軟骨再生剤としてアピゲニンを含有する骨関節炎治療組成物
本発明は、軟骨破損のマーカーとなる、関節活液の総量と活液のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、活膜細胞の状態を好転させる効果、軟骨組織を再生させる効果を有する、アピゲニンの関節軟骨再生剤としての新規用途を開示する。また、本発明は、関節軟骨再生剤としてアピゲニンを含む骨関節炎治療剤、及びこの治療剤を用いた骨関節炎治療方法を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨破損のマーカーとなる、関節活液の総量と活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、活膜細胞の状態を好転させる効果、及び軟骨組織を再生させる効果を有する、アピゲニンの関節軟骨再生剤としての新規用途に関する。また、本発明は、関節軟骨再生剤としてアピゲニンを含有する骨関節炎治療剤、及びこの治療剤を用いた骨関節炎治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、年齢を問わずに誰にでも発生しうる、ありふれた病気であって、その発生率が経年的に増加する。韓国の場合、全体人口の約20%程度が関節炎に悩まされている。関節炎の細部種類は100余個に至るが、特に骨関節炎が全体関節炎の大部分を占める。
骨関節炎は、関節の軟骨が擦り減って骨同士がこすれあって痛みを誘発するため、関節周辺の筋肉を使わなくなって筋肉も段々弱化する疾患である。骨関節炎は、過去、退行性関節炎と知られている、ヒトによく見られる関節疾患であって、関節の異常又は損傷の後に発生し、あるいは関節の損傷がない場合にも発生する。
【0003】
骨関節炎は、男女両方ともで同様の有病率を示すが、女性の場合は罹患する関節の数がさらに多く、男性の場合は股関節に罹患することが多いものと知られている。骨関節炎の危険因子としては、老齢、肥満、先天性股関節形成不全、外傷、関節炎の過去歴、一部特殊職業群及び家族歴などを挙げることができる。骨関節炎は、それ自体では生命に大きい支障をきたさないが、慢性的な骨関節炎の持続により痛み及び関節の奇形が生じて生活の質を低下させるおそれがある。特に、膝の骨関節炎は、慢性的に身体障害を誘発する最も大きい原因として知られており、最近、多くの研究成果により様々な薬物と治療法が開発され、骨関節炎による痛みと関節奇形は減らすことができるようになった。
【0004】
骨関節炎は、関節軟骨が損傷して軟骨が擦り減、その下の骨も損傷して奇形的に骨が再生されることにより、いろいろな症状が現れる。骨関節炎の発生病因は、2つであると考えられるが、一つは、関節の軟骨又は骨は正常的であるが、関節に過度な負荷がかかって関節組織が損傷した場合であり、もう一つは、負荷は正常であるが、関節の軟骨又は骨が弱い場合である。また、骨関節炎の最も重要な危険因子は年齢である。骨関節炎は、60歳以上では約50%、65歳以上では約70%の老人層で発生すると知られている。
【0005】
骨関節炎は、主に、膝、股関節、脊椎及び手指などに発生する。その主要症状は痛みと関節の変形であり、罹患した関節は浮腫、熱感、及び関節の異常肥大といった症状を示す。
最近、様々な薬物と治療方法が開発され、骨関節炎の治療に使用されているが、治療の主目的は、痛みの緩和、関節機能の維持、及び関節の機能障害による身体障害を予防することにある。
このような骨関節炎の治療方法として、痛みのみがある比較的初期の場合には、単純な鎮痛剤を服用して痛みを無くすことに焦点を合わせており、骨関節炎がより進行して痛みが長引くと、抗炎効果の強い消炎鎮痛剤を使用する。ところが、この種の消炎鎮痛剤は、長期間使用の際、胃、肝、腎臓に悪影響を及ぼすおそれがあり、軟骨細胞の再生能力を低下させるなどの副作用があって使用上の注意を要する。
【0006】
より具体的には、骨関節炎は、コルチコステロイド(corticosteroid)類型の消炎物質、例えば、プロスタグランジン合成阻害機能を有するヒドロコルチゾン(hydrocortisone)及びβメタゾン(betamethasone)などを用いて治療されてきた。ところが、この種のステロイド系ホルモンは、経口投与の場合には、一時的に効果がありうるが、その深刻な副作用のため、使用のときに持続的な注意観察をしなければならないうえ、経口投与でなく、関節内注射を原則とする。
関節炎治療に最も一般に用いられる方法は、薬物を服用することである。これまで、多くの鎮痛及び消炎効果を有する薬が多く開発されてきたが、その代表的なものとしては、ジクロフェナク(diclofenac)、アスピリン(aspirin)及びイブプロフェン(ibuprofen)などの非ステロイド性消炎剤(NSAID)がある。
【0007】
ところが、関節炎の治療によく用いられるNSAIDは、消化器、特に胃腸に副作用を起こすという問題点を持っているが、これは、胃腸の内壁を保護する酵素であるシクロオキシゲナーゼ1(cyclooxygenase 1、COX-1)と、痛み及び炎症を起こす酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)とを一時に抑制するためである。また、NSAIDを長期服用する場合、胃腸又は小腸にひりひりするような痛み又は潰瘍を誘発するが、結局は、これが穿孔を誘発する。また、引き起こされた潰瘍は、胃の出口を塞いで嘔吐や体重減少などを生じさせるうえ、胃腸と十二指腸などの出血を引き起こす。その他、鎮痛効果に優れかつ潰瘍や出血などの副作用が少ない関節痛み治療剤、例えばCOX-1を抑制しないCOX-2抑制剤なども一部開発されている。
一方、骨関節炎は、老化により発生する最も普遍的な現象であって、過去は、主に、骨関節炎に対する根本的な治療剤なしに痛み及び炎症のみを除去することに焦点を合わせたが、最近は、軟骨細胞の破損を減少させることにより、関節炎の進行を遅延又は抑制する治療方法に関する研究成果が一部出ている。
【0008】
例えば、米国特許第6,610,750号は、レイン(rhein)化合物及びそのエステル誘導体であるジアセレイン(diacerein)を用いて関節軟骨の破損を遅延させて骨関節炎を治療する方法を開示している。
米国特許第5,591,740号は、海洋海綿動物ヒメニアシドン(hymeniacidon)から分離したデブロモヒメニアルジシン(debromohymenialdisine)を用いて関節の悪化及び軟骨の分解を遅延させて骨関節炎を治療する方法を開示している。
また、米国特許第6,552,066号は、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤(protein tyrosine kinase inhibitors)、例えばゲニステイン(genistein)、ハービマイシンA(herbimycin A)、4,5-ジアニリノフタルイミド(4,5-dianilinophthalimide)、チロホスチンAG82及びチロホスチンAG556がインターロイキン-1刺激軟骨分解を遅延させることを確認し、このタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤を用いた骨関節炎治療方法を開示している。
【0009】
また、日本特開平07-025761号に相応する米国特許第5,650,433号は、関節軟骨マトリックスの主要成分であるプロテオグリカンの枯渇を抑制する機能を有する、フラボノイド化合物、グリコシド化合物又はその立体異性体を含有する軟骨保護剤、よびこの軟骨保護剤を投与して軟骨の破壊を減少させることにより関節症を治療する方法を開示している。
しかしながら、前述した特許文献に開示された方法、及び現在まで知られている薬物を用いた骨関節炎治療方法は、軟骨破損過程の進行を遅延又は抑制させるだけであり、根本的な治療剤、すなわち軟骨組織を再生させる効果(hondroregenerative effect)を持っているから、損傷した軟骨組織を回復させることが可能な治療剤を開示してはいない。
【0010】
最近は、骨関節炎の治療において副作用を持っている薬物を用いた軟骨の保護に伴う困難さを回避するために、薬物を使用しない別の方法、例えばヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)を用いて軟骨組織を再生させる方法などが試みられている(ヨーロッパ公開第0989855 A1号公報及び米国特許出願第20020110544 A1号公報)。
現在までも、骨関節炎の治療において、消炎及び鎮痛効果を提供し或いは軟骨の破損を遅延又は抑制する治療法のみが骨関節炎の臨床的進行の遅延に用いられており、軟骨の分解により誘発された骨関節炎の治療のために、軟骨組織を再生させ或いは軟骨組織の状態を改善させることが可能な新規治療方法の開発が依然として要求されている。
【0011】
このような必要性は、軟骨組織が約95%の水分、細胞外軟骨基質及び5%のみの軟骨から構成されており、その軟骨細胞が人体で最も長い細胞周期を持つため非常に増殖し難いと知られているためである(osteoarthritis and neurogenic arthropathy, pages 487 and 492, the Merck Manual, 17th English Edition/First Korean edition, 2003)。それ故に、生体内実験の立証によって、細胞毒性なしに軟骨の再生を促進させることが可能な物質を見い出し、これを用いて、骨関節炎患者から分離した軟骨細胞を増殖させた後、これをさらに移植して細胞治療する方法において増殖誘導剤として応用できるならば、重要な医学的発展を期待することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、天然フラボノイド系物質であるアピゲニン化合物が軟骨細胞の破損を遅延させるという公知の効果のみならず、軟骨細胞の増殖を促進して軟骨組織を再生させることができるというアピゲニンの新規用途を発見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の開示)
第1様態において、本発明は、細胞毒性のない軟骨細胞の増殖を促進させるのに有効な量のアピゲニンと、薬学的に許容される担体とを含有する軟骨再生用組成物を提供する。
【0014】
前記第1様態において、本発明に係る軟骨再生用組成物は、患者の関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1μM〜100μMとなるようにする量のアピゲニンを含有し、このような投与量の範囲において、アピゲニンは骨関節炎のマーカーとなる、増加した関節活液量及び活液内の増加したプロテオグリカン、全体タンパク質、プロスタグランジンの量を減少させる生化学的効果を示し、活膜細胞の状態を好転させる追加的な関節軟骨の改善効果を有する。
好ましくは、本発明に係る軟骨再生用組成物に含まれるアピゲニンの有効量は、患者の関節軟骨組織及び活液における濃度が1μM〜80μMとなるようにする量で投与する。
第2様態において、本発明は、前記第1様態に係る関節軟骨再生組成物及び薬学的に許容される賦形剤を含む、関節軟骨再生用骨関節炎治療剤を提供する。
前記第2様態において、本発明に係る骨関節炎治療剤は、液剤、カプセル剤、錠剤又は丸薬などの経口投与剤;軟膏剤又は経皮投与剤などの局所適用剤;又は注射剤の形である。
【0015】
本発明に係る骨関節用治療剤が経口投与剤の場合、アピゲニンは1日当たり10 mg〜1000 mgの量で投与する。
本発明に係る骨関節炎治療剤が軟膏剤の場合、アピゲニンは1日当たり1 mg〜100 mgの量で投与する。
本発明に係る骨関節治療剤が注射剤の場合、アピゲニンは1日当たり0.1 mg〜10 mgの量で投与する。
第3様態において、本発明は、前記第1様態に係る関節軟骨再生組成物と薬学的に許容される賦形剤とを含む骨関節炎治療剤を骨関節炎患者に投与し、関節軟骨を再生させて骨関節炎を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、軟骨細胞の破損を遅延させる効果だけでなく、軟骨細胞の増殖を促進して軟骨組織を再生させる効果に基づいて骨関節炎を治療するためのアピゲニンの新規用途を提供する。
アピゲニンが抗癌作用などの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を誘発することは既に公知になっている。ところが、本発明者らは、前記公知の効果とは相反する効果として、アピゲニンが特定の濃度範囲の有効投与量の範囲では細胞毒性なしに却って軟骨細胞の増殖を促進して軟骨を再生する効果を有することを確認した。すなわち、アピゲニンの軟骨再生効果が正確な投与量及び患部に対する最終適用量と直接関連していることを確認した。具体的に、関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1〜100μM、好ましくは1〜80μMとなるようにする量のアピゲニンが、細胞実験において炎症関連酵素の活性を抑制し且つ痛み誘発物質の生成を抑制する効果を示し、関節炎誘発動物モデル実験において関節活液の量及び活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質、プロスタグランジンの量を減少させる生化学的効果を示し、骨関節炎誘発動物モデルの組織学的検査において軟骨組織を再生させ活膜細胞の状態を好転させるなどの全般的な関節軟骨再生効果を持っているため、関節軟骨再生剤として卓越した効果を持つことを確認した。これにより、アピゲニン化合物の骨関節炎の予防及び抑制剤のみならず、実質的にアピゲニン化合物の骨関節炎の改善及び治療剤としての新規用途を提供する。
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
骨関節炎(osteoarthritis)は、退行性関節疾患(degenerative joint disease)であって、関節炎の最も古くて最も一般的な類型であり、関節軟骨の破損を特徴とする。骨関節炎は、老化の必然的結果であり、また、肥満が膝関節の骨関節炎を引き起こすこともあると知られており、スポーツ、労働と関連した活動、又は事故により関節損傷を被った場合、骨関節炎の発生危険は増加する。また、膝骨関節炎の場合、片膝に骨関節炎が発生した場合、患者は痛みを回避するために反対側の膝をより多く使用し、その結果多く使用する膝の骨関節炎誘発可能性がさらに高くなる。したがって、両膝骨関節炎の患者において、片脚の骨関節炎の改善は、相対的に反対側の膝に対する負担を減らすことができるため、反対側膝の骨関節炎悪化危険を減らすとともに、既に発生した骨関節炎の緩和にも肯定的な影響を及ぼす波及効果を持つ。
【0018】
骨関節炎は、自己免疫疾患の一種であって、炎症反応により誘発される疾患である関節リウマチとはその病因が異なるため、関節リウマチに効果のある物質が骨関節炎には全く効果がない(Ziolkowska et al., The Journal of Immunology, 164:2832-2838 (2000))、あるいは却って軟骨損傷の病変を悪化させることができる。このような理由により、関節リウマチに効果がある物質であるとして、これから骨関節炎にも効果があると予測することができず、しかも軟骨再生効果に対してはさらにその予測が難しい。
骨関節炎を誘発する軟骨破損過程において、一部炎症が誘発されるおそれがあり、これにより炎症関連酵素の放出を発生させて軟骨の損傷を加速させる。骨関節炎が進行すると、炎症反応と共に活液量が増加することを確認することができる。これは、軟骨が破壊されて活液内にプロテオグリカン(proteoglycan)が放出されるためである。よって、活液内のプロテオグリカンの濃度を減少させることも、骨関節炎の改善に対して重要なマーカーとなる。
【0019】
また、骨関節炎が誘導されると、関節内炎症反応と共に痛みが増加するが、このような痛みは、活液内でこれに関連した重要な因子プロスタグランジンE2の濃度が増加するためである。よって、活液内のプロスタグランジンE2の濃度を減少させることがまた骨関節炎の改善に重要である。
また、骨関節炎の進行に伴い、関節活液の活膜内壁細胞(synovial lining cell)数が増加し、内壁の表面が滑らかでなくて厚くなる現象が起こると知られている(Asari, A. et al., Arch. Histol. Cytol. 61(2):125-35 (1998))。
その他、コラーゲンが関節炎の誘発と関連していると知られており、特にコラーゲンは関節軟骨を構成する物質である。このようなコラーゲンが過量形成されることは、軟骨の効果を促進させ、関節炎の誘発にも関与すると知られている。したがって、正常水準を一層上回る高い水準のコラーゲン数値は、骨関節炎誘発のマーカーとなる。このような増加した水準を減少させることは、骨関節炎改善のマーカーとしても有用である。
