説明

軟磁性焼結材料の製造方法

【課題】高い磁束密度を具えるとともに、結晶粒の粗大化を防止することができ、しかも得られる焼結体において結晶粒を制御することが可能な高強度の焼結軟磁性材料を提供すること。
【解決手段】主たる成分としての鉄(Fe)ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)及びリン(P)を含むFe−Si−P系の焼結軟磁性材料において、該焼結軟磁性材料が、内部に分布した結晶粒界を有し、その結晶粒界に析出した、1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の炭化物、窒化物、硫化物又はその混合物からなる粒子をさらに含んでなるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軟磁性材料に関し、さらに詳しく述べると、磁束密度及び強度を同時に高めて、インジェクタのアーマチャなどの作製に有利に使用することにできるFe−Si−P系の焼結軟磁性材料とその製造方法に関する。本発明はまた、かかる焼結軟磁性材料を使用した電磁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、焼結軟磁性材料は、その高い透磁性、高い磁束密度などを利用して、自動車や工作機械等においてエレクトロニクス制御などに用いられている。具体的には、例えばインジェクタのアーマチャやモータのコアなどにこの焼結軟磁性材料が用いられている。
【0003】
一般に、焼結軟磁性材料は、高い磁束密度を得るため、主成分としての鉄(Fe)にケイ素(Si)、リン(P)等の焼結促進元素を添加することで焼結作用を促進し、結果として密度を向上させる手法を採用している。得られる焼結体は、例えば、Fe−P系合金、Fe−Si−P系合金などの焼結体である。ところが、このようにして焼結を促進すると、結晶粒の粗大化やそれによる脆化の発生が発生する。ところで、焼結軟磁性材料は、発生した脆化により強度が低下するため、そのような高強度が要求される上述のような用途において有利に使用することができない。加えて、焼結軟磁性材料は、その焼結体をサイジングして目的とする形状をもった焼結製品を製造する場合、その脆さなどに原因して精度の低下を甘受しなければならない。
【0004】
結晶粒の粗大化を防止するため、いろいろな試みがすでに提案されている。典型的には、焼結温度や成形密度などの製造条件を緩和することや、焼結促進元素であるリンの量を減らすことにより、焼結の進行を遅延させる手段が提案されているが、このような手段を用いた場合、焼結不足により焼結体の密度が上がらず、磁束密度が低下するという問題を避けることができない。より具体的に説明すると、例えば特許文献1には、直流用継電器の鉄心などとして有用なFe−P系の焼結軟磁性材料が提案されている。この発明では、焼結促進元素として含まれるリンの量を重量比で0.5〜1.4重量%の範囲まで下げて焼結の進行を遅らせることや、製造条件を緩和すること、例えば、焼結時の昇温速度を毎分10℃以上にすること、あるいは0.005〜0.05重量%の炭素を添加することを提案している。しかしながら、このような解決法を採用した場合、焼結不足となって焼結体の密度が上がらず、磁束密度が低下するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−145962号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の焼結軟磁性材料のもつ良好な特性を維持したまま、高い磁束密度を可能とし、かつ同時に、結晶粒の過度の拡散やそれによる結晶粒の粗大化を防止し、しかも結晶粒を制御することが可能な高強度の焼結軟磁性材料を提供することにある。換言すると、本発明の目的は、高い磁束密度を維持したまま、結晶粒の粗大化に原因した強度の低下を防止することで、高い磁束密度と高い強度の両立を実現可能な焼結軟磁性材料と、その製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、高強度が要求される分野におけるこのような高性能な焼結軟磁性材料の使用を可能とすること、換言すると、例えばインジェクタのアーマチャなどの電磁弁の部品やモータのコアなどとして有用な電磁構造体を提供することにある。
【0008】
本発明のこれらの目的やその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その1つの面において、主たる成分としての鉄(Fe)ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)及びリン(P)を含むFe−Si−P系の焼結軟磁性材料であって、
該焼結軟磁性材料は、内部に分布した結晶粒界を有し、その結晶粒界に析出した、1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の炭化物、窒化物、硫化物又はその混合物からなる粒子をさらに含んでなることを特徴とする焼結軟磁性材料にある。
【0010】
また、本発明は、そのもう1つの面において、上記したような本発明の焼結軟磁性材料を製造する方法であって、下記の工程:
