該磁性シートの表面を保護する役割を果たす。
【0042】
保護層は、磁性シートを保護し、磁性シートとの接着性に優れ、柔軟性を有することから、ポリウレタン、加硫ゴム、熱可塑性エラストマーなどが好ましい。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、あるいは2種以上を複合して用いてもよい。
【0043】
保護層には、作業性を向上させ、皮膜強度および屈曲性を高める観点から、ポリウレタンを用いることが好ましい。ポリウレタンとしては、熱硬化性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタン、湿気硬化型ポリウレタンエラストマーなどが挙げられるが、これらのなかでは、伸縮性と強度に優れていることから、熱硬化性ポリウレタンおよび熱可塑性ポリウレタンがより好ましい。
【0044】
保護層の厚さは、磁性シートを十分に保護する観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、磁性シートが有する磁性を十分に発現させる観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0045】
磁性シートの表面に保護層を形成させる方法としては、例えば、(A)熱可塑ポリウレタンの場合には、あらかじめシート状に成形しておき、磁性シートを重ね合わせた後、両者を熱プレスなどによって溶融一体化させ保護膜として形成する方法、(B)熱硬化性ポリウレタンの場合には、保護層を構成する樹脂の溶液、懸濁液または乳液を磁性シートに塗布した後、加圧乾燥させる方法などが挙げられる。
【0046】
前記(B)の方法における塗布方法には、特に限定がなく、例えば、スプレーコーティング法、刷毛塗り法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スクリーン印刷などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0047】
保護層は、磁性シートの一方表面のみに設けられていてもよく、両表面に設けられていてもよいが、磁性シートを十分に保護する観点から、磁性シートの両表面に設けられていることが好ましい。
【0048】
かくして、磁性シートに保護層を形成することにより、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートが得られる。
【0049】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートの大きさには特に限定がなく、その大きさは、用いられる軟磁性工具の種類などに応じて適宜決定することが好ましい。また、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、容易に裁断することができるので、必要により、鋏やカッターナイフなどの刃物で裁断することにより、その大きさを調整してもよい。
【0050】
なお、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートの厚さは、磁性シートの厚さと保護層の厚さの和に等しい。
【0051】
本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを軟磁性材料からなるドライバー、レンチ、産業用電動ドライバー、ネジ締めドライバーロボット、磁気搬送用磁気吸着ロッドなどの軟磁性工具や軟磁性金属体に捲回するだけで、その軟磁性工具に磁性を容易に付与することができる。
【0052】
したがって、軟磁性工具に磁性が必要なときに、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートをその軟磁性工具に捲回するだけで、該軟磁性工具に磁性を付与し、ビスやナットなどのパーツを吸着させることができる。また、磁性を必要としない場合には、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを軟磁性工具から取り外すだけで、軟磁性工具から磁性を除去することができる。
【0053】
なお、軟磁性工具が、透磁率が高い鋼材などによって構成されている場合には、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを離脱させた後に、該軟磁性工具に磁性が残存することがある。このような軟磁性工具に不要な磁気が残留している場合には、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを用いて脱磁(消磁)することができる。
【0054】
軟磁性工具の脱磁は、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートの脱磁用着磁を施したシート表面で帯磁した軟磁性工具を1回〜数回程度摺動させることによって簡単に脱磁を行うことができる。より具体的には、例えば、磁気が残留している軟磁性工具を磁性着脱シートの長手方向に対して平行となるようにして磁性着脱シートの着磁面の中央部に配置、磁気吸着させた後、軟磁性工具を手早くスライドさせて磁性着脱シートの外にまで移動させることにより、残留している磁気を除去することができる。