【0020】
したがって、このような一連の組織生化学的マーカーが減少することは、骨関節炎の治療に非常に重要な作用であり、損傷した組織を改善させるという間接的な証拠となる。
一般に、炎症部位では、過量のNOが発生して細胞組織の怪死を促進させると知られている(Moncada, S. et al., Pharmacol. Rev. 43:109-142 (1991))。このようなNOを発生させるiNOS(inducible nitric oxide synthase)の活性を抑制しあるいはタンパク質の発現を抑制することは、多くの炎症性疾病において治療の重要な関健となっている。iNOSは、外部刺激に反応して生体を防御する目的で短時間に過量のNOを生成する。ところが、関節炎などの疾患では、過剰分泌されたNOが怪死や痛みなどの2次的な副作用を起こす。したがって、iNOS過剰発現の抑制は、骨関節炎の治療に重要であると知られている。
シクロオキシゲナーゼ2(cyclooxygenase 2:COX-2)は、痛み誘発物質であるプロスタグランジンを合成する酵素である。プロスタグランジン合成は、NO又はその他の刺激により促進される。これにより、COX-2の発現又は活性を抑制することも、骨関節炎の治療に重要なマーカーとなる。
【0021】
また、NFκBタンパク質は、前述したようなiNOS及びCOX-2遺伝子の発現を開始する転写調節信号物質であって、平常の際にはIκBαというタンパク質と結合して細胞質に存在していて、感染などの外部刺激が入ると、IκBαがリン酸化しながら分解されて除去された後、NFκBが核内に入ってiNOSの合成を開始するように誘導する。したがって、細胞質にあるIκBαのリン酸化過程又は分解抑制は、骨関節炎の治療を判断する重要なマーカーとなる。
また、前述したようにNFκBタンパク質は、平常の際に細胞質に存在していて、感染又はその他の外部信号が入ると、核内に入ってタンパク質、例えばiNOS及びCOX-2などの遺伝子発現を開始させる役割を行うため、NFκBが核内に入って当該遺伝子の転写調節部位に結合することを抑制することは、骨関節炎患者における骨関節炎の改善を判断する重要なマーカーとなる。
【0022】
天然植物由来のフラボノイド類は、フェノール系化合物であって、構造によってフラボノール(flavonols)、フラバノン(flavanones)、フラバノール(flavanols)、フラバン(flavans)に大別される。これまで明らかになったところによると、フラボノイドは野菜、果物、茶、漢方薬材などに様々な形で存在しており、抗ウィルス作用(例えば、Kaul, T. N. et al., J. Med. Virol. 15:71-79 (1985))、抗癌作用(例えば、Miller, A. B. et al., Rev. Oncol. 3:87-95 (1990))、抗炎症作用(例えば、Ferrandiz, M. L. et al., J. Natl. Cancer Inst. 85:1038-1049 (1993))、抗酸化作用(例えば、Cao, G. et al., Free Radi. Biol. Med. 22:749-760 (1997))などの人体に対する様々な効果を有するものと公知になっている。
フラボノイドの一種であるアピゲニン(4',5,7-トリヒドロキシフラボン)は、下記化学式の構造を有し、分子量(MW)が270.24であり、パセリ(Parsley)(0.05%以上含有)及びタイム(Thyme)(0.05%以上含有)などを含む多くの植物及び果物類から発見される天然物質であって、抗炎症作用、血管弛緩作用、抗酸化作用、抗ウィルス作用、及び抗癌作用などの様々な生物学的活性を有する物質として知られている。
【0023】
【化1】
【0024】
抗癌作用と関連して、アピゲニンは、例えば約50μM以下程度の非常に低い濃度でも効果的に作用することができ、前立腺癌、乳房癌、肺癌、直腸癌、血液癌(白血病)、皮膚癌、甲状腺癌、肝癌などの各種癌細胞の主要特徴である細胞増殖(proliferation)と新生血管形成(angiogenesis)の過程に対してアポトーシス(apoptosis)及び怪死(necrosis)機序に作用して抗増殖及び細胞毒性(cytotoxicity)効果を誘発し、結果的に癌細胞増殖を抑制するものと知られている。
また、アピゲニンは、癌細胞のみならず、マウスの胚線維芽細胞(murine embryo fibroblasts)などの非腫瘍細胞においても腫瘍抑制タンパク質p53の蓄積やアポトーシス誘導などの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を有するものと知られており、ヒトの正常前立腺上皮細胞においても若干の細胞増殖抑制効果があるものと知られている(Plaumann B. et al., Oncogene 13(8), 1605-14 (1996) and Gupta, S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 287(4):914-920)。
【0025】
ところが、最近は、肺癌及び直腸癌細胞株に対するアピゲニン適用濃度によって、細胞株を含む試験管内(in vitro)の試験では卓越な効果を発揮するが、生体内(in vivo)では殆ど効果がない場合も報告されている(Engelmann, C. et al., Phytomedicine 9(6):489-495 (2002))。特に、細胞増殖抑制機序に基づいたアピゲニンの効果は、細胞増殖抑制と細胞毒性が共に現れるだけでなく、適用される低い濃度で効果に対する非常に敏感な反応を示すものと確認されている。しかし、これと対照的に、アピゲニンを含んだ様々なフラボノイド類の抗酸化効果に基づいた様々な実験では細胞毒性からの保護又は予防効果があるものと報告された例もある((Wang, C.N. et al., J. Biol. Chem. 276(7):5287-5295 (2001))。
【0026】
現在まで、関節炎におけるアピゲニンと軟骨間の関連性を言及している文献としては、米国特許第5,650,433号及びその相応特許を挙げることができる。前記引用特許は、アピゲニンを含んだフラボノイド化合物及びグリコシド化合物が関節軟骨の破損に対して破損遅延作用をするため、関節症の治療に使用できるという思想を開示している。ところが、このような思想に対する実施例として、軟骨細胞培養物でフラボノイド化合物と共にプロテオグリカン枯渇誘導剤(proteoglycan depleting agent)としてのPMA(phorbol myristate acetate)を処理した後、プロテオグリカン枯渇抑制効果のみを測定することにより、軟骨再生用途ではなく、単にフラボノイド化合物の軟骨保護剤((phorbol myristate acetate)としての用途のみを開示しており、アピゲニンの軟骨再生効果(chondroregenerative effect)を立証してはおらず、また試験管内実験のみによってプロテオグリカンの枯渇程度を測定しただけであり、実質的に生体内実験で軟骨保護効果のみならず軟骨再生効果があるかに対しても具体的に立証していない。しかも、前記引用特許は、関節症(arthropathy)の一種として骨関節炎及び関節リウマチの両方ともを例示しているが、究極的には、関節リウマチにおける前記プロテオグリカンの枯渇抑制による軟骨保護効果についてのみ記述している。
【0027】
これまで、関節軟骨細胞の増殖及び軟骨組織の再生に対するアピゲニンの効果及びこのような効果のための正確な濃度適用については公知になったことがない。
骨関節炎の誘発により損傷した軟骨組織を再生させようとする場合には、前記抗癌作用での細胞増殖抑制及び細胞毒性誘発機序と反対の効果が発揮されなければならないため、試験管内実験において軟骨細胞に及ぼす細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を得るためのアピゲニンの濃度が正確に確認されなければならず、これと共に、生体内実験によって骨関節炎患者に適用される場合、毒性なしに軟骨細胞増殖の活性を発揮するための実質的なアピゲニンの濃度が正確に確認されなければならない。
本発明者らは、アピゲニンの骨関節炎治療剤としての可能性と先行技術の細胞毒性及び細胞増殖抑制という相反する作用との相互連関性を確認するために、まず試験管内で軟骨細胞の増殖に対するアピゲニンの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を確認した。その結果、細胞毒性及び細胞増殖抑制効果は、約10μM以下の非常に低い濃度で1〜2日間培養する場合には殆ど現れず、2日培養の際に約100μM範囲のIC50値を示し、6日培養の際に約30μM程度のIC50値を示した。また、1〜10μMの範囲では、約10〜20%程度の細胞増殖効果が観察された。
【0028】
前記試験管内試験の結果を参照し、本発明者らは、骨関節炎誘発動物モデルでアピゲニンの軟骨細胞増殖効果を測定しようとした。
本発明では、アピゲニンの骨関節炎患者に対する様々な生化学的効果、組織学的効果、並びに軟骨再生及び活膜好転効果を確認するために、骨関節炎誘導動物モデルとしてニュージーランド白ウサギ(New Zealand White Rabbits)を使用した。ニュージーランド白ウサギに前十字靱帯断裂術(anterior cruciate ligament transection:ACLT)を施術した後、閉鎖空間で持続的な運動により実質的な骨関節炎を誘発させた。
骨関節炎誘発ウサギに対して様々な濃度のアピゲニンを注射によって患部に直接投与したところ、約0.1〜100μM、好ましくは1〜80μMの患部投与量で細胞毒性なしに軟骨組織再生効果を発揮するものと確認された。このような濃度範囲は、試験管内毒性実験における結果と同様ではない。よって、試験管内実験のみでは、軟骨再生のためのアピゲニンの有効量を類推することは難しい。本発明の実施例1では、約80μMに該当するアピゲニン溶液(50μLのDMSOにアピゲニン50μgを溶解させた後、450μLの生理食塩水を混合した溶液)を用いて骨関節炎に対するアピゲニン効果実験を行った。
【0029】
具体的に、対照群はPBSで処理し、実験群は前記量のアピゲニンを毎週1回ずつ総4回注射した。関節活液を2週毎に採取し、骨関節炎のマーカーとして活液量の変化を測定した。
また、生化学的実験として、こうして得られた関節活液を用いて、骨関節炎のマーカーとなる、プロテオグリカン含量の変化、総タンパク質量の変化、プロスタグランジン含量の変化、及びコラーゲン含量の変化を測定した。また、関節活液内における炎症反応のマーカーとなる亜酸化窒素(NO)の変化量を測定し、マクロファージ細胞株RAW264.7内におけるLPS誘導酸化窒素の生成に対するアピゲニンの効果を測定することにより、炎症反応に対するアピゲニンの効果を測定した。また、前記マクロファージ細胞株におけるプロスタグランジンの生成に対するアピゲニンの効果を測定した。
また、マクロファージ細胞株におけるiNOS、COX-2及びIκBα遺伝子の発現に対するアピゲニンの効果を測定することにより、アピゲニンの関節炎マーカータンパク質に対する遺伝子水準における調節が可能であるかをまた測定した。その他、NFκBと核内調節遺伝子との結合に対するアピゲニンの抑制効果をさらに測定した。
【0030】
また、組織学的実験として、軟骨組織の構造的変化、細胞数の変化、染色薬を用いた染色による表面染色性分布などの退行性変化を、骨関節炎進行程度の判断基準であるマンキン点数(Mankin, H. J. et al., Orthopedic Clinics of North America, 2:19-30 (1971))によって評価した。本発明では、マンキンの基準に基づいて2名の観察者による目隠しテストを行った。
前述した一連の立証過程により、アピゲニン化合物が、関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1μM〜100μMとなるようにする投与量の範囲内において、前述したような関節炎誘発の生化学的マーカーを減少させるときにより優れた生物学的活性を示し、何よりも、軟骨保護のみならず軟骨組織の再生を促進する組織学的効果を持つことを確認した。これにより、本発明の目的であるアピゲニン化合物の軟骨再生効果(chondroregenerative effect)という新規用途、すなわちこれを用いた軟骨再生剤及び骨関節炎治療剤を提供することになった。
【0031】
本発明で使用される用語は、次の意味を持つ。
本発明で使用された用語「薬学的に許容される担体」とは、予測できない毒性、刺激及びアレルギー反応などを誘発せず、医学的にであると判断される範囲内でヒト及び動物の組織と接触させて使用するに適した担体を意味する。薬学的に許容される担体としては、例えばアピゲニン溶解のための少量のDMSOなどの有機溶媒を含有する蒸留水、等張性塩水、リンガー液及び注射用水などを含むことができる。
【0032】
本発明で使用された用語「薬学的に許容される賦形剤」とは、非毒性の不活性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、カプセル化物質又は任意類型の剤形補助剤を意味する。薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、ラクトース、グルコース、スクロース;コーンスターチやポテトスターチなどのスターチ;セルロース及びその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及びセルロースアセテート;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター;ラッカセイ油、綿実油、紅花油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油などの天然植物性油;グリコール、例えばポリプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;蒸留水;等張性塩水;リンガー液(Ringer's solution);エチルアルコール及びリン酸塩緩衝液を例示することができるが、その他に薬学的剤形に使用できる適合な他の非毒性物質を含むことができる。
【0033】
また、追加の賦形剤としては、湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤だけでなく、発色剤、放出剤、被覆剤、甘味剤、香味剤、芳香剤などをさらに含むことができる。
本発明で使用される用語「軟骨再生効果(chondroregenerative effect)」は、細胞毒性又は細胞増殖抑制なしに軟骨細胞の破損を抑制するうえ、軟骨細胞の増殖を促進させる、本発明に係るアピゲニンの効果を意味する。
軟骨の再生において、用語「細胞毒性なしに軟骨細胞の増殖を促進させるのに有効な量のアピゲニン」とは、軟骨細胞の増殖を必要とする患者への投与の際に患者に毒性を誘発せず、損傷した軟骨細胞の増殖を促進させるのに効果的なアピゲニン含量を意味する。一般に、アピゲニン化合物の関節軟骨再生効果を誘導する水準は、約0.1〜約100μM、好ましくは約1〜80μM、より好ましくは約1〜10μMに保つのに十分な量である。
骨関節炎の治療において、「治療学的有効量の軟骨再生用組成物」とは、軟骨組織の再生を必要とする骨関節炎患者への投与の際、損傷した関節軟骨を再生させて骨関節炎を改善させるのに効果的なアピゲニン含量を含有する軟骨再生用組成物を意味する。
【0034】
本発明の組成物又は剤形において、「治療学的有効量」は、医学的許容範囲内で担当医者の判断によって決定でき、特定の患者において特別な治療学的有効量水準は、使用される組成物又は剤形の形態;患者の年齢、体重、健康状態、性別及び摂生;投与期間及び投与経路;治療期間;混用される薬物;及び医学分野に既に公知になっている他の因子を含んだ様々な因子によって左右できる。例えば、1週間隔で1日1回投与するとき、経口投与の場合には一般に10 mg〜1000 mg/日の単位用量で、注射剤の場合には一般に0.1 mg〜10 mg/日の単位用量で、軟膏剤の場合には1 mg〜100 mg/日の単位用量で投与できるが、これらに制限されない。前記投与量は、平均的な場合を例示したものであり、個人的な差異によりその投与量が加減でき、これも本発明の範囲に該当する。
【0035】
本発明の組成物又は剤形は、骨関節炎に罹患し得る人を含んだ全ての動物に投与できる。
