説明

軟骨分化促進作用

【課題】関節破壊を抑制したり、変形性関節症などの骨・関節の病気あるいは疾患に対して有効な働きを有する薬剤を開発する。
【解決手段】ガレクチン-9、特には安定化ガレクチン-9、並びにガレクチン9誘導因子は、軟骨分化促進作用、軟骨破壊抑制作用、あるいは損傷軟骨の機能維持・回復作用を示し、変形性関節症などの骨・関節の病気あるいは疾患の治療・予防剤並びに治療・予防法への利用が期待できる。ガレクチン-9、特には安定化ガレクチン-9、並びにガレクチン9誘導因子は、関節内環境で同化作用を持つTGF-βなどと一緒になって働くことが観察されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレクチン9及びその改変体(安定化ガレクチン9)並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分とする軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、損傷軟骨の機能維持・回復剤並びに該軟骨分化促進作用、軟骨破壊抑制作用、あるいは損傷軟骨の機能維持・回復作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにその活性利用の治療及び/又は予防法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔関節疾患における軟骨破壊の機序〕
関節軟骨は豊富なコラーゲン繊維等の軟骨特異的細胞外基質を含み、運動機能を支持する重要な組織であるが、慢性関節リウマチ(RA)や変形性関節症(OA)を代表とした関節疾患においては、滑膜細胞や軟骨細胞による関節軟骨破壊がみられ、軟骨下の骨組織では破骨細胞による骨破壊が進行する。
【0003】
関節軟骨においては、軟骨細胞外マトリックス(アグリカンやコラーゲンなど)分解亢進がその破壊に必須のプロセスであり、軟骨プロテオグリカン(アグリカン)の分解と引き続き生じるコラーゲン線維の分解により特徴的な破壊像を呈する。なかでもマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は幅広い基質特異性を有するため、RAにおける軟骨破壊の中心とされているが、最近ではアグリカナーゼ、ADAMTS (A Disintegrin And Meta11oproteinase with Thrombospondin Motifs) 分子の役割も注目されている。
これらのプロテアーゼは滑膜細胞や関節液中の炎症細胞から産生され軟骨に作用する経路が主体であり、RA関節液中では複数のプロテアーゼが変形性関節症(OA)に比較して高濃度に検出される。一方、RA軟骨細胞自身からのプロテアーゼ発現も確認されており、本症における軟骨破壊において一定の役割を果たしている。このプロテアーゼによるマトリックス破壊のほかに、一酸化窒素(NO)による細胞障害、とくにアポトーシスもRAの軟骨破壊の一機序と考えられる。(非特許文献1及び2)。
【0004】
変形性関節症(OA)では関節軟骨の物理的損傷による細胞外基質(ECM)の減少と、それを産生する軟骨細胞の代謝異常、あるいは軟骨細胞のアポトーシス所見が認められる(上記照)。現在のOA治療は、軟骨構成物質等の補助食品や抗炎症薬といった一時的な対症療法、あるいは重症の場合において外科的治療に頼らざるを得ない状況である。一方、近年軟骨組織内の代謝異常の是正を創薬ターゲットとした、根本的治療に繋がる基礎データが多数報告されてきた。
通常、関節内環境では同化作用を持つTGF betaやIGFシグナルと異化作用を持つIL-1, TNF alfaなどがバランスを保ち機能していると考えられているが、OA関節内ではIL-1など、異化作用を有する炎症性サイトカインの産生亢進が顕著に認められ(非特許文献3)、またOA関節局所ではapoptosis誘導作用を持つiNOの高い産生も認められる(非特許文献4)。これらの因子を抑制し、病態進行を早期に今後のOA治療に重要と考えられる。
【0005】
〔プロテオグリカン〕
プロテオグリカンとは、グリコサミノグリカン(GAG)が共有結合した分子の総称である。骨格構造により、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸に分類される。
プロテオグリカンは、硫酸化グリコサミノグリカン部分及びコアタンパク部分を介して多様な分子群を結集し、組織構築に寄与すると共に、細胞外の様々なシグナル伝達因子の受容環境を設定する。すなわち、プロテオグリカンは細胞外マトリクスとしての組織構築のみならず、シグナル伝達の重要なfactorとしても機能する。
プロテオグリカンのもっとも代表的なものは、コンドロイチン硫酸を含むアグリカンと呼ばれる関節軟骨に存在する巨大分子であり、動物体内に存在するプロテオグリカンの大半を占める。アグリカンのコアタンパクはそのアミノ末端付近にグリコサミノグリカンの一種であるヒアルロナン(ヒアルロン酸)に特異的に結合するドメイン(ヒアルロナン結合部位)を持ち、もう一つのタンパク(リンクタンパク)とともに軟骨組織中で巨大な会合体を形成し軟骨の重要な機能である圧縮的衝撃力の吸収作用のもととなる。
変形性関節症の治療応用(例、グルコサミン塩酸塩、硫酸塩)としても使用されている。
【0006】
〔ガレクチン9〕
ガレクチンはβ-ガラクトシドに親和性を持ち、一次配列上に保存された領域を持つレクチンファミリーである。現在までに、10種類以上の哺乳類ガレクチンが発見され、細胞-細胞接着又は細胞-細胞外基質接着、細胞活性化、細胞増殖、アポトーシスなど多彩な生物活性が報告されている。
本発明者等のグループはヒトT細胞由来好酸球遊走因子のクローニングに成功し、それによりそれが Tureci 等が報告したヒトガレクチン9 (human galectin 9: hGal9、非特許文献5)のバリアント、エカレクチンであることを見出した(非特許文献6)。さらに、本発明者等のグループはエカレクチンとGal9は同一の物質であることを明らかにし、ヒトのGal9はそのリンクペプチドの長さの違いにより、ショートタイプ、メディアムタイプ、ロングタイプの3 種類があることをも明らかにした(非特許文献7)。Gal9含有医薬が、抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、自己免疫疾患用剤、抗炎症剤及び副腎皮質ステロイドホルモン代替用剤として有望であることは、WO 2004/064857 (2004.08.05) 〔特許文献1〕に開示してある。Gal9は、活性化T細胞にアポトーシスを誘導することも報告されている。さらに、安定化Gal9(Gal9改変体)及びその用途についてWO 2005/093064 (2005.10.06)〔特許文献2〕に開示を行っている。
【0007】
【特許文献1】WO 2004/064857 (2004.08.05)
【特許文献2】WO 2005/093064 (2005.10.06)
【非特許文献1】CLINICAL CALCIUM 2003年06月号 (Vol.13 No.06) p24(702)〜p30(708) 「特 集 炎症を伴う骨の疾患」 Review 関節リウマチにおける軟骨破壊の機序・山田治基(Harumoto Yamada, 藤田保健衛生大学整形外科 教授)、吉原愛雄(Yasuo Yoshihara, 防衛医科大学校整形外科 講師)
【非特許文献2】慶應義塾大学医学部病理 岡田保典(Yasunori Okada), Proteinases in joint destruction, Department of Patho1ogy, School of Medicine, Keio University 「関節破壊とプロテアーゼ:総論」
【非特許文献3】"Pathophysiological Mechanisms in Osteoarthritis lead to Novel Therapeutic Strategies", Cells Tissues Organs: Vol. 174, No. 1-2, 2003
【非特許文献4】"Hsp70 prevents Nitric oxide-induced apoptosis in articular chondrocytes", ARTHRITIS & RHEUMATISM; Vol. 48, No.6, June 2003, pp 1562-1568
【非特許文献5】Tureci O. et al., J Biol Chem., 1997, 272(10):6416-22
【非特許文献6】Matsumoto R. et al., J Biol Chem., 1998, 273:16976-84
【非特許文献7】Matsushita N. et al., J Biol Chem., 2000, 275:8355-60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
関節疾患では、軟骨破壊が観察され、その破壊の抑制が病状の進行抑制や回復に重要と考えられており、そうした機能を有する活性物質の探索が求められている。また、変形性関節症治療の分野では、軟骨構成物質等の補助食品や抗炎症薬といった一時的な対症療法、あるいは重症の場合において外科的治療に頼らざるを得ない状況であるが、近年の軟骨組織内の代謝異常の是正を創薬ターゲットとした研究の成果により、軟骨分化促進作用を有する物質などを探索する試みが求められている。
生体内の生理活性物質は、これまで多く見出されているが、それらの多くのものは、例えば腫瘍細胞などに作用すると同様に、正常な細胞にも作用することから、必ずしもその一部の活性が解明されたからといって、それを医薬などへの利用が簡単にはかれるものではない。ガレクチン9はその局在によって機能が異なっている一方で、様々な生体機能への関与が予測される。ガレクチン9の詳しい生物活性を解明すること、そしてその解明に基づいた医薬品の開発を初めとしたガレクチン9の関連技術開発が求められている。
本発明は、骨や関節の疾患に関わる因子を制御することあるいは軟骨分化促進作用を発揮する活性剤、該軟骨分化促進作用を利用して骨や関節の病気又は疾患の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法、さらには軟骨破壊現象、軟骨分化、損傷軟骨の機能回復反応など骨や関節に関連する疾患を治療及び/又は予防するための薬剤並びに治療及び/又は予防法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))が、軟骨破壊抑制作用、軟骨分化促進作用を示すことを見出すことに成功した。すなわち、ガレクチン9は、軟骨分化促進因子として有用であることが認められ、さらに当該Gal9 (特には安定化ガレクチン9)は軟骨破壊抑制作用も示すことが確認された。さらに、それらは、TGF-β3などのTGF-βと関連して発揮されることも見出すことに成功した。したがって、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))により、軟骨破壊を抑制したり、軟骨分化促進したりすることが可能であり、損傷軟骨の機能維持・回復を図ることも期待できる。かくして、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))の示す、軟骨分化促進作用、軟骨破壊抑制作用により、変形性関節症(OA)といった骨や関節の病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにその活性利用の治療及び/又は予防法を提供できる可能性をあたえるものである。
【0010】
本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有することを特徴とする軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復剤。
〔2〕ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有することを特徴とする軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復剤。
〔3〕軟骨細胞、特には未分化軟骨細胞を、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものに接触せしめて分化を促進せしめることを特徴とする軟骨細胞処理法。
〔4〕軟骨細胞、特には未分化軟骨細胞に、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を遺伝子導入せしめることを特徴とする軟骨細胞分化促進法。
〔5〕ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有することを特徴とする骨・関節疾患の治療及び/又は予防剤。
〔6〕ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有することを特徴とする骨・関節疾患の治療及び/又は予防剤。
〔7〕機能低下又は不全の軟骨組織又は細胞を、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものに接触せしめて軟骨破壊を抑制せしめることを特徴とする軟骨破壊抑制法。