【0055】
以上説明したように、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートは、磁性が必要なときに軟磁性工具に捲回することによって磁性を付与し、磁性が必要でないときには、軟磁性工具から取り外すだけでよいので、利便性に優れ、作業効率を高めるものである。さらに、ドライバー、六角レンチやボックスレンチなどの軟磁性工具が帯磁した場合には、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを用いて脱磁を施すことができるので、本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートによれば、軟磁性工具の着磁と脱磁とを繰り返して行うことができる。
【実施例】
【0056】
次に本発明の軟磁性工具用磁性着脱シートを実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0057】
実施例1
磁性シートに用いられる希土類磁性粉末として、ネオジム系磁性体であるNd−Fe−B磁性粉末〔(株)NEOMAX製、商品名:SPRAX−II〕を用いた。この磁性粉末の平均粒子径は、150μmであった。なお、この磁性粉末100重量部あたりシランカップリング剤(官能基としてメタクリロキシ基を有するシランカップリング剤)0.2重量部の割合で両者を混合し、ミキサー〔(株)カワタ製、スーパーミキサー〕を用いて20分間攪拌下で混合することにより、磁性粉末に表面処理を施した。
【0058】
バインダーとして、柔軟性に優れることから、架橋ウレタン樹脂を形成する熱硬化型弾性ゲル〔二液混合型ポリウレタンゲル、アスカーC硬さ:40〜60度〕を用いた。この二液混合型ポリウレタンゲルを形成する材料として、ポリウレタンゲル主剤〔日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:ON−F15〕およびポリウレタンゲル硬化剤〔日本ポリウレタン工業(株)製、商品名:C4404〕を用いた。
【0059】
ポリウレタンゲル主剤93重量部、ポリウレタンゲル硬化剤7重量部および前記磁性粉末1500重量部の割合で、これら三者を遊星式攪拌脱泡装置〔倉敷紡績(株)製、品番:KK−V300型〕に入れて混合し、得られた混合物を1mm厚のステンレス鋼製の200mm角の金型枠内に注入し、真空加熱プレス機で170℃、5分間の条件で加熱硬化することにより、厚さが約1mmの柔軟な磁性シート(比重:5.0)を得た。
【0060】
一方、保護層として、厚さが50μmのポリウレタンエラストマーシート〔日本マタイ(株)製、商品名:エスマーURS〕2枚を用意し、各シートを前記磁性シートの上面および下面にそれぞれ重ね合わせ、さらにそれらの上面および下面に離型用ポリエステルフィルム(厚さ:50μm)を重ね合わせた。
【0061】
得られた積層体を厚さ1mmのステンレス鋼(SUS304)製の200mm×200mm角の金型枠内に入れ、真空チャンバーおよびヒーター加熱−冷却水循環回路が備えられ、金属加圧板が取り付けられた加熱プレス機〔磐石油壓工業(株)製、品番:PV−250型〕で170℃、1分間の条件で圧着し、ポリウレタンエラストマーシートを加熱溶融し、全体がポリウレタンエラストマーシートで覆われた磁性シート(全体の厚さ:約1.05mm、片面の保護層の厚さ:約25μm)5枚を得た。この磁性シートの磁気特性を振動型磁力計(VSM)で測定したところ、残留磁束密度Brは540mT、最大磁気エネルギー積(BH)maxは46kJ/mであった。
【0062】
前記磁性シートを15mm(幅)×100mm(長さ)×1.05mm(厚さ)の寸法となるように裁断した後、その両端部に貫通孔をトムソン型によって形成させた。
【0063】
次に、この貫通孔を有する磁性シート10枚を用意し、それらの中から3枚を無作為に抽出し、それぞれを重ね合わせることによって得られた積層体に、コイル内着磁機を用いてシートの厚さ方向がN極とS極となるように着磁を施すことにより、磁性が付与された磁性着脱シートを得た。得られた磁性着脱シートの概略斜視図を図1に示す。図1は、貫通孔2を有する磁性着脱シート1の概略斜視図である。
【0064】
図1において、磁性着脱シート1の両端部には、長径が10mmであり、短径が6mmである楕円形状の貫通孔2が設けられているが、この貫通孔2は、設けられていなくてもよい。しかし、例えば、直径が5mm以下の細いビットを有するドライバーなどの軟磁性工具に捲回する場合、磁性着脱シート1の端部に柔軟性を付与することにより、磁性着脱シート1が軟磁性工具から離れずに密着させる観点から、磁性着脱シート1の端部に貫通孔2が設けられていることが好ましい。
【0065】