本発明の骨関節炎治療剤は、治療学的有効量の本発明の軟骨再生用組成物を含んだ単位用量型で提供される。注射剤の場合、例えば滅菌注射用水性又は油性懸濁剤は、適合な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、当該分野に公知になっている方法によって剤形化することができる。滅菌注射剤は、非毒性の非経口的に許容される担体又は溶媒中の滅菌注射液、懸濁液又はエマルジョンでありうる。使用可能な許容されるビヒクル及び溶媒には、水、リンガー液、等張性塩化ナトリウム水溶液などがある。また、通常、溶媒又は懸濁媒質として用いられる滅菌硬化油などを使用することができる。注射剤は、静脈内、海綿体内、筋肉内皮下及び管内によって注射できる。
非経口的投与のためには、滅菌水溶液の形で使用することが最も好ましい。この際、前記溶液は、血液との等張性を有するために、物質、例えば塩類、又はマンニトールやグルコースなどの糖類の物質を含有することができる。
【0036】
経口投与用固形剤形には、カプセル剤、錠剤、丸薬、散剤及び顆粒剤が含まれる。このような固形の剤形では、活性化合物を、例えばスクロース、ラクトース又は澱粉などの少なくとも一つの不活性希釈剤と混合することができる。また、不活性希釈剤以外に添加物質、例えば潤滑剤、及びステアリン酸マグネシウムや微細結晶性セルロースなどの他の補助剤を含むことができる。カプセル剤、錠剤及び丸薬の場合、剤形は緩衝剤を含むことができる。錠剤及び丸薬は、さらに腸溶被覆剤及び他の放出調節被覆物質を使用することもできる。軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤では、充填剤として、ラクトース又は乳糖などの賦形剤及び高分子量ポリエチレングリコールを使用することができる。
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸薬及び顆粒剤の固形剤形は、被覆及びシェルを用いて製造することができる。
経口投与用液状剤形には、水など、当該分野で通常用いられる不活性希釈剤を含む、薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤が含まれる。このような組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤を含むことができる。
【0037】
また、本発明の剤形は、局所又は経皮投与用剤形であって、軟膏剤、ペースト、クリーム、ローション、ゲル又はパッチ(patch)剤に製造できる。経皮パッチの場合には、身体への組成物の伝達量を調節することができるという追加の利点を持つ。このような剤形は、化合物を適切な媒質に溶解又は分散させて製造することができる。皮膚を介しての化合物の吸収を増加させるために、吸収促進剤を使用することができる。経皮投与剤として製造する場合には、ポリアクリル酸ナトリウム、グリセリン、メチルパラベンなどの薬学的に許容可能な湿布剤、又はプロピレングリコール、流動パラフィン及びミリスチン酸イソプロピルなどを含有するプラスター剤形などを製造することができる。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。ところが、下記実施例は、本発明を説明するために過ぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1:アピゲニンの細胞増殖抑制及び細胞毒性の効果)
アピゲニンは、腫瘍細胞のみならず正常細胞においても細胞増殖抑制及び細胞毒性を有するものと知られているため、本発明の軟骨細胞増殖効果を達成するために、試験管内実験で軟骨細胞に対する細胞毒性を確認した。
本実施例では、アピゲニンが軟骨細胞の増殖抑制及び細胞毒性に及ぼす効果濃度を決定するために、ニュージーランド白ウサギの軟骨組織から分離した軟骨細胞におけるアピゲニンのIC50値を測定した。実験は、コラゲナーゼ処理によってウサギの正常軟骨組織から分離した軟骨細胞を利用し、DMSO中のアピゲニン濃度をそれぞれ1、10、20、30、40、50、100、200μM(DMSO 0.05%以下含有)まで処理し、1日、2日、4日及び6日まで培養した後、細胞の生存率に基づいたMTT方法を適用してIC50値を測定した。
その結果、1次培養したウサギ軟骨細胞におけるアピゲニンの抗増殖効果に対するIC50値は、表1のとおりである。
【0039】
【表1】
【0040】
特に、約10μM以下の非常に低い濃度では、1日及び2日間培養された軟骨細胞から有意な細胞増殖抑制又は細胞毒性を観察することができなかった。却って1μM〜10μMの濃度範囲では、軟骨細胞から約10〜20%程度の細胞増殖効果が観察された。したがって、アピゲニンは、試験管内実験で軟骨細胞の増殖を促進し且つ細胞毒性を最小化しながら、10μM以下の低い濃度でその軟骨再生効果を期待することができるものと確認された。
試験管内実験から確認されたように、アピゲニンを用いた骨関節炎の治療においては、細胞増殖抑制及び細胞毒性を回避することができながら、抗炎症効果及び軟骨組織再生効果を同時に期待するためにはアピゲニンの効果的な濃度決定が重要な要素であることを確認した。
【0041】
(実施例2:実験動物の関節炎誘導)
関節炎の動物モデルを作るために、ニュージーランド白ウサギの両側後脚関節部位に膝前十字靱帯断裂術(ACLT)を施術した。手術をして3日後から4週間5×5 m3の空間で持続的に運動させて骨関節炎を誘導した。骨関節炎誘導ウサギを用いて1週に1回ずつアピゲニン(A3145、Sigma製)50μgを右脚のみに4回(すなわち、4週実施)投与した。アピゲニン注射液は、アピゲニン50μgを、DMSO(dimethylsulfoxide)50μLと生理食塩水450μLとを混ぜた溶液に溶解させて製造した。左脚は、右脚の対照群となり、アピゲニンの効果と比較するためにDMSO 50μL含有生理的緩衝水PBS 450μLを注射した。薬物を2週目と4週目投与してから1週の後、関節活液及び軟骨を採取して実験した。図13は関節炎誘導及び活液採取過程を図式化したものである。下記の実施例3〜10はいずれも、実施例2の骨関節炎誘導ニュージーランド白ウサギの関節組織を用いて実験したものである。
各実験群の関節写真を図1に提示した。図1に示すように、本発明に係る有効量のアピゲニンを投与したウサギでは、外観上、関節軟骨部位の表面が滑らかであるが、生理食塩水対照群では、関節軟骨の損傷により表面が非常に不規則で粗くなったことを確認することができた。また、アピゲニン投与群では、左側軟骨は対照群として処理されたが、右側関節軟骨の状態改善によって左側関節に対する負担が少ないため、左側でもある程度改善の効果があるものと確認された。
【0042】
(実施例3:関節活液の総量の測定)
骨関節炎が進行すると、一般に炎症反応と共に活液の量が増加する傾向を発見することができる。骨関節炎(OA)誘導の前(正常状態)と、骨関節炎誘導後2週目と4週目にアピゲニンを注射してから1週の後に、それぞれ活液を採取して遠心分離させた後、細胞と血球などを除去し、上澄み液のみを集めて実験に使用した。
骨関節炎の程度によって活液の量に変化があると報告されているため、骨関節炎の誘導とその後の薬物治療による活液量の変化を知るために、活液の総量を測定した。活液の量を測定するために、活液のCa2+の濃度をヒ素アゾIII錯化方法(Arsenazo III complexion method)[Michaylova V. et al., Anal. Chim. Acta, 53:194 (1971)]を用いて測定し、活液の総量はドナン平衡方程式(Donnan equilibrium equation)を用いて計算した。使用されたヒ素アゾIII試薬(Arsenazo III reagent;588-3、Sigma製)1 mLと関節活液0.01 mLを混ぜて室温で5分間放置した後、600 nmで吸光度(分光光度計、DU650、Beckman製)を測定した。
本実施例で測定した結果は、表2と図2に提示した。正常群0.25 mLで関節炎を誘導した後、PBS処理群は4週後に1.7 mLに増加したが、アピゲニン処理群は4週後に1.16 mLに増加幅が減少して活液増加を抑制する顕著な効果を示した。また、アピゲニン処理群は、4週目に左脚(−)でも1.58 mLとPBS処理群の1.91 mLに比べて減少する効果を示した。これは、右脚(+)に対する波及効果と判断される。
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例4:関節活液のプロテオグリカン量の測定)
実施例3から得た関節活液を使用し、活液内のプロテオグリカンの濃度は、1,9-ジメチルメチレンブルー(1,9-dimethylmethylene blue)分析法で測定した(Houselmann H. J. et al., Am. J. Physiol. 271:C742-752, (1996))。関節活液50μLと1,9-ジメチルメチレンブルー(34,108-8、Aldrich製)250μLとを混ぜた後、530 nmで吸光度(吸光度測定器、Power Wave X340、Bio-Tek製)を測定した。
本実施例で測定した結果は、表3と図3に示した。3.79μg/mLの正常なプロテオグリカン量(骨関節炎誘導の前)から、骨関節炎を誘導してから4週の後、対照群では59.65μg/mLに増加したが、アピゲニン処理群では、活液内の増加したプロテオグリカン含量が12.22μg/mLに急減して最も大きい効果を示した。また、アピゲニン処理群では、PBS対照群に比べて左脚(−)でも全般的に対照群に対して減少効果を示すことを確認した。
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例5:関節活液の総タンパク質(total protein)量の測定)
骨関節炎が進行しながら軟骨が破裂して活液内に総タンパク質が放出されるため、活液内の総タンパク質の濃度を測定した。実施例3で得た関節活液を使用し、活液内の総タンパク質の濃度は、ブラッドフォード(Bradford method)方法で測定した。関節活液50μLとタンパク質分析試薬(500-0006、Bio-rad製)200μLとを混ぜて常温で5分間放置した後、595 nmで吸光度を測定した。
本実施例で測定した結果は、表4と図4に示した。4.27 mg/mLの正常な総タンパク質量(骨関節炎誘導の前)が、骨関節炎を誘導してから4週の後、対照群では39.74 mg/mLに増加したが、アピゲニン処理群では24.91 mg/mLに増加が抑制されて大きい効果を示した。
【0047】
【表4】
【0048】
(実施例6:関節活液のプロスタグランジンE2(prostaglandin E2)(PGE2)量の測定)
実施例3から得た関節活液を使用し、活液内のプロスタグランジンE2(PGE2)の濃度は、酵素免疫分析キット(enzyme immunoassay kit)(EIA、DE0100、R&D systems製)を用いて測定した。1/10に希釈された関節活液100μL、コンジュゲート(conjugate)50μL、抗体50μLを、キットに内蔵されたプレートに仕込み、2時間常温で攪拌させた。反応が終了すると、洗浄用緩衝液(washing buffer)で洗浄し、pNPP溶液200μLを入れて常温で1時間放置した。反応が終わった後、405 nmで吸光度を測定した。
本実施例で測定した結果は、表5と図5に示した。その結果によれば、骨関節炎誘導4週の後、88.05 pg/mLの正常PGE2の量が、PBS対照群では862.72 pg/mLに増加した。これに対し、アピゲニン処理群では、正常PGE2の量が196.71 pg/mLに若干増加しただけであって、PBS処理対照群より非常に大きい抑制効果を示した。また、アピゲニン処理群は、左脚(−)でも753.2 pg/mLのPBS対照群に比べて約509.3 pg/mLの有意なプロスタグランジンE2の抑制効果を示した。
【0049】
【表5】
【0050】
(実施例7:関節活液のコラーゲン量の測定)
活液内のコラーゲンの総量は、シリウスレッド(Sirius red)染色によって測定した(Heide T. R. et al., Histochem. Cell Biol., 112: 271-276 (1999))。活液サンプル100μLを96ウェルに入れて34℃の乾燥オーブンで24時間コートした後、ピクリン酸(picric acid)にシリウスレッド(1 mg/mL、36,554-8、Aldrich製)を溶解させた染色溶液を100μL加えて攪拌器で30分間反応させた後、残った染料を0.01N HCl(H7020、Sigma製)を用いて除去し、0.1N NaOH(S8045、Sigma製)100 mLによく溶出して550 nmの波長で吸光度を測定することにより、コラーゲンの総量を分析した。スタンダード(Standard)は、I型コラーゲン(C1188、Sigma製)をそれぞれ0、100、200、300、400、500μmにして550 nm波長で読み取った吸光度を用いて標準曲線を描いた。このような標準曲線を用いて活液中のコラーゲンを定量した。
本実施例で測定した結果は、表6と図6に示した。骨関節炎誘導4週の後、118.64μg/mLの正常コラーゲンの量が、PBS対照群では1912.54μg/mLまで増加した。これに対し、アピゲニン処理群では、コラーゲン量の増加幅が顕著に減少して406.56μg/mLであって、高い抑制効果を示した。また、アピゲニン処理群は、左脚(−)でも1551μg/ mLのPBS対照群に比べて約1019.2μg/mLの有意な活液内総コラーゲン量の顕著な抑制効果を示した。
【0051】
【表6】
【0052】
(実施例8:関節組織のマンキン点数(Mankin's scoring))
実験対象動物の膝関節の内側部膝蓋骨活膜(medial parapatella synovium)部位から活膜組織を30 nmのサイズに採取し、10%蟻酸(F0507、Sigma製)に24時間以上固定した後、パラフィンブロックを製作して4 mmの薄片にした。この4 mmの薄片をH&E(hematoxylin & eosin)染色した後、光学顕微鏡を用いてマンキン点数を与えた。骨関節炎の進行程度を判断する基準としてはいろいろあるが、主に使う方法としては、マンキン点数という基準がある。この方法は、軟骨組織の構造的変化、細胞数の増加又は減少、サフラニン-O染色による表面の染色性分布、最高点(Tidemark)の連続性に分け、各項目に対して退行性変化を数値化して等級を定めて分析する方法である。マンキン点数は、2名の観察者による目隠しテストによって行い、0点(各項目が全て正常の状態)から退行性進行段階に応じて最大点数14点までに分けて退行性変化指数を算出した。
本実施例で測定した結果は、図7に示した。関節炎誘導の後、対照群の点数は平均12.5であったが、アピゲニン処理群の点数は平均6.6であった。したがって、アピゲニン処理群では、対照群に比べて2倍程度の高い退行性変化指数の改善を確認することができた。
【0053】
(実施例9:関節組織のH&E、サフラニン-O染色結果)
実験対象動物の大腿遠位部を採取して4%ホルマリン(F8775、Sigma製)に24時間以上固定し、観察しようとする面を5 mmの厚さに切片して5%硝酸(25、811-3、Sigma製)で24時間以上脱灰してパラフィブロックに製造し、4μmの薄片を作ってH&E染色と軟骨組織の特異的染色、すなわちサフラニン-O(S2255、Sigma製)染色を行って光学顕微鏡によって軟骨の状態を観察した。
本実施例で測定した結果は、図8A及び図8Bに示した。図8Aはアピゲニン処理群のH&E及びサフラニン-O染色結果を示し、図8Bは生理食塩水処理群の結果を示す。サフラニン-O染色の結果、全体的に骨関節炎の傾向を示したが、アピゲニン処理群が、対照群に比べて可視的に確認可能な程度の少ない軟骨の破裂程度を示し、プロテオグリカンの染色もよくなされるものと確認された。アピゲニン処理群の組織学的検査結果、プロテオグリカンのような軟骨組織特有のECM合成と細胞の模様を可視的に判断する場合にも、欠損した軟骨組織部位が修復されて良い回復結果を示した。
【0054】
(実施例10:活膜細胞の分布及び数の測定結果)
実施例9の実験方法と同様の方法で準備した組織を用いて細胞の数及び表面を調査した。本実施例では、深さを120μmとしてそこに在る細胞の数を測定した。
本実施例で測定した結果は、図9と図10に示した。図9に示すように、アピゲニン処理群の右脚切断面が生理食塩水処理群に比べて滑らかな断面を示していることを確認することができた。また、図10に示すように、骨関節炎誘導の後、対照群では活膜細胞の数が632.3個であったが、アピゲニン処理群は、活膜細胞の数が406.6個であって、大きい効果を示した。これは、アピゲニン処理群において活膜細胞数の増加が約34.5%程度減少した効果を示す。
【0055】
(実施例11:関節活液の一酸化窒素(NO)量の測定)