主たる成分としての鉄(Fe)粉末ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)粉末及びリン(P)粉末を含む混合金属粉末を用意する工程であって、前記鉄粉末は、焼結により炭化物、窒化物又は硫化物を形成可能な1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の粉末を添加してなる合金粉である工程、
前記混合金属粉末を加圧成形して、所定の形状を有する圧粉体を形成する工程、及び
前記圧粉体を高められた温度で焼結して焼結体となす工程
を含んでなることを特徴とする焼結軟磁性材料を製造する方法にある。
【0011】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、電磁コイルから発生された磁力により帯磁可能な部品を備えた電磁構造体であって、前記部品が、本発明による焼結軟磁性材料からなることを特徴とする電磁構造体にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の詳細な説明から理解されるように、高い磁束密度を具えたFe−Si−P系の焼結軟磁性材料を提供することができる。加えて、この焼結軟磁性材料は、焼結時、収縮による密度向上を阻害しないとともに、磁束密度を損なわずに結晶粒の粗大化を防止できるので、従来品に比較して強度を向上することができる。さらに、本発明によれば、得られる焼結体において結晶粒を制御することもあわせて可能である。よって、本発明の焼結軟磁性材料は、高い磁束密度や強度が要求される部品、例えばインジェクタのアーマチャなどに有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の焼結軟磁性材料の粗大結晶状態を示した模式図である。
【図2】本発明による焼結軟磁性材料の結晶微細化状態を示した模式図である。
【図3】本発明の焼結軟磁性材料をインジェクタのアーマチャに利用した例を示した断面図である。
【図4】比較例1で作製した焼結軟磁性材料の結晶状態を示した金属顕微鏡写真である。
【図5】実施例2で作製した焼結軟磁性材料の結晶状態を示した金属顕微鏡写真である。
【図6】実施例で作製した各焼結軟磁性材料の光沢面積率(%)を示したグラフである。
【図7】実施例で作製した各焼結軟磁性材料のQT処理前の曲げ強度(MPa)を示したグラフである。
【図8】実施例で作製した各焼結軟磁性材料のQT処理後の曲げ強度(MPa)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による焼結軟磁性材料及び電磁構造体は、それぞれ、本発明の範囲においていろいろな形態で有利に実施することができる。以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明するが、本発明は、これらの例示的形態に限定されるものではない。
【0015】
図1及び図2は、本発明による焼結軟磁性材料における結晶粒粗大化の抑制の考え方を模式的に示したものである。図1は、焼結軟磁性材料がMn、S合金鉄粉(Fe粉に対し、Mn、Sの含まれる合金粉;本例の場合、Si、Pは別添加であり、含まれない)である場合の模式図である。Mn、S合金鉄粉1の粒径は、通常、約50〜100μmである。図示のようなMn、S合金鉄粉1は、高い磁気特性を得るためには有効であるが、上記したように、もともと結晶粒が粗大化し易いという欠点があり、強度の低下が本質的なデメリットとして存在する。
【0016】
今まで予想されなかったことであるが、本発明者らは、主たる成分としての鉄(Fe)ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)及びリン(P)を含むFe−Si−P系合金に対して、焼結時に炭化物、窒化物又は硫化物を形成可能な結晶粒微細化元素を添加することで、高い磁束密度を維持したまま、結晶粒の粗大化に原因した強度の低下を防止することができ、よって、高い磁束密度と強度の両立を実現できることや、組成、焼結条件などのコントロールなどを通じて結晶粒の特性やサイズも所望に応じて制御できることを発見した。
【0017】
図2は、本発明のFe−Si−P系合金における上述の現象を模式的に示したものである。すなわち、本発明のFe−Si−P系合金は、焼結工程の前においては例えば図1に示したような結晶粒からなるけれども、焼結工程の後、それぞれの内部において結晶粒界11が発生し、結晶粒界11によって互いに分離された複数個のFe−Si−P系合金10からなる本発明による焼結軟磁性材料へと変化する。個々のFe−Si−P系合金10は、通常、その粒径が約20〜100μmである。換言すると、本発明の焼結軟磁性材料は、約20〜100μmの粒径を有する複数個のFe−Si−P系合金10の粒子の集まりであり、それぞれのFe−Si−P系合金10は、その内部において結晶粒界11によって互いに分離されている。隣接するFe−Si−P系合金10の結晶粒界11には、結晶粒微細化元素(ここでは、Mn及びS)Mが析出している。なお、Mn及びSは、通常、両者が一体化したMnS化合物として析出している。粒微細化元素Mは、それを含んだ状態でFe−Si−P系合金を焼結した場合、微細な炭化物や窒化物を析出し、いわゆる「ピンニング効果」を奏することができる。ピンニング効果は、結晶粒の粗大化が進行する際、粒界の移動に対してピン止めをするように抵抗となる作用を意味し、この作用により、結晶粒の粗大化を防止することができる。
【0018】