得られた磁性着脱シート3枚をそれぞれサンプル1〜3とし、それらの表面磁束密度をテスラメーター〔(株)エーディーシー製、品番:HGM―3000P−V〕で測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示された結果から、実施例1で得られた磁性着脱シートは、これと同様にして着磁が施された、市販のゴム磁石(フェライト粉体配合)の端部の表面磁束密度ピーク値の15.9mTと対比して、非常に強い磁力を有することがわかる。
【0068】
実施例2
次に実施例1で得られた磁性着脱シートを、市販のコードレス電動ドライバーであるグレート・ツール(GREAT TOOL)社製、品番:GTCD−96−2に付属されているプラスネジ用軟磁性ビットの長手方向の中央部に捲回した。なお、このときの磁性着脱シートの内側および外側のうちのいずれがN極またはS極であってもよい。
【0069】
図2は、磁性着脱シートを電動ドライバー用の軟磁性ビットの中央部に捲回したときの状態を示す概略斜視図である。
【0070】
図2において、電動ドライバー本体3のチャック(図示せず)には、電動ドライバー用の軟磁性ビット(直径:5mm、長さ:65mm)4が取り付けられており、軟磁性ビット4の側面の中央部に10mm(幅)×100mm(長さ)×1.05mm(厚さ)の磁性着脱シート1が4回捲回された捲回磁性着脱シート5が形成されている。軟磁性ビット4の先端には、クロム鍍金処理が施された4mm×20mmの市販の鉄製木ネジ(質量:2.01g)6が取り付けられているが、この鉄製木ネジ6は、磁化された軟磁性ビット4の磁力によって吸着されている。捲回磁性着脱シート5の外表面はS極であり、その内表面はN極であった。
【0071】
次に、図2のa部(軟磁性ビット4の先端部)、b部(捲回磁性着脱シート5に直近の軟磁性ビット4の表面)およびc部(捲回磁性着脱シート5の外周面)における磁束密度をそれぞれテスラメーター〔(株)エーディーシー製、品番:HGM―3000P−V〕で3回測定した。その結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
一般に、4mm×20mmの木ねじ6を下向き方向にして磁気吸着により吸引することができる磁束密度は、約18.0mT以上であるが、表2に示された結果から、軟磁性ビット4の先端部(a部)には平均して76.8mT以上の磁束密度が収束していることから、軟磁性ビット4の先端部は、木ネジ6を磁気吸着するのに十分に満足しうる磁束密度を有することがわかる。
【0074】
実施例3
実施例1において、木ねじ6を軟磁性ビット4に嵌合し、磁気吸着させて水平状態に保ち、電動ドライバーの回転を最も高い2200rpmに設定して5分間空回転を行った。
【0075】
次に軟磁性ビット4が鉛直方向で下向きとなるようにして5分間回転させたが、軟磁性ビット4に取り付けられた木ねじ6の位置ズレや脱落が認められず、また、捲回磁性着脱シート5にズレや離脱がまったく認められなかった。
【0076】
このことから、実施例1で得られた磁性着脱シート1は、電動ドライバーの軟磁性ビット4を高速回転で稼働させた場合であっても、木ねじ6を強固に吸着する磁力を有することがわかる。
【0077】
実施例4
実施例1において、4mm×20mmのクロム鍍金仕上げの木ネジ6を水平となるように配置し、電動ドライバーの軟磁性ビット4を回転させることにより、木ねじ6を鉛直方向に立てておいた市販の木板(厚さ50mmのベニヤ板)の側面に締め付けた。
【0078】
その結果、軟磁性ビット4に捲回された捲回磁性着脱シート5は、木ネジ6の締め付けが終了するまで離脱することがなかった。このことから、実施例1で得られた磁性着脱シート1は、優れた磁性を軟磁性工具に付与するとともに、電動ドライバーの回転程度では離脱しがたく、軟磁性工具に対する吸着性に優れていることがわかる。
【0079】
実施例5
実施例4を行った後、電動ドライバーの軟磁性ビット4に取り付けられている捲回磁性着脱シート5を、巻きつけて取り付けた手順とは逆に、外側から剥がした場合には、軟磁性体ビットへの着磁はほとんどなく、ビット先端部4の磁束密度は3.2mTであった。
【0080】
次に、シートが捲回されている状態で、軟磁性ビット4の先端部から抜き取り、軟磁性ビット4の先端部における残留磁束密度を測定したところ、その残留磁束密度は40.8mTであり、ビットへの着磁が確認された。そこで、この軟磁性ビット4の磁気を以下のようにして除去した。
【0081】
まず、実施例1で得られた磁性シート(幅:15mm、長さ:100mm、厚さ:1.05mm)に、ヨーク着磁機を用いて図3に示される着磁パターンとなるように、その片面に多極着磁を施した。図3は、多極着磁が施された磁性着脱シートの概略説明図である。
【0082】
図3において、磁性着脱シート1の着磁面7には、磁性着脱シート1の長手方向に対して直角方向にN極8とS極9が、両極者間の間隔が5mmとなるように交互に着磁されている。なお、図3に記載の破線11は、N極8とS極9との中間点を示している。この磁性着脱シート1の着磁面7における磁束密度をテスラメーター〔(株)エーディーシー製、品番:HGM―3000P−V〕で測定したところ、その表面における最大の磁束密度は、107.2mTであった。