関節活液においてNOの量を測定するために、化学的にNOが最も安定的な形である亜硝酸塩(nitrite)に還元させてグリース(Griess)反応によって測定した。関節活液とグリース試薬(Griess reagent)を1:1(100μL:100μL)の割合で混合し、常温で10分間放置した後、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)によって波長540 nmで吸光度を測定した。グリース試薬は、スルファニルアミド(S9251、Sigma製)0.1 g、リン酸(P6560、Sigma製)0.5 mL、N-ナフチル-ジアミン-H-クロライド(102397、ICN製)0.01 gを最終体積が10 mLとなるように蒸留水で溶解させて作った。亜硝酸塩の定量曲線は、亜硝酸ナトリウム(S2252、Sigma製)を用いて作成した。
本実施例で測定した結果は、表7に示した。骨関節炎誘導の後、4.48μMの正常亜硝酸塩の量が、対照群では12.1 Mに増加したが、アピゲニン処理では6.01μMと若干増加した。この結果は、アピゲニンが良い抗炎症効果を持つことを示す。
【0056】
【表7】
【0057】
(実施例12:アピゲニンがマクロファージ細胞の一酸化窒素(NO)生成抑制に及ぼす影響)
マウス由来のマクロファージ細胞株RAW264.7(KCLB 40071)を韓国細胞株銀行から購入して使用し、10%の牛血清(fetal bovine serum)(26140-079、Gibco製)、100 U/mLフェニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシン(15140-122、Gibco)を含んだDMEM(dulbecco's modified eagle medium)(12800-017、Gibco製)培地を含んだ直径60 mmの細胞培養皿に3×106個の細胞を接種し、24時間37℃、5% CO2、湿潤条件の下で培養した。RAW264.7細胞で一酸化窒素を誘導するために、大腸菌の細胞壁構成成分であるリポ多糖類(lipopolysaccharide、「LPS」と略する。L2654、Sigma製)を500 ng/mLの濃度で投与し、対照群には溶媒DMSOのみを処理し、実験群にはアピゲニンを10、20、40、80μMの濃度となるように投与した後、16時間培養した。この際、LPSは蒸留水に溶解させ、アピゲニンはDMSOに溶解させた。その後、培地とグリース試薬を1:1(100 mL:100 mL)の割合で混合し、常温で10分間放置した後、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)によって波長540 nmにおける吸光度を測定した。
本実施例の結果は、表8にまとめた。無処理群が2μMの一酸化窒素を生成する反面、LPSのみを処理した場合、40μMの一酸化窒素が発生し、アピゲニンの濃度に応じて最大9μMまで減少して、試験管内でもアピゲニンは優れた抗炎症効果を示した。
【0058】
【表8】
【0059】
(実施例13:アピゲニンがマクロファージ細胞のプロスタグランジンE2(PGE2)生成抑制に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。PGE2の測定のためにR&D systems社のPGE2免疫分析シート(DE100)を使用した。反応終了の後、培地100μL、コンジュゲート50μL、抗体50μLをキットに入れて2時間反応させた後、発色試薬pNPP200μLを入れて1時間反応させた。反応が終了すると、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)を用いて波長405 nmにおける吸光度を測定した。
本実施例の結果は、表9に示した。無処理群が71 pg/mLのプロスタグランジンを生成する反面、LPSのみを処理する場合、4156 pg/mLのプロスタグランジンが発生し、アピゲニン処理群ではアピゲニンの濃度に応じて300 pg/mLまで減少した。
【0060】
【表9】
【0061】
(実施例14:アピゲニンがマクロファージ細胞のiNOS、COX-2、IκBαの発現に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。アピゲニンがマクロファージ細胞のiNOS、COX-2、IκBαタンパク質の発現に及ぼす影響を調査するために、ウェスタンブロット(Western blot)で確認した。但し、IκBαタンパク質発現を観察するときは、LPSを処理し、2時間のみ反応させた。培地を除去し、抽出緩衝溶液(0.32 Mスクロース(S0389、Sigma製)、0.2 M Hepes(H3375、Sigma製)、1 mM EDTA(808288、BM製)、1 mM PMSF(P7626、Sigma製)、10μg/mLアプロチニン(A1153、Sigma製)、10μg/mLロイペプチン(L0649、Sigma製)、10μg/mL SBTI(T9128、Sigma製)で細胞を分離し、タンパク質を定量した後、40 mgのタンパク質をSDS(Sodium dodecyl sulfate)8〜16%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(EC60452、NOVEX製)を行った。電気泳動済みのタンパク質をPVDF(polyvinylidene difluoride)(IPVH00010、Millipore製)膜に移して5% NFDM(mpm fat dry milk)溶液と反応させ、1次抗体、2次抗体を順次反応させた後、ECL(enhanced chemiluminescence)(RPN2106、Amersham製)試薬で発色させてX線フィルム(AGFA製)に露出させた。1次抗体としてはiNOS(N32020、Transduction製)0.13μg/mL、COX-2(sc-1745、Santacruz製)2μg/mL、β-アクチン(A5441、Sigma製)1μg/mL、IκBα(sc-371、Santacruz製)0.4μg/mLを使用し、iNOS、β-アクチンに対する2次抗体としては抗-マウスIgG-HRP(sc-2005、Santacruz製)80 ng/mLを使用し、COX-2、IκBαに対する2次抗体としては抗-ウサギIgG-HRP(sc-2004、Santacruz製)80 ng/mLを使用した。
【0062】
本実施例の結果は、図11に示した。外部刺激のない正常状態ではiNOSの発現は全く観察されなかったが、LPSを処理すると100%まで増加し、アピゲニンを処理するとさらに0%水準まで抑制されて非常に良い結果を示した。外部刺激のない正常状態ではCOX-2の発現が全く観察されなかったが、LPSを処理すると100%まで増加し、アピゲニンを処理すると0%水準まで抑制されて非常に良い効果を示した。
外部刺激のない正常状態におけるIκBαの発現量を100%としたとき、LPSを処理すると、18.56%まで減少し、アピゲニンを10μM程度のみ処理すると、75.82%水準まで回復する良い結果を示した。
【0063】
(実施例15:アピゲニンがマクロファージ細胞のNFκBと遺伝子間の結合に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。但し、反応時間は、16時間ではなく、2時間であった。アピゲニンがマクロファージ細胞のNFκBと遺伝子間の結合に及ぼす影響を調べるために、EMSA(electrophoretic mobility shift assay)を行った。培地を除去し、細胞を分離して緩衝溶液A(10 mM Hepes(H3375、Sigma製)pH 7.9、10 mM KCl(P9541、Sigma製)、1.5 mM MgCl2(M2393、Sigma製)、0.5 mMジチオスレイトール(D0632、Sigma製)、0.2 mM PMSF(P7626、Sigma製)、0.5% Nonidet P-40(N3268、Sigma製)で溶解させて細胞膜を破壊した後、5000 rpmで15分間遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物に緩衝溶液B(20 mM Hepes(H3375、Sigma製)pH 7.9、300 mM KCl(P9541、Sigma製)、1.5 mM MgCl2(M2393、Sigma製)、10%グリセロール(G7757、Sigma製)、0.5 mMジチオスレイトール(D0632、Sigma製)、0.2 mM EDTA(808288、BM製)、0.2 mM PMSF(P7626、Sigma製))を入れて核膜を破壊した後、13000 rpmで30分間遠心分離して核内タンパク質のみを分離した。予め合成しておいたNFκB結合核酸オリゴマー(nucleic acid oligomer)(5’-AGT TGA GGG GAC TTT CCC AGG C-3’、GenoTech製)に放射性同位元素「γ-32P」ATP(PB10218、Amersham製)を結合させて標識を作り、この核酸オリゴマー0.5 ngと核内タンパク質10 mgとを反応させた。反応完了の後、結合有無を確認するために、6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を施した後、ゲルを乾燥させてX線フィルムに露出させた。
【0064】
本実施例の結果は、図12に示した。正常のときのNFκBの量を100としたとき、LPS処理すると、186まで増加するが、アピゲニンを共に処理すると、最大111(20μMアピゲニン処理のとき)と低くなる効果が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述したように、本発明は、軟骨破損のマーカーとなる、関節活液の総量と活液のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、活膜細胞の状態を好転させる効果、及び軟骨組織を再生させる効果を有する、アピゲニンの関節軟骨再生剤としての新規用途を提供する。また、本発明は、関節軟骨再生剤として単一化合物アピゲニンを含む骨関節炎治療剤、及びこの治療剤を用いた骨関節炎治療方法を提供する。
(図面の簡単な説明)
本発明の前記及び他の目的、特徴及び他の利点は添付図面を参照する以降の詳細な説明からより明らかに理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は生理食塩水処理対照群(A)、及び本発明に係るアピゲニン処理実験群(B)における骨関節炎誘発ウサギモデルの軟骨部位を示す写真である。
【図2】図2は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液の総量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液の総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液の総量を意味し、プラス(+)はアピゲニン又は生理食塩水が処理された右脚に対する結果を示し、マイナス(−)は無処理左脚に対する結果を示す。
【図3】図3は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液内のプロテオグリカンの総量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のプロテオグリカンの総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内のプロテオグリカンの総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図4】図4は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液内の総タンパク質量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内の総タンパク質量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内の総タンパク質量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図5】図5は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による関節活液内のプロスタグランジンE2(PGE2)の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のPGE2の総量を意味し、「OA」は関節炎誘発直後の関節活液内のPGE2の総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【0067】
【図6】図6は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による骨関節活液内コラーゲンの変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のコラーゲンの総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内のコラーゲンの総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図7】図7は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与によるマンキン点数(Mankin's scoring)の変化を示すグラフであり、この際、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図8】図8A及び図8Bは骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与(図8A)及び生理食塩水投与(図8B)による関節の軟骨組織部位の染色写真であり、この際、「H&E」はヘマトキシリン及びエオシン染色処理群を意味し、「Saf-O」はサフラニン-O染色処理群を意味する。
【図9】図9は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与(A)及び生理食塩水投与(B)による関節活膜(synovium membrane)の状態を示す染色写真である。
【図10】図10は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による関節の活膜内壁細胞数の変化を示すグラフである。
【0068】
【図11】図11はマウス由来マクロファージ細胞株RAW264.7において、LPSによる炎症誘発の際に本発明に係るアピゲニン投与によるiNOS、COX-2、及びIκBαの発現変化を示すウェスタンブロット写真であり、この際、β-アクチンは、実験に使用されたタンパク質の量を確認するためのマーカーとして用いられる。
【図12】図12はマウス由来マクロファージ細胞株RAW264.7において、本発明に係るアピゲニン投与による転写調節因子NFκBタンパク質と調節遺伝子との結合程度の変化を示すEMSA(Electrophoretic mobility shift assay)写真である。
【図13】図13は関節炎誘導及び活液採取過程を経時的に示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨破損のマーカーとなる、関節活液の総量と活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、活膜細胞の状態を好転させる効果、及び軟骨組織を再生させる効果を有する、アピゲニンの関節軟骨再生剤としての新規用途に関する。また、本発明は、関節軟骨再生剤としてアピゲニンを含有する骨関節炎治療剤、及びこの治療剤を用いた骨関節炎治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、年齢を問わずに誰にでも発生しうる、ありふれた病気であって、その発生率が経年的に増加する。韓国の場合、全体人口の約20%程度が関節炎に悩まされている。関節炎の細部種類は100余個に至るが、特に骨関節炎が全体関節炎の大部分を占める。
骨関節炎は、関節の軟骨が擦り減って骨同士がこすれあって痛みを誘発するため、関節周辺の筋肉を使わなくなって筋肉も段々弱化する疾患である。骨関節炎は、過去、退行性関節炎と知られている、ヒトによく見られる関節疾患であって、関節の異常又は損傷の後に発生し、あるいは関節の損傷がない場合にも発生する。
【0003】
骨関節炎は、男女両方ともで同様の有病率を示すが、女性の場合は罹患する関節の数がさらに多く、男性の場合は股関節に罹患することが多いものと知られている。骨関節炎の危険因子としては、老齢、肥満、先天性股関節形成不全、外傷、関節炎の過去歴、一部特殊職業群及び家族歴などを挙げることができる。骨関節炎は、それ自体では生命に大きい支障をきたさないが、慢性的な骨関節炎の持続により痛み及び関節の奇形が生じて生活の質を低下させるおそれがある。特に、膝の骨関節炎は、慢性的に身体障害を誘発する最も大きい原因として知られており、最近、多くの研究成果により様々な薬物と治療法が開発され、骨関節炎による痛みと関節奇形は減らすことができるようになった。