焼結軟磁性材料における結晶粒の粗大化の防止についてさらに説明する。磁束密度は、通常、磁性材料中における鉄(Fe)の占有率により決定される。そのため、焼結磁性材料においては、焼結体の密度が大きければ大きいほど、磁束密度は大きくなる。一方で、得られる焼結磁性材料において、焼結が進みすぎると結晶粒は粗大化し、粗大化した材料は、ホールペッチの法則(粒径と強度が反比例する)に従い、強度の低下が引き起こされる。本発明では、焼結後の軟磁性材料(Fe−Si−P系合金)において、その組織中に結晶粒微細化元素からなる析出物を形成させることで結晶粒界の移動をピンニング効果により食い止め、焼結体の密度を十分に上げながらも、結晶粒の粗大化を防止することができる。
【0019】
本発明の実施において、焼結軟磁性材料は、鉄(Fe)系合金、特にFe−Si−P系合金を主体とするものである。但し、得られる効果に望ましくない影響が現れないのであれば、Fe−Si−P系合金に代えて、あるいはこの合金と組み合わせて、Fe−P系合金やその他の鉄系合金を使用してもよい。例えばFe−Si−P系合金は、主成分としての純Fe粉末と副資材としての微量のSi、Pとからなる混合粉末に由来するものであり、その粒径は、通常、約50〜100μmである。
【0020】
純Fe粉末は、アトマイズ鉄粉とも呼ばれ、形状が不規則なために成形性に特徴があり、その粒径は、通常、約70〜90μmであり、約80μmのものを有利に使用することができる。必要に応じて、他の種類のFe粉末を使用してもよい。Fe粉末と組み合わせて、Si粉末及びP粉末を副資材として使用するが、Fe−Si−P系合金中に占めるSi粉末及びP粉末の粒径及び含有率は、それぞれ、広い範囲で変更することができる。Si粉末の粒径は、通常、約5〜50μmの範囲である。Si粉末の添加量は、通常、Fe−Si−P系合金の全量を基準にして、約1.5〜3.5重量%であり、好ましくは約1.5〜2.5重量%である。また、P粉末の粒径は、通常、約5〜30μmの範囲である。P粉末の添加量は、通常、Fe−Si−P系合金の全量を基準にして、通常、1.0重量%未満であり、好ましくは約0.2〜0.6重量%である。なお、本発明の実施において、MnS粉末を副資材として使用してもよい。
【0021】
本発明の焼結軟磁性材料では、それを構成するFe−Si−P系合金の焼結体の結晶粒界に結晶粒微細化元素が析出しているところに特徴がある。適当な結晶粒微細化元素は、本発明の上述のようなメカニズムにしたがって結晶粒を微細化する機能を有するとともに、焼結時に炭化物、窒化物又は硫化物を形成可能な金属もしくはその合金の粒子のなかから選択される。好適な結晶粒微細化元素の一例を示すと、以下に列挙するものに限定されるわけではないが、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、マンガン(Mn)、硫黄(S)などの金属を挙げることができる。これらの金属は、単独で使用してもよく、例えばMn+Sなどのように2種類以上の金属を組み合わせて、例えば合金の形で使用してもよい。また、これらの金属又はその組み合わせは、炭化物、窒化物又はその複合物(例えば、炭窒化物)の形で使用してもよい。さらに、窒化アルミニウム(AlN)などを結晶粒微細化元素として使用することもできる。
【0022】
本発明の実施において、結晶粒微細化元素は、通常、焼結軟磁性材料中に含まれる鉄(Fe)の全量を基準にして約0.20〜0.65重量%の量で使用される。焼結軟磁性材料に対して結晶粒微細化元素を0.20重量%以上の量で添加することによって、結晶粒の粗大化を完全に抑制することができる。また、結晶粒微細化元素の添加量を増加するにつれて、曲げ強度も増大させることができる。本発明者らの知見によれば、曲げ強度の増大は、0.65重量%までの添加量において有効である。結晶粒微細化元素の添加量が0.65重量%を上回ると、成形密度を上げにくくなるため、磁束密度が低下する傾向が認められる。また、結晶粒微細化元素の添加量は、0.20重量%を下回らないことが望ましい。なぜなら、その添加量が例えば0.1重量%もしくはそれ以下となると、結晶粒の粗大化を完全には抑制できず、強度が低下するからである。
【0023】
本発明による焼結軟磁性材料は、上記したように、Fe−Si−P系の焼結軟磁性材料に特定の結晶粒微細化元素をさらに含むことを特徴とするものである。この焼結軟磁性材料は、本発明の作用効果に対して悪影響を及ぼさない範囲で不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0024】
本発明は、上記したような焼結軟磁性材料に加えて、その製造方法にある。本発明による焼結軟磁性材料の製造方法は、いろいろな手法により有利に実施することができるが、とりわけ有利には、下記の工程:
(1)主たる成分としての鉄(Fe)粉末ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)粉末及びリン(P)粉末を含む混合金属粉末を用意する工程(ここで、鉄粉末は、好ましくは、焼結により炭化物、窒化物又は硫化物を形成可能な1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の粉末を添加してなる合金粉である)、
(2)前記工程(1)の混合金属粉末を加圧成形して、所定の形状を有する圧粉体を形成する工程、及び