〔8〕機能低下又は不全の軟骨組織又は細胞に、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を遺伝子導入せしめることを特徴とする軟骨破壊抑制法。
〔9〕TGF-β3などのTGF-βファミリーあるいはそれをコードする核酸の存在下であることを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一記載の剤又は方法。
〔10〕ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有することを特徴とする変形性関節症の治療及び/又は予防剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明で、軟骨破壊、軟骨分化などを制御する技術、特には軟骨破壊抑制作用、軟骨分化促進作用、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復作用を利用する技術が、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを使用することで可能となった。かくして、軟骨分化制御技術が提供され、軟骨破壊及び/又は軟骨組織の代謝異常などが一因である疾患の治療及び/又は予防技術が開発できる。軟骨の分化、軟骨破壊を、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたもので制御することにより(例えば、軟骨分化の促進あるいは増強をすること及び/又は軟骨破壊を抑制あるいは阻害することにより)、当該骨及び/又は関節の病気又は疾患を効果的に治療及び/又は予防し得る薬剤を提供できるし、その治療法の開発が可能となる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき説明するに、本発明のガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものの軟骨破壊抑制因子、軟骨分化促進因子、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復因子としての機能を利用した軟骨破壊抑制剤、軟骨分化促進剤、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復剤(変形性関節症治療剤を包含する)、並びに該軟骨分化促進作用、軟骨破壊抑制作用、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びに軟骨細胞の機能不全に起因した病的症状及び/又は疾患(異常)の治療剤及び/又は予防剤で、有効成分として含有するガレクチン9 (galectin 9: Gal9)とは、例えば、Gal9産生能を有するヒトの白血球や培養株化細胞から産生される天然型ガレクチン9 (native Gal9 or naturally-occurring Gal9)、及び、前記白血球や特定の培養株化細胞由来のGal9をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により動物細胞や大腸菌などの微生物に組み込んで得られる組換え型ガレクチン9 (recombinant galectin 9: rGal9)などを意味し、その何れも有利に用いることができる。本発明に於いては、高度に精製した高純度Gal9は言うに及ばず、所期の目的を達成し得る限り、医薬として許容し得る程度の不純物を含む粗な状態のGal9も好適に使用できる。又、本発明の薬剤は非経口的又は経口的に投与されてよく、比較的高純度のものが好ましい筋肉内注射や静脈内注射ばかりでなく、必ずしも最高純度の高純度Gal9を用いる必要性のない、比較的低純度のGal9であっても不都合なく使用することができる経口であることも好ましい。このようなGal9を用いる場合には、より低コストで本発明の薬剤を製造できることとなる。また、当該Gal9として、2種以上のガレクチン 9混合物を用いることも可能である。尚、当該Gal9は、抗原性の面から見て、ヒトGal9 (hGal9)が有利に使用できる。
【0013】
本明細書中、「ガレクチン9」(galectin 9: Gal9)としては典型的には天然型Gal9が挙げられる。天然型Gal9としては、現在、ロングタイプ(L 型)ガレクチン9(galectin 9 long isoform or long type galectin 9: Gal9L)、ミディアムタイプ(M 型)ガレクチン9(galectin 9 medium isoform or medium type galectin 9: Gal9M)及びショートタイプ(S 型)ガレクチン9(galectin 9 short isoform or short type galectin 9: Gal9S)が報告されているが、Gal9LはWO 02/37114 A1に開示の配列番号4 の推定リンクペプチド領域によりN端ドメイン(N末端側糖鎖認識部位、N-terminal carbohydrate recognition domain: NCRD)とC端ドメイン(C末端側糖鎖認識部位、C-terminal carbohydrate recognition domain: CCRD)とが連結されたもの、Gal9Mは該WO 02/37114 A1の配列番号5の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたもの、そしてGal9Sは該WO 02/37114 A1の配列番号6 の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたものであると考えられており、Gal9MではGal9Lの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号7の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Lと異なること、そしてGal9SではGal9Mの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号8の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Mと異なること、すなわちGal9SではGal9L推定リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号9 のアミノ酸残基が欠失している点でL 型ガレクチン9と異なる。ところで、Gal9Lのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号1に、Gal9Mのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号2に、そしてGal9Sのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号3に、それぞれその典型的な配列のものが示されている。
【0014】
本明細書において、ガレクチン9としては、上記Gal9L、Gal9M及びGal9S、その他、それらガレクチン9ファミリーの天然に生ずる変異体、さらにそれらに人工的な変異(すなわち、一個以上のアミノ酸残基において、欠失、付加、修飾、挿入など)を施したものあるいはそれらの一部のドメインや一部のペプチドフラグメントを含むものを意味してよい。WO 2004/064857 (2004.08.05)、J. Biol. Chem., 275 (12): pp. 8355-8360 (2000)に開示のものはすべて含まれてよい。例えば、GST、FLAG (registered trademark, Sigma-Aldrich)、ポリヒスチジンなどのタグ、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced-humanized GFP), rsGFP (red-shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などとの融合rGal9などが含まれてよく、例えば、poly-His-hGal9などが挙げられる。当該ガレクチン9には、天然のガレクチン9バリアント、さらにWO 2005/093064 (2005.10.06)に開示の「ガレクチン9改変体」、「ガレクチン9改変体ポリペプチド」、さらには「ガレクチン9改変体治療剤」はすべて含まれてよい。特に好ましいものとしては、WO 2005/093064 (2005.10.06)の実施例1で製造取得されているG9NC(null)〔WO 2005/093064 (2005.10.06)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕が挙げられる。「ガレクチン9改変体」又は「ガレクチン9改変体ポリペプチド」のうちには、天然型ガレクチン9に比して、より安定化された性状を示すものが得られることが認識されており、そうしたものは本明細書において、「安定化ガレクチン9」と称されてもいる。該安定化ガレクチン9の代表的なものとしては、上記したG9NC(null)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、同様な性状を示すものはそれに含まれてよい。
本発明の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法は、WO 2004/064857 (2004.08.05)や、WO 2005/093064 (2005.10.06)の開示に準じてそれを実施でき、それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる。
【0015】
本明細書において、ガレクチン-9誘導因子は、ガレクチン-9の発現を誘導する活性を有することによって特徴付けられる。該因子は、その存在あるいはその発現により、有意にガレクチン-9の発現を誘導することによって特徴付けられ、例えば、国際公開第2004/096852号パンフレット(2004)〔WO2004/096851, A1 (2004)〕、特願2004-312771(出願日: 平成16年10月27日)やPCT/JP2005/021942(出願日: 平成17年11月22日)に開示のものが挙げられる(それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる)。
代表的なガレクチン-9誘導因子として、放射線処理されたB細胞リンパ腫由来細胞株、例えば、BALL-1細胞より得られるもの、例えば、分離精製処理された画分など、その構成タンパク質などが挙げられる。該ガレクチン-9誘導因子を含むものとしては、B細胞株由来の細胞膜可溶化分画(membrane fraction: mf、例えば、human acute lymphoblastoid leukemia (ALL) から樹立されたhuman cell line: BALL-1 などのmf (BALL-1 mf))、そのコンカナバリンA吸着分画に溶出されるmf、Resource QTMイオン交換カラムから溶出されるmf、ハイドロキシアパタイトカラムから溶出される分画などが挙げられる。該ガレクチン-9誘導因子は、その有する生物活性、例えばガレクチン-9誘導活性をインビトロあるいはインビボにて検知・測定することにより、確認することが可能である。例えば、インビトロでのガレクチン-9誘導活性は、上記したようなGal-9産生・遊離細胞をmfで刺激した後、RT-PCR、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法、免疫組織染色法、ELISA 法、ELISPOT 法、RIA 法などにより、Gal-9 mRNAやGal-9 タンパク質を定量的あるいは定性的に解析して測定される。当該細胞の細胞培養液を使用し、RT-PCR、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法、免疫組織染色法、ELISA 法、ELISPOT 法、RIA 法などにより、Gal-9 タンパク質を定量的あるいは定性的に解析して測定することもできる。また、インビボにおけるガレクチン-9誘導活性は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、サルなどの動物に、mfを投与した後、ガレクチン-9産生細胞の浸潤やGal-9遊離の増強を指標に測定できる。また、腫瘍細胞におけるGal-9 の直接的ないし間接的な増強を指標にそれを測定することもできる。該動物としては、代表的には実験動物が挙げられ、投与法としては、皮内、皮下、筋肉内、静脈又は動脈、腹腔内注射したり、飲食させるなどが挙げられる。ヒト由来のガレクチン-9誘導因子にはタンパク質80K-H、GRP94、GRP78、GRP58、及びS100 calcium-binding protein、並びにそれらの分解物から成る群から選ばれたものが含まれてよい。
