説明

軟質ポリウレタンフォームの製造方法

【課題】短時間で、しかもフォームの物性低下を招くことなく、さらには乾燥処理を行うことなく、BHT等の揮発性有機化合物質の除去あるいは含有量の減少を簡単に実現できる軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームとした後、前記軟質ポリウレタンフォームに過熱蒸気を当てる過熱蒸気処理を行う。過熱蒸気は、100℃の飽和蒸気をさらに過熱したものである。また、軟質ポリウレタン発泡原料に含まれる揮発性有機化合物質としては、酸化防止剤として用いられる2,6−ジ−t−ブチルP−クレゾールを挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料から軟質ポリウレタンフォームを形成した後、後処理によって軟質ポリウレタンフォーム内の揮発性有機化合物質の除去あるいは含有量を減少させる軟質ポリウレタンフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームを製造するに際し、軟質ポリウレタン発泡原料に揮発性有機化合物質を含むことが多い。例えば、原料の劣化防止や発泡時における軟質ポリウレタンフォームの変色防止等のため、軟質ポリウレタン発泡原料に酸化防止剤として含まれる、2,6−ジ−t−ブチルP−クレゾール(以下、BHTと記す)は、揮発性有機化合物質である。
【0003】
ところが、BHTは、昇華性が高く、発泡後の軟質ポリウレタンフォームに残存するBHTの問題が指摘されている。例えば、軟質ポリウレタンフォームを、マットレスやクッションあるいはパッド材に用いた場合、軟質ポリウレタンフォームから昇華したBHTが、軟質ポリウレタンフォームを覆う生地に付着して生地の変色を起こす問題がある。また、座席クッションパッド等の自動車部品の用途においては、BHTは、大気汚染に影響を与える揮発性有機化合物(VOC)として挙げられている。
【0004】
このような状況から、最近ではBHT対策として、BHTよりも揮発性の低い代替品を用いたり、BHTを使用する場合には発泡後に熱処理を加えたりすることが提案されている。
【0005】
BHTよりも揮発性の低い代替品を用いる方法は、極めて有効な対策ではあるが、BHTと同等の酸化防止効果を有する代替品が少なく、しかも代替品による原料のコストアップが避けられない問題がある。
【0006】
また、発泡後に熱処理を加える場合には、BHTを十分に除去するのに非常に長い時間が必要となる。また、熱を長く加えることによってフォームに劣化を生じ、熱変色や物性低下を生じるようになる。なお、熱処理として水蒸気による処理も提案されているが、乾燥工程が必要になり、設備的にコストが嵩む問題がある。
【特許文献1】特開2000−95838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、短時間で、しかもフォームの物性低下を招くことなく、BHT等の揮発性有機化合物質の除去あるいは含有量の減少を実現できる軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームを形成した後、前記軟質ポリウレタンフォームに過熱蒸気を当てることを特徴とする軟質ポリウレタンフォームの製造方法に係る。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1における揮発性有機化合物が、2,6−ジ−t−ブチルP−クレゾールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、BHT等の揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームとした後、前記軟質ポリウレタンフォームに過熱蒸気を当てるため、軟質ポリウレタンフォーム内のBHT等の揮発性有機化合物質を、除去あるいは含有量を減少させることができる。しかも、過熱蒸気は、公知の如く100℃の飽和蒸気をさらに加熱した蒸気であり、温度が低下しても気体状態であるため、軟質ポリウレタンフォームに当てて過熱蒸気処理を行う際に、軟質ポリウレタンフォームを濡らすことがなく、過熱蒸気処理後に乾燥工程を行う必要がない。さらに、過熱蒸気は単位体積当たりの熱容量が高温空気よりもはるかに大きいため、軟質ポリウレタンフォームに対する処理時間を短くできることから、効率的に軟質ポリウレタンフォームを製造できるのみならず、長時間加熱によって生じるフォームの物性低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における軟質ポリウレタンフォームの製造方法は、揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームを形成した後、前記軟質ポリウレタンフォームに過熱蒸気を当てることを特徴とする。
【0012】
本発明において、軟質ポリウレタン発泡原料は、ポリオール、酸化防止剤、触媒、発泡剤、整泡剤、適宜添加される助剤、及びポリイソシアネートからなる。
【0013】
ポリオールとしては、軟質ポリウレタンフォーム用として知られているエーテル系ポリオールまたはエステル系ポリオールを用いることができる。エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを使用することもできる。その他、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオール中でエチレン性不飽和化合物を重合させて得られるポリマーポリオールも使用することができる。