(3)前記圧粉体を高められた温度で焼結して焼結体となす工程
で実施することができる。上記の工程は、必要に応じて、実施の順序を変更してもよい。
【0025】
上記した焼結軟磁性材料の製造方法は、本発明の範囲内においていろいろに変更することができる。例えば、上記の工程に追加して、加圧成形工程(2)に先がけて前記混合金属粉末に成形用潤滑剤を適用する工程と、加圧成形工程(2)の後に前記圧粉体を脱脂処理して前記潤滑剤を除去する工程とをさらに含んでもよい。
【0026】
また、焼結工程(3)の後、得られた焼結体を高められた温度で熱処理する工程をさらに含むことが好ましい。この熱処理工程において、焼結軟磁性材料のその他の優れた特性に悪影響を及ぼすことなく、焼結軟磁性材料の強度をさらに高めることができる。熱処理工程は、好ましくは、焼入れ工程及びその後の焼戻し工程(いわゆるQT処理)である。焼入れ工程は、例えば約1190〜1200℃の温度で実施することができ、また、焼戻し工程は、例えば約540〜570℃の温度で実施することができる。このようなQT処理の後、必要に応じて、焼結体をさらに熱処理することも推奨される。熱処理の結果、焼結体の強度がさらに向上するからである。
【0027】
焼結軟磁性材料は、その焼結工程あるいは熱処理の後、切削加工やその他の加工処理を施して最終的な形状をもった製品、例えばインジェクタのアーマチャとなすことができる。例えば切削加工は、常用の切削加工機を使用して、常用の手法で実施することができる。得られる製品の品質や精度を高めるため、切削加工に続けて製品研磨を行うことが好ましい。また、焼結材には、切削加工なしのネットシェイプ処理を施してもよい。
【0028】
さらに具体的に焼結軟磁性材料の製造方法を説明すると、本発明の焼結軟磁性材料は、常法に従って、例えば、原料粉末の混合、加圧成形、脱脂、そして焼結の各工程を経て有利に製造することができる。一例を示すと、アトマイズ鉄粉(Fe)に微量のSi粉末及びP粉末を混合することによってこれらの金属の混合粉末を調製する。鉄粉には、結晶粒微細化元素の粉末、例えばMn粉末及びS粉末を所定の割合で混合して、例えばMnSとFeの合金粉のような金属混合粉末を調製することが好ましい。本発明の焼結軟磁性材料を形成するのに必要な金属元素をすべて含む最終混合粉末を調製した後、この最終混合粉末に成形用潤滑剤を添加した後、別に用意した成形機で加圧成形を行う。成形圧は、通常、約500〜600MPaである。加圧成形の完了後、得られた成形体を水素ガス、アルゴンガス等の還元性ガス、非酸化性ガスなどの雰囲気下、約600〜700℃の温度で約1〜2時間にわたって脱脂処理し、先に使用した潤滑剤などを分解除去する。
【0029】
脱脂処理の完了後、成形体を焼結処理する。焼結処理は、成形体の組成などに応じていろいろな処理条件下で実施することができる。例えば、真空条件下、アルゴンガス等の非酸化性ガスの雰囲気中で約1100〜1200℃の温度で約1〜2時間にわたって成形体を加熱することによって焼結処理を完了することができる。得られる焼結体は、本発明の焼結軟磁性材料であり、Fe−Si−P系合金の結晶粒界に本発明に従い結晶粒微細化元素が析出している。この焼結軟磁性材料は、高い透磁性及び磁束密度を有するとともに、結晶粒微細化元素の析出により目的とする結晶粒微細化が達成されているため、優れた強度を有している。得られた焼結軟磁性材料は、所望とする製品に応じてさらに加工する。例えば、焼結軟磁性材料をインジェクタのアーマチャやモータのコアなどとして使用したい場合、所定の形状に切削加工し、さらに研磨処理する。切削加工及び研磨処理は、それぞれ、通常用いられている加工技術を使用して実施することができる。なお、焼結の特徴であるネットシェイプを利用可能であるならば、これらの加工工程を省略してもよく、これにより大幅なコストダウンを図ることができる。
【0030】
本発明による焼結軟磁性材料は、高い透磁性及び磁束密度、そして高められた強度を有しているので、それらの優れた特性を要求しているような焼結軟磁性材料の用途で、すなわち産業機械器具の一構成部品として、有利に利用することができる。よって、本発明は、その1つの面において、電磁コイルから発生された磁力により帯磁可能な部品を備えた電磁構造体であって、その部品が、本発明による焼結軟磁性材料からなることを特徴とする電磁構造体にある。本発明を適用し得る好適な構成部品の一例として、下記のものに限定されるわけではないが、インジェクタのアーマチャ、電磁弁のプランジャー、モータのコア、ロータ等、トルクセンサーのヨーク等、その他を挙げることができる。
【0031】
図3は、本発明の焼結軟磁性材料を、ディーゼルエンジンにおける燃料噴射装置の電磁インジェクタの頭部に搭載される電磁アクチュエータのアーマチャに利用した例である。車両用燃料噴射装置の電磁インジェクタにおいて、近年、環境改善のために自動車業界ではCO2 の排出量の低減、排気ガスの浄化が進められている。とりわけ、ディーゼルエンジンは、そのような問題に対して燃料噴射の高圧化や、多段噴射化等の技術で対応を進めている。そのため、電磁インジェクタに搭載される電磁アクチュエータには、高い応答性が求められる。この高い応答性に関する要件を満足させるため、本発明の焼結軟磁性材料を電磁アクチュエータのアーマチャに有利に利用することができる。
【0032】