本発明の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法は、WO 2004/064857 (2004.08.05)、WO2005/093064, A1 (2005)、WO2004/096851, A1 (2004)、特願2004-312771(出願日: 平成16年10月27日)やPCT/JP2005/021942(出願日: 平成17年11月22日)の開示に準じてそれを実施でき、それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる。
本明細書に記載の発明は、これまでに公表された研究および特許出願、例えば、WO 2004/064857 (2004.08.05)、WO2005/093064, A1 (2005)、WO2004/096851, A1 (2004)、特願2004-312771(出願日: 平成16年10月27日)やPCT/JP2005/021942(出願日: 平成17年11月22日)を参考にしており、その内容は本明細書の開示の中に含められる。
【0016】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸(ポリヌクレオチド)や所定のペプチド(ポリペプチド)を構築したり取得すること、また単離・配列決定したり、組換え体を作製したりできる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術(組換えDNA技術を含む)としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、東京化学同人 (1992); M. J. Gait (Ed), Oligonucleotide Synthesis, IRL Press (1984); B. D. Hames and S. J. Higgins (Ed), Nucleic Acid Hybridization, A Practical Approach, IRL Press Ltd., Oxford, UK (1985); B. D.Hames and S. J. Higgins (Ed), Transcription and Translation: A Practical Approach (Practical Approach Series), IRL Press Ltd., Oxford, UK (1984); B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (2nd Edition), John Wiley & Sons, New York (1988); J. H. Miller and M. P. Calos (Ed), Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York (1987); R. J. Mayer and J. H. Walker (Ed), Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology, Academic Press, (1987); R. K. Scopes et al. (Ed), Protein Purification: Principles and Practice (2nd Edition, 1987 & 3rd Edition, 1993), Springer-Verlag、N.Y.; D. M. Weir and C. C. Blackwell (Ed), Handbook of Experimental Immunology, Vol.1, 2, 3 and 4, Blackwell Scientific Publications, Oxford, (1986); L. A. Herzenberg et al. (Ed), Weir's Handbook of Experimental Immunology, Vol. 1, 2, 3 and 4, Blackwell Science Ltd. (1997); R. W. Ellis (Ed), Vaccines new approaches to immunological problems, Butterworth-Heinemann, London (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101(Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); J. H. Miller ed., "Methods in Enzymology", Vol. 204, Academic Press, New York (1991); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 218, Academic Press, New York (1993); S. Weissman (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 303, Academic Press, New York (1999); J. C. Glorioso et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 306, Academic Press, New York (1999); Jeremy Thorner et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 326 to 328, Academic Press, New York (2000); David R. Engelke et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 392, Academic Press, New York (2005)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる (それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 〔以下、これら全てを「遺伝子組換え技術」という)。
【0017】
本発明のガレクチン9ポリペプチド、あるいはガレクチン9誘導因子ポリペプチドを製造するためには広範な単細胞および多細胞発現系(すなわち宿主−発現ベクターの組み合わせ)を使用しうる。可能なタイプの宿主細胞には細菌、酵母、昆虫、哺乳動物、植物などが含まれるが、これらに限定されない。大腸菌の場合、例えば大腸菌K12株あるいはB株に由来するものなどを挙げることができ、例えば、NM533, XL1-Blue, C600, DH1, DH5, DH11S, DH12S, DH5α, DH10B, HB101, MC1061, JM109, STBL2, B834株由来としては、BL21(DE3)pLysSなどが挙げられ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。酵母菌として、パン酵母、分裂酵母などが含まれてよく、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属菌などである。より具体的には、サッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などを挙げることができ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。代表的な発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pUC18, pUC19, pUC118, pUC119, pSP64, pSP65, pTZ-18R/-18U, pTZ-19R/-19U, pGEM-3, pGEM-4, pGEM-3Z, pGEM-4Z, pGEM-5Zf(-), pGEMEX-1(Promega), pBC KS (Stratagene), pBC SK (Stratagene), pBluescriptTM SK (Stratagene), pBluescriptTM II SK (Stratagene社), pBluescriptTM II KS (Stratagene), pBS (Stratagene), pAS, pKK223-3(Amersham Pharmacia Biotech), pMC1403, pMC931, pKC30, pRSET-B (Invitrogen), pSE280(Invitrogen), pBTrp2(Boehringer Mannheim), pBTac1(Boehringer Mannheim), pBTac2(Roche社), pGEX(Amersham Biosciences), pQE series(QIAGEN), pET Expression System (Novagen), YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15、さらには、invitrogen vectors for Mammalian Expression (例えば、BsdCassetteTM Vectors, Epitope-Tagged pcDNATM Vectors, Eukaryotic TA Expression Kit, Flp-InTM Expression Vectors and Kits, Flp-InTM T-RExTM Expression Vectors, FreeStyleTM 293 Expression System, GeneSwitchTM System, pBC1 Milk Expression Vector Kit, pBudCE4.1, pcDNATM GatewayTM Vectors, pcDNATM3.1 Directional TOPOTM Expression Kit, pcDNATM3.1-E EchoTM Expression Vector Kit, pcDNATM3.1/V5-His TOPOTM Expression Kit, pcDNATM4/HisMax and pcDNATM4/HisMax TOPOTM TA Expression Kit, pcDNATM4/TO-E EchoTM Vector Expression Kit, pcDNATM6 BioEaseTM GatewayTM Biotinylation System, pcDNA/V5-GW/D-TOPOTM Vectors, pCEP4 and pREP4, pDisplayTM Vector, pEF6/V5-His TOPOTM TA Expression Kit, pFRT/lacZeo and pFRT/lacZeo2, pSecTag2 and pSecTag2/Hygro, pShooterTM Vectors, pVAXTM200-DEST Vector System, pVAX1, pZeoSV2, T-RExTM GatewayTM Vectors, T-RExTM System, Tag-On-DemandTM Technology, Untagged pcDNATM Vectors, Vivid ColorsTM pcDNATM 6.2 Fluorescent Protein GatewayTM Destination Vectors, ZeoCassetteTM Vectorsなど), Clontech vectors (例えば、Adenoviral Expression Vectors, CreatorTM System Vectors, IRES Bicistronic Expression Vectors, Living ColorsTM Fluorescent Protein Vectors, MATCHMARJER Vectors, Retroviral Expression Vectors, Signal Transduction Vectors, Tet Expression System Vectors, BacPak Baculovirus Expression Vectors, HAT Protein Expression System Vectorsなど), HaloTagTM pHT2 Vector, pACT Vectors, pBIND Vectors, pCATTM3 Vectors, pCI Vectors, phRG Vectors, phRL Vectors (Promega Corp.), Novagen vectors for protein expression (例えば、pTriEXTM Multisystem Expression Vectors, pBiEXTM Multisystem Expression Vectors, pTandemTM-1 Vector, pTK-neo DNAなど)などが挙げられるが、その他当該分野で知られていたり、市販されているものも適宜選択して使用できる。
【0018】