【0083】
次に、図4に示されるように、磁気が残留している軟磁性ビット4を磁性着脱シート1の長手方向に対して平行となるようにして磁性着脱シート1の着磁面7の中央部に配置した後、矢印A方向に手早くスライドさせ、磁性着脱シート1の外にまで移動させることにより、残留している磁気を除去した。なお、図4は、磁性着脱シート1を用いて、磁気が残留している軟磁性ビット4を脱磁する方法を示す概略説明図である。
【0084】
この操作を矢印A方向に3回繰り返した後、軟磁性ビット4の先端部aの磁束密度をテスラメーター〔(株)エーディーシー製、品番:HGM―3000P−V〕で測定したところ、その磁束密度は3.8mTに低減していた。
【0085】
次に、この残留している磁気が除去された軟磁性ビット4に木ねじ6を吸着させようとしたが、木ねじ6を吸着させて持ち上げることができなかった。そこで、市販の事務用品のゼムクリップ(質量:1.35g)を軟磁性ビット4の先端部aに磁気吸着させようとしたが、このゼムグリップも磁気吸着させることができなかった。
【0086】
このことから、実施例1で得られた磁性着脱シート1は、軟磁性工具に磁性を付与することができるのみならず、この磁性着脱シート1に多極着磁を施すことにより、帯磁した軟磁性工具を容易に脱磁することができることがわかる。
【0087】
したがって、本発明の磁性着脱シートは、例えば、ドライバー、レンチ、ペンチ、電動工具などの軟磁性工具や軟磁性体に、磁気吸着により容易に取り付けることができ、しかも本発明の磁性着脱シートを軟磁性体に捲回することによって磁気を付与することができることがわかる。さらに軟磁性工具などが帯磁した場合には、本発明の磁性着脱シートは、その磁気を容易に脱磁することができるという利点を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の磁性着脱シートの一実施態様を示す概略斜視図である。
【図2】実施例2において、本発明の磁性着脱シートを電動ドライバー用の軟磁性ビットの中央部に捲回したときの状態を示す概略斜視図である。
【図3】実施例5において、多極着磁が施された磁性着脱シートの概略説明図である。
【図4】実施例5において、本願発明の磁性着脱シートを用いて、磁気が残留している軟磁性ビット4を脱磁する方法を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0089】
1 磁性着脱シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体からなる工具を着磁または脱磁させるための柔軟性を有する磁性着脱シートであって、希土類磁性粉末およびバインダーを含有する磁性シート上に保護層が形成されてなる軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項2】
希土類磁性粉末が、ネオジム系磁性粉末、サマリウム−コバルト系磁性粉末およびサマリウム−鉄系磁性粉末からなる群より選ばれた少なくとも1種の磁性粉末である請求項1記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項3】
バインダーが、熱可塑性エラストマー、加硫ゴム、架橋ウレタン樹脂および架橋シリコーン樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項4】
磁性シートの厚さが、0.1〜5mmである請求項1〜3いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項5】
保護層が、ポリウレタン、加硫ゴムおよび熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種で形成されてなる請求項1〜4いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項6】
保護層の厚さが、5〜100μmである請求項1〜5いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項7】
磁性シートが、N極およびS極がシートの厚さ方向に着磁された磁性シートである請求項1〜6いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。
【請求項8】
磁性シートが、N極およびS極の多極が着磁された磁性シートである請求項1〜7いずれか記載の軟磁性工具用磁性着脱シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−311557(P2008−311557A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159928(P2007−159928)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(302004263)角一化成株式会社 (12)
【Fターム(参考)】