電磁アクチュエータは、ニードルピストン(図示せず)の上部に形成される圧力制御室2を高圧あるいは低圧に切替制御するものである。具体的には、電磁アクチュエータのアーマチャ3がボディバルブ4のシート部4aに着座することにより、高圧燃料が供給される圧力制御室2と低圧油路5が遮断された状態になり、圧力制御室2が高圧になる。また、電磁アクチュエータのアーマチャ3が、電磁ソレノイド6の磁力によりボディバルブ4のシート部4aから離座することにより、圧力制御室2と低圧油路5が連通された状態になり、圧力制御室2が低圧になる。ここで、アーマチャ3は、本発明の焼結軟磁性材料から、その切削加工及び研磨によって形成されたものである。
【0033】
電磁アクチュエータは、上述したアーマチャ3及び電磁ソレノイド6の他に、アーマチャ3をシート部4aに押しつけるスプリング7、及び電磁アクチュエータをインジェクタボディ30の上部に固定するための固定手段を備える。この固定手段は、インジェクタボディ30の上端に螺合される略筒状のリテーニングナット8、その内側に挿入された略筒状のケース9、このケース9の上部に装着された略円板状のカバー40からなる。なお、ボディバルブ4及びケース9は、リテーニングナット8の上端内側に形成された段差部8aによってインジェクタボディ30に固定されるものであり、カバー40はケース9の上端に形成されたリブ9aを内側に曲げることによってケース9内に固定されるものである。
【0034】
電磁ソレノイド6は、電磁石用の圧粉ステータ15と、この圧粉ステータ15内に組付けられた磁力発生用のコイル12と、アーマチャ3を吸引した際にアーマチャ3と当接するストッパ13とを備える。
【0035】
圧粉ステータ15は、表面が絶縁皮膜(例えば、燐酸塩等)で覆われた磁性体金属粉(例えば鉄粉等)をプレス機等によって所定のステータ形状(略筒形円環形状)に圧縮して形成したものであり、磁性体金属粉の機械的な結合によって形状が保たれる。なお、圧粉ステータ15の表面に保護膜を形成している。
【0036】
コイル12は、通電を受けて磁力を発生する周知なものであり、圧粉ステータ15に形成された環状の凹部15a内に組付けられる。なお、コイル12の両端は、リード16及びワイヤ17を介して外部接続用のコネクタ18に接続されている。
【0037】
ストッパ13は、圧粉ステータ15の中心孔15bに挿通される中心部19と、アーマチャ3とは異なった側の圧粉ステータ15の面に当接する円板部20を備えたものであり、アーマチャ3が圧粉ステータ15に吸引されてアーマチャ3が所定量移動した際には、アーマチャ3が中心部19の先端19aに当接する。なお、上述したスプリング7は、ストッパ13の中心に形成された孔13a内に組付けられるものである。
【0038】
リテーニングナット8、ケース9及びカバー40の内部、つまり電磁アクチュエータが配置される部分は、低圧油路5と連通しており、ディーゼルエンジンの燃料(軽油)が満たされた状態となる。つまり、圧粉ステータ15は、燃料(作動流体に相当する)に触れた状態で使用される。なお、図中の参照符号21〜24はOリングを示し、内部の燃料が外部に漏れ出るのを防いでいる。また、参照符号25は絶縁体を示している。
【実施例】
【0039】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0040】
実施例1
本発明による焼結軟磁性材料の作製
アトマイズ鉄粉(Fe)に粒径10μm以下のMn粉末及び粒径10μm以下のS粉末を混合して、原料粉末として使用する第1の混合粉末(Fe、Mn、S)を調製した。ここで、Mn粉末及びS粉末の添加量は、それぞれ、下記の第1表に記載するように、得られる焼結軟磁性材料においてMn含有量が0.10〜0.30重量%及びS含有量が0.260〜0.400重量%となる量である。なお、本例では、Mn含有量が0.10〜0.30重量%であるため、得られる焼結軟磁性材料を「Mn:0.20粉」として他の焼結軟磁性材料と区別することとする。
【0041】
次いで、得られた混合粉末に微量のSi粉末及びP粉末を混合することによって第2の混合粉末(Fe、Si、P、Mn、S)を調製した。Si粉末及びP粉末の添加量は、それぞれ、下記の第1表に記載するように、得られる焼結軟磁性材料においてSi含有量が<0.05重量%及びP含有量が<0.020重量%となる量である。第2の混合粉末に含まれる金属粉末の粒径は、約80μmであった。
【0042】
上記のようにして調製した第2の混合粉末に1重量%の成形用潤滑剤を添加した後、混合粉末を成形型に充填し、加圧成形により試験片を作製した。なお、本例では、下記の2種類の試験片を作製した。
【0043】
〔円環状試験片〕
外径:18.4mm、内径:6.3mm及び高さ3.5mm
【0044】
〔角柱状試験片〕
縦:4mm、横:4mm、長さ:40mm
【0045】
加圧成形は、約500〜600MPaの圧力を印加して実施した。成形密度が6.7〜6.8g/cmの成形体が得られた。次いで、得られた成形体を水素ガスの雰囲気下、約550℃の温度で約2時間にわたって加熱し、先に添加した潤滑剤を揮散させ、脱脂した。
【0046】
脱脂処理の完了後、成形体を、常圧下、アルゴンガスの雰囲気中で約1150℃の温度で約5時間にわたって加熱することによって焼結処理した。上記の形状及びサイズを有する2種類の焼結体(本発明品)が得られた。これを、下記の評価試験で「試験片」として利用した。
【0047】
〔評価試験〕
得られた焼結軟磁性材料の試験片を下記の項目に関して試験した。下記の第2表は、得られた試験結果をまとめたものである。