細胞(培養細胞を含む)、培養上清、あるいは抽出液中に含まれる目的生成物は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせてその精製を行なうことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などを持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、リガンドなどを固定化したアフィニティー・クロマトグラフィーなどで処理し精製分離処理できる。該リガンドとしては、特異的認識をするモノクローナル抗体を含めた抗体又はそのフラグメント、レクチン、糖、結合ペアーの一方などが挙げられる。例えば、イムノ・アフィニティー・クロマトグラフィー、ゼラチン−アガロース・アフィニティー・クロマトグラフィー、ヘパリン−アガロース・クロマトグラフィーなどが挙げられる。特には遺伝子組換え技術を利用し、融合タンパク質あるいは融合ポリペプチドとして産生せしめ、融合部(タグ)を利用して、それに対する抗体などの特異的結合リガンドを利用して、アフィニティー・クロマトグラフィーなどで簡便に精製できる。
【0019】
ガレクチン9、及びその改変体、さらにガレクチン9誘導因子は、化学合成されたものであってよい。例えば、タンパク質及びその一部のペプチドの合成には、当該ペプチド合成分野で知られた方法、例えば液相合成法、固相合成法などの化学合成法を使用することができる。こうした方法では、例えばタンパク質あるいはペプチド合成用樹脂を用い、適当に保護したアミノ酸を、それ自体公知の各種縮合方法により所望のアミノ酸配列に順次該樹脂上で結合させていく。縮合反応には、好ましくはそれ自体公知の各種活性化試薬を用いるが、そうした試薬としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドなどカルボジイミド類を好ましく使用できる。生成物が保護基を有する場合には、適宜保護基を除去することにより目的のものを得ることができる。同様に、ガレクチン9、及びその改変体、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸は、化学合成されたものであってよい。例えば、フォスフォトリエステル法、フォスフォジエステル法、フォスファイト法、フォスフォアミダイト法、フォスフォネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、自動化された合成装置を用いて行うことができ、該装置は市販されている。ガレクチン9、及びその改変体、並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸の配列内には、例えば、選択した宿主細胞で好適に発現するに適した修飾されたコドン(例えば、コドンの置換)を含むようにしてあってよいし、制限酵素部位が設けられていても良いし、目的とする遺伝子の発現を容易にするための発現制御配列、調節配列など、目的とする遺伝子を操作するのに適した、リンカー、アダプターなど、さらには抗生物質耐性などを制御したり、栄養要求性・代謝を制御したり、選別・検知などに有用な配列などを含む、便利又は有用な修飾が施されていても良い。
【0020】
本発明の活性成分を医薬として用いる場合、通常単独或いは薬理的に許容される各種製剤補助剤と混合して、医薬組成物又は医薬調製物などとして投与することができる。好ましくは、経口投与、局所投与、または非経口投与等の使用に適した製剤調製物の形態で投与され、目的に応じていずれの投与形態(吸入法、あるいは直腸投与も包含される)によってもよい。本発明の活性成分はそれぞれを混合物として、例えば、ガレクチン9とガレクチン9誘導因子との混合物、ネイティブなガレクチン9とガレクチン-9改変体との混合物などにして、それを使用してもよい。
また、本発明の活性成分は、各種医薬、例えば抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗生物質、腫瘍移転阻害剤、血栓形成阻害剤、関節破壊治療剤、変形性関節症治療剤、鎮痛剤、消炎剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤及び/又は免疫抑制剤と配合して使用することもでき、それらは、有利な働きを持つものであれば制限なく使用でき、例えば当該分野で知られたものの中から選択することができる。
そして、非経口的な投与形態としては、局所、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、皮内もしくは腹腔内投与を包含し得るが、患部への直接投与も可能であり、またある場合には好適でもある。好ましくはヒトを含む哺乳動物に経口的に、あるいは非経口的(例、細胞内、組織内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、脊髄腔内、点滴法、注腸、経直腸、点耳、点眼や点鼻、歯、皮膚や粘膜への塗布など)に投与することができる。具体的な製剤調製物の形態としては、溶液製剤、分散製剤、半固形製剤、粉粒体製剤、成型製剤、浸出製剤などが挙げられ、例えば、錠剤、被覆錠剤、糖衣を施した剤、丸剤、トローチ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、埋込剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、注射剤、液剤、エリキシル剤、エマルジョン剤、灌注剤、シロップ剤、水剤、乳剤、懸濁剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤、吸入剤、噴霧剤、軟膏製剤、硬膏製剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤、クリーム剤、油剤、坐剤(例えば、直腸坐剤)、チンキ剤、皮膚用水剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、塗布剤、輸液剤、注射用液剤などのための粉末剤、凍結乾燥製剤、ゲル調製品等が挙げられる。
【0021】
医薬用の組成物は通常の方法に従って製剤化することができる。例えば、適宜必要に応じて、生理学的に認められる担体、医薬として許容される担体、アジュバント剤、賦形剤、補形剤、希釈剤、香味剤、香料、甘味剤、ベヒクル、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、界面活性剤、基剤、溶剤、充填剤、増量剤、溶解補助剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、崩壊剤、噴射剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、保湿剤、緩和剤、帯電防止剤、無痛化剤などを単独もしくは組合わせて用い、それとともに本発明のタンパク質等を混和することによって、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態にして製造することができる。
非経口的使用に適した製剤としては、活性成分と、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る媒体との無菌性溶液、または懸濁液剤など、例えば注射剤等が挙げられる。一般的には、水、食塩水、デキストロース水溶液、その他関連した糖の溶液、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類が好ましい注射剤用液体担体として挙げられる。注射剤を調製する際は、蒸留水、リンゲル液、生理食塩液のような担体、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤などを使用して当該分野で知られた方法で、溶液、懸濁液、エマルジョンのごとき注射しうる形に調製する。
【0022】
注射用の水性液としては、例えば生理食塩液、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液などが挙げられ、薬理的に許容される適当な溶解補助剤、たとえばアルコール(たとえばエタノールなど)、ポリアルコール(たとえばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(たとえばポリソルベート 80TM, HCO-50など)などと併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)又は浸透圧調節のための試薬、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、アスコルビン酸などの酸化防止剤、吸収促進剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
【0023】
非経口投与には、界面活性剤及びその他の薬学的に許容される助剤を加えるか、あるいは加えずに、水、エタノール又は油のような無菌の薬学的に許容される液体中の溶液あるいは懸濁液の形態に製剤化される。製剤に使用される油性ベヒクルあるいは溶剤としては、天然あるいは合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類、天然、半合成あるいは合成の油脂類あるいは脂肪酸類が挙げられ、例えばピーナッツ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油などの植物油が挙げられる。例えば、この注射剤は、通常本発明化合物を0.1〜10重量%程度含有するように調製されることができる。
局所的、例えば口腔、又は直腸的使用に適した製剤としては、例えば洗口剤、歯磨き剤、口腔噴霧剤、吸入剤、軟膏剤、歯科充填剤、歯科コーティング剤、歯科ペースト剤、坐剤等が挙げられる。洗口剤、その他歯科用剤としては、薬理的に許容される担体を用いて慣用の方法により調製される。口腔噴霧剤、吸入剤としては、本発明化合物自体又は薬理的に許容される不活性担体とともにエアゾール又はネブライザー用の溶液に溶解させるかあるいは、吸入用微粉末として歯などへ投与できる。軟膏剤は、通常使用される基剤、例えば、軟膏基剤(白色ワセリン、パラフィン、オリーブ油、マクロゴール400 、マクロゴール軟膏など)等を添加し、慣用の方法により調製される。
【0024】
歯、皮膚への局所塗布用の薬品は、適切に殺菌した水または非水賦形剤の溶液または懸濁液に調剤することができる。添加剤としては、例えば亜硫酸水素ナトリウムまたはエデト酸二ナトリウムのような緩衝剤;酢酸または硝酸フェニル水銀、塩化ベンザルコニウムまたはクロロヘキシジンのような殺菌および抗真菌剤を含む防腐剤およびヒプロメルローズのような濃厚剤が挙げられる。
坐剤は、当該分野において周知の担体、好ましくは非刺激性の適当な補形剤、例えばポリエチレングリコール類、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等の、好ましくは常温では固体であるが腸管の温度では液体で直腸内で融解し薬物を放出するものなどを使用して、慣用の方法により調製されるが、通常本発明化合物を0.1 〜95重量%程度含有するように調製される。使用する賦形剤および濃度によって薬品は、賦形剤に懸濁させるかまたは溶解させることができる。局部麻酔剤、防腐剤および緩衝剤のような補助薬は、賦形剤に溶解可能である。 経口的使用に適した製剤としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、トローチのような固形組成物や、液剤、シロップ剤、懸濁剤のような液状組成物等が挙げられる。製剤調製する際は、当該分野で知られた製剤補助剤などを用いる。錠剤及び丸剤はさらにエンテリックコーティングされて製造されることもできる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。経口投与用製剤においては、好適には安定化剤を配合してある。当該安定化剤としては、ガレクチン 9及びその改変体及び/又はガレクチン9誘導因子を安定化し得る薬剤を意味し、例えば、グルコース、ガラクトース、キシロース、フラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ネオトレハロース、イソトレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ラクトスクロース、マルトオリゴ糖、及び多糖類などの糖類及び糖アルコール、シクロデキストリン、ヒドロキシエチル澱粉、デキストリン及びデキストラン、グルクロン酸ナトリウム、リン酸塩及び金属塩などの塩類、血清アルブミン、ゼラチン、アミノ酸及び非イオン界面活性剤などから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0025】
また、活性成分がタンパク質やポリペプチドである場合、ポリエチレングリコール(PEG)は、哺乳動物中で極めて毒性が低いことから、それを結合させることは特に有用である。また、PEG を結合せしめると、異種性化合物の免疫原性及び抗原性を効果的に減少せしめることができる場合がある。該化合物は、マイクロカプセル装置の中に入れて与えてもよい。PEG のようなポリマーは、アミノ末端のアミノ酸のα-アミノ基、リジン側鎖のε-アミノ基、アスパラギン酸又はグルタミン酸側鎖のカルボキシル基、カルボキシ末端のアミノ酸のα-カルボキシル基、又はある種のアスパラギン、セリン又はトレオニン残基に付着したグリコシル鎖の活性化された誘導体に、簡便に付着させることができる。