【0004】
骨関節炎は、関節軟骨が損傷して軟骨が擦り減、その下の骨も損傷して奇形的に骨が再生されることにより、いろいろな症状が現れる。骨関節炎の発生病因は、2つであると考えられるが、一つは、関節の軟骨又は骨は正常的であるが、関節に過度な負荷がかかって関節組織が損傷した場合であり、もう一つは、負荷は正常であるが、関節の軟骨又は骨が弱い場合である。また、骨関節炎の最も重要な危険因子は年齢である。骨関節炎は、60歳以上では約50%、65歳以上では約70%の老人層で発生すると知られている。
【0005】
骨関節炎は、主に、膝、股関節、脊椎及び手指などに発生する。その主要症状は痛みと関節の変形であり、罹患した関節は浮腫、熱感、及び関節の異常肥大といった症状を示す。
最近、様々な薬物と治療方法が開発され、骨関節炎の治療に使用されているが、治療の主目的は、痛みの緩和、関節機能の維持、及び関節の機能障害による身体障害を予防することにある。
このような骨関節炎の治療方法として、痛みのみがある比較的初期の場合には、単純な鎮痛剤を服用して痛みを無くすことに焦点を合わせており、骨関節炎がより進行して痛みが長引くと、抗炎効果の強い消炎鎮痛剤を使用する。ところが、この種の消炎鎮痛剤は、長期間使用の際、胃、肝、腎臓に悪影響を及ぼすおそれがあり、軟骨細胞の再生能力を低下させるなどの副作用があって使用上の注意を要する。
【0006】
より具体的には、骨関節炎は、コルチコステロイド(corticosteroid)類型の消炎物質、例えば、プロスタグランジン合成阻害機能を有するヒドロコルチゾン(hydrocortisone)及びβメタゾン(betamethasone)などを用いて治療されてきた。ところが、この種のステロイド系ホルモンは、経口投与の場合には、一時的に効果がありうるが、その深刻な副作用のため、使用のときに持続的な注意観察をしなければならないうえ、経口投与でなく、関節内注射を原則とする。
関節炎治療に最も一般に用いられる方法は、薬物を服用することである。これまで、多くの鎮痛及び消炎効果を有する薬が多く開発されてきたが、その代表的なものとしては、ジクロフェナク(diclofenac)、アスピリン(aspirin)及びイブプロフェン(ibuprofen)などの非ステロイド性消炎剤(NSAID)がある。
【0007】
ところが、関節炎の治療によく用いられるNSAIDは、消化器、特に胃腸に副作用を起こすという問題点を持っているが、これは、胃腸の内壁を保護する酵素であるシクロオキシゲナーゼ1(cyclooxygenase 1、COX-1)と、痛み及び炎症を起こす酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)とを一時に抑制するためである。また、NSAIDを長期服用する場合、胃腸又は小腸にひりひりするような痛み又は潰瘍を誘発するが、結局は、これが穿孔を誘発する。また、引き起こされた潰瘍は、胃の出口を塞いで嘔吐や体重減少などを生じさせるうえ、胃腸と十二指腸などの出血を引き起こす。その他、鎮痛効果に優れかつ潰瘍や出血などの副作用が少ない関節痛み治療剤、例えばCOX-1を抑制しないCOX-2抑制剤なども一部開発されている。
一方、骨関節炎は、老化により発生する最も普遍的な現象であって、過去は、主に、骨関節炎に対する根本的な治療剤なしに痛み及び炎症のみを除去することに焦点を合わせたが、最近は、軟骨細胞の破損を減少させることにより、関節炎の進行を遅延又は抑制する治療方法に関する研究成果が一部出ている。
【0008】
例えば、米国特許第6,610,750号は、レイン(rhein)化合物及びそのエステル誘導体であるジアセレイン(diacerein)を用いて関節軟骨の破損を遅延させて骨関節炎を治療する方法を開示している。
米国特許第5,591,740号は、海洋海綿動物ヒメニアシドン(hymeniacidon)から分離したデブロモヒメニアルジシン(debromohymenialdisine)を用いて関節の悪化及び軟骨の分解を遅延させて骨関節炎を治療する方法を開示している。
また、米国特許第6,552,066号は、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤(protein tyrosine kinase inhibitors)、例えばゲニステイン(genistein)、ハービマイシンA(herbimycin A)、4,5-ジアニリノフタルイミド(4,5-dianilinophthalimide)、チロホスチンAG82及びチロホスチンAG556がインターロイキン-1刺激軟骨分解を遅延させることを確認し、このタンパク質チロシンキナーゼ阻害剤を用いた骨関節炎治療方法を開示している。
【0009】
また、日本特開平07-025761号に相応する米国特許第5,650,433号は、関節軟骨マトリックスの主要成分であるプロテオグリカンの枯渇を抑制する機能を有する、フラボノイド化合物、グリコシド化合物又はその立体異性体を含有する軟骨保護剤、よびこの軟骨保護剤を投与して軟骨の破壊を減少させることにより関節症を治療する方法を開示している。
しかしながら、前述した特許文献に開示された方法、及び現在まで知られている薬物を用いた骨関節炎治療方法は、軟骨破損過程の進行を遅延又は抑制させるだけであり、根本的な治療剤、すなわち軟骨組織を再生させる効果(hondroregenerative effect)を持っているから、損傷した軟骨組織を回復させることが可能な治療剤を開示してはいない。
【0010】
最近は、骨関節炎の治療において副作用を持っている薬物を用いた軟骨の保護に伴う困難さを回避するために、薬物を使用しない別の方法、例えばヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)を用いて軟骨組織を再生させる方法などが試みられている(ヨーロッパ公開第0989855 A1号公報及び米国特許出願第20020110544 A1号公報)。
現在までも、骨関節炎の治療において、消炎及び鎮痛効果を提供し或いは軟骨の破損を遅延又は抑制する治療法のみが骨関節炎の臨床的進行の遅延に用いられており、軟骨の分解により誘発された骨関節炎の治療のために、軟骨組織を再生させ或いは軟骨組織の状態を改善させることが可能な新規治療方法の開発が依然として要求されている。
【0011】
このような必要性は、軟骨組織が約95%の水分、細胞外軟骨基質及び5%のみの軟骨から構成されており、その軟骨細胞が人体で最も長い細胞周期を持つため非常に増殖し難いと知られているためである(osteoarthritis and neurogenic arthropathy, pages 487 and 492, the Merck Manual, 17th English Edition/First Korean edition, 2003)。それ故に、生体内実験の立証によって、細胞毒性なしに軟骨の再生を促進させることが可能な物質を見い出し、これを用いて、骨関節炎患者から分離した軟骨細胞を増殖させた後、これをさらに移植して細胞治療する方法において増殖誘導剤として応用できるならば、重要な医学的発展を期待することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、天然フラボノイド系物質であるアピゲニン化合物が軟骨細胞の破損を遅延させるという公知の効果のみならず、軟骨細胞の増殖を促進して軟骨組織を再生させることができるというアピゲニンの新規用途を発見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の開示)
第1様態において、本発明は、細胞毒性のない軟骨細胞の増殖を促進させるのに有効な量のアピゲニンと、薬学的に許容される担体とを含有する軟骨再生用組成物を提供する。
【0014】
前記第1様態において、本発明に係る軟骨再生用組成物は、患者の関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1μM〜100μMとなるようにする量のアピゲニンを含有し、このような投与量の範囲において、アピゲニンは骨関節炎のマーカーとなる、増加した関節活液量及び活液内の増加したプロテオグリカン、全体タンパク質、プロスタグランジンの量を減少させる生化学的効果を示し、活膜細胞の状態を好転させる追加的な関節軟骨の改善効果を有する。
好ましくは、本発明に係る軟骨再生用組成物に含まれるアピゲニンの有効量は、患者の関節軟骨組織及び活液における濃度が1μM〜80μMとなるようにする量で投与する。
第2様態において、本発明は、前記第1様態に係る関節軟骨再生組成物及び薬学的に許容される賦形剤を含む、関節軟骨再生用骨関節炎治療剤を提供する。
前記第2様態において、本発明に係る骨関節炎治療剤は、液剤、カプセル剤、錠剤又は丸薬などの経口投与剤;軟膏剤又は経皮投与剤などの局所適用剤;又は注射剤の形である。
【0015】
本発明に係る骨関節用治療剤が経口投与剤の場合、アピゲニンは1日当たり10 mg〜1000 mgの量で投与する。
本発明に係る骨関節炎治療剤が軟膏剤の場合、アピゲニンは1日当たり1 mg〜100 mgの量で投与する。
本発明に係る骨関節治療剤が注射剤の場合、アピゲニンは1日当たり0.1 mg〜10 mgの量で投与する。
第3様態において、本発明は、前記第1様態に係る関節軟骨再生組成物と薬学的に許容される賦形剤とを含む骨関節炎治療剤を骨関節炎患者に投与し、関節軟骨を再生させて骨関節炎を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、軟骨細胞の破損を遅延させる効果だけでなく、軟骨細胞の増殖を促進して軟骨組織を再生させる効果に基づいて骨関節炎を治療するためのアピゲニンの新規用途を提供する。
アピゲニンが抗癌作用などの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を誘発することは既に公知になっている。ところが、本発明者らは、前記公知の効果とは相反する効果として、アピゲニンが特定の濃度範囲の有効投与量の範囲では細胞毒性なしに却って軟骨細胞の増殖を促進して軟骨を再生する効果を有することを確認した。すなわち、アピゲニンの軟骨再生効果が正確な投与量及び患部に対する最終適用量と直接関連していることを確認した。具体的に、関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1〜100μM、好ましくは1〜80μMとなるようにする量のアピゲニンが、細胞実験において炎症関連酵素の活性を抑制し且つ痛み誘発物質の生成を抑制する効果を示し、関節炎誘発動物モデル実験において関節活液の量及び活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質、プロスタグランジンの量を減少させる生化学的効果を示し、骨関節炎誘発動物モデルの組織学的検査において軟骨組織を再生させ活膜細胞の状態を好転させるなどの全般的な関節軟骨再生効果を持っているため、関節軟骨再生剤として卓越した効果を持つことを確認した。これにより、アピゲニン化合物の骨関節炎の予防及び抑制剤のみならず、実質的にアピゲニン化合物の骨関節炎の改善及び治療剤としての新規用途を提供する。
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
骨関節炎(osteoarthritis)は、退行性関節疾患(degenerative joint disease)であって、関節炎の最も古くて最も一般的な類型であり、関節軟骨の破損を特徴とする。骨関節炎は、老化の必然的結果であり、また、肥満が膝関節の骨関節炎を引き起こすこともあると知られており、スポーツ、労働と関連した活動、又は事故により関節損傷を被った場合、骨関節炎の発生危険は増加する。また、膝骨関節炎の場合、片膝に骨関節炎が発生した場合、患者は痛みを回避するために反対側の膝をより多く使用し、その結果多く使用する膝の骨関節炎誘発可能性がさらに高くなる。したがって、両膝骨関節炎の患者において、片脚の骨関節炎の改善は、相対的に反対側の膝に対する負担を減らすことができるため、反対側膝の骨関節炎悪化危険を減らすとともに、既に発生した骨関節炎の緩和にも肯定的な影響を及ぼす波及効果を持つ。
【0018】
骨関節炎は、自己免疫疾患の一種であって、炎症反応により誘発される疾患である関節リウマチとはその病因が異なるため、関節リウマチに効果のある物質が骨関節炎には全く効果がない(Ziolkowska et al., The Journal of Immunology, 164:2832-2838 (2000))、あるいは却って軟骨損傷の病変を悪化させることができる。このような理由により、関節リウマチに効果がある物質であるとして、これから骨関節炎にも効果があると予測することができず、しかも軟骨再生効果に対してはさらにその予測が難しい。
骨関節炎を誘発する軟骨破損過程において、一部炎症が誘発されるおそれがあり、これにより炎症関連酵素の放出を発生させて軟骨の損傷を加速させる。骨関節炎が進行すると、炎症反応と共に活液量が増加することを確認することができる。これは、軟骨が破壊されて活液内にプロテオグリカン(proteoglycan)が放出されるためである。よって、活液内のプロテオグリカンの濃度を減少させることも、骨関節炎の改善に対して重要なマーカーとなる。
【0019】
また、骨関節炎が誘導されると、関節内炎症反応と共に痛みが増加するが、このような痛みは、活液内でこれに関連した重要な因子プロスタグランジンE2の濃度が増加するためである。よって、活液内のプロスタグランジンE2の濃度を減少させることがまた骨関節炎の改善に重要である。
また、骨関節炎の進行に伴い、関節活液の活膜内壁細胞(synovial lining cell)数が増加し、内壁の表面が滑らかでなくて厚くなる現象が起こると知られている(Asari, A. et al., Arch. Histol. Cytol. 61(2):125-35 (1998))。
その他、コラーゲンが関節炎の誘発と関連していると知られており、特にコラーゲンは関節軟骨を構成する物質である。このようなコラーゲンが過量形成されることは、軟骨の効果を促進させ、関節炎の誘発にも関与すると知られている。したがって、正常水準を一層上回る高い水準のコラーゲン数値は、骨関節炎誘発のマーカーとなる。このような増加した水準を減少させることは、骨関節炎改善のマーカーとしても有用である。
【0020】
したがって、このような一連の組織生化学的マーカーが減少することは、骨関節炎の治療に非常に重要な作用であり、損傷した組織を改善させるという間接的な証拠となる。
一般に、炎症部位では、過量のNOが発生して細胞組織の怪死を促進させると知られている(Moncada, S. et al., Pharmacol. Rev. 43:109-142 (1991))。このようなNOを発生させるiNOS(inducible nitric oxide synthase)の活性を抑制しあるいはタンパク質の発現を抑制することは、多くの炎症性疾病において治療の重要な関健となっている。iNOSは、外部刺激に反応して生体を防御する目的で短時間に過量のNOを生成する。ところが、関節炎などの疾患では、過剰分泌されたNOが怪死や痛みなどの2次的な副作用を起こす。したがって、iNOS過剰発現の抑制は、骨関節炎の治療に重要であると知られている。
シクロオキシゲナーゼ2(cyclooxygenase 2:COX-2)は、痛み誘発物質であるプロスタグランジンを合成する酵素である。プロスタグランジン合成は、NO又はその他の刺激により促進される。これにより、COX-2の発現又は活性を抑制することも、骨関節炎の治療に重要なマーカーとなる。
【0021】
また、NFκBタンパク質は、前述したようなiNOS及びCOX-2遺伝子の発現を開始する転写調節信号物質であって、平常の際にはIκBαというタンパク質と結合して細胞質に存在していて、感染などの外部刺激が入ると、IκBαがリン酸化しながら分解されて除去された後、NFκBが核内に入ってiNOSの合成を開始するように誘導する。したがって、細胞質にあるIκBαのリン酸化過程又は分解抑制は、骨関節炎の治療を判断する重要なマーカーとなる。
また、前述したようにNFκBタンパク質は、平常の際に細胞質に存在していて、感染又はその他の外部信号が入ると、核内に入ってタンパク質、例えばiNOS及びCOX-2などの遺伝子発現を開始させる役割を行うため、NFκBが核内に入って当該遺伝子の転写調節部位に結合することを抑制することは、骨関節炎患者における骨関節炎の改善を判断する重要なマーカーとなる。
【0022】