(1)断面組織の測定
円環状試験片の表面を研磨し、その断面組織の金属(200×)から焼結軟磁性材料の粒子の粒径を測定したところ、30〜50μmであった。このことは、本例の焼結軟磁性材料では結晶粒の微細化が進行していることを示している。
【0048】
(2)光沢面積率(%)の測定
本例では、結晶粒の粗大化率を評価するため、円環状試験片の外観を写真に撮り、それを画像処理して、結晶粒の粗大化に由来して存在する光沢面の占める割合である光沢面積率(%)を測定した。光沢面積率(%)の測定に当っては、上記のような焼結工程に続けてQT処理(焼入れ、焼戻し)を実施し、
1回目:焼結工程の後(QT処理の前)、及び
2回目:QT処理の後
の2回にわけて実施した。QT処理の条件は、焼入れが1190〜1200℃、焼戻しが540〜570℃であった。
【0049】
本例の試験片の光沢面積率(%)は、焼結工程の後(QT処理の前)においてゼロであり、その光沢面積率(%)は、QT処理後においても変化せずゼロのままであった。また、QT処理前の試験片の金属写真(50×)は、図6に組み込んで示すように、試験片の表面は平滑であり、結晶粒は微細であった。このことは、本例の場合、結晶粒の粗大化が完全に抑制できていることを意味している。なぜなら、焼結軟磁性材料を破壊した際、もしもその材料の結晶粒が粗大化していると、巨大な結晶のへき開面が現れるため、そこを光に当てると光沢になって見えるからである。光沢面積率が0%のとき、結晶粒の粗大化はゼロとみなすことができる。なお、第2表にはQT処理後の光沢面積率のみが示されている。
【0050】
(3)4点曲げ強度(MPa)の測定
角柱状試験片の4点曲げ強度(MPa)をQT処理(焼入れ、焼戻し)の前及びその後において測定した。QT処理の条件は、焼入れが1190〜1200℃、焼戻しが540〜570℃であった。この強度測定のため、市販のインストロン試験機を使用した。焼結後(QT処理前)の4点曲げ強度は、第2表に示すように828MPaであった。なお、この結果は、図7のグラフにもプロットされている。また、QT処理後の4点曲げ強度は、第2表に示すように1238MPaであり、顕著な増加を確認することができ、本例の焼結軟磁性材料ではQT処理により強度の向上があることがわかった。なお、この結果は、図8のグラフにもプロットされている。
【0051】
(4)磁束密度(B8k)の測定
円環状試験片試験片の磁束密度(B8k)を、焼結工程及びT処理(焼戻し;540〜570℃)の後において測定した。この測定のため、市販の直流磁化特性装置(理研電子社製)を使用した。T処理(焼戻し)後の磁束密度は、第2表に示すように1.67B8kであり、低下していないことがわかった。
【0052】
以上の試験結果から考察するに、本例の焼結軟磁性材料では、Fe−Si−P系合金に対してMn、Sを添加したことによりMnSが結晶粒界に析出し、その結果、QT処理の前及びその後の両方において焼結材における結晶粒の粗大化を抑制(光沢面積率0%)することができ、焼結材の強度を向上させることができ、さらには磁束密度の低下を防止することができる。
【0053】
実施例2
本発明による焼結軟磁性材料の作製
前記実施例1に記載の手法を繰り返して焼結軟磁性材料を作製したが、本例の場合、Mn粉末、S粉末、Si粉末及びP粉末の添加量を、それぞれ、下記の第1表に記載するように変更した。Mn粉末及びS粉末の添加量は、それぞれ、下記の第1表に記載するように、得られる焼結軟磁性材料においてMn含有量が0.50〜0.80重量%及びS含有量が0.300〜0.350重量%となる量である。なお、本例では、Mn含有量が0.50〜0.80重量%であるため、得られる焼結軟磁性材料を「Mn:0.65粉」として他の焼結軟磁性材料と区別することとする。また、Si粉末及びP粉末の添加量は、それぞれ、得られる焼結軟磁性材料においてSi含有量が<0.05重量%及びP含有量が<0.025〜0.045重量%となる量である。第2の混合粉末に含まれる金属粉末の粒径は、約80μmであった。
【0054】
次いで、前記実施例1に記載の手法に従って加圧成形及び焼結を行い、前記実施例1で作製したものと同じ形状及びサイズの2種類の試験片を作製した。図5は、得られた焼結体の結晶組織を示す金属顕微鏡写真(50×)である。図から理解されるように、焼結成形体の結晶粒は微細化されており、かつ結晶粒界にMnSの微粒子が析出している。
【0055】
〔評価試験〕
得られた焼結軟磁性材料の試験片を、前記実施例1に記載の手法に従って下記の項目に関して試験した。下記の第2表は、得られた試験結果をまとめたものである。
【0056】
(1)断面組織の測定
円環状試験片の焼結軟磁性材料の粒子の粒径を測定したところ、20〜30μmであった。このことは、本例の焼結軟磁性材料では結晶粒の微細化がさらに進行していることを示している。
【0057】
(2)光沢面積率(%)の測定
円環状試験片光沢面積率(%)を測定したところ、QT処理(焼入れ、焼戻し)の前及びその後においていずれもゼロであった。このことは、本例の場合、結晶粒の粗大化が完全に抑制できていることを意味している。なお、第2表にはQT処理後の光沢面積率のみが示されている。
【0058】
(3)4点曲げ強度(MPa)の測定