タンパク質との直接的な反応に適した多くの活性化された形態のPEG が知られている。タンパク質のアミノ基と反応させるのに有用なPEG 試薬としては、カルボン酸、カルボネート誘導体の活性エステル、特に、脱離基がN-ヒドロキシスクシンイミド、p-ニトロフェノール、イミダゾール、又は1-ヒドロキシ-2-ニトロベンゼン-4-スルフォネートであるものが挙げられる。同様に、アミノヒドラジン又はヒドラジド基を含有するPEG 試薬は、タンパク質中の過ヨウ素酸酸化によって生成したアルデヒドとの反応に有用である。
【0026】
遺伝子治療用ビヒクルは、遺伝子組換え技術を利用して、簡便に得ることができ、哺乳動物における発現のために哺乳動物に送達されるべき本発明の治療薬たるコード配列(例えば、ガレクチン9コード配列、あるいはガレクチン9誘導因子コード配列)を含んでいる構築物(コンストラクト、construct)を送達するためのもの、あるいは、ガレクチン9(あるいはガレクチン9誘導因子)の全てもしくは部分であって且つ送達のためのものである核酸配列をも含んでいる該構築物を送達するためのものであって、局所的または全身的のいずれかの方法で投与されることのできるものである。これらの構築物は、インビボまたはエキソビボの形で、ウイルスベクターによるアプローチまたは非ウイルスベクター形式でのアプローチを利用することのできるものである。このようなコード配列を発現するには、内因性の哺乳動物プローモーターまたは異種プロモーターを使用して誘導することにより行うことができる。インビボでのコード配列の発現は、構築的になされるか、または調節されて行われるかのいずれかである。ガレクチン9(あるいはガレクチン9誘導因子)が哺乳動物において発現される場合、可溶性のガレクチン9(あるいは可溶性のガレクチン9誘導因子)として発現されることができるし、ある場合には膜結合型ガレクチン9(あるいは膜結合型ガレクチン9誘導因子)として発現されることもできる。これらの両方においてまたはそのいずれかにおいて、それらは、例えば、全てのガレクチン9(あるいはガレクチン9誘導因子)、またはガレクチン9(あるいはガレクチン9誘導因子)の生物学的に活性な部分、バリアント、改変体、誘導体、もしくは融合体などであってよい。所要の遺伝子の共発現を目的としたものも含まれてよい。したがって、TGF-β3などのTGF-βファミリーを共に遺伝子導入できるようにしたものも包含されてよい。ガレクチン9又はガレクチン9改変体(あるいはガレクチン9誘導因子)は、TGF-βシグナル下流因子発現・活性化作用を有するので、それを利用する技術も本発明に含まれてよい。
【0027】
本発明は、所要のガレクチン9の核酸配列、及び/又はガレクチン-9誘導因子の核酸配列を発現することのできる遺伝子導入ベクターを提供する。遺伝子導入ベクターとしては、好ましくは、ウイルスベクターが挙げられ、より好ましくは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、またはアルファウイルスなどのウイルスベクターなどが挙げられる。ウイルスベクターとしては、さらに、アストロウイルス、コロナウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、トガウイルスなどのウイルスベクターも挙げられ、例えば、HVJ Envelope Vector(石原産業)なども挙げられる。当該遺伝子導入ベクターに関しては、一般には、D. Jolly, Cancer Gene Therapy, 1(1): 51-64 (1994); O. Kimura et al., Human Gene Therapy, 5: 845-852 (1994); S. Connelly et al., Human Gene Therapy, 6: 185-193 (1995); M.G. Kaplitt et al., Nature Genetics, 8: 148-153 (1994)などを参照することができる。
【0028】
本発明において、骨・関節疾患とは、骨格を形成する骨及び軟骨の異常を症状の一つとする、全身性もしくは関節に主病変を生じる疾患の総称であってよい。より具体的には、骨分化及び軟骨分化と病変の発症に結びつきが示されている疾患と定義することもできる。代表的な骨・関節疾患には、変形性関節症、慢性関節リウマチなどを示すことができる。また、若年性関節リウマチ、乾癬性関節炎、Reiter症候群、全身性エリテマトーデズ(SLE)、進行性全身性硬化症、Charcot関節(神経障害性関節症)、CPPD結晶沈着症、BCP結晶沈着症、又は痛風も、関節炎を病変の一つとして伴う場合があり、本発明における骨・関節疾患に含まれてよい。また、骨分化と病変との関連という点から、骨粗鬆症も本発明における骨・関節疾患に含まれる。
変形性関節症は、関節軟骨の変性、磨耗及び軟骨下骨の硬化、増殖性変化を特徴とする疾患であり、2次的な滑膜炎も観察される。変形性関節症は、加齢を基盤とした多因子性疾患と考えられており、リスクファクターとしては、加齢以外に性別(女性)、肥満、外傷(靭帯・半月板損傷など)が考えられているが、その病因には不明な点が多い。変形性関節症の関節軟骨においては、正常永久軟骨では見られない肥大軟骨マーカーの発現亢進、石灰化が見られることが知られており、軟骨の肥大化(分化亢進)は変形性関節症の発症に関与していることが示唆されている。したがって、軟骨分化を制御することにより、変形性関節症の症状の改善が可能である。
明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
【0029】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
なお、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングではJ. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York及び D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); PCR 法を使用する場合には、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed., "PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
G9NC(null)は、国際公開第2005/093064号パンフレット(2005)〔WO2005/093064, A1 (2005),公開日:2005年10月06日: PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)〕に開示され、WO2005/093064の実施例1で製造取得されている。
【実施例1】
【0030】
1)関節リウマチモデルであるマウス・コラーゲン誘導関節炎(CIA)、コラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)において、顕著な軟骨破壊が生じるが、安定化ガレクチン9投与により軟骨の破壊抑制が認められた(図1)。図1では、コラーゲン誘導関節炎(CIA)、コラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)において、共に、顕著な軟骨破壊がみられる一方で、安定化ガレクチン9(ガレクチン-9改変体, G9NC(null))投与により軟骨破壊抑制が認められる。
〔方法〕
各サンプルをホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。薄切は3μmで行い、脱パラフィン、脱キシレン工程を経た後、鉄ヘマトキシリン液に2分間浸漬し、水洗。さらに0.02%ファストグリーン染色を10分間反応させた後、1%酢酸溶液で2、3回洗浄し、0.1%サフラニン-O水溶液中で10分間染色した。その後脱水処理を行い封入し、観察した。
【0031】
安定化ガレクチン9は、マウスCIAやCAIAモデルを含むヒト関節リウマチモデルにおいて炎症抑制効果、さらには骨破壊抑制作用があることは、WO2005/093064(公開日: 2005.10.06)に記載した。本発明では、新たに、同疾患マウスモデルの関節組織をサフラニンO染色することにより、安定化ガレクチン9(G9NC(null))は炎症抑制、骨破壊抑制のみならず軟骨破壊抑制作用も有することを見いだした。ここで使用したサンプルは、WO2005/093064(公開日:2005.10.06)の実施例31の「1. 抗体カクテル惹起モデル:ガレクチン改変体(i.v.投与)」に準じて発症させたマウスに、安定化ガレクチン9(ガレクチン-9改変体, 30μg/mouse)をi.p.投与、day0に1回投与したサンプルと、WO2005/093064(公開日:2005.10.06)の実施例31の「2-1. CIA(コラーゲン感作)モデル:ガレクチン改変体(i.p.投与)」に準じた実験におけるサンプルを用いた。両モデルにおいて、安定化ガレクチン9は有意に発症を抑制している。
【0032】
2)ヒト病変組織染色にガレクチン9の発現
変形性関節症患者の軟骨病変部細胞外基質のサフラニンO (Safranin-O)染色を行い、正常部と比較した。図2には、ヒト軟骨部:正常部およびOA病変部の比較結果を示す。サフラニンO染色により、OA病変部では正常部に比べてサフラニン0染色陽性部位が減少している。病変部では硝子軟骨領域が減退している。軟骨細胞の編成、アポトーシスによる基質産生能の低下等がその要因と考えられる。
〔方法〕
変形性関節症患者のサンプルを用いた。方法は図1におけると同様に行った。
【0033】
図3には、OA病変軟骨部におけるガレクチン9及びHSP-70の発現につき調べた結果を示す。正常軟骨組織ではガレクチン9の発現・局在は認められなかった。一方、OA病変軟骨部では、生存した軟骨細胞での局在が確認された。HSP70は、OA病変部においてガレクチン9と同様の局在性を示す。
〔方法〕
変形性関節症患者の関節軟骨サンプルをホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。薄切は3μmで行い、脱パラフィン、脱キシレン工程を経た後、4% PFA/PBS(-)で30分間固定した。PBS(-)で洗浄し、3% BSA/PBS(-)で37℃, 1時間ブロッキングを行った。その後3% BSA/PBS(-)にて100倍 (1.2μg/mL)希釈した抗ヒトガレクチン9ポリクローナル抗体(ガルファーマ社)、100倍希釈した抗HSP70抗体(abcam; Cat.No, ab5439-50)をアプライし、一昼夜4℃で抗原抗体反応を行った。一次抗体反応後PBS(-)で洗浄した。二次抗体にはガレクチン9、HSP70染色サンプルに対しそれぞれHRP標識抗ウサギ抗体(ENVISION System HRP Rabbit, Dako, Carpinteria, California)、HRP標識抗マウス抗体(ENVISION System HRP mouse, Dako, Carpinteria, California)を使用し、37℃, 1時間処理した。発色にはヒストファインDAB基質キット(ニチレイバイオサイエンス社)使用した。発色後封入し観察した。
【0034】
本発明者等のグループは、HSP70はガレクチン9と結合する因子である事を明らかにしている(WO2006/009309: 公開日2006.1.26)。HSP70を発現する軟骨細胞の生存活性は既に多数報告されており、当該遺伝子をトランスジーンとしたウイルスやベクター等を利用する遺伝子治療応用が期待されている。
ストレス応答タンパクのヒートショックプロテイン(HSP)ファミリーの持つ機能の多様性はこれまでに数多く報告され、なかでもHSP70は関節軟骨細胞でのアポトーシスに関与するcaspase3の抑制作用が報告され、OAへの治療応用を見据えた遺伝子導入法の開発などの報告が次々となされている。
1) Pathophysiological Mechanisms in Osteoarthritis lead to Novel Therapeutic Strategies. Cells Tissues Organs: Vol. 174, No. 1-2, 2003
2) Hsp70 prevents Nitric oxide-induced apoptosis in articular chondrocytes ARTHRITIS & RHEUMATISM; Vol. 48, No.6, June 2003, pp 1562-1568
3) Induction of heat shock protein 70 (Hsp70) by proteasome inhibitor MG 132 protects articular chondrocytes from cellular death in vitro and in vivo. Biorheology. 2004;41(3-4):521-34.