【0014】
酸化防止剤としては、BHT(2,6−ジ−t−ブチルP−クレゾール)が好ましいが、その他、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド(水溶性アルデヒド)、亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホシル酸ナトリウム、イソアスコルビン酸、チオグリセロール、チオソルビトオール、チオ尿素、チオグリコール酸、システイン塩酸塩、1,4−ジアゾビシクロ−(2,2,2)−オクタンなどの酸化防止剤のうち、揮発性を有するものを用いた場合にも本発明の効果が得られる。なお、BHTは揮発性有機化合物質であって、一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.01〜0.6重量部である。
【0015】
触媒としては、トリエチルアミンやテトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を用いることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.01〜2.0重量部である。
【0016】
発泡剤としては、水、あるいはペンタンなどの炭化水素を、単独または組み合わせて使用できる。水の場合は、原料組成物の反応時に炭酸ガスを発生し、その炭酸ガスによって発泡がなされる。発泡剤の量は適宜とされるが、水の場合、ポリオール100重量部に対して0.5〜7.0重量部程度が好適である。
【0017】
整泡剤としては、軟質ポリウレタンフォームの製造に用いられるものであればよく、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤および公知の界面活性剤を挙げることができる。整泡剤の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.1〜3.0重量部である。
【0018】
その他適宜添加される助剤としては、紫外線吸収剤、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。紫外線吸収剤としては、公知のものが使用される。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾオキサジノン系化合物が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸などを示すことができる。難燃剤は、特に衣料用ウレタンフォームには好適であり、有機リン酸化合物等からなるものを挙げることができる。
【0019】
ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有する脂肪族系または芳香族系ポリイソシアネート、それらの混合物、およびそれらを変性して得られる変性ポリイソシアネートを使用することができる。脂肪族系ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキサメタンジイソシアネート等を挙げることができ、芳香族ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメリックポリイソシアネート(クルードMDI)等を挙げることができる。なお、その他プレポリマーも使用することができる。
【0020】
前記ポリウレタン発泡原料を攪拌機で混合して反応させる公知の発泡方法によって軟質ポリウレタンフォームを形成し、発泡後の軟質ポリウレタンフォームに対して過熱蒸気を当てる過熱蒸気処理を行うことにより、軟質ポリウレタンフォーム内の揮発性有機化合物質に対する除去及び含有量減少が行われる。
【0021】
過熱蒸気は、公知の如く100℃の飽和蒸気をさらに過熱した蒸気である。前記過熱蒸気の生成は、次のように行われる。まず蒸気発生器(ガス、石油等のボイラー)で飽和蒸気を生成し、次に飽和蒸気を減圧バルブで減圧し、得られた減圧飽和蒸気を過熱蒸気発生装置へ導入することにより過熱蒸気を生成する。前記減圧バルブは、過熱蒸気の吐出量を制御するための装置であり、減圧することで、大気圧下に吐出された過熱蒸気における過度の体積膨張を防止し、爆発等の災害を回避する。また、過熱蒸気発生装置は、飽和蒸気を過熱して過熱蒸気を形成できる公知の装置を用いることができる。
【0022】
過熱蒸気を軟質ポリウレタンフォームに当てる過熱蒸気処理時間は、適宜とされるが、通常数秒〜3分程度とされる。あまり過熱蒸気処理時間が長いと軟質ポリウレタンフォームの劣化や物性低下を生じるようになるため、処理時間は短いほうが好ましい。なお、過熱蒸気は、軟質ポリウレタンフォームの一の面に対して当てても良いし、全面に当ててもよい。軟質ポリウレタンフォームは連続気泡構造を有するため、一つの面に当てた過熱蒸気は、軟質ポリウレタンフォーム内の全体に至り、軟質ポリウレタンフォーム内のBHTに対して除去作用を発揮することができる。また、過熱蒸気は、前記軟質ポリウレタンフォームに当たって温度低下を生じても気体状態を維持するため、過熱蒸気処理によって軟質ポリウレタンフォームが濡れず、その後の乾燥処理が不要である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明する。以下の配合からなるポリウレタン発泡原料を、定法に従って20℃で攪拌混合し、発泡させることにより軟質ポリウレタンフォームを形成した。