天然植物由来のフラボノイド類は、フェノール系化合物であって、構造によってフラボノール(flavonols)、フラバノン(flavanones)、フラバノール(flavanols)、フラバン(flavans)に大別される。これまで明らかになったところによると、フラボノイドは野菜、果物、茶、漢方薬材などに様々な形で存在しており、抗ウィルス作用(例えば、Kaul, T. N. et al., J. Med. Virol. 15:71-79 (1985))、抗癌作用(例えば、Miller, A. B. et al., Rev. Oncol. 3:87-95 (1990))、抗炎症作用(例えば、Ferrandiz, M. L. et al., J. Natl. Cancer Inst. 85:1038-1049 (1993))、抗酸化作用(例えば、Cao, G. et al., Free Radi. Biol. Med. 22:749-760 (1997))などの人体に対する様々な効果を有するものと公知になっている。
フラボノイドの一種であるアピゲニン(4',5,7-トリヒドロキシフラボン)は、下記化学式の構造を有し、分子量(MW)が270.24であり、パセリ(Parsley)(0.05%以上含有)及びタイム(Thyme)(0.05%以上含有)などを含む多くの植物及び果物類から発見される天然物質であって、抗炎症作用、血管弛緩作用、抗酸化作用、抗ウィルス作用、及び抗癌作用などの様々な生物学的活性を有する物質として知られている。
【0023】
【化1】
【0024】
抗癌作用と関連して、アピゲニンは、例えば約50μM以下程度の非常に低い濃度でも効果的に作用することができ、前立腺癌、乳房癌、肺癌、直腸癌、血液癌(白血病)、皮膚癌、甲状腺癌、肝癌などの各種癌細胞の主要特徴である細胞増殖(proliferation)と新生血管形成(angiogenesis)の過程に対してアポトーシス(apoptosis)及び怪死(necrosis)機序に作用して抗増殖及び細胞毒性(cytotoxicity)効果を誘発し、結果的に癌細胞増殖を抑制するものと知られている。
また、アピゲニンは、癌細胞のみならず、マウスの胚線維芽細胞(murine embryo fibroblasts)などの非腫瘍細胞においても腫瘍抑制タンパク質p53の蓄積やアポトーシス誘導などの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を有するものと知られており、ヒトの正常前立腺上皮細胞においても若干の細胞増殖抑制効果があるものと知られている(Plaumann B. et al., Oncogene 13(8), 1605-14 (1996) and Gupta, S. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 287(4):914-920)。
【0025】
ところが、最近は、肺癌及び直腸癌細胞株に対するアピゲニン適用濃度によって、細胞株を含む試験管内(in vitro)の試験では卓越な効果を発揮するが、生体内(in vivo)では殆ど効果がない場合も報告されている(Engelmann, C. et al., Phytomedicine 9(6):489-495 (2002))。特に、細胞増殖抑制機序に基づいたアピゲニンの効果は、細胞増殖抑制と細胞毒性が共に現れるだけでなく、適用される低い濃度で効果に対する非常に敏感な反応を示すものと確認されている。しかし、これと対照的に、アピゲニンを含んだ様々なフラボノイド類の抗酸化効果に基づいた様々な実験では細胞毒性からの保護又は予防効果があるものと報告された例もある((Wang, C.N. et al., J. Biol. Chem. 276(7):5287-5295 (2001))。
【0026】
現在まで、関節炎におけるアピゲニンと軟骨間の関連性を言及している文献としては、米国特許第5,650,433号及びその相応特許を挙げることができる。前記引用特許は、アピゲニンを含んだフラボノイド化合物及びグリコシド化合物が関節軟骨の破損に対して破損遅延作用をするため、関節症の治療に使用できるという思想を開示している。ところが、このような思想に対する実施例として、軟骨細胞培養物でフラボノイド化合物と共にプロテオグリカン枯渇誘導剤(proteoglycan depleting agent)としてのPMA(phorbol myristate acetate)を処理した後、プロテオグリカン枯渇抑制効果のみを測定することにより、軟骨再生用途ではなく、単にフラボノイド化合物の軟骨保護剤((phorbol myristate acetate)としての用途のみを開示しており、アピゲニンの軟骨再生効果(chondroregenerative effect)を立証してはおらず、また試験管内実験のみによってプロテオグリカンの枯渇程度を測定しただけであり、実質的に生体内実験で軟骨保護効果のみならず軟骨再生効果があるかに対しても具体的に立証していない。しかも、前記引用特許は、関節症(arthropathy)の一種として骨関節炎及び関節リウマチの両方ともを例示しているが、究極的には、関節リウマチにおける前記プロテオグリカンの枯渇抑制による軟骨保護効果についてのみ記述している。
【0027】
これまで、関節軟骨細胞の増殖及び軟骨組織の再生に対するアピゲニンの効果及びこのような効果のための正確な濃度適用については公知になったことがない。
骨関節炎の誘発により損傷した軟骨組織を再生させようとする場合には、前記抗癌作用での細胞増殖抑制及び細胞毒性誘発機序と反対の効果が発揮されなければならないため、試験管内実験において軟骨細胞に及ぼす細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を得るためのアピゲニンの濃度が正確に確認されなければならず、これと共に、生体内実験によって骨関節炎患者に適用される場合、毒性なしに軟骨細胞増殖の活性を発揮するための実質的なアピゲニンの濃度が正確に確認されなければならない。
本発明者らは、アピゲニンの骨関節炎治療剤としての可能性と先行技術の細胞毒性及び細胞増殖抑制という相反する作用との相互連関性を確認するために、まず試験管内で軟骨細胞の増殖に対するアピゲニンの細胞毒性及び細胞増殖抑制効果を確認した。その結果、細胞毒性及び細胞増殖抑制効果は、約10μM以下の非常に低い濃度で1〜2日間培養する場合には殆ど現れず、2日培養の際に約100μM範囲のIC50値を示し、6日培養の際に約30μM程度のIC50値を示した。また、1〜10μMの範囲では、約10〜20%程度の細胞増殖効果が観察された。
【0028】
前記試験管内試験の結果を参照し、本発明者らは、骨関節炎誘発動物モデルでアピゲニンの軟骨細胞増殖効果を測定しようとした。
本発明では、アピゲニンの骨関節炎患者に対する様々な生化学的効果、組織学的効果、並びに軟骨再生及び活膜好転効果を確認するために、骨関節炎誘導動物モデルとしてニュージーランド白ウサギ(New Zealand White Rabbits)を使用した。ニュージーランド白ウサギに前十字靱帯断裂術(anterior cruciate ligament transection:ACLT)を施術した後、閉鎖空間で持続的な運動により実質的な骨関節炎を誘発させた。
骨関節炎誘発ウサギに対して様々な濃度のアピゲニンを注射によって患部に直接投与したところ、約0.1〜100μM、好ましくは1〜80μMの患部投与量で細胞毒性なしに軟骨組織再生効果を発揮するものと確認された。このような濃度範囲は、試験管内毒性実験における結果と同様ではない。よって、試験管内実験のみでは、軟骨再生のためのアピゲニンの有効量を類推することは難しい。本発明の実施例1では、約80μMに該当するアピゲニン溶液(50μLのDMSOにアピゲニン50μgを溶解させた後、450μLの生理食塩水を混合した溶液)を用いて骨関節炎に対するアピゲニン効果実験を行った。
【0029】
具体的に、対照群はPBSで処理し、実験群は前記量のアピゲニンを毎週1回ずつ総4回注射した。関節活液を2週毎に採取し、骨関節炎のマーカーとして活液量の変化を測定した。
また、生化学的実験として、こうして得られた関節活液を用いて、骨関節炎のマーカーとなる、プロテオグリカン含量の変化、総タンパク質量の変化、プロスタグランジン含量の変化、及びコラーゲン含量の変化を測定した。また、関節活液内における炎症反応のマーカーとなる亜酸化窒素(NO)の変化量を測定し、マクロファージ細胞株RAW264.7内におけるLPS誘導酸化窒素の生成に対するアピゲニンの効果を測定することにより、炎症反応に対するアピゲニンの効果を測定した。また、前記マクロファージ細胞株におけるプロスタグランジンの生成に対するアピゲニンの効果を測定した。
また、マクロファージ細胞株におけるiNOS、COX-2及びIκBα遺伝子の発現に対するアピゲニンの効果を測定することにより、アピゲニンの関節炎マーカータンパク質に対する遺伝子水準における調節が可能であるかをまた測定した。その他、NFκBと核内調節遺伝子との結合に対するアピゲニンの抑制効果をさらに測定した。
【0030】
また、組織学的実験として、軟骨組織の構造的変化、細胞数の変化、染色薬を用いた染色による表面染色性分布などの退行性変化を、骨関節炎進行程度の判断基準であるマンキン点数(Mankin, H. J. et al., Orthopedic Clinics of North America, 2:19-30 (1971))によって評価した。本発明では、マンキンの基準に基づいて2名の観察者による目隠しテストを行った。
前述した一連の立証過程により、アピゲニン化合物が、関節軟骨組織及び活液における濃度が0.1μM〜100μMとなるようにする投与量の範囲内において、前述したような関節炎誘発の生化学的マーカーを減少させるときにより優れた生物学的活性を示し、何よりも、軟骨保護のみならず軟骨組織の再生を促進する組織学的効果を持つことを確認した。これにより、本発明の目的であるアピゲニン化合物の軟骨再生効果(chondroregenerative effect)という新規用途、すなわちこれを用いた軟骨再生剤及び骨関節炎治療剤を提供することになった。
【0031】
本発明で使用される用語は、次の意味を持つ。
本発明で使用された用語「薬学的に許容される担体」とは、予測できない毒性、刺激及びアレルギー反応などを誘発せず、医学的にであると判断される範囲内でヒト及び動物の組織と接触させて使用するに適した担体を意味する。薬学的に許容される担体としては、例えばアピゲニン溶解のための少量のDMSOなどの有機溶媒を含有する蒸留水、等張性塩水、リンガー液及び注射用水などを含むことができる。
【0032】
本発明で使用された用語「薬学的に許容される賦形剤」とは、非毒性の不活性固体、半固体又は液体充填剤、希釈剤、カプセル化物質又は任意類型の剤形補助剤を意味する。薬学的に許容される賦形剤としては、例えば、ラクトース、グルコース、スクロース;コーンスターチやポテトスターチなどのスターチ;セルロース及びその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及びセルロースアセテート;トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター;ラッカセイ油、綿実油、紅花油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油などの天然植物性油;グリコール、例えばポリプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;蒸留水;等張性塩水;リンガー液(Ringer's solution);エチルアルコール及びリン酸塩緩衝液を例示することができるが、その他に薬学的剤形に使用できる適合な他の非毒性物質を含むことができる。
【0033】
また、追加の賦形剤としては、湿潤剤、乳化剤及び潤滑剤だけでなく、発色剤、放出剤、被覆剤、甘味剤、香味剤、芳香剤などをさらに含むことができる。
本発明で使用される用語「軟骨再生効果(chondroregenerative effect)」は、細胞毒性又は細胞増殖抑制なしに軟骨細胞の破損を抑制するうえ、軟骨細胞の増殖を促進させる、本発明に係るアピゲニンの効果を意味する。
軟骨の再生において、用語「細胞毒性なしに軟骨細胞の増殖を促進させるのに有効な量のアピゲニン」とは、軟骨細胞の増殖を必要とする患者への投与の際に患者に毒性を誘発せず、損傷した軟骨細胞の増殖を促進させるのに効果的なアピゲニン含量を意味する。一般に、アピゲニン化合物の関節軟骨再生効果を誘導する水準は、約0.1〜約100μM、好ましくは約1〜80μM、より好ましくは約1〜10μMに保つのに十分な量である。
骨関節炎の治療において、「治療学的有効量の軟骨再生用組成物」とは、軟骨組織の再生を必要とする骨関節炎患者への投与の際、損傷した関節軟骨を再生させて骨関節炎を改善させるのに効果的なアピゲニン含量を含有する軟骨再生用組成物を意味する。
【0034】
本発明の組成物又は剤形において、「治療学的有効量」は、医学的許容範囲内で担当医者の判断によって決定でき、特定の患者において特別な治療学的有効量水準は、使用される組成物又は剤形の形態;患者の年齢、体重、健康状態、性別及び摂生;投与期間及び投与経路;治療期間;混用される薬物;及び医学分野に既に公知になっている他の因子を含んだ様々な因子によって左右できる。例えば、1週間隔で1日1回投与するとき、経口投与の場合には一般に10 mg〜1000 mg/日の単位用量で、注射剤の場合には一般に0.1 mg〜10 mg/日の単位用量で、軟膏剤の場合には1 mg〜100 mg/日の単位用量で投与できるが、これらに制限されない。前記投与量は、平均的な場合を例示したものであり、個人的な差異によりその投与量が加減でき、これも本発明の範囲に該当する。
【0035】
本発明の組成物又は剤形は、骨関節炎に罹患し得る人を含んだ全ての動物に投与できる。
本発明の骨関節炎治療剤は、治療学的有効量の本発明の軟骨再生用組成物を含んだ単位用量型で提供される。注射剤の場合、例えば滅菌注射用水性又は油性懸濁剤は、適合な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、当該分野に公知になっている方法によって剤形化することができる。滅菌注射剤は、非毒性の非経口的に許容される担体又は溶媒中の滅菌注射液、懸濁液又はエマルジョンでありうる。使用可能な許容されるビヒクル及び溶媒には、水、リンガー液、等張性塩化ナトリウム水溶液などがある。また、通常、溶媒又は懸濁媒質として用いられる滅菌硬化油などを使用することができる。注射剤は、静脈内、海綿体内、筋肉内皮下及び管内によって注射できる。
非経口的投与のためには、滅菌水溶液の形で使用することが最も好ましい。この際、前記溶液は、血液との等張性を有するために、物質、例えば塩類、又はマンニトールやグルコースなどの糖類の物質を含有することができる。
【0036】
経口投与用固形剤形には、カプセル剤、錠剤、丸薬、散剤及び顆粒剤が含まれる。このような固形の剤形では、活性化合物を、例えばスクロース、ラクトース又は澱粉などの少なくとも一つの不活性希釈剤と混合することができる。また、不活性希釈剤以外に添加物質、例えば潤滑剤、及びステアリン酸マグネシウムや微細結晶性セルロースなどの他の補助剤を含むことができる。カプセル剤、錠剤及び丸薬の場合、剤形は緩衝剤を含むことができる。錠剤及び丸薬は、さらに腸溶被覆剤及び他の放出調節被覆物質を使用することもできる。軟質及び硬質ゼラチンカプセル剤では、充填剤として、ラクトース又は乳糖などの賦形剤及び高分子量ポリエチレングリコールを使用することができる。
錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸薬及び顆粒剤の固形剤形は、被覆及びシェルを用いて製造することができる。
経口投与用液状剤形には、水など、当該分野で通常用いられる不活性希釈剤を含む、薬学的に許容されるエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤が含まれる。このような組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味剤、香味剤及び芳香剤を含むことができる。
【0037】
また、本発明の剤形は、局所又は経皮投与用剤形であって、軟膏剤、ペースト、クリーム、ローション、ゲル又はパッチ(patch)剤に製造できる。経皮パッチの場合には、身体への組成物の伝達量を調節することができるという追加の利点を持つ。このような剤形は、化合物を適切な媒質に溶解又は分散させて製造することができる。皮膚を介しての化合物の吸収を増加させるために、吸収促進剤を使用することができる。経皮投与剤として製造する場合には、ポリアクリル酸ナトリウム、グリセリン、メチルパラベンなどの薬学的に許容可能な湿布剤、又はプロピレングリコール、流動パラフィン及びミリスチン酸イソプロピルなどを含有するプラスター剤形などを製造することができる。