4) Genes transfer with HSP70 in rat chondrocytes confers cytoprotection in vitro and during experimental osteoarthritis The FASEB Journal Research communication 66 Vol.20 January 2006
5) Kubo, T., Arai , Y., Takahashi, K., Ikeda, T., Ohashi, S., Kitajima, I., Mazda, O. Takigawa, M., Imanishi, J. and Hirasawa, Y. : Expression of transduced HSP70 gene protects chondrocytes from stress. Journal of Rheumatology (2001) 28, 330-335.
【0035】
3)安定化ガレクチン9は、ヒト間葉性幹細胞(hMSCs)のTGF-βによる軟骨細胞への分化誘導作用を促進する。
(1)評価系の構築(hMSCs in vitro軟骨分化系)
a)3次元培養法:Miromass pellet culture法を用いた。
・方法の概要:図4に示すようにして行った。
・構築系の確認:図5に示すようにして行った:形態観測
図5では、TGF-β3添加後、21〜28日後に豊富な軟骨特異的な細胞外基質(ECM)が検出され、さらにECMに囲まれた軟骨様細胞が観察された(Day 28)。軟骨へ分化誘導されていることが確認された。
〔参考文献〕:
1)Multi lineage potential of adult human mesenchymal stem cells Science; 284 (1999) 143-147
2)Cartilage-derived morphogenetic protein-1 promotes the differentiation of mesenchymal stem cells into chondrocytes Biochemical and Biophysical Research Communications 325 (2004) 453-460
・ガレクチン9の発現:図6に示す結果が得られた。
図6より、ヒト間葉性幹細胞miromass pellet culture (軟骨分化条件下)では、内因性ガレクチン9発現が分化初期(GAGタンパク検出時期)に認められた。軟骨分化に伴い減退することが見出された。ガレクチン9の軟骨分化への関与が示唆された。
・他に、代表的な3次元培養法としてはアルギネートビーズ法もある。
【0036】
(2)安定化ガレクチン9の作用
a)ペレットサイズ:図7に示す。
図7に示したグラフより、軟骨分化において細胞凝集作用は必須であり、重要な現象である。TGF-β3のみの刺激の場合と比較して、安定化ガレクチン9を添加した系では、有意なペレットの増大が認められた。安定化ガレクチン9のみでは、当該現象は認められない。
【0037】
b)グルコサミノグルカン(GAG)産生への影響:図8及び9(濃度依存性)に示す。
図8に示したグラフより、軟骨細胞への分化に伴い、グルコサミノグルカン(GAG)の産生が誘導され、安定化ガレクチン9の添加により、GAGの産生は増加した。安定化ガレクチン9のみでは、GAG産生は誘導されない。図9に示したグラフより、安定化ガレクチン9の濃度に依存して、軟骨特異的細胞外基質の産生促進作用が認められた(安定化ガレクチン9濃度依存性軟骨特異的細胞外基質産生促進作用)。
RT-PCR法においても、安定化ガレクチン9は濃度依存的に軟骨特異的細胞外基質の産生促進作用を有することを確認した。
【0038】
c)コラーゲン産生への影響:図10及び11(濃度依存性)に示す。
図10では、Type II Collagen及びType I Collagenの産生に及ぼす安定化ガレクチン9の影響を調べた結果が示されており、軟骨分化の未熟な細胞塊ではType I コラーゲンが産生されるが、分化の進行に伴い減退し、分化後期には認められなくなる。逆にType II コラーゲンは分化中期〜後期(day 21〜)に認められる。培養21日後において、安定化ガレクチン9をTGF-β3に添加した系では、TGF-β3単独添加に比べて、Type II コラーゲンの産生が多く認められ、軟骨分化の促進が確認された。
図11では、分化の進行度を細胞の形態、そしてプロテオグリカンやコラーゲン産生を指標に安定化ガレクチン9の影響を解析した結果が示されている。100nMの安定化ガレクチン9添加条件下においては、豊富なECMの産生とそれに囲まれた細胞が観察された(Alcian Blue染色)。10nMの安定化ガレクチン9添加条件では、ECM産生が見られない領域も認められるが、100nM添加ではペレット一様にECM産生が認められた。Type II コラーゲンは、10nMの安定化ガレクチン9添加条件で局在的に観察された。100nM添加条件ではペレットの辺縁部に認められた。
【0039】
d)TGF-β3下流因子の発現、活性化:図12に示す。
図12では、軟骨分化誘導における安定化ガレクチン9のシグナルへの影響が示してある。安定化ガレクチン9のTGF-βシグナル下流因子発現・活性化作用について調べた。安定化ガレクチン9は軟骨分化に重要とされるTGF beta下流因子の活性化を促進する。特に、p38、smad2ではTGF-β3非存在下でも、当該作用を示した。また、ERK1/2発現に対してはTGF-β3存在下、非存在下において、安定化ガレクチン9濃度依存性に、発現の促進が認められた。
【0040】
〔方法〕
〔間葉性幹細胞(hMSC)軟骨分化に及ぼす安定化Gal-9の作用評価〕
※培養方法は共通項目
1)培養方法
hMSC(Cat.No. CCS-PT-2501)、間葉性幹細胞用基礎培地(Cat.No. CCM-PT-3001)、また分化培地キット(Cat.No. CCM-PT-3003)はタカラバイオ株式会社より購入し、添付プロトコルに従って培養した。前培養は必要細胞数を算出後、間葉性幹細胞用基礎培地で行い90%コンフルエントになるまで培養したものを使用した。また、本検討に使用したhMSC細胞は全て5回継代以内のものを使用した。
【0041】
1-1).ディッシュ培養
hMSC細胞を8 wells chamber slide (Nalge Nunc社)、または10cm培養皿にそれぞれ1.0x104、3.0x105cellsをまき、90%コンフルエントまで培養した。その後TGF-β3を10ng/mL添加・未添加条件, 安定化Gal-9を0, 1, 10, 100nM添加・未添加条件下で、培養し固定した。
【0042】
1-2).ペレット培養
1.軟骨分化誘導培地を準備する(以後、軟骨分化誘導培地(-)と表記)。
上記分化培地キット中の基本培地に添加因子セット(1μM デキサメサゾン、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.17mM アスコルビン酸-2-リン酸、0.35mM プロリン、6.25μg/mL ウシ インスリン)を加え、軟骨分化誘導培地(-)を作製した。この軟骨分化誘導培地(-)にTGF-β3をfinal 10ng/mLになるよう添加したものを軟骨分化誘導培地(+)とし、軟骨分化誘導実験に使用した。
2.前培養しておいた細胞をディッシュから剥離し50mLポリプロピレン製チューブに移す。
3.hMSCsを適量の軟骨分化誘導培地(-)で洗浄する。
4.細胞を室温で150×G、5分間遠心し、上清を捨てる。
5.5.0×105 cells/mLの濃度になるよう、軟骨分化誘導培地(-)でMSCsを懸濁する。
6.15mlポリプロピレン培養チューブの中に細胞浮遊液を0.5ml(2.5×105 cells/pellet)ずつ等分しアプライする。
7.細胞を室温で150×G、5分間遠心する。
8.37℃、5% CO2条件下で培養
※ガス交換できるようにチューブのキャップを1/2回転程度ゆるめる。
9.24時間放置(丸型形状を呈す)後、一回目の軟骨分化誘導培地(+)を添加する。
※このタイミングをDay0とし、同時に安定化ガレクチン9添加処理を行う。添加濃度は0, 1, 10, 100nM (又は100nMのみ)として、培地交換の際にも各安定化ガレクチン9を添加した。
10.培地交換後、各チューブの底をタッピングし、細胞を浮遊させる。上記のようにキャップを緩め、37℃インキュベーターに戻す。3〜4日毎に培地交換を行った。
11.培養スタート後、約12〜14日程でプロテオグリカン産生が組織学的に認められ、約21〜28日後には豊富な2型コラーゲンが確認される。目的に応じて適当なタイミング(各方法項目参照)にサンプルを回収した。
【0043】
2)抗ガレクチン9抗体による免疫組織染色法
hMSC細胞を8 wells chamber slide (Nalge Nunc社)に1.0x104播き、凝集が確認されるまで培養した。4% PFA/PBS(-)で固定した後PBS(-)で洗浄し、3%BSA/PBS(-)で37℃、1時間ブロッキングを行った。その後3%BSA/PBS(-)で100倍 (1.2μg/mL)希釈した抗ヒトガレクチン9ポリクローナル抗体(ガルファーマ社)をアプライし、一昼夜4℃で抗原抗体反応を行った後PBS(-)で洗浄、さらに3%BSA/PBS(-)でブロッキングした。二次抗体にはHRP標識抗ウサギ抗体(ENVISION System HRP Rabbit, Dako, Carpinteria, California)を使用し、37℃、 1時間処理した。発色にはヒストファインDAB基質キット(ニチレイバイオサイエンス社)使用した。発色後封入し観察した。
【0044】
図5に示されたデータは、次のような方法で得られた。
3次元培養系を用いて、TGF-β310ng/mL存在下で、hMSC培養し、分化初期(day14)、中期(day21)、後期(day28)にペレットを回収し、4% PFA/PBS(-)で固定し、パラフィン包埋後3μmで薄切した後、スライドに貼付した。
〔HE染色〕