ポリウレタン発泡原料
・ポリオール (三洋化成工業株式会社、サンニックスGP−3050): 100重量部
・酸化防止剤 (BHT) :0.10重量部
・触媒 (エアープロダクツジャパン株式会社、DABCO33-LV): 0.4重量部
・発泡剤 (水) : 2.4重量部
・整泡剤 (日本ユニカー株式会社、SZ−1136) : 1.5重量部
・ポリイソシアネート(ダウケミカル株式会社、T−80) :35.1重量部
【0024】
得られた軟質ポリウレタンフォームに対して、JIS K 6400に従い、見掛け密度、25%硬さ、反発弾性、引張強度、伸び、圧縮残留歪を測定した。各物性値の測定結果は表1の過熱蒸気処理前の欄に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
また、前記発泡後の軟質ポリウレタンフォームから200×200×10mmの試験片を所要個数裁断し、その試験片を金網上に載置すると共に、試験片上方から下向きにした配管の出口から試験片に過熱蒸気を吹き付けて当てることにより、過熱蒸気処理を行った。金網は、過熱蒸気が通過できる程度に粗く、かつ試験片を保持できる程度の強度を有するものである。過熱蒸気は、減圧バルブによる減圧前の飽和蒸気の圧力(一次側圧力)が0.6MPa、減圧バルブによる減圧後の圧力(二次側圧力)が0.04MPa、配管出口の過熱状気の温度が190±5℃であり、配管径が1/2、試験片と過熱蒸気配管出口との距離が50mmである。また、過熱蒸気を試験片に当てる処理時間(吹き付け時間)は、5秒、10秒、20秒、30秒、60秒、3分として、各処理時間に対して1個の試験片を割り当てた。過熱蒸気処理前(未処理品)の試験片と、過熱蒸気処理後の試験片に対して、ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所、GC−17A)によってBHTの残量を測定した。なお、過熱蒸気処理後の試験片に対するBHTの測定は、過熱蒸気を当てた面に対して行った。また、3分間過熱蒸気処理後の試験片については、前記各物性値についても測定した。BHTの測定値については表2に示すとおりであり、3分間過熱蒸気処理後の試験片に対する物性値の測定値については、表1における過熱蒸気処理後の欄に示すとおりである。
【0027】
比較のため、温度60℃×湿度60%の水蒸気を2時間試験片に当てた後、1時間常温で放置して乾燥させたもの、温度80℃×湿度90%の水蒸気を1時間試験片に当てた後、1時間常温で放置して乾燥させたもの、温度120℃×湿度100%の水蒸気を10分間試験片に当て後、1時間常温で放置して乾燥させたものについて、水蒸気を当てた面に対してBHTの残量を測定した。それぞれの測定結果は、表2のとおりである。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、本発明における過熱蒸気処理を行うことによって、軟質ポリウレタンフォームの残留BHTが減少するのがわかる。特に、わずか30秒の過熱蒸気処理でも37ppmに残留BHTの量を減らすことができ、さらに60秒の過熱蒸気処理では9ppm、3分の過熱蒸気処理では4ppmまで残留BHTの量を減らすことができる。しかも、表1から明らかなように、3分の過熱蒸気処理によっても物性値が殆ど低下しないことがわかる。それに対し、従来の水蒸気処理においては、60℃×60%の水蒸気を2時間当てた場合に154ppm、80℃×90%の水蒸気を1時間当てた場合に76ppm、120℃×100%の水蒸気を10分当てた場合に41ppmとなり、何れも残量BHTの減少に関して、過熱蒸気処理よりも長時間水蒸気処理を行う必要がある。しかも、水蒸気処理の場合には、水蒸気処理によって軟質ポリウレタンフォームが濡れるため、その後に乾燥処理を行わねばならず、乾燥のために余分な時間がかかるのに対して、過熱蒸気処理の場合には過熱蒸気処理によって軟質ポリウレタンフォームが濡れないため、乾燥処理を行わなくてもよく、より一層の時間短縮を実現できる。
【0030】
なお、前記の説明においては、揮発性有機化合物質として、主にBHTの場合を示したが、本発明は、軟質ポリウレタンフォームに含まれる他の揮発性有機化合物についても、同様に除去あるいは含有量減少効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物質を含む軟質ポリウレタン発泡原料を発泡させて軟質ポリウレタンフォームを形成した後、前記軟質ポリウレタンフォームに過熱蒸気を当てることを特徴とする軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物質が、2,6−ジ−t−ブチルP−クレゾールであることを特徴とする請求項1に記載された軟質ポリウレタンフォームの製造方法。

【公開番号】特開2006−45443(P2006−45443A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231808(P2004−231808)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】