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。ところが、下記実施例は、本発明を説明するために過ぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1:アピゲニンの細胞増殖抑制及び細胞毒性の効果)
アピゲニンは、腫瘍細胞のみならず正常細胞においても細胞増殖抑制及び細胞毒性を有するものと知られているため、本発明の軟骨細胞増殖効果を達成するために、試験管内実験で軟骨細胞に対する細胞毒性を確認した。
本実施例では、アピゲニンが軟骨細胞の増殖抑制及び細胞毒性に及ぼす効果濃度を決定するために、ニュージーランド白ウサギの軟骨組織から分離した軟骨細胞におけるアピゲニンのIC50値を測定した。実験は、コラゲナーゼ処理によってウサギの正常軟骨組織から分離した軟骨細胞を利用し、DMSO中のアピゲニン濃度をそれぞれ1、10、20、30、40、50、100、200μM(DMSO 0.05%以下含有)まで処理し、1日、2日、4日及び6日まで培養した後、細胞の生存率に基づいたMTT方法を適用してIC50値を測定した。
その結果、1次培養したウサギ軟骨細胞におけるアピゲニンの抗増殖効果に対するIC50値は、表1のとおりである。
【0039】
【表1】
【0040】
特に、約10μM以下の非常に低い濃度では、1日及び2日間培養された軟骨細胞から有意な細胞増殖抑制又は細胞毒性を観察することができなかった。却って1μM〜10μMの濃度範囲では、軟骨細胞から約10〜20%程度の細胞増殖効果が観察された。したがって、アピゲニンは、試験管内実験で軟骨細胞の増殖を促進し且つ細胞毒性を最小化しながら、10μM以下の低い濃度でその軟骨再生効果を期待することができるものと確認された。
試験管内実験から確認されたように、アピゲニンを用いた骨関節炎の治療においては、細胞増殖抑制及び細胞毒性を回避することができながら、抗炎症効果及び軟骨組織再生効果を同時に期待するためにはアピゲニンの効果的な濃度決定が重要な要素であることを確認した。
【0041】
(実施例2:実験動物の関節炎誘導)
関節炎の動物モデルを作るために、ニュージーランド白ウサギの両側後脚関節部位に膝前十字靱帯断裂術(ACLT)を施術した。手術をして3日後から4週間5×5 m3の空間で持続的に運動させて骨関節炎を誘導した。骨関節炎誘導ウサギを用いて1週に1回ずつアピゲニン(A3145、Sigma製)50μgを右脚のみに4回(すなわち、4週実施)投与した。アピゲニン注射液は、アピゲニン50μgを、DMSO(dimethylsulfoxide)50μLと生理食塩水450μLとを混ぜた溶液に溶解させて製造した。左脚は、右脚の対照群となり、アピゲニンの効果と比較するためにDMSO 50μL含有生理的緩衝水PBS 450μLを注射した。薬物を2週目と4週目投与してから1週の後、関節活液及び軟骨を採取して実験した。図13は関節炎誘導及び活液採取過程を図式化したものである。下記の実施例3〜10はいずれも、実施例2の骨関節炎誘導ニュージーランド白ウサギの関節組織を用いて実験したものである。
各実験群の関節写真を図1に提示した。図1に示すように、本発明に係る有効量のアピゲニンを投与したウサギでは、外観上、関節軟骨部位の表面が滑らかであるが、生理食塩水対照群では、関節軟骨の損傷により表面が非常に不規則で粗くなったことを確認することができた。また、アピゲニン投与群では、左側軟骨は対照群として処理されたが、右側関節軟骨の状態改善によって左側関節に対する負担が少ないため、左側でもある程度改善の効果があるものと確認された。
【0042】
(実施例3:関節活液の総量の測定)
骨関節炎が進行すると、一般に炎症反応と共に活液の量が増加する傾向を発見することができる。骨関節炎(OA)誘導の前(正常状態)と、骨関節炎誘導後2週目と4週目にアピゲニンを注射してから1週の後に、それぞれ活液を採取して遠心分離させた後、細胞と血球などを除去し、上澄み液のみを集めて実験に使用した。
骨関節炎の程度によって活液の量に変化があると報告されているため、骨関節炎の誘導とその後の薬物治療による活液量の変化を知るために、活液の総量を測定した。活液の量を測定するために、活液のCa2+の濃度をヒ素アゾIII錯化方法(Arsenazo III complexion method)[Michaylova V. et al., Anal. Chim. Acta, 53:194 (1971)]を用いて測定し、活液の総量はドナン平衡方程式(Donnan equilibrium equation)を用いて計算した。使用されたヒ素アゾIII試薬(Arsenazo III reagent;588-3、Sigma製)1 mLと関節活液0.01 mLを混ぜて室温で5分間放置した後、600 nmで吸光度(分光光度計、DU650、Beckman製)を測定した。
本実施例で測定した結果は、表2と図2に提示した。正常群0.25 mLで関節炎を誘導した後、PBS処理群は4週後に1.7 mLに増加したが、アピゲニン処理群は4週後に1.16 mLに増加幅が減少して活液増加を抑制する顕著な効果を示した。また、アピゲニン処理群は、4週目に左脚(−)でも1.58 mLとPBS処理群の1.91 mLに比べて減少する効果を示した。これは、右脚(+)に対する波及効果と判断される。
【0043】
【表2】
【0044】
(実施例4:関節活液のプロテオグリカン量の測定)
実施例3から得た関節活液を使用し、活液内のプロテオグリカンの濃度は、1,9-ジメチルメチレンブルー(1,9-dimethylmethylene blue)分析法で測定した(Houselmann H. J. et al., Am. J. Physiol. 271:C742-752, (1996))。関節活液50μLと1,9-ジメチルメチレンブルー(34,108-8、Aldrich製)250μLとを混ぜた後、530 nmで吸光度(吸光度測定器、Power Wave X340、Bio-Tek製)を測定した。
本実施例で測定した結果は、表3と図3に示した。3.79μg/mLの正常なプロテオグリカン量(骨関節炎誘導の前)から、骨関節炎を誘導してから4週の後、対照群では59.65μg/mLに増加したが、アピゲニン処理群では、活液内の増加したプロテオグリカン含量が12.22μg/mLに急減して最も大きい効果を示した。また、アピゲニン処理群では、PBS対照群に比べて左脚(−)でも全般的に対照群に対して減少効果を示すことを確認した。
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例5:関節活液の総タンパク質(total protein)量の測定)
骨関節炎が進行しながら軟骨が破裂して活液内に総タンパク質が放出されるため、活液内の総タンパク質の濃度を測定した。実施例3で得た関節活液を使用し、活液内の総タンパク質の濃度は、ブラッドフォード(Bradford method)方法で測定した。関節活液50μLとタンパク質分析試薬(500-0006、Bio-rad製)200μLとを混ぜて常温で5分間放置した後、595 nmで吸光度を測定した。
本実施例で測定した結果は、表4と図4に示した。4.27 mg/mLの正常な総タンパク質量(骨関節炎誘導の前)が、骨関節炎を誘導してから4週の後、対照群では39.74 mg/mLに増加したが、アピゲニン処理群では24.91 mg/mLに増加が抑制されて大きい効果を示した。
【0047】
【表4】
【0048】
(実施例6:関節活液のプロスタグランジンE2(prostaglandin E2)(PGE2)量の測定)
実施例3から得た関節活液を使用し、活液内のプロスタグランジンE2(PGE2)の濃度は、酵素免疫分析キット(enzyme immunoassay kit)(EIA、DE0100、R&D systems製)を用いて測定した。1/10に希釈された関節活液100μL、コンジュゲート(conjugate)50μL、抗体50μLを、キットに内蔵されたプレートに仕込み、2時間常温で攪拌させた。反応が終了すると、洗浄用緩衝液(washing buffer)で洗浄し、pNPP溶液200μLを入れて常温で1時間放置した。反応が終わった後、405 nmで吸光度を測定した。
本実施例で測定した結果は、表5と図5に示した。その結果によれば、骨関節炎誘導4週の後、88.05 pg/mLの正常PGE2の量が、PBS対照群では862.72 pg/mLに増加した。これに対し、アピゲニン処理群では、正常PGE2の量が196.71 pg/mLに若干増加しただけであって、PBS処理対照群より非常に大きい抑制効果を示した。また、アピゲニン処理群は、左脚(−)でも753.2 pg/mLのPBS対照群に比べて約509.3 pg/mLの有意なプロスタグランジンE2の抑制効果を示した。
【0049】
【表5】
【0050】
(実施例7:関節活液のコラーゲン量の測定)
活液内のコラーゲンの総量は、シリウスレッド(Sirius red)染色によって測定した(Heide T. R. et al., Histochem. Cell Biol., 112: 271-276 (1999))。活液サンプル100μLを96ウェルに入れて34℃の乾燥オーブンで24時間コートした後、ピクリン酸(picric acid)にシリウスレッド(1 mg/mL、36,554-8、Aldrich製)を溶解させた染色溶液を100μL加えて攪拌器で30分間反応させた後、残った染料を0.01N HCl(H7020、Sigma製)を用いて除去し、0.1N NaOH(S8045、Sigma製)100 mLによく溶出して550 nmの波長で吸光度を測定することにより、コラーゲンの総量を分析した。スタンダード(Standard)は、I型コラーゲン(C1188、Sigma製)をそれぞれ0、100、200、300、400、500μmにして550 nm波長で読み取った吸光度を用いて標準曲線を描いた。このような標準曲線を用いて活液中のコラーゲンを定量した。
本実施例で測定した結果は、表6と図6に示した。骨関節炎誘導4週の後、118.64μg/mLの正常コラーゲンの量が、PBS対照群では1912.54μg/mLまで増加した。これに対し、アピゲニン処理群では、コラーゲン量の増加幅が顕著に減少して406.56μg/mLであって、高い抑制効果を示した。また、アピゲニン処理群は、左脚(−)でも1551μg/ mLのPBS対照群に比べて約1019.2μg/mLの有意な活液内総コラーゲン量の顕著な抑制効果を示した。
【0051】
【表6】
【0052】
(実施例8:関節組織のマンキン点数(Mankin's scoring))
実験対象動物の膝関節の内側部膝蓋骨活膜(medial parapatella synovium)部位から活膜組織を30 nmのサイズに採取し、10%蟻酸(F0507、Sigma製)に24時間以上固定した後、パラフィンブロックを製作して4 mmの薄片にした。この4 mmの薄片をH&E(hematoxylin & eosin)染色した後、光学顕微鏡を用いてマンキン点数を与えた。骨関節炎の進行程度を判断する基準としてはいろいろあるが、主に使う方法としては、マンキン点数という基準がある。この方法は、軟骨組織の構造的変化、細胞数の増加又は減少、サフラニン-O染色による表面の染色性分布、最高点(Tidemark)の連続性に分け、各項目に対して退行性変化を数値化して等級を定めて分析する方法である。マンキン点数は、2名の観察者による目隠しテストによって行い、0点(各項目が全て正常の状態)から退行性進行段階に応じて最大点数14点までに分けて退行性変化指数を算出した。
本実施例で測定した結果は、図7に示した。関節炎誘導の後、対照群の点数は平均12.5であったが、アピゲニン処理群の点数は平均6.6であった。したがって、アピゲニン処理群では、対照群に比べて2倍程度の高い退行性変化指数の改善を確認することができた。
【0053】
(実施例9:関節組織のH&E、サフラニン-O染色結果)
実験対象動物の大腿遠位部を採取して4%ホルマリン(F8775、Sigma製)に24時間以上固定し、観察しようとする面を5 mmの厚さに切片して5%硝酸(25、811-3、Sigma製)で24時間以上脱灰してパラフィブロックに製造し、4μmの薄片を作ってH&E染色と軟骨組織の特異的染色、すなわちサフラニン-O(S2255、Sigma製)染色を行って光学顕微鏡によって軟骨の状態を観察した。
本実施例で測定した結果は、図8A及び図8Bに示した。図8Aはアピゲニン処理群のH&E及びサフラニン-O染色結果を示し、図8Bは生理食塩水処理群の結果を示す。サフラニン-O染色の結果、全体的に骨関節炎の傾向を示したが、アピゲニン処理群が、対照群に比べて可視的に確認可能な程度の少ない軟骨の破裂程度を示し、プロテオグリカンの染色もよくなされるものと確認された。アピゲニン処理群の組織学的検査結果、プロテオグリカンのような軟骨組織特有のECM合成と細胞の模様を可視的に判断する場合にも、欠損した軟骨組織部位が修復されて良い回復結果を示した。
【0054】
(実施例10:活膜細胞の分布及び数の測定結果)
実施例9の実験方法と同様の方法で準備した組織を用いて細胞の数及び表面を調査した。本実施例では、深さを120μmとしてそこに在る細胞の数を測定した。
本実施例で測定した結果は、図9と図10に示した。図9に示すように、アピゲニン処理群の右脚切断面が生理食塩水処理群に比べて滑らかな断面を示していることを確認することができた。また、図10に示すように、骨関節炎誘導の後、対照群では活膜細胞の数が632.3個であったが、アピゲニン処理群は、活膜細胞の数が406.6個であって、大きい効果を示した。これは、アピゲニン処理群において活膜細胞数の増加が約34.5%程度減少した効果を示す。
【0055】
(実施例11:関節活液の一酸化窒素(NO)量の測定)
関節活液においてNOの量を測定するために、化学的にNOが最も安定的な形である亜硝酸塩(nitrite)に還元させてグリース(Griess)反応によって測定した。関節活液とグリース試薬(Griess reagent)を1:1(100μL:100μL)の割合で混合し、常温で10分間放置した後、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)によって波長540 nmで吸光度を測定した。グリース試薬は、スルファニルアミド(S9251、Sigma製)0.1 g、リン酸(P6560、Sigma製)0.5 mL、N-ナフチル-ジアミン-H-クロライド(102397、ICN製)0.01 gを最終体積が10 mLとなるように蒸留水で溶解させて作った。亜硝酸塩の定量曲線は、亜硝酸ナトリウム(S2252、Sigma製)を用いて作成した。
本実施例で測定した結果は、表7に示した。骨関節炎誘導の後、4.48μMの正常亜硝酸塩の量が、対照群では12.1 Mに増加したが、アピゲニン処理では6.01μMと若干増加した。この結果は、アピゲニンが良い抗炎症効果を持つことを示す。
【0056】
【表7】
【0057】
(実施例12:アピゲニンがマクロファージ細胞の一酸化窒素(NO)生成抑制に及ぼす影響)
マウス由来のマクロファージ細胞株RAW264.7(KCLB 40071)を韓国細胞株銀行から購入して使用し、10%の牛血清(fetal bovine serum)(26140-079、Gibco製)、100 U/mLフェニシリン、及び100μg/mLストレプトマイシン(15140-122、Gibco)を含んだDMEM(dulbecco's modified eagle medium)(12800-017、Gibco製)培地を含んだ直径60 mmの細胞培養皿に3×106個の細胞を接種し、24時間37℃、5% CO2、湿潤条件の下で培養した。RAW264.7細胞で一酸化窒素を誘導するために、大腸菌の細胞壁構成成分であるリポ多糖類(lipopolysaccharide、「LPS」と略する。L2654、Sigma製)を500 ng/mLの濃度で投与し、対照群には溶媒DMSOのみを処理し、実験群にはアピゲニンを10、20、40、80μMの濃度となるように投与した後、16時間培養した。この際、LPSは蒸留水に溶解させ、アピゲニンはDMSOに溶解させた。その後、培地とグリース試薬を1:1(100 mL:100 mL)の割合で混合し、常温で10分間放置した後、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)によって波長540 nmにおける吸光度を測定した。
本実施例の結果は、表8にまとめた。無処理群が2μMの一酸化窒素を生成する反面、LPSのみを処理した場合、40μMの一酸化窒素が発生し、アピゲニンの濃度に応じて最大9μMまで減少して、試験管内でもアピゲニンは優れた抗炎症効果を示した。
【0058】
【表8】
【0059】