脱パラフィン、脱キシレン処理したサンプルは5秒間ヘマトキシリン染色して水洗した後1% 塩酸アルコール浸漬、水洗を行った。さらにエオジンで染色したサンプルを脱水、透徹処理を行った後封入し、観察した。
〔Alcian Blue染色〕
脱パラフィン、脱キシレン処理したサンプルは酸性条件下のアルシアン青(pH2.6)で30分間染色し流水洗浄した後、ケルンエヒトレートで核染色した。脱水、透徹工程の後封入し、観察した。
【0045】
図6に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔hMSC 3次元培養(ペレット培養)での軟骨分化に伴うガレクチン9の発現〕
TGF-β3 刺激の有/無条件下、day14、21、28にそれぞれ回収したペレットを4% PFA/PBS(-)で固定し、パラフィン包埋後3μmに薄切し、スライドに貼付した。脱パラフィン、脱キシレン工程(キシレン 4分、 3回 → 100%エタノール → 90%エタノール → 80%エタノール → 70%エタノール → 流水洗浄)を行った後、ガレクチン9染色用のスライドはオートクレーブ(121℃、 15分間) により抗原賦活処理を行った。
免疫染色は上記方法に従い実施した。一次抗体反応には100倍希釈(最終濃度1.2μg/mL)した抗ヒトガレクチン9ポリクローナル抗体(ガルファーマ社)を使用した。染色後、脱水・透徹を行い、封入後観察した。
【0046】
図7に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔TGF-β3、安定化ガレクチン9刺激/未刺激下における軟骨ペレットサイズの比較〕
3次元培養系を用いて、TGF-β3有無、安定化ガレクチン9有無の条件下(TGF-β10ng/mL, 安定化ガレクチン9濃度100nM)で培養した後、day14、21、28に回収したペレットをキムワイプで脱水した後、長径と短径を顕微鏡下で測定した。長径と短径の積を体積とし各条件下で比較した。
【0047】
図8に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔TGF-β3、安定化ガレクチン9刺激/未刺激下における、軟骨ペレット中のグリコサミノグリカン(GAG)定量〕
3次元培養系を用いて、TGF-β3有無、安定化ガレクチン9有無の条件下(TGF-β10ng/mL, 安定化ガレクチン9濃度100nM)で培養した後、day14, 21, 28に回収したペレットをパパイン添加した20mMリン酸ナトリウムバッファー200μL中で60℃、1時間消化処理した。ヨード酢酸を添加した後、800μLのトリスバッファー(50mM Tris-Cl pH8.0)を添加する((1))。DMB溶液500μLに対し、等量の(1)液を入れ攪拌する。OD 525nmで測定し、既定量のコンドロイチン硫酸溶液をスタンダードとして定量、あるいは相対値(グラフは相対値)を比較した。
【0048】
図9に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔グリコサミノグリカンタンパク定量法〕
3次元培養系を用いて、TGF-β3有無、安定化ガレクチン9有無の条件下(TGF-β10ng/mL, 安定化ガレクチン9濃度1,10,100nM)で培養した後、day14にペレットを回収し、パパイン添加した20mMリン酸ナトリウムバッファー200μL中で60℃、1時間消化する。ヨード酢酸を添加した後、800μLのトリスバッファー(50mM Tris-Cl pH8.0)を添加する((1))。DMB溶液500μLに対し、等量の(1)液を入れ攪拌する。OD 525nmで測定し、既定量のコンドロイチン硫酸溶液をスタンダードとして定量あるいは各条件下での相対値を比較した。
【0049】
図10に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔Type II Collagen, Type I Collagenの免疫組織染色による検出〕
3次元培養系を用いて、TGF-β3有無、安定化ガレクチン9有無の条件下(TGF-β10ng/mL, 安定化ガレクチン9濃度100nM)で培養した後、day14, 21, 28に回収したペレットを4% PFA/PBS(-)で固定し、パラフィン包埋後3μmで薄切しスライドに貼付した。脱パラフィン、脱キシレン工程を行ったスライドは免疫染色した。免疫染色は上記方法に従い実施した。一次抗体反応にはそれぞれ20 倍(最終濃度10μg/mL)、40倍 (最終濃度25μg/mL)希釈した抗Col.II抗体(chemicon)、抗Col.I抗体(Santa-Cruz)を使用した。染色後、脱水、透徹を行った後封入し、観察した。
【0050】
図11に示されたデータは、次のような方法で得られた。
〔TGF-β3存在下での安定化Gal-9軟骨分化促進作用(組織学的解析)〕
3次元培養系を用いて、TGF-β3有無、安定化ガレクチン9有無の条件下(TGF-β10ng/mL, 安定化ガレクチン9濃度10,100nM)で培養した後、day14に回収したペレットを4% PFA/PBS(-)で固定しパラフィン包埋後3μmで薄切した後、スライドに貼付した。脱パラフィン、脱キシレン工程を行った。HE染色、Alcian Blue染色は、図5に示されたデータを得るのと同様の方法で行った。
Type II Collagen 免疫組織染色は、次のような方法で行った。
脱パラフィン、脱キシレン処理した後、免疫染色した。免疫染色は上記の方法に従った。一次抗体反応には20倍希釈した抗Col.II抗体(最終濃度10μg/mL;chemicon)を使用した。染色後、脱水・透徹)を行い、封入後観察した。
【0051】
図12に示されたデータは、次のような方法で得られた。
hMSC細胞を10cm培養皿に3.0x105個、90%コンフルエントまで培養した。その後TGF-β3を10ng/mL添加・未添加条件、安定化Gal-9を1, 10, 100nM添加または未添加条件下で24時間培養し、SDSサンプルバッファーにて回収した。その後は超音波破砕し、一時-80℃で保管した。SDS-PAGEは7.5%ゲル(PAGEL NPU-7.5L Cat.No. 2331153)を使用し、アプライ直前にメルカプトエタノールを加え5分間煮沸したものをアプライ、泳動した。泳動後ゲルを回収し、泳動タンパクをメンブレン(Immobilon-P SQ トランスファメンブレン Cat.No. ISEQ101 00:ミリポア社)に転写した。3% スキムミルク/PBS(-)で1時間ブロッキングした後、目的タンパクの免疫検出に下記抗体を使用した。各一次抗体を室温で2時間反応し、PBS(-)で3回洗浄後、それぞれ供与動物に対するHRP標識二次抗体を室温1時間反応させた。発色にはECL Western blotting detection reagents(Cat.No. RPN2106: Amersham Biosciences)を用い、オートラフィルムにて感光、検出した。
【0052】
〔使用抗体〕
anti total ERK1/2 antibody (Cat.No.V1411:Promega)
anti phospholylated ERK1/2 antibody (Cat.No.V8031:Promega)
anti total-Smad2 antibody (Cat.No.ab11784:abcam)
anti phospholylated Smad2 antibody (Cat.No. ab5487: abcam)
anti total p38 antibody (Cat.No. ab7952: abcam)
anti phospholylated p38 antibody (Cat.No.V1211: Promega)
【0053】
グリコサミノグリカン(アグリカン)mRNA検出は以下のようなRT-PCR法にて行った。
RT-PCR用のサンプル調製はQUIAGEN社 RNeasy mini kitを使用し、当該製品プロトコルに従った。回収したサンプル)にメルカプトエタノール加buffer RNT 350μLを加え、ホモジナイズする。Buffer RNTと等量の70%エタノールを加え、ピペッティングした後、カラムにアプライする。8000g、15秒遠心した後、カラムをbuffer RW 700μLで洗浄する。カラムを新しいチューブに移し、buffer RPEを加えて上記条件で遠心する。一旦カラムを乾燥させた後、さらにbuffer RPEを500μL加え、遠心する。カラムをRNA回収用チューブに移し、30μLのRNase free水で溶出する。OD260nmを測定しRNA量を確認後、RT-PCRリアクションミクスチャー溶液 (5x buffer、dNTP、DNA合成酵素、逆転写酵素、アンチセンスプライマー、センスプライマー)にサンプルを混和し、RT-PCR反応を行った。Gal-9、Col.II、aggrecan検出にはいずれも下記のサイクル構成で行った。
(1)50℃, 30分 → (2)95℃, 15分 → (3)96℃, 1分 → (4)57℃, 4分→ (5)94℃, 1分 → (6)57℃, 2.5分 → (7)70℃, 10分 → (8)4℃, ∞
【0054】
以上より、ガレクチン9〔ガレクチン-9(Gal9)〕やガレクチン9改変体(安定化ガレクチン9)、特には、G9NC(null)は、軟骨に活性を有することが示唆される。Gal9やガレクチン9改変体(G9NC(null)を含む)は、軟骨破壊の抑制、軟骨分化促進作用、損傷軟骨の機能維持・回復に利用でき、そうした活性を利用した医薬又は生物活性剤などとして利用できる。Gal9やガレクチン9改変体(G9NC(null)を含む)は、関節障害における軟骨破壊抑制および再生作用を有し、そうした作用を利用する薬剤として有望である。
かくして、ガレクチン9及びその改変体(安定化ガレクチン9)並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものは、軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、損傷軟骨の機能維持・回復剤並びに該軟骨分化促進作用、軟骨破壊抑制作用、損傷軟骨の機能維持・回復作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにその活性利用の治療及び/又は予防法に有用である。