角柱状試験片の4点曲げ強度(MPa)をQT処理(焼入れ、焼戻し)の前及びその後において測定したところ、QT処理前の4点曲げ強度は、第2表に示すように828MPaであった。なお、この結果は、図7のグラフにもプロットされている。次いで、同一の試験片について、QT処理後の4点曲げ強度を上記と同一の手法で実施した。QT処理後の4点曲げ強度は、第2表に示すように1437MPaであり、顕著な増加を確認することができ、本例の焼結軟磁性材料では強度の向上があることがわかった。なお、この結果は、図8のグラフにもプロットされている。
【0059】
(4)磁束密度(B8k)の測定
円環状試験片試験片の磁束密度(B8k)を焼結工程及びT処理後において測定したところ、T処理後の磁束密度は、第2表に示すように1.66B8kであり、低下していないことがわかった。
【0060】
以上の試験結果から考察するに、本例の焼結軟磁性材料では、Fe−Si−P系合金に対してMn、Sを添加したことによりMnSが結晶粒界に析出し、結晶粒の粗大化を抑制により焼結材の強度を向上させることができ、さらには磁束密度の低下を防止することができるが、本例のように添加するMn量を増加させることにより、これらの効果をより一層高めることができる。また、本発明によれば、Mnの添加量やその他のファクタを変更することにより、焼結軟磁性材料の磁束密度や強度などを任意にコントロールすることも可能である。
【0061】
比較例1
前記実施例1に記載の手法を繰り返して焼結軟磁性材料を作製したが、本例では、比較のため、下記の第1表に記載するように、結晶粒微細化元素であるMnの添加を省略した。なお、Fe−Si−P系合金粉末の作製において、Si粉末及びP粉末の添加量は、それぞれ、得られる焼結軟磁性材料においてSi含有量が<0.03重量%及びP含有量が<0.010重量%となる量である。第2の混合粉末に含まれる金属粉末の粒径は、約80μmであった。なお、上記のようにして作製したFe−Si−P系合金粉末には、Mn及びSが不可避的な微小量で含まれていた。測定の結果、Mn量及びS量は、それぞれ、下記の第1表に記載するように、得られる焼結軟磁性材料においてMn量が<0.10重量%及びS量が0010重量%となる量であった。なお、本例では、Mn量が<0.10重量%であるため、得られる焼結軟磁性材料を「Mnなし」として他の焼結軟磁性材料と区別することとする。
【0062】
次いで、前記実施例1に記載の手法に従って加圧成形及び焼結を行い、前記実施例1で作製したものと同じ形状及びサイズの2種類の試験片を作製した。図4は、得られた焼結体の結晶組織を示す金属顕微鏡写真(50×)である。図から理解されるように、焼結成形体の結晶粒は粗大化している。
【0063】
〔評価試験〕
得られた焼結軟磁性材料の試験片を、前記実施例1に記載の手法に従って下記の項目に関して試験した。下記の第2表は、得られた試験結果をまとめたものである。
【0064】
(1)断面組織の測定
円環状試験片の焼結軟磁性材料の粒子の粒径を測定したところ、>1mmであった。このことは、本例の焼結軟磁性材料では結晶粒の粗大化が顕著であることを示している。
【0065】
(2)光沢面積率(%)の測定
円環状試験片光沢面積率(%)を測定したところ、QT処理(焼入れ、焼戻し)の前が30%で、QT処理の後で56%であった。また、QT処理後の試験片の金属顕微鏡写真(50×)は、図6に組み込んで示すように、試験片の表面が粗大化していることを明瞭に示している。このことは、本例の場合、結晶粒の粗大化が顕著であり、QT処理後において粗大化が増大していることを意味している。なお、第2表にはQT処理後の光沢面積率のみが示されている。
【0066】
(3)4点曲げ強度(MPa)の測定
角柱状試験片の4点曲げ強度(MPa)をQT処理(焼入れ、焼戻し)の前及びその後において測定したところ、QT処理前の4点曲げ強度は、第2表に示すように693MPaであった。なお、この結果は、図7のグラフにもプロットされている。次いで、同一の試験片について、QT処理後の4点曲げ強度を上記と同一の手法で実施した。QT処理後の4点曲げ強度は、第2表に示すように845MPaであり、ほとんど増加していないことを確認することができ、本例の焼結軟磁性材料では強度の向上を望めないことがわかった。なお、この結果は、図8のグラフにもプロットされている。
【0067】
(4)磁束密度(B8k)の測定
円環状試験片試験片の磁束密度(B8k)を焼結工程及びT処理後において測定したところ、T処理後の磁束密度は、第2表に示すように1.67B8kであり、実施例1及び2とほぼ同じであることがわかった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【符号の説明】
【0070】
1 Mn、S合金鉄粉
3 アーマチャ
10 Fe−Si−P系合金粉末
11 結晶粒界
M 結晶粒微細化元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる成分としての鉄(Fe)ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)及びリン(P)を含むFe−Si−P系の焼結軟磁性材料であって、
該焼結軟磁性材料は、内部に分布した結晶粒界を有し、その結晶粒界に析出した、1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の炭化物、窒化物、硫化物又はその混合物からなる粒子をさらに含んでなることを特徴とする焼結軟磁性材料。