(実施例13:アピゲニンがマクロファージ細胞のプロスタグランジンE2(PGE2)生成抑制に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。PGE2の測定のためにR&D systems社のPGE2免疫分析シート(DE100)を使用した。反応終了の後、培地100μL、コンジュゲート50μL、抗体50μLをキットに入れて2時間反応させた後、発色試薬pNPP200μLを入れて1時間反応させた。反応が終了すると、吸光度測定器(Power Wave X340、Bio-Tek製)を用いて波長405 nmにおける吸光度を測定した。
本実施例の結果は、表9に示した。無処理群が71 pg/mLのプロスタグランジンを生成する反面、LPSのみを処理する場合、4156 pg/mLのプロスタグランジンが発生し、アピゲニン処理群ではアピゲニンの濃度に応じて300 pg/mLまで減少した。
【0060】
【表9】
【0061】
(実施例14:アピゲニンがマクロファージ細胞のiNOS、COX-2、IκBαの発現に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。アピゲニンがマクロファージ細胞のiNOS、COX-2、IκBαタンパク質の発現に及ぼす影響を調査するために、ウェスタンブロット(Western blot)で確認した。但し、IκBαタンパク質発現を観察するときは、LPSを処理し、2時間のみ反応させた。培地を除去し、抽出緩衝溶液(0.32 Mスクロース(S0389、Sigma製)、0.2 M Hepes(H3375、Sigma製)、1 mM EDTA(808288、BM製)、1 mM PMSF(P7626、Sigma製)、10μg/mLアプロチニン(A1153、Sigma製)、10μg/mLロイペプチン(L0649、Sigma製)、10μg/mL SBTI(T9128、Sigma製)で細胞を分離し、タンパク質を定量した後、40 mgのタンパク質をSDS(Sodium dodecyl sulfate)8〜16%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(EC60452、NOVEX製)を行った。電気泳動済みのタンパク質をPVDF(polyvinylidene difluoride)(IPVH00010、Millipore製)膜に移して5% NFDM(mpm fat dry milk)溶液と反応させ、1次抗体、2次抗体を順次反応させた後、ECL(enhanced chemiluminescence)(RPN2106、Amersham製)試薬で発色させてX線フィルム(AGFA製)に露出させた。1次抗体としてはiNOS(N32020、Transduction製)0.13μg/mL、COX-2(sc-1745、Santacruz製)2μg/mL、β-アクチン(A5441、Sigma製)1μg/mL、IκBα(sc-371、Santacruz製)0.4μg/mLを使用し、iNOS、β-アクチンに対する2次抗体としては抗-マウスIgG-HRP(sc-2005、Santacruz製)80 ng/mLを使用し、COX-2、IκBαに対する2次抗体としては抗-ウサギIgG-HRP(sc-2004、Santacruz製)80 ng/mLを使用した。
【0062】
本実施例の結果は、図11に示した。外部刺激のない正常状態ではiNOSの発現は全く観察されなかったが、LPSを処理すると100%まで増加し、アピゲニンを処理するとさらに0%水準まで抑制されて非常に良い結果を示した。外部刺激のない正常状態ではCOX-2の発現が全く観察されなかったが、LPSを処理すると100%まで増加し、アピゲニンを処理すると0%水準まで抑制されて非常に良い効果を示した。
外部刺激のない正常状態におけるIκBαの発現量を100%としたとき、LPSを処理すると、18.56%まで減少し、アピゲニンを10μM程度のみ処理すると、75.82%水準まで回復する良い結果を示した。
【0063】
(実施例15:アピゲニンがマクロファージ細胞のNFκBと遺伝子間の結合に及ぼす影響)
RAW264.7細胞の実験条件は、実施例12と同様である。但し、反応時間は、16時間ではなく、2時間であった。アピゲニンがマクロファージ細胞のNFκBと遺伝子間の結合に及ぼす影響を調べるために、EMSA(electrophoretic mobility shift assay)を行った。培地を除去し、細胞を分離して緩衝溶液A(10 mM Hepes(H3375、Sigma製)pH 7.9、10 mM KCl(P9541、Sigma製)、1.5 mM MgCl2(M2393、Sigma製)、0.5 mMジチオスレイトール(D0632、Sigma製)、0.2 mM PMSF(P7626、Sigma製)、0.5% Nonidet P-40(N3268、Sigma製)で溶解させて細胞膜を破壊した後、5000 rpmで15分間遠心分離して沈殿物を得た。沈殿物に緩衝溶液B(20 mM Hepes(H3375、Sigma製)pH 7.9、300 mM KCl(P9541、Sigma製)、1.5 mM MgCl2(M2393、Sigma製)、10%グリセロール(G7757、Sigma製)、0.5 mMジチオスレイトール(D0632、Sigma製)、0.2 mM EDTA(808288、BM製)、0.2 mM PMSF(P7626、Sigma製))を入れて核膜を破壊した後、13000 rpmで30分間遠心分離して核内タンパク質のみを分離した。予め合成しておいたNFκB結合核酸オリゴマー(nucleic acid oligomer)(5’-AGT TGA GGG GAC TTT CCC AGG C-3’、GenoTech製)に放射性同位元素「γ-32P」ATP(PB10218、Amersham製)を結合させて標識を作り、この核酸オリゴマー0.5 ngと核内タンパク質10 mgとを反応させた。反応完了の後、結合有無を確認するために、6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を施した後、ゲルを乾燥させてX線フィルムに露出させた。
【0064】
本実施例の結果は、図12に示した。正常のときのNFκBの量を100としたとき、LPS処理すると、186まで増加するが、アピゲニンを共に処理すると、最大111(20μMアピゲニン処理のとき)と低くなる効果が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述したように、本発明は、軟骨破損のマーカーとなる、関節活液の総量と活液のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、活膜細胞の状態を好転させる効果、及び軟骨組織を再生させる効果を有する、アピゲニンの関節軟骨再生剤としての新規用途を提供する。また、本発明は、関節軟骨再生剤として単一化合物アピゲニンを含む骨関節炎治療剤、及びこの治療剤を用いた骨関節炎治療方法を提供する。
(図面の簡単な説明)
本発明の前記及び他の目的、特徴及び他の利点は添付図面を参照する以降の詳細な説明からより明らかに理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は生理食塩水処理対照群(A)、及び本発明に係るアピゲニン処理実験群(B)における骨関節炎誘発ウサギモデルの軟骨部位を示す写真である。
【図2】図2は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液の総量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液の総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液の総量を意味し、プラス(+)はアピゲニン又は生理食塩水が処理された右脚に対する結果を示し、マイナス(−)は無処理左脚に対する結果を示す。
【図3】図3は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液内のプロテオグリカンの総量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のプロテオグリカンの総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内のプロテオグリカンの総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図4】図4は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、本発明に係るアピゲニン投与による関節活液内の総タンパク質量の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内の総タンパク質量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内の総タンパク質量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図5】図5は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による関節活液内のプロスタグランジンE2(PGE2)の変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のPGE2の総量を意味し、「OA」は関節炎誘発直後の関節活液内のPGE2の総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【0067】
【図6】図6は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による骨関節活液内コラーゲンの変化を示すグラフであり、この際、「正常」は正常ウサギにおける関節活液内のコラーゲンの総量を意味し、「OA」は骨関節炎誘発直後の関節活液内のコラーゲンの総量を意味し、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図7】図7は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与によるマンキン点数(Mankin's scoring)の変化を示すグラフであり、この際、(+)及び(−)は図2でと同様である。
【図8】図8A及び図8Bは骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与(図8A)及び生理食塩水投与(図8B)による関節の軟骨組織部位の染色写真であり、この際、「H&E」はヘマトキシリン及びエオシン染色処理群を意味し、「Saf-O」はサフラニン-O染色処理群を意味する。
【図9】図9は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与(A)及び生理食塩水投与(B)による関節活膜(synovium membrane)の状態を示す染色写真である。
【図10】図10は骨関節炎誘発ウサギモデルに対する、アピゲニン投与による関節の活膜内壁細胞数の変化を示すグラフである。
【0068】
【図11】図11はマウス由来マクロファージ細胞株RAW264.7において、LPSによる炎症誘発の際に本発明に係るアピゲニン投与によるiNOS、COX-2、及びIκBαの発現変化を示すウェスタンブロット写真であり、この際、β-アクチンは、実験に使用されたタンパク質の量を確認するためのマーカーとして用いられる。
【図12】図12はマウス由来マクロファージ細胞株RAW264.7において、本発明に係るアピゲニン投与による転写調節因子NFκBタンパク質と調節遺伝子との結合程度の変化を示すEMSA(Electrophoretic mobility shift assay)写真である。
【図13】図13は関節炎誘導及び活液採取過程を経時的に示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軟骨組織及び活液における濃度が1〜80μMとなるようにする有効量のアピゲニンと、薬学的に許容される担体とを含有する、軟骨再生用組成物。
【請求項2】
関節活液の量と活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、及び活膜細胞の状態を好転させる効果を備える、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の軟骨再生組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、軟骨再生用骨関節炎治療剤。
【請求項4】
液剤、カプセル剤、錠剤又は丸薬などの経口投与剤;軟膏剤又は経皮投与剤などの局所適用剤;又は注射剤の形である、請求項3に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項5】
有効量が1日当たり10 mg〜1000 mgのアピゲニンを含有する経口投与剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項6】
有効量が1日当たり1 mg〜100 mgのアピゲニンを含有する軟膏剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項7】
有効量が1日当たり0.1 mg〜10 mgのアピゲニンを含有する注射剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項8】
請求項1に記載の軟骨再生用組成物と薬学的に許容される賦形剤とを含む骨関節炎治療剤を骨関節炎患者に投与し、関節軟骨を再生させて骨関節炎を治療する方法。
【請求項1】
関節軟骨組織及び活液における濃度が1〜80μMとなるようにする有効量のアピゲニンと、薬学的に許容される担体とを含有する、軟骨再生用組成物。
【請求項2】
関節活液の量と活液内のプロテオグリカン、全体タンパク質及びプロスタグランジンの量とを減少させる効果、及び活膜細胞の状態を好転させる効果を備える、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の軟骨再生組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、軟骨再生用骨関節炎治療剤。
【請求項4】
液剤、カプセル剤、錠剤又は丸薬などの経口投与剤;軟膏剤又は経皮投与剤などの局所適用剤;又は注射剤の形である、請求項3に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項5】
有効量が1日当たり10 mg〜1000 mgのアピゲニンを含有する経口投与剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項6】
有効量が1日当たり1 mg〜100 mgのアピゲニンを含有する軟膏剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項7】
有効量が1日当たり0.1 mg〜10 mgのアピゲニンを含有する注射剤である、請求項4に記載の骨関節炎治療剤。
【請求項8】
請求項1に記載の軟骨再生用組成物と薬学的に許容される賦形剤とを含む骨関節炎治療剤を骨関節炎患者に投与し、関節軟骨を再生させて骨関節炎を治療する方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図1】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図1】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−508371(P2007−508371A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535271(P2006−535271)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002653
【国際公開番号】WO2005/034937
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506122420)ケイエムエスアイ コーポレーション リミテッド (1)
【出願人】(506122453)
【出願人】(506122442)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002653
【国際公開番号】WO2005/034937
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506122420)ケイエムエスアイ コーポレーション リミテッド (1)
【出願人】(506122453)
【出願人】(506122442)
【Fターム(参考)】
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