【0055】
〔参考例1〕
上記実施例1で使用のガレクチン9は、WO2005/093064(公開日:2005年10月06日)の実施例1で製造取得されている安定型ガレクチン9, G9NC(null)〔WO2005/093064(公開日:2005年10月06日)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕を使用した。
該安定型ガレクチン9(ガレクチン9改変体)、すなわちG9NC(null)は次のようにしても調製できる。
安定型ガレクチン9 (G9NC(null))の発現誘導は、pET-G9NC(null)でエレクトロポレーション法で形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を2%(w/v)グルコース及び100 μg/mlアンピシリン含有2 x YT培地で培養し、600 nmの吸光度が0.7に達した時点でイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを最終濃度0.15 mMになるように添加して行った。20℃で 22.5時間培養した後、遠心により菌体を集め、これを-80℃で精製まで保存した。凍結保存した菌体を10 mM Tris-HCl (pH7.5), 0.5 M NaCl, 1 mM DTT, 1 mM PMSF, 10 mM MgCl2, 25 μg/ml DNase, 0.2 mg/ml 卵白リゾチーム中によく懸濁した後に、最終濃度1%になるようにTriton X-100を加えて18分間超音波処理した。18,800 x gで75分間遠心し、得られた上清中の組み換えタンパク質をラクトースアガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した後に、透析によってバッファーをPBSに置換した。これを0.22 μmの滅菌フィルターを通して沈殿物を除去した後に、セルロファイン ET-Clean L処理でエンドトキシンを除去し、さらに0.22 μmの滅菌フィルターを通して雑菌及び沈殿物を除去して G9NC(null) の最終標品とした。
【0056】
このようにして調製された G9NC(null) はタンパク質ポリアクリルアミド電気泳動で夾雑バンドを認めず、エンドトキシン量は 0.5 EU/ml 以下である。凍結・融解に安定で、4℃保存でも半年以上安定に生物活性を保持する。
ガレクチン9としては、ネイティブなL 型ガレクチン9、M 型ガレクチン9及びS 型ガレクチン9を「遺伝子組換え技術」を用い、宿主細胞中で発現して得られたリコンビナント体を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、有効成分としてガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子9からなる群から選択されたものを含有せしめてなる軟骨破壊抑制因子、軟骨分化促進因子、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復因子、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものが発揮する軟骨に対する生物活性を利用して、軟骨破壊に起因する病気又は疾患に対する治療剤及び/又は予防剤、あるいは軟骨分化に関連する疾患に対する治療剤及び/又は予防剤とすることにより、治療が困難な対象に対して、効果的に優れた活性を得ている。例えば、変形性関節症などを含む骨・関節疾患、および軟骨細胞、あるいはTGF-β3などのTGF-βが関与した軟骨機能が発症に関与すると考えられている疾患の治療及び/又は予防技術が提供される。ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))、及び/又は、ガレクチン9誘導因子は、損傷軟骨の機能維持・回復に応用可能である。ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))、及び/又は、ガレクチン9誘導因子は、変形性関節症用剤として使用できる可能性を与えている。本発明では、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものの遺伝子を導入することによる上記の作用効果を得る病気又は疾患治療及び/又は予防技術、さらには変形性関節症などを含む骨・関節疾患などの治療及び/又は予防技術も提供する。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】マウスCIA, CAIA関節炎モデルにおけるガレクチン9(G9NC(null))の作用をサフラニン-O染色によりアッセイした結果を示す。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図2】ヒト関節軟骨:正常部と病変部の比較。変形性関節症患者の軟骨病変部細胞外基質のサフラニンO (Safranin-O)染色を行い、正常部と比較した。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図3】OA病変軟骨部におけるガレクチン9及びHSP-70の発現につき調べた結果を示す。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図4】3次元培養法 Miromass pellet culture法を示す。Day 0でTGF-β3を添加し、Day 14では分化初期でプロテオグリカン産生、Day 21では分化中期でType II コラーゲン産生、Day 28では分化後期で軟骨様細胞の小腔形成の各ステージである。
【図5】3次元培養法 Miromass pellet culture法によるヒト間葉性幹細胞の軟骨細胞への分化を形態学的に観察した結果を示す。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図6】TGF-β3存在下軟骨分化系におけるガレクチン9の発現を調べた結果を示す。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図7】TGF-β3誘導軟骨分化系におけるガレクチン9の影響を調べた結果を示す。ペレットサイズにつき調べた。
【図8】TGF-β3誘導軟骨分化系におけるガレクチン9の影響を調べた結果を示す。グリコサミノグリカン産生につき調べた。
【図9】TGF-β3誘導軟骨分化系におけるガレクチン9の影響を調べた結果を示す。グリコサミノグリカン産生につき、ガレクチン9濃度に対する依存性を調べた。
【図10】TGF-β3誘導軟骨分化系におけるガレクチン9の影響を調べた結果を示す。コラーゲン産生につき調べた。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図11】TGF-β3誘導軟骨分化系におけるガレクチン9の影響を調べた結果を示す。コラーゲン産生につき、ガレクチン9濃度に対する依存性を調べた。生物組織の形態の顕微鏡写真である。
【図12】軟骨分化誘導におけるガレクチン9のシグナルへの影響を調べた結果を示す。ウエスタンブロティング法により調べた。電気泳動の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有することを特徴とする軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復剤。
【請求項2】
ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有することを特徴とする軟骨分化促進剤、軟骨破壊抑制剤、及び/又は損傷軟骨の機能維持・回復剤。
【請求項3】
軟骨細胞、特には未分化軟骨細胞を、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものに接触せしめて分化を促進せしめることを特徴とする軟骨細胞処理法。
【請求項4】
軟骨細胞、特には未分化軟骨細胞に、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を遺伝子導入せしめることを特徴とする軟骨細胞分化促進法。
【請求項5】
ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものを有効成分として含有することを特徴とする骨・関節疾患の治療及び/又は予防剤。
【請求項6】
ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を有効成分として含有することを特徴とする骨・関節疾患の治療及び/又は予防剤。
【請求項7】
機能低下又は不全の軟骨組織又は細胞を、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものに接触せしめて軟骨破壊を抑制せしめることを特徴とする軟骨破壊抑制法。
【請求項8】
機能低下又は不全の軟骨組織又は細胞に、ガレクチン9及びその改変体並びにガレクチン9誘導因子からなる群から選択されたものをコードする核酸を遺伝子導入せしめることを特徴とする軟骨破壊抑制法。
【請求項9】
TGF-β3などのTGF-βファミリーあるいはそれをコードする核酸の存在下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一記載の剤又は方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−291022(P2007−291022A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121924(P2006−121924)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(500507630)株式会社ガルファーマ (7)
【Fターム(参考)】