【請求項2】
前記結晶粒微細化金属元素は、チタン、ニオブ、マンガン、硫黄、アルミニウム又はこれらの金属の合金からなる群から選ばれる一員である、請求項1に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項3】
前記結晶粒微細化金属元素は、該焼結軟磁性材料中に含まれる鉄(Fe)の全量を基準にして0.20〜0.65重量%の量で含まれる、請求項1又は2に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項4】
焼結軟磁性材料を構成する結晶粒は、20〜100μmの結晶粒径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項5】
焼結後の結晶粒の粗大化率を光沢面積率で評価したときに光沢面積率が0%であり、かつ4点曲げ強度が少なくとも700MPaである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項6】
焼結後にさらに、高められた温度下で熱処理されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項7】
前記熱処理後の光沢面積率が0%であり、かつ4点曲げ強度が少なくとも700MPaより大である、請求項6に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項8】
電磁弁の一構成部品の製造に使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項9】
インジェクタのアーマチャの製造に使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料。
【請求項10】
請求項1に記載のFe−Si−P系の焼結軟磁性材料を製造する方法であって、下記の工程:
主たる成分としての鉄(Fe)粉末ならびに従たる成分としてのケイ素(Si)粉末及びリン(P)粉末を含む混合金属粉末を用意する工程であって、前記鉄粉末は、焼結により炭化物、窒化物又は硫化物を形成可能な1種類もしくはそれ以上の結晶粒微細化金属元素の粉末を添加してなる合金粉である工程、
前記混合金属粉末を加圧成形して、所定の形状を有する圧粉体を形成する工程、及び
前記圧粉体を高められた温度で焼結して焼結体となす工程
を含んでなることを特徴とする焼結軟磁性材料を製造する方法。
【請求項11】
前記結晶粒微細化金属元素として、チタン、ニオブ、マンガン、硫黄、アルミニウム又はこれらの金属の合金を使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結晶粒微細化金属元素を、該焼結軟磁性材料中に含まれる鉄(Fe)の全量を基準にして0.20〜0.65重量%の量で使用する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記加圧成形工程に先がけて前記混合金属粉末に成形用潤滑剤を適用する工程と、
前記加圧成形工程の後に前記圧粉体を脱脂処理して前記潤滑剤を除去する工程と
をさらに含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記焼結工程を1100〜1200℃の温度で1〜2時間にわたって実施する、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記焼結工程の後、得られた焼結体を高められた温度で熱処理する工程をさらに含む、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記熱処理工程は、焼入れ工程及びその後の焼戻し工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記焼入れ工程を1190〜1200℃の温度で、前記焼戻し工程を540〜570℃の温度で、それぞれ実施する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記焼結工程の後、得られた焼結体を切削加工して最終的な形状となす工程をさらに含む、請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
電磁コイルから発生された磁力により帯磁可能な部品を備えた電磁構造体であって、前記部品が、請求項1〜7のいずれか1項に記載の焼結軟磁性材料からなることを特徴とする電磁構造体。
【請求項20】
前記部品が電磁弁の一構成部品である、請求項19に記載の電磁構造体。
【請求項21】
前記部品が、インジェクタのアーマチャである、請求項19又は20に記載の電磁構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76166(P2013−76166A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−255097(P2012−255097)
【出願日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【分割の表示】特願2007−276874(P2007−276874)の分割
【